説明

発毛・育毛料

【課題】 男性および女性のいずれに対しても、また、その成分濃度が超稀薄濃度においても、優れた発毛、育毛効果を有する新規な発毛・育毛料を提供する。
【解決手段】 一般式(I)で表されるステリルグルコピラノシド、好ましくコレステリルグルコピラノシドを含有すること
を特徴とする発毛・育毛料である。
一般式(I)


(但し、式中、Zは、シクロペンタノヒドロフェナントレン環の3位に結合する水酸基を除いたステロール残基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、新規な発毛・育毛料に関するものである。
より詳しくは、ステリルグルコピラノシド、好ましくはコレステリルグルコピラノシドを有効成分とし、その成分濃度が10−13g/mL、10−12g/mLという超希薄濃度においても、優れた発毛・育毛効果を発揮する発毛・育毛料に関するものである。

【背景技術】
【0002】
脱毛症の原因としては、ホルモンバランスの乱れ、毛乳頭および毛包周囲の毛細血管の循環障害、皮脂腺機能の過度な亢進や皮脂分泌障害、ストレスの蓄積、免疫機能の低下、毛母細胞の機能低下、毛の成長に関与する各種酵素活性の異常、フケの過剰発生(皮脂分泌異常・頭皮細菌類の増殖)、頭皮の緊張や過剰乾燥などが関係するとされている。
【0003】
かかる脱毛の予防あるいは毛成長促進、さらには発毛促進のためには、
(1)局所血液循環および代謝の促進
(2)毛包細胞の増殖促進
(3)男性ホルモンによる脱毛作用の予防および皮脂分泌の抑制
(4)頭皮環境の保全
などが考えられる。
【0004】
健常なヒト頭髪は、ほぼ5,6年の周期で生え変わっている。
この間、毛包を形成し、毛を伸ばしていく「成長期」、成長が減弱する「退行期」、成長が止まる「休止期」の3期間に分類されている。
【0005】
男性型脱毛においては、この毛周期が徐々に短くなり、成長期が短縮することで、太く長い終毛から、産毛状の軟毛に変化して行くことが知られている。
【0006】
頭皮の血流促進は、主に毛乳頭内と、毛包を取り巻く間葉系細胞周辺の毛細血管を介して、酸素と養分を毛包に補給し、毛母細胞など上皮系細胞の増殖を円滑に進めることで、特に成長期に効果があると考えられるが、詳細なメカニズムは明確に示されていない。
【0007】
血行促進、血管拡張、エネルギー供給に加えて、すでに数多くの研究があるのが、男性ホルモンの抑制の観点から、脱毛抑制、発毛促進効果のあるホルモンバランスを整える薬剤である。
しかしながら、必ずしも脱毛への機構が充分解明されたとは言えないが、この観点からの育毛薬剤の開発は進んでいる。
【0008】
その他、薬剤開発まで進んではいないが、細胞増殖因子、神経伝達物質などの物質の毛包構成細胞への効果や、アポトーシス関連物質、毛包誘導因子、血管新生因子などの毛周期との関連、その発毛促進、成長期延長などが研究されている。
【0009】
男性型脱毛でも円形脱毛症ほどではないが、毛包周辺に若干の炎症を伴うことも報告されており、サイトカインなどについて男性型脱毛の関連も研究されつつある。
男性に比較して、女性においては薄毛の研究は余りされていない。
【0010】
しかしながら、近年、薄毛を気にする女性が増加している。
これは、女性の社会進出などに起因するストレスなどが原因と言われている。
【0011】
男性型脱毛においては、毛包成長期間が短くなることで、未成熟な毛包が多くなり結果的に産毛が多くなることが知られている。
