説明

発光素子及び表示装置

【課題】発光体粒子に対して、キャリア、特に正孔を効率的に供給することにより、高輝度、高効率の発光素子を提供する。
【解決手段】発光素子は、互いに対向して設けられ、少なくとも一方が透明又は半透明である、第1電極及び第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に挟持され、正孔輸送材料からなるマトリクス中に発光体粒子が分散して構成された発光層と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロルミネッセンス(以下、ELと略記)素子を用いた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多くの種類の平面型の表示装置の中でも、エレクトロルミネッセンス素子を用いた表示装置に期待が集まっている。このEL素子を用いた表示装置は、自発光性を有し、視認性に優れ、視野角が広く、応答性が速いなどの特徴を持つ。EL素子は大別すると、有機材料からなる蛍光体に直流電圧を印加し、電子と正孔とを再結合させて発光させる有機EL素子と、無機材料からなる蛍光体に交流電圧を印加し、およそ10V/cmもの高電界で加速された電子を無機蛍光体の発光中心に衝突させて励起させ、その緩和過程で無機蛍光体を発光させる無機EL素子とがある。
【0003】
有機EL素子は、1987年にTangらによって提案された正孔輸送層と有機発光層とを順次積層した2層構成の素子(例えば、非特許文献1参照。)により、10V以下の駆動電圧で、輝度が1000cd/m以上の発光が得られるとされており、これがきっかけとなって、今日に至るまで、活発な研究開発が進められてきた。しかしながら、有機EL素子は、未だ輝度等の発光特性と長期信頼性の両立という面で不十分であり、その利用は限られている。有機EL素子では、輝度を上げようとすると駆動素子に流れる電流密度が増え、ジュール熱発生による有機材料の変質、凝集、結晶化等が生じ、輝度の低下や駆動電圧の上昇、非発光部位(ダークスポット)の増加といった長期信頼性を損ねるといった課題がある。
【0004】
一方、無機EL素子は、1974年に猪口らによって提案された二重絶縁構造の素子が高い輝度と長寿命を持つことを示し、車載用ディスプレイ等への実用化がなされた(例えば、特許文献1参照。)。無機蛍光体は一般に、化学的に安定な母体結晶に発光中心となるイオン等をドープしたものであり、長期信頼性に優れている。反面、駆動に高い交流電圧を必要とすることから、アクティブ駆動ができない、輝度、効率が不十分等、高品位の表示装置として用いるためには多くの課題があり、以降の実用化は進んでいない。
【0005】
近年、両者の利点を活かした複合型発光素子の提案がなされている。例えば、発光体として無機系の半導体超微粒子を使用し、且つ、有機系の正孔輸送性材料等を使用した発光素子が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。図12に、この発光素子110の概略構成図を示す。この発光素子110は、基板111の上に、陽極112、正孔輸送層113、発光層114、陰極118が順に積層されて構成される。発光層114は、直径0.5nm〜100nm程度の半導体超微粒子115及び有機系の正孔輸送材料116が高分子ホスト117中に分散されて構成される。陽極112と陰極118とは、電源129を介して電気的に接続されている。電源129に電圧を印加すると、陽極112からは正孔輸送層113を介して正孔が、陰極118からは電子が、それぞれ発光層114に注入され、発光層114内の高分子ホスト117を介したエネルギー移動により半導体超微粒子が発光している。この発光は陽極112側から発光素子110の外部へ取り出される。
【0006】
一般に、有機EL素子や発光素子110等の陽極及び陰極を有する電流励起型の素子の場合、高効率の発光を得るには、発光材料(発光素子110の場合、半導体超微粒子115)へ、キャリアである正孔と電子を効率よく注入する必要がある。しかしながら、前述の従来例では、大面積化が容易な利点を備えている一方で、発光物質が非常に微小なため、結晶粒界や表面欠陥の影響を大きく受け、前述のようなジュール熱発生による劣化や酸化が生じ、発光輝度、発光効率が著しく損なわれる。また、発光体粒子として用いる半導体超微粒子には、キャリア、特に正孔を効率的に注入することが困難であった。このように上記の従来例では、無機系の発光材料の利点を十分に活かすことができず、発光輝度や発光効率という点で、表示装置として実用上満足できるような水準には至ってない。
【0007】
【非特許文献1】Applied Physics Letters,51,1987,P913
【特許文献1】特公昭52−33491号公報
【特許文献2】特開2004−253175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、前述の課題に鑑み、比較的容易に面状を形成することが可能であり、且つ、粒子状の発光体に対して、キャリア、特に正孔を効率的に供給することにより、高輝度、高効率の発光素子を提供することである。
【0009】
また、本発明の他の目的は、発光体粒子の耐酸化、耐腐食性に優れた長寿命、高信頼性の発光素子を提供することである。
【0010】
またさらに、本発明の他の目的は、前述の発光素子を用いた表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る発光素子は、互いに対向して設けられ、少なくとも一方が透明又は半透明である、第1電極及び第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に挟持され、正孔輸送材料からなるマトリクス中に発光体粒子が分散して構成された発光層と、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る発光素子は、互いに対向して設けられ、少なくとも一方が透明又は半透明である、第1電極及び第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に挟持され、粒子表面の少なくとも一部分を正孔輸送材料で被覆された発光体粒子を含む発光体粒子粉末で構成された発光層と、
を備えたことを特徴とする。
【0013】
さらに、前記発光層は、前記発光体粒子の間にバインダを含んでもよい。
【0014】
前記正孔輸送材料は、有機物からなる有機正孔輸送材料を含んでもよい。
また、前記有機正孔輸送材料は、下記の化学式1及び化学式2の構成要素を含有してもよい。
【化1】

