説明

発光装置の駆動方法

【課題】有機EL装置等の発光装置において、表示領域における温度を検出し、色ずれのない高品質な画像表示を行う。
【解決手段】発光装置の駆動方法は、画像表示領域110に有機EL素子72を夫々含む複数の画素部70が設けられた発光装置を駆動するための発光装置の駆動方法であって、有機EL素子72のうち温度センサー用として選択された温度センサー用有機EL素子79の電流値を検出することにより、有機EL素子72の温度を検出する工程と、検出された温度に応じて、有機EL素子72が所定の輝度で発光するために有機EL素子72に印加すべき印加電流を算出する工程と、算出された印加電流を有機EL素子72に印加する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば有機ELパネル等の発光装置の駆動法の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の発光装置の一例である有機EL(Electro-luminescence)パネルの発光素子に用いられる有機EL材料は、使用される環境温度によってその材料特有の温度特性から発光輝度が異なってしまうという問題点があることが知られている。RGB独立発光のパネルでは特にこの材料特有の温特の違いにより、色ずれが起こり表示品質の著しい低下となる。ここでいう「色ずれ」とは、(1)基板面内(特に中心付近の画素と外周付近の画素)で起こり得る温度差に起因したI−L特性(即ち、電流−光出力特性)の変化(ずれ)、(2)RGB毎に異なる温度特性に起因したI−L特性の変化(ずれ)、(3)TFTや周辺回路(配線)等から発生した熱に起因したI−L特性の変化(ずれ)をいう。このような問題点に関しては、例えば特許文献1では、有機ELパネルの温度を測定するための、温度センサーとしての測定用EL素子を設け、測定された温度に基づいて有機EL素子に印加する駆動波形を補正する技術が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2001−35655号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、温度センサーは、発光素子が形成される発光基板における表示領域とは異なる領域に形成されるため、発光素子の温度を精度良く測定することが困難であるという技術的問題点がある。仮に、発光基板側の表示領域に温度センサーを形成しようとすれば、発光基板を多層構造にするなどの発光基板の構造の複雑化や表示領域の開口率の低下を招いてしまうおそれがある。特に基板中心付近に温度センサーを形成することは回路引き回しが難しいことに加え、引き回し配線による発熱/放熱も考慮せねばならない。従来技術である外付けセンサーを発光パネルに設置することは、例えば有機ELパネルの小型、薄型、軽量等という特徴が生かせない。
【0005】
本発明は、例えば上述した問題点に鑑みなされたものであり、発光装置の表示領域における温度を検出でき、色ずれのない高品質な画像表示の可能な発光装置の駆動方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発光装置の駆動方法は上記課題を解決するために、表示領域に発光素子を夫々含む複数の画素部が設けられた発光装置を駆動するための発光装置の駆動方法であって、前記複数の画素部のうち少なくとも一つの画素部に含まれる前記発光素子の電流値を検出することにより、前記発光素子の温度を検出する温度検出工程と、該温度検出工程によって検出された温度に応じて、前記発光素子が所定の輝度で発光するために前記発光素子に印加すべき印加電流を算出する印加電流算出工程と、前記印加電流を前記発光素子に印加する電流印加工程とを含む。
【0007】
本発明の発光装置の駆動方法によれば、その動作時には、各画素部において、発光素子に印加電流が印加されることにより、発光素子において例えば有機EL(Electro-Luminescence)層等の発光層が発光する。この場合、印加電流によって、画素部の輝度が制御される。このような動作時には、例えば、発光素子が発光する際に生じる熱や、画素部に設けられた例えばTFT(Thin Film Transistor)等の半導体素子、配線抵抗等による発熱のため、画素部の温度が変化してしまうおそれがある。発光素子は、使用される温度が異なると印加電流に対する発光輝度が異なるという温度特性を有しており、画素部の温度変化に伴い、画素部における輝度も変化してしまうおそれがある。
