説明

発泡成形体

【課題】熱可塑性樹脂の発泡体シートまたはフィルムからなる発泡成形体であって、気泡形状の変形が少なく、機械的強度が高いとともに、寸法精度に優れ、しかも深絞り成形にも好適な発泡成形体を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂の発泡体シートまたはフィルムからなる発泡成形体であって、前記発泡体シートまたはフィルムの厚さ方向中間層に存在する気泡のアスペクト比(長径/短径)が1.0〜2.0である発泡成形体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂の発泡体シートまたはフィルムからなる発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂からなる発泡成形体の製造方法として、熱可塑性樹脂を発泡させた発泡体シートを予め作製し、この発泡体シートを軟化するまで予備加熱した後、真空成形機等の加熱金型を用いて上記発泡体シートを成形し、その後冷却することにより所望の成形体を得ることが一般的に知られている。また、特許文献1、2には、熱可塑性ポリエステル樹脂シートに不活性ガスを発泡剤として含浸させた未発泡シートを加熱軟化させると同時に、真空成形を行って発泡成形体を得る方法が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平7−52179号公報
【特許文献2】特開平8−174646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前者の方法では、予め作製した発泡体シートを使用し、これを加熱して軟化させた後、真空成形を行っているため、深絞り形状(例えばカップ形)の成形体を作製する場合に側面部分が成形時に延伸され、内部の気泡が楕円形状に変形し、得られる成形体の機械的強度が部分的に不均一になるという問題点がある。また、真空成形で発泡体シートを成形してなる従来の成形体の場合、特に絞り角部などでシートが強く延伸されるため、部分的に薄くなるといった厚さのばらつきが生じやすく、機械的強度が不足する等の不具合があった。さらに、伸びの小さいシートでは、深絞り成形体を成形する際に破れることもあった。
【0005】
上記問題を解決する手段として後者の特許文献1、2の方法が提案されているが、これらの方法では予備加熱を行った後に真空成形を行うので、予備加熱時に発泡が開始すると気泡が粗大気泡になりやすく、十分に微細な気泡を得られないため、成形体の機械的強度が低くなるという間題がある。また、真空成形では成形体の寸法精度が悪くなるという間題がある。
【0006】
さらに、従来のいずれの方法も発泡を制御することが難しく、必要な面だけを発泡させずに表面強度を持たせ、傷が付きにくい成形体を得ることは困難であった。
【0007】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたもので、熱可塑性樹脂の発泡体シートまたはフィルムからなる発泡成形体であって、気泡形状の変形が少なく、機械的強度が高いとともに、寸法精度に優れ、しかも深絞り成形にも好適な発泡成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために種々検討を行った結果、発泡成形体を形成する熱可塑性樹脂の発泡体シートまたはフィルムにおいて、その厚さ方向中間層に存在する気泡の短径/長径の長さ割合が所定の値以下であると、機械的強度および寸法精度に優れた成形体が得られることを見出した。
【0009】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、熱可塑性樹脂の発泡体シートまたはフィルムからなる発泡成形体であって、前記発泡体シートまたはフィルムの厚さ方向中間層に存在する気泡のアスペクト比(長径/短径)が1.0〜2.0であることを特徴とする発泡成形体を提供する。
【0010】
本発明は、特に、熱可塑性樹脂の発泡体シートまたはフィルムからなる深絞り加工された発泡成形体であって、前記発泡体シートまたはフィルムの厚さ方向中間層に存在する気泡のアスペクト比(長径/短径)が1.0〜2.0であることを特徴とする発泡成形体を好適に提供する。
【0011】
