説明

発光色変換部材およびそれを用いた半導体発光装置

【課題】 LEDチップに近接して発光色変換部材が設けられ、LEDチップからの波長の短い光や輝度の大きい光の発光色を変換させても、長時間に亘って色調や発光色が変化せず、また、輝度が低下しない安定した特性で信頼性を向上することができる半導体発光装置、それに用いる発光色変換部材、安定な蛍光体粉末を提供する。
【解決手段】 LEDチップ6の少なくとも光発射面側に発光色変換部材5が設けられ、発光色変換部材5は、蛍光体粒子1の周りにPbまたはBiを含まないガラス被膜2が設けられる蛍光体含有ガラス粉末3を有している。また、発光色変換部材は、蛍光体含有ガラス粉末3がPbを含むガラス体4内に分散されることにより形成されてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば紫外線または青色の光を発光する光源の光を白色その他の色の光に変換する発光色変換部材およびそれを用いた半導体発光装置に関する。さらに詳しくは、紫外線や高出力の光源の光に対しても、長時間に亘って発光色変換部材が変色しないで、安定した品質を有する発光色変換部材およびそれを用いた半導体発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
青色発光または紫外線発光の半導体発光素子(以下、LEDともいう)の表面に発光色変換部材を設けて、白色発光装置にするなど、光源の発光色を変換した発光装置が利用されている。このような発光色変換部材は、たとえばイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)系の蛍光物質をエポキシ樹脂などの透光性樹脂に分散させてLEDチップなどを被覆するように設けることにより用いられている。しかし、このような蛍光体を透光性樹脂の中に分散させた発光色変換部材を用いて、LEDなどの光源の発光色を変換する場合、とくに紫外光などの波長の短い光や輝度の大きい光源の光を変換する場合、放熱特性の悪い樹脂の温度が上昇して透光性樹脂が変色し、変換した光の色が変ったり、輝度が低下したり、発光色の色調が変化したりするという問題がある。
【0003】
このような問題を解決するため、ガラス中に酸化物蛍光体を分散させて焼結することが考えられている。しかし、この場合でも軟化点の低いガラス中に蛍光物質を分散させると、ガラスと蛍光物質とが反応して、焼結体が黒っぽくなり、発光効率が大幅に低下するという問題があるため、たとえば図6に示されるように、軟化点が500℃より高い(好ましくは600℃以上)B23-SiO2系などのガラス31中に蛍光体32を分散させることにより、高信頼性、長寿命の発光色変換部材とすることが提案されている(たとえば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−258308号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のように、蛍光体をガラス体に分散させた発光色変換部材により光源の発光色を変換しようとする場合に、PbOなどを含んだ軟化点の低いガラスに分散させると、ガラスが変色して使用できないため、軟化点が少なくとも500℃以上と、軟化点の高いガラスにしか分散させることができない。そのため、たとえばLEDチップを被覆するように発光色変換部材を用いようとする場合、LEDチップの電極などがその温度に耐えることができず、使用することができないなど、低い温度で発光色変換部材を適用したいという場合には、利用することができないという問題がある。
【0005】
また、たとえばLEDチップなどを直接被覆したり、広い面積で接触したりする場合には、LEDチップなどと発光色変換部材との熱膨張係数が合っていないと、LEDチップなどの相手部品がダメージを受けたり、ガラスは脆いためガラスにクラックが入り光の透過を阻害したりすることがある。そのため、熱膨張係数なども考慮する必要があり、前述の軟化点と共に、発光色変換部材の用途が制限され、半導体発光装置を形成する場合でも、その使用方法を工夫する必要がある。
【0006】
さらに、たとえば硫化物系蛍光体などでは、樹脂やガラス体と混合する前の保存の状態で空気中の水分と反応して硫黄の酸化物などが空気中に飛散し、有害物を放出するという問題もある。
【0007】