【0008】
しかるに本発明では特に、温度検出工程によって、複数の画素部のうち少なくとも一つの画素部に含まれる発光素子の電流値を検出することにより、発光素子の温度を検出する。即ち、複数の画素部のうち、発光素子の温度を検出するための温度センサーとして選択された画素部に含まれる発光素子の温度特性を利用して、発光素子の温度を検出する。ここで、発光素子の温度特性とは、発光素子に所定電流を印加するのに必要な電圧が温度変化に伴って変化する性質を意味し、例えば、発光素子に所定電流を印加するのに必要な電圧の単位温度当たりの変化量として表すことができる。
【0009】
このように表示領域に設けられた画素部に含まれる発光素子の温度特性を利用して発光素子の温度を検出するので、仮に表示領域とは異なる領域に設けられた例えば温度センサーによって発光素子の温度を検出する場合と比較して、発光素子の近く(特に、発光素子そのもの)で発光素子の温度を検出できる。従って、発光素子の温度を、より精度良く検出できる。
【0010】
更に、本発明では特に、印加電流算出工程によって、温度検出工程によって検出された温度に応じて、発光素子が所定の輝度で発光するために発光素子に印加すべき印加電流が算出される。続いて、電流印加工程によって、このように算出された印加電流が発光素子に印加される。言い換えれば、発光素子には、検出された温度において所定の輝度で発光できるように補正された印加電流が印加される。よって、検出された温度に応じて、画素部の輝度が所定の輝度となるように制御できる。即ち、発光素子の温度変化による発光輝度の変化或いは所定の輝度からのズレを低減或いは防止できる。従って、高品質な画像表示が可能となる。
【0011】
加えて、本発明では特に、温度検出工程は、画素部に形成された、表示に寄与する発光素子の温度特性を利用して、発光素子の温度を検出するので、例えば画素部とは別に温度を検出するための温度センサーを形成する場合と比較して、製造プロセスの複雑化を殆ど或いは全く必要としない。
【0012】
以上説明したように、本発明の発光装置の駆動方法によれば、複数の画素部のうち少なくとも一つの画素部に含まれる発光素子の温度を検出し、検出された温度に応じて補正した印加電流を発光素子に印加するので、高品質な画像表示が可能となる。特に、温度検出工程は、表示に寄与する発光素子の温度特性を利用して、発光素子の温度を検出するので、表示領域内での温度検出が可能であると共に、製造プロセスの複雑化を殆ど或いは全く必要としない。
【0013】
本発明の発光装置の駆動方法の一態様では、前記発光素子は、R(赤)、G(緑)及びB(青)の各色のいずれかを発光する発光層を夫々含む3種類の発光素子であり、前記温度検出工程は、前記3種類の発光素子の各々の温度を検出し、前記印加電流算出工程は、前記3種類の発光素子毎に前記印加電流を算出する。
【0014】
この態様によれば、RGB独立発光のパネルおいて生じ得る、パネル中心部と端部での発光画素温度が異なることに起因した色ずれを低減或いは防止できる。即ち、RGB画素毎に精度良く温度を検出し、RBG画素毎の印加電流の算出にフィードバックすることで、
温度差に起因した色ずれを一層低減或いは無くすことができる。
【0015】
本発明の発光装置の駆動方法の他の態様では、前記発光素子は、5mV/℃以上の温度特性を有する発光材料を含む。
【0016】
この態様によれば、温度変化に対する発光素子における電流変動が大きいので、温度検出工程による発光素子の温度の検出が容易に可能である。即ち、発光素子を容易に温度センサーとして機能させることができる。ここで「5mV/℃の温度特性」とは、所定電流を印加するのに必要な電圧の単位温度当たりの変化量が5mVであることを意味する。
【0017】
本発明の発光装置の駆動方法の他の態様では、前記温度検出工程は、前記少なくとも一つの画素部に含まれる前記発光素子に所定電圧を印加して、前記電流値を検出する。
【0018】
この態様によれば、例えば表示に寄与しない非表示期間に、発光素子に所定電圧を印加して、電流値を検出するので、電流値を精度良く検出できる。よって、発光素子の温度を精度良く検出できる。
