説明

発泡成形用マスターバッチ及び発泡成形体

【課題】強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等にも好適に使用可能であり、発泡倍率が高く、発泡倍率のバラツキも少ない発泡成形体を得ることが可能な発泡成形用マスターバッチを提供することを目的とする。また、該発泡成形用マスターバッチを用いた発泡成形体を提供することを目的とする。
【解決手段】ベースレジン、熱膨張性マイクロカプセル及び化学発泡剤を含有する発泡成形用マスターバッチであって、上記ベースレジン100重量部に対して、上記熱膨張性マイクロカプセルを10〜150重量部、及び、上記化学発泡剤を10〜150重量部含有する発泡成形用マスターバッチ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等にも好適に使用可能であり、発泡倍率が高く、発泡倍率のバラツキも少ない発泡成形体を得ることが可能な発泡成形用マスターバッチに関する。また、該発泡成形用マスターバッチを用いた発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック発泡体は、発泡体の素材と形成された気泡の状態に応じて遮熱性、断熱性、遮音性、吸音性、防振性、軽量化等を発現させることができることから、様々な用途で用いられている。このようなプラスチック発泡体を製造する方法としては、化学発泡剤を含有するマスターバッチを加熱することで発泡させ、成形する方法が挙げられる。しかし、化学発泡剤を含有するマスターバッチは、加熱しても発泡しないことがあり、射出発泡成形機内で発泡剤が急激に分解するおそれがある等の問題があり、取り扱いが難しかった。また、樹脂の種類によっては充分な発泡倍率を得ることができず、成形体として所望の硬度を得ることが困難な場合があった。
【0003】
一方、特許文献1には、化学発泡剤を含有するエチレン−α−オレフィン共重合体のマスターバッチペレットを用いることにより、樹脂の種類を問わず、硬度や発泡倍率が高く、均一な気泡が形成された射出発泡成形体が得られることが記載されている。
しかしながら、化学発泡剤は、加熱分解すると分解ガスと同時に発泡残さを生じ、成形体に残った残さが成形体の接着性能に影響を与えることがあった。また、化学発泡剤を使用すると、全てが独立気泡とはならず、どうしても連続気泡となる部分が生じてしまい、気密性が高い発泡成形体を得ることが難しいといった問題点があった。
【0004】
特許文献2には、ポリオレフィン樹脂又はスチレン樹脂をベースレジンとし、発泡剤として、化学発泡剤に代えて熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡樹脂マスターバッチが記載されている。
しかしながら、特許文献2に記載された熱膨張性マイクロカプセルを用いた場合、得られる発泡体の発泡倍率は低く、得られる発泡体の独立気泡を一定の大きさとすることが困難であった。
【0005】
これに対して、特許文献3には、熱膨張性マイクロカプセルを含有するマスターバッチと、化学発泡剤を含有するマスターバッチとをブレンドした樹脂組成物を用いて発泡、成形することで、発泡複合板を製造する方法が記載されている。
しかしながら、このような方法を用いた場合でも、依然として成形品の発泡倍率は低いものとなっており、所望の軽量性、断熱性等の性能を得ることができなかった。
【特許文献1】特開2000−178372号公報
【特許文献2】特開平11−343362号公報
【特許文献3】特開2005−212377号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等にも好適に使用可能であり、発泡倍率が高く、発泡倍率のバラツキも少ない発泡成形体を得ることが可能な発泡成形用マスターバッチを提供することを目的とする。また、該発泡成形用マスターバッチを用いた発泡成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ベースレジン、熱膨張性マイクロカプセル及び化学発泡剤を含有する発泡成形用マスターバッチであって、上記ベースレジン100重量部に対して、上記熱膨張性マイクロカプセルを10〜150重量部、及び、上記化学発泡剤を10〜150重量部含有する発泡成形用マスターバッチである。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、発泡成形用マスターバッチに用いる発泡成分として、熱膨張性マイクロカプセル及び化学発泡剤を併用し、更に、熱膨張性マイクロカプセル及び化学発泡剤の含有量を所定の範囲内とした場合、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等にも好適に使用可能であり、発泡倍率が高く、発泡倍率のバラツキも少ない発泡成形体が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の発泡成形用マスターバッチは、ベースレジンを含有する。
上記ベースレジンとしては、例えば、熱可塑性樹脂等を用いることができる。
上記熱可塑性樹脂としては、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレン等の一般的な熱可塑性樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート等のエンジニアリングプラスチックが挙げられる。また、エチレン系、塩化ビニル系、オレフィン系、ウレタン系、エステル系等の熱可塑性エラストマーを使用してもよく、これらの樹脂を併用して使用してもよい。
【0010】
本発明の発泡成形用マスターバッチにおける上記ベースレジンの含有量の好ましい下限は30重量%、好ましい上限は70重量%である。上記ベースレジンの含有量が30重量%未満であると、マスターバッチ作製時に発泡し、マスターバッチ化できないことがあり、上記ベースレジンの含有量が70重量%を超えると、所望の発泡倍率が得られないことがある。
【0011】
本発明の発泡成形用マスターバッチは、熱膨張性マイクロカプセルを含有する。
本発明の発泡成形用マスターバッチにおける上記熱膨張性マイクロカプセルの含有量の下限は、ベースレジンを100重量部に対して10重量部、上限は150重量部である。上記熱膨張性マイクロカプセルの含有量が10重量部未満であると、発泡成形品の断面気泡状態において連続気泡の比率が顕著に多くなる。上記熱膨張性マイクロカプセルの含有量が150重量部を超えると、相対的に化学発泡剤の含有比が低くなり、発泡倍率が低下する。また、上記熱膨張性マイクロカプセルの含有量が150重量部を超えた状態で、更に化学発泡剤を所望の比率となるように添加すると、マスターバッチ中の発泡剤全体の含有量が過剰となり、マスターバッチ作製時に発泡したり、得られる成形体が微発泡となって発泡倍率が低下したりする。上記熱膨張性マイクロカプセルの含有量の好ましい下限は50重量部、好ましい上限は100重量部である。
