説明

発振器

【課題】温度変動に対して一定の出力電圧振幅を確保するとともに、消費電力を低く抑えた低消費電力な発振器を提供する。
【解決手段】圧電振動子10と、圧電振動子10を発振させ発振信号22を出力する発振回路20と、発振信号aを入力するバッファー回路30と、バッファー回路30の出力信号bを出力するNchトランジスターN1とPchトランジスターP1とを含むプッシュプル型出力回路40と、NchトランジスターN1のゲート端子に接続されたNchカレントミラー回路50と、PchトランジスターP1のゲート端子に接続されたPchカレントミラー回路60とを含み、第1のカレントミラー回路がNchトランジスターN1の温度特性を補償し、第2のカレントミラー回路がPchトランジスターP1の温度特性を補償することによって、プッシュプル型出力回路40が持つ温度特性をキャンセルさせ、温度変動によらずほぼ一定の電圧振幅を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振器に関し、特に電源ノイズによる位相ノイズ特性の劣化を防止しつつ、小型化を図った発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話等の移動体通信における携帯機器の小型軽量化が強く求められ、これら携帯機器の周波数基準として用いられる水晶発振器においても小型化が求められている。小型化の要求に応えるために、水晶発振器の安定化電源の出力回路に挿入するバイパスコンデンサーを省くと、発振出力に不要な高周波スペクトル成分が現れ、安定化電源が発するノイズ成分によって、発振出力信号が位相変調を受けやすくなり、位相ノイズ特性におけるノイズフロアが劣化する、といった問題があった。
【0003】
この問題を解決するために、例えば特許文献1には、CMOSプッシュプル出力回路の前段のインバーターのPch型MOSトランジスターのソースにデプレッション型のNch型MOSトランジスターを配置し、前段インバーターの駆動電流を電源端子から供給する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−74416号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法では、最終段のCMOSプッシュプル出力回路を構成するMOSトランジスターが持つ温度特性により、出力の電圧振幅レベルが温度によって変動し、それに伴って電力消費も増加する側へ大きく変動するため、更なる低消費電力化が難しいという課題がある。例えば、高温時ではMOSトランジスターは駆動能力が高くなる特性がある。その為、CMOSプッシュプル出力回路のゲート側の電圧振幅やDCバイアス電位を安定させても、OUT端子側の電圧振幅は低温状態と比較して必要以上に大きくなる場合がある。そしてこれに伴い水晶発振器の消費電流も増加してしまい、この結果、広い温度範囲にわたって消費電流を安定して低く抑えるのが困難となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
圧電振動子と、前記圧電振動子を発振させ発振信号を出力する発振回路と、前記発振信号を入力するバッファー回路と、前記バッファー回路が出力した信号をインピーダンス変換した信号を出力する第1のトランジスターと第2のトランジスターとを含むプッシュプル型出力回路と、前記第1のトランジスターのゲート端子に接続された第1のカレントミラー回路と、前記第2のトランジスターのゲート端子に接続された第2のカレントミラー回路と、を含む、ことを特徴とする発振器。
【0008】
この構成によれば、第1のカレントミラー回路がプッシュプル型出力回路を構成する第1のトランジスターの温度特性を打ち消し、第2のカレントミラー回路がプッシュプル型出力回路を構成する第2のトランジスターの温度特性を打ち消すように働くことで、プッシュプル型出力回路の出力電圧振幅レベルが温度変動によらずほぼ一定となるので、消費電流の変動も抑えられ、高温時でも消費電力を低く抑えた低消費電力な発振器を実現することができる。
【0009】
[適用例2]
上記に記載の発振器において、前記第1のトランジスター及び前記第1のカレントミラー回路はNchトランジスターで構成され、前記第2のトランジスター及び前記第2のカレントミラー回路はPchトランジスターで構成されていることを特徴とする発振器。
【0010】
この構成によれば、第1のカレントミラー回路がプッシュプル型出力回路を構成する第1のトランジスターの温度特性を打ち消し、第2のカレントミラー回路がプッシュプル型出力回路を構成する第2のトランジスターの温度特性を打ち消すように働くことで、プッシュプル型出力回路の電圧振幅レベルが温度変動によらずほぼ一定となるので、消費電流の変動も抑えられ、高温時でも消費電力を低く抑えた低消費電力な発振器を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施形態に係る発振器の構成を示す回路図。