本発明はこのような問題を解決し、硫化物からなる発光色変換用の蛍光物質を空気中に放置しても何ら変質せず、有害物質を放出しない、品質の安定した発光色変換用の蛍光体粉末を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の他の目的は、蛍光体を、軟化点を下げるべくPbなどを含むガラス体に分散させても、ガラスが蛍光体と反応して変色することのない品質の安定した発光色変換部材を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、紫外光など波長の短い光や輝度の大きい光を発光するLEDチップの光を変換して白色光など所望の色の光に変換する場合でも、長時間に亘って色調や発光色が変化せず、また、輝度が低下しない安定した特性で信頼性を向上することができる構造の半導体発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による蛍光体含有ガラス粉末は、蛍光体粒子と、該蛍光体粒子の周りを被覆するPbまたはBiを含まないガラス被膜とからなっている。
【0011】
本発明による発光色変換部材は、蛍光体粒子の周りにPbまたはBiを含まないガラス被膜が設けられる蛍光体含有ガラス粉末がPbまたはBiを含むガラス体内に分散されている。
【0012】
本発明による半導体発光装置は、発光素子チップと、該発光素子チップの少なくとも光発射面側に設けられる発光色変換部材とを有する半導体発光装置であって、前記発光色変換部材が、蛍光体粒子の周りにPbまたはBiを含まないガラス被膜が設けられる蛍光体含有ガラス粉末を用いることにより形成されている。
【0013】
具体的には、前記発光素子チップの半導体積層部の一面または該半導体積層部が積層される基板裏面のほぼ全面に、前記蛍光体含有ガラス粉末がPbまたはBiを含むガラス体内に分散されることにより形成される前記発光色変換部材が設けられる構造に形成することができる。なお、基板裏面とは、基板の半導体積層部が設けられる側と反対側の面を意味する。また、前記発光色変換部材が、前記蛍光体含有ガラス粉末を凝集させた多孔質ガラス体の隙間に、紫外光に耐性のある樹脂を充填することにより形成されてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の蛍光体含有ガラス粉末によれば、YAGなどの蛍光体粒子の周囲にPbまたはBiを含まないガラス被膜が設けられているため、ガラス被膜に蛍光体と反応しやすいPbなどが含まれておらず、蛍光体粒子とガラス被膜とが反応して、ガラス被膜が変色するということはないし、この蛍光体含有ガラス粉末を軟化点の低いPbなどを含むガラス体内に分散させても、ガラス被膜がバリア層となるため、蛍光体粒子とPbなどとが反応することもない。さらに、蛍光体粒子が1個1個ガラス被膜により被覆されているため、蛍光体粒子が硫化物のような有害物質の場合で、蛍光体含有ガラス粉末が空気中に放置されても、非常に安定で、何らの反応をすることもなく、有害物質が飛散することもないと共に、品質的にも何ら変化しない。
【0015】
なお、このようなガラス被膜を形成するには、たとえばケイ酸やホウケイ酸などのSiやBなどを金属アルコキシドにして、エタノールなどの有機溶媒と、アンモニア水などの無機塩基または塩酸もしくは硫酸などの無機酸などと共に混合・撹拌し、その中に蛍光体粒子を混合・撹拌して反応させることにより、蛍光体粒子の外周にケイ酸ガラスやホウケイ酸ガラスの粒子が付着して蛍光体粒子の外周にガラス被膜を形成することができる。このガラス被膜の厚さは、反応時間を長くすればするほど厚く形成することができるが、Pbなどの蛍光体物質と反応する材料が浸透しない程度の厚さ、すなわち、数百nm〜数μm程度の厚さに形成されればよい。
【0016】
このような蛍光体含有ガラス粉末は、軟化点の高いガラス被膜で蛍光体粒子が被覆されているため、この蛍光体含有ガラス粉末がPbなどを含む軟化点の低いガラス体内に分散されていても、軟化点の高いガラス被膜がバリア層となって軟化点の低いガラス体内に含まれるPbやBiなどが蛍光体粒子と反応することがない。すなわち、300℃程度以上の低い温度で焼結することができるガラス体内に蛍光体粒子を分散させた発光色変換部材を形成することができる。その結果、たとえば道路標識で、自動車のヘッドライトにより目立ちやすい色で表示するような標識でも、低い温度でガラスを焼結しながら、安定した発光色変換部材を有する道路標識などを形成することもできる。
【0017】
また、本発明による半導体発光装置によれば、Pbなどを含まない軟化点の高いガラス被膜により蛍光体粒子を被覆した蛍光体含有ガラス粉末を用いているため、ガラスと蛍光体粒子とが反応して変色することがなく、また、LEDチップからの紫外光や輝度の大きい光などにより照射されても変色することがなく、発光色や輝度が非常に安定した発光装置が得られる。