【0012】
上記熱膨張性マイクロカプセルを構成するシェルは、アクリロニトリル、メタクリロニトリル及び塩化ビニリデンから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマー(I)40〜90重量%と、カルボキシル基を有し、炭素数が3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)5〜50重量%とを含有するモノマー混合物を重合させてなる重合体からなることが好ましい。
【0013】
上記重合性モノマー(I)は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル及び塩化ビニリデンから選択される少なくとも1種からなる。
上記重合性モノマー(I)を添加することで、シェルのガスバリア性を向上させることができる。
【0014】
上記モノマー混合物中の重合性モノマー(I)の含有量の好ましい下限は40重量%、好ましい上限は90重量%である。上記モノマー混合物中の重合性モノマー(I)の含有量が40重量%未満であると、シェルのガスバリア性が低くなるため発泡倍率が低下することがある。上記モノマー混合物中の重合性モノマー(I)の含有量が90重量%を超えると、耐熱性が上がってこないことがある。上記モノマー混合物中の重合性モノマー(I)の含有量のより好ましい下限は50重量%、より好ましい上限は80重量%である。
【0015】
上記カルボキシル基を有し、炭素数が3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)としては、例えば、イオン架橋させるための遊離カルボキシル基を分子当たり1個以上持つものを用いることができ、具体的には例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸等の不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸、クロロマレイン酸等の不飽和ジカルボン酸やその無水物又はマレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノブチル等の不飽和ジカルボン酸のモノエステルやその誘導体挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、特にアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸が好ましい。
【0016】
上記モノマー混合物中における、上記カルボキシル基を有し、炭素数3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)に由来するセグメントの含有量の好ましい下限は5重量%、好ましい上限は50重量%である。上記ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)に由来するセグメントの含有量が5重量%未満であると、最大発泡温度が190℃以下となることがあり、上記ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)に由来するセグメントの含有量が50重量%を超えると、最大発泡温度は向上するものの、発泡倍率が低下する。上記ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)に由来するセグメントの含有量のより好ましい下限は10重量%、より好ましい上限は40重量%である。
【0017】
上記モノマー混合物としては、上記重合性モノマー(I)、及び、上記カルボキシル基を有し、炭素数3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)に由来するセグメントの含有量が上述した範囲内であれば、特に限定されないが、下記モノマー混合物(1)〜(3)を用いることが好ましい。
【0018】
上記モノマー混合物(1)は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル及び塩化ビニリデンから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマー(I)40〜90重量%と、カルボキシル基を有し、炭素数が3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)5〜50重量%とを含有し、かつ、分子内に二重結合を2つ以上有する重合性モノマー(III)を含有しないものである。
【0019】
上記モノマー混合物(1)は、上記モノマー混合物中に分子内に二重結合を2つ以上有する重合性モノマー(III)を含有しない。上記重合性モノマー(III)は、一般的に架橋剤として用いられているものである。
上記モノマー混合物(1)では、上記重合性モノマー(I)とラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)とを所定量含有するモノマー混合物を用いることで、充分な強度を有するシェルが得られることから、上記モノマー混合物中に分子内に二重結合を2つ以上有する重合性モノマー(III)を含有しない場合でも、優れた耐剪断性、耐熱性、発泡性を有する熱膨張性マイクロカプセルとすることができる。上述のように充分な強度を有する理由は明確でないが、カルボキシル基同士の脱水縮合反応による架橋が関係していると考えられる。
また、上記重合性モノマー(III)を添加した場合、熱膨張性マイクロカプセルの粒子形状が歪なものとなり、結果として嵩比重が低下してしまう。嵩比重が低下してしまうと、次工程において、特に押出成形を用いてマスターバッチペレットを製造する場合に、熱膨張性マイクロカプセルの粒子に剪断がかかりやすくなるため、安定したマスターバッチが作れず、その後に射出成形等を用いて発泡成形を行う場合に、発泡倍率にバラツキが生じやすくなる。
【0020】
このように、上記モノマー混合物(1)では、共有結合による架橋を減らすことで、上記分子内に二重結合を2つ以上有する重合性モノマー(III)を用いずに、充分な強度及び耐熱性を有する熱膨張性マイクロカプセルを得ることを可能としている。なお、本明細書において、「上記モノマー混合物中に分子内に二重結合を2つ以上有する重合性モノマー(III)を含有しない」とは、重合性モノマー(III)を実質的に含有しないことを意味し、上記重合性モノマー(III)をごく微量含む場合は、上記重合性モノマー(III)を含有しないものとみなすこととする。
【0021】
なお、上記重合性モノマー(III)としては、ラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーが挙げられ、具体例には例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、分子量が200〜600のポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリアリルホルマールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0022】
