説明

発光素子及びその製造方法

【課題】 低電圧での動作が可能であり、発光効率、安定性、製造コストなどに優れた発光素子を提供する。
【解決手段】 基板10上に、少なくとも電極層11、14と、発光層13と、電極層11と発光層13の間に微細構造層12を有し、該微細構造層12は第1の材料からなる部位と第2の材料からなる部位を有する発光素子。前記微細構造層は、柱状の形状を有する複数の第1の材料からなる部位と、該第1の材料からなる部位の周囲に第2の材料からなる部位を有し、第1の材料からなる部位が規則的に配列していることが好ましい。第1の材料及び第2の材料が異なる酸化物からなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子、特に電極層と発光層と微細構造層を有した発光素子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発光素子を適用したフラットパネルディスプレイ(FPD)が注目されている。FPDは、適用される発光素子の種類から、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(有機EL)、無機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(無機EL)、発光ダイオードディスプレイ(LEDディスプレイ)等、が挙げられる。
【0003】
発光ダイオードは、低電圧駆動が可能であり、安定性にも優れるが、高温プロセスを必要とする結晶成長が必要であるため、ガラス基板やプラスチック基板上への形成は困難である。そのため、ディスプレイとしてはその適用範囲が限られている。
【0004】
有機ELディスプレイは、低電圧駆動が可能であり、ガラス基板やプラスチック基板上への形成が可能であるが、信頼性や耐久性の点で課題がある。
無機ELディスプレイは、大面積のディスプレイ作成が比較的容易であり、高い使用環境耐性が期待できるが、現状では、駆動電圧が高いことが課題となっている。
【0005】
最近では、特許文献1において、絶縁皮膜結晶微粒子層(SiO2 被膜Si単結晶微粒子)を適用した発光素子の技術が開示されている。
また、特許文献2においては、多孔質多結晶シリコン層を適用した発光素子の技術が開示されている。
【特許文献1】特開2003−115385号公報
【特許文献2】特開2001−319787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような技術的背景によりなされたものであり、低電圧での動作が可能であり、発光効率、安定性、製造コストなどに優れた新規な発光素子を提供するものである。特に、環境耐性に優れた酸化物を主構成要素とする発光素子を提供するものである。また、この様な発光素子を製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題は本発明の以下の構成および製法により解決できる。
すなわち、本発明は、基板上に、少なくとも電極層と、発光層と、電極層と発光層の間に微細構造層を有し、該微細構造層は第1の材料からなる部位と第2の材料からなる部位を有することを特徴とする発光素子である。
【0008】
また、本発明は、基板上に、少なくとも第1の電極層、微細構造層、第2の電極層、発光層および第3の電極層を有し、該発光層は第2の電極層と第3の電極層の間に設けられ、微細構造層は第1の電極層と第2の電極層の間に設けられ、かつ該微細構造層は第1の材料からなる部位と第2の材料からなる部位を有することを特徴とする発光素子である。
【0009】
前記微細構造層は、複数の柱状の形状を有した第1の材料からなる部位と、該第1の材料からなる部位の周囲に第2の材料からなる部位を有することが好ましい。
前記第1の材料からなる部位の柱状の形状の短軸長が1μm以下であることが好ましい。
【0010】
前記第1の材料からなる部位が規則的に配列していることが好ましい。
前記第1の材料及び第2の材料が異なる酸化物からなることが好ましい。
さらに、本発明は、上記の発光素子を用いた画像表示装置である。
【0011】
