説明

発毛・育毛剤

【課題】 安全性が高く、優れた発毛・育毛効果を示す植物成分を配合した発毛促進・育毛剤を提供すること。
【解決手段】 セリ科植物(Umbelliferae)であるオカゼリ(Cnidium monnierri)又はヤブジラミ(Toriis Japonica)の乾燥成熟果実であるジャショウシ(蛇床子)の微粉砕物及び/又はジャショウシを抽出することによって得られる成分(抽出エキス)を配合することにより、発毛促進効果、育毛効果に優れ、安全性が高く、発毛・育毛剤が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セリ科植物であるオカゼリ又はヤブジラミの乾燥成熟果実であるジャショウシ(蛇床子)及び/又はその抽出エキスを配合した、優れた発毛促進効果並びに育毛効果を有する発毛・育毛剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、多くの頭髪用の発毛・育毛剤が開発され、市販されてきている。これらの発毛・育毛剤に配合されている成分としては、センブリエキス、ビタミンE等の血行促進作用を有するもの、グリチルリチン、アズレン等の抗炎症作用を有するもの、パントテニールアルコール、プラセンタエキス等の毛母細胞賦活作用を有するもの、トウガラシエキス等の局所刺激作用を有するもの、エストラジオール等の抗男性ホルモン作用を有するもの等数多くのものがある(特許文献1〜6)。
【0003】
これまでに、これらの成分を単独あるいは各種組み合わせ配合した発毛・育毛剤が数多く開発・発売され、抜け毛の防止や育毛促進効果を発揮するべく使用されているが、残念ながら育毛効果が不充分であったり、安全性の面で問題があったりするなど、いまだ満足のできる発毛・育毛剤というものは存在していないのが現実である。
【0004】
【特許文献1】特開2001−2532号公報
【特許文献2】特開2002−275037号公報
【特許文献3】特開2003−26546号公報
【特許文献4】特開2003−137743号公報
【特許文献5】特開2003−137745号公報
【特許文献6】特開2004−231553号公報
【0005】
しかしながら、年をとっても、何時までも豊富で黒い髪の毛を維持することは老若男女の願うことであり、より効果の優れた発毛・育毛剤の開発が種々検討されてきているが、未だ効果的な発毛・育毛剤は開発されてきていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、より有効な発毛、育毛効果を有し、安全性も高い新たな発毛・育毛剤を提供することを課題とする。
【0007】
かかる課題を解決するべく本発明者は植物の抽出エキスの作用に着目した。すなわち、これまで種々の植物抽出エキスについて育毛・発毛効果があることが提案され、種々検討されているなかで、前述した技術に比べさらに有用性の高い育毛作用を持つ植物成分について鋭意研究を重ねた結果、セリ科の植物であるオカゼリ又はヤブジラミの乾燥成熟果実であるジャショウシ(蛇床子)及び/又はその抽出エキスに優れた発毛促進作用、育毛作用があることを新規に見出し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、セリ科の植物であるオカゼリ又はヤブジラミの乾燥成熟果実であるジャショウシ及び/又はジャショウシの抽出エキスを利用した発毛促進・育毛剤に関するものであり、具体的には以下の構成からなる。
【0009】
(1)ジャショウシ(蛇床子)及び/又はジャショウシの抽出エキスを含有することを特徴とする発毛・育毛剤;
(2)ジャショウシ(蛇床子)の抽出エキスを含有することを特徴とする発毛・育毛剤;
(3)ジャショウシが、セリ科植物(Umbelliferae)のオカゼリ(Cnidium monnierri)由来の乾燥成熟果実である上記(1)又は(2)に記載の発毛・育毛剤;
(4)ジャショウシが、セリ科植物(Umbelliferae)のヤブジラミ(Toriis Japonica)由来の乾燥成熟果実である上記(1)又は(2)に記載の発毛・育毛剤;
(5)抽出エキスが、有機溶媒抽出エキスであることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の発毛・育毛剤;
(6)有機溶媒が、低級アルコールである上記(5)に記載の発毛・育毛剤;
(7)抽出エキスが、水抽出エキスであることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の発毛・育毛剤:
(8)抽出エキスが、有機溶媒及び水との混合溶媒抽出エキスであることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の発毛・育毛剤;