上記モノマー混合物(2)は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル及び塩化ビニリデンから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマー(I)40〜90重量%と、カルボキシル基を有し、炭素数が3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)5〜50重量%と、分子内に二重結合を2つ以上有する重合性モノマー(III)0.2重量%以下と、金属カチオン塩(IV)0.1〜10重量%とを含有するものである。
【0023】
上記モノマー混合物(2)は、分子内に二重結合を2つ以上有する重合性モノマー(III)を含有することが好ましい。上記重合性モノマー(III)は、架橋剤としての役割を有する。
上記重合性モノマー(III)を含有することにより、シェルの強度を強化することができ、熱膨張時にセル壁が破泡し難くなる。
【0024】
上記重合性モノマー(III)としては、上記カルボキシル基を有し、炭素数が3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)と異なるものであれば、特に限定はされず、一般的にはラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーが好適に用いられる。具体例には例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、分子量が200〜600のポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリアリルホルマールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0025】
上記モノマー混合物(2)中における、上記重合性モノマー(III)の含有量の好ましい上限は0.2重量%である。上記重合性モノマー(III)を0.2重量%を超えて添加した場合、熱膨張性マイクロカプセルの粒子形状が歪なものとなり、結果として嵩比重が低下してしまう。嵩比重が低下してしまうと、次工程において、特に押出成形を用いてマスターバッチペレットを製造する場合に、熱膨張性マイクロカプセルの粒子に剪断がかかりやすくなるため、安定したマスターバッチが作れず、その後に射出成形等を用いて発泡成形を行う場合に、発泡倍率にバラツキが生じやすくなる。本発明では、上記重合性モノマー(III)の含有量を0.2重量%以下とすることで、嵩比重の低下を防止することができる。上記重合性モノマー(III)の含有量の好ましい下限は0重量%、より好ましい上限は0.1重量%である。
【0026】
上記モノマー混合物(2)は、金属カチオン塩(IV)を含有することが好ましい。
上記金属カチオン塩(IV)を含有することで、上記ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)のカルボキシル基との間でイオン架橋が起こることから、架橋効率が上がり、耐熱性を高くすることが可能となる。その結果、高温領域において長時間破裂、収縮の起こらない熱膨張性マイクロカプセルとすることが可能となる。また、高温領域においてもシェルの弾性率が低下しにくいことから、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等の成形加工を行う場合であっても、熱膨張性マイクロカプセルの破裂、収縮が起こることがない。
また、共有結合でなくイオン架橋が起こることによって、熱膨張性マイクロカプセルの粒子形状が真球に近くなり、歪みが生じにくくなる。これは、イオン結合による架橋が、共有結合による架橋に比べて結合力が弱いため、重合中のモノマーからポリマーへ転化時において、熱膨張性マイクロカプセルの体積が収縮する際に均一に収縮が生じることが原因と考えられる。
【0027】
上記金属カチオン塩(IV)の金属カチオンとしては、上記ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)と反応してイオン架橋させる金属カチオンであれば、特に限定されず、例えば、Na、K、Li、Zn、Mg、Ca、Ba、Sr、Mn、Al、Ti、Ru、Fe、Ni、Cu、Cs、Sn、Cr、Pb等のイオンが挙げられる。これらのなかでは、2〜3価の金属カチオンであるCa、Zn、Alのイオンが好ましく、特にZnのイオンが好適である。これらの金属カチオン塩(IV)は、単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。
【0028】
なお、上記金属カチオン塩(IV)を2種以上用いる場合の組み合わせとしては特に限定されないが、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のイオンと、上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属以外の金属カチオンとを組み合わせて用いることが好ましい。上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属のイオンを有することにより、カルボキシル基等の官能基が活性化され、上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属以外の金属カチオンと上記カルボキシル基等との反応を促進させることができる。上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属としては、例えば、Na、K、Li、Ca、Ba、Sr等が挙げられ、なかでも塩基性の強いNa、K等を用いることが好ましい。
【0029】
上記モノマー混合物(2)中における、上記金属カチオン塩(IV)の含有量の好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限が10重量%である。上記金属カチオン塩(IV)の含有量が0.1重量%未満であると、耐熱性に効果が得られないことがあり、上記金属カチオン塩(IV)の含有量が10重量%を超えると、発泡倍率が著しく悪くなることがある。上記金属カチオン塩(IV)の含有量のより好ましい下限は0.5重量%、より好ましい上限は5重量%である。
【0030】