【0019】
本発明の発光装置の駆動方法の他の態様では、前記温度検出工程は、前記表示領域における複数箇所の画素部に含まれる前記発光素子の温度を夫々検出する。
【0020】
この態様によれば、例えば、表示領域の中央部及び周縁部の各々の少なくとも1箇所の画素部の発光素子の温度が検出される。よって、表示領域における複数の画素部の温度のばらつき、即ち、温度分布を検出できる。従って、表示領域における輝度のばらつきを低減或いは防止できる。特に、表示領域が大きい場合、即ち、発光パネルのサイズが大きい場合に有効である。
【0021】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施するための最良の形態から明らかにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下では、本発明の実施の形態について図を参照しつつ説明する。尚、以下の実施形態は、本発明の発光装置の駆動方法を、有機EL装置に適用したものである。
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係る有機EL装置の駆動方法について、図1から図6を参照して説明する。
【0023】
先ず、本実施形態に係る有機EL装置の全体構成について、図1を参照して説明する。ここに図1は、本実施形態に係る有機EL装置の全体構成を示すブロック図である。
【0024】
図1において、本発明に係る「発光装置」の一例である有機EL装置10は、駆動回路内蔵型のアクティブマトリクス駆動方式で駆動される表示装置であり、有機EL装置10が有する各画素部70は、サブ画素部71R、71G及び71Bを含んで構成されている。
【0025】
有機EL装置10の画像表示領域110には、縦横に配線されたデータ線114及び走査線112が設けられており、それらの交点に対応するサブ画素部71R、71G及び71Bはマトリクス状に配列され、これら3つのサブ画素部を一組として一つの画素部70が構成されている。尚、画像表示領域110は、本発明に係る「表示領域」の一例である。後述するように、サブ画素部71R、71G及び71Bの夫々は、赤色(R)、緑色(G)及び青色(B)の各色の波長を有する光を出射する。これにより、有機EL装置10は、走査線駆動回路130及びデータ線駆動回路150による画素部70の制御下で画像をフルカラー表示できる。
【0026】
更に、画像表示領域110には各データ線114に対して配列されたサブ画素部71R、71G及び71Bに対応する電源供給線117が設けられている。
【0027】
画像表示領域110の周辺に位置する周辺領域には、走査線駆動回路130、データ線駆動回路150、駆動波形制御回路170及び電流検出回路190が設けられている。走査線駆動回路130は、複数の走査線112に走査信号を順次供給する。電流検出回路190は、後述するように、画素部70に設けられた温度センサー用有機EL素子79の電流値を検出可能に構成されており、検出した電流値を駆動波形制御回路170に出力する。駆動波形制御回路170は、後述するように、電流検出回路190によって検出された電流値に基づいて、温度センサー用有機EL素子79の温度を算出し、算出した温度に基づいて、後述する補正データを生成し、データ線駆動回路150に出力する。データ線駆動回路150は、駆動波形制御回路170からの補正データと表示データとから画素部70を駆動するための駆動波形を生成し、生成した駆動波形を、画像表示領域110に配線されたデータ線114に供給する。尚、走査線駆動回路130の動作とデータ線駆動回路150の動作とは、同期信号線160を介して相互に同期が図られる。
【0028】
電源供給線117には、外部回路から画素駆動用電源が供給される。図1中、一つの画素部70に着目すれば、画素部70には、有機EL素子72R、72G及び72Bが設けられると共に、例えばTFTを用いて構成されるスイッチング用トランジスタ76及び駆動用トランジスタ74、並びに保持容量78がサブ画素部毎に設けられている。スイッチング用トランジスタ76のゲート電極には走査線112が電気的に接続されており、スイッチング用トランジスタ76のソース電極にはデータ線114が電気的に接続され、スイッチング用トランジスタ76のドレイン電極には駆動用トランジスタ74のゲート電極が電気的に接続されている。また、駆動用トランジスタ74のドレイン電極には、電源供給線117が電気的に接続されており、駆動用トランジスタ74のソース電極には有機EL素子72の陽極が電気的に接続されている。