しかしながら、女性では、成長期比率が殆ど変わらないことから、毛の細りの原因は、産毛の増加というより終毛の細毛化と考えられる。
つまり、毛包を太く、しかも毛包細胞を活発に増殖させることで、より太い毛を生えさせることが可能となると考えられる。
【0012】
成長期毛では、毛根は真皮下層の脂肪層にまで深く入り込み、5〜6年程度の成長期を終了すると、退行期、休止期と徐々に半分程度まで短くなることが知られている。
新しい成長期を迎えると、毛根は、また徐々に脂肪層の奥深く入り込み、新しい毛を伸ばし始める。
【0013】
成長期毛包が大きくなる時期には、毛乳頭周辺の毛母細胞および毛幹周辺の毛根鞘細胞で、陽性細胞が多く見られることが確認されている。
そのため、毛根鞘細胞の増殖を促進することが、女性の髪の細りを改善するのに重要であると考え、細胞培養系での細胞増殖促進する薬剤の開発研究が行われている。
【0014】
一方、例えば、特開平04−5219号公報(特許文献1)や特開平05−25023号公報(特許文献2)においては、発毛、育毛成分として、ステロイド配糖体、トリテルペノイド配糖体を用いたものが研究されている。
【0015】
さらに、例えば、特開平07−109295号公報(特許文献3)においては、ステロイド配糖体の一種であるスチグマステロール配糖体を有効成分として含む発毛・育毛料が開示されている。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平04−5219号公報
【特許文献2】特開平05−25023号公報
【特許文献3】特開平07−109295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
前記特許文献3に記載のスチグマステロール配糖体は、スチグマステロールのマルトシド、マルトトリオシド、マルトテトラオシド又はマルトペンタオシドである。
育毛料中の前記フチグマステロール配糖体の含有量は、0.0005〜5質量%(実施例では1質量%)であって、育毛料としての通常の濃度である。
このスチグマステロールは、大豆油、やし油、ワタの種子など、植物界に広く分布しているもので、コレステロールは動物界に分布するステロールである。
【0018】
このように、トリテルペノイド配糖体やステロイド配糖体は、発毛、青毛効果が期待され、様々な試みがなされているが、これまで、十分な発毛、育毛効果は得られていないのが実状である。
【0019】
この発明はかかる現状に鑑み、男性および女性に対して優れた発毛、育毛効果を有する新規な発毛・育毛料を提供することを目的とするものである。
【0020】
発明者は、先に家禽類の羽毛を原料とする水溶性ケラチン誘導体を開発するとともに、この水溶性ケラチン誘導体が、高エネルギー波吸収剤、発光材料、耐侯性改善剤、撥水剤などとして有用であることを見出した。
【0021】
この水溶性ケラチン誘導体について、さらに研究の結果、このケラチン誘導体は、剃毛マウスに対して発毛効果を有することを見出すとともに、その中の発毛に対する有効成分が、コレステリルグルコピラノシドであることを突き止めた。
【0022】
さらに研究を重ねた結果、前記コレステリルグルコピラノシド以外のステリルグルコピラノシドも発毛・育毛効果を有すること、そして意外にもある濃度範囲の超希薄溶液において、優れた発毛・育毛効果を発揮することを見出した。
この発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。