【0018】
この蛍光体含有ガラス粉末をPbまたはBiなどが含まれるガラス体内に分散させた発光色変換部材を半導体積層部の一面または基板裏面に設けることにより、ガラス体の焼結温度を下げられると共に、LEDチップの電極形成前に発光色変換部材を設けることができるため、焼結温度を極端に下げる必要もなく、また、蛍光体との反応の問題もないため、LEDチップの基板と熱膨張係数などを合せた成分のガラス体に形成することができる。その結果、LEDチップとガラス体に蛍光体粒子を分散させた発光色変換部材とを結合することができる。
【0019】
また、蛍光体含有ガラス粉末により多孔質ガラス体にして、その空孔内に、シリコーン樹脂のような紫外光に対して耐性なる樹脂を充填することによっても、LEDチップとガラス体内に蛍光体粒子を分散させた発光色変換部材とを結合して、所望の発光色とする半導体発光装置を得ることもできる。このような構成にすれば、ガラス体を焼結しなくても多孔質の隙間内にガラス体と屈折率が同程度のシリコーン樹脂などが充填されているため、LEDチップからの光を蛍光体含有ガラス粉末により色変換しながら出射させることができる。この場合、シリコーン樹脂などは、弾力性があるため、熱膨張係数の差を吸収することができるし、弾力性があって柔らかくても、外形は多孔質ガラス体により確定しているため、変形したりすることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
つぎに、図面を参照しながら本発明の蛍光体含有ガラス粉末、発光色変換部材およびそれを用いた半導体発光装置について説明をする。本発明による蛍光体含有ガラス粉末3は、図1に一実施形態の断面説明図が示されるように、蛍光体粒子1の周りがPbまたはBiを含まないガラス被膜2により被覆されていることに特徴がある。
【0021】
蛍光体粒子1は、紫外光や可視光を受けて異なる波長の光を放出する蛍光物質の粒子で、平均の粒径としては、3〜50μm程度、好ましくは5〜10μm程度の大きさに揃っている。蛍光物質としては、セリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)系、マンガンで付活された酸化マグネシウム・チタンなどの酸化物系蛍光物質や、ペリレン系誘導体や、銅、アルミニウムで付活された硫化亜鉛カドミウムなどの硫化物系蛍光物質、などを用いることができる。
【0022】
ガラス被膜2は、PbやBiなどの蛍光物質と反応しやすい物質が蛍光物質と接触しないようにバリアを形成するものであるため、PbやBiなどの不純物が浸透しない程度の厚さに形成されていればよく、厚すぎても問題はないが時間がかかるため、たとえば数百nm〜数μm程度の厚さに形成される。ガラス被膜の材料としては、PbOやBi23のように、軟化点が低く構成元素であるPbやBiなどの蛍光物質と反応しやすい元素を含まない(1wt%以下)、ケイ酸ガラス(SiO2系ガラス)やホウケイ酸ガラス(B23-SiO2系ガラス)などを主成分とするものを用いることができ、これらにBaOやZnOなどが含まれるものでもよい。しかし、MnO、Fe23、CeO2などが含まれると、紫外光によりガラスを変色させるので、実質的に含有しない(1000ppm以下)方が好ましい。
【0023】
このような蛍光体粉末を製造するには、いわゆるストーバー法と呼ばれるゾル−ゲル法により製造することができる。すなわち、たとえばケイ酸ガラス被膜を形成するには、テトラエトキシシラン(Si(OC254)などのケイ素のアルコキシド化合物、エタノール、水およびアンモニアをモル比で1:x:y:zの割合(モル比;20≦x≦400、10≦y≦200、10≦z≦40)で混合する。この混合液に前述の蛍光体粒子1を混合し、撹拌しながら反応させることにより、蛍光体粒子1の周囲にガラス粒子が付着してガラス被膜2が形成される。前述の水とケイ素との割合(y)を変えることにより、ガラス粒子の大きさを任意に調整することができる。シリカ系ガラスの粒径は30〜800nm程度である。また、反応時間を長くすればするほどガラス被膜2の厚さを厚くすることができる。そのため、好みの膜厚で所望の緻密な被膜を形成することができる。
【0024】
