説明

発振装置及び圧電素子の製造方法

【課題】圧電素子を利用し、かつ新規の構造を有する発振装置を提供する。
【解決手段】支持部材40は開口42を有している。圧電フィルム22は開口42の内周面に密着しており、圧電効果を有する樹脂材料から構成されている。第1電極24は圧電フィルム22の一面に接しており、第2電極は圧電フィルム22の他面に接している。この発振装置は、例えばパラメトリックスピーカの発振源や、音波センサの発振源として使用される。ここでのパラメトリックスピーカは、例えば電子機器(例えば、携帯電話機、ラップトップ型パーソナルコンピュータ、小型ゲーム機器など)の音源として使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振装置及び圧電素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スピーカなどの音響素子の駆動源として、その取扱いの容易さから電磁式アクチュエータが利用される場合が多い。電磁式アクチュエータは、永久磁石とボイスコイルから構成されており、磁石を用いたステータの磁気回路の作用により振動を生じるものである。また、電磁式アクチュエータを駆動源として用いる電磁式スピーカは、電磁式アクチュエータの振動部に固定された、有機フィルム等の低剛性な振動板が振動することにより音を発生するものである。
【0003】
近年、携帯電話機やノート型パーソナルコンピュータの需要が増えており、これに伴って、小型かつ省電力のアクチュエータの需要が高まりつつある。しかしながら、電磁式アクチュエータは、動作時にボイスコイルへ多量の電流を流す必要があることから、省電力性には問題がある。また電磁式アクチュエータは、その構造上、小型薄型化にも不向きである。
【0004】
一方、近年は、電磁式アクチュエータに代わる薄型振動部品として、圧電セラミックスなどの圧電素子を駆動源とした圧電アクチュエータが開発されている(例えば特許文献1〜5)。圧電アクチュエータは、圧電素子を用いて機械的振動を発生させるものであり、例えば圧電セラミック素子(単に「圧電素子」ともいう)と支持部材とが接合された構造を有している。圧電アクチュエータは、小型軽量、省電力、無漏洩磁束などの特徴を有している。
【0005】
ところで、圧電アクチュエータは薄型化には有利であるが、電磁式アクチュエータと比較して音響素子(例えばスピーカー)としての音響性能に劣るという一面がある。具体的には、圧電素子自体が高剛性で、機械Q値が高いため、電磁型アクチュエータに比べて、共振周波数近傍では大振幅を得ることができるが、共振周波数以外の帯域では振幅が小さくなってしまう。
【0006】
特許文献1、2には、アクチュエータの振動振幅を増大させるため、支持部材の外周部を比較的変形し易い梁で支持するようにした構成が開示されている。また、特許文献3には、同様の趣旨で、支持部材の周辺部に円周に沿ってスリットを入れた板バネを構成し、大きな振動振幅を得るようにした技術も開示されている。また、特許文献4には、湾曲型の支持体を介して支持部材の外周部と支持体を接合し、周波数特性をブロード化する技術が開示されている。なお、特許文献1〜3に記載の技術は、圧電アクチュエータをバイブレータとして使用するときの技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−168971号公報
【特許文献2】特開2000−140759号公報
【特許文献3】特開2001−17917号公報
【特許文献4】特開2001−339791号公報
【特許文献5】国際公開第2007/060768号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、例えば圧電素子をスピーカの発振源として用いる場合など、発振特性に周波数依存性を持たせないほうが好ましい場合がある。しかし、発振特性の周波数依存性を低くし、かつ発振出力を大きくすることは難しかった。発振特性の周波数依存性を低くし、かつ発振出力を大きくするためには、新規の構造を有する発振装置を作製することが好ましい。
【0009】
本発明の目的は、圧電素子を利用し、かつ新規の構造を有する発振装置及び圧電素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、開口を有する支持部材と、
前記開口の内周面に密着しており、圧電効果を有する樹脂材料からなる圧電体と、
前記圧電体の一面に接する第1電極と、
前記圧電体の他面に接する第2電極と、
を備える発振装置が提供される。
【0011】
本発明によれば、開口を有する支持部材の前記開口内に、圧電効果を有する樹脂材料を配置する工程と、
前記樹脂材料を溶融し、その後固化させることにより、前記開口の内周面に密着していて樹脂材料からなる圧電体を形成する工程と、
