説明

発光素子、表示装置および電子機器

【課題】 封止することなしに安定かつ優れた発光効率を発現できる発光素子、この発光素子を備えた表示装置および電子機器を提供すること。
【解決手段】 発光素子1は、陽極5と有機化合物層4の間および陰極3と有機化合物層4の間にそれぞれ、正孔注入性金属酸化物層6と電子注入性金属酸化物層7を介挿してなるである。この発光素子1は、発光を担う有機化合物層4に高分子材料を主材料として用い、正孔注入性金属酸化物層6および電子注入性金属酸化物層7には金属酸化物を用いる。金属酸化物は、正孔注入性金属酸化物層6に酸化バナジウムもしくは酸化モリブテンを主成分とするものが好ましく、電子注入性金属酸化物層7に酸化チタンを主成分とするものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子、表示装置および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
少なくとも一層の発光性有機化合物層(有機エレクトロルミネッセンス層)が、陰極と陽極とに挟まれた構造の有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と称する。)は、無機EL素子に比べて印加電圧を大幅に低下させることができ、多彩な発光色の素子が作製可能である(例えば、非特許文献1〜3、特許文献1〜3参照)。
【0003】
現在、より高性能な有機EL素子を得るため、材料の開発・改良をはじめ、様々なデバイス構造が提案されており、活発な研究が行われている。
【0004】
また、この有機EL素子については既に様々な発光色の素子、また高輝度、高効率の素子が開発されており、表示装置の画素としての利用や光源としての利用など多種多様な実用化用途が検討されている。
【0005】
そして、実用化に向けて、さらなる発光効率の向上を目指し、種々の研究がなされている。
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.51(12),21 September 1987,p.913
【非特許文献2】Appl.Phys.Lett.71(1),7 July 1997,p.34
【非特許文献3】Nature 357,477 1992
【0006】
【特許文献1】特開平10−153967号公報
【特許文献2】特開平10−12377号公報
【特許文献3】特開平11−40358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、将来のフレキシブル有機薄膜発光素子を目指し、安定かつ優れた発光効率を発現できる発光素子、この発光素子を備えた表示装置および電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、陽極および陰極と、前記陽極と前記陰極とに挟まれた1層または複数層の有機化合物層と、前記陽極と前記有機化合物層との間及び前記陰極と前記有機化合物層との間に、少なくとも1種類以上の金属酸化物薄膜を有することを要旨とする。
【0009】
これにより、封止すること無しに安定かつ優れた発光効率を発現できる発光素子が得られる。
【0010】
また、本発明は、前記金属酸化物薄膜が酸化チタン薄膜を含むことを要旨とする。
【0011】
これにより電子の注入効率は上昇し、発光効率および保存安定性がより向上する。
【0012】
また、本発明は、前記金属酸化物は、前記陽極の仕事関数よりも大きな金属酸化物薄膜を含むことを要旨とする。
【0013】
これにより正孔の注入効率は上昇し、発光効率および保存安定性がより向上する。
【0014】
また、本発明は、前記金属酸化物薄膜は酸化バナジウム薄膜または酸化モリブテン薄膜を含むことを要旨とする。
【0015】
これにより封止すること無しに安定かつ優れた発光効率を発現できる発光素子が得られる。
【0016】
また、本発明は、前記酸化チタン薄膜がスプレイ熱分解法によって形成されていることを要旨とする。
【0017】
これにより、より高い電子注入効率が維持できる。
【0018】
また、本発明は、前記有機化合物層が高分子材料であることを要旨とする。また、前記高分子材料は、ポリフルオレンまたその誘導体であることが好ましい。
【0019】
これにより、発光層を、より発光効率に優れるものとすることができる。
【0020】
また、本発明は、前記陰極は、仕事関数がインジウム酸化錫(ITO)と同等もしくはそれ以上の値を持つ材料を含むことを要旨とする。
【0021】
これにより、大気下で安定な発光素子が得られる。
【0022】
また、本発明は、前記陰極がフッ素酸化錫(FTO)であることを要旨とする。
【0023】
これにより、大気下で安定かつ、より電子の注入効率の優れた発光素子が得られる。
【0024】
また、本発明は、陽極および陰極と、前記陽極と前記陰極とに挟まれた1層または複数層の有機化合物層を含む有機薄膜発光素子において、前記陰極が基板側に存在していることを要旨とする。
【0025】
これにより、陰極作製時に高温等の十分なプロセスを用いることができ、電子注入および輸送において重要な電気的、物理的接触を十分に確保できる。
【0026】
また、表示装置が本発明による有機薄膜発光素子を備えることにより、封止すること無しに安定かつ優れた発光効率を発現できる表示装置が得られる。
【0027】
また、電子機器が本発明により有機薄膜発光素子を備えることにより、封止すること無しに安定かつ優れた発光効率を発現できる電子機器が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の発光素子、表示装置および電子機器を添付図面に示す好適な実施形態について説明する。
【0029】
図1は、本発明の発光素子の実施形態の縦断面を模式的に示す図である。