【課題を解決するための手段】
【0023】
すなわち、この発明の請求項1に記載の発明は、
一般式(I)で表されるステリルグルコピラノシドを含有すること
を特徴とする発毛・育毛料である。
【0024】
【化1】


(但し、式中、Zは、シクロペンタノヒドロフェナントレン環の3位に結合する水酸基を除いたステロール残基を示す。)
【0025】
また、この発明の請求項2に記載の発明は、
請求項1に記載の発毛・育毛料において、
前記一般式(I)におけるステロール残基は、
コレステロール残基、β−シトステロール残基、スチグマステロール残基、カンペステロール残基又はブラジカステロール残基であること
を特徴とするものである。
【0026】
また、この発明の請求項3に記載の発明は、
請求項1に記載の発毛・育毛料において、
前記ステリルグルコピラノシドは、
コレステリルグルコピラノシドであること
を特徴とするものである。
【0027】
また、この発明の請求項4に記載の発明は、
請求項1〜3のいずれかに記載の発毛・育毛料において、
前記ステリルグルコピラノシドは、
天然由来物質及び/又は合成品であること
を特徴とするものである。
【0028】
また、この発明の請求項5に記載の発明は、
請求項3に記載の発毛・育毛料において、
前記コレステリルグルコピラノシドは、
鳥類の羽毛から得られたものであること
を特徴とするものである。

