発泡体の製造方法
【課題】表裏面からの研磨液などの水分の浸透を抑制できるとともに、表裏面の強度を高めた発泡体の製造方法を提供する。
【解決手段】基材1に、樹脂溶液を塗工し、湿式凝固して発泡層2を形成し、前記発泡層2の裏面の前記基材1を剥離して、発泡層2の表裏面に、平滑な樹脂フィルム3を重ねてヒートロールを通過させて加熱加圧し、樹脂フィルム3を剥離する。
【解決手段】基材1に、樹脂溶液を塗工し、湿式凝固して発泡層2を形成し、前記発泡層2の裏面の前記基材1を剥離して、発泡層2の表裏面に、平滑な樹脂フィルム3を重ねてヒートロールを通過させて加熱加圧し、樹脂フィルム3を剥離する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン発泡体などの発泡体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シート状のポリウレタン発泡体は、例えば、研磨加工される被加工物を保持する被加工物保持材などとして用いられる。
【0003】
図13は、半導体ウェハやLCD用ガラス等の被加工物の研磨加工を行う研磨装置の構成図である。
【0004】
研磨装置の上下に対向する定盤の上側定盤9に、研磨加工が施される被加工物10を保持し、下側定盤11に、研磨パッド12を貼り付け、被加工物10の表面を研磨パッド12に圧接させつつ両定盤間に砥粒を含む研磨液を供給しながら両定盤9,11を矢符で示すように相対回転させることにより行なわれる。
【0005】
被加工物10は、上側定盤9に固定されて被加工物10の裏面を吸着保持する被加工物保持材としてのバッキング材13と、被加工物10の外周を取り囲んで被加工物10がバッキング材13表面で位置ずれするのを防止する枠状のテンプレート14とを用いて上側定盤9に保持される(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
上記バッキング材13としては、例えば、基材に塗工したウレタン樹脂のDMF(ジメチルホルムアミド)溶液層を水中にて湿式凝固させ、温水中で洗浄、熱風で乾燥を行って、図14(a)に示すように基材1上に発泡層2を形成し、所要の厚みに揃えるなどの目的で、図14(b)に示すように、前記発泡層2の表面2aをバフ加工したシート状のポリウレタン発泡体が用いられる(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
前記バフ加工後の発泡層2の表面2a−2は、被加工物を吸着保持する保持面となるのであるが、バフ加工では、十分な平滑面が得られず、このため、被加工物の吸着保持力が不十分となっていた。
【0008】
このため、図15(a)に示すように、基材1上に形成された発泡層2の表面2aをバフ加工することなく、図15(b)に示すように、基材1から発泡層2を剥離し、図15(c)に示すように、表面2aを平坦な圧接ローラ7に圧接し、図15(d)に示すように発泡層2の裏面2b側をバフ加工した後、図15(e)に示すように両面テープ8等に再び接着したバッキング材がある(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平09−321001号公報
【特許文献2】特許第3187769号
【特許文献3】特開2006−62058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
かかるバッキング材では、発泡による多数の気泡(ポア)を有しており、被加工物の研磨加工の際には、被加工物を保持する表面(保持面)から研磨液が浸透して、被加工物の平坦度を悪化させたり、裏面側の基材や両面テープとの接着強度が弱くなって、基材や両面テープから剥がれる場合がある。
【0011】
また、湿式凝固による発泡ウレタンは、表面に多数の気泡が開口しているので、表面から亀裂が入って破断しやすく、被研磨物の脱着時に被加工物保持材を破損してしまう場合がある。
【0012】
本発明は、上述のような点に鑑みて為されたものであって、表裏面からの研磨液などの水分の浸透を抑制できるとともに、表裏面の強度を高めた発泡体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、上記目的を達成するために、次のように構成している。
【0014】
本発明の発泡体の製造方法は、発泡層を形成する工程と、前記発泡層の表裏面に、平滑な平滑部材を重ねて加熱加圧する工程と、前記平滑部材を、前記発泡層の表裏面からそれぞれ剥離する工程とを含んでいる。
【0015】