さらに、本発明は、基板上に、少なくとも電極層と、発光層と、微細構造層を有する発光素子の製造方法において、発光層上に第1の材料からなる部位と第2の材料からなる部位を有する微細構造層を成膜する工程と、該微細構造層上に電極層を成膜する工程を有することを特徴とする発光素子の製造方法である。
【0012】
さらに、本発明は、基板上に、少なくとも電極層と、発光層と、微細構造層を有する発光素子の製造方法において、電極層上に第1の材料からなる部位と第2の材料からなる部位を有する微細構造層を成膜する工程と、該微細構造層上に発光層を成膜する工程を有することを特徴とする発光素子の製造方法である。
【0013】
前記微細構造層をスパッタリング法で形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、発光面における発光均一性に優れ、比較的に低電圧で安定した駆動が可能な発光素子を提供することができる。また、本発明の発光素子は、酸化物材料を主構成要素としているため、使用環境耐性に優れ、環境へ負荷が少ないという特徴がある。
【0015】
また、本発明の発光素子は、ディスプレイや印字装置、照明装置に利用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
図1および図4は本発明の発光素子の構成例を模式的に示した概略図である。図中、10は基板、11は電極層、12は微細構造層、13は発光層、14は透明電極層(第2の電極層)、15は電源、16は光である。
【0017】
本発明の発光素子は、基板上に、電極層と、発光層と、電極層と発光層の間に挟まれた位置に微細構造層を有する構成からなる。
透明電極層及び電極層は、それぞれ駆動用の電源15に電気的に接続される。電源は、DC電源、パルス電源、AC電源などのものを用いる。電極から微細構造層を介して、発光層に注入された電荷が、発光層を励起し発光せしめる。
【0018】
たとえば、図1の発光素子においては、透明電極層を電極層より高電位にすることで、電子が電極(陰極)から微細構造層を介して発光層に注入され、光16を発する。
また、図1は光を基板側から取り出すタイプの素子の概念図であるが、図4のように光を基板反対側から取り出すタイプの素子も可能である。また、図1および4(a)では、電極層と発光層の間に微細構造層を有しているが、図4(b)のように透明電極層と発光層の間に微細構造層を配してもよい。この場合は、透明電極層が電極層より低電位にすることで、電子を透明電極層から微細構造層を介して発光層に注入することができる。
【0019】
本発明の発光素子に特徴的な微細構造層12について説明する。
本発明における微細構造層12は、層の面内において、第1の材料からなる部位と第2の材料からなる部位を有する。特に、それぞれの面内方向(x,y方向)のサイズがサブミクロンからナノメータサイズの微細構造を有することに特徴がある。
【0020】
図2に微細構造層12の構造例を記す。図2(a)〜)d)にはそれぞれ平面図(上)と断面図(下)が示されている。それぞれ、図2(a)は第1の材料と第2の材料の領域を有する構造体の例、図2(b)は柱状の材料がマトリックスの中に埋め込まれた構造体の例、図2(c)はラメラ状の構造体の例、図2(d)は第1の材料と第2の材料と第3の材料の領域を有する構造体の例である。
【0021】
図2に示すように、層の面内方向(x,y方向)に異なる材料からなる部位が、例えば第1の材料からなる部位21と第2の材料からなる部位22が配される。それぞれの部位の面内方向(x,y方向)のサイズは数ナノメートルから数マイクロメートルである。
【0022】
典型的には、図2(b)のようにマトリックス(第2の材料の部位)の中に柱状の部位(第1の材料の部位)を有する構造が挙げられる。他には、図2(c)のようなラメラ構造が挙げられる。また、このような構造は、共晶反応を用いることで自己組織的に作製できることから、製法上の観点でも好ましい構造ということができる。図2(d)には3つの異なる材料の部位を有する例を記した。
【0023】
このような微細構造層を配することで、層の面内にわたり均一な発光を示す発光素子とすることができる。
図3を用いて、この理由を説明する。
【0024】