【0030】
図1に示す発光素子(エレクトロルミネッセンス素子)1は、陰極(一方の電極)3と、陽極(他方の電極)5と、陰極3と陽極5との間(一対の電極間)に、有機化合物層4が介挿され、さらに、有機化合物層4と陽極5との間に正孔注入性金属酸化物層7が、有機化合物層4と陰極3との間に電子注入性金属酸化物層6がそれぞれ設けられてなるものである。そして、発光素子1は、その全体が基板2上に設けられている。この発光素子はこれで完成する。ここに封止構造は原理的には必要としない。しかしながら、電極の絶縁性を維持するなどの意味合いから封止構造を用いても何ら支障はない。
【0031】
基板2は、発光素子1の支持体となるものであり、さらにここでは陰極が直接作製される支持体でもある。本実施形態の発光素子1は、光の取り出し方向を制限されるものではなく、基板2側から光を取り出す構成(ボトムエミッション型)の場合と、基板2とは反対側の陽極5から光を取り出す構成(トップエミッション型)の場合と、その両方が可能な場合(透明型)の3つが考えられる。ボトムエミッション型の場合、基板2および陰極3は、それぞれ、実質的に透明(無色透明、着色透明または半透明)とされている。
【0032】
基板2の構成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレートのような樹脂材料や、石英ガラス、ソーダガラスのようなガラス材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
このような基板2の平均厚さは、特に限定されないが、0.1〜30mm程度であるのが好ましく、0.1〜10mm程度であるのがより好ましい。
【0034】
なお、トップエミッション型の場合、基板2には、透明基板および不透明基板のいずれも用いることができる。
【0035】
不透明基板としては、例えば、アルミナのようなセラミックス材料で構成された基板、ステンレス鋼のような金属基板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成したもの、樹脂材料で構成された基板等が挙げられる。
【0036】
本構造における陰極3は、通常の有機EL素子と異なり仕事関数を小さくするという制約を受けない。つまり、仕事関数の大きな材料を用いることができ、大気下での安定性を獲得するためにはその方が望ましい。その他に求められる特性としては、導電性に優れていること、そしてボトムエミッション型および透明型の場合、その透過性に優れていることである。これらは陽極5においても同様で、仕事関数が大きく、導電性に優れ、トップエミッション型および透明型の場合、透過性に優れている材料を用いることが望ましい。
【0037】
陰極3および陽極5の構成材料としては、例えば、ITO(インジウム酸化錫)、IZO(インジウム酸化亜鉛)、FTO(フッ素酸化錫)、In23、SnO2、Sb含有SnO2、Al含有ZnO等の酸化物、Au、Pt、Ag、Cuまたはこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
このような陰極3の平均厚さは、特に限定されないが、10〜200nm程度であるのが好ましく、30〜150nm程度であるのがより好ましい。また、Au、Pt、Ag、Cu等の不透過な材料を用いる場合でも、例えば平均厚さを10〜30nm程度にすることで、ボトムエミッション型および透明型の陰極として使用することができる。
【0039】
一方、陽極5の平均厚さは、特に限定されないが、10〜10000nm程度であるのが好ましく、30〜150nm程度であるのがより好ましい。また、Au、Pt、Ag、Cu等の不透過な材料を用いる場合でも、例えば平均厚さを10〜30nm程度にすることで、トップエミッション型および透明型の陽極として使用することができる。
【0040】
有機化合物層4は、発光を担う層であり、少なくとも発光材料を含む層である。それゆえ、発光材料と正孔輸送性有機材料との混合もしくは積層でも構わない。発光材料の構成材料としては、各種高分子の発光材料(高分子材料)、各種低分子の発光材料(低分子材料)を単独または組み合わせて用いることができる。
【0041】
発光材料としては、各種高分子の発光材料(高分子材料)、各種低分子の発光材料(低分子材料)を単独または組み合わせて用いることができる。
【0042】
高分子の発光材料としては、例えば、トランス型ポリアセチレン、シス型ポリアセチレン、ポリ(ジ−フェニルアセチレン)(PDPA)、ポリ(アルキル,フェニルアセチレン)(PAPA)のようなポリアセチレン系化合物、ポリ(パラ−フェンビニレン)(PPV)、ポリ(2,5−ジアルコキシ−パラ−フェニレンビニレン)(RO−PPV)、シアノ−置換−ポリ(パラ−フェンビニレン)(CN−PPV)、ポリ(2−ジメチルオクチルシリル−パラ−フェニレンビニレン)(DMOS−PPV)、ポリ(2−メトキシ,5−(2’−エチルヘキソキシ)−パラ−フェニレンビニレン)(MEH−PPV)のようなポリパラフェニレンビニレン系化合物、ポリ(3−アルキルチオフェン)(PAT)、ポリ(オキシプロピレン)トリオール(POPT)のようなポリチオフェン系化合物、ポリ(9,9−ジアルキルフルオレン)(PDAF)、ポリ(ジオクチルフルオレン−アルト−ベンゾチアジアゾール)(F8BT)、α,ω−ビス[N,N’−ジ(メチルフェニル)アミノフェニル]−ポリ[9,9−ビス(2−エチルヘキシル)フルオレン−2,7−ジル](PF2/6am4)、ポリ(9,9−ジオクチル−2,7−ジビニレンフルオレニル−オルト−コ(アントラセン−9,10−ジイル)のようなポリフルオレン系化合物、ポリ(パラ−フェニレン)(PPP)、ポリ(1,5−ジアルコキシ−パラ−フェニレン)(RO−PPP)のようなポリパラフェニレン系化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール)(PVK)のようなポリカルバゾール系化合物、ポリ(メチルフェニルシラン)(PMPS)、ポリ(ナフチルフェニルシラン)(PNPS)、ポリ(ビフェニリルフェニルシラン)(PBPS)のようなポリシラン系化合物等が挙げられる。