【0029】
尚、図1に例示した画素回路の構成の他にも、電流プログラム方式の画素回路、電圧プログラム方式の画素回路、電圧比較方式の画素回路、サブフレーム方式の画素回路等の各種方式の画素回路を採用することが可能である。
【0030】
次に、本実施形態に係る有機EL装置の具体的な構成について、図2及び図3を参照して説明する。ここに図2は、有機EL装置の概略構成を示す平面図であり、図3は、図2のA−A´線での断面図である。
【0031】
図2及び図3において、有機EL装置10は、基板1上の画像表示領域110に形成された複数の画素部70を備えている。
【0032】
画素部70は、基板1上における画像表示領域110にマトリクス状に配設されている。画素部70は、図中横方向に沿って配列された3つのサブ画素部71R、71G及び71Bを一組として構成されており、画像表示領域110の図中縦方向及び横方向の夫々に沿って配列されている。各サブ画素部71のうち隔壁部47に囲まれた凹部62に有機EL素子72が形成されている。
【0033】
図3において、有機EL装置10は、基板1、有機EL素子72(即ち、有機EL素子72R、72G及び72B)、駆動用トランジスタ74、バンク部47、並びに封止板20を備えている。
【0034】
基板1は、例えば、ガラス基板等で構成されている。基板1は、基板1上に有機EL素子72が形成されているだけでなく、図1に示す走査線駆動回路130、データ線駆動回路150及び駆動波形制御回路170等の各種回路を備えている。このような回路は、基板1における画像表示領域110の周辺領域に設けられている。
【0035】
有機EL素子72は、有機EL層50、陰極49及び陽極34を備えて構成されている。
【0036】
有機EL層50は、複数の有機EL層50を互いに隔てるための素子分離部として機能するバンク部47に囲まれた凹部62に、インクジェット法を用いて有機材料を塗布することによって形成されている。より具体的には、有機EL層50は、赤色に発光する有機EL材料、緑色に発光する有機EL材料、及び青色に発光する有機EL材料をサブ画素部71毎に規定された凹部62に塗り分けることによって形成されている。即ち、有機EL素子72Rは、赤色に発光する有機EL材料からなる有機EL層50を備え、有機EL素子72Gは、緑色に発光する有機EL材料からなる有機EL層50を備え、有機EL素子72Bは、青色に発光する有機EL材料からなる有機EL層50を備えている。
【0037】
バンク部47は、第1バンク部47a及び第2バンク部47bから構成されており、有機EL層50が形成される凹部62を規定する。第1バンク部47aは、SiO、SiO2又はTiO2等の無機材料で構成される無機材料層であり、例えば、保護層45上にCVD(Chemical Vapor Deposition;化学蒸着)法、コート法、スパッタ法等の膜形成法を用いて形成されている。第2バンク部47bは、アクリル樹脂、又はポリイミド樹脂等の有機材料で構成される有機材料層であり、図中上側に向かって先細りとなるテーパー形状を有している。第2バンク部47bは、第1バンク部47a上に有機材料層を形成した後、この有機材料層をフォトリソグラフィ技術等を用いてパターニングすることによって形成されている。第2バンク部47bは、その底部が図中横方向に沿って第1バンク部47aより小さめとなるように形成されている。
【0038】
陽極34は、基板1上に順次形成されたゲート絶縁層2、層間絶縁膜41、保護層45、及び第1バンク部47aのうち第1バンク部47aに埋め込まれるように形成されている。陽極34は、例えば、有機EL層50から図中下側に出射される光を下側に透過するように例えばITO(Indium Tin Oxide)等の透明材料で構成された透明電極である。よって、有機EL装置10は、所謂ボトムエミッション型の有機EL装置である。尚、本発明の発光装置の駆動方法は、封止板20側に向かって光を出射する、所謂トップエミッション型の有機EL装置にも適用可能である。