図3(a)は、本発明の発光素子におけるポテンシャル及びポテンシャル障壁の空間分布を示す概略図、図3(b)は本発明の発光素子におけるポテンシャル障壁の空間分布を示す概略図である。
【0025】
図3(a)は、層方向(厚さ方向すなわちz方向)に向けて電子に対するポテンシャルの変化を模式的に示した図である。本発明の発光素子においては、図3(a)に記すように、微細構造層を介して(トンネリングして)、電極層11から発光層13へ電子の注入が成される。特に、上述の構造を有する微細構造層を配することで、面内に渡り均一に電子を効果的に発光層に注入することができる。
【0026】
すなわち、上述した第1の材料からなる部位と、第2の材料からなる部位の境界部において、局所的に電子がトンネリングしやすくなる。すなわち、図3(b)に示すように、面内にわたって見かけ上のトンネル障壁の低い部分が高密度に配され、これにより、電子は優先的にこのトンネル障壁の低い部分27を通過して、発光層に到る。この局所的にトンネリングしやすい部位が、広い面積に渡って高密度に配されているため、面内に均一な発光をさせることができる。
【0027】
また、多数の局所的な発光部位(優先的に電子が加速される部位)を面内に均一に有しているため、素子の一箇所でエネルギー損失の集中することに伴う絶縁破壊(素子破壊)がしにくくなる。これにより信頼性と安定性に優れた発光素子とすることができる。
【0028】
微細構造層の厚さは、数nm(ナノメートル)から数100nmの範囲である。
厚さが数nmで電子の平均自由工程よりも厚さが薄い場合には、電子は絶縁性を有する微細構造層を直接的にトンネリングすることで、発光層に到る。このような素子は、低い電圧での素子駆動が可能である。
【0029】
また、数10ナノ〜数百nmで平均自由工程より厚さが厚い場合は、電子はホットエレクトロンとなって微細構造層内で加速され、発光層に到る。上述の構造を有する微細構造層においては、上述した第1の材料からなる部位と第2の材料からなる部位の境界部の界面準位を介した効果的な加速が期待できる。このような素子はやや駆動電圧が高くなるが、素子間の特性ばらつきを小さくすることが比較的容易である。また、この場合も上述したように、優先的にホットエレクトロンが生成する部位を高密度に有しているため、面内に均一な発光をさせることができる。
【0030】
特に、微細構造層における、上記の第1及び2の材料からなる部位のサイズを小さくすることは、上述の境界部(トンネリングしやすい部位)を増やすことにつながり、しいては発光点の増加につながる。さらに、このことは、発光特性の面内均一性の観点からより好ましい。特に、発光素子に要求される面内均一性の観点から鑑みて、そのサイズを1ミクロン以下にすることが有効であり、さらに、より好ましくは100nm以下であることが特に好ましい。
【0031】
また、発光点が面内に均一に形成されるためには、上記の第1及び2の材料からなる部位が周期的に同等な構造を有して存在することが好ましい。すなわち、第1の材料からなる部位が第2の材料の中に、規則的に配列して配された構成は、より好ましい構成である。
【0032】
また、発光に至らない低電圧印加時の高い絶縁性と、発光時の効果的な電子加速の観点から、微細構造層は酸化物からなることが好ましい。また、有機材料であってもよい。
具体的には、第1の材料からなる部位及び第2の材料からなる部位の材料としては、Al23、SiO2、ZnO2、TiO2、HfO2、Ta25、SiN、GaN、BaTiO3、ZnOなどが挙げられる。
【0033】
図1においては微細構造層と発光層は1層であるが、図7のように複数の微細構造層と発光層を交互に積層してもよい。
以下、本発明の発光素子のそれぞれの層について説明する。
【0034】
基板10は、図4の構成に示すような基板側より光を取り出す場合は、発光した光が透過するよう透明なガラスやプラスチックであることが好ましい。図1に示すように光を上面より取り出す場合は基板の種類には寄らない。この場合基板としてはガラスやプラスチック、セラミック、半導体基板などを利用可能である。
【0035】
透明電極層14は、電極として機能するための導電性と、発光した光が透過性の両方の機能を有することが好ましい。たとえば、ドーピングされたIn23 やSnO2 、ZnO、ITO等の透明導電膜があげられる。