【化2】

さらに、前記有機正孔輸送材料は、下記の化学式3、化学式4、化学式5からなる群の少なくとも一つの構成要素を含んでもよい。
【化3】

【化4】

【化5】

【0015】
前記正孔輸送材料は、無機物からなる無機正孔輸送材料を含んでもよい。
【0016】
前記発光体粒子は、第13族−第15族化合物半導体からなる粒子を含んでもよい。また、前記発光体粒子は、Ga、Al、Inのうち少なくとも一種類の元素を含む窒化物半導体粒子であってもよい。
【0017】
前記発光体粒子は、粒子の平均粒径が0.1μm〜1000μmの範囲にあってもよい。
【0018】
前記第1電極と前記発光層との間に挟まれている正孔注入層をさらに備えてもよい。
【0019】
前記第1電極又は前記第2電極に面して支持する支持体基板をさらに備えてもよい。前記支持体基板は、ガラス基板又は樹脂基板であってもよい。
【0020】
また、前記第1電極又は前記第2電極に接続された1つ以上の薄膜トランジスタをさらに備えてもよい。
【0021】
本発明に係る表示装置は、複数の前記発光素子が2次元配列されている発光素子アレイと、
前記発光素子アレイの発光面に平行な第1方向に互いに平行に延在している複数のx電極と、
前記発光素子アレイの発光面に平行であって、前記第1方向に直交する第2方向に平行に延在している複数のy電極と
を備えることを特徴とする。
【0022】
本発明に係る表示装置は、複数の前記発光素子が2次元配列されている発光素子アレイと、
前記発光素子アレイの発光面に平行な第1方向に互いに平行に延在している複数の信号配線と、
前記発光素子アレイの発光面に平行であって、前記第1方向に直交する第2方向に平行に延在している複数の走査配線と
を備え、
前記発光素子アレイの前記薄膜トランジスタに接続されている一方の電極が、前記信号配線と前記走査配線との各交点に対応した画素電極であって、他方の電極が複数の発光素子において共通に設けられていることを特徴とする。
【0023】
また、前記第1電極に対向し、且つ、発光取出し方向の前方に色変換層をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の発光素子によれば、比較的容易に面状を形成することが可能であって、且つ、高輝度、高効率、高信頼性の発光素子及びその発光素子を用いた表示装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態に係る発光素子及び該発光素子を用いた表示装置について添付図面を用いて説明する。なお、図面において実質的に同一の部材には同一の符号を付している。
【0026】
(実施の形態1)
<発光素子の概略構成>
本発明の実施の形態1に係る発光素子10について、図1を用いて説明する。図1は、本実施の形態1の発光素子10の概略構成を示す発光層13に垂直な断面図である。発光体粒子14を含有する発光層13は、第1電極である背面電極12と、第2電極である透明電極16との間に挟持されている。これらを支持するものとして、基板11が背面電極12に隣接して構成されている。また、発光層13は、発光体粒子14が正孔輸送材料15中に埋設されてなる。さらに、背面電極12と透明電極16とは、電源17を介して電気的に接続されている。電源17から電力が供給されると、背面電極12と透明電極16との間に電圧が印加される。その際、背面電極12からは電子が発光層13中の発光体粒子14に注入され、一方の透明電極16からは正孔が発光層13中の発光体粒子14に注入される。発光体粒子14に注入された正孔と電子とが再結合し、バンドギャップに相応する波長の発光を示す。発光は透明電極16を透過して発光素子10の外部に取り出される。本実施の形態においては、電源17として直流電源を用いている。
【0027】
なお、上記構成に限られず、背面電極12を黒色電極とする、発光素子10の全部又は一部を樹脂やセラミックスで封止する構造をさらに備える等、適宜変更が可能である。さらに、図2に示すような変形例もまた可能である。図2に示す発光素子20では、図1に示す発光素子10に比べて、電極の極性及び配置が正負逆になっている点で相違する。発光層13からの発光は透明電極16、透明基板21を通して素子外部に取り出される。またさらに、図3に示すような変形例も可能である。図3に示す発光素子30では、図1に示す発光素子10に比べて、透明電極16と発光層13との間に正孔注入層31をさらに備える点で相違する。これにより、発光素子30の駆動電圧を低くするのと同時に電極からの正孔注入の安定性が向上する。
【0028】
次に、この発光素子を構成する各部材について説明する。
<基板>