【0039】
陰極49は、有機EL層50を介して陽極に対向するようにサブ画素部71R、71G及び71Bに共通に形成されている。より具体的には、陰極49は、各サブ画素部70を互いに分ける第2バンク部47bの表面及び各有機EL層50の表面を被うように形成され、異なるサブ画素部71R、71G及び71Bの夫々が有する有機EL素子72R、72G及び72Bに共通とされる共通電極である。陰極49は、有機EL層50から図中上側に出射される光を下側に反射するようにAl等の金属薄膜で構成されている。
【0040】
駆動用トランジスタ74のソース電極74sは、図1に示す電源供給線117に電気的に接続されており、ドレイン電極74dは陽極34に電気的に接続されている。駆動用トランジスタ74は、図1に示すデータ線114を介してゲート電極3aに供給されるデータ信号に応じてオンオフされ、駆動電流を有機EL素子72に供給する。このような素子を含む回路は、有機EL層50から基板1側に出射される光を遮らないように、有機EL層50の下側を避けるように設けられている。また、駆動用トランジスタ74と同様に図1に示すスイッチング用トランジスタ76も基板1上に形成されている。
【0041】
半導体層3は、例えば低温ポリシリコン技術を用いて形成された多結晶シリコン層或いはアモルファスシリコン層である。半導体層3上には、半導体層3を埋め込んで、スイッチング用トランジスタ76及び駆動用トランジスタ74のゲート絶縁層2が形成されている。駆動用トランジスタ74のゲート電極3a及び図1に示す走査線112は、ゲート絶縁層2上に形成されている。走査線112の一部は、スイッチング用トランジスタ76のゲート電極として形成されている。ゲート電極3a及び走査線112は、Al(アルミニウム)、W(タングステン)、Ta(タンタル)、Mo(モリブデン)、Ti(チタン)、銅(Cu)、クロム(Cr)等のうち少なくとも一つを含む金属材料を用いて形成されている。
【0042】
走査線112や駆動用トランジスタ74のゲート電極3aを埋め込んで、ゲート絶縁層2上には層間絶縁層41が形成されている。層間絶縁層41及びゲート絶縁層2は例えばシリコン酸化膜から構成されている。層間絶縁層41上には、例えばアルミニウム(Al)又はITOを含む導電材料から夫々構成される、データ線114及び電源供給線117、更には駆動用トランジスタ74のソース電極74sが形成されている。層間絶縁層41には、層間絶縁層41の表面から層間絶縁層41及びゲート絶縁層2を貫通して、駆動用トランジスタ74の半導体層3に至るコンタクトホール501及び502が形成されている。電源供給線117及びドレイン電極74dを構成する導電膜は、コンタクトホール501及び502の各々の内壁に沿って半導体層3の表面に至るように連続的に形成されている。層間絶縁層41上には、電源供給線117及びドレイン電極74dを埋め込んで、保護層45として例えばシリコン窒化膜(SiNx)ないしシリコン酸化膜(SiOx)が形成されている。保護層45上には、例えばシリコン酸化膜よりなる第1バンク部47aが形成され、更に第1バンク部47a上に第2バンク部47bが形成されている。第1バンク部47a及び第2バンク部47bによって、画素部における有機EL層50の形成領域が規定されている。
【0043】
封止板20は、ガラス、プラスチック等から形成されており、水分が有機EL装置10の外部から有機EL層50に浸入することを防止する。より具体的には、封止板20は、基板1上に接着剤によって接着されており、有機EL素子72が大気に触れないように封止する。封止板20は、例えば封止板20の周縁部にディスペンサ等の塗布手段を用いて塗布された接着剤を介して基板1に接着され、封止されている。これにより、例えば大気中に含まれる水分によって有機EL素子72が劣化することを低減でき、有機EL装置10の寿命を延ばすことが可能である。
【0044】
次に、本実施形態に係る有機EL装置の駆動方法について、図4から図6を参照して説明する。ここに図4は、本実施形態に係る有機EL装置の駆動方法を示すブロック図である。図5は、有機EL材料の温度特性を示すグラフである。図6は、本実施形態に係る温度センサー用有機EL素子の画像表示領域における位置を示す平面図である。
【0045】