【0036】
電極層11は、Al,AuやPt、Ag,,Ta,Niなど各種の金属や合金、透明導電膜が利用可能である。
発光層13は駆動時に発光を示す層である。発光層の厚さは50nm〜1μmの範囲が好ましい。発光層を構成する材料は、発光を示すものであればよい。
【0037】
たとえば、発光中心を有する発光材料として、ZnS:Mn、SrS:Ce,Eu、CaS:Eu、ZnS:Tb,F、CaS:Ce、SrS:Ce、CaGa24 :Ce、BaAl24 :Eu、Ga23 :Eu、Y23 :Eu、Zn2 SiO4 :Mn、ZnGa24 :Mn、Y22 S:Eu3+、Gd22 S:Eu3+、YVO4 :Eu3+、Y22 S:Eu,Sm、SrTiO3 :Pr、BaSi2 Al28 :Eu2+、BaMg2 Al1627:Eu2+、Y0.65Gd0.35BO3 :Eu3+、La22 S:Eu3+,Sm、Ba2 SiO4 :Eu2+、Zn(Ga,Al)24 :Mn、Y3 (Al,Ga)512:Tb、Y2 SiO5 :Tb、ZnS:Cu、Zn2 SiO4 :Mn、BaAl2 Si28 :Eu2+、BaMgAl1423:Eu2+、Y2 SiO5 :Ce、ZnGa24 などを用いることが挙げられる。
【0038】
他にも、ZnWO4 、MgWO4 などのタングステン酸化物、ZnMoO4 やSrMO4 などのモリブデン酸化物、YVO4 などのバナジウム酸化物、Eu2 SiO4 やEuSiOなどのユーロピウム酸化物が挙げられる。ほかにも、Alq3やIr(ppy)などの有機発光材料、ZnSe,CdSe、ZnTe,GaP,GaN、ZnOなどの半導体材料、さらにはこれらの微粒子などを用いることもできる。
【0039】
次に、本発明の発光素子の製造方法について説明する。
具体的には、基板上に、少なくとも電極層と、発光層と、微細構造層を有する発光素子の製造方法において、発光層上に第1の材料からなる部位と第2の材料からなる部位を有する微細構造層を成膜する工程と、該微細構造層上に電極層を成膜する工程を有することを特徴とする。
【0040】
また、電極層上に第1の材料からなる部位と第2の材料からなる部位を有する微細構造層を成膜する工程と、該微細構造層上に発光層を成膜する工程を有することを特徴とする。
【0041】
本発明において、微細構造層、発光層、透明導電層および電極層の成膜には、真空蒸着やスパッタ蒸着、電子ビーム蒸着などの気相法、めっき等の液相法、ゾル−ゲル等の固相法等、任意の薄膜作成方法を用いることができる。
【0042】
特に、本発明の微細構造を有する微細構造層の作製には、共晶反応を用いることが挙げられ、その際には高いエネルギーの粒子を基板に供給できるスパッタリング法が好ましい方法である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を用いて本発明を更に説明する。
但し、本発明は以下の実施例に限られるものではなく、上述の概念に含まれるものを包含する。
【0044】
実施例1
本実施例の発光素子は、図1に記した構造からなる。
本実施例の微細構造層は、図2(b)に示すように、層の面内において、第1の材料からなる部位と第2の材料からなる部位を有する。また、第1の材料はアルミナを主成分とし、第2の材料は酸化シリコンを主成分としてなる。
【0045】
以下、作成工程に沿って説明する。
基板10として石英基板を用いる。基板10上にマグネトロンスパッタリング法により電極層11としてTaを100nm成膜する。
【0046】
次に、微細構造層12を形成する。微細構造層は、まず、マグネトロンスパッタリング法により、AlとSiからなる構造体を形成し、これを陽極酸化することで作製する。AlとSiからなる構造体は、図2(b)に示すようにAlを主成分とするシリンダーの部位と、その周囲を取り囲むSiを主成分とするマトリックス部位から構成される。これを陽極酸化することで、アルミナを主成分とするシリンダー状の部位と、その周囲を取り囲む酸化シリコンを主成分とするマトリックス部位から構成される微細構造層とすることができる。
【0047】