図1において、基板11は、その上に形成する各層を支持できるものを用いる。具体的には、シリコン、Al,AlNなどのセラミック等を用いることができる。さらに、ポリエステル、ポリイミド等のプラスチック基板を用いてもよい。また、基板11側から光を取り出す場合、発光体から発せられる光の波長に対し光透過性を有する材料であることが求められる。このような材料としては、例えば、コーニング1737等のガラス、石英等を用いることができる。通常のガラスに含まれるアルカリイオン等が発光素子へ影響しないように、無アルカリガラスや、ガラス表面にイオンバリア層としてアルミナ等をコートしたソーダライムガラスであってもよい。これらは例示であって、基板11の材料は特にこれらに限定されるものではない。
また、基板側から光を取り出さない構成の場合は、上述の光透過性は不要であり、透光性を有していない材料も用いることができる。
【0029】
<電極>
電極には、背面電極12と透明電極16とがある。これらは2つの電極のうち、光を取り出す側の電極を透明電極16とし、他方を背面電極12としているものである。
光を取り出す側の透明電極16の材料は、発光層13内で生じた発光を取り出せるように光透過性を有するものであればよく、特に可視光領域において高い透過率を有することが好ましい。また、低抵抗であることが好ましく、さらには発光層13との密着性に優れていることが好ましい。またさらに、発光層13上に成膜する際に、発光層13が熱劣化等を生じないよう、低温成膜できるものがより好ましい。透明電極16の材料として、特に好適なものは、ITO(InにSnOをドープしたものであり、インジウム錫酸化物ともいう。)やInZnO、ZnO、SnO等を主体とする金属酸化物、Pt、Au、Pd、Ag、Ni、Cu、Al、Ru、Rh、Ir等の金属薄膜、あるいはポリアニリン、ポリピロール、PEDOT/PSS、ポリチオフェンなどの導電性高分子等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。また、透明電極16の体積抵抗率は1×10−3Ω・cm以下であって、透過率は380〜780nmの波長において75%以上、さらには屈折率が、1.85〜1.95であることが望ましい。例えばITOは、その透明性を向上させ、あるいは抵抗率を低下させる目的で、スパッタリング法、エレクトロンビーム蒸着法、イオンプレーティング法等の成膜方法で成膜できる。また成膜後に、抵抗率制御の目的でプラズマ処理などの表面処理を施してもよい。透明電極16の膜厚は、必要とされるシート抵抗値と可視光透過率から決定される。
【0030】
光を取り出さない側の背面電極12には、導電性を有しており、且つ基板11及び発光層13との密着性に優れたものであればよい。好適な例としては、例えばITOやInZnO、ZnO、SnO等の金属酸化物、Pt、Au、Pd、Ag、Ni、Cu、Al、Ru、Rh、Ir、Cr、Mo、W、Ta、Nb等の金属、これらの積層構造体、あるいは、ポリアニリン、ポリピロール、PEDOT〔ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)〕/PSS(ポリスチレンスルホン酸)等の導電性高分子、あるいは導電性カーボンなどを用いることができる。
【0031】
<発光層>
発光層13は、マトリクスとしての正孔輸送材料15内に発光体粒子14が分散して構成されている(図1、図2、図3)。なお、この例に限られず、実施の形態2に係る発光素子における発光層のように、発光層13は、発光体粒子14の粒子表面の全面が正孔輸送材料15で覆われた発光体複合粒子50(図6(a))を含む発光体粒子粉末で構成された場合や、発光体粒子14の粒子表面の少なくとも一部分を正孔輸送材料15で被覆された発光体複合粒子50(図6(b))を含む発光体粒子粉末で構成された場合であってもよい。
【0032】
<発光体粒子>
発光体粒子14としては、第13族−第15族化合物半導体であるAlN、GaN、InN、AlP、GaP、InP、AlAs、GaAs、AlSbを用いることができる。特に、GaNに代表される第13族窒化物半導体が好ましい。また、これらの混晶(例えばGaInN等)であってもよい。さらに、伝導性を制御するために、Si、Ge、Sn、C、Be、Zn、Mg、Ge、Mnからなる群より選択される1又は複数種の元素をドーパントとして含んでいてもよい。またさらに、発光体粒子14内において、上記複数の組成が層状構造や偏析構造をなしていてもよい。発光体粒子14の粒径は0.1μm〜1000μmの範囲内であればよく、0.5μm〜500μmの範囲内がより好ましい。
【0033】
<正孔輸送材料>
次に、発光体粒子14の表面を被覆、若しくは粒子同士の間隙を埋めるマトリクス材料としての正孔輸送材料15について説明する。正孔輸送材料15としては、有機正孔輸送材料と、無機正孔輸送材料とがある。正孔輸送材料15にはホール移動度の高い材料が好ましい。
【0034】
<有機正孔輸送材料>
この有機正孔輸送材料としては、下記の化学式6及び化学式7の構成要素を含むことが好ましい。
【化6】