図4において、有機EL装置10の動作時には、電流値検出回路190は、温度センサー用有機EL素子79を流れる電流値を、例えば所定時間毎に検出する。電流値検出回路190は、検出した電流値を駆動波形制御回路170へ出力する。
【0046】
温度センサー用有機EL素子79は、複数の画素部70に夫々設けられた有機EL素子72のうち、温度センサーとして機能させるために予め選択されたものである。本実施形態では、後述するように、画像表示領域110における複数箇所の画素部70の有機EL素子72が、温度センサー用有機EL素子79として、予め選択されている。温度センサー用有機EL素子79は、電流値検出回路190と電気的に接続されている。
【0047】
電流値検出回路190は、温度センサー用有機EL素子79の発光時(即ち、表示用の印加電圧が印加された時)に流れる電流値を検出する。尚、本実施形態の変形例として、温度センサー用有機EL素子79が、表示に寄与しない非表示期間に、温度センサー用有機EL素子79に表示に影響を与えない程度に微弱な所定電圧を印加して、電流値を検出するようにしてもよい。この場合には、予め定めた所定電圧を一定期間だけ温度センサー用有機EL素子79に印加できるので、温度センサー用有機EL素子79に安定した電流を流すことができ、電流値を精度良く検出できる。
【0048】
駆動波形制御回路170は、電流値検出回路190からの電流値に基づいて、温度センサー用有機EL素子79の温度を算出し、算出した温度に基づいて、所望の発光輝度が得られるように駆動波形に係る補正データを生成して、データ線駆動回路150へ出力する。
【0049】
図5に示すように、有機EL素子72の有機EL層50に用いられる有機EL材料は、温度が上がると抵抗が下がり、温度が下がると抵抗が上がるという温度特性を有している。即ち、図5中のグラフC1、C2、C3及びC4は夫々、80℃、50℃、25℃、及び−30℃の一定温度下における有機EL材料に印加する電圧とそのときの電流密度との関係を示している。例えば、同じ電圧を印加した場合には、温度が低いほど電流密度が小さくなる、即ち、グラフC1、C2、C3及びC4の順で電流密度が小さくなる。逆に言えば、同じ電流密度を有機EL材料に発生させるためには、温度が低いほど大きな電圧を印加する必要がある、即ち、グラフC1、C2、C3及びC4の順で大きな電圧を印加する必要がある。例えば、図5中の差分W1に示すように、所定の電流密度を発生させるためには、80℃では(グラフC1参照)約3.5Vの電圧が必要なのに対し、−30℃では(グラフC4参照)約6Vの電圧が必要となる。即ち、温度差が約110℃に対し、必要な電圧の差は約2.5Vである。つまり、所定電流を印加するのに必要な電圧の単位温度当たりの変化量は、23mV/℃である。有機EL材料はこのような比較的に大きな温度特性(即ち、5mV/℃以上の温度特性)を有しているので、このような有機EL材料からなる有機EL層を含む有機EL素子を温度センサーとして機能させることができる。即ち、温度センサー用有機EL素子79に印加した電圧と、電流値検出回路190によって検出された温度センサー用有機EL素子79の電流値とから温度センサー用有機EL素子79の温度を算出できる。
【0050】
上述したように、駆動波形制御回路170は、このように算出した温度に基づいて、所望の発光輝度が得られるように駆動波形に係る補正データを生成する。ここで「補正データ」は、予め設定された温度に対応して決まる駆動波形と、算出された温度に対応して決まる駆動波形との差が小さくなるように、駆動波形の例えば幅、高さ、形状或いは突入電流形状等のパラメータを変更するためのデータである。即ち、例えば、予め設定された温度において所望の発光輝度で有機EL層50を発光させるのに必要な印加電流と、検出された温度において所望の発光輝度で有機EL層50を発光させるのに必要な印加電流との差を小さくする(即ち、補正する)ためのデータである。
【0051】