AlとSiからなる構造体の形成には、AlとSiの混合物からなるターゲットを用い、マグネトロンスパッタリング法により作製する。この際、Alからなる柱状の部位をSi部位内に均一に分散させるには、基板10に対向してターゲットを配置しておくのがよい。AlとSiの組成比を変えることで、AlとSiの部位の割合を制御することができる。たとえば、Alのシリンダ径は1〜20nmであり、間隔は5〜30nmである。
【0048】
本実施例では、AlとSiの組成比を56:44として、室温において、150Wの投入パワーで成膜した。アルミニウムの部位のサイズは約7nm、間隔が10nm程度であり、図に示すように円柱状のアルミがシリコンからなるマトリックスに埋め込まれた構造からなる。膜厚は7nm程度である。
【0049】
引き続き、0.1M酒石酸アンモニウム水溶液中において、上記AlとSiからなる構造体からなる薄膜を陽極として、白金電極(陰極)に対向して配し、電圧5V程度で陽極酸化する。これによりアルミとシリコンが酸化される。このようにして、図2(b)に示すようなアルミナの部位(第1の材料)と酸化シリコン(第2の材料)の部位を有する酸化物構造体が形成される。
【0050】
微細構造層の厚さは、約7nmであり、直径が約7nmのアルミナ部位が酸化シリコンのマトリックス中に分散して配置された構造を有している。酸化シリコンの部位においては、一部において未酸化のシリコンの部位を有してもよい。
【0051】
次に、発光層13として、Alq3(アルミニウムキノリン錯体)を80nm、さらに、透明電極層としてITO(Snが5%付与されたIn23)を200nmの厚さに成膜する。
【0052】
透明電極層及び電極層は、それぞれ駆動用の電源に電気的に接続する。駆動電源は、パルス電圧源である。透明電極膜14を正極、電極層を負極として、パルス幅1ms、繰り返し周波数50Hzのパルス電圧を印加し、その電圧を徐々に増加したところ20V程度から発光が得られる。
本実施例は、微細構造層に上記のナノサイズの構造を有する構造体を適用することで、素子面内において均一な発光がえられ、その安定性も良好である。
【0053】
実施例2
本実施例の発光素子は、図4(b)に記した構造からなる。実施例1とは異なり、光を基板の裏側から取り出すタイプの発光素子である。
【0054】
ここで、10は基板、11は電極層、12は微細構造層、13は発光層、14は透明電極層、15は電源、16は光である。本実施例においては、図2b)に示す構造を有する微細構造層を用いている。第1の材料は酸化鉄、第2の材料は酸化シリコンを主成分とする。
【0055】
以下、作成工程に沿って説明する。
基板として石英基板を用いる。基板10上にマグネトロンスパッタリング法により透明電極層としてITOを200nm成膜する。
【0056】
次に、微細構造層12を形成する。微細構造層は、まず、マグネトロンスパッタリング法により、Fe,Si,Oからなる膜を成膜し、これを大気中で600℃の熱処理を施すことで作製する。スパッタにおいては、ターゲットとしてFeO粉末とSiO2 粉末を体積割合で、FeO:SiO2 =3:7で混合したものを用いている。これにより図2(b)に示すよう、酸化鉄を主成分とするシリンダーの部位と、その周囲を取り囲む酸化シリコンSiをマトリックス部位から構成された微細構造層とすることができる。
【0057】
本実施例では、酸化鉄の部位のサイズは約4nmであり、図にしめすように円柱状のシリンダがシリコンからなるマトリックスに埋め込まれた構造であり、膜厚は50nm程度である。
【0058】
次に、発光層13して、ZnS:Mnを電子ビーム蒸着で成膜し、大気中で500℃の熱処理を施す。膜厚は約100nmである。
さらに、電極層として厚さ200nmのAuを成膜する。
【0059】
透明電極層及び電極層は、それぞれ駆動用の電源に電気的に接続する。駆動電源は、パルス電圧源である。透明電極膜14を負極、電極層11を正極として、パルス幅1ms、繰り返し周波数50Hzのパルス電圧を印加し、その電圧を徐々に増加したところ50V程度から基板側から発光が得られる。
【0060】
本実施例は、微細構造層に上記のナノサイズの構造を有する構造体を適用することで、素子面内において均一な発光がえられ、その安定性も良好である。