上記モノマー混合物(3)は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル及び塩化ビニリデンから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマー(I)40〜90重量%と、カルボキシル基を有し、炭素数が3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)5〜50重量%と、金属カチオン塩(IV)0.1〜10重量%とを含有し、かつ、分子内に二重結合を2つ以上有する重合性モノマー(III)を含有しないものである。
【0031】
上記モノマー混合物(3)は、分子内に二重結合を2つ以上有する重合性モノマー(III)を含有しないことを特徴とする。
ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)と金属カチオン塩(IV)との間でイオン結合による架橋が起こることで、上記モノマー混合物中に分子内に二重結合を2つ以上有する重合性モノマー(III)を含有しない場合でも、得られるシェルは充分な強度及び耐熱性を有する。なお、上記重合性モノマー(III)を添加した場合、熱膨張性マイクロカプセルの粒子形状が歪なものとなり、結果として嵩比重が低下してしまう。嵩比重が低下してしまうと、次工程において、特に押出成形を用いてマスターバッチペレットを製造する場合に、熱膨張性マイクロカプセルの粒子に剪断がかかりやすくなるため、安定したマスターバッチが作れず、その後に射出成形等を用いて発泡成形を行う場合に、発泡倍率にバラツキが生じやすくなる。
【0032】
上記モノマー混合物(3)では、イオン結合による架橋を主として、共有結合による架橋を減らすことで、上記分子内に二重結合を2つ以上有する重合性モノマー(III)を用いずに、充分な強度及び耐熱性を有する熱膨張性マイクロカプセルを得ることを可能としている。なお、本明細書において、「上記モノマー混合物中に分子内に二重結合を2つ以上有する重合性モノマー(III)を含有しない」とは、重合性モノマー(III)を実質的に含有しないことを意味し、上記重合性モノマー(III)をごく微量含む場合は、上記重合性モノマー(III)を含有しないものとみなすこととする。
【0033】
上記モノマー混合物中には、上記重合性モノマー(I)、ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)等に加えて、これら以外の他のモノマーを添加してもよい。上記他のモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、ジシクロペンテニルアクリレート等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、イソボルニルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類、酢酸ビニル、スチレン等のビニルモノマー等が挙げられる。これら他のモノマーは、熱膨張性マイクロカプセルに必要な特性に応じて適宜選択されて使用され得るが、これらのなかでメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸メチル等が好適に用いられる。シェルを構成する全モノマー中の他のモノマーの含有量は10重量%未満が好ましい。上記他のモノマーの含有量が10重量%を超えると、セル壁のガスバリア性が低下し、熱膨張性が悪化しやすいので好ましくない。
【0034】
上記モノマー混合物中には、上記モノマーを重合させるため、重合開始剤を含有させる。
上記重合開始剤としては、例えば、過酸化ジアルキル、過酸化ジアシル、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、アゾ化合物等が好適に用いられる。具体例には、例えば、メチルエチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイドなどの過酸化ジアルキル、イソブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイドなどの過酸化ジアシル、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、(α、α−ビス−ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼンなどのパーオキシエステル、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピル−オキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルエチルパーオキシ)ジカーボネート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネートなどのパーオキシジカーボネート、2、2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)などのアゾ化合物等が挙げられる。
【0035】
上記シェルを構成する重合体の重量平均分子量の好ましい下限は10万、好ましい上限は200万である。重量平均分子量が10万未満であると、シェルの強度が低下することがあり、重量平均分子量が200万を超えると、シェルの強度が高くなりすぎ、発泡倍率が低下することがある。
【0036】
上記シェルは、更に必要に応じて、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、シランカップリング剤、色剤等を含有していてもよい。
【0037】
上記熱膨張性マイクロカプセルは、上記シェルにコア剤として揮発性膨張剤が内包されている。
上記揮発性膨張剤は、シェルを構成するポリマーの軟化点以下の温度でガス状になる物質であり、低沸点有機溶剤が好適である。
上記揮発性膨張剤としては、例えば、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、n−ブタン、イソブタン、ブテン、イソブテン、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、n−へキサン、ヘプタン、石油エーテル等の低分子量炭化水素、CClF、CCl、CClF、CClF−CClF等のクロロフルオロカーボン、テトラメチルシラン、トリメチルエチルシラン、トリメチルイソプロピルシラン、トリメチル−n−プロピルシラン等のテトラアルキルシラン等が挙げられる。なかでも、イソブタン、n−ブタン、n−ペンタン、イソペンタン、n−へキサン、石油エーテル、及び、これらの混合物が好ましい。これらの揮発性膨張剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
上記熱膨張性マイクロカプセルでは、上述した揮発性膨張剤のなかでも、炭素数が5以下の低沸点炭化水素を用いることが好ましい。このような炭化水素を用いることにより、発泡倍率が高く、速やかに発泡を開始する熱膨張性マイクロカプセルとすることができる。
また、揮発性膨張剤として、加熱により熱分解してガス状になる熱分解型化合物を用いることとしてもよい。
【0039】