【0043】
一方、低分子の発光材料としては、例えば、配位子に下記化2で示す2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸を持つ、3配位のイリジウム錯体、ファクトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy)3)、8−ヒドロキシキノリン アルミニウム(Alq3)、トリス(4−メチル−8キノリノレート) アルミニウム(III)(Almq3)、8−ヒドロキシキノリン 亜鉛(Znq2)、(1,10−フェナントロリン)−トリス−(4,4,4−トリフルオロ−1−(2−チエニル)−ブタン−1,3−ジオネート)ユーロピウム(III)(Eu(TTA)3(phen))、2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−21H,23H−ポルフィン プラチナム(II)のような各種金属錯体、ジスチリルベンゼン(DSB)、ジアミノジスチリルベンゼン(DADSB)のようなベンゼン系化合物、ナフタレン、ナイルレッドのようなナフタレン系化合物、フェナントレンのようなフェナントレン系化合物、クリセン、6−ニトロクリセンのようなクリセン系化合物、ペリレン、N,N’−ビス(2,5−ジ−t−ブチルフェニル)−3,4,9,10−ペリレン−ジ−カルボキシイミド(BPPC)のようなペリレン系化合物、コロネンのようなコロネン系化合物、アントラセン、ビススチリルアントラセンのようなアントラセン系化合物、ピレンのようなピレン系化合物、4−(ジ−シアノメチレン)−2−メチル−6−(パラ−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)のようなピラン系化合物、アクリジンのようなアクリジン系化合物、スチルベンのようなスチルベン系化合物、2,5−ジベンゾオキサゾールチオフェンのようなチオフェン系化合物、ベンゾオキサゾールのようなベンゾオキサゾール系化合物、ベンゾイミダゾールのようなベンゾイミダゾール系化合物、2,2’−(パラ−フェニレンジビニレン)−ビスベンゾチアゾールのようなベンゾチアゾール系化合物、ビスチリル(1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン)、テトラフェニルブタジエンのようなブタジエン系化合物、ナフタルイミドのようなナフタルイミド系化合物、クマリンのようなクマリン系化合物、ペリノンのようなペリノン系化合物、オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物、アルダジン系化合物、1,2,3,4,5−ペンタフェニル−1,3−シクロペンタジエン(PPCP)のようなシクロペンタジエン系化合物、キナクリドン、キナクリドンレッドのようなキナクリドン系化合物、ピロロピリジン、チアジアゾロピリジンのようなピリジン系化合物、2,2’,7,7’−テトラフェニル−9,9’−スピロビフルオレンのようなスピロ化合物、フタロシアニン(H2Pc)、銅フタロシアニンのような金属または無金属のフタロシアニン系化合物等が挙げられる。
【0044】
正孔輸送性有機材料は、有機化合物層内での正孔の輸送を、促進させるものである。
【0045】
この正孔輸送性有機材料には、各種p型の高分子材料や、各種p型の低分子材料を単独または組み合わせて用いることができる。
【0046】
p型の高分子材料(有機ポリマー)としては、例えば、ポリアリールアミン、フルオレン−アリールアミン共重合体、フルオレン−ビチオフェン共重合体、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリチオフェン、ポリアルキルチオフェン、ポリヘキシルチオフェン、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリチニレンビニレン、ピレンホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾールホルムアルデヒド樹脂またはその誘導体等が挙げられる。
【0047】
また、前記化合物は、他の化合物との混合物として用いることもできる。一例として、ポリチオフェンを含有する混合物としては、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン/スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)等が挙げられる。
【0048】
一方、p型の低分子材料としては、例えば、1,1−ビス(4−ジ−パラ−トリアミノフェニル)シクロへキサン、1,1’−ビス(4−ジ−パラ−トリルアミノフェニル)−4−フェニル−シクロヘキサンのようなアリールシクロアルカン系化合物、4,4’,4’’−トリメチルトリフェニルアミン、N,N,N’,N’−テトラフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(TPD1)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(4−メトキシフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(TPD2)、N,N,N’,N’−テトラキス(4−メトキシフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(TPD3)、