データ線駆動回路150は、駆動波形制御回路170からの補正データと表示データとから画素部70を駆動するための駆動波形を生成し、生成した駆動波形をデータ線114を介して画素部70に供給する。よって、温度センサー用有機EL素子79を含む、有機EL素子72には、検出された温度に応じた駆動波形の印加電流が印加される。言い換えれば、温度センサー用有機EL素子79の電流値が、駆動波形制御回路170へフィードバックされることにより、有機EL素子72の温度に応じて調整された駆動波形の印加電流が、有機EL素子72に印加される。従って、例えば、動作時における、有機EL素子72が発光する際に生じる熱や、TFT74及び76等からの発熱による、有機EL素子72の温度変化が発生しても、画素部70の輝度が所望の輝度となるように制御できる。
【0052】
更に、本実施形態では、画素部70に設けられた有機EL素子72のうちから選択された温度センサー用有機EL素子79の電流値に基づいて、温度を算出するので、仮に画像表示領域110とは異なる領域に設けられた例えば温度センサー回路によって温度が検出される場合に比較して、画素部70の近くで有機EL素子72の温度を検出できる。従って、より精度良く温度を検出できる。
【0053】
尚、本実施形態では、温度センサー用有機EL素子79の電流値を検出するために電流値検出回路190を、駆動波形制御回路170とは別個に設けているが、駆動波形制御回路170によって、温度センサー用有機EL素子79の電流値を検出するようにしてもよい。また、本実施形態では、電流値検出回路190によって温度センサー用有機EL素子79の電流値を検出し、駆動波形制御回路170によって検出された電流値に基づいて温度を算出するようにしているが、温度センサー用有機EL素子79の電流値を検出し、検出した電流値に基づいて温度を算出する温度検出回路を設けてもよい。
【0054】
加えて、本実施形態では特に、画素部70に形成された有機EL素子72の温度特性を利用して、有機EL素子72の温度を検出するので、例えば画素部70に形成された有機EL素子72とは別に温度を検出するための温度センサー回路を形成する場合と比較して、製造プロセスの複雑化を殆ど或いは全く必要としない。
【0055】
図6に示すように、本実施形態では特に、画像表示領域110の中央部に配置された画素部70aに含まれる有機EL素子72及び画像表示領域110における周縁部における4つの画素部70bに夫々含まれる有機EL素子72が、温度センサー用有機EL素子79として選択される。即ち、画像表示領域110における複数の温度センサー用有機EL素子79の電流値が、電流検出回路190によって夫々検出され、駆動波形制御回路170によって複数の温度センサー用有機EL素子79の温度が夫々算出される。よって、画像表示領域110における複数の画素部70の温度分布を算出することができる。従って、複数の画素部70に印加する駆動波形を、複数の画素部70の温度分布に応じて、上述した駆動波形制御回路170によって補正することにより、複数の画素部70の温度分布に起因した画像表示領域110における輝度ばらつきを低減或いは防止できる。特に、画像表示領域110が広い(即ち、基板1及び封止板20、或いは発光パネルのサイズが大きい)場合、複数の画素部70の温度分布が生じ易く、画像表示領域110における輝度ばらつきが発生しやすいので、温度センサー用有機EL素子の電流値に基づいて算出された複数の画素部70の温度分布に応じて駆動波形を補正することは、極めて有効である。
【0056】
更に、図6に示すように、本実施形態では特に、画素部70a及び70bの各々を構成するサブ画素部に含まれる有機EL素子72R、72G及び72Bが、温度センサー用有機EL素子79R、79G及び79Bとして選択されている。即ち、有機EL材料が異なる温度センサー用有機EL素子79R、79G及び79Bの各々の電流値に基づいて、それぞれの温度が検出される。そして、駆動波形回路170によって、有機EL素子72R、72G及び72B毎に駆動波形に係る補正データが生成され、データ線駆動回路150によって、RGB毎に補正された駆動波形の印加電流が有機EL素子72R、72G及び72Bに夫々印加される。よって、RGB独立発光のパネルおいて生じ得る、パネル中心部と端部での発光画素温度が異なることに起因した色ずれを低減或いは防止できる。即ち、RGB画素毎に精度良く温度を検出し、RBG画素毎の印加電流の算出にフィードバックすることで、温度差に起因した色ずれを一層低減或いは無くすことができる。
【0057】