【図2】第1実施形態に係る発振器の動作を示すグラフ。
【図3】変形例1に係る発振器の構成を示す回路図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発振器の実施形態について図面に従って説明する。
【0013】
(第1実施形態)
<発振器の構成>
先ず、第1実施形態に係る発振器の構成について、図1を参照して説明する。図1は、第1実施形態に係る発振器の構成を示す回路図である。
【0014】
図1に示すように、発振器1は、圧電振動子10と、発振回路20と、バッファー回路30と、プッシュプル型出力回路40と、第1のカレントミラー回路であるNchカレントミラー回路50と、第2のカレントミラー回路であるPchカレントミラー回路60と、コンデンサーC5と、から構成されている。発振回路20は、圧電振動子10を発振させた発振信号aを出力線22から出力する。バッファー回路30は、入力端子が出力線22と接続され、発振信号aを入力し、出力信号bを出力線31から出力する。プッシュプル型出力回路40は、出力線31と接続され、出力信号bを入力し、これをインピーダンス変換し、コンデンサーC5を介して出力信号OUTとして出力する。
【0015】
発振回路20は、発振増幅用のインバーター21と帰還抵抗R1とコンデンサーC1,C2とから構成されている。帰還抵抗R1と圧電振動子10は発振増幅用のインバーター21に並列に接続されている。コンデンサーC1は、発振増幅用のインバーター21の入力端子と接地電位との間に接続されている。コンデンサーC2は、発振増幅用のインバーター21の出力端子と接地電位との間に接続されている。発振増幅用のインバーター21は、一定電圧である安定化電源電圧Vregにより駆動する。同様に、バッファー回路30についても、一定電圧である安定化電源電圧Vregにより駆動する。
【0016】
プッシュプル型出力回路40は、第1のトランジスターであるNchトランジスターN1と、第2のトランジスターであるPchトランジスターP1と、コンデンサーC3,C4と、抵抗R8,R9と、から構成されている。NchトランジスターN1とPchトランジスターP1とは、電源電位Vccと接地電位との間に直列に接続されている。NchトランジスターN1のソース端子及びPchトランジスターP1のソース端子はコンデンサーC5の一方の端子に接続されている。
【0017】
コンデンサーC3は、出力線31とNchトランジスターN1のゲート端子との間に接続されている。コンデンサーC4は、出力線31とPchトランジスターP1のゲート端子との間に接続されている。抵抗R8は、Nchカレントミラー回路50の出力線51とNchトランジスターN1のゲート端子との間に接続されている。抵抗R9は、Pchカレントミラー回路60の出力線61とPchトランジスターP1のゲート端子との間に接続されている。
【0018】
Nchカレントミラー回路50は、NchトランジスターN2,N3と、抵抗R5,R6,R7と、から構成されている。NchトランジスターN2は、ソース端子が接地電位に接続され、ゲート端子がドレイン端子及びNchトランジスターN3のゲート端子と接続され、ドレイン端子が抵抗R5を介して安定化電源電圧Vregに接続されている。NchトランジスターN3は、ソース端子が接地電位に接続され、ゲート端子がNchトランジスターN2のゲート端子と接続され、ドレイン端子が抵抗R6,R7を介して安定化電源電圧Vregに接続されている。抵抗R6と抵抗R7との接続線は、出力線51となる。Nchカレントミラー回路50は、NchトランジスターN2,N3によりカレントミラー回路を構成し、抵抗R6,R7で抵抗分割した電圧cが出力線51から出力される。
【0019】
Pchカレントミラー回路60は、PchトランジスターP2,P3と、抵抗R2,R3,R4と、から構成されている。PchトランジスターP2は、ソース端子が安定化電源電圧Vregに接続され、ゲート端子がドレイン端子及びPchトランジスターP3のゲート端子と接続され、ドレイン端子が抵抗R2を介して接地電位に接続されている。PchトランジスターP3は、ソース端子が安定化電源電圧Vregに接続され、ゲート端子がPchトランジスターP2のゲート端子と接続され、ドレイン端子が抵抗R3,R4を介して接地電位に接続されている。抵抗R3と抵抗R4との接続線は、出力線61となる。Pchカレントミラー回路60は、PchトランジスターP2,P3によりカレントミラー回路を構成し、抵抗R3,R4で抵抗分割した電圧dが出力線61から出力される。