【発明の効果】
【0029】
この発明の発毛・育毛料は、ステリルグルコピラノシド、好ましくはコレステリルグルコピラノシドを有効成分とするもので、希薄濃度においても、優れた発毛・育毛効果を発揮するものである。

【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明における製造例2−(3)(b)で得られたコレステリル−β−D−グルコピラノシド(合成CG)のH−NMRチャート(500MHz in DO)である。
【図2】同製造例2−(3)(b)で得られたコレステリル−β−D−グルコピラノシド(合成CG)のケイ酸TLCクロマトグラムである。
【図3】同製造例2−(3)(b)で得られたコレステリル−β−D−グルコピラノシド(合成CG)のHPLCクロマトグラムである。
【図4】この発明における実施例5におけるFCGの46歳女性の頭髪に対する発毛試験結果を示す頭部の写真図である。
【図5】同実施例6におけるFCGの35歳男性の頭髪に対する発毛試験結果を示す頭部の写真図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
この発明の発毛・育毛料は、有効成分として、一般式(I)で表されるステリルグルコピラノシドを含有することを特徴とするものである。

【0032】
【化2】



【0033】
前記一般式(I)において、Zは、シクロペンタノヒドロフェナントレン環の3位に結合する水酸基を除いたステロール残基である。
【0034】
このZで表されるステロール残基としては、下記式2で表されるコレステロール、β−シトステロール、スチグマステロール、カンペステロールおよびブラジカステロールの残基を挙げることができる。

【0035】
【化3】

【0036】
前記コレステロールは、動物界に広く分布しているステロールである。
前記β−シトステロールは、代表的な植物ステロールで、通常カンペステロール、スチグマステロールなどと共存していることが多い。
綿実油、タール油、大豆油などの主ステロールである。
【0037】
前記スチグマステロールは、大豆油に豊富に含まれ、やし油、綿の種子など植物界に広く分布しており、β−シトステロール、カンペステロールと共存することが多い。
前記カンペステロールは、西洋アブラナの種子、大豆、小麦胚芽、ナタネなどに含まれている。
前記ブラジカステロールは、アプラナ科植物の種子、海藻、貝類などに含まれている。
【0038】
これらのステリルグルコピラノシドは、異性体が存在するものもあるが、いずれの異性体でもよく、また、グルコピラノシル結合においてはα体、β体のいずれでもよい。
この発明においては、ステリルグルコピラノシドとしては、発毛、育毛効果の点から、コレステリルグルコピラノシドが好ましい。
【0039】
この発明における前記一般式(I)で表されるステリルグルコピラノシドは、天然由来物質であってもよく、合成品であってもよい。
一般に、ステリルグルコピラノシドは、天然物からの抽出あるいはステロールとD−グルコースを用いる化学合成によって得ることができる。
この発明において好ましいコレステリルグルコピラノシドは、合成品を用いてもよい。
天然由来物質としては、例えば、鳥類の羽毛から得られたものを、好ましく用いることができる。
【0040】
前記一般式(I)で表されるステリルグルコピラノシドは、以下のようにして合成することができる。
【0041】
<ステリルグルコピラノシドの合成法>
適当な溶媒中において、各種ステロールとアセトハロゲノ−α−D−グルコピラノースを、シアン化水銀や酸化銀などの触媒の存在下に室温程度の温度で反応させて、テトラアセチルステリル−β−D−グルコピラノシドを得たのち、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製する。
つぎに、この精製テトラアセチルステリル−β−D−グルコピラノシドを、例えば、メタノール−水溶媒中で室温程度の温度で加水分解処理することにより、目的のステリル−β−D−グルコピラノシドが得られる。
ステリル−α−D−グルコピラノシドを合成する場合には、上記方法において、原料のアセトハロゲノ−α−D−グルコピラノースの代わりに、アセトハロゲノ−β一D一グルコピラノースを用いればよい。
【0042】
また、例えば、コレステリルグルコピラノシドなどは、鳥類の羽毛より、以下に示す方法により得ることができる。
【0043】
<天然由来のコレステリルグルコピラノシド>
鳥類の羽毛を破砕し、適当な抽出溶媒で処理して、まず全脂質を抽出する。
ついで、この全脂質から、メタノール−水溶解物を取り出したのち、弱アルカリ処理して、アルカリ処理安定な複合脂質画分を得る。
得た複合脂質両分を、ケイ酸カラムクロマトグラフィーや、ケイ酸薄層クロマトグラフィー(ケイ酸TLC)に付し、粗製のコレステリルグルコピラノシドを得たのち、さらにケイ酸TLCに付すことにより、精製コレステリルグルコピラノシドが得られる。
【0044】
この発明の発毛・育毛料は、前記一般式(I)で表されるステリルグルコピラノシドの含有するものである。
その際、濃度が10−13g/mL、10−12g/mLという超希薄濃度においても、発毛・育毛効果を発揮するという優れた特長を示すものである。
なお、この含有量を多くしても、その量に応じた発毛、育毛効果が発揮されず、むしろ逆に発毛、育毛効果が低下する傾向も認められる。
したがって、前記ステリルグルコピラノシドの好ましい含有量は、10−13〜10−8 g/mL、より好ましい含有量は10−13〜10−9g/mLである。
【0045】
この発明の発毛・育毛料の剤型は、特に限定されるものではないが、例えば、ヘアトニック、シャンプー、リンス、ポマード、ヘアローション、ヘアクリーム、ヘアトリートメント等の通常、発毛・育毛料として用いられているものが挙げられる。
これらの発毛・青毛料は、一般式(I)で表されるステリルグルコピラノシドを配合する以外は、通常の発毛・育毛料と同様の方法で調製することができる。
【0046】
また、この発明の発毛・育毛料には、通常、発毛・育毛料に適用される炭化水素類、ロウ類、油脂類、エステル類、高級脂肪酸、高級アルコール、界面活性剤、香料、色素、防腐剤、抗酸化剤、紫外線防御剤、アルコール類、pH調整剤、及び各種目的に応じた種々の薬効成分などが適宜選択されて調製される。
【0047】
さらに、この発明の発毛・育毛成分であるステリルグルコピラノシド以外の発毛、育毛成分、例えば、卵胞ホルモン、抹消血管血流促進剤、局所刺激剤、角質溶解剤、抗脂漏剤、殺菌剤、代謝賦活剤、酸索活性阻害剤、消炎剤、栄養剤、保湿剤等を当該ステリルグルコピラノシドと併せて用いることもできる。

