説明

発光素子表示装置

【課題】各フレームにおいて、階調電圧以外の書込み動作を行わずに、動画性能を向上させることのできる発光素子表示装置を提供する。
【解決手段】マトリクス状に配置され、発光素子を有する画素280と、表示する階調値に対応するデータ電圧をデータ信号線250に印加するデータ信号駆動部210と、各画素280に配置されたTFTスイッチを制御するための信号を信号線261〜263に出力するゲート駆動部220と、発光素子を発光させる矩形波の掃引信号を掃引信号線270に出力する掃引信号駆動部230と、各画素280に配線された電源線240に接続された電源部241とを備えている。掃引信号駆動部230は、発光素子の発光量を減らす電圧である低発光電圧を、掃引電圧が印加されている期間である発光期間に、複数の掃引信号線270に順に印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子表示装置に関し、自発光体である発光素子に発光させて表示を行う発光素子表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置を特に動画表示の観点で分類した場合、インパルス応答型表示装置とホールド応答型表示装置に大別される。インパルス応答型表示装置とは、ブラウン管の残光特性のように、各画素において輝度応答が走査直後から低下するタイプであり、ホールド応答型表示装置とは、有機EL(Electro-luminescent)表示装置や液晶表示装置のように、各画素において表示データに基づく輝度を次の走査まで保持し続けるタイプである。
【0003】
ホールド応答型表示装置の特徴としては、静止画の場合はちらつきのない良好な表示品質を得ることができるが、動画の場合には移動する物体の周囲がぼやけて見える、所謂動画ぼやけが発生し、著しく表示品質が低下してしまう。この動画ぼやけの発生要因は、物体の移動に伴い視線を移動する際、輝度のホールドされた表示画像に対して移動前後の表示イメージを観測者が補間する、所謂網膜残像に起因するため、表示装置の応答速度をどれだけ向上させても動画ぼやけは完全に解消しない。これを解決するためには、より短い周波数で表示画像を更新するか、黒画面などの挿入によって一旦網膜残像をキャンセルすることで、インパルス応答型表示装置に近づける方法が有効である。
【0004】
ここで、動画が表示される表示装置としてはテレビ受像機が代表的なものであるが、その走査周波数は例えばNTSC信号では60Hzの飛び越し走査、PAL信号では50Hzの順次走査といったように規格化された信号であり、この周波数に基づき生成した表示画像のフレーム周波数を60Hz乃至50Hzとした場合、周波数は高くないために動画ぼやけを生じてしまう。
【0005】
特許文献1は、液晶表示装置において、黒表示データの挿入の仕方について開示している。特許文献2は、1フレーム期間を分割し、最初の期間の書込みを画像データの値の2倍にし、2倍にした値が表示可能レンジを超えた場合にかぎり、次の期間に残余の画素データを書き込むことについて開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−280599号公報
【特許文献2】特開2004−240317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、黒データや補間データを挿入することは動画性能の向上に有効であると考えられる。しかしながら、同時に表示輝度の低下を招くおそれがあると共に、挿入のための書込み動作を必要とするため、画素回路への負担及び消費電力が大きくなる。
【0008】
本発明は、上述の事情に鑑みてされたものであり、各フレームにおいて、階調電圧以外の書込み動作を必要とせずに、動画性能を向上させることのできる発光素子表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発光素子表示装置は、各画素に配置され、画像を表示するために自ら発光する発光素子と、前記各画素に配置され、前記発光素子に流れる電流を制御する駆動トランジスタと、前記各画素に配置され、前記駆動トランジスタのゲート側に一方が接続され、階調値に対応するデータ電圧が蓄積される容量と、前記容量の他方に接続され、前記各画素の前記発光素子を発光させるための掃引電圧が印加される複数の掃引信号線と、前記掃引電圧の印加を制御する掃引信号駆動部と、を備え、前記掃引信号駆動部は、前記掃引電圧が印加されている期間である発光期間内で、前記発光期間と比較して極短い期間、前記発光素子の発光量を減らす電圧である低発光電圧を前記複数の掃引信号線に印加する、ことを特徴とする発光素子表示装置である。ここで「発光期間と比較して極短い期間」とは、ここでは、発光期間の1/10以下の期間であることを意味する。
【0010】
また、本発明の発光素子表示装置においては、前記低発光電圧は、前記複数の掃引信号線に順に印加されることとしてもよい。