他のガラス成分にする場合でも、同様に所望の金属のアルコキシド化合物を形成して、前述のエタノール、水およびアンモニアと混合した混合液を用い、その混合液に蛍光体粒子を混合して撹拌させることにより同様に製造することができる。たとえば、前述のホウケイ酸ガラス被膜を形成するには、前述のテトラエトキシシラン(Si(OC254)の代りに、テトラエトキシシラン(Si(OC254)とB(OCH(CH323とをモル比で4:1〜2:1の割合で混合したものを用い、同様に行うことにより得られる。
【0025】
本発明の蛍光体粉末によれば、PbやBiなどの蛍光物質と反応しやすい元素を含まないで、軟化点の高い(たとえばケイ酸ガラスで800℃、ホウケイ酸ガラスで650℃)ガラス被膜で被覆された粉末になっているため、空気中に保管しておいても非常に安定で、蛍光体物質が硫化物であっても空気中の水分と直接触れることがなく、酸化などにより酸化硫黄が発生することもなく、非常に安定に保つことができる。また、後述する発光色変換部材とする場合でも、この粉末を軟化点の低いPbOなどを含むガラスに分散させて使用しても、蛍光体物質そのものは安定したガラス被膜により被覆されているため、蛍光物質がPbなどと反応して変質したり変色したりすることがない。
【0026】
本発明による発光色変換部材5は、図2にその一実施形態の断面説明図および一部拡大説明図がそれぞれ示されるように、蛍光体粒子1の周りにPbまたはBiを含まないガラス被膜2が設けられる蛍光体含有ガラス粉末3がPbを含むガラス体4内に分散されている。蛍光体含有ガラス粉末3は、たとえば前述の図1に示されるように、蛍光体粒子1の外周にPbまたはBiを含まないガラス被膜2が設けられたもので、ガラス体4と合せた全体の重量に対して、1〜10wt%程度分散されている。
【0027】
ガラス体4は、たとえばケイ酸ガラスまたはホウケイ酸ガラスに、鉛ガラス(PbO)が5〜85wt%程度混合されたもので、PbOが50wt%以上混合されることにより、軟化点を600℃程度に下げることができる。なお、このガラス体4には、アルカリ金属酸化物が含まれていると、接着やモールドに用いられる樹脂を劣化させるので、含有しないことが好ましい。
【0028】
このような発光色変換部材を製造するには、前述と同様に、ガラス材料の有機金属化合物である、TEOS、TEOPbなどの所望の熱膨張係数や軟化点などが得られるガラス材料をエタノールなどの有機溶剤に撹拌しながら混合し、少量のアンモニア水などの無機塩基または塩酸もしくは硫酸などの無機酸をさらに加えて撹拌し、20〜80℃に加熱する。その後、前述の蛍光体含有ガラス粉末を加えて撹拌することによりゲル化する。このゲル化したものを所望の形状にまたは所望の容器内に入れて100〜200℃に加熱乾燥し、さらに300〜800℃程度のガラス成分に応じた焼結温度で焼結することにより、得られる。ガラス材料としては、前述の各例の他に、低融点ガラス材料として、TEOAl、TEOFe、TEOTiなども用いることができる。
【0029】
本発明の発光色変換部材によれば、樹脂を用いないでガラス体内に蛍光物質が分散されているため、紫外光や輝度の大きい光に対しても、変色したり、変質したりすることがなく、輝度も変化しないで非常に安定した発光色変換部材が得られる。しかも、ガラス体は軟化点の低い鉛ガラスが含まれているため、その含有量や成分などを調整することにより、300℃程度まで軟化点を低くすることができ、発光色変換部材の用途などにより、軟化点を低くしたり、膨張係数を調整したりすることができる。一方、蛍光物質は、軟化点が高くPbやBiなどの蛍光物質と反応しやすい元素を実質的に含まないガラス被膜により被覆されているため、ガラス体4内に軟化点を低くするためのPbなどが含まれていても蛍光物質とPbなどとが反応することはない。すなわち、目的に応じて所望の温度で硬化させることができながら、紫外光や高輝度の光に対しても何ら変質しない、非常に品質の安定した発光色変換部材が得られる。
【0030】
しかも、樹脂ではなく、ガラス体で蛍光体粉末が固化されているため、屋外で塵埃などの激しい場所や、温度変化が激しい場所に配置される場合でも非常に安定な発光色変換部材が得られると共に、たとえば300℃程度の低い温度でも焼結させることができるため、金型などを用いることにより非常に簡単に所望の形状に作ることができる。その結果、たとえば道路の標識などに用いることにより、自動車のヘッドライトを受けてカラーの標識で表示や警告をすることができるなど、半導体発光装置のみならず、非常に応用範囲が広がるという効果がある。
【0031】