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(α−NPD)、TPTEのようなアリールアミン系化合物、N,N,N’,N’−テトラフェニル−パラ−フェニレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラ(パラ−トリル)−パラ−フェニレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラ(メタ−トリル)−メタ−フェニレンジアミン(PDA)のようなフェニレンジアミン系化合物、カルバゾール、N−イソプロピルカルバゾール、N−フェニルカルバゾールのようなカルバゾール系化合物、スチルベン、4−ジ−パラ−トリルアミノスチルベンのようなスチルベン系化合物、OxZのようなオキサゾール系化合物、トリフェニルメタン、m−MTDATAのようなトリフェニルメタン系化合物、1−フェニル−3−(パラ−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリンのようなピラゾリン系化合物、ベンジン(シクロヘキサジエン)系化合物、トリアゾールのようなトリアゾール系化合物、イミダゾールのようなイミダゾール系化合物、1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ジ(4−ジメチルアミノフェニル)−1,3,4,−オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物、アントラセン、9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセンのようなアントラセン系化合物、フルオレノン、2,4,7,−トリニトロ−9−フルオレノン、2,7−ビス(2−ヒドロキシ−3−(2−クロロフェニルカルバモイル)−1−ナフチルアゾ)フルオレノンのようなフルオレノン系化合物、ポリアニリンのようなアニリン系化合物、シラン系化合物、1,4−ジチオケト−3,6−ジフェニル−ピロロ−(3,4−c)ピロロピロールのようなピロール系化合物、フローレンのようなフローレン系化合物、ポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリンのようなポルフィリン系化合物、キナクリドンのようなキナクリドン系化合物、フタロシアニン、銅フタロシアニン、テトラ(t−ブチル)銅フタロシアニン、鉄フタロシアニンのような金属または無金属のフタロシアニン系化合物、銅ナフタロシアニン、バナジルナフタロシアニン、モノクロロガリウムナフタロシアニンのような金属または無金属のナフタロシアニン系化合物、N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン、N,N,N’,N’−テトラフェニルベンジジンのようなベンジジン系化合物等が挙げられる。
【0049】
このような有機化合物層4の平均厚さは、特に限定されないが、10〜150nm程度であるのが好ましく、40〜100nm程度であるのがより好ましい。
【0050】
有機化合物層4は、正孔注入性金属酸化物層7から注入された正孔を輸送するとともに、電子注入性金属酸化物層6から電子を受け取る。そして正孔と電子とが再結合し、この再結合に際して放出されたエネルギーによりエキシトン(励起子)が生成し、エキシトンが基底状態に戻る際にエネルギー(蛍光やりん光)を放出(発光)する。
【0051】
これらの中でも、有機化合物層4の構成材料としては、高分子の発光材料を主とするものが好ましい。液相プロセスにより成膜が可能な高分子材料は、電子注入性金属酸化物層6とより多くの接触面を作りうる。これにより、より発光効率の優れたものとすることができる。
【0052】
特に、有機化合物層4の構成材料としては、ポリフルオレンまたその誘導体を主成分とする高分子の発光材料が好ましい。これにより、前記効果をより向上させることができる。
【0053】
電子注入性金属酸化物層6は陰極3より電子を注入し有機化合物層4へと輸送する。
【0054】
このような電子注入性金属酸化物層6を構成する金属酸化物としては、伝導バンドのエネルギー準位が高いものが好ましく、特に限定されないが、酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タングステン(WO3)、酸化二オブ(Nb25)、酸化鉄(Fe23)等があげられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせ用いることができる。
【0055】
この電子注入性金属酸化物層6の成膜方法については、特に制限されるものではなく、気相成膜法であるプラズマCVD、熱CVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、溶射法、そして液相成膜法である電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、ゾル・ゲル法、MOD法、スプレイ熱分解法、微粒子分散液を用いたドクターブレイド法、スピンコート法、インクジェット法、スクリーンプリンティング法などの印刷技術を用いることができる。本構造では、スプレイ熱分解法を用いた。
【0056】
このような電子注入性金属酸化物層6の平均厚さは、特に限定されないが、1〜1000nm程度であるのが好ましく、20〜200nm程度であるのがより好ましい。
【0057】
正孔注入性金属酸化物層7は陽極5より正孔を注入し有機化合物層4へと輸送する。
【0058】
このような正孔注入性金属酸化物層7を構成する金属酸化物としては、仕事関数が大きな化合物が好ましく、特に限定されないが、例えば、酸化バナジウム(V25)、酸化モリブテン(MoO3)、酸化ルテニウム(RuO2)等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