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明が提供する発毛・育毛剤は、有効成分としてセリ科の植物であるオカゼリ又はヤブジラミの乾燥成熟果実であるジャショウシ及び/又はジャショウシの抽出エキスを使用するものであって、安全性に優れるものであると共に、早い時期での発毛効果が認められる。したがって、本発明により、極めて効果的な発毛促進・育毛剤、及びそれを含有する化粧料などの育毛剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明が提供する発毛・育毛剤において、有効成分として使用するセリ科植物(Umbelliferae)であるオカゼリ(Cnidium monnierri)又はヤブジラミ(Toriis Japonica)は、中国東北部からシベリア、朝鮮半島、日本にかけて広く分布しているセリ科の越年草であり、いわゆるセリ科植物のジャショウ(蛇床)である。
【0012】
この乾燥成熟果実は生薬としてジャショウシ(蛇床子)といわれており、一般的にジャショウシとは、セリ科植物のオカゼリの成熟果実を乾燥させたものであり、中国ではオカゼリの乾燥成熟果実を指すが、日本並びに韓国においてはヤブジラミの乾燥成熟果実を指す。特に日本産のものは和蛇床子と呼ばれ、一般的に、ヤブジラミの乾燥成熟果実が使用されている。
【0013】
本発明にあっては、ジャショウシとして、オカゼリ又はヤブジラミの乾燥成熟果実のいずれを使用しても良い。
生薬としてのジャショウシは、1〜2mmくらいの大きさの乾燥成熟果実であり、味は辛みや苦みがあり、主な成分はピネン、カンフェン等の精油、オストール等のクマリン類があげられる。
【0014】
ジャショウシは古くから漢方薬として、婦人の陰部疾患の薬として使用されており、その主な薬理作用は抗真菌作用、抗ウィルス作用、性ホルモン作用等があり、臨床的には湿疹、皮膚掻痒症、膣トリコモナスによる外陰部の掻痒症等に使用されている。しかしながら、このような作用以外の効能はほとんど知られてなく、その抽出エキスに高い育毛作用があることは、これまで何等知られているものではなかった。
【0015】
本発明においては、このセリ科植物であるオカゼリ又はヤブジラミの乾燥させた成熟果実であるジャショウシを使用するが、本発明に使用するジャショウシを採取するための品種としては、上記したオカゼリ、ヤブジラミに限定されず、一般的にジャショウシの起源となるセリ科植物であればよい。
【0016】
本発明が提供する発毛・育毛剤にあっては、有効成分として、このこのセリ科植物であるオカゼリ又はヤブジラミの乾燥成熟果実であるジャショウシを、適当な大きさに切断、粉砕、圧搾して得られた成分、あるいはこれらを各種溶媒を使用し抽出して得られる抽出エキスを使用する。
【0017】
ジャショウシを使用する場合には、ジャショウシ自体を微粉末として粉砕したもの、あるいは圧搾して得られた成分を使用するのがよい。また、これらの溶媒抽出エキスが使用される。抽出エキスを調製する場合の抽出方法及び抽出溶媒は、特に限定されるものではなく、各種の溶媒を用いて抽出することができる。そのような抽出溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール等の低級アルコール;ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール;酢酸エチル等のエステル類;ベンゼン、ヘキサン、トルエン等の炭化水素類;精製水;動物油;植物油等が挙げられ、これらを一種または二種以上組み合わせたものが挙げられる。
【0018】
そのなかでも、メチルアルコール、エチルアルコール等の低級アルコールを用い、この低級アルコール単独、あるいは精製水との混合溶媒で行うのがよい。
【0019】
また、抽出方法も限定されるものではなく、ジャショウシをそのまま抽出に使用したり、粉砕または細断したりしたものを、各種溶媒を用いて浸漬、撹拌また必要ならば加温等を行い抽出することにより、目的をする抽出エキスを得ることができる。かくして得られた抽出液はそのまま使用することもでき、また、濃縮を行い、溶媒を留去したものを使用したり、また、濃縮物を適当な溶媒を使用し適当な濃度に再度希釈溶解したりして使用することも可能である。
【0020】
抽出に使用する溶媒の量としては、ジャショウシに対して1〜100倍量、好ましくは5〜40倍量程度とするのが望ましい。
【0021】
抽出時の温度も特に制限されるものではなく、抽出に使用する溶媒の種類にもよるが一般的に常温〜100℃の範囲で行うのがよい。
ただし、本発明に使用される抽出溶媒及び抽出方法は、上記したものに限られるものではない。