【0061】
実施例3
本実施例の発光素子は、図5に記した構造からなる。
ここで、50は基板、51は電極層、52は微細構造層、53は第2の電極層、54は発光層、55は透明電極層(第3の電極)、56は駆動電源、57は加速電源、58は光である。
【0062】
本実施例の発光素子では、第1の電極と第2の電極の間で加速した電子は、第2の電極を通過し発光層に注入される。これにより、発光層の励起がなされ、発光が生じる。
本実施例の素子の作製においては、実施例1と同様にして、基板上に、電極層、微細構造層を形成後、次に電極層53としてAlやAuの膜を5nm程度形成する。この層は電極として機能する限りにおいて、電子が透過するために薄いことが好ましい。次に、発光層54として、ZnS:Mnを電子ビーム蒸着で成膜し、大気中で500℃の熱処理を施す。膜厚は約300nmである。
【0063】
次に、透明電極層55としてITOを200nm成膜する。
透明電極層及び第1の電極層、第2の電極層は、電源に電気的に接続する。加速電源は100Vの直流電源であり、駆動電源は、パルス電圧源である。透明電極膜と第2の電極層に100Vの直流電圧を印加し、第2の電極と第1の電極の間にパルス幅1ms、繰り返し周波数50Hzのパルス電圧印加し、そのパルス電圧を徐々に増加したところ約16V程度から発光が得られる。
【0064】
第1の電極と第2の電極の間の微細構造を有する微細構造層で効果的に加速された電子は、第2の電極を透過し、発光層に注入される。これにより、発光層は励起され、発光を生じる。本実施例においては、パルス電源を制御することで小さな電圧振幅で、発光のオンオフを制御しうる。
【0065】
実施例4
本実施例は、電子線励起で発光させるタイプの発光素子の例である。
図6にその構成を示す。ここで、60と66は基板、61は電極層、62は微細構造層、63は第2の電極層、64は発光層、65は透明電極層(第3の電極)、67は駆動電源、68は加速電源、69は光、70は電子ビーム、71は真空である。
【0066】
本実施例の発光素子は、基板上に第1の電極層61、微細構造層62、第2の電極層63を積層してなる電子放出素子と、発光層64を有する基板66を対向して配している。第1の電極と第2の電極の間の電界で加速された電子は、真空中に放出される。放出された電子は、第2の電極層と第3の電極層の間に印加された電圧により加速され、発光層に照射される。これにより発光層は励起され、発光を生じる。
【0067】
本実施例においては、第1の電極層、微細構造層、第2の電極層は実施例3と同様な構成である。ガラス基板66上にSnO2 :Fの電極層65を300nm成膜し、その上に発光層としてY23 :Euを600nm成膜してある。さらに、チャージアップ防止と発光層からの光反射の役割を担ったアルミ膜(不図示)を50nm成膜している。
【0068】
加速電圧として第2の電極層と透明電極層の間に2kVの加速電圧を印加し、第2の電極層と第1の電極層の間に、透明電極層及び第1の電極層、第2の電極層は、電源に電気的に接続する。加速電源は2kVの直流電源であり、駆動電源は、パルス電圧源である。透明電極層と第2の電極層に100Vの直流電圧を印加し、第2の電極と第1の電極の間にパルス幅1ms、繰り返し周波数50Hzのパルス電圧印加し、そのパルス電圧を徐々に増加したところ約16V程度から発光が得られる。
【0069】
第1の電極と第2の電極の間の微細構造を有する微細構造層で効果的に加速された電子は、第2の電極を透過して、真空中に放出され、加速されて発光層に入射される。これにより発光層を励起し、発光層から発光をさせる。本実施例においては、パルス電源を制御することで小さな電圧振幅で、比較的強い発光のオンオフを制御しうる。
【0070】
実施例5
本実施例の発光素子は、図4(a)に記した構造からなる。本実施例においては、微細構造層がZrO2 とAl23 の微細構造を有してなる例である。
【0071】
基板としてYSZ単結晶基板(111)を用いる。基板上にマグネトロンスパッタリング法により透明電極層14としてITOを300nm成膜する。基板温度は700℃とする。
【0072】