【実施例】
【0048】
以下、この発明にかかる発毛・育毛料を実施例に基づいて詳細に説明するが、この発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0049】
<製造例1>
トリ羽毛由来のコレステリルグルコピラノシド(以下、FCGと略記する。)を、以下のようにして得た。
1)全脂質の抽出
破砕されたニワトリ羽350gに、クロロホルムーメタノール(容量比2:1)6Lを加えて2時間振とうした。
吸引ろ過後、残渣に、さらにクロロホルムーメタノール(容量比2:1)6Lを加えて2時間振とうした。
吸引ろ過後、クロロホルム−メタノール(容量比1:2)6Lを加えて2時間振とうし、脂質を抽出した。
得られた全抽出液を濃縮乾固し、クロロホルム−メタノール−水(容量比8:4:3)で分配したのち、下層を濃縮乾固して、全脂質5.6gを得た。
2)アルカリ安定な複合脂質画分の調製
前記1)で得られた全脂質にヘキサン900mL、メタノール1,800mLを加えて撹拌した。
その後、水300mLを加えて再撹拌し、下層のメタノール−水層を分取した。
上層のヘキサン層に再度メタノール600mLを加えて撹拌し、その後、水150mL加えて撹拌したのち、下層を分取した。
メタノール−水層を合わせて濃縮乾固したのち、弱アルカリ処理(0.4モル/Lメタノール性KOH溶液で温度37℃にて2時間分解)した。
3)ケイ酸カラムクロマトグラフィーおよびケイ酸薄層クロマトグラフィーによるFCGの単離
前記2)で得られたアルカリ処理安定な複合脂質画分を、クロロホルムーアセトン(容量比7:3)可溶部と不溶部に分けたのち、それぞれケイ酸カラムクロマトグラフィーに供した。
可溶部は、クロロホルム−アセトン(容量比7:3)500mL、クロロホルム−アセトン(容量比1:1)500mL(画分1)、アセトン500mL(画分2)およびクロロホルム−メタノール(容量比2:1)500mLで溶出した。
不溶部は、クロロホルム−アセトン(容量比1:1)650mL(画分3)、アセトン300mL(画分4)、およびクロロホルム−メタノール(容量比2:1)300mLで溶出した。
【0050】
それぞれの画分を、クロロホルム−メタノール−水(容量比65:16:2)を展開溶媒とするケイ酸TLC(ケイ酸薄層クロマトグラフィー)に供し、コレスデリルグルコピラノシド(CG)のスポッ卜を確認した。
【0051】
画分1および画分2と画分4を合わせたものを、クロロホルム−メタノール(容量比95:12)を展開溶媒としたケイ酸TLCに供し、CGのスポットを分取した。
それぞれ26.7mgと、12.7mgの粗製CGが得られた。
【0052】
画分3は、さらにケイ酸カラムクロマトグラフィーに供し、クロロホルム−アセトン(容量比7:3)500mL、クロロホルムーアセトン(容量比1:1)500mL(画分5)およびアセトン500mLで溶出した。
画分5からは、粗製CGが12.0mg得られた。
【0053】
前記の粗製CGを合わせて、クロロホルム−メタノール容量比(95:12)を展開溶媒としたケイ酸TLCに供し、CGのスポットを分取し、CG精製物(FCG)40mgを得た。
【0054】
<製造例2>
合成コレステリルグルコピラノシド(以下、SCGと略記する。)を、以下のようにして得た。
なお、アセトブロモグルコース、コレステロール、酸化銀、シアン化水銀、30質量%アンモニア水は、和光純薬社製の特級を用いた。
【0055】
1)シアン化水銀を用いたテトラアセチルコレステリル−β−D−グルコピラノシドの合成
50mLナスフラスコ内でCHCN 5mLにコレステロール193mgと、アセトブロモ−α−D−グルコピラノース1.238gを加え、撹拌した。
ここに、Hg(CN)411mgを加え、室温で3時間撹拌し、TLCでアセトブロモ−α−D−グルコピラノースの消失を確認した。
これに、CHCl10mLを加え、吸引ろ過した。
得たろ液を、飽和NaHCO水、水で分液し、MgSOを加え一晩放置した後、吸引ろ過し、濃縮した。
これをSiOカラム(Wakogel C−200、展開溶媒 ヘキサン:酢エチ容量比=19:1 200mL,9:1 100mL,4:1 100mL,1:1 100mL)で分画し、テトラアセチルコレステリル−β−D−グルコピラノシド252mg(収率70.4%)を得た。
【0056】
2)酸化銀を用いたテトラアセチルコレステリル−β−D−グルコピラノシドの合成
500mLナスフラスコ内でCHCl200mLに、コレステロール15.09gとアセトブロモ−α−D−グルコピラノース30.65gを加え、撹拌した。
ここに、AgO 21.00gを加え、室温で3時間撹拌し、さらに、アセトブロモ−α−D−グルコピラノース30.65g、AgO 21.00gを加えた。