を備える圧電素子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、圧電素子を利用し、かつ新規の構造を有する発振装置及び圧電素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施形態に係る発振装置の構成を示す平面図である。
【図2】図1のA−A´断面図である。
【図3】ポリフッ化ビニリデンの化学式を示す図である。
【図4】図1の変形例を示す平面図である。
【図5】図1に示した発振装置の製造方法を示す断面図である。
【図6】図1に示した発振装置の製造方法を示す断面図である。
【図7】図6の変形例を示す断面図である。
【図8】第2の実施形態に係る発振装置の構成を示す断面図である。
【図9】第3の実施形態に係る発振装置の構成を示す断面図である。
【図10】携帯通信端末の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0015】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る発振装置の構成を示す平面図である。図2は図1のA−A´断面図である。この発振装置は、支持部材40、圧電フィルム(圧電体)22、第1電極24、及び第2電極26(図2に図示)を備えている。支持部材40は開口42を有している。圧電フィルム22は開口42の内周面に密着しており、圧電効果を有する樹脂材料から構成されている。第1電極24は圧電フィルム22の一面に接しており、第2電極26は圧電フィルム22の他面に接している。この発振装置は、例えばパラメトリックスピーカの発振源や、音波センサの発振源として使用される。ここでのパラメトリックスピーカは、例えば電子機器(例えば、携帯電話機、ラップトップ型パーソナルコンピュータ、小型ゲーム機器など)の音源として使用される。以下、詳細に説明する。
【0016】
本実施形態において開口42は、支持部材40に複数マトリクス状に形成されている。そして圧電フィルム22は複数の開口42それぞれの中に形成されている。圧電フィルム22は、開口42の内壁に溶着することにより、開口42の内周面に全周にわたって密着している。
【0017】
図1に示す例において、開口42及び圧電フィルム22の平面形状は矩形であるが、開口42及び圧電フィルム22の平面形状はこれに限定されず、例えば図4に示すように円形であってもよい。
【0018】
圧電フィルム22は、上記したように圧電効果を有する樹脂材料から構成されており、また厚さ方向に分極している。この樹脂材料は、圧電効果を有していれば特に限定されないが、機械変換効率が高い材料、例えば、図3に化学式を示すポリフッ化ビニリデンや、ポリ塩化ビニルなどを使用できる。圧電フィルム22の厚みは特に限定されないが、5μm以上1mm以下であることが好ましい。圧電フィルム22の厚みが5μm未満の場合、製造工程に起因して厚みのバラツキが生じやすくなる。また、圧電フィルム22の厚みが1mmを超える場合、発振装置の厚みが増大してしまう。
【0019】
そして、圧電フィルム22の一面に第1電極24が形成されており、圧電フィルム22の他面に第2電極26が形成されている。圧電フィルム22、第1電極24、及び第2電極26により、圧電素子20が形成されている。第1電極24及び第2電極26を構成する材料は特に限定されないが、例えば、銀や銀/パラジウムを使用することができる。銀は低抵抗な汎用的な電極材料して使用されているため、製造プロセスやコストなどに利点がある。銀/パラジウムは耐酸化に優れた低抵抗材料であるため、信頼性の観点から利点がある。また、第1電極24及び第2電極26の厚さhは特に限定されないが、その厚さが1μm以上100μm以下であるのが好ましい。厚さが1μm未満では、第1電極24及び第2電極26を均一に成形することが難しくなり、その結果、電気機械変換効率が低下する可能性がある。また、第1電極24及び第2電極26の膜厚が100μmを超える場合は、第1電極24及び第2電極26が圧電フィルム22に対して拘束面となり、エネルギー変換効率を低下させてしまう可能性が出てくる。
【0020】
また発振装置は、発振回路として制御部50及び信号生成部52を有している。信号生成部52は、圧電素子20の第1電極24及び第2電極26に入力する電気信号、例えばパラメトリックスピーカにおける変調信号を生成する。変調信号の輸送波は、周波数が20kHz以上の超音波、例えば100kHzの超音波である。制御部50は、外部から入力された情報に基づいて、信号生成部52を制御する。発振装置をスピーカとして使用する場合、制御部50に入力される情報は音声信号である。
【0021】
次に、本実施形態に係る発振装置をパラメトリックスピーカとして用いる場合について説明する。
【0022】
