説明

発泡体セラミックスを用いた光触媒の製造方法及び光触媒

【課題】 この発明は、脱水ケーキを用いて酸化チタンを複合化させた光触媒を製造することを目的としたものである。
【解決手段】 この発明は、脱水ケーキにチタン錯体溶液、炭酸塩及び過酸化水素水を加えてスラリーを生成し、このスラリーを型に入れて成型した後、脱型し、この成型物を減圧低温乾燥した後、500℃〜700℃で焼結することを特徴とした発泡体セラミックスを用いた光触媒の製造方法により、目的を達成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主として砕石場から大量に発生している脱水ケーキを用いて酸化チタン複合発泡体セラミックスを製造する発泡体セラミックスを用いた光触媒の製造方法及び光触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
砕石場から大量に発生している脱水ケーキの有効利用については、幾多の研究開発があり、前記脱水ケーキを素材とする発泡体セラミックスの製造についての提案もある。
【0003】
また触媒担体としてセラミックスを用いることも知られており、セラミックスの固化について研究されているが、脱水ケーキなど廃棄物の触媒利用の為チタンと焼成して多孔性にする技術及び低温焼結体(例えば500℃〜700℃で焼結)などについては未だ知られていない。
【0004】
また発泡体セラミックスを触媒に利用する技術も光触媒の酸化チタンに関しては、研究課題であった。
【特許文献1】特開2001−269574
【特許文献2】特開2003−210997
【特許文献3】特開2001−205100
【特許文献4】特開2001−198475
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来砕石場などで大量に発生する脱水ケーキは、発泡体セラミックスとして建材に使用されているが、更に付加価値をつけて多量に消費すべく研究し、その一つとして光触媒の担体とすることに想到した。然し乍ら従来光触媒として、酸化チタンを使用する場合には、前記脱水ケーキを600℃〜900℃に焼結し、これに酸化チタンを付着させていたが、触媒能力の向上について更に研究を必要としていた。
【0006】
またセラミックスの中に釉薬を入れると、触媒能力が低下する問題点があった。
【0007】
従来特許公報に記載された発明としては、セラミックスと、酸化チタン粒とを混合し、成型し、焼結する手段を採用しているが、従来知られている製造方法では900℃以下で焼結している(特許文献1、3)。
【0008】
また酸化チタン焼結体の焼結温度500℃〜1100℃とされることもある(特許文献2)。
【0009】
更に酸化チタン多孔質セラミック体の焼結を400℃〜850℃とする提案もある(特許文献4)。但し前記は、本願発明とセラミックスの成分が異なるものが多く、焼結温度についても400℃〜1100℃の開きがあって、400℃のような低温焼結では、水に入れると崩壊し、高温焼結(例えば800℃以上)では触媒機能の低下が考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
然るにこの発明は、脱水ケーキ中に炭酸塩(低融点化物質)を混合することによって、500℃〜700℃で焼結できるようにして、前記従来の問題点を解決したのである。前記焼結温度を400℃〜500℃にした場合には、固形化した発泡体セラミックスを水中に入れると、崩壊することが認められ、700℃を越えると、酸化チタンの触媒機能が低下されるので、材質によって変動が考えられるが、表1のような成分の場合には焼結温度は500℃を越え、700℃未満がよいと考えられる。
【表1】

【0011】
即ちこの発明は、脱水ケーキにチタン錯体溶液、炭酸塩及び過酸化水素水を加えてスラリーを生成し、このスラリーを型に入れて成型した後、脱型し、この成型物を減圧低温乾燥した後、500℃〜700℃で焼結することを特徴とした発泡体セラミックスを用いた光触媒の製造方法であり、脱水ケーキに対し、チタン錯体溶液(Ti1モル/ml)を20%〜40%wt%加え、炭酸塩は炭酸カリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カルシウムとし、これを夫々5%〜30wt%用い、3%過酸化水素水は10%〜30wt%用いるものである。
【0012】
また、減圧低温乾燥は、圧力−0.2〜−0.05Paで温度60℃〜90℃としたものであり、チタン錯体溶液は、くえん酸溶液、硫酸チタン(IV)、3%過酸化水素水及びアンモニア水を等量混合して生成するものであり、また他の発明は、請求項1記載の方法により製造したことを特徴とする光触媒である。
【0013】
前記発明における触媒の焼結温度を500℃未満にした場合には、触媒を水中に入れると崩壊し、700℃を超えると、光触媒能力の低下が認められるので、500℃〜700℃とした。
【0014】
また乾燥時に常圧乾燥では、気孔率が70%以下になるので、減圧乾燥で−0.2〜−0.05Paとした。気孔率の関係から、過度の減圧は不必要と認められた。