10時間後、さらに、アセトブロモ−α−D−グルコピラノース30.65g、AgO21.00gを加えた。
これを12時間撹拌し、TLCでアセトブロモ−α−D−グルコピラノースの消失を確認してから、吸引ろ過した。
得たろ液を濃縮し、これをSiOカラム(Wakogel C−200、展開溶媒 ヘキサン:酢エチ(容量比=19:1 500mL,9:1 500mL,4:1 100mL,1:1 500mL)で分画した。
さらに、同じ条件でSiOカラムを繰り返し、TLCでワンスポットのテトラアセチルコレステリル−β−D−グルコピラノシド15.62g(収率55.8%)を得た。
【0057】
3)テトラアセチルコレステリル−β−D−グルコピラノシドの加水分解によるコレステリル−β−D−グルコピラノシドヘの変換
(a)前記1)で得られた、テトラアセチルコレステリル−β−D−グルコピラノシド100.2mgをメタノール50mLに溶解した。
さらに、30質量%アンモニア水10mLを加えた。
これを室温で12時間撹拌し、TLCで原料の消失を確認した。
この溶液を濃縮し、コレステリル−β−D−グルコピラノシド68.2mg(収率88.9%)を得た。
【0058】
(b)前記2)で得られた、テトラアセチルコレステリル−β−D−グルコピラノシド15.41gをメタノール300mLに溶解した。
さらに、30質量%アンモニア水50mLを加えた。
これを室温で12時間撹拌し、TLCで原料の消失を確認した。
この溶液を濃縮し、コレステリル−β−D−グルコピラノシド11.31g(収率95.9%)を得た。
これをエタノール−水で再結晶し、白色の粉末(4.58g)を得た。さらに、母液を再度結晶化させ、薄茶色の粉末(2.7g)を得た。
なお、活性試験用には、この方法で合成されたコレステリル−β−D−グルコピラノシドを用いた。
【0059】
<分析結果>
イ)テトラアセチルコレステリル−β−D−グルコピラノシドの構造確認
前記1)および2)で得られたテトラアセチルコレステリル−β−D−グルコビラノシドのH−NMRは、いずれも文献値と良い一致を示した。
また、ジアステレオ異性体のテトラアセチルコレステリル−α−D−グルコピラノシドの生成も、認められなかった。
ロ)コレステリル−β−D−グルコピラノシドの構造確認
前記3)(b)で得られたコレステリル−β−D−グルコピラノシドのH−NMRを図1に示す。
このコレステリル−β−D−グルコピラノシドは、文献値と良い一致を示した。加水分解反応は定量的に反応が進んでいた。
ハ)コレステリル−β−D−グルコビラノシドの純度
前記3)(b)で得られたコレステリル−β−D−グルコピラノシドのTLCクロマトグラムを図2に、HPLCクロマトグラムを図3に示す。
これらから、白色粉末、薄茶色の粉末のいずれも、ワンスポット、ワンピークを与えることが分かる。
【0060】
<製造例3>
トウモロコシ由来のステリルグルコピラソシド(以下、CSGと略記する。)を、以下のようにして得た。
トウモロコシ種実(スイートコーン種)100g(生質量)を、温度100℃の水蒸気で3分間加熱して酵素を失活した後、ポリトロン型ホモジナイザーを用いて、5倍容のクロロホルム:メタノール(2:1,v/v)でホモジナイズし、吸引ろ過した。
この残渣について、同様の処理をクロロホルム:メタノール(2:1,v/v)およびクロロホルム:メタノール(1:2,v/v)で1回ずつ行い、それぞれの抽出液を回収した。
この抽出液を濃縮後、混在する水溶性成分を水洗除去し、下層のクロロホルム層を減圧濃縮して、総脂質とした。総脂質は約1.7g回収された。
つぎに、総脂質をクロロホルム−アセトン−メタノール系のケイ酸カラムクロマトグラフィーに供し、中性脂質、糖脂質およびリン脂質に分画した。
この糖脂質画分を、クロロホルム−アセトン系のケイ酸カラムクロマトグラフィーに供し、粗分画した後、展開溶媒にクロロホルム−メタノール−水(65:16:2,v/v)を用いた分取ケイ酸TLCを用いて、ステリルグルコピラノシド(CSG)を精製した。
収量は、トウモロコシ100g(生質量)当たり3.4mgであった。
【0061】
<製造例4>
コメ由来のステリルグルコピラノシド(以下、RSGと略記する。)を、以下のようにして得た。
製造例3と同様にして、コメ糠から総脂質を抽出した。総脂質の収量は、コメ糠100g当たり10.9gであった。
つぎに、製造例3と同様にして、総脂質からステリルグルコピラノシド(RSG)を分離精製した。収量は、コメ糠100g(生質量)当たり26.7mgであった。
【0062】
<参考例1;マウスによる発毛の予備実験>
製造例1で得たFCG10pg/mL濃度の70質量%エタノール水溶液(試料液)を調製した。