前記加熱加圧する工程では、発泡層の表裏面に平滑部材をそれぞれ重ねて同時に加熱加圧してもよいし、発泡の表裏面の一方の面に平滑部材を重ねて加熱加圧した後、他方の面に平滑部材を重ねて加熱加圧してもよい。
【0016】
前記平滑部材は、フィルム状またはシート状であるのが好ましい。
【0017】
本発明によると、発泡層の表裏面に、平滑部材を重ねて加熱加圧した後、平滑部材を剥離するので、発泡層の表裏面には、加熱加圧によって、押し潰された平滑で緻密な層がそれぞれ形成される。これによって、かかる発泡体を被加工物保持材として用いた場合には、研磨加工の際の研磨液の浸透が、表裏面の緻密な層によって阻止されることになり、被加工物の平坦度を悪化させたり、発泡層が基材や両面テープから剥離するのを抑制することができる。さらに、被加工物を保持する保持面は、従来例に比べて平滑なものとなり、被加工物を保持するための吸着保持力が向上する。
【0018】
また、発泡層の表裏面は、気泡が押し潰された緻密な層となっているので、表裏面の強度が高まり、破断しにくいものとなる。
【0019】
一つの実施形態では、前記発泡層を形成する工程は、基材に樹脂溶液を塗工し、湿式凝固して発泡層を形成するものであり、前記発泡層を形成する工程によって得られた前記発泡層の裏面の前記基材を剥離する工程を含んでいる。
【0020】
前記樹脂溶液は、ウレタン樹脂溶液であるのが好ましい。
【0021】
この実施形態によると、湿式凝固法によって発泡層を形成し、発泡層の裏面から基材を剥離した後、発泡層の表裏面に、平滑な平滑部材を重ねて加熱加圧する工程に移行することができる。
【0022】
他の実施形態では、前記加熱加圧する工程では、前記平滑部材を前記発泡層に重ねて、少なくとも一方がヒートロールである2本のロール間を通過させるものである。前記ヒートロールの温度は、前記平滑部材の融点以下の温度であるのが好ましい。
【0023】
この実施形態によると、2本のロール間を通過させることで、容易に加熱加圧できるとともに、ヒートロールの温度、通過速度やロール間の隙間等の条件の選択によって、発泡層の表裏面の緻密な層の厚みや強度等の特性を調整することができる。
【0024】
好ましい実施形態では、前記平滑部材が、樹脂フィルムであり、当該発泡体がシート状である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、発泡層の表裏面には、平滑で緻密な層がそれぞれ形成されるので、かかる発泡体を被加工物保持材として用いた場合には、研磨加工の際の研磨液の浸透が、表裏面の緻密な層によって阻止されることになり、被加工物の平坦度を悪化させたり、発泡層が、基材や両面テープから剥がれるのを抑制することができ、さらに、被加工物を保持する保持面は、従来例に比べて平滑なものとなり、被加工物を保持するための吸着保持力が向上する。
【0026】
また、発泡層の表裏面は、気泡が潰されて緻密な層となっているので、表裏面の強度が高まり、破断しにくいものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一つの実施の形態に係る被加工物保持材の製造工程を示す図である。
【図2】ヒートロールによる加熱加圧工程を示す図である。
【図3】比較例の500倍の表面側の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例の500倍の表面側の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】比較例の2000倍の裏面側の走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例の2000倍の裏面側の走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】比較例の1000倍の裏面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例の1000倍の裏面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】比較例の表面のうねり曲線を示す図である。
【図10】実施例の表面のうねり曲線を示す図である。
【図11】別の比較例の表面のうねり曲線を示す図である。
【図12】別の実施例の表面のうねり曲線を示す図である。
【図13】研磨装置の概略構成図である。
【図14】従来例の製造工程を示す図である。
【図15】別の従来例の製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面によって本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0029】