本発明の発泡成形用マスターバッチにおいて、コア剤として用いる揮発性膨張剤の含有量の好ましい下限は10重量%、好ましい上限は25重量%である。
上記コア剤の含有量が25重量%を超えると、熱膨張性マイクロカプセルと化学発泡剤とを併用する際に、例えば、炭酸水素ナトリウム等の化学発泡剤を用いる場合、分解によって生成したCOにより、熱膨張性マイクロカプセルのシェルが可塑化されやすくなるため、高温時に熱膨張性マイクロカプセルがへたりやすくなる。上記シェルの厚みはコア剤の含有量によって変化するが、コア剤の含有量を減らして、シェルが厚くなり過ぎると発泡性能が低下し、コア剤の含有量を多くすると、シェルの強度が低下する。上記コア剤の含有量を10〜25重量%とした場合、熱膨張性マイクロカプセルのへたり防止と発泡性能向上とを両立させることが可能となる。
【0040】
上記熱膨張性マイクロカプセルは、最大発泡温度(Tmax)の好ましい下限が190℃である。最大発泡温度が190℃未満であると、耐熱性が低くなることから、高温領域や成形加工時において、熱膨張性マイクロカプセルが破裂、収縮する。また、マスターバッチペレット製造時に剪断により発泡していまい、未発泡のマスターバッチペレットを安定して製造することができない。最大発泡温度のより好ましい下限は200℃、より好ましい上限は240℃である。
なお、本明細書において、最大発泡温度は、熱膨張性マイクロカプセルを常温から加熱しながらその径を測定したときに、熱膨張性マイクロカプセルの径が最大となったとき(最大変位量)における温度を意味する。
【0041】
上記熱膨張性マイクロカプセルは、ASTM D2765に準拠した方法で、N,N−ジメチルフォルムアミドを用いて測定したゲル分率が40重量%以下であることが好ましい。
上記ゲル分率は、分子内に二重結合を2つ以上有する重合性モノマー(III)による共有結合の架橋の程度を示すものと考えられることから、上記ゲル分率の割合が少ないことは、架橋の形態が共有結合による架橋ではなく、ゲル分率の向上への寄与が少ないイオン結合による架橋(イオン架橋)であることを意味する。なお、イオン架橋である場合にゲル分率向上への寄与が弱いのは、その分子鎖間の架橋の弱さに起因しているものと考えられる。
従って、ゲル分率が40重量%以下であるということは、従来の共有結合による架橋の割合が少なく、ゲル分率の向上への寄与が少ないイオン架橋の割合が高いことを意味する。
なお、上記N,N−ジメチルフォルムアミドは、ポリアクリロニトリルやポリメタクリロニトリル等のポリマーを溶解することが可能な数少ない溶媒であるため、上記熱膨張性マイクロカプセルのゲル分率を測定する際に好適な溶媒である。
【0042】
上記熱膨張性マイクロカプセルの体積平均粒子径の好ましい下限は5μm、好ましい上限は100μmである。体積平均粒子径が5μm未満であると、得られる成形体の気泡が小さすぎるため、成形体の軽量化が不充分となることがあり、体積平均粒子径が100μmを超えると、得られる成形体の気泡が大きくなりすぎるため、強度等の面で問題となることがある。体積平均粒子径のより好ましい下限は10μm、より好ましい上限は40μmである。
【0043】
上記熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法としては特に限定されないが、例えば、水性媒体を調製する工程、アクリロニトリル、メタクリロニトリル及び塩化ビニリデンから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマー(I)40〜90重量%と、カルボキシル基を有し、炭素数が3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)5〜50重量%と、揮発性膨張剤とを含有する油性混合液を水性媒体中に分散させる工程、及び、上記モノマーを重合させる工程を行うことにより製造することができる。
【0044】
上記熱膨張性マイクロカプセルを製造する場合、最初に水性媒体を調製する工程を行う。具体例には例えば、重合反応容器に、水と分散安定剤、必要に応じて補助安定剤を加えることにより、分散安定剤を含有する水性分散媒体を調製する。また、必要に応じて、亜硝酸アルカリ金属塩、塩化第一スズ、塩化第二スズ、重クロム酸カリウム等を添加してもよい。
【0045】
上記分散安定剤としては、例えば、シリカ、リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化第二鉄、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、シュウ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
【0046】
上記分散安定剤の添加量は特に限定されず、分散安定剤の種類、熱膨張性マイクロカプセルの粒子径等により適宜決定されるが、モノマー100重量部に対して、好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が20重量部である。
【0047】
上記補助安定剤としては、例えば、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合生成物、尿素とホルムアルデヒドとの縮合生成物、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、ゼラチン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ジオクチルスルホサクシネート、ソルビタンエステル、各種乳化剤等が挙げられる。
【0048】
また、上記分散安定剤と補助安定剤との組み合わせとしては特に限定されず、例えば、コロイダルシリカと縮合生成物との組み合わせ、コロイダルシリカと水溶性窒素含有化合物との組み合わせ、水酸化マグネシウム又はリン酸カルシウムと乳化剤との組み合わせ等が挙げられる。これらの中では、コロイダルシリカと縮合生成物との組み合わせが好ましい。
更に、上記縮合生成物としては、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合生成物が好ましく、特にジエタノールアミンとアジピン酸との縮合物やジエタノールアミンとイタコン酸との縮合生成物が好ましい。
【0049】
上記水溶性窒素含有化合物としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリジメチルアミノエチルメタクリレートやポリジメチルアミノエチルアクリレートに代表されるポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ポリジメチルアミノプロピルアクリルアミドやポリジメチルアミノプロピルメタクリルアミドに代表されるポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ポリアクリルアミド、ポリカチオン性アクリルアミド、ポリアミンサルフォン、ポリアリルアミン等が挙げられる。これらのなかでは、ポリビニルピロリドンが好適に用いられる。