【化7】

【0035】
有機正孔輸送材料が上記の化学式6及び化学式7の構成要素を含むことによる効果は、発光体粒子14に対して効率よく正孔を注入することであると考えられる。
【0036】
さらに、この有機正孔輸送材料としては、下記の化学式8、化学式9、化学式10のいずれかを構成要素として含んでもよい。
【化8】

【化9】

【化10】

【0037】
また、有機正孔輸送材料としては、大きく分けて、低分子系材料と高分子系材料とがある。正孔輸送性を備える低分子系材料としては、N,N'−ビス(3−メチルフェニル)−N,N'−ジフェニルベンジジン(TPD)、N,N'−ビス(α−ナフチル)−N,N'−ジフェニルベンジジン(NPD)等、Tangらの用いたジアミン誘導体、特に日本国特許第2037475号に開示されたQ1−G−Q2構造のジアミン誘導体等が挙げられる。なお、Q1及びQ2は、別個に窒素原子及び少なくとも3個の炭素鎖(それらの少なくとも1個は芳香族のもの)を有する基である。Gは、シクロアルキレン基、アリーレン基、アルキレン基又は炭素−炭素結合からなる連結基である。また、これらの構造単位を含む多量体(オリゴマー)であってもよい。これらにはスピロ構造やデンドリマー構造を持つものが挙げられる。またさらに、非導電性ポリマーに低分子系の正孔輸送材料を分子分散させた形態も同様に可能である。分子分散系での具体例としては、TPDをポリカーボネート中に高濃度で分子分散させた例があり、そのホール移動度は10−4から10−5cm/Vs程度である。
【0038】
一方、正孔輸送性を備える高分子系材料としては、π共役ポリマーやσ共役ポリマー等があり、例えばアリールアミン系化合物等が組み込まれたものがある。具体的には、ポリ−パラ−フェニレンビニレン誘導体(PPV誘導体)、ポリチオフェン誘導体(PAT誘導体)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP誘導体)、ポリアルキルフェニレン(PDAF)、ポリアセチレン誘導体(PA誘導体)、ポリシラン誘導体(PS誘導体)等が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、低分子系で正孔輸送性を示す分子構造を分子鎖中に組み込んだポリマーでもよく、これらの具体的な例としては、芳香族アミンを側鎖に有するポリメタクリルアミド(PTPAMMA、PTPDMA)、芳香族アミンを主鎖に有するポリエーテル(TPDPES,TPDPEK)等が挙げられる。中でも特に好適な例として、中でもポリ−N−ビニルカルバゾール(PVK)は、10−6cm/Vsと極めて高いホール移動度を示す。他の具体例としては、PEDOT/PSSやポリメチルフェニルシラン(PMPS)等がある。
またさらに、前述した正孔輸送材料を複数種混合して用いてもよい。また、光又は熱で架橋又は重合する架橋性又は重合性材料を含んでいてもよい。
【0039】
<無機正孔輸送性材料>
無機正孔輸送性材料について説明する。無機正孔輸送性材料としては、透明または半透明であって、p型伝導性を示す材料であればよい。好適なものとしては、Si、Ge、SiC、Se、SeTe、AsSe等の半金属系半導体、ZnS、ZnSe、CdS、ZnO、CuI等の2元化合物半導体、CuGaS、CuGaSe、CuInSe等のカルコパイライト型半導体、さらにこれらの混晶、CuAlO、CuGaO等の酸化物半導体さらにこれらの混晶等が挙げられる。またさらに、伝導性を制御するために、これらの材料にドーパントを添加してもよい。
【0040】
<発光層の製造方法>
次に、発光層13の製造方法について説明する。
(a)粒径を揃えた発光体粒子14を用意する。
(b)発光体粒子14と、有機正孔輸送材料15とを混合、攪拌する。
(c)その後、発光体粒子14を含む有機正孔輸送材料15を背面電極12上に塗布成膜して、有機正孔輸送材料15をマトリクスとして発光体粒子14が分散して構成された発光層13を形成する。
この塗布方法としては、インクジェット法、ディッピング法、スピンコート法、スクリーン印刷法、バーコート法、その他各種の塗布方法を使用することができる。また、発光体粒子と有機正孔輸送材料とを同時スプレーするスプレーコーティング法、静電塗装法、流動浸漬法、エアロゾルデポジション法など、適宜変更が可能である。またさらに、有機正孔輸送材料の他の成膜方法としては真空蒸着法などを用いてもよい。
なお、発光体粒子14を背面電極12上に固着させた後、上記有機正孔輸送材料15を塗布して、発光層13を形成してもよい。
【0041】
<正孔注入層>