この実施形態では、発泡体として、シート状の被加工物保持材を製造する方法に適用して説明する。
【0030】
図1は、本発明の実施形態に係る被加工物保持材の製造方法を示す図である。
【0031】
この実施形態の被加工物保持材の製造方法では、先ず、ウレタン樹脂のDMF(ジメチルホルムアミド)溶液を、PETフィルム等の基材1上に塗工し、湿式凝固法により、図1(a)に示すように、基材1上に、涙滴状の気泡などの多数の気泡を有する多孔質の発泡層2を形成する。この発泡層2を、図1(b)に示すように基材1から剥離する。
【0032】
次に、発泡層2の表裏両面2a,2bに図1(c)に示すように、平滑部材としてのPETフィルム等の樹脂フィルム3をそれぞれ重ね、2本のヒートロール間を通過させることによって図1(d)に示すように加熱加圧して一体化する。
【0033】
その後、表裏面の樹脂フィルム3を図1(e)に示すように剥離し、裏面2b−1に両面テープ4を貼り付けて図1(f)に示すように表面2a−1を被加工物の保持面とした被加工物保持材を得る。
【0034】
発泡層2を形成するためのウレタン樹脂としては、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系などのウレタン樹脂を用いることができ、異なる種類のウレタン樹脂をブレンドしてもよい。
【0035】
ウレタン樹脂を溶解させる水溶性有機溶媒としては、上述のジメチルホルムアミドの他、例えば、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ジメチルアセトアミド等の溶媒を用いることができる。
【0036】
この実施形態の被加工物保持材の製造方法では、基材1から剥がした発泡層2の表裏両面2a,2bに、平滑な樹脂フィルム3を挟んでヒートロールで加熱加圧した後、樹脂フィルム3を剥がすので、発泡層2の表裏両面2a−1,2b−1は、加熱加圧によって、気泡(ポア)等が押し潰された平滑で緻密な層が形成されており、被加工物保持材を保持して研磨加工する際に、研磨液の浸透が表裏面の緻密な層によって阻止されることになる。これによって、被加工物の平坦度を悪化させたり、発泡層2が、両面テープ4から剥がれるのを抑制することができる。さらに、被加工物を保持する保持面となる発泡層2の表面2a−1は、従来例に比べて平滑なものとなり、被加工物を保持するための吸着保持力が向上する。また、表裏両面2a−1,2b−1は、気泡が押し潰されて緻密な層となっているので、強度が高まり、破断しにくいものとなり、被研磨物の脱着時に被加工物保持材が破損するのを防止することができる。
【0037】
この発泡層2の表面2a−1について、次のようにして評価を行った。すなわち、図1(c)に示すように、表裏両面2a,2bに、平滑な樹脂フィルム3を重ねて厚みを1.2mmとした発泡層2を、図2に示すように、間隙が1.0mmで、150℃の上下のヒートロール5,6間を1.0m/minで通過させ、その後、樹脂フィルム3を剥離した表面、すなわち、図1(e)に示される実施例の発泡層2の表面2a−1を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察するとともに、後述の測定装置によって表面うねりを計測した。また、樹脂フィルム3を剥離した裏面、すなわち、図1(e)に示される裏面2b−1を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した。
【0038】
一方、比較例として、図1(b)に示す基材1から剥離した発泡層2の表面2aおよび裏面2b、すなわち、樹脂フィルム3を重ねたヒートロール5,6による加熱加圧を行っていない発泡層2の表面2aおよび裏面2bについて、同様に、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察するとともに、表面うねりを計測した。
【0039】
図3および図4は、倍率500倍の比較例および実施例の表面の縁部分におけるSEM写真であり、図5および図6は、倍率2000倍の比較例および実施例の表面の縁部分のSEM写真であり、これらの図では、表面の縁部分をSEM像とし、表面および側面を観察できるようにしている。
【0040】
また、図7および図8は、倍率1000倍の比較例および実施例の裏面のSEM写真である。
【0041】
樹脂フィルム3を重ねてヒートロール5,6を通過させた後、樹脂フィルム3を剥離した図4および図6に示される実施例の発泡層の表面は、図3および図5の比較例の発泡層の表面に比べて、表面が平滑となっており、小さな気泡(ポア)がつぶれ、緻密な層が形成されている。
【0042】