次に、発光層13して、ZnとWの複合酸化物を200nm成膜する。ZnOターゲットとWO3の混合ターゲットを用意し、マグネトロンスパッタリング法により成膜する。成膜時の基板温度は約800℃、雰囲気はArとO2 の混合雰囲気下で行う。ガス圧は0.5Paであり、ArとO2 の流量比は5:2である。
【0073】
次に、微細構造層12として、ZrとAlの酸化物構造体を20nm成膜する。ZrO2 (8mol%Y23 を含む)ターゲットとAl2O3ターゲットを用意し、マグネトロンスパッタリング法により2元同時成膜する。基板温度は約800℃であり、雰囲気はArとO2 の混合雰囲気下で行う。ガス圧は0.5Paであり、ArとO2の流量比は5:2である。それぞれのターゲットへの投入パワーは、成膜物におけるZrとAlの組成比が約1:4になうように調節している。この薄膜は、ZrO2 を主成分とする部位とAl23 を主成分とする部位が図2(c)に示すようにラメラ状に配されている。ZrO2 の領域の幅は約50nm程度である。Al23 の領域の幅は約60nm程度である。
【0074】
次に、電極層として、厚さ200nmのAlを真空蒸着により成膜し、発光素子とする。
透明電極層及び電極層は、それぞれ駆動用の電源に電気的に接続する。駆動電源は、パルス電圧源である。透明電極膜14を正極、電極層11を負極として、パルス幅1ms、繰り返し周波数50Hzのパルス電圧を印加し、その電圧を徐々に増加したところ60V程度から基板側から発光が得られる。
【0075】
本実施例は、微細構造層に上記のナノサイズの構造を有する構造体を適用することで、素子面内において均一な発光がえられ、その安定性も良好である。
実施例6
本実施例の発光素子は、図7に記した構造からなる。本実施例においては、微細構造層と発光層が繰り返し積層された例である。
【0076】
実施例5と同様な手法で、YSZ単結晶基板上に透明電極層14を形成後、図7に示すように、発光層と微細構造層を交互に繰り返し形成した。発光層、微細構造層のそれぞれの厚さは、80nmと50nmであり、繰り返し3層ずつ積層している。最後に、電極層として、厚さ200nmのAlを真空蒸着により成膜し、発光素子とする。
【0077】
透明電極層及び電極層は、それぞれ駆動用の電源に電気的に接続する。駆動電源は、パルス電圧源である。透明電極膜14を正極、電極層を負極として、パルス幅1ms、繰り返し周波数50Hzのパルス電圧を印加し、その電圧を徐々に増加したところ90V程度から基板側から発光が得られる。
【0078】
本実施例は、微細構造層に上記のナノサイズの構造を有する構造体を適用することで、素子面内において均一な発光がえられ、その安定性も良好である。
実施例7
次に本発明の発光素子を画像表示装置、照明装置、印字装置として応用する例について説明する。
【0079】
実施例1の発光素子を画像表示装置として用いるには電極をライン状に上下でマトリックス状に配線して駆動させることにより可能である。カラー画像を得たい場合には白色の発光材料を用いてRGBのフィルターで色を出したり、RGBに対応した発光材料を高精度にパターニング成膜することにより可能である。また。青色発光材料を用いて、緑、赤の色を蛍光体で青から変換させることも可能である。
【0080】
また、本発明の発光素子を照明装置に用いる場合には、白色発光材料をもちいる方法やRGB発光材料を縦方向に積層させる方法、青や紫外発光をさせてからRGBの発光へ変換させる方法がある。
【0081】
また、本発明を印字装置などのプリンターに用いる場合には、レーザー光をポリゴンミラーを用いて走査させる代わりに、ライン状に発光素子を並べて駆動することにより可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の発光素子は、発光面における発光均一性に優れ、比較的に低電圧で安定した駆動が可能なために、ディスプレイや印字装置、照明装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の発光素子の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の微細構造層の構造例を示す概略図である。