本発明では、発泡成形体を形成する発泡体シートまたはフィルムの表裏の気泡密度に差を設けることができる。この場合、気泡密度と気泡径を大きくした部分は柔らかくなる。逆に、気泡密度と気泡径を小さくした部分は堅くなる。また、気泡径が小さく気泡密度の高い部分は反射率が高くなるので、例えば光を当てる(光が当たる)側の気泡密度を高くして反射率を向上させることができる。表裏の気泡密度に差を設ける手段としては、加熱用の金型に温度差を設けて、その金型で未発泡段階のシートを加熱発泡させることで気泡密度を変化させる等の手段を挙げることができる。
【0012】
本発明では、発泡成形体を形成する発泡体シートまたはフィルムの表裏のスキン層の厚さに差を設けることができる。これにより、発泡成形体の任意の面に機械的強度を持たせることができる。従来、発泡成形体は表面に傷や凹凸が生じやすかったが、スキン層を厚くすることでこれを抑制することができる。すなわち、発泡成形体を形成する発泡体シートまたはフィルムの片面のスキン層を厚くすることにより、表面強度が高く、傷が付きにくい面を得ることができる。この場合、表裏のスキン層の厚さの比率は1.0:1.1〜2.0とすることが適当である。
【0013】
本発明において、発泡成形体を形成する発泡体シートまたはフィルムの気泡径は50μm以下であることが好ましい。これにより、微細な気泡を有し、機械的強度に優れた発泡成形体を得ることができる。
【0014】
本発明において、発泡成形体を形成する発泡体シートまたはフィルムの厚さは、発泡成形体の用途等に応じて適宜設定することができるが、通常は0.2〜15.0mmとすることが適である。
【0015】
本発明において、発泡成形体を形成する発泡体シートまたはフィルムの厚さのばらつきは、50μm以下とすることが適当である。これにより、発泡成形体を形成する発泡体シートまたはフィルムの機械的強度の均一性が良好であるという作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る発泡成形体は、下記の効果を奏する。
(A)気泡形状の変形が少なく、また十分に微細な気泡を有するので、機械的強度が高い発泡成形体となり、深絞り形状の成形ができる。
(B)成形体の部分的(絞り角部など)な厚さのばらつきが生じにくいため、成形体の機械的強度が部分的に不均一になるという不都合を解消することができる。
(C)気泡の変形が少ないため、強度の異方性(縦横方向の強度差)が無いあるいは少ない。
(D)気泡の変形が少ないため、反射率の方向依存性が無いあるいは少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明につきさらに詳しく説明する。本発明に係る発泡成形体の製造方法に必ずしも限定はないが、熱可塑性樹脂シートまたはフィルムに発泡剤を含有させた未発泡シートまたはフィルムを、予め加熱された少なくとも2つの金型の間に挟むことにより、前記金型によって前記未発泡シートまたはフィルムの発泡および成形を行う方法により製造することが特に好ましい。
【0018】
すなわち、熱可塑性樹脂シートに発泡剤を含有させた未発泡シートを、予め加熱された少なくとも2つの金型に挟んで、発泡させると同時に成形を行った場合、金型による発泡体シートの伸びに加え、発泡時の気泡成長に伴う伸びが加わるため、深絞り形状の成形ができるだけでなく、機械的強度および寸法精度に優れた成形体を得ることができる。
【0019】
上述した発泡成形体の製造方法は、下記の効果を奏する。
(a)気泡形状の変形が抑制され、また十分に微細な気泡が得られるので、機械的強度が高い発泡成形体を得ることができる。
(b)成形体の部分的(絞り角部など)な厚さのばらつきが生じにくいため、成形体の機械的強度が部分的に不均一になるという不都合を解消することができる。
(c)金型による発泡体シートまたはフィルムの伸びに加え、発泡時の気泡成長に伴う伸びが加わるため、深絞り形状の成形ができる。
(d)未発泡シートまたはフィルムを少なくとも2つの金型の間に挟み、シートまたはフィルムの発泡、成形を行うので、真空成形に比べて寸法精度に優れた成形体を得ることができる。
【0020】
前記発泡成形体の製造方法に用いる熱可塑性樹脂シートまたはフィルムとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビフェニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルアルコールなどの汎用樹脂、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、超高分子量ポリエチレン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、液晶ポリマー、フッ素樹脂などのエンジニアリングプラスチック、またはこれらの共重合体もしくは混合物からなるシートまたはフィルムが挙げられる。これらのうちでも、耐熱性、耐衝撃性などが良好であることから、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリプロピレン、シクロポリオレフィンからなるシートまたはフィルムが好ましく、中でもポリエチレンテレフタレートからなるートまたはフィルムが好ましい。