このように、被加工物保持材を保持する保持面となる発泡層の表面は、平滑な面となっているので、被加工物保持材を保持するための吸着保持力が向上する。
【0043】
また、図8の実施例の発泡層の裏面も小さな気泡(ポア)がつぶれ、図7の比較例に比べて緻密な層が形成されている。
【0044】
このように発泡層の表裏面は、いずれも従来に比べて平滑で緻密な層となっており、被加工物保持材を保持して研磨加工する際に、研磨液の浸透が、表裏面の緻密な層によって抑止されることになり、被加工物の平坦度を悪化させたり、発泡層が、研磨液の浸透によって両面テープから剥がれるのを防止することができる。
【0045】
次に、上記実施例および比較例の表面のうねりの測定結果を示す。
測定条件は、下記の表1の通りである。
【0046】
【表1】
【0047】
図9に比較例のろ波うねり曲線を、図10に実施例のろ波うねり曲線をそれぞれ示す。
【0048】
また、実施例と比較例のWa(算術平均うねり)、Wcmax(うねり曲線要素の高さの最大値)、および、Wfpd(ろ波中心線うねり曲線中のある基準長さについての真直度の、評価長さの範囲内での最大値)の計測結果を、表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
図9、図10および表2に示すように、実施例の発泡層の表面は、比較例に比べて、うねりが低減されていることがわかる。
【0051】
したがって、実施例の被加工物保持材によれば、被加工物の平坦性を改善することができる。
【0052】
更に、実施例の発泡層の裏面に両面テープを貼り付けた被加工物保持材の圧縮率を測定した。
【0053】
圧縮率は、サンプルに初期荷重を1分間かけたときの厚みT1を測定し、続けて第二荷重を1分間かけたときの厚みT2を測定し、次式によって算出した。
【0054】
圧縮率(%)=[(T1−T2)/T1]×100
実施例の被加工物保持材の圧縮率は、35.1%であった。
この圧縮率は、20%〜60%であるのが好ましい。
【0055】
また、上記実施例および比較例とは、組成の異なる低モジュラスの発泡ポリウレタン樹脂を用いて別の実施例および別の比較例を製作し、同様に表面うねりを計測した。
【0056】
図11に比較例のろ波うねり曲線を、図12に実施例のろ波うねり曲線をそれぞれ示す。
【0057】
また、実施例と比較例のWa、Wcmax、および、Wfpdの計測結果を、表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
図11、図12および表3に示すように、組成の異なるポリウレタン発泡樹脂であっても、うねりが低減されていることがわかる。
【0060】
上述の実施形態では、被加工物保持材に適用して説明したけれども、本発明は、緩衝材などの他の発泡体にも適用できるものであり、表裏面に、緻密な層が形成されて強度が高まり、破断にくいものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、被加工物保持材や緩衝材などの発泡体の製造に有用である。
【符号の説明】
【0062】
1 基材 2 発泡層
3 樹脂フィルム 4 両面テープ
5,6 ヒートロール
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン発泡体などの発泡体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シート状のポリウレタン発泡体は、例えば、研磨加工される被加工物を保持する被加工物保持材などとして用いられる。
【0003】
図13は、半導体ウェハやLCD用ガラス等の被加工物の研磨加工を行う研磨装置の構成図である。
【0004】
研磨装置の上下に対向する定盤の上側定盤9に、研磨加工が施される被加工物10を保持し、下側定盤11に、研磨パッド12を貼り付け、被加工物10の表面を研磨パッド12に圧接させつつ両定盤間に砥粒を含む研磨液を供給しながら両定盤9,11を矢符で示すように相対回転させることにより行なわれる。
【0005】
被加工物10は、上側定盤9に固定されて被加工物10の裏面を吸着保持する被加工物保持材としてのバッキング材13と、被加工物10の外周を取り囲んで被加工物10がバッキング材13表面で位置ずれするのを防止する枠状のテンプレート14とを用いて上側定盤9に保持される(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