9週齢ICR雄マウス4匹の剃毛背側皮膚に、前記試料液20μLを塗布し、3時間後と6時間後に皮膚を採取した。
この皮膚に対し、bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)、Hsp70(熱ショック蛋白70)及びVEGF(血管内皮細胞増殖因子)の蛍光抗体法による免疫染色とHE染色(ヘマトキシリンーエオシン染色)を行い、14μm厚クリオスッタト切片の標本を作製した。
この標本を、顕微鏡と写真撮影装置[Carl Zeiss,Jena社製、AxioCam MRc5装着Axioskop]で観察した。
【0063】
(1)塗布3時間後
<HE染色>
2匹中、1匹のマウスに、局所的な毛根の伸長と毛球の肥大が認められた。
成長期の毛根;毛根が伸びた毛母基はかなり肥大しており、帽状に毛乳頭と接触していた。一部の肥大した毛母基は、毛乳頭を完全に取り込んでいた。
さらに、毛包(外根鞘)と、それに続く表皮に局所的な重層化とバルジの肥大が観察された。
<bFGF免疫染色>
表皮近傍の重層化毛包とそれに続く重層化表皮、肥大化バルジ部、毛母基最外層の外根鞘、立毛筋などにbFGFの強い発現が見られた。
特に、毛乳頭と接触した毛母基接触面の外根鞘に、bFGFの強い発現が惹起されていた。
<VEGF免疫染色>
エタノール対照マウス:上皮と若干肥大したバルジ部の細胞が、VEGFに陽性であった。
FCG塗布マウス:毛母基内の毛乳頭細胞と、毛母基最外層に局在する、おそらく線維芽細胞にVEGF陽性反応がみられた。
表皮と休止期毛根の毛乳頭細胞に、VEGFの発現が観察された。
<Hsp70免疫染色>
休止期毛根の毛乳頭細胞に、弱あるいは中等度のHsp70の発現が見られた。
また、立毛筋と線維芽細胞に弱陽性反応が認められたが、バルジ部は陰性であった。
【0064】
(2)塗布6時間後
<HE染色>
殆どの毛根が皮下組織にまで達しており、その内一部の毛根はJ字状に湾曲していた。
<bFGF免疫染色>
毛乳頭が毛母基に完全に包み込まれた毛球が観察されたが、毛乳頭細胞のbFGFの発現は微弱になっていた。
毛母基に毛乳頭細胞が接触して、毛母基に取り込みが始まる時期に、一過性にbFGFの強い発現が惹起されるようである。
立毛筋のbFGF発現は、中等度に減弱していた。
【0065】
以上の結果、下記のことが考えられる。
FCGを塗布すると、表皮、外根鞘、バルジ、毛母基などにbFGFの発現が誘発され、これらの組織に細胞分裂が惹起される。
正常マウスの表皮は2列立方上皮であるが、表皮とそれに続く外根鞘は重層化し、おそらく、この重層化は毛根の伸長に働き、毛乳頭との接触に関与すると考えられる。
バルジ、毛母基などは、細胞分裂によって肥大化とbFGFの発現がさらに増強する。
休止期毛根では毛母基の形態を呈していないが、分裂・増殖に伴い成長期の毛母基の形成が惹起される。
毛乳頭は、分化途上の毛母基との接触によって分裂・増殖・肥大し、さらにbFGFの強い発現がおきる。
毛母基の形成に伴って、毛乳頭の取り込みが始まる。毛乳頭は毛母基に完全に取り込まれると、毛根の形成が完了する。
毛球の毛乳頭ではbFGFの発現が微弱となり、これに代わってVEGFの発現が誘導される。
このVEGF発現は毛球内に微小血管を誘導することが示唆され、成長期毛根の分化が完了する。
【0066】
<実施例1〜4>
1)試料液の調製
製造例1で得たFCG、製造例2で得たSCG、製造例3で得たCSGおよび製造例4で得たRSGを、それぞれ70質量%エタノール水に溶解し、
FCG 1pg/mL溶液
FCG 10pg/mL溶液
FCG 100pg/mL溶液
SCG 1pg/mL溶液
SCG 10pg/mL溶液
SCG 100pg/mL溶液
CSG 1pg/mL溶液
CSG 10pg/mL溶液
RSG 1pg/mL溶液
および
RSG 10pg/mL溶液
を調製した。
また、市販のコレステロール(以下、Choと略記する。)を70質量%エタノール水に溶解し、Cho 10pg/mL溶液を調製した。
【0067】
2)発毛試験
8〜9週齢C3H雄マウスの背側体毛を、動物用電気バリカン(大東電気工業社製「Thrive clipper, Model 600AD」)と、回転式セェーバ(ナショナルES611)を併用して剃毛した。
前記の各試料液20μLを、それぞれ4回に分けて風乾を繰り返しながら、マウス剃毛中央部の皮膚に塗布した。塗布は剃毛後、24時間経過してから実施した。
発毛効果は、試料液塗布2週間後に、肉眼観察とデジタルカメラ撮影写真によって評価した。
なお、対照として70質量%エタノール水の塗布および試料液無塗布剃毛マウスを用いた。結果を表1に示す。