【0050】
上記コロイダルシリカの添加量は、熱膨張性マイクロカプセルの粒子径により適宜決定されるが、モノマー100重量部に対して、好ましい下限が1重量部、好ましい上限が20重量部である。上記コロイダルシリカの添加量の更に好ましい下限は2重量部、更に好ましい上限は10重量部である。また、上記縮合生成物又は水溶性窒素含有化合物の添加量についても熱膨張性マイクロカプセルの粒子径により適宜決定されるが、モノマー100重量部に対して、好ましい下限が0.05重量部、好ましい上限が2重量部である。
【0051】
上記分散安定剤及び補助安定剤に加えて、更に塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩を添加してもよい。無機塩を添加することで、より均一な粒子形状を有する熱膨張性マイクロカプセルが得ることができる。上記無機塩の添加量は、通常、モノマー100重量部に対して0〜100重量部が好ましい。
【0052】
上記分散安定剤を含有する水性分散媒体は、分散安定剤や補助安定剤を脱イオン水に配合して調製され、この際の水相のpHは、使用する分散安定剤や補助安定剤の種類によって適宜決められる。例えば、分散安定剤としてコロイダルシリカ等のシリカを使用する場合は、酸性媒体で重合がおこなわれ、水性媒体を酸性にするには、必要に応じて塩酸等の酸を加えて系のpHが3〜4に調製される。一方、水酸化マグネシウム又はリン酸カルシウムを使用する場合は、アルカリ性媒体の中で重合させる。
【0053】
次いで、熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法では、アクリロニトリル、メタクリロニトリル及び塩化ビニリデンから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマー(I)40〜90重量%と、カルボキシル基を有し、炭素数が3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)5〜50重量%と、揮発性膨張剤とを含有する油性混合液を水性媒体中に分散させる工程を行う。この工程では、モノマー及び揮発性膨張剤を別々に水性分散媒体に添加して、水性分散媒体中で油性混合液を調製してもよいが、通常は、予め両者を混合し油性混合液としてから、水性分散媒体に添加する。この際、油性混合液と水性分散媒体とを予め別々の容器で調製しておき、別の容器で攪拌しながら混合することにより油性混合液を水性分散媒体に分散させた後、重合反応容器に添加しても良い。
なお、上記モノマーを重合するために、重合開始剤が使用されるが、上記重合開始剤は、予め上記油性混合液に添加してもよく、水性分散媒体と油性混合液とを重合反応容器内で攪拌混合した後に添加してもよい。
【0054】
上記油性混合液を水性分散媒体中に所定の粒子径で乳化分散させる方法としては、ホモミキサー(例えば、特殊機化工業社製)等により攪拌する方法や、ラインミキサーやエレメント式静止型分散器等の静止型分散装置を通過させる方法等が挙げられる。
なお、上記静止型分散装置には水系分散媒体と重合性混合物を別々に供給してもよいし、予め混合、攪拌した分散液を供給してもよい。
【0055】
上記熱膨張性マイクロカプセルは、上述した工程を経て得られた分散液を、例えば、加熱することによりモノマーを重合させる工程を行うことにより、製造することができる。このような方法により製造された熱膨張性マイクロカプセルは、最大発泡温度が高く、耐熱性に優れ、高温領域や成形加工時においても破裂、収縮することがない。また、嵩比重が高いので、マスターバッチペレット製造時に剪断によって発泡することが無く、未発泡のマスターバッチペレットを安定して製造することができる。
【0056】
本発明の発泡成形用マスターバッチは、化学発泡剤を含有する。上記化学発泡剤を含有させることで、例えば、炭酸水素ナトリウム等の化学発泡剤を用いる場合、分解される際に発生するCOにより発泡性能を向上させることができる。また、上記熱膨張性マイクロカプセルと化学発泡剤と併用することで、化学発泡剤を単独で使用した場合に発生しがちな連続気泡の生成を抑えることが可能となる。
更に、熱膨張性マイクロカプセルのシェルが上記ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)に由来する成分を有する場合、ポリプロピレン樹脂等の樹脂との相分離現象を促進させ、COセルを発生しやすくする。
【0057】
本発明の発泡成形用マスターバッチにおける上記化学発泡剤の含有量の下限は、ベースレジンを100重量部に対して10重量部、上限は150重量部である。上記化学発泡剤の含有量が10重量部未満であると、得られる発泡体の発泡倍率が低下することがあり、上記化学発泡剤の含有量が150重量部を超えると、得られる発泡体の空隙が不均一となり、所望の強度が得られないことがある。上記化学発泡剤の含有量の好ましい下限は50重量部、好ましい上限は100重量部である。
【0058】
上記化学発泡剤としては、常温で粉末状のものであれば特に限定されず、従来から化学発泡剤として汎用されているものを使用することができる。具体的には例えば、炭酸水素ナトリウム等の無機系化学発泡剤、アゾジカルボンアミド、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、P,P’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド、パラトルエンスルホニルヒドラジド等の有機系化学発泡剤が挙げられる。
【0059】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルと上記化学発泡剤との含有比率は、熱膨張性マイクロカプセル:化学発泡剤=1:2〜2:1であることが好ましい。上記範囲内とすることで、高発泡倍率と独立気泡体の形成とを両立することが可能となる。
【0060】
本発明の発泡成形用マスターバッチにおける熱膨張性マイクロカプセルと化学発泡剤の合計量の好ましい下限は30重量%である。
【0061】
本発明の発泡成形用マスターバッチを製造する方法としては特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂等のベースレジン、各種添加剤等の原材料を、同方向2軸押出機等を用いて予め混練する。次いで、所定温度まで加熱し、熱膨張マイクロカプセル及び化学発泡剤の発泡剤を添加した後、更に混練することにより得られる混練物を、ペレタイザーにて所望の大きさに切断することによりペレット形状にしてマスターバッチペレットとする方法等が挙げられる。なお、マスターバッチペレットの作製完了時点で微発泡している場合、発泡成形工程において所望の発泡倍率を得ることが困難となり、バラツキも大きくなる。また、ベースレジン、熱膨張性マイクロカプセル及び化学発泡剤等の原材料をバッチ式の混練機で混練した後、造粒機で造粒する方法や、押出機とペレタイザーによりペレット形状のマスターバッチペレットを製造する方法を用いてもよい。