上記バッキング材13としては、例えば、基材に塗工したウレタン樹脂のDMF(ジメチルホルムアミド)溶液層を水中にて湿式凝固させ、温水中で洗浄、熱風で乾燥を行って、図14(a)に示すように基材1上に発泡層2を形成し、所要の厚みに揃えるなどの目的で、図14(b)に示すように、前記発泡層2の表面2aをバフ加工したシート状のポリウレタン発泡体が用いられる(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
前記バフ加工後の発泡層2の表面2a−2は、被加工物を吸着保持する保持面となるのであるが、バフ加工では、十分な平滑面が得られず、このため、被加工物の吸着保持力が不十分となっていた。
【0008】
このため、図15(a)に示すように、基材1上に形成された発泡層2の表面2aをバフ加工することなく、図15(b)に示すように、基材1から発泡層2を剥離し、図15(c)に示すように、表面2aを平坦な圧接ローラ7に圧接し、図15(d)に示すように発泡層2の裏面2b側をバフ加工した後、図15(e)に示すように両面テープ8等に再び接着したバッキング材がある(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平09−321001号公報
【特許文献2】特許第3187769号
【特許文献3】特開2006−62058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
かかるバッキング材では、発泡による多数の気泡(ポア)を有しており、被加工物の研磨加工の際には、被加工物を保持する表面(保持面)から研磨液が浸透して、被加工物の平坦度を悪化させたり、裏面側の基材や両面テープとの接着強度が弱くなって、基材や両面テープから剥がれる場合がある。
【0011】
また、湿式凝固による発泡ウレタンは、表面に多数の気泡が開口しているので、表面から亀裂が入って破断しやすく、被研磨物の脱着時に被加工物保持材を破損してしまう場合がある。
【0012】
本発明は、上述のような点に鑑みて為されたものであって、表裏面からの研磨液などの水分の浸透を抑制できるとともに、表裏面の強度を高めた発泡体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、上記目的を達成するために、次のように構成している。
【0014】
本発明の発泡体の製造方法は、発泡層を形成する工程と、前記発泡層の表裏面に、平滑な平滑部材を重ねて加熱加圧する工程と、前記平滑部材を、前記発泡層の表裏面からそれぞれ剥離する工程とを含んでいる。
【0015】
前記加熱加圧する工程では、発泡層の表裏面に平滑部材をそれぞれ重ねて同時に加熱加圧してもよいし、発泡の表裏面の一方の面に平滑部材を重ねて加熱加圧した後、他方の面に平滑部材を重ねて加熱加圧してもよい。
【0016】
前記平滑部材は、フィルム状またはシート状であるのが好ましい。
【0017】
本発明によると、発泡層の表裏面に、平滑部材を重ねて加熱加圧した後、平滑部材を剥離するので、発泡層の表裏面には、加熱加圧によって、押し潰された平滑で緻密な層がそれぞれ形成される。これによって、かかる発泡体を被加工物保持材として用いた場合には、研磨加工の際の研磨液の浸透が、表裏面の緻密な層によって阻止されることになり、被加工物の平坦度を悪化させたり、発泡層が基材や両面テープから剥離するのを抑制することができる。さらに、被加工物を保持する保持面は、従来例に比べて平滑なものとなり、被加工物を保持するための吸着保持力が向上する。
【0018】
また、発泡層の表裏面は、気泡が押し潰された緻密な層となっているので、表裏面の強度が高まり、破断しにくいものとなる。
【0019】
一つの実施形態では、前記発泡層を形成する工程は、基材に樹脂溶液を塗工し、湿式凝固して発泡層を形成するものであり、前記発泡層を形成する工程によって得られた前記発泡層の裏面の前記基材を剥離する工程を含んでいる。
【0020】
前記樹脂溶液は、ウレタン樹脂溶液であるのが好ましい。
【0021】
この実施形態によると、湿式凝固法によって発泡層を形成し、発泡層の裏面から基材を剥離した後、発泡層の表裏面に、平滑な平滑部材を重ねて加熱加圧する工程に移行することができる。
【0022】
他の実施形態では、前記加熱加圧する工程では、前記平滑部材を前記発泡層に重ねて、少なくとも一方がヒートロールである2本のロール間を通過させるものである。前記ヒートロールの温度は、前記平滑部材の融点以下の温度であるのが好ましい。
【0023】
この実施形態によると、2本のロール間を通過させることで、容易に加熱加圧できるとともに、ヒートロールの温度、通過速度やロール間の隙間等の条件の選択によって、発泡層の表裏面の緻密な層の厚みや強度等の特性を調整することができる。
【0024】