これらの中でも、特に、酸化バナジウムもしくは酸化モリブテンを主成分とするものが好適である。酸化バナジウムもしくは酸化モリブテンを主材料として構成することにより、正孔注入性金属酸化物層7を前述した能力に特に優れたものとすることができる。
【0060】
また、特に酸化バナジウムもしくは酸化モリブテンは、それ自体の正孔輸送性が高いため、陽極5から有機化合物層4への正孔の注入効率が低下するのを好適に防止することもできるという利点がある。
【0061】
この正孔注入性金属酸化物層7の成膜方法については、特に制限されるものではなく、気相成膜法であるプラズマCVD、熱CVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、溶射法、そして液相成膜法である電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、ゾル・ゲル法、MOD法、スプレイ熱分解法、微粒子分散液を用いたドクターブレイド法、スピンコート法、インクジェット法、スクリーンプリンティング法などの印刷技術を用いることができる。本構造では、真空蒸着法を用いた。
【0062】
このような正孔注入性金属酸化物層7の平均厚さは、特に限定されないが、1〜1000nm程度であるのが好ましく、5〜50nm程度であるのがより好ましい。
【0063】
本構造では特に必要としないが、封止構造の構成材料としては、一般的に用いられる封止材料を用いることができる。例えば、Al、Au、Cr、Nb、Ta、Tiまたはこれらを含む合金、酸化シリコン、各種樹脂材料等を挙げることができる。
【0064】
さて、本発明では、有機化合物層4と陰極3の間、そして有機化合物層4と陽極5の間に、金属酸化物を設けたことに特徴を有する。
【0065】
有機化合物層4と陰極3の間の電子注入性金属酸化物層6は、陰極自身に大気安定な仕事関数の大きな材料を用いることを可能にした。通常、電子注入のために仕事関数の小さい材料を陰極に使用する必要があるところを、その内部の電子注入部に、伝導バンドのエネルギー準位の高い、既に酸化した金属酸化物を用いることで、大気下での安定な電子注入を実現したものである。そのため、陰極3と金属酸化物(電子注入性金属酸化物層6)との十分な電気的、物理的接触が必要であり、そのため、一例として基板側に陰極を配する構造をとった。これにより、十分な温度等のプロセスを与えることができる。その観点からは、以下の実施例で示す金属酸化物系導電材料を陰極3とし、その上に例えば熱分解法などの電極との接触を十分にとれる過程が含まれる工程により作製されることがより好ましい。もちろんその他の方法でも可能である。
【0066】
有機化合物層4と陽極5の間の正孔注入性金属酸化物層7は、大気下でより安定な素子を実現するため、ここでも金属酸化物層を用いた。ここでは、有機化合物層4と正孔注入性金属酸化物層7との電気的、物理的接触を確実なものにするため、プロセス上の観点から気相成膜法を用いることがより好ましい。もちろんその他の方法でも可能である。
【0067】
この二つの特徴により、電子は大気安定な陰極から、正孔も大気安定な陽極から有機化合物層に注入される。
【0068】
このような発光素子1は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0069】
以下では、有機化合物層4を、高分子材料を主材料として構成する場合を代表に説明する。
【0070】
[1] まず、基板2を用意し、この基板2上に陰極3を形成する。
【0071】
陽極3は、例えば、プラズマCVD、熱CVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、溶射法のような気相成膜法、電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、ゾル・ゲル法、MOD法のような液相成膜法、金属箔の接合等を用いて形成することができる。FTOはスパッタ法が難しく、CVD法やスプレイ熱分解法が用いられる。
【0072】
[2] 次に、陰極3上に電子注入性金属酸化物層6を形成する。
【0073】
電子注入性金属酸化物層6は、例えば、前述のような気相成膜法や液相成膜法等を用いて形成することができる。
【0074】
これらの中でも、電子注入性金属酸化物層6は、液相成膜法のスプレイ熱分解法を用いて形成するのがより好ましい。スプレイ熱分解法によれば、電子注入性金属酸化物層6をより緻密にかつ陰極3との接触よく形成することができ、その結果、前述したような効果がより顕著なものとなる。
【0075】
[3] 次に、電子注入性金属酸化物層6の上面に、有機化合物層4として発光性の高分子材料を形成する。もちろん、この中に正孔輸送性材料を混ぜることも可能だし、先に発光性高分子材料を形成しておき、その上に正孔輸送材料を形成する積層も可能である。ここでは単層成膜の例を示す。積層はこれを繰り返すことによって実現できる。
【0076】
まず、有機化合物層4を構成する高分子材料を溶媒(液状媒体)に溶解して液状材料を調製する。
【0077】