【0062】
上記混練機としては、熱膨張性マイクロカプセルを破壊することなく混練できるものであれば特に限定されず、例えば、加圧ニーダー、バンバリーミキサー等が挙げられる。
【0063】
本発明の発泡成形用マスターバッチに、熱可塑性樹脂等のマトリックス樹脂を加えた樹脂組成物を射出成形等の成形方法を用いて成形し、成形時の加熱により、上記熱膨張性マイクロカプセルと化学発泡剤によって発泡させることにより、発泡成形体を製造することができる。このような発泡成形体もまた本発明の1つである。
このような方法で得られる本発明の発泡成形体は、高発泡倍率かつ高外観品質が得られ、独立気泡が均一に形成されており、軽量性、断熱性、耐衝撃性、剛性等に優れるものとなり、住宅用建材、自動車用部材、靴底等の用途に好適に用いることができる。
【0064】
上記熱可塑性樹脂としては、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレン等の一般的な熱可塑性樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート等のエンジニアリングプラスチックが挙げられる。また、エチレン系、塩化ビニル系、オレフィン系、ウレタン系、エステル系等の熱可塑性エラストマーを使用してもよく、これらの樹脂を併用して使用してもよい。
【0065】
上記熱可塑性樹脂100重量部に対する本発明の発泡成形用マスターバッチの添加量は0.5〜20重量部が好ましく、より好ましくは1〜10重量部である。
【0066】
本発明の発泡成形体の成形方法としては、特に限定されず、例えば、混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等が挙げられる。射出成形の場合、工法は特に限定されず、金型に樹脂材料を一部入れて発泡させるショートショート法や金型に樹脂材料をフル充填した後に金型を発泡させたいところまで開くコアバック法等が挙げられる。
【0067】
本発明の発泡成形体の成形方法で得られた成形品の用途としては、例えば、ドアトリム、インストルメントパネル(インパネ)等の自動車内装材や、バンパー等の自動車外装材等が挙げられる。また、木粉プラスチック等の建材用途、靴底、人工コルク等の用途が挙げられる。
【発明の効果】
【0068】
本発明によれば、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等にも好適に使用可能であり、発泡倍率が高く、発泡倍率のバラツキも少ない発泡成形体を得ることが可能な発泡成形用マスターバッチを提供できる。また、該発泡成形用マスターバッチを用いた発泡成形体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0069】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0070】
(実施例1〜15、比較例1〜12)
(熱膨張性マイクロカプセルの作製)
重合反応容器に、水8Lと、分散安定剤としてコロイダルシリカ(旭電化社製)5重量部及びポリビニルピロリドン(BASF社製)0.3重量部を投入し、水性分散媒体を調製した。次いで、表1に示した配合量のモノマーからなる油性混合液を水性分散媒体に添加することにより、分散液を調製した。得られた分散液をホモジナイザーで攪拌混合し、窒素置換した加圧重合器(20L)内へ仕込み、加圧(0.2MPa)し、60℃で20時間反応させることにより、反応生成物を調製した。得られた反応生成物について、ろ過と水洗を繰り返した後、乾燥して熱膨張性マイクロカプセル(No.1〜11)を得た。
なお、表1では、重合性モノマー(I)をモノマー(I)、ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)をモノマー(II)、重合性モノマー(III)をモノマー(III)とした。
【0071】
(マスターバッチペレットの作製)
粉体状及びペレット状の低密度ポリエチレン100重量部と、滑剤としてステアリン酸10重量部とをバンバリーミキサーで混練し、約100℃になったところで、得られた熱膨張性マイクロカプセル及び/又は所定の化学発泡剤(各配合量は重量部として表2及び表3に示す。)を合計100重量部添加し、更に30秒間混練して押し出すと同時にペレット化し、マスターバッチペレットを得た。
【0072】
(成形体の作製)
表2及び表3に示す添加量のマスターバッチペレットと、ポリプロピレン樹脂100重量部とを混合し、得られた混合ペレットをアキュムレーターを備えたスクリュー式の射出成形機のホッパーに供給して溶融混練し、射出成形を行い、板状の成形体を得た。なお、成形条件は、シリンダー温度200℃、射出速度60mm/sec、型開遅延時間0秒、金型温度40℃とした。なお、比較例8は、熱膨張性マイクロカプセルのみを含有するマスターバッチペレットと、化学発泡剤のみを含有するマスターバッチペレットとを合計5重量部添加した。
【0073】
(評価)
熱膨張性マイクロカプセル(No.1〜11)、及び、実施例1〜15及び比較例1〜12で得られた成形体について、下記性能を評価した。結果を表1、2及び3に示した。
【0074】
(1)熱膨張性マイクロカプセルの評価
(1−1)体積平均粒子径
粒度分布径測定器(LA−910、HORIBA社製)を用い、体積平均粒子径を測定した。
【0075】
(1−2)発泡開始温度、最大発泡温度、最大変位
熱機械分析装置(TMA)(TMA2940、TA instruments社製)を用い、発泡開始温度(Ts)、最大変位量(Dmax)及び最大発泡温度(Tmax)を測定した。具体的には、試料25μgを直径7mm、深さ1mmのアルミ製容器に入れ、上から0.1Nの力を加えた状態で、5℃/minの昇温速度で80℃から220℃まで加熱し、測定端子の垂直方向における変位を測定し、変位が上がり始める温度を発泡開始温度、その変位の最大値を最大変位量とし、最大変位量における温度を最大発泡温度とした。
【0076】
(1−3)ゲル分率
ASTM D2765に準拠した方法で、溶媒としてN,N−ジメチルフォルムアミドを用い、ゲル分率を測定した。
【0077】
【表1】

【0078】
(2)成形体の評価
(2−1)発泡倍率
発泡後の成形体の板厚を発泡前の成形体の板厚で除した値を算出し、発泡倍率とした。そして成形体10枚の発泡倍率の平均値と標準偏差を求めた。
【0079】
(2−2)外観(成形体断面)
成形体断面の気泡状態を目視にて観察した。
【0080】
(2−3)密度の測定
得られた成形体の密度をJIS K−7112 A法(水中置換法)に準拠した方法により測定した。
【0081】
【表2】

【0082】
【表3】

【0083】