【0020】
<発振器の動作>
次に、第1実施形態に係る発振器の動作について、図2を参照して説明する。図2は、第1実施形態に係る発振器の動作を示すグラフである。
【0021】
図2(a)は、Nchカレントミラー回路50に流れる電流ISと温度との関係を示すグラフである。図2(a)に示すように、Nchカレントミラー回路50に流れる電流ISは、温度の上昇とともに増加する。
【0022】
図2(b)は、プッシュプル型出力回路40のNchトランジスターN1のゲート電圧Vgと温度との関係を示すグラフである。図2(b)に示すように、NchトランジスターN1のゲート電圧Vgは、温度の上昇とともに減少する。
【0023】
図2(c)は、出力信号OUTの電圧振幅レベルと温度との関係を示すグラフである。図2(c)に示すように、出力信号OUTは、温度の上昇に伴い電流ISが増加する特性と温度の上昇に伴いゲート電圧Vgが減少する特性とが打ち消しあうので、温度の変動に対して安定する。
【0024】
Pchカレントミラー回路60及びプッシュプル型出力回路40のPchトランジスターP1に関しても、同様の効果が得られる。
【0025】
以上に述べた本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
【0026】
本実施形態では、Nchカレントミラー回路50がプッシュプル型出力回路40を構成するNchトランジスターN1の温度特性を打ち消し、Pchカレントミラー回路60がプッシュプル型出力回路40を構成するPchトランジスターP1の温度特性を打ち消すように働くことで、プッシュプル型出力回路40の出力信号OUTの電圧振幅レベルが温度変動によらずほぼ一定となるので、消費電流の変動も抑えられ、高温時でも消費電力を低く抑えた低消費電力な発振器1を実現することができる。
【0027】
以上、発振器の実施形態を説明したが、こうした実施の形態に何ら限定されるものではなく、趣旨を逸脱しない範囲内において様々な形態で実施し得ることができる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0028】
(変形例1)発振器の変形例1について説明する。図3は、変形例1に係る発振器3の構成を示す回路図である。図3に示すように、Nchカレントミラー回路150は、第1実施形態のNchカレントミラー回路50の抵抗R6,R7の換わりに可変抵抗VR6,VR7が用いられている。また、Pchカレントミラー回路160は、第1実施形態のPchカレントミラー回路60の抵抗R3,R4の換わりに可変抵抗VR3,VR4が用いられている。可変抵抗VR3,VR4,VR6,VR7の抵抗値は、記憶回路170に記憶されたデータDAに基づき設定することができる。
【0029】
この構成によれば、半導体の製造時におけるプロセス変動などに起因してトランジスターの閾値が変動した場合においても、プッシュプル型出力回路40の駆動能力を調整することが可能となり、安定した出力信号OUTを得ることができる。
【符号の説明】
【0030】
1…発振器、10…圧電振動子、20…発振回路、21…インバーター、22…出力線、30…バッファー回路、31…出力線、40…プッシュプル型出力回路、50…Nchカレントミラー回路、51…出力線、60…Pchカレントミラー回路、61…出力線、150…Nchカレントミラー回路、160…Pchカレントミラー回路、170…記憶回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電振動子と、
前記圧電振動子を発振させ発振信号を出力する発振回路と、
前記発振信号を入力するバッファー回路と、
前記バッファー回路が出力した信号をインピーダンス変換した信号を出力する第1のトランジスターと第2のトランジスターとを含むプッシュプル型出力回路と、
前記第1のトランジスターのゲート端子に接続された第1のカレントミラー回路と、
前記第2のトランジスターのゲート端子に接続された第2のカレントミラー回路と、
を含む、
ことを特徴とする発振器。
【請求項2】
請求項1に記載の発振器において、前記第1のトランジスター及び前記第1のカレントミラー回路はNchトランジスターで構成され、前記第2のトランジスター及び前記第2のカレントミラー回路はPchトランジスターで構成されていることを特徴とする発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−193330(P2010−193330A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37386(P2009−37386)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】