【0015】
この発明で使用する酸化チタンは、紫外線を吸収することによって活性を帯びる代表的半導体物質であり、水又は空気の浄化に使用され、効果を奏している。
【0016】
一般に脱水ケーキを主材とするセラミックス担体の焼成温度は、900℃〜1000℃が良いと考えるが、酸化チタンを含むセラミックスの焼成温度は500℃以上700℃以下が好ましい。
【0017】
そこでセラミックスと酸化チタンとの混合物を焼結するには、焼結温度が触媒に悪影響を及ぼさない温度で通常の浄水などの触媒に耐え得る強度が好ましいので、500℃〜700℃となる。
【0018】
前記発明においては、砕石場から大量に発生している脱水ケーキの有効活用を検討しており、主に農業園芸・建材・環境浄化を目的に砕石微粒である脱水ケーキを主原料とした発泡体セラミックスの製造を検討している。この製造プ口セスの特徴として、発泡助剤として過酸化水素水を加えることにより、脱水ケーキに含まれた成分を発泡させるので、気泡が均一化する利点があり、かつ製造がきわめて簡単容易である。従来は発泡助剤に3%過酸化水素水、焼結助剤に釉薬を添加して800℃で1時間焼成することにより、気孔率50%〜60%の発泡体を製造することができる。また、環境浄化分野への応用としてチタンと過酸化水素水の錯体形成能力を利用し、発泡体セラミックスに光触媒性を付与することが可能である。
【0019】
また、従来の焼結助剤に釉薬を用いることにより、表面に露出する酸化チタン(TiO)の量が低下して光触媒性が低下する欠点を改善し、さらに高い気孔率を有する発泡体セラミッスの製造条件を研究し、光触媒性付与について、脱水ケーキとチタン錯体溶液とを混合させ、光触媒性付与を行う混合法について研究した。
【0020】
この発明は、脱水ケーキに対して全水量が40wt%になるように3%過酸化水素水と水を混合してスラリーとした。このとき、過酸化水素水の添加量が少なければ発泡は起こらず、添加量が多ければ発泡の際に自重により気孔がつぶれる。これは過酸化水素水濃度を大きくしても同様である。よって脱水ケーキに対して、3%過酸化水素水10wt%、水30wt%の全水量40wt%を最良のスラリー化条件とした。この配合比でスラリー化した後、成型、乾燥、離型して、大気中で焼成することによりこの発明の発泡体セラミックスを製造した。
【0021】
この発明において固化温度低下のための釉薬に代わる焼結助剤の選定を行い、各成分が固化温度に及ぼす影響を研究するとともに、気孔率に及ぼす影響についても研究した。
また光触媒性付与には、硫酸チタン(IV)と過酸化水素水、さらに錯体形成剤として、くえん酸、アンモニア水を加えてチタン錯体溶液とし、このチタン錯体溶液を脱水ケーキに添加してスラリーとして発泡体セラミックスを製造する混合法について検討した。また、露出面のTiOの確認にはEPMA分析を行った。
【0022】
前記脱水ケーキの主成分は、前記表1の化学組成に示すようにSiO、Alである。また、脱水ケーキの融点は1300℃〜1400℃の間であった。そこで状態図に基づき融点を低下できる成分を調査した。その結果SiO−Al−CaO、SiO−Al−KO、SiO−Al−NaOの各状態図において低融点組成のあることが確認できた。そこで、焼結助剤としてCaCO、KCO、NaCOを添加して低温固化の可能性を検討した。またこれらの炭酸塩の添加による発泡体の気孔率に及ぼす影響についても検討した。この場合の鉱物組成は表2のとおりである。
【表2】

【0023】
脱水ケーキに対して炭酸カルシウムを10wt%添加して作製した発泡体は、焼成温度500℃で固化はするが水中に入れたと同時に崩れてしまった。炭酸カリウム、炭酸ナトリウム10wt%を夫々添加して作製した発泡体は焼成温度500℃で作製したものは水中でも崩れることはなかった。さらに低温固化させるため炭酸カリウム、炭酸ナトリウムの添加量20wt%、30wt%と増やして400℃焼成を行ったが崩れた。次に釉薬を用いた場合の800℃に代わり、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウムの添加により焼成温度を500℃まで低下させることが可能となった。
【0024】
これら炭酸塩による気孔率の変化を検討すると、焼結助剤を添加せずに作製した発泡体セラミックスの気孔率は60%〜70%であった。釉薬を添加して作製すると釉薬が融解して気孔が塞がってしまうため、気孔率は10%近く低下する。しかし、炭酸塩を添加することにより、炭酸ガスの発生により気孔率は80%前後まで上昇するとの知見を得た。前記は実体顕微鏡およびSEMにより観察した気孔状態を図3、図4に示した。連続した気孔になっている。またSEM観察で発泡体の表面は凹凸が激しく、小さな気孔も確認できた。これら焼結助剤を加えた発泡体セラミックスは気孔率が大きく向上すると共に、水に浮くことを確認した。
【発明の効果】
【0025】
この発明によれば、脱水ケーキとチタン錯体溶液及び炭酸塩と、過酸化水素水を加えてスラリー化した。このスラリーと酸化チタン粉との混合物を成型、乾燥、焼結したので、触媒担体に酸化チタンが確実に、かつ広面積に付着しているので、脱色その他触媒効果が著しく大きくなった。
