説明

発泡粒子の製造方法

【課題】発泡温度領域の広い発泡粒子を得ることのできる発泡粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】水酸化マグネシウムコロイドと、ポリアニオン性物質とを含有する水性分散媒体を調製する工程と、前記水性分散媒体中に、モノマー混合物と揮発性膨張剤とを含有する油性混合液を分散させる工程と、前記モノマー混合物中のモノマーを共重合させる工程とを有する発泡粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡温度領域の広い発泡粒子を得ることのできる発泡粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック発泡体は、発泡体の素材と形成された気泡の状態に応じて遮熱性、断熱性、遮音性、吸音性、防振性、軽量化等の機能を発現できることから、様々な用途で用いられている。プラスチック発泡体を製造する方法として、例えば、熱可塑性樹脂等のマトリックス樹脂と発泡剤とを含有する樹脂組成物、マスターバッチ等を、射出成形、押出成形等の成形方法を用いて成形し、成形時の加熱により発泡剤を発泡させる方法が挙げられる。
【0003】
プラスチック発泡体の製造には、発泡剤として、例えば、熱可塑性シェルポリマーの中に、シェルポリマーの軟化点以下の温度でガス状になる揮発性膨張剤を内包して得られる熱膨張性の発泡粒子が用いられる。このような発泡粒子は、例えば、重合可能なモノマー又はモノマー混合物、重合開始剤、揮発性膨張剤等からなる油性混合液を、重合反応容器中の分散安定剤を含有する水性分散媒体中に懸濁し、重合可能なモノマーを重合させることにより製造される。
【0004】
このような発泡粒子の製造に用いられる分散安定剤は、水性分散媒体に不溶な固体コロイドであり、従来、コロイダルシリカが多用されている。しかしながら、コロイダルシリカは、重合後に水性分散媒体を除去した後も発泡粒子の表面に残り、発泡粒子の脱水、乾燥が困難となることが知られている。また、コロイダルシリカを用いて得られる発泡粒子は発泡温度領域が狭く、適用できる用途が限定されてしまうことも問題である。
【0005】
これに対して、コロイダルシリカ以外の分散安定剤を用いる方法も検討されている。例えば、特許文献1に記載の発泡性熱可塑性微小球の製造方法においては、分散安定剤として、Ca、Mg、Ba、Fe、Zn、Ni若しくはMnのうちのいずれかの金属の塩又は水酸化物からなり、かつ、重合時に水性分散媒体が有するpHにおいて該水性分散媒体に不溶である粉末安定剤が用いられている。特許文献1には、同文献に記載の方法により得られる発泡性熱可塑性微小球は、従来の発泡粒子よりも容易に脱水、乾燥され、従来の発泡粒子より低い温度でも、また高い温度でも発泡できることが記載されている。
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、水性分散媒体中に懸濁した油滴の分散状態が不安定であり、発泡粒子を再現性良く製造することが困難である。従って、発泡温度領域が充分に広く、多様な用途に適用することのできる発泡粒子を、再現性良く製造することのできる新たな方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2584376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、発泡温度領域の広い発泡粒子を得ることのできる発泡粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、水酸化マグネシウムコロイドと、ポリアニオン性物質とを含有する水性分散媒体を調製する工程と、前記水性分散媒体中に、モノマー混合物と揮発性膨張剤とを含有する油性混合液を分散させる工程と、前記モノマー混合物中のモノマーを共重合させる工程とを有する発泡粒子の製造方法である。
以下、本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、分散安定剤を含有する水性分散媒体を調製する工程と、水性分散媒体中に、モノマー混合物と揮発性膨張剤とを含有する油性混合液を分散させる工程と、モノマー混合物中のモノマーを共重合させる工程とを有する発泡粒子の製造方法において、分散安定剤として水酸化マグネシウムコロイドを用い、かつ、水性分散媒体にポリアニオン性物質を添加することにより、発泡温度領域の広い発泡粒子が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明の発泡粒子の製造方法では、まず、水酸化マグネシウムコロイドと、ポリアニオン性物質とを含有する水性分散媒体を調製する工程(以下、単に、水性分散媒体を調製する工程ともいう)を行う。
【0011】
上記水酸化マグネシウムコロイドは、上記水性分散媒体を調製する工程におけるpHでは上記水性分散媒体に不溶であり、コロイド状である。このような水酸化マグネシウムコロイドは、本発明の発泡粒子の製造方法において、分散安定剤として機能する。
更に、上記水酸化マグネシウムコロイドは、後述するモノマーを共重合させる工程を行った後、上記水性分散媒体をpH7に戻すことで、上記水性分散媒体中に容易に溶解して洗い流される。そのため、得られる発泡粒子の表面に上記水酸化マグネシウムコロイドが残ることがなく、発泡粒子の脱水、乾燥が容易となり、発泡温度領域の広い発泡粒子が得られる。これは、発泡粒子の脱水工程、乾燥工程を短縮することで、発泡粒子のシェルを構成するポリマーに含まれるニトリル基の加水分解が抑制され、シェルのガスバリア性が向上するためであると考えられる。