【0011】
また、本発明の発光素子表示装置においては、前記掃引信号駆動部は、前記低発光電圧を順に印加するためのシフトレジスタ回路を有することとしてもよい。
【0012】
また、本発明の発光素子表示装置においては、前記低発光電圧は、前記発光素子が発光しない電圧であるとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係る有機EL表示装置について示す図である。
【図2】図1のTFT(Thin Film Transistor)基板について概略的に示す図である。
【図3】図2の画素の回路を概略的に示す図である。
【図4】図3の画素における、各信号の変化を示すタイミングチャートである。
【図5】図2の掃引信号駆動部の回路の一部について示す図である。
【図6】図5の掃引信号駆動部から出力される各掃引信号のタイミングチャートである。
【図7】本発明の第2実施形態に係る有機EL表示装置のTFT基板について概略的に示す図である。
【図8】図7の画素の回路を概略的に示す図である。
【図9】図8の画素における、各信号の変化を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の第1実施形態乃至第2実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、図面において、同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態係る有機EL表示装置100について示す図である。この図に示されるように、有機EL表示装置100は、TFT(Thin Film Transistor)基板200及び不図示の封止基板から構成される有機ELパネルを挟むように固定する上フレーム110及び下フレーム120と、表示する情報を生成する回路素子を備える回路基板140と、その回路基板140において生成されたRGBの表示情報をTFT基板200に伝えるフレキシブル基板130と、により構成されている。
【0016】
図2には、図1のTFT基板200が概略的に示されている。TFT基板200は、マトリクス状に配置され、表示の最小単位であり、赤(R)、緑(G)及び青(B)の3種の有機発光素子のいずれかを有する画素280と、表示する階調値に対応するデータ電圧をデータ信号線250に印加するデータ信号駆動部210と、各画素280に複数配置されたTFTスイッチを制御するための信号を(ゲート)信号線261〜263に出力するゲート駆動部220と、発光素子を発光させる矩形波の掃引信号を掃引信号線270に出力する掃引信号駆動部230と、各画素280に配線された電源線240に接続された電源部241とを備えている。なお、この図においては、図が煩雑にならないよう画素280の数を減らし、簡略化して記載している。
【0017】
図3には、画素280の回路が概略的に示されている。この図に示されるように、画素280の回路は、自発光体である有機EL素子310と、信号選択信号線261に入力される信号選択信号により駆動され、掃引信号線270及びデータ信号線250のいずれを入力信号線255に接続するかを選択する第1選択スイッチ301及び第2選択スイッチ302と、有機EL素子310を発光させるスイッチとして機能し、有機EL素子310のアノード側が、後述する発光制御スイッチ308を介して、ドレイン側に接続されている駆動TFT306と、第1選択スイッチ301及び第2選択スイッチ302と駆動TFT306のゲート側との間に配置された記憶容量304と、駆動TFT306のドレイン側とゲート側とを結ぶように接続され、リセット信号線263に入力されるリセット信号により動作するリセットスイッチ314と、駆動TFT306のドレイン側にあり、発光制御信号線262に入力される発光制御信号により駆動する発光制御スイッチ308と、有機EL素子310のカソード側に接続された共通電極312と、を備えている。また、駆動TFT306のソース側は電源線240に接続されている。
【0018】
なお、第1選択スイッチ301、駆動TFT306及び発光制御スイッチ308はp型MOSにより形成されているため、ゲート信号がLowでオンとなる。一方、第2選択スイッチ302及びリセットスイッチ314は、n型MOSにより形成されているため、ゲート信号がHighでオンとなる。
【0019】
図4は、図3の画素280の有機EL素子310の発光時における、各信号の変化を示すタイミングチャートである。このタイミングチャートには、図4のデータ信号線250、掃引信号線270、信号選択信号線261、リセット信号線263及び発光制御信号線262にそれぞれ印加されるデータ電圧、掃引電圧、信号選択信号、リセット信号及び発光制御信号の各信号の変化の様子が示されている。
【0020】