溶媒としては、例えば、硝酸、硫酸、アンモニア、過酸化水素、水、二硫化炭素、四塩化炭素、エチレンカーボネイト等の無機溶媒や、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール(DEG)、グリセリン等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、ジエチレングリコールエチルエーテル(カルビトール)等のエーテル系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、フェニルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化合物系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル、ギ酸エチル等のエステル系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の硫黄化合物系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル等のニトリル系溶媒、ギ酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸系溶媒のような各種有機溶媒、または、これらを含む混合溶媒等が挙げられる。
【0078】
これらの中でも、溶媒としては、非極性溶媒が好適であり、例えば、キシレン、トルエン、シクロヘキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒等が挙げられ、これらを単独または混合して用いることができる。
【0079】
次に、この液状材料を電子注入性金属酸化物層6上に供給して、液状被膜を形成する。
【0080】
この液状材料の供給方法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法等の各種塗布法を用いることができる。かかる塗布法によれば、液状被膜を比較的容易に形成することができる。
【0081】
次に、液状被膜中から溶媒を除去する。
【0082】
[4] 次に、有機化合物層4の上に、正孔注入性金属酸化物層7を形成する。
【0083】
正孔注入性金属酸化物層7は、例えば、前述のような気相成膜法や液相成膜法等を用いて形成することができる。
【0084】
これらの中でも、正孔注入性金属酸化物層7は、気相成膜法を用いて形成するのがより好ましい。気相成膜法によれば、有機化合物層4の表面を壊すことなく清浄にかつ陽極5と接触よく形成することができ、その結果、前述したような効果がより顕著なものとなる。
【0085】
[5] 次に、最終工程として正孔注入性金属酸化物層7上に陽極5を形成する。
【0086】
陽極5は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、金属箔の接合等を用いて形成することができる。
【0087】
これで、本構造は完成だが、もし行うのであれば、この後封止工程を行えばよい。
【0088】
以上のような工程を経て、本発明の発光素子1が製造される。
【0089】
このような発光素子1は、例えば光源等として使用することができる。また、複数の発光素子1をマトリックス状に配置することにより、ディスプレイ装置(本発明の表示装置)を構成することができる。
【0090】
なお、ディスプレイ装置の駆動方式としては、特に限定されず、アクティブマトリックス方式、パッシブマトリックス方式のいずれであってもよい。
【0091】
次に、本発明の表示装置を適用したディスプレイ装置の一例について説明する。
【0092】
図2は、本発明の表示装置を適用したディスプレイ装置の実施形態を示す縦断面図である。
【0093】
図2に示すディスプレイ装置10は、基体20と、この基体20上に設けられた複数の発光素子1とで構成されている。
【0094】
基体20は、基板21と、この基板21上に形成された回路部22とを有している。
【0095】
回路部22は、基板21上に形成された、例えば酸化シリコン層からなる保護層23と、保護層23上に形成された駆動用TFT(スイッチング素子)24と、第1層間絶縁層25と、第2層間絶縁層26とを有している。
【0096】
駆動用TFT24は、シリコンからなる半導体層241と、半導体層241上に形成されたゲート絶縁層242と、ゲート絶縁層242上に形成されたゲート電極243と、ソース電極244と、ドレイン電極245とを有している。
【0097】
このような回路部22上に、各駆動用TFT24に対応して、それぞれ、発光素子1が設けられている。また、隣接する発光素子1同士は、第1隔壁部31および第2隔壁部32により区画されている。
【0098】
本実施形態では、各発光素子1の陰極3およびその上に作製された電子注入性金属酸化物層6は、画素電極を構成し、各駆動用TFT24のドレイン電極245に配線27により電気的に接続されている。また、各発光素子1の陽極5とその下に作製された正孔注入性金属酸化物層7は、共通とされている。
【0099】
ディスプレイ装置10は、単色表示であってもよく、各発光素子1に用いる発光材料を選択することにより、カラー表示も可能である。
【0100】
このようなディスプレイ装置10(本発明の表示装置)は、各種の電子機器に組み込むことができる。
【0101】
図3は、本発明の電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
【0102】
この図において、パーソナルコンピュータ1100は、キーボード1102を備えた本体部1104と、表示部を備える表示ユニット1106とにより構成され、表示ユニット1106は、本体部1104に対しヒンジ構造部を介して回動可能に支持されている。
【0103】
このパーソナルコンピュータ1100において、表示ユニット1106が備える表示部が前述のディスプレイ装置10で構成されている。
【0104】
図4は、本発明の電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
【0105】
この図において、携帯電話機1200は、複数の操作ボタン1202、受話口1204および送話口1206とともに、表示部を備えている。
【0106】
携帯電話機1200において、この表示部が前述のディスプレイ装置10で構成されている。
【0107】