【図3】本発明の発光素子におけるポテンシャル及びポテンシャル障壁の空間分布を示す図である。
【図4】本発明の基板反対側から取り出すタイプの発光素子の構成を示す概略図である。
【図5】本発明の第3の電極層を有する発光素子の構成を示す概略図である。
【図6】本発明の電子ビームを用いた発光素子の構成を示す概略図である。
【図7】本発明の発光層と微細構造層が交互に積層された発光素子の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0084】
10 基板
11 電極層
12 微細構造層
13 発光層
14 透明電極層(第2の電極層)
15 電源
16 光
21 第1の材料からなる部位
22 第2の材料からなる部位
23 第3の材料からなる部位
25 電子
26 境界部
27 トンネル障壁の低い部分
28 トンネル位置
50 基板
51 電極層
52 微細構造層
53 第2の電極層
54 発光層
55 透明電極層(第3の電極)
56 駆動電源
57 加速電源
58 光
60、66 基板
61 電極層
62 微細構造層
63 第2の電極層
64 発光層
65 透明電極層(第3の電極)
67 駆動電源
68 加速電源
69 光
70 電子ビーム
71 真空

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、少なくとも電極層と、発光層と、電極層と発光層の間に微細構造層を有し、該微細構造層は第1の材料からなる部位と第2の材料からなる部位を有することを特徴とする発光素子。
【請求項2】
基板上に、少なくとも第1の電極層、微細構造層、第2の電極層、発光層および第3の電極層を有し、該発光層は第2の電極層と第3の電極層の間に設けられ、微細構造層は第1の電極層と第2の電極層の間に設けられ、かつ該微細構造層は第1の材料からなる部位と第2の材料からなる部位を有することを特徴とする発光素子。
【請求項3】
前記微細構造層は、複数の柱状の形状を有した第1の材料からなる部位と、該第1の材料からなる部位の周囲に第2の材料からなる部位を有することを特徴とする請求項1または2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記第1の材料からなる部位の柱状の形状の短軸長が1μm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載の発光素子。
【請求項5】
前記第1の材料からなる部位が規則的に配列していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの項に記載の発光素子。
【請求項6】
前記第1の材料及び第2の材料が異なる酸化物からなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかの項に記載の発光素子。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の発光素子を用いた画像表示装置。
【請求項8】
基板上に、少なくとも電極層と、発光層と、微細構造層を有する発光素子の製造方法において、発光層上に第1の材料からなる部位と第2の材料からなる部位を有する微細構造層を成膜する工程と、該微細構造層上に電極層を成膜する工程を有することを特徴とする発光素子の製造方法。
【請求項9】
基板上に、少なくとも電極層と、発光層と、微細構造層を有する発光素子の製造方法において、電極層上に第1の材料からなる部位と第2の材料からなる部位を有する微細構造層を成膜する工程と、該微細構造層上に発光層を成膜する工程を有することを特徴とする発光素子の製造方法。
【請求項10】
前記微細構造層をスパッタリング法で形成することを特徴とする請求項8または9に記載の発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−260982(P2006−260982A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−77862(P2005−77862)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】