なお、図3に示すように、発光層13と第1電極12との間に正孔注入層31をさらに備えてもよい。この正孔注入層31としては、フタロシアニン、オリゴアミン、デンドリマーアミン、ポリチオフェン、酸化バナジウム、シリコンカーバイド(SiC)、SiO、アモルファスカーボン等を主体として用いることができる。
【0042】
<特徴>
本発明に係る発光素子の特徴を、図4を用いて説明する。図4は、発光素子10のバンドラインナップを示す概略図である。透明電極(例えばITO)16からは、有機正孔輸送材料のHOMOレベルを通して、正孔が発光体粒子に供給される。一方、背面電極(例えばAu)12からは、有機正孔輸送材料のLUMOレベルを通して、電子が発光体粒子14に供給される。本発明に使用される発光体粒子14は、GaNに代表されるように、一般的に有機ELで使用される有機発光材料に比べて、イオン化ポテンシャルが大きく、透明電極16からの障壁が大きい。従って、発光体粒子14への正孔注入は困難、且つ、重要な技術課題となる。本発明では、発光体粒子14を有機正孔輸送材料15中に埋設することで正孔注入性を改善することができる。加えて、一定の粒径に成長させた発光体粒子14は、結晶粒の大粒径化や結晶性が改善されており、非発光過程での再結合は抑制され、発光効率において、有機発光材料より優位にある。一方、電子の供給についても、一般的に有機ELで使用される有機発光材料に比べて、本発明に使用される発光体粒子14の電子親和力が大きいため、相対的に障壁は小さくなる。そこで、電子は、背面電極16と有機正孔輸送材料15との障壁を越えて発光体粒子14に供給される。さらに、発光体粒子14の表面に被覆された有機正孔輸送材料15の層厚は薄く、発光体粒子14に比べて抵抗の高い有機正孔輸送材料からなるこの層には大きな電界強度が加わるため、部分的にはトンネリングによる電子供給もなされる。従って、有機ELのように電子輸送層を特に必要とせず、十分な発光輝度、発光効率が実現できる。
【0043】
<効果>
本実施の形態1に係る発光素子では、比較的容易に面状を形成することが可能であって、且つ、キャリア、特に正孔を効率的に発光体粒子14に供給することができるので、高輝度、高効率、高信頼性の発光素子を実現することができる。
【0044】
(実施例1)
GaNを主体とする発光体粒子と有機正孔輸送材料(テトラフェニルブタジエン系誘導体)を混合、攪拌した後、ITO電極付ガラス基板でスペーサとともに挟持し、EL確認用素子を作成した。この素子に直流電圧を印加して評価したところ、18Vで発光輝度が220cd/mを示した。この結果は、以下の比較例に比べて良好であった。
【0045】
(比較例)
ホットソープ法(例えば、特表2001−523758号公報に記載。)により合成したCdSeコア/ZnSシェル発光体粒子(平均粒径5nm)を使用し、PEDOT/PSSに分子分散した後、ITO電極付ガラス基板でスペーサとともに挟持し、EL確認用素子を作成した。この素子に直流電圧を印加して評価したところ、発光に50V以上を要し、発光輝度も数10cd/mと低かった。
【0046】
(実施の形態2)
<発光素子の概略構成>
本発明の実施の形態2に係る発光素子について、図5及び図6を用いて説明する。図5は、本実施の形態2の発光素子の概略構成を示す発光層に垂直な断面図である。発光素子40は、図1に示す発光素子10に比べて、発光層13が、図6(a)又は(b)に示す発光体複合粒子50を含む発光体粒子粉末で構成されている点で相違する。図6(a)は、発光体粒子14の粒子表面の全面に正孔輸送材料15が被覆された発光体複合粒子50の断面構造を示す断面図であり、図6(b)は、発光体粒子14の粒子表面の少なくとも一部に正孔輸送材料15が被覆された発光体複合粒子50の断面構造を示す断面図である。この正孔輸送材料の被覆層の厚さは1μm〜10μmの範囲、好ましくは2μm〜3μmの範囲である。また、この発光素子は、実施の形態1に係る発光素子と比較すると、上記の発光体複合粒子50が、有機バインダ41を結着剤として背面電極12と透明電極16との間に配置されている点で相違する。本実施の形態2に係る発光素子40の特徴は、発光体粒子14の表面を有機正孔輸送材料15で被覆することで正孔注入性を改善している点にある。
【0047】
なお、上記構成に限られず、背面電極12を黒色電極とする、発光素子40の全部又は一部を樹脂やセラミックスで封止する構造をさらに備える等、適宜変更が可能である。さらに、図7に示すような変形例もまた可能である。図7に示す発光素子60では、図5に示す発光素子40に比べて、電極の極性及び配置が正負逆になっている点で相違する。発光層13からの発光は、透明電極16、透明基板21を通して素子外部に取り出される。またさらに、図8に示すような変形例もまた可能である。図8に示す発光素子70では、図5に示す発光素子40に比べて、透明電極16と発光層13との間に正孔注入層31をさらに備える点で相違する。これにより、発光素子70の駆動電圧を低くすると同時に電極からの正孔注入の安定性が向上する。