図3は、この発光色変換部材を半導体発光装置に応用した例の断面および一部の拡大説明図である。すなわち、図3(a)に示される例は、白色光の半導体発光装置の例が示されており、青色光をYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)蛍光体などの発光色変換部材5により白色にする例が示されている。YAG蛍光体は、LEDチップから発光する青色光を吸収して黄色に変換し、その黄色の光がLEDチップから発せられる青色光と混色して白色にするものであるが、YAG蛍光体でなくても、たとえば近紫外光を発するLEDチップと、近紫外光によって励起されて赤色、青色、緑色にそれぞれ発光する蛍光体とを設けて白色に変換する構成でもよく、LEDチップの光を白色に変換する色変換部材を用いることができる。そのため、発光素子チップ(LEDチップ6;図3ではチップに分割する前のウェハの状態が示され、2個のチップ分が示されている)は、窒化物半導体により形成され、その半導体積層部17の一面にYAG蛍光体粒子1の周囲に前述のガラス被膜2が形成された蛍光体含有ガラス粉末3がPbを含むガラス体4内に分散された発光色変換部材5が設けられている。なお、発光素子としては、図3に示されるLEDチップ6が1個の場合には限らず、複数個のチップを1つの単位として用いるブロックLEDチップの場合でも同様である。
【0032】
ここに窒化物半導体とは、III 族元素のGaとV族元素のNとの化合物またはIII 族元素のGaの一部または全部がAl、Inなどの他のIII 族元素と置換したものおよび/またはV族元素のNの一部がP、Asなどの他のV族元素と置換した化合物(窒化物)からなる半導体をいう。
【0033】
発光色変換部材5は、図2(a)に示される例と同様に、たとえば部分拡大断面説明図が図3(b)に示されるように、青色光を白色に変換するYAG蛍光体粒子1の周りにガラス被膜2が形成された蛍光体含有ガラス粉末3がPbを含むガラス体4内に重量比で5〜70%程度分散されたもので形成することができる。YAG蛍光体は、LEDチップ3から発光する青色光を吸収して黄色に変換し、その黄色の光がLEDチップ3から発せられる青色光と混色して白色にするものである。このガラス体4は、LEDチップ6の熱膨張係数と整合し得る熱膨張係数になるように、その材料が選定される。この場合、発光色変換部材をLEDチップ6の半導体層の一面に焼結する際には、LEDチップにサファイア基板11があり、一番厚いため、このサファイア基板の熱膨張係数7.4×10-6/Kに合せて、7〜7.8×10-6/K程度の熱膨張係数になるように、その成分を調整することが好ましい。このような熱膨張係数にするには、たとえばPbO:SiO2:B23をモル比で、7:2:1になるように混合することにより得られる。
【0034】
また、発光色変換部材5は、図3(c)に部分拡大断面説明図が示されるように、紫外光を赤色に変換する蛍光体粒子1aの周りにガラス被膜2が形成された赤色変換蛍光体含有ガラス粉末3aと、紫外光を緑色に変換する蛍光体粒子1bの周りにガラス被膜2が形成された緑色変換蛍光体含有ガラス粉末3bと、紫外光を青色に変換する蛍光体粒子1cの周りにガラス被膜2が形成された青色変換蛍光体含有ガラス粉末3cを、混合色が丁度白色になるような割合で混合し、Pbを含むガラス体4内に、この全体が前述の割合になるように分散させることにより形成されたものでもよい。
【0035】
この半導体発光装置の製法を図4に示される製造工程図を参照しながら説明する。なお、図4においては、1個のチップ分のみが示されているが、実際にはウェハに多数個のチップが同時に形成され、最後に各チップに分断される。
【0036】
まず、図4(a)に示されるように、たとえばサファイア基板11上に、たとえばGaNからなる低温バッファ層12が0.005〜0.1μm程度、ついでアンドープのGaNからなる高温バッファ層13が1〜3μm程度、その上に障壁層(バンドギャップエネルギーの大きい層)となるSiをドープしたAlGaN系化合物半導体層からなるn形層14が1〜5μm程度、バンドギャップエネルギーが障壁層のそれよりも小さくなる材料、たとえば1〜3nmのInGaN系化合物からなるウェル層と10〜20nmのGaNからなるバリア層とが3〜8ペア積層される多重量子井戸 (MQW)構造の活性層15が0.05〜0.3μm程度、p形のAlGaN系化合物半導体層からなるp形障壁層(バンドギャップエネルギーの大きい層)とp形GaNからなるコンタクト層とからなるp形層16が合せて0.2〜1μm程度、それぞれ順次積層されることにより、半導体積層部17が形成されている。
【0037】