この図に示されるように、まず、時刻T1において、信号選択信号と発光制御信号とが共にLow(アクティブ)となると、第1選択スイッチ301はオンとなり、第2選択スイッチ302はオフとなるため、入力信号線255にはデータ電圧が入力され、発光制御スイッチ308はオンとなる。次に、時刻T2において、リセット信号がHigh(アクティブ)となり、リセットスイッチ314がオンとなることにより、駆動TFT306のゲートとドレインは導通する。
【0021】
引き続き、時刻T3において、発光制御信号がHigh(ネガティブ)となると、発光制御スイッチ308がオフとなり、駆動TFT306のゲート電圧が上がり、駆動TFT306の閾値電圧となった時点で駆動TFT306は非導通となる。時刻T4において、リセット信号Low(ネガティブ)により、リセットスイッチ314がオフとなり、時刻T5において、データ信号線250にデータ電圧が印加されて、記憶容量304に階調電圧に対応する電圧が蓄えられる。
【0022】
時刻T6において、信号選択信号がHighとなると共に、掃引信号線270に掃引電圧が設定され、発光制御信号がLow(アクティブ)となる。これにより、発光制御スイッチ308がオンとなると共に、入力信号線255は掃引信号線270と接続され、掃引電圧が印加される。この結果、記憶容量304に蓄えられた電圧に対応する電圧が駆動TFT306のゲートに印加され、駆動TFT306のソース側からドレイン側に電流が流れ、有機EL素子310が発光する。
【0023】
図5には、掃引信号駆動部230の回路の一部が示されている。掃引信号駆動部230は、各行に延びる掃引信号線270を有しており、表示画面における発光期間にLowとなり、各画素280の有機EL素子310をデータ電圧に基づいた発光量で発光させると共に、発光期間中に短時間黒の表示又は発光量を抑えた表示を行わせるために、1行目から順にHigh(低発光電圧)を印加させている。具体的には、掃引信号駆動部230は、図5に示されるように、Dフリップフロップ回路231とNAND回路232を用いることにより、所謂シフトレジスタ回路を構成し、掃引電圧V2が掃引信号線270に印加されている間に、クロック信号CLKのタイミングに合わせて、発光を止めるための電圧V1が1行目から順に印加されるようになっている。図6は、発光期間中の掃引電圧V2が出力されているときに、電圧V1が掃引信号線270に順に印加される様子を示すタイミングチャートである。この図6に示されるように、制御信号としてHigh電位を印加することにより、クロック信号CLKのタイミングに合わせて、1行目から順に電圧V1が印加される。電圧V1が印加されている期間は、発光を止めることができるため、液晶表示装置における黒挿入と同じ効果を奏することができる。
【0024】
従って、第1実施形態の発光素子表示装置によれば、各フレームにおいて、階調電圧以外の書込み動作を必要とせずに、各画素の発光を短時間止めることができるため、画素回路への負担なく、動画性能を向上させることができる。
【0025】
[第2実施形態]
図7には、本発明の第2実施形態に係るTFT基板800が概略的に示されている。ここで、このTFT基板800が収容される有機EL表示装置は、図1に示された、第1実施形態の有機EL表示装置100の構成と同様であるため説明を省略する。
【0026】
図7に示されるように、TFT基板800は、マトリクス状に配置され、表示の最小単位であり、赤(R)、緑(G)及び青(B)の3種の有機発光素子のいずれかを有する画素880と、表示する階調値に対応するデータ電圧をデータ信号線850に印加するデータ信号駆動部810と、各画素880に複数配置されたTFTスイッチ等を制御するための信号を(ゲート)信号線822〜823に出力するゲート駆動部820と、掃引信号線870及びデータ信号線850のいずれを入力信号線855に接続するかを、信号選択信号線821の信号により選択する第1選択スイッチ824及び第2選択スイッチ826と、発光素子を発光させる矩形波の掃引信号を掃引信号線870に出力する掃引信号駆動部830と、各画素880に配線された電源線840に接続された電源部841とを備えている。なお、第1実施形態の図2と同様に、この図においても図が煩雑にならないよう画素880の数を減らし、簡略化して記載している。
【0027】
図8は、画素880内の回路を概略的に示す図である。この図に示されるように、画素880は、自発光体である有機EL素子910と、有機EL素子910を駆動するスイッチとして機能し、有機EL素子910のアノード側が、後述する発光制御スイッチ908を介して、ドレイン側に接続されている駆動TFT906と、駆動TFT906のゲート側に配置された記憶容量901と、駆動TFT906のドレイン側とゲート側を結ぶように接続され、リセット信号線823に印加されたリセット信号により駆動するリセットスイッチ914と、駆動TFT906のドレイン側にあり、発光制御信号により駆動する発光制御スイッチ908と、有機EL素子910のカソード側に接続された共通電極912と、を備えている。また、駆動TFT906のソース側は電源線840に接続されている。なお、第1実施形態と異なり、発光制御スイッチ908はn型MOSにより形成されているため、発光制御スイッチ908のゲートはHighでオンとなる。
