説明

発光量子効率測定装置

【課題】強い発光異方性を示す発光体試料の発光を容易かつ確実に等方化して、その発光体試料の発光量子効率を精度よく測定できる発光量子効率測定装置を提供する。
【解決手段】発光量子効率測定装置は、積分球1の中心を含む平面上の直交する方向に、励起光導入窓2と、分光器へつながる検出プローブ端3とを有する発光量子効率測定装置において、該積分球1の内部であって、中心から該平面に対する垂線上に発光体試料5が配置され、該検出プローブ端3から発光体試料5を見通す位置にバッフル板7が置かれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光発光体の発光量子効率を高精度で測定するための発光量子効率測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蛍光発光体の発光量子効率は、それを発光材料として用いた発光素子の発光性能を評価するのに重要な値である。発光量子効率(η)は、発光体試料が吸収する励起光のフォトン数(NEX)と、その発光体試料からの発光で放出されるフォトン数(NEM)とを用いた次の式で求められる。
【0003】
η=NEM/NEX
発光体試料からの発光は、多くの場合等方性であり全方位に及ぶ。しかし、発光体試料の中には、例えば平板型結晶の一部の面からのみ強く発光するような、発光異方性を示す材料もある。発光体試料が発光異方性を示す場合、ある一方向のみから観測したNEMをもって算出される発光量子効率は信頼性が非常に低い。そこで、発光体試料からの発光を等方化して発光量子効率を測定するために、通常積分球が使用される。積分球はその内壁が光散乱反射材でコーティングされており、発光体試料からの発光が積分球内で乱反射を繰り返す結果、試料の発光異方性が解消される。特許文献1には、積分球を用いた固体試料の絶対蛍光量子効率の測定方法及び装置が開示されている。
【0004】
積分球内の発光体試料は、外から導入される励起光が発光体試料の表面で正反射され、再度導入窓を経由して積分球外へ出て行くのを防ぐために、通常傾斜試料台にのせて傾けた状態で設置される。積分球の中心付近に試料を設置するには、試料を支えるための支持棒が用いられる。これらの場合、傾斜試料台や支持棒の表面に、積分球内壁と同様の光散乱反射材をコーティングするための特殊な表面処理を施さなければならない。この表面処理が不完全であると、発光体試料からの発光の等方化を妨げてしまう。また、傾斜試料台や支持棒に適切な表面処理を施しても、その存在が影を残して影響し、発光の等方化を損ねる恐れがある。発光体試料の発光異方性が著しい場合は特に、その発光を確実に等方化することが困難である。
【0005】
【特許文献1】特開2003−215041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、強い発光異方性を示す発光体試料の発光を容易かつ確実に等方化して、その発光体試料の発光量子効率を精度よく測定できる発光量子効率測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された発光量子効率測定装置は、積分球の中心を含む平面上の直交する方向に、励起光導入窓と、分光器へつながる検出プローブ端とを有する発光量子効率測定装置において、該積分球の内部であって、中心から該平面に対する垂線上に発光体試料が配置され、該検出プローブ端から発光体試料を見通す位置にバッフル板が置かれていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発光量子効率測定装置は、請求項1に記載されたもので、該発光体試料から該励起光導入窓への延長線上であって、該積分球の外部に励起光源が配置されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発光量子効率測定装置は、請求項1に記載されたもので、該発光体試料の設置台が該積分球の外部から内部に向けて着脱可能に取付けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の発光量子効率測定装置は、発光体試料を積分球内の下極部に水平に設置し、発光体試料を励起させる励起光を積分球の赤道線上から球内に導入する構成としたので、積分球内に傾斜試料台や支持棒のような乱反射を妨げる異物を設置する必要がない。そのため、強い発光異方性を示す発光体試料の発光であっても積分球内でより確実に等方化される。従って、この発光量子効率測定装置を用いれば、どのような発光体試料であっても高い精度で再現性よくその発光量子効率を測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0012】