なお、アンドープの高温バッファ層13は、積層されるチッ化ガリウム系化合物半導体層の結晶性を良くするため、高温で成長する最初の層をアンドープにしているもので、基板が導電性の場合にはアンドープにはしない。また、p形層16は、キャリアの閉じ込め効果の点から活性層15側にAlを含む層が設けられることが好ましいものの、AlGaN系化合物層またはGaN層だけでもよい。また、n形層14も他のチッ化ガリウム系化合物半導体層または複層で形成することもできる。さらに、この例では、n形層14とp形層16とで活性層15が挟持されたダブルヘテロ接合構造であるが、n形層とp形層とが直接接合するpn接合構造のものでもよい。
【0038】
この後、図4(b)に示されるように、半導体積層部上に、前述の発光色変換部材5を形成する。すなわち、前述のガラス材料と蛍光体含有ガラス粉末を混ぜてゲル化したものを、p形層16上に塗布して加熱乾燥し、さらに焼結することにより半導体積層部上に発光色変換部材5を形成する。この発光色変換部材5は、後述するように新たな基板とするため、50〜200μm程度の厚さに形成される。
【0039】
その後、図4(c)に示されるように、ウェハの表裏を逆転させてサファイア基板1の裏面側からレーザ光を照射し、サファイア基板1と半導体積層部との境界のチッ化ガリウム層を加熱して、サファイア基板を剥離する。その後、剥離した部分の半導体層を研磨またはエッチングなどにより除去して、図4(d)に示されるようにn形層14を露出させる。発光する光が紫外光の場合には、GaN層により紫外光が吸収されるため、できるだけGaN層は除去した方がよいが、青色の場合には、高温バッファ層13がn形層になっていればそのn形層でもよい。
【0040】
その後、図4(e)に示されるように、半導体積層部17の一部をエッチング除去してp形層16を露出させる。その後、図4(f)に示されるように、露出したp形層16にp側電極18を、n形層14の表面にn側電極19を形成する。そして、各チップに分割する部分に発光色変換部材5側から、厚いブレードでハーフカットすることにより凹溝5aを形成し、図3(a)に示されるように、光出射面側を狭くした凸型の発光装置とすることができる。そして、凹溝の底部で切断することにより各チップに分割される。しかし、必ずしもこのような凹溝5aを形成する必要はなく、直接四角形状に切断しても構わない。
【0041】
前述の例では、基板およびバッファ層が除去されて露出するn形層14の露出面にn側電極19が、半導体積層部17の一部がエッチング除去して露出するp型層16にp側電極が形成されているが、こうすることにより、基板を除去することができるため薄くすることができると共に、発光する光が紫外光の場合には、バッファ層がGaN化合物により形成されており、紫外光を吸収する性質を有しているが、その光を吸収するGaN層を除去することができるため、発光効率を向上させることができる。しかし、LEDの発光色、または積層する半導体層や基板の光の吸収特性によっては、このような剥離は必ずしも必要ではない。この場合には、前述の半導体積層部を形成した後に、サファイア基板11の裏面に発光色変換部材5を形成して、その後に、通常の半導体積層部上に電極を形成する方法と同様の方法で製造することができる。
【0042】
本発明の半導体発光装置によれば、半導体積層部に直接発光色変換部材が設けられているため、通常のLEDチップと同じ大きさで白色発光のLEDチップを得ることができる。さらに、この構成にすることにより、電極の形成前に発光色変換部材を設けることができるため、ガラス体の成分に応じた焼結温度で焼結することが出来、熱膨張係数などを適合させたガラス体の成分にすることができる。さらに、電極が設けられる側から光を取り出さなくてよいため、n形層14の表面およびエッチングにより露出したp形層16表面のほぼ全面にn側電極19およびp側電極18を設けることができ、電流をLEDチップの発光部のほぼ全面に効率よく広げることができると共に、光の発射面側には光を遮るものが一切なく、非常に光の取出し効率が向上する。さらに、フリップチップ形式の実装をすることができるため、発光して発熱する側の近くで電極により直接回路基板と接続され、熱伝導が良好になるため、放熱効果が優れてLEDの信頼性を向上させることができる。なお、前述の例では、p形層16に直接発光色変換部材5が設けられているが、p形層16での電流拡散が充分に行われない場合には、その間にZnO層やITOなどの透光性導電層を介在させることもできる。
【0043】