【0021】
上記熱可塑性樹脂シートまたはフィルムに用いられる樹脂中には、必要に応じて気泡核剤、熱安定剤、加工助剤、滑剤、衝撃改質剤、充填剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料等の各種添加剤を適宜添加することができる。
【0022】
前記発泡成形体の製造方法では、熱可塑性樹脂シートまたはフィルムに発泡剤としてガスを含浸させることができる。この場合、ガスとしては、例えば、炭酸ガスや、ヘリウムガス、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス、代替フロンなどが挙げられるが、中でも含有量を多くできる炭酸ガスが好ましい。
【0023】
前記発泡成形体の製造方法において、熱可塑性樹脂シートまたはフィルムにガスを含浸させる方法としては、例えば、熱可塑性樹脂シートまたはフィルムをロール状に巻き、これを高圧容器内に収納してシートまたはフィルムにガスを高圧力下で含浸させる方法が挙げられる。
【0024】
また、前記発泡成形体の製造方法では、熱可塑性樹脂シートまたはフィルムに発泡剤として一般的な化学発泡剤を含有させることができる。この場合、上記化学発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)、p,p’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、p−トルエンスルホニルヒドラジド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、ジアゾアミノベンゼン、N,N’−ジメチル−N,N’−ジニトロテレフタルアミド、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
【0025】
前記発泡成形体の製造方法において、熱可塑性樹脂シートまたはフィルムに化学発泡剤を含有させる方法としては、例えば、押出機中にて、熱可塑性樹脂に化学発泡剤を混練し、未発泡シートまたはフィルムを得る方法が挙げられる。
【0026】
前記発泡成形体の製造方法では、上述した発泡剤を含有させた未発泡シートまたはフィルムを、予め加熱された少なくとも2つの金型の間に挟み、上記金型により未発泡シートまたはフィルムを発泡させるととともに、成形を行う。この場合、金型の形状は適宜設定することができる。金型の温度も適宜設定することができる。
【0027】
前記発泡成形体の製造方法の好適な態様としては、例えば図1に示す態様が挙げられる。図1において、10は雌型、12は上下動可能な雄型、14は炭酸ガスを合浸させた未発泡シートまたはフィルムを示す。本態様では、まず図1(A)に示すように、雌型10の開口部に配置した未発泡シートまたはフィルム14に雄型12の先端部を接触させ、この雄型12を下降させることで、未発泡シートまたはフィルム14を雄型12により加熱して発泡させるとともに、延伸してく。そして、図1(B)に示すように、雌型10と雄型12との間にシートまたはフィルム14を挟み、発泡および成形を行うことにより、発泡成形体16を得る。本態様によれば、金型によるシートまたはフィルムの伸びに加え、発泡時の気泡成長に伴う伸びが加わるため、深絞り形状の成形が可能であり、気泡変形が小さく機械的強度の均一な発泡成形体を得ることができる。また、雄雌型による成形のため成形体の寸法精度が良く、予備加熱による過発泡が起こらないため、超微細な気泡を得ることが可能となり、機械的強度に優れた発泡成形体を得ることができる。
【0028】