まず、一般的なパラメトリックスピーカの原理を説明する。パラメトリックスピーカは、複数の発振源それぞれからAM変調やDSB変調、SSB変調、FM変調をかけた超音波(輸送波)を空気中に放射し、超音波が空気中に伝播する際の非線形特性により、可聴音を出現させるものである。ここでの非線形とは、流れの慣性作用と粘性作用の比で示されるレイノルズ数が大きくなると、層流から乱流に推移することを示す。音波は流体内で微少にじょう乱しているため、音波は非線形で伝播している。特に超音波周波数帯では音波の非線形性が容易に観察できる。そして超音波を空気中に放射した場合、音波の非線形性に伴う高調波が顕著に発生する。また音波は、空気中において分子密度に濃淡が生じる疎密状態である。そして空気分子が圧縮よりも復元するのに時間が生じた場合、圧縮後に復元できない空気が、連続的に伝播する空気分子と衝突し、衝撃波が生じる。この衝撃波により可聴音が発生する。
【0023】
図5及び図6は、図1に示した発振装置の製造方法を示す断面図である。これらの図が示す断面は、図1のA−A´断面に相当している。
【0024】
まず図5(a)に示すように、ステージ100上に支持部材40を載置する。次いで図5(b)に示すように、支持部材40が有する複数の開口42それぞれの中に、圧電効果を有する樹脂材料200を配置する。
【0025】
次いで図6に示すように、樹脂材料200の上面を押圧部材110を用いてステージ100に向けて押しつつ、樹脂材料200を溶融する。これにより、樹脂材料200は開口42の中に充填される。樹脂材料200は、例えばステージ100及び押圧部材110の少なくとも一方に設けられたヒータからの熱により、溶融する。その後、溶融した樹脂材料200を冷却して固化させる。これにより複数の圧電フィルム22は、開口42の内周面の全周にわたって溶着した状態で一括形成される。
【0026】
その後、圧電フィルム22の一面に第1電極24を形成するとともに、圧電フィルム22の他面に第2電極26を形成する。
【0027】
なお、図6に示す工程において、図7に示すように、押圧部材110のうち開口42に対向する部分に凸部112を設けてもよい。この場合、凸部112にヒータを持たせることにより、効率的に樹脂材料200を溶融させて圧電フィルム22を形成することができる。
【0028】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。本実施形態によれば、圧電素子を利用し、かつ新規の構造を有する発振装置及び圧電素子の製造方法を提供することができる。そして本実施形態に係る構造では、圧電素子20の圧電体は、樹脂材料からなる圧電フィルム22である。このため、圧電体がセラミックスの場合と比較して、耐衝撃性が向上し、また、圧電素子20の機械品質係数Qも低下する。
【0029】
また、圧電素子20の基本共振周端数を所望の値に維持しつつ出力を増大させるためには、基本共振周端数が所望の値となるように開口42及び圧電フィルム22の大きさを設定し、かつ、開口42及び圧電フィルム22を複数設ける必要がある。しかし本実施形態では、支持部材40が有する複数の開口42の中に同時に圧電フィルム22を形成することができるため、開口42及び圧電フィルム22を複数設けても、製造コストが増大することを抑制できる。
【0030】
また、複数の開口42の大きさを変えることのみで、圧電フィルム22の大きさを変えることができる。そして一つの支持部材40に対して複数の大きさの開口42及び圧電フィルム22を設けることができるため、発振装置に複数の基本共振周端数を持たせることを容易に行える。
【0031】
(第2の実施形態)
図8は、第2の実施形態に係る発振装置の構成を示す断面図であり、第1の実施形態における図2に相当している。本実施形態に係る発振装置は、以下の点を除いて第1の実施形態に係る発振装置と同様の構成である。
【0032】
まず、支持部材40が有する開口42の内周面には凹凸44が形成されている。そして圧電フィルム22は、樹脂材料200を溶融したときに凹凸44に入り込んでおり、凹凸44の表面に密着している。
【0033】
本実施形態によっても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、開口42の内周面に凹凸44を形成したため、圧電フィルム22と開口42の内周面の密着性が向上する。
【0034】
(第3の実施形態)
図9は、第3の実施形態に係る発振装置の構成を示す断面図であり、第1の実施形態における図2に相当している。本実施形態に係る発振装置は、以下の点を除いて第1の実施形態に係る発振装置と同様の構成である。
【0035】
まず、複数の圧電フィルム22の上方には被覆部46が配置されている。被覆部46は支持部材40と一体に形成されている。具体的には、支持部材40が上方に突出しており、被覆部46の下面につながっている。
【0036】
また被覆部46には貫通孔48が形成されている。貫通孔48は、複数の圧電フィルム22それぞれに対向して設けられている。
【0037】