図5は、本発明の電子機器を適用したディジタルスチルカメラの構成を示す斜視図である。なお、この図には、外部機器との接続についても簡易的に示されている。
【0108】
ここで、通常のカメラは、被写体の光像により銀塩写真フィルムを感光するのに対し、ディジタルスチルカメラ1300は、被写体の光像をCCD(Charge Coupled Device)などの撮像素子により光電変換して撮像信号(画像信号)を生成する。
【0109】
ディジタルスチルカメラ1300におけるケース(ボディー)1302の背面には、表示部が設けられ、CCDによる撮像信号に基づいて表示を行う構成になっており、被写体を電子画像として表示するファインダとして機能する。
【0110】
ディジタルスチルカメラ1300において、この表示部が前述のディスプレイ装置10で構成されている。
【0111】
ケースの内部には、回路基板1308が設置されている。この回路基板1308は、撮像信号を格納(記憶)し得るメモリが設置されている。
【0112】
また、ケース1302の正面側(図示の構成では裏面側)には、光学レンズ(撮像光学系)やCCDなどを含む受光ユニット1304が設けられている。
【0113】
撮影者が表示部に表示された被写体像を確認し、シャッタボタン1306を押下すると、その時点におけるCCDの撮像信号が、回路基板1308のメモリに転送・格納される。
【0114】
また、このディジタルスチルカメラ1300においては、ケース1302の側面に、ビデオ信号出力端子1312と、データ通信用の入出力端子1314とが設けられている。そして、図示のように、ビデオ信号出力端子1312にはテレビモニタ1430が、デ−タ通信用の入出力端子1314にはパーソナルコンピュータ1440が、それぞれ必要に応じて接続される。さらに、所定の操作により、回路基板1308のメモリに格納された撮像信号が、テレビモニタ1430や、パーソナルコンピュータ1440に出力される構成になっている。
【0115】
なお、本発明の電子機器は、図3のパーソナルコンピュータ(モバイル型パーソナルコンピュータ)、図4の携帯電話機、図5のディジタルスチルカメラの他にも、例えば、テレビや、ビデオカメラ、ビューファインダ型、モニタ直視型のビデオテープレコーダ、ラップトップ型パーソナルコンピュータ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳(通信機能付も含む)、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニタ、電子双眼鏡、POS端末、タッチパネルを備えた機器(例えば金融機関のキャッシュディスペンサー、自動券売機)、医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電表示装置、超音波診断装置、内視鏡用表示装置)、魚群探知機、各種測定機器、計器類(例えば、車両、航空機、船舶の計器類)、フライトシュミレータ、その他各種モニタ類、プロジェクター等の投射型表示装置等に適用することができる。
【0116】
以上、本発明の発光素子、表示装置および電子機器を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものでない。
【実施例】
【0117】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
【0118】
1.発光素子の製造
【0119】
(実施例1)
[1] まず、米国Hartford Glass社で市販されている平均厚さ2.3mmのFTO付き透明ガラス基板を用意した。
【0120】
[2] 次に、FTO電極(陰極)を亜鉛粉末と4N塩酸によりエッチングし、パターン形成を行った。
【0121】
[3] 次に、このFTO電極上に、スプレイ熱分解法により、平均厚さ100nmの酸化チタン(TiO2)層(電子注入性金属酸化物層)を形成した。Journal of European Ceramic Society 19,p903(1999)もしくはCeramic Trans.109,p473(2000)などを参照。ここでは、ジイソプロポキシ・ビスアセチルアセトナトチタニウム溶液とエタノールを質量比1:10で混合し、450℃で過熱された[2]記載のFTO基板上にスプレイ塗布した。
【0122】
[4] 次に、ADS社製ポリフルオレン誘導体ADS133YEを1.0wt%でキシレンに溶解させ、上記TiO2層(電子注入性金属酸化物層)上に、スピンコート法(1000rpm)により塗布した後、乾燥させた。なお、液状材料の乾燥条件は、大気化、室温とした。これで有機化合物層が完成する。
【0123】
[5] ここからの正孔注入性金属酸化物層の作製と陽極の作製工程は、真空蒸着機内で行う。ここで、有機化合物層の上に酸化バナジウム(V25)層(正孔注入性金属酸化物層)を平均厚さ30nmで蒸着した。
【0124】
[5]の連続工程で、平均厚さ30nmで金(Au)(陽極)を蒸着した。
【0125】
(実施例2)
前記工程[5]において、酸化モリブテン(MoO3)を用いた。それ以外は実施例1と同様に発光素子を製造した。
【0126】
(比較例1)
前記工程[3]を省略した以外は実施例1と同様に発光素子を製造した。つまり、電子注入性金属酸化物層のみがない発光素子。
【0127】
(比較例2)
前記工程[5]を省略した以外は実施例1と同様に発光素子を製造した。つまり、正孔注入性金属酸化物層のみがない発光素子。
【0128】
2.評価
【0129】
各実施例および比較例で製造した発光素子について、それぞれ、初期の発光効率および100時間大気放置後の発光効率の評価を行った。
【0130】
この発光効率の評価は、直流電源により、0Vから6Vに電圧を印加し、電流値を測定し、輝度を輝度計により測定することで行った。
【0131】
その結果を、それぞれ、図6および図7に示す。