表2及び3に示すように、実施例1〜10で得られた成形体は発泡倍率が高く、ばらつきの少ないものであった。また、その断面状態は、気泡が均一で独立気泡となっていた。また、熱膨張性マイクロカプセル(No.6〜11)を用いた実施例11〜15で得られた成形体は、やや発泡倍率のバラツキが大きく、断面状態は若干連続気泡を有していたが、比較例6、7で示した成形体の断面状態と比較すると、独立気泡の存在割合は多くなっていた。一方、熱膨張性マイクロカプセルを単独で用いた比較例1〜5は、同じ熱膨張性マイクロカプセルを用いた化学発泡剤との併用での実施例の場合と比較して、発泡倍率が低いという結果を示した。また、化学発泡剤を単独で用いた比較例6、7は、顕著に連続気泡が形成されていた。
【0084】
熱膨張性マイクロカプセルのマスターバッチと化学発泡剤のマスターバッチとを混合させた比較例8では、同じ比率の発泡剤を混合して単一マスターバッチ化した実施例3に比べ低い倍率を示した。この結果から、予め熱膨張性マイクロカプセルと化学発泡剤とを混合して単一マスターバッチ化する方法の有効性が認められた。
比較例9、10は、マスターバッチ中の熱膨張性マイクロカプセル又は化学発泡剤の含有量が少ないため、連続気泡の生成又は発泡倍率が低い値を示した。
比較例11は、マスターバッチ中の熱膨張性マイクロカプセル含有量が過剰であるため、マスターバッチが微発泡しており、その結果、成形品の発泡倍率は低い値を示した。
比較例12は化学発泡剤の含有量が過剰であり、成形品の断面状態は連続気泡の多いものとなった。
【0085】
これらの結果から、発泡倍率、発泡倍率のバラツキ、密度、断面状態等の発泡成形に必要な性能を満たすためには、マスターバッチの配合を実施例1〜15のような組成とする必要があり、更に発泡倍率が高く、かつ、断面気泡状態が完全独立気泡を示すためには、実施例1〜10のような組成とする必要があることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等にも好適に使用可能であり、発泡倍率が高く、発泡倍率のバラツキも少ない発泡成形体を得ることが可能な発泡成形用マスターバッチを提供できる。また、該発泡成形用マスターバッチを用いた発泡成形体を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースレジン、熱膨張性マイクロカプセル及び化学発泡剤を含有する発泡成形用マスターバッチであって、
前記ベースレジン100重量部に対して、前記熱膨張性マイクロカプセルを10〜150重量部、及び、前記化学発泡剤を10〜150重量部含有することを特徴とする発泡成形用マスターバッチ。
【請求項2】
熱膨張性マイクロカプセルは、重合体からなるシェルに、コア剤として揮発性膨張剤が内包されており、前記シェルは、アクリロニトリル、メタクリロニトリル及び塩化ビニリデンから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマー(I)40〜90重量%と、カルボキシル基を有し、炭素数が3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)5〜50重量%とを含有するモノマー混合物を重合させてなる重合体からなることを特徴とする請求項1記載の発泡成形用マスターバッチ。
【請求項3】
モノマー混合物は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル及び塩化ビニリデンから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマー(I)40〜90重量%と、カルボキシル基を有し、炭素数が3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)5〜50重量%とを含有し、かつ、分子内に二重結合を2つ以上有する重合性モノマー(III)を含有しないことを特徴とする請求項2記載の発泡成形用マスターバッチ。
【請求項4】
モノマー混合物は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル及び塩化ビニリデンから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマー(I)40〜90重量%と、カルボキシル基を有し、炭素数が3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)5〜50重量%と、分子内に二重結合を2つ以上有する重合性モノマー(III)0.2重量%以下と、金属カチオン塩(IV)0.1〜10重量%とを含有することを特徴とする請求項2記載の発泡成形用マスターバッチ。
【請求項5】
モノマー混合物は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル及び塩化ビニリデンから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマー(I)40〜90重量%と、カルボキシル基を有し、炭素数が3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)5〜50重量%と、金属カチオン塩(IV)0.1〜10重量%とを含有し、かつ、分子内に二重結合を2つ以上有する重合性モノマー(III)を含有しないことを特徴とする請求項2記載の発泡成形用マスターバッチ。
【請求項6】
熱膨張性マイクロカプセルは、コア剤を10〜25重量%含有することを特徴とする請求項2、3、4又は5記載の発泡成形用マスターバッチ。
【請求項7】
熱膨張性マイクロカプセルは、ASTM D2765に準拠した方法で、N,N−ジメチルフォルムアミドを用いて測定したゲル分率が40重量%以下であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6記載の発泡成形用マスターバッチ。
【請求項8】
熱膨張性マイクロカプセルは、最大発泡温度が190℃以上であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の発泡成形用マスターバッチ。
【請求項9】
化学発泡剤は、無機系化学発泡剤又は有機系化学発泡剤であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の発泡成形用マスターバッチ。
【請求項10】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載の発泡成形用マスターバッチを用いてなることを特徴とする発泡成形体。

【公開番号】特開2009−203451(P2009−203451A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117514(P2008−117514)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】