好ましい実施形態では、前記平滑部材が、樹脂フィルムであり、当該発泡体がシート状である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、発泡層の表裏面には、平滑で緻密な層がそれぞれ形成されるので、かかる発泡体を被加工物保持材として用いた場合には、研磨加工の際の研磨液の浸透が、表裏面の緻密な層によって阻止されることになり、被加工物の平坦度を悪化させたり、発泡層が、基材や両面テープから剥がれるのを抑制することができ、さらに、被加工物を保持する保持面は、従来例に比べて平滑なものとなり、被加工物を保持するための吸着保持力が向上する。
【0026】
また、発泡層の表裏面は、気泡が潰されて緻密な層となっているので、表裏面の強度が高まり、破断しにくいものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一つの実施の形態に係る被加工物保持材の製造工程を示す図である。
【図2】ヒートロールによる加熱加圧工程を示す図である。
【図3】比較例の500倍の表面側の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例の500倍の表面側の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】比較例の2000倍の裏面側の走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例の2000倍の裏面側の走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】比較例の1000倍の裏面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例の1000倍の裏面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】比較例の表面のうねり曲線を示す図である。
【図10】実施例の表面のうねり曲線を示す図である。
【図11】別の比較例の表面のうねり曲線を示す図である。
【図12】別の実施例の表面のうねり曲線を示す図である。
【図13】研磨装置の概略構成図である。
【図14】従来例の製造工程を示す図である。
【図15】別の従来例の製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面によって本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0029】
この実施形態では、発泡体として、シート状の被加工物保持材を製造する方法に適用して説明する。
【0030】
図1は、本発明の実施形態に係る被加工物保持材の製造方法を示す図である。
【0031】
この実施形態の被加工物保持材の製造方法では、先ず、ウレタン樹脂のDMF(ジメチルホルムアミド)溶液を、PETフィルム等の基材1上に塗工し、湿式凝固法により、図1(a)に示すように、基材1上に、涙滴状の気泡などの多数の気泡を有する多孔質の発泡層2を形成する。この発泡層2を、図1(b)に示すように基材1から剥離する。
【0032】
次に、発泡層2の表裏両面2a,2bに図1(c)に示すように、平滑部材としてのPETフィルム等の樹脂フィルム3をそれぞれ重ね、2本のヒートロール間を通過させることによって図1(d)に示すように加熱加圧して一体化する。
【0033】
その後、表裏面の樹脂フィルム3を図1(e)に示すように剥離し、裏面2b−1に両面テープ4を貼り付けて図1(f)に示すように表面2a−1を被加工物の保持面とした被加工物保持材を得る。
【0034】
発泡層2を形成するためのウレタン樹脂としては、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系などのウレタン樹脂を用いることができ、異なる種類のウレタン樹脂をブレンドしてもよい。
【0035】
ウレタン樹脂を溶解させる水溶性有機溶媒としては、上述のジメチルホルムアミドの他、例えば、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ジメチルアセトアミド等の溶媒を用いることができる。
【0036】