【0048】
<効果>
本実施の形態に係る発光素子では、比較的容易に面状を形成することが可能であって、且つ高輝度、高効率、高信頼性の発光素子を実現することができる。
【0049】
(実施例2)
GaNを主体とする発光体粒子と有機正孔輸送材料(テトラフェニルブタジエン系誘導体)を混合、攪拌して、発光体粒子の表面に有機正孔輸送材料を被覆した後、有機バインダとさらに混合し、ペースト化する。このペーストを、ITO電極付ガラス基板でスペーサとともに挟持しEL確認用素子を作成した。この素子に直流電圧を印加して評価したところ、16Vで発光輝度が250cd/mを示した。この結果は、前述の比較例に比べて良好であった。
【0050】
(実施の形態3)
<発光素子の概略構成>
本発明の実施の形態3に係る発光素子について、図9を用いて説明する。図9は、この発光素子80の電極構成を示す斜視図である。この発光素子80は、画素電極84に接続された薄膜トランジスタ(以下、TFTと略記。図9ではスイッチング用TFTと駆動用TFTの2個構成。)85をさらに備える。TFT85には、走査ライン81と、データライン82と、電流供給ライン83とが接続されている。この発光素子80では、発光は透明な共通電極86の側から取り出すので、基板11上のTFT85の配置によらず開口率を大きくとることができる。また、TFT85を用いることによって、発光素子80にメモリ機能を持たせることができる。このTFT85としては、低温ポリシリコンやアモルファスシリコンTFT、ペンタセン等の有機材料より構成される有機TFTを用いることができる。また、TFT85は、ZnOやInGaZnO等より構成される無機TFTであってもよい。
【0051】
(実施の形態4)
<表示装置の概略構成>
図10は、本発明の実施の形態4に係るアクティブマトリクス型表示装置90の構成を示す概略平面図である。この表示装置90は、画素電極84と、共通電極86と、走査ライン81とデータライン82と電流供給ライン83と、TFT(図では省略。)によって構成される。このアクティブマトリクス型表示装置90は、図9に示した複数個の発光素子が2次元配列されている発光素子アレイと、該発光素子アレイの発光面に平行な第1方向に互いに平行に延在している複数の走査ライン81と、該発光素子アレイの発光面に平行であって、第1方向に直交する第2方向に平行に延在している複数のデータライン82と、第2方向に平行に延在している複数の電流供給ライン83とをさらに備える。この発光素子アレイ上のTFTは、走査ライン81と、データライン82と電流供給ライン83とに電気的に接続されている。一対の走査ライン81とデータライン82によって特定される発光素子が1つの画素となる。さらに、このアクティブマトリクス型表示装置90では、走査ラインとデータラインにより選択された1つの画素に対し、TFTを介して電流供給ライン83から電流が供給され、選択した発光素子を駆動し、得られた発光を透明な共通電極86側から取り出す。
【0052】
また、カラーの表示装置の場合、発光層をRGBの各色の発光体粒子で色分けして成膜すればよい。あるいは、電極/発光層/電極といった発光ユニットをRGBの色毎に積層してもよい。また更に、別例のカラー表示装置の場合、単一色又は2色の発光層による表示装置を作成した後、カラーフィルター及び/又は色変換フィルターを用いて、RGBの各色を表示することもできる。例えば、青色の発光層に、青色から緑色へ、青色乃至緑色から赤色へ、各々色変換するフィルターをさらに備えることによって、RGB表示が可能となる。
【0053】
<効果>
このアクティブマトリクス型表示装置90によれば、前述のように、各画素の発光素子を構成する発光層は、発光体粒子が有機正孔輸送材料に埋設乃至発光体粒子表面が有機正孔輸送材料に被覆されている。これにより、高発光輝度、高発光効率、高信頼性の表示装置を実現できる。
【0054】
(実施の形態5)
<表示装置の概略構成>