尚、本実施形態では、画素部70を構成するサブ画素部のそれぞれに含まれる有機EL素子72R、72G及び72Bを一組として、温度センサー用有機EL素子として選択したが、例えば有機EL素子72Rだけのように1つの有機EL素子72を選択してもよいし、例えば有機EL素子72R及び72Bのように2つの有機EL素子72を選択してもよい。
【0058】
以上説明したように、本実施形態の有機EL装置の駆動方法によれば、複数の画素部70の各々に含まれる有機EL素子72のうち温度センサー用有機EL素子79の温度を検出し、検出された温度に応じて補正した印加電流を有機EL素子72に印加するので、高品質な画像表示が可能となる。特に、温度センサー用有機EL素子79の温度特性を利用して、温度センサー用有機EL素子79の温度を検出するので、画像表示領域110内での温度検出が可能であると共に、製造プロセスの複雑化を殆ど或いは全く必要としない。
【0059】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う発光装置の駆動方法もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】第1実施形態に係る有機EL装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態に係る有機EL装置の概略構成を示す平面図である。
【図3】図2のA−A´線断面図である。
【図4】第1実施形態に係る有機EL装置の駆動方法を示すブロック図である。
【図5】有機EL材料の温度特性を示すグラフである。
【図6】第1実施形態に係る温度センサー用有機EL素子の画像表示領域における位置を示す平面図である。
【符号の説明】
【0061】
1…基板、10…有機EL装置、20…封止板、47…バンク部、72…有機EL素子、74、76…TFT、79…温度センサー用有機EL素子、110…画像表示領域、130…走査線駆動回路、150…データ線駆動回路、170…駆動波形制御回路、190…電流値検出回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示領域に発光素子を夫々含む複数の画素部が設けられた発光装置を駆動するための発光装置の駆動方法であって、
前記複数の画素部のうち少なくとも一つの画素部に含まれる前記発光素子の電流値を検出することにより、前記発光素子の温度を検出する温度検出工程と、
該温度検出工程によって検出された温度に応じて、前記発光素子が所定の輝度で発光するために前記発光素子に印加すべき印加電流を算出する印加電流算出工程と、
前記印加電流を前記発光素子に印加する電流印加工程と
を含むことを特徴とする発光装置の駆動方法。
【請求項2】
前記発光素子は、R(赤)、G(緑)及びB(青)の各色のいずれかを発光する発光層を夫々含む3種類の発光素子であり、
前記温度検出工程は、前記3種類の発光素子の各々の温度を検出し、
前記印加電流算出工程は、前記3種類の発光素子の各々の前記印加電流を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の発光装置の駆動方法。
【請求項3】
前記発光素子は、5mV/℃以上の温度特性を有する発光材料を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の発光装置の駆動方法。
【請求項4】
前記温度検出工程は、前記少なくとも一つの画素部に含まれる前記発光素子に所定電圧を印加して、前記電流値を検出することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の発光装置の駆動方法。
【請求項5】
前記温度検出工程は、前記表示領域における複数箇所の画素部に含まれる前記発光素子の温度を夫々検出することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の発光装置の駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−240812(P2007−240812A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−62162(P2006−62162)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】