この実施形態の被加工物保持材の製造方法では、基材1から剥がした発泡層2の表裏両面2a,2bに、平滑な樹脂フィルム3を挟んでヒートロールで加熱加圧した後、樹脂フィルム3を剥がすので、発泡層2の表裏両面2a−1,2b−1は、加熱加圧によって、気泡(ポア)等が押し潰された平滑で緻密な層が形成されており、被加工物保持材を保持して研磨加工する際に、研磨液の浸透が表裏面の緻密な層によって阻止されることになる。これによって、被加工物の平坦度を悪化させたり、発泡層2が、両面テープ4から剥がれるのを抑制することができる。さらに、被加工物を保持する保持面となる発泡層2の表面2a−1は、従来例に比べて平滑なものとなり、被加工物を保持するための吸着保持力が向上する。また、表裏両面2a−1,2b−1は、気泡が押し潰されて緻密な層となっているので、強度が高まり、破断しにくいものとなり、被研磨物の脱着時に被加工物保持材が破損するのを防止することができる。
【0037】
この発泡層2の表面2a−1について、次のようにして評価を行った。すなわち、図1(c)に示すように、表裏両面2a,2bに、平滑な樹脂フィルム3を重ねて厚みを1.2mmとした発泡層2を、図2に示すように、間隙が1.0mmで、150℃の上下のヒートロール5,6間を1.0m/minで通過させ、その後、樹脂フィルム3を剥離した表面、すなわち、図1(e)に示される実施例の発泡層2の表面2a−1を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察するとともに、後述の測定装置によって表面うねりを計測した。また、樹脂フィルム3を剥離した裏面、すなわち、図1(e)に示される裏面2b−1を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した。
【0038】
一方、比較例として、図1(b)に示す基材1から剥離した発泡層2の表面2aおよび裏面2b、すなわち、樹脂フィルム3を重ねたヒートロール5,6による加熱加圧を行っていない発泡層2の表面2aおよび裏面2bについて、同様に、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察するとともに、表面うねりを計測した。
【0039】
図3および図4は、倍率500倍の比較例および実施例の表面の縁部分におけるSEM写真であり、図5および図6は、倍率2000倍の比較例および実施例の表面の縁部分のSEM写真であり、これらの図では、表面の縁部分をSEM像とし、表面および側面を観察できるようにしている。
【0040】
また、図7および図8は、倍率1000倍の比較例および実施例の裏面のSEM写真である。
【0041】
樹脂フィルム3を重ねてヒートロール5,6を通過させた後、樹脂フィルム3を剥離した図4および図6に示される実施例の発泡層の表面は、図3および図5の比較例の発泡層の表面に比べて、表面が平滑となっており、小さな気泡(ポア)がつぶれ、緻密な層が形成されている。
【0042】
このように、被加工物保持材を保持する保持面となる発泡層の表面は、平滑な面となっているので、被加工物保持材を保持するための吸着保持力が向上する。
【0043】
また、図8の実施例の発泡層の裏面も小さな気泡(ポア)がつぶれ、図7の比較例に比べて緻密な層が形成されている。
【0044】
このように発泡層の表裏面は、いずれも従来に比べて平滑で緻密な層となっており、被加工物保持材を保持して研磨加工する際に、研磨液の浸透が、表裏面の緻密な層によって抑止されることになり、被加工物の平坦度を悪化させたり、発泡層が、研磨液の浸透によって両面テープから剥がれるのを防止することができる。
【0045】
次に、上記実施例および比較例の表面のうねりの測定結果を示す。
測定条件は、下記の表1の通りである。
【0046】
【表1】
【0047】
図9に比較例のろ波うねり曲線を、図10に実施例のろ波うねり曲線をそれぞれ示す。
【0048】
また、実施例と比較例のWa(算術平均うねり)、Wcmax(うねり曲線要素の高さの最大値)、および、Wfpd(ろ波中心線うねり曲線中のある基準長さについての真直度の、評価長さの範囲内での最大値)の計測結果を、表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
図9、図10および表2に示すように、実施例の発泡層の表面は、比較例に比べて、うねりが低減されていることがわかる。
【0051】
したがって、実施例の被加工物保持材によれば、被加工物の平坦性を改善することができる。
【0052】
更に、実施例の発泡層の裏面に両面テープを貼り付けた被加工物保持材の圧縮率を測定した。
【0053】
圧縮率は、サンプルに初期荷重を1分間かけたときの厚みT1を測定し、続けて第二荷重を1分間かけたときの厚みT2を測定し、次式によって算出した。
【0054】
圧縮率(%)=[(T1−T2)/T1]×100
実施例の被加工物保持材の圧縮率は、35.1%であった。
この圧縮率は、20%〜60%であるのが好ましい。
【0055】