本発明の実施の形態の一例である発光量子効率測定装置を、図1〜図3を参照しながら説明する。
【0013】
本発明の発光量子効率測定装置は、図1及び図2に示した積分球1を少なくとも備えている。積分球1には、発光体試料を励起する励起光を入射させる励起光導入窓2と、積分球内で等方化した光を分析する分光器へとつながる検出プローブ端3とが、積分球1の中心を含む平面上の直交する方向、例えば図1のz軸を中心軸とした積分球1の赤道線(点線示)上に設けられている。検出プローブ端3の積分球上の経度は、励起光導入窓2の経度に対して90度である。発光体試料5は、積分球1内部の中心から前記中心を含む平面に対する垂線上、例えば図1のz軸を中心軸とした積分球1内部の下極部に直接水平に設置される。発光体試料5と検出プローブ端3との間には、試料5からの発光が検出プローブ端3に直接入射してしまうのを遮るためのバッフル板7が設けられている。積分球1の内壁とバッフル板7の表面とは、光反射材である硫酸バリウムでコーティングされている。
【0014】
積分球1の外部に設けられた励起光源(不図示)から励起光導入窓2を通して積分球内に入射した励起光(不図示)は、発光体試料5を角度を持って照射し、励起光を受けた発光体試料5は励起されて発光する。発光した光は積分球1内で乱反射を繰り返して等方化される。積分球1内には傾斜試料台や支持棒のような乱反射を妨げる異物が存在しないため、部位によって発光の強度が異なる発光異方性の強い試料からの発光でも、より確実に等方化される。
【0015】
等方化された発光は検出プローブ端3から検出されて、スペクトルメーターのような分光器(不図示)で測定され、その発光体試料の発光量子効率が算出される。この発光量子効率の算出には、公知の演算式を使用できる。尚、発光体試料の発光量子効率を求める際には、分光放射照度標準電球の光と使用する励起光との分光スペクトルをあらかじめ測定し、その各測定スペクトルデータを用いて、使用する積分球と分光器との校正を行っておく。具体的な校正手順は以下のとおりである。
【0016】
分光放射照度標準電球と直流安定化電源と標準電球及び発光量子効率測定装置設置架台とを用いて分光感度校正を行う。まず分光放射照度標準電球を規定の位置に設置して定格で点灯し、積分球に入射した光を分光スペクトル測定する。
【0017】
コンピュータには予め分光放射照度標準電球の検査データを登録しておき、検査データ(STD:単位μW/cm・nm)と測定スペクトルデータ(MESstd:単位count)とから分光感度校正値(CAL:単位count/μW/cm・nm)を求める。次に、発光体試料を設置していない積分球に励起光を照射し、励起光の分光スペクトルを測定する。そしてその測定スペクトルデータ(MESblank:単位count)と前記分光感度校正値(CAL)との演算より、励起光の分光放射強度(Ex:単位μW/cm・nm)を求める。次いで、発光体試料を積分球の規定の位置に設置して励起光を照射し、発光体試料の分光スペクトルを測定する。そしてその測定スペクトルデータ(MESsample:単位count)と前記分光感度校正値(CAL)との演算より、発光体試料からの発光の分光放射強度(Em:単位μW/cm・nm)を求める。このようにして求めた値から、発光体試料の発光量子効率を算出する。予め励起光の波長範囲(Wave(1))と発光体試料からの発光の波長範囲(Wave(2))とを規定しておく。前記Exの波長範囲Wave(1)でのフォトン数(Ex(1))と、前記Emの波長範囲Wave(1)でのフォトン数(Em(1))と、上記Emの波長範囲Wave(2)でのフォトン数(Em(2))とを計算する。Ex(1)からEm(1)を引くと発光体試料が吸収したフォトン数(Abs)が算出され、Em(2)をAbsで割ると、その発光体試料の発光量子効率が算出される。
【0018】
前記分光器は、検出プローブ端3に直接接続してもよく、光ファイバー8を介して検出プローブ端3に接続してもよい。
【0019】
前記検出プローブ端3は、図1のz軸を中心軸とした積分球1上の経度が、前記励起光導入窓2の経度に対して90度または270度の位置に設けられていることが特に好ましいが、前記励起光導入窓2の経度に対して180度の位置でなければどの経度に位置していてもよい。
【0020】