【0068】
【表1】

【0069】
表1から、以下のことが分かる。
合成コレステリルグルコピラノシド(SCG)にも、羽毛由来のコレステリルグルコピラノシド(FCG)と同一の発毛作用が認められる。
また、植物由来のステリルグルコピラノシド(CSG,RSG)およびコレステロール(Cho)も弱いながら発毛作用が認められる。
また、FCGおよびSCGは、マウスに対しては、濃度が10pg/mLよりも1pg/mLの方が、発毛作用が強い。
【0070】
<実施例5>
FCGの46歳女性の、頭髪に対する発毛効果を調べた。
充分に洗髪し、ドライヤーで完全に乾燥させたのち、FCG 10pg/mL濃度の70質量%エタノール水溶液(試料液)約3.5mLを、頭皮に満遍なく塗布する操作を1日1回行った。
試料液を使用前、使用開始日から約2ヶ月経過後に、それぞれデジタルカメラで、前額部からと頭頂部から写真撮影した。その結果を図4に示す。
図4から分かるように、使用開始日から約2ヶ月経過後に、前額部および頭頂部のいずれも多量の発毛が認められた。
【0071】
<実施例6>
FCGの35歳男性の、頭髪に対する発毛効果を調べた。
充分に洗髪し、完全に自然乾燥させたのち、FCG 10pg/mL濃度の70質量%エタノール水溶液(試料液)約3.5mLを、頭皮に満遍なく塗布する操作を1日1回行った。
試料液の使用開始日および約2ヶ月経過後に、それぞれデジタルカメラで、後頭部の写真撮影を行った。その結果を図5に示す。
2ヶ月経過後に、後頭部及び頭頂部にかなりの発毛が認められた。
なお、1年以上経過した時点で、副作用は全く認められていない。

【産業上の利用可能性】
【0072】
この発明の発毛・育毛料は、ステリルグルコピラノシド、好ましくはコレステリルグルコピラノシドを有効成分とし、超希薄濃度(10−13g/mL、10−12g/mL)においても、優れた発毛、育毛効果を発揮するもので、医薬品として、あるいは化粧品として広く利用される可能性を有するものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表されるステリルグルコピラノシドを含有すること
を特徴とする発毛・育毛料。
一般式(I)
【化1】

(但し、式中、Zは、シクロペンタノヒドロフェナントレン環の3位に結合する水酸基を除いたステロール残基を示す。)
【請求項2】
前記一般式(I)におけるステロール残基は、
コレステロール残基、β−シトステロール残基、スチグマステロール残基、カンペステロール残基又はブラジカステロール残基であること
を特徴とする請求項1に記載の発毛・育毛料。
【請求項3】
前記ステリルグルコピラノシドは、
コレステリルグルコピラノシドであること
を特徴とする請求項2に記載の発毛・育毛料。
【請求項4】
前記ステリルグルコピラノシドは、
天然由来物質及び/又は合成品であること
を特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の発毛・育毛料。
【請求項5】
前記コレステリルグルコピラノシドは、
鳥類の羽毛から得られたものであること
を特徴とするものである請求項3に記載の発毛・育毛料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−246279(P2012−246279A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121662(P2011−121662)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(599035339)株式会社 レオロジー機能食品研究所 (16)
【Fターム(参考)】