このように、半導体積層部17の一面に直接発光色変換部材5が設けられることにより、種々のメリットがあるが、半導体発光装置にする場合でも、このような構造に限定されるものではなく、たとえば図5に示されるようなランプタイプの構造でも形成することができる。すなわち、図5(a)において、板状体から形成された第1のリード21の先端部に板状体の端面から形成された凹部21a内にLEDチップ23がボンディングされ、その一方の電極は第1のリード21と電気的に接続され、他方の電極が、同様に板状体から形成された第2のリード22の先端部とワイヤ24により電気的に接続され、その周囲が発光色変換部材25により被覆される構造になっている。この発光色変換部材25は、前述の図2に示される発光色変換部材を製造する場合と同様の方法でゲル化した状態で、ドーム状凹部が形成された型内にリードフレームでLEDチップ23がマウントされたものを挿入し、発光色変換部材25のゲル状態のものを充填して、加熱乾燥することにより、図5(b)に示されるような発光色変換ガラス粉末3と普通のガラス粉末5bが凝集した多孔質ガラス体25aとされ、その後に、その空隙内にシリコーン樹脂などの紫外光に対しても耐性のある樹脂7を充填することにより得られる。
【0044】
この多孔質体内に樹脂などを充填するには、たとえば型内で多孔質ガラス体を形成したのに引き続いて、型の一端部から樹脂を注入しながら、型の他端部から真空引きするなどの方法により空隙内に充填することができる。このような構造にすることにより、蛍光体含有ガラス粉末を用いながら、高温で焼結することなく発光装置を形成することができ、ガラス粉末の材料を自由に選択することができると共に、電極を形成した後でも発光色変換部材で被覆することもできる。さらに、ガラス体のみならず、シリコーン樹脂などの弾力性のある物質がガラス粉末の間に介在しているため、発光色変換部材自身に弾力性が生じ、LEDチップとの間に熱膨張係数の差などがあっても、ガラスへのクラックやワイヤの断線などが生じにくくなる。
【0045】
前述の各例では、紫外光を白色にする例であったが、この例には限定されず、LEDの発光色と補色になる色の蛍光体粒子を用いることにより白色光にすることができるし、また、所望の発光色に応じてLEDの発光色と発光色変換部材の変換色を設定することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明による蛍光体粉末の一実施形態の拡大断面説明図である。
【図2】本発明による発光色変換部材の断面および一部拡大説明図である。
【図3】本発明による半導体発光装置の一実施形態を示す断面および発光色変換部材の構成例を示す断面説明図である。
【図4】図3の半導体発光装置の製造工程を説明する図である。
【図5】本発明による半導体発光装置の他の例を示す説明図である。
【図6】従来のガラスを用いた発光色変換部材の構成例を示す断面説明図である。
【符号の説明】
【0047】
1 蛍光体粒子
2 ガラス被膜
3 蛍光体含有ガラス粉末
4 ガラス体
5 発光色変換部材
6 LEDチップ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体粒子と、該蛍光体粒子の周りを被覆するPbまたはBiを含まないガラス被膜とからなる蛍光体含有ガラス粉末。
【請求項2】
蛍光体粒子の周りにPbまたはBiを含まないガラス被膜が設けられる蛍光体含有ガラス粉末がPbまたはBiを含むガラス体内に分散されてなる発光色変換部材。
【請求項3】
発光素子チップと、該発光素子チップの少なくとも光発射面側に設けられる発光色変換部材とを有する半導体発光装置であって、前記発光色変換部材が、蛍光体粒子の周りにPbまたはBiを含まないガラス被膜が設けられる蛍光体含有ガラス粉末を用いることにより形成されてなる半導体発光装置。
【請求項4】
前記発光素子チップの半導体積層部の一面または該半導体積層部が積層される基板裏面のほぼ全面に、前記蛍光体含有ガラス粉末がPbまたはBiを含むガラス体内に分散されることにより形成される前記発光色変換部材が設けられてなる請求項3記載の半導体発光装置。
【請求項5】
前記発光色変換部材が、前記蛍光体含有ガラス粉末を凝集させた多孔質ガラス体の隙間に、紫外光に耐性のある樹脂を充填することにより形成されてなる請求項3記載の半導体発光装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−52345(P2006−52345A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−235804(P2004−235804)
【出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】