本発明の実施の形態5に係る表示装置について、図11を用いて説明する。図11は、互いに直交する背面電極12と透明電極16とによって構成されるパッシブマトリクス型表示装置100を示す概略平面図である。このパッシブマトリクス型表示装置100は、複数個の発光素子が2次元配列されている発光素子アレイを備える。また、該発光素子アレイの発光面に平行な第1方向に平行に延在している複数の背面電極12と、該発光素子アレイの発光面に平行であって、第1方向と直交する第2方向に平行に延在している複数の透明電極16とを備える。さらに、このパッシブマトリクス型表示装置100では、一対の背面電極12と透明電極16との間に外部電圧を印加して1つの発光素子を駆動し、得られた発光を透明電極16側から取り出す。また、前述の実施の形態4の表示装置同様にカラーの表示装置とすることも可能である。
【0055】
<効果>
このパッシブマトリクス型表示装置100によれば、前述の実施の形態4の表示装置と同様に、高発光輝度、高発光効率、高信頼性の表示装置を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る発光素子及び表示装置は、高発光輝度、高発光効率の発光と長期信頼性が得られる。特にテレビ等のディスプレイデバイスや、通信、照明などに用いられる各種光源として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態1に係る発光素子の発光面に垂直な断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る発光素子の変形例の発光面に垂直な断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る発光素子の変形例の発光面に垂直な断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る発光素子におけるエネルギー準位を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態2に係る発光素子の発光面に垂直な断面図である。
【図6】(a)及び(b)は、本発明の実施の形態2に係る発光素子に用いられる発光体複合粒子の概略構成を示す断面図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係る発光素子の変形例の発光面に垂直な断面図である。
【図8】本発明の実施の形態2に係る発光素子の変形例の発光面に垂直な断面図である。
【図9】本発明の実施の形態3に係る発光素子の概略斜視図である。
【図10】本発明の実施の形態4に係る表示装置の概略斜視図である。
【図11】本発明の実施の形態5に係る表示装置の概略斜視図である。
【図12】従来の発光素子の発光面に垂直な断面図である。
【符号の説明】
【0058】
10 発光素子、11 基板、12 背面電極、13 発光層、14 発光体粒子、
15 有機正孔輸送材料、16 透明電極、17 電源、20 発光素子、
21 透明基板、30 発光素子、31 正孔注入層、40 発光素子、
41 有機バインダ、50 発光体複合粒子、60 発光素子、70 発光素子、
80 発光素子、81 走査ライン、82 データライン、83 電流供給ライン、
84 画素電極、85 薄膜トランジスタ、86 共通電極、90 表示装置、
100 表示装置、101 画素、110 発光素子、111 基板、112 陽極、
113 正孔輸送層、114 発光層、115 半導電性超微粒子、
116 正孔輸送材料、117 高分子バインダ、118 陰極、119 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向して設けられ、少なくとも一方が透明又は半透明である、第1電極及び第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に挟持され、正孔輸送材料からなるマトリクス中に発光体粒子が分散して構成された発光層と、
を備えたことを特徴とする発光素子。
【請求項2】
互いに対向して設けられ、少なくとも一方が透明又は半透明である、第1電極及び第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に挟持され、粒子表面の少なくとも一部分を正孔輸送材料で被覆された発光体粒子を含む発光体粒子粉末で構成された発光層と、
を備えたことを特徴とする発光素子。
【請求項3】
前記発光層は、前記発光体粒子の間にバインダを含むことを特徴とする請求項2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記正孔輸送材料は、有機物からなる有機正孔輸送材料を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の発光素子。
【請求項5】
前記有機正孔輸送材料は、下記の化学式1及び化学式2の構成要素を含有することを特徴とする請求項4に記載の発光素子
【化1】