本実施形態によっても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、貫通孔48によって各圧電素子20から放射された超音波の指向性がさらに向上する。また、各圧電素子20は支持部材40によって互いに仕切られることになるため、隣り合う圧電素子20が発振する音波が互いに干渉することも抑制される。
【0038】
なお、第2の実施形態に示した発振装置において、本実施形態に示した被覆部46及び貫通孔48を設けてもよい。
【0039】
(実施例)
図2、図4、図8、及び図9に示した発振装置を作成し、各発振装置の特性を調べた(実施例1〜4)。本実施例では、発振装置をパラメトリックスピーカとして機能させた。また比較例として、実施例1〜4と同一の平面積を有する動電型の発振装置を作成し、特性を調べた。評価項目は以下の通りである。
【0040】
(評価1:音圧レベル周波数特性の測定)
交流電圧1V入力時の音圧レベルを、素子から所定距離だけ離れた位置に配置したマイクロホンにより測定した。なお、この所定距離は、特に明記しない限り10cmであり、周波数の測定範囲は10Hz〜10kHzとした。
【0041】
(評価2:落下衝撃試験)
発振装置を搭載した携帯電話を 50cm直上から、5回自然落下させ、落下衝撃安定性試験を行った。具体的には、落下衝撃試験後の割れ等の破壊の有無を目視で確認し、さらに、試験後の音圧特性を測定した。その結果、音圧レベル差(試験前の音圧レベルと試験後の音圧レベルとの差のことを指す)が3dB未満を○とし、3dB以上を×とした。
【0042】
評価結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
この表から、各実施例に係る発振装置は、比較例にかかる発振装置と比較して、出力が大きく、周波数特性が平坦であり、かつ落下時の衝撃に対して強いことが示された。
【0045】
また、図10に示すように、携帯通信端末300のスピーカ302として、実施例1〜4に係る発振装置を使用した。スピーカ302は、携帯通信端末300の筐体の内面に取り付けた。各実施例を用いた場合のスピーカ302の特性を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
この表から、各実施例に係るスピーカ302は、周波数特性が平坦であり、かつ落下時の衝撃に対して強いことが示された。
【0048】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0049】
20 圧電素子
22 圧電フィルム
24 第1電極
26 第2電極
40 支持部材
42 開口
44 凹凸
46 被覆部
48 貫通孔
50 制御部
52 信号生成部
100 ステージ
110 押圧部材
112 凸部
200 樹脂材料
300 携帯通信端末
302 スピーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有する支持部材と、
前記開口の内周面に密着しており、圧電効果を有する樹脂材料からなる圧電体と、
前記圧電体の一面に接する第1電極と、
前記圧電体の他面に接する第2電極と、
を備える発振装置。
【請求項2】
請求項1に記載の発振装置において、
前記開口の内周面には凹凸が形成されており、
前記圧電体は、前記内周面の凹凸に密着している発振装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の発振装置において、
前記支持部材は複数の前記開口を有しており、
前記圧電体は、前記複数の開口それぞれの中に設けられている発振装置。
【請求項4】
請求項3に記載の発振装置において、
前記複数の圧電体の上方に位置し、平面視で前記支持部材及び前記複数の圧電体と重なる被覆部材と、
前記被覆部材に設けられ、前記複数の圧電体それぞれに対向して設けられた複数の貫通孔と、
を備える発振装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の発振装置において、
前記第1電極及び前記第2電極に発振信号を入力する制御部をさらに備え、
前記制御部は、前記圧電体に周波数が20kHz以上の音波を発振させる発振装置。
【請求項6】
開口を有する支持部材の前記開口内に、圧電効果を有する樹脂材料を配置する工程と、
前記樹脂材料を溶融し、その後固化させることにより、前記開口の内周面に密着していて樹脂材料からなる圧電体を形成する工程と、
を備える圧電素子の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−100043(P2012−100043A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245659(P2010−245659)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】