また、上記実施例および比較例とは、組成の異なる低モジュラスの発泡ポリウレタン樹脂を用いて別の実施例および別の比較例を製作し、同様に表面うねりを計測した。
【0056】
図11に比較例のろ波うねり曲線を、図12に実施例のろ波うねり曲線をそれぞれ示す。
【0057】
また、実施例と比較例のWa、Wcmax、および、Wfpdの計測結果を、表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
図11、図12および表3に示すように、組成の異なるポリウレタン発泡樹脂であっても、うねりが低減されていることがわかる。
【0060】
上述の実施形態では、被加工物保持材に適用して説明したけれども、本発明は、緩衝材などの他の発泡体にも適用できるものであり、表裏面に、緻密な層が形成されて強度が高まり、破断にくいものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、被加工物保持材や緩衝材などの発泡体の製造に有用である。
【符号の説明】
【0062】
1 基材 2 発泡層
3 樹脂フィルム 4 両面テープ
5,6 ヒートロール
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡層を形成する工程と、
前記発泡層の表裏面に、平滑な平滑部材を重ねて加熱加圧する工程と、
前記平滑部材を、前記発泡層の表裏面からそれぞれ剥離する工程と、
を含むことを特徴とする発泡体の製造方法。
【請求項2】
前記発泡層を形成する工程は、基材に樹脂溶液を塗工し、湿式凝固して発泡層を形成するものであり、
前記発泡層を形成する工程によって得られた前記発泡層の裏面の前記基材を剥離する工程を含む請求項1に記載の発泡体の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂溶液が、ウレタン樹脂溶液である請求項2に記載の発泡体の製造方法。
【請求項4】
前記平滑部材が、フィルム状またはシート状である請求項1ないし3のいずれか一項に記載の発泡体の製造方法。
【請求項5】
前記加熱加圧する工程では、前記平滑部材を前記発泡層に重ねて、少なくとも一方がヒートロールである2本のロール間を通過させる請求項1ないし4のいずれか一項に記載の発泡体の製造方法。
【請求項6】
前記ヒートロールの温度が、前記平滑部材の融点以下の温度である請求項5に記載の発泡体の製造方法。
【請求項7】
前記平滑部材が、樹脂フィルムであり、当該発泡体がシート状である請求項1ないし6のいずれか一項に記載の発泡体の製造方法。
【請求項1】
発泡層を形成する工程と、
前記発泡層の表裏面に、平滑な平滑部材を重ねて加熱加圧する工程と、
前記平滑部材を、前記発泡層の表裏面からそれぞれ剥離する工程と、
を含むことを特徴とする発泡体の製造方法。
【請求項2】
前記発泡層を形成する工程は、基材に樹脂溶液を塗工し、湿式凝固して発泡層を形成するものであり、
前記発泡層を形成する工程によって得られた前記発泡層の裏面の前記基材を剥離する工程を含む請求項1に記載の発泡体の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂溶液が、ウレタン樹脂溶液である請求項2に記載の発泡体の製造方法。
【請求項4】
前記平滑部材が、フィルム状またはシート状である請求項1ないし3のいずれか一項に記載の発泡体の製造方法。
【請求項5】
前記加熱加圧する工程では、前記平滑部材を前記発泡層に重ねて、少なくとも一方がヒートロールである2本のロール間を通過させる請求項1ないし4のいずれか一項に記載の発泡体の製造方法。
【請求項6】
前記ヒートロールの温度が、前記平滑部材の融点以下の温度である請求項5に記載の発泡体の製造方法。
【請求項7】
前記平滑部材が、樹脂フィルムであり、当該発泡体がシート状である請求項1ないし6のいずれか一項に記載の発泡体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2010−274509(P2010−274509A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128782(P2009−128782)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000116127)ニッタ・ハース株式会社 (150)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000116127)ニッタ・ハース株式会社 (150)
【Fターム(参考)】
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