前記発泡成形体の製造方法では、少なくとも1つの金型の温度を他の金型の温度と異ならせることができ、これにより目的に応じて発泡を適宜制御することが可能となる。例えば、1つの金型の温度を他の金型の温度より低くした場合、シートまたはフィルムの低温の金型に接触する面の発泡を抑制して、その面のスキン層を厚くすることができ、これにより表面強度が高く、傷が付きにくい面を得ることができる。より具体的には、図1の金型において、雌型10の温度を雄型12の温度より低くすると(例えば、雌型10を100℃、雄型12を200℃)、雌型10に接触する面の発泡を抑制してスキン層を反対側の面のスキン層より厚くすることによって、この面の表面強度を高くすることができる。この場合、可動式の高温の雄型12を下降させる間に発泡と成形を同時に行い、シートまたはフィルム14が低温の雌型10に接触したときに成形および冷却が完了するようにしてもよい。また、図1の金型において、雄型12の温度を雌型10の温度より低くすると(例えば、雌型10を200℃、雄型12を100℃)、雄型12に接触する面の発泡を抑制してスキン層を反対側の面のスキン層より厚くすることによって、この面の表面強度を高くすることができる。
【0029】
前記発泡成形体の製造方法においては、未発泡シートまたはフィルムの厚さに対する発泡成形体を形成する発泡体シートまたはフィルムの厚さの割合は、発泡成形体の用途等に応じて適宜設定することができ、例えば、発泡倍率を高めて厚さを増やせば発泡成形体を軽くすることができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明は下記実施例に限定されるものでない。本実施例では、下記手順で成形発泡体を製造した。
(1)ポリエチレンテレフタレート樹脂を押出成形してポリエチレンテレフタレート樹脂シート(厚さ0.5mm)を製造し、このポリエチレンテレフタレート樹脂シートを巻き取った。
(2)次に、作製したポリエチレンテレフタレート樹脂シート巻体を高圧容器内に収納し、この容器内に発泡剤として6MPaの炭酸ガスを充填し、ポリエチレンテレフタレート樹脂シートに炭酸ガスを50時間含浸させた。50時間経過後、高圧容器からシート巻体を取り出し、これを図1に示した金型成形機にセットした。
(3)雄型12の設定温度を200℃にし、その下にセットしてある前記ポリエチレンテレフタレート樹脂シート14の上方から雄型12を下降させ、雄型12を樹脂シート14に接触させることにより、樹脂シート14を加熱して発泡させるとともに、樹脂シート14を温度100℃に設定した雌型10に圧接させた。
(4)そのまま冷却を行った後、樹脂シート14から金型10、12を離すことにより、開孔部の直径と深さの比が1:1のカップ状発泡成形体16を成形した。
(5)成形後、得られた成形体の側面部および底面部断面をSEMにより観察したところ、いずれの部分においても気泡形状は長径:短径の比が1:1の形状となっていた。また、表裏のスキン層の厚さ比は、概ね1:2であった。さらに、側面部および底面部から試料を打ち抜き、この試料の引張り強度を測定したところ、両者の強度にはほとんど差は認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る発泡成形体の製造方法の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0032】
10 雌型
12 雄型
14 未発泡シートまたはフィルム
16 発泡成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂の発泡体シートまたはフィルムからなる発泡成形体であって、前記発泡体シートまたはフィルムの厚さ方向中間層に存在する気泡のアスペクト比(長径/短径)が1.0〜2.0であることを特徴とする発泡成形体。
【請求項2】
熱可塑性樹脂の発泡体シートまたはフィルムからなる深絞り加工された発泡成形体であって、前記発泡体シートまたはフィルムの厚さ方向中間層に存在する気泡のアスペクト比(長径/短径)が1.0〜2.0であることを特徴とする発泡成形体。
【請求項3】
前記発泡体シートまたはフィルムの表裏の気泡密度に差があることを特徴とする請求項1または2に記載の発泡成形体。
【請求項4】
前記発泡体シートまたはフィルムの表裏のスキン層の厚さに差があることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発泡成形体。
【請求項5】
前記発泡成形体を形成する発泡体シートまたはフィルムの気泡径は50μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の発泡成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2009−107293(P2009−107293A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284270(P2007−284270)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】