【0026】
また焼結温度を500℃〜700℃としたので、水中に入れても崩壊することなく、触媒効力も維持できる。従って、この触媒を使用すれば、紫外線(太陽光線)の照射を受けて、70%〜80%の脱色率(効果)を奏することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
この発明は、くえん酸溶液を錯体形成剤として、硫酸チタンと3%過酸化水素水の混合液に添加して、これにアンモニア水を加えて黄色のチタン錯体溶液を作製する。このチタン錯体溶液に脱水ケーキと、その20wt%の炭酸カリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カルシウムを夫々添加してスラリーとし、これを型に入れて成型した。ついで80℃で−0.05MPaの減圧雰囲気中で1時間乾燥した後、500℃で5時間熱処理した所、気孔率80%の発泡体セラミックスと酸化チタンを複合したこの発明の光触媒を得た。
【0028】
前記において、常圧乾燥では気孔率70%であったが、−0.05MPaの雰囲気中の減圧乾燥では気孔率80%であった。
【実施例1】
【0029】
この発明における光触媒性付与としては、くえん酸溶液10ml(1mol/l)を錯体形成剤として市販硫酸チタン(IV)10mlと3%過酸化水素水10mlの混合溶液に添加して、さらにアンモニア水10ml加えて、黄色のチタン錯体溶液を作製した。
【0030】
この錯体を使用した光触媒性付与方法として混合法を検討した。図5に付与方法を示した。
【0031】
混合法として、脱水ケーキにチタン錯体及び炭酸塩を添加して発泡体を作製した。脱水ケーキにチタン錯体のみを添加してスラリーとしても発泡は起こらず気孔率は30%前後であった。よって3%過酸化水素水とチタン錯体を添加して混合攪拌してスラリーとして焼成し、発泡体セラミックスを製造した。この時の気孔率は約80%となり、高い気孔率を有する発泡体が得られた。前記炭酸塩は、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カルシウムを夫々20wt%用いた。
【0032】
前記で焼結助剤に釉薬を用いて硫酸チタンと過酸化水素水の錯体を混合させて作製した発泡体では20時間で約40%の脱色率を示した。それに対してくえん酸を加えた錯体を混合攪拌させて低温固化させた発泡体では20時間で約70%の脱色率を示した。この発泡体表面をEPMA分析した結果、全体にTiOの存在を確認した。
【0033】
次に、発泡体を破砕して使用することも考慮して発泡体を切断して、内部にあるTiOを露出させて、断面にブラックライトを照射して光触媒性評価を行った。その結果、約70%の脱色率を示した。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の発泡セラミックスの成型体の気孔を被覆した状態の顕微鏡写真。
【図2】同じく気孔を開放した状態の顕微鏡写真。
【図3】同じく顕微鏡写真
【図4】同じく図3の一部SEM写真。
【図5】同じく実施例のブロック図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱水ケーキにチタン錯体溶液、炭酸塩及び過酸化水素水を加えてスラリーを生成し、このスラリーを型に入れて成型した後、脱型し、この成型物を減圧低温乾燥した後、500℃〜700℃で焼結することを特徴とした発泡体セラミックスを用いた光触媒の製造方法。
【請求項2】
脱水ケーキに対し、チタン錯体溶液(Ti1モル/ml)を20%〜40wt%加え、炭酸塩は炭酸カリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カルシウムとし、これを夫々5%〜30wt%用い、3%過酸化水素水は10%〜30wt%用いることを特徴とした請求項1記載の発泡セラミックスを用いた光触媒の製造方法。
【請求項3】
減圧低温乾燥は、圧力−0.2〜−0.05Paで温度60℃〜90℃としたことを特徴とする請求項1記載の光触媒の製造方法。
【請求項4】
チタン錯体溶液は、くえん酸溶液、硫酸チタン(IV)、3%過酸化水素水及びアンモニア水を等量混合して生成することを特徴とした請求項1記載の光触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法により製造したことを特徴とする光触媒。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−83146(P2007−83146A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−273839(P2005−273839)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(501434708)上武産業株式会社 (4)
【出願人】(598163064)学校法人千葉工業大学 (101)
【Fターム(参考)】