【0022】
本発明が提供する発毛・育毛剤は、上記により得られたジャショウシの微粉砕物、圧搾物あるいはその抽出エキスを有効成分として含有するいわゆる化粧料である。当該化粧料を調製する場合には、従来からこの分野において使用されている各種原料を使用することができる。
そのような、本発明の発毛・育毛剤を調製する場合に使用される原料として、必要に応じて通常の化粧品に使用されるカルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン等の増粘剤;グリセリン、ソルビトール、ヒアルロン酸ナトリウム、コラーゲン、コンドロイチン硫酸等の保湿剤;安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル、塩酸クロルヘキシジン、ヒノキチオール等の殺菌剤;グリチルリチン酸、アズレン等の消炎剤;メントール、カンフル等の清涼剤;ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の界面活性剤;サリチル酸、尿素等の角質溶解剤;ショウキョウエキス、サンショウエキス等の生薬抽出物;香料、色素等を配合することが可能である。
【0023】
その他、種々の血行促進作用物質、細胞賦活剤等を配合することもできる、そのような血行促進作用物質としては、具体的には、トウガラシエキス、センブリエキス、ニンニクエキス等を挙げることができ、また、細胞賦活剤としては、具体的にはパントテニールアルコール、ニンジンエキス、ビオチン等を挙げることができる。
【0024】
本発明における発毛・育毛剤中の、セリ科植物であるオカゼリ又はヤブジラミの乾燥成熟果実であるジャヨウシの微粉砕物あるいは圧搾物、又はその抽出エキスの配合量は、特に限定されないが、ジャショウシのエキス成分として0.1〜80重量%、好ましくは1〜30重量%とするのがよい。
【0025】
また、本発明が提供する発毛・育毛剤である化粧料の剤形としては、常法に従い、液剤、ローション剤、クリーム剤、軟膏、シャンプー、リンス、ジェル、スプレー剤等の剤形とすることが可能である。
【0026】
このようにして得られた本発明の発毛・育毛剤は頭皮において良好な発毛促進作用、育毛作用を示し、高い安全性を示すものである。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限られるものではない。
【0028】
製造例1:試料(抽出エキス)の調製
ジャショウシを粉砕ミルにより粉砕し、この粉砕物250gを、95%エタノール溶液1000mLを用いて常温で7日間撹拌して抽出を行い、抽出終了後、0.1mmのメッシュでろ過を行い、濾液を減圧濃縮し、得られた残留物(乾燥物)を50mLの95%エタノール溶液で溶解し、抽出エキスを調製した。
【0029】
製造例2:ジャショウシ微粉砕物の調製
ジャショウシを粉砕ミルにより微粉砕し、ジャショウシの微粉砕物を得た。
【0030】
実施例1:
上記の製造例1で得られたジャショウシ抽出物10gを使用し、酢酸トコフェロール0.5g、トウガラシエキス0.01g、パントテニールアルコール0.2g、1,3−ブチレングリコール3g、エタノール80g、プロピレングリコール2gを加え精製水で全量100mLとなるよう発毛・育毛剤を調製した。
【0031】
実施例2:
上記製造例1で得られたジャショウシ抽出物6gを使用し、海藻エキス0.5g、メントール0.01g、塩酸ピリドキシン0.25g、グリセリン10g、エタノール75gを加え精製水で全量100mLとなるよう発毛・育毛剤を調製した。
【0032】
上記で得られた本発明の発毛・育毛剤について、その効果の確認を、以下の試験により実施した。
【0033】
試験例1:効果確認試験
8週齢の雄性C3H/HeN Iclマウスを1週間馴化した後、バリカンで除毛して皮膚状態の良いものを使用した。試験は1群9匹の4群に分けて行った。投与はそれぞれ上記実施例1又は2で得られた発毛・育毛剤を背部に1日1回0.1mL塗布を行った。
対照比較例1として、市販の育毛剤(延命草抽出エキス配合)を使用した。
また、対照比較例2として、アルコール溶液のみを使用した例をおいた。
効果の評価は、塗布部位の発毛状態を観察し、その塗布面積に対する発毛面積の割合(%)を測定した。その結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
上記表中に示した結果からも判明するように、本発明のジャショウシ抽出エキスを含有する実施例1及び実施例2の試験液は、塗布後21日目から発毛が認められ、その育毛の程度は極めて早いものであった。
これに対して、比較例1の試験品(延命草抽出エキス含有の市販の育毛剤)は塗布開始後28日目に発毛が認められたが、その後の育毛の程度は極めて悪いものであった。