【0028】
図9には、図8の画素880の有機EL素子910の発光時における、制御される信号の変化を示すタイミングチャートが示されている。第2実施形態では、発光制御スイッチ908がn型MOSで形成されているため、このタイミングチャートでは、発光制御信号のLowとHighが逆となっている。この他の点については図4で示される第1実施形態のタイミングチャートと同じであり、同様の動作であるため、説明を省略する。
【0029】
図7の掃引信号駆動部830は、第1実施形態の図5と同様に、シフトレジスタ回路により構成されており、図6のタイミングチャートと同様の動作を行うため、説明を省略する。
【0030】
従って、第2実施形態によれば、各フレームにおいて、階調電圧以外の書込み動作を必要とせずに、各画素の発光を短時間止めることができるため、画素回路への負担なく、動画性能を向上させることができる。
【0031】
また、上述の第1実施形態及び第2実施形態においては、図2〜3又は図7〜8のような回路を用いることとしたが、このような回路構成に限られず、自発光素子を用いた他の表示装置にも適用することができる。また、第1実施形態においては、掃引信号駆動部230を表示領域の片側のみに配置する構成としたが、両側に配置することとしてもよい。
【0032】
また、上述の第1実施形態及び第2実施形態において特に記載していないが、有機EL層に使用される発光材料は低分子であっても、高分子であってもよいし、有機ELパネルの光の取り出し方向は、ボトムエミッション方式及びトップエミッション方式のいずれであってもよい。また、有機EL素子以外の自発光体を用いてもよい。
【符号の説明】
【0033】
100 表示装置、110 上フレーム、120 下フレーム、130 フレキシブル基板、140 回路基板、200 TFT基板、210 データ信号駆動部、220 ゲート駆動部、230 掃引信号駆動部、231 フリップフロップ回路、232 回路、240 電源線、241 電源部、250 データ信号線、255 入力信号線、261 信号選択信号線、262 発光制御信号線、263 リセット信号線、270 掃引信号線、280 画素、301 第1選択スイッチ、302 第2選択スイッチ、304 記憶容量、306 駆動TFT、308 発光制御スイッチ、310 有機EL素子、312 共通電極、314 リセットスイッチ、800 TFT基板、810 データ信号駆動部、820 ゲート駆動部、821 信号選択信号線、823 リセット信号線、824 第1選択スイッチ、826 第2選択スイッチ、830 掃引信号駆動部、840 電源線、841 電源部、850 データ信号線、855 入力信号線、870 掃引信号線、880 画素、901 記憶容量、906 駆動TFT、908 発光制御スイッチ、910 有機EL素子、912 共通電極、914 リセットスイッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各画素に配置され、画像を表示するために自ら発光する発光素子と、
前記各画素に配置され、前記発光素子に流れる電流を制御する駆動トランジスタと、
前記各画素に配置され、前記駆動トランジスタのゲート側に一方が接続され、階調値に対応するデータ電圧が蓄積される容量と、
前記容量の他方に接続され、前記各画素の前記発光素子を発光させるための掃引電圧が印加される複数の掃引信号線と、
前記掃引電圧の印加を制御する掃引信号駆動部と、を備え、
前記掃引信号駆動部は、前記掃引電圧が印加されている期間である発光期間内で、前記発光期間と比較して極短い期間、前記発光素子の発光量を減らす電圧である低発光電圧を前記複数の掃引信号線に印加する、ことを特徴とする発光素子表示装置。
【請求項2】
前記低発光電圧は、前記複数の掃引信号線に順に印加される、ことを特徴とする請求項1に記載の発光素子表示装置。
【請求項3】
前記掃引信号駆動部は、前記低発光電圧を順に印加するためのシフトレジスタ回路を有している、ことを特徴とする請求項2に記載の発光素子表示装置。
【請求項4】
前記低発光電圧は、前記発光素子が発光しない電圧である、ことを特徴とする請求項1に記載の発光素子表示装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−98342(P2012−98342A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243638(P2010−243638)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(502356528)株式会社 日立ディスプレイズ (2,552)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】