【化2】

【請求項6】
前記有機正孔輸送材料は、さらに下記の化学式3、化学式4、化学式5からなる群の少なくとも一つの構成要素を含むことを特徴とする請求項5に記載の発光素子。
【化3】

【化4】

【化5】

【請求項7】
前記正孔輸送材料は、無機物からなる無機正孔輸送材料を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の発光素子。
【請求項8】
前記発光体粒子は、第13族−第15族化合物半導体からなる粒子を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の発光素子。
【請求項9】
前記発光体粒子は、Ga、Al、Inのうち少なくとも一種類の元素を含む窒化物半導体粒子であることを特徴とする請求項8に記載の発光素子。
【請求項10】
前記発光体粒子は、粒子の平均粒径が0.1μm〜1000μmの範囲にあることを特徴とする請求項8に記載の発光素子。
【請求項11】
前記第1電極と前記発光層との間に挟まれている正孔注入層をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の発光素子。
【請求項12】
前記第1電極又は前記第2電極に面して支持する支持体基板をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の発光素子。
【請求項13】
前記支持体基板は、ガラス基板又は樹脂基板であることを特徴とする請求項12に記載の発光素子。
【請求項14】
前記第1電極又は前記第2電極に接続された1つ以上の薄膜トランジスタをさらに備えることを特徴とする請求項13に記載の発光素子。
【請求項15】
請求項1から13のいずれか一項に記載の複数の前記発光素子が2次元配列されている発光素子アレイと、
前記発光素子アレイの発光面に平行な第1方向に互いに平行に延在している複数のx電極と、
前記発光素子アレイの発光面に平行であって、前記第1方向に直交する第2方向に平行に延在している複数のy電極と
を備えることを特徴とする表示装置。
【請求項16】
請求項14に記載の複数の前記発光素子が2次元配列されている発光素子アレイと、
前記発光素子アレイの発光面に平行な第1方向に互いに平行に延在している複数の信号配線と、
前記発光素子アレイの発光面に平行であって、前記第1方向に直交する第2方向に平行に延在している複数の走査配線と
を備え、
前記発光素子アレイの前記薄膜トランジスタに接続されている一方の電極が、前記信号配線と前記走査配線との各交点に対応した画素電極であって、他方の電極が複数の発光素子において共通に設けられている表示装置。
【請求項17】
前記第1電極に対向し、且つ、発光取出し方向の前方に色変換層をさらに備えることを特徴とする請求項15又は16に記載の表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−48961(P2009−48961A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−216671(P2007−216671)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】