なお、対照試験液としての比較例2の試験液(エタノール溶液のみ)では殆ど発毛効果は認められないものであった。
以上の結果から、本発明が提供する発毛促進・育毛剤は、優れた発毛促進効果と、その後の育毛効果が極めて良好であることが理解される。
【0036】
試験例2:ウサギを用いた皮膚一次刺激性試験(Draize法)
20週齢の日本白色種雄性ウサギを用い、1週間馴化した後、背部をバリカンで除毛して、皮膚状態の良いものを使用した。
試験液の投与は、直径20mmの円形に打ち抜いたガーゼにそれぞれの試験溶液(実施例1及び2の発毛・育毛剤)を0.2mL染み込ませたものを背部に塗布し、ラップで覆い、包帯で固定し24時間閉塞貼付させた。
対照として、実施例1及び2よりジャショウシ抽出物のみを除くそれぞれの群と、非塗布群を置いた。試験は1群6匹で行った。
【0037】
皮膚刺激性は、試験物質除去1時間後、24時間後及び48時間後に塗布部位の皮膚状態を、Draizeの皮膚反応の判定基準に従い評価した。
試験の結果、試験物質、対照物質及び非塗布群に紅斑及び浮腫等の皮膚の異常を示す結果は認められなかった。
この結果より、本試験条件下において、本発明の発毛・育毛剤に関しては、皮膚刺激性に問題はないと考えられた。
【0038】
以上の試験例1及び2の結果より、本発明が提供する発毛・育毛剤は、ジャショウシの抽出エキスを含有する、優れた発毛・育毛効果を示すものであり、皮膚への刺激性も少ない、安全性の高いものであることが示された。このジャショウシの抽出エキスを発毛・育毛剤として配合することにより、安全性も高く、発毛・育毛効果に優れた製品を提供できると考えられる。
【0039】
製剤例:
1.ローション剤:
ジャショウシ抽出エキス 10.0g
イソプロパノール 2.0g
スクワラン 3.0g
セタノール 3.0g
セスキオレイン酸ソルビタン 0.5g
プロピレングリコール 5.0g
エタノール 60.0g
精製水 適 量
全 量 100.0g
【0040】
2.クリーム剤:
ジャショウシの微粉砕物 5.0g
ジャショウシ水抽出物 10.0g
セバシン酸ジイソプロピル 2.0g
セタノール 9.0g
白色ワセリン 8.0g
ヘキシルデカノール 1.0g
ポリオキシエチレンラウリルエーテル 3.0g
プロピレングリコール 15.0g
メチルパラベン 0.1g
エチルパラベン 0.1g
精製水 適 量
全 量 100.0g
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上記載のように、本発明により、ジャショウシ及び/又はジャショウシを抽出することによって得られる成分を配合した、安全性が高く、発毛促進効果、育毛効果に優れた発毛・育毛剤が提供され、その産業上の利用性は多大なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジャショウシ(蛇床子)及び/又はジャショウシの抽出エキスを含有することを特徴とする発毛・育毛剤。
【請求項2】
ジャショウシ(蛇床子)の抽出エキスを含有することを特徴とする発毛・育毛剤。
【請求項3】
ジャショウシが、セリ科植物(Umbelliferae)のオカゼリ(Cnidium monnierri)由来の乾燥成熟果実である請求項1又は2に記載の発毛・育毛剤。
【請求項4】
ジャショウシが、セリ科植物(Umbelliferae)のヤブジラミ(Toriis Japonica)由来の乾燥成熟果実である請求項1又は2に記載の発毛・育毛剤。
【請求項5】
抽出エキスが、有機溶媒抽出エキスであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の発毛・育毛剤。
【請求項6】
有機溶媒が、低級アルコールである請求項5に記載の発毛・育毛剤。
【請求項7】
抽出エキスが、水抽出エキスであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の発毛・育毛剤。
【請求項8】
抽出エキスが、有機溶媒及び水との混合溶媒抽出エキスであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の発毛・育毛剤。

【公開番号】特開2007−45770(P2007−45770A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−232826(P2005−232826)
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(000215958)帝國製薬株式会社 (44)
【Fターム(参考)】