前記積分球は、図3に示すように、前記発光体試料5を設置するための試料設置用ポート4と水平設置台6とが、前記積分球の外部から内部に向けて着脱可能に設けられていてもよい。水平設置台6の高さは、試料設置用ポート4からわずかにはみ出しているとよい。この時、検出プローブ端3から最も遠い発光体試料5のエッジとバッフル板7のエッジとを結んだ線と、検出プローブ端3に近い側の積分球壁面との交点である点A(図3参照)が、検出プローブ端3よりも高くなるように、水平設置台6の高さを調節する。水平設置台6は、水平な試料設置面を有していればどのような形状でもよいが、直径が試料設置用ポート4の内径と同一の円筒形であると好ましい。試料設置用ポート4の内壁と水平設置台6の表面とは、積分球内壁と同様の光反射材でコーティングされている。
【実施例】
【0021】
本発明を適用する発光量子効率測定装置を用いて発光体試料の発光量子効率を測定した例を実施例1に、本発明を適用外の発光量子効率測定装置を用いて発光体試料の発光量子効率を測定した例を比較例1に、それぞれ示す。
【0022】
(実施例1)
強い発光異方性を示す発光体試料として、下記化学式(1)に示す有機蛍光体の平板型単結晶を用いた。この有機蛍光体は、平板型結晶のエッジ部のみから強い発光を示すものである。この発光体試料を、図2に示した構成の積分球内の下極部に水平にセットし、その発光量子効率を測定した。この積分球は、その内壁とバッフル板の表面とが硫酸バリウムでコーティングされている。また、励起光導入窓と検出プローブ端とは積分球の赤道線上に設けられており、励起光導入窓の経度に対する検出プローブ端の経度は90度である。励起光は、中心波長397nm、半値幅15nmの発光ダイオードを使用した。尚、同じ発光体試料を用いて、同様の測定を6回繰り返した。
【0023】
【化1】

【0024】
(比較例1)
実施例1で使用した積分球に代えて、発光体試料を積分球下極部に傾斜試料台を用いて設置し、励起光が積分球の上極部から入射する従来の積分球を用いたこと以外は実施例1と同様にして、発光体試料の発光量子効率を測定した。
【0025】
それぞれの測定結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1から明らかなように、本発明の発光量子効率測定装置を用いて測定した発光量子効率は、どの測定回でもばらつきがなく、ほぼ同様の値が得られた。これに対して比較例1で測定した発光量子効率は、同じ発光体試料を同様の条件で測定したにもかかわらず測定回によってばらつきが大きく、最高値と最低値との間で0.220もの差がみられた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の発光量子効率測定装置は、強い発光異方性を示す発光材料の発光量子効率を高精度で再現性よく測定するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明を適用する発光量子効率測定装置で使用される積分球の斜視図である。
【図2】本発明を適用する発光量子効率測定装置で使用される積分球の断面図である。
【図3】本発明を適用する発光量子効率測定装置で使用される積分球に水平設置台を設けて発光体試料を設置する際の断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1は積分球、2は励起光導入窓、3は検出プローブ端、4は試料設置用ポート、5は発光体試料、6は水平設置台、7はバッフル板、8は光ファイバーである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積分球の中心を含む平面上の直交する方向に、励起光導入窓と、分光器へつながる検出プローブ端とを有する発光量子効率測定装置において、該積分球の内部であって、中心から該平面に対する垂線上に発光体試料が配置され、該検出プローブ端から発光体試料を見通す位置にバッフル板が置かれていることを特徴とする発光量子効率測定装置。
【請求項2】
該発光体試料から該励起光導入窓への延長線上であって、該積分球の外部に励起光源が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の発光量子効率測定装置。
【請求項3】
該発光体試料の設置台が該積分球の外部から内部に向けて着脱可能に取付けられていることを特徴とする請求項1に記載の発光量子効率測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−8509(P2009−8509A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−169556(P2007−169556)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(503278393)株式会社システムズエンジニアリング (5)
【Fターム(参考)】