【0132】
図6に示すように、各実施例の発光素子は、いずれも、比較例の発光素子に比べて、明らかに発光効率および輝度に優れるものであった。比較例2の素子は6Vまでの電圧印加では発光が見られなかった。ちなみに、15V付近で弱い発光と共にショートした。実施例1および実施例2の輝度および効率が4Vから5Vの間でデータが終了しているのは、装置の電流限界によるものである。ショートしたわけではない。このことから、十分にキャリアが注入および輸送されていることがわかる。さらに、実施例1および2の閾値電圧は、発光色の緑色のエネルギーギャップにほぼ等しいことから、注入障壁も十分に小さく理想的であることがわかる。
【0133】
また、図7では実施例1について初期の効率と100時間大気下で放置した後の効率について比較した。未封止で大気下に長時間さらしていたにもかかわらず、その特性は維持されていることがわかる。多少、最大効率が落ちているように見えるが、これは誤差内である。閾値電圧も維持されており、発光の様子も均一な状態が保たれていた。これにより未封止での安定かつ発光効率の優れた発光素子の実現が確認された。なお、ここには示さないが、正孔注入性金属酸化物層として酸化モリブテンを用いた実施例2は実施例1と同等の結果を得た。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】本発明の発光素子の実施形態の縦断面を模式的に示す図である。
【図2】本発明の表示装置を適用したディスプレイ装置の実施形態を示す縦断面図である。
【図3】本発明の電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
【図4】本発明の電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
【図5】本発明の電子機器を適用したディジタルスチルカメラの構成を示す斜視図である。
【図6】各実施例および比較例で製造された発光素子に対して、初期の発光効率および輝度の評価を行った結果を示すグラフである。
【図7】実施例1で製造された発光素子に対して、100時間大気放置後の発光効率の評価を行った結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0135】
1……発光素子 2……基板 3……陰極 4……有機化合物層 5……陽極 6……電子注入性金属酸化物層 7……正孔注入性金属酸化物層 10……ディスプレイ装置 20……基体 21……基板 22……回路部 23……保護層 24……駆動用TFT 241……半導体層 242……ゲート絶縁層 243……ゲート電極 244……ソース電極 245……ドレイン電極 25……第1層間絶縁層 26……第2層間絶縁層 27……配線 31……第1隔壁部 32……第2隔壁部 1100……パーソナルコンピュータ 1102……キーボード 1104……本体部 1106……表示ユニット 1200……携帯電話機 1202……操作ボタン 1204……受話口 1206……送話口 1300‥‥ディジタルスチルカメラ 1302‥‥ケース(ボディー) 1304‥‥受光ユニット 1306‥‥シャッタボタン 1308‥‥回路基板 1312‥‥ビデオ信号出力端子 1314‥‥データ通信用の入出力端子 1430‥‥テレビモニタ 1440‥‥パーソナルコンピュータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極および陰極と、前記陽極と前記陰極とに挟まれた1層または複数層の有機化合物層と、前記陽極と前記有機化合物層との間及び前記陰極と前記有機化合物層との間に、少なくとも1種類以上の金属酸化物薄膜を有することを特徴とする有機薄膜発光素子。
【請求項2】
前記金属酸化物薄膜が酸化チタン薄膜を含む請求項1に記載の有機薄膜発光素子。
【請求項3】
前記金属酸化物は、前記陽極の仕事関数よりも大きな金属酸化物薄膜を含む請求項1または2に記載の有機薄膜発光装置。
【請求項4】
前記金属酸化物薄膜は酸化バナジウム薄膜を含む請求項3に記載の有機薄膜発光素子。
【請求項5】
前記金属酸化物薄膜が酸化モリブテン薄膜を含むを特徴とする請求項3に記載の有機薄膜発光素子。
【請求項6】
前記酸化チタン薄膜がスプレイ熱分解法によって形成されていることを特徴とする請求項2ないし5のいずれか一項に記載の有機薄膜発光素子。
【請求項7】
前記有機化合物層が高分子材料である請求項1ないし6のいずれか一項に記載の有機薄膜発光素子。
【請求項8】
前記高分子材料は、ポリフルオレンまたその誘導体である請求項7に記載の有機薄膜発光素子。
【請求項9】
前記陰極は、仕事関数がインジウム酸化錫(ITO)と同等もしくはそれ以上の値を持つ材料を含む請求項1ないし8のいずれか一項に記載の有機薄膜発光素子。
【請求項10】
前記陰極がフッ素酸化錫(FTO)である請求項9に記載の有機薄膜発光素子。
【請求項11】
陽極および陰極と、前記陽極と前記陰極とに挟まれた1層または複数層の有機化合物層を含む有機薄膜発光素子において、前記陰極が基板側に存在していることを特徴とする有機薄膜発光素子。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか一項に記載の有機薄膜発光素子を備えることを特徴とする表示装置。
【請求項13】
請求項12に記載の表示装置を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−53286(P2007−53286A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238355(P2005−238355)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】