なお、上記水性分散媒体を調製する工程におけるpHでは上記水性分散媒体に不溶であり、かつ、上記水性分散媒体をpH7に戻すことで上記水性分散媒体中に容易に溶解して洗い流される水酸化物として、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マンガン、水酸化鉄(II)、水酸化亜鉛、水酸化銅(II)、水酸化ランタン、水酸化アルミニウム、水酸化鉄(III)等が挙げられるが、これらのなかでも水酸化マグネシウムが好ましい。
【0012】
上記水性分散媒体を調製する工程では、予め調製した上記水酸化マグネシウムコロイドを含有する水溶液に、ポリアニオン性物質又はポリアニオン性物質の塩を添加することで、水酸化マグネシウムコロイドと、ポリアニオン性物質とを含有する水性分散媒体を調製することが好ましい。
なお、上記水性分散媒体を調製する工程では、イオン交換水に、水酸化マグネシウムと、ポリアニオン性物質又はポリアニオン性物質の塩とを直接添加することで、水酸化マグネシウムコロイドと、ポリアニオン性物質とを含有する水性分散媒体を調製してもよい。
【0013】
上記水酸化マグネシウムコロイドを含有する水溶液を調製する方法は特に限定されず、例えば、マグネシウムイオンを含有する水溶液に、pH9.0〜9.5程度のアルカリ性条件下でマグネシウムイオンが水酸化マグネシウムコロイドを形成することのできるイオンを含有する水溶液を添加して、水酸化マグネシウムコロイドを析出させる方法等が挙げられる。
より具体的には、上記水酸化マグネシウムコロイドを含有する水溶液を調製する方法として、例えば、イオン交換水に塩化マグネシウムを溶解して得られる水溶液に、イオン交換水に水酸化ナトリウムを添加して得られる水溶液を添加する方法等が挙げられる。
【0014】
上記水性分散媒体中の上記水酸化マグネシウムコロイドの含有量は特に限定されず、目的とする発泡粒子の粒子径により適宜選択することができるが、上記イオン交換水100重量部に対する好ましい下限が1重量部、好ましい上限が30重量部である。上記水酸化マグネシウムコロイドの含有量が1重量部未満であると、上記水酸化マグネシウムコロイドの分散安定剤としての効果が充分に得られないことがある。上記水酸化マグネシウムコロイドの含有量が30重量部を超えると、後述するモノマーを共重合させる工程を行った後、得られる発泡粒子の表面に上記水酸化マグネシウムコロイドが残り、発泡粒子の脱水、乾燥が困難となって発泡温度領域の広い発泡粒子が得られないことがある。
【0015】
上記ポリアニオン性物質は、上記水性分散媒体中、上記水酸化マグネシウムコロイドと複合体を形成して、上記水酸化マグネシウムコロイドの分散安定剤としての機能を補う働きをする。
上述のように、上記水酸化マグネシウムコロイドを用いることで発泡温度領域の広い発泡粒子が得られるが、上記水酸化マグネシウムコロイドを用いるだけでは、後述する油性混合液の油滴の上記水性分散媒体中での分散状態が不安定であり、発泡温度領域の広い発泡粒子を安定して得ることが困難である。これに対し、本発明の発泡粒子の製造方法では、上記水酸化マグネシウムコロイドに加えて上記ポリアニオン性物質を用いることで、油性混合液の油滴の上記水性分散媒体中での分散状態が安定化し、発泡温度領域の広い発泡粒子が安定して得られる。
なお、本明細書中、ポリアニオン性物質とは、分子内にアニオン性官能基を2個以上有する有機化合物をいう。
【0016】
上記ポリアニオン性物質は特に限定されず、例えば、ポリカルボン酸系アニオン、ポリアクリル酸系アニオン、ポリスルホン酸系アニオン等が挙げられ、より具体的には、例えば、ポリカルボン酸、カルボン酸変性ポリビニルアルコール(カルボン酸変性PVA)、ポリアクリル酸、ポリスルホン酸、スルホン酸変性ポリビニルアルコール(スルホン酸変性PVA)等が挙げられる。これらのなかでは、ポリカルボン酸系アニオンが好ましく、カルボン酸変性PVAがより好ましい。
なお、本明細書中、ポリカルボン酸系アニオンとは、分子内にカルボキシル基を2個以上有する有機化合物をいう。
【0017】
なお、上記水性分散媒体を調製する工程では、上記水酸化マグネシウムコロイドを含有するイオン交換水を調製した後、該イオン交換水に上記ポリアニオン性物質又はポリアニオン性物質の塩を添加することが好ましく、上記ポリアニオン性物質の塩として、例えば、ポリカルボン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリカルボン酸アンモニウム、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリスルホン酸ナトリウム、ポリイタコン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0018】
上記ポリアニオン性物質の重量平均分子量は特に限定されないが、好ましい下限が1500、好ましい上限が15000である。上記ポリアニオン性物質の重量平均分子量が1500未満であると、油性混合液の油滴の上記水性分散媒体中での分散状態が不安定となることがあり、発泡温度領域の広い発泡粒子が安定して得られないことがある。上記ポリアニオン性物質の重量平均分子量が15000を超えると、油性混合液の油滴粘度が極端に上昇してしまい、目的とする発泡粒子の粒子径が得られず、発泡温度領域の広い発泡粒子が安定して得られないことがある。
【0019】
上記水性分散媒体中の上記ポリアニオン性物質の含有量は特に限定されず、目的とする発泡粒子の粒子径により適宜選択することができるが、上記イオン交換水100重量部に対する好ましい下限が1重量部、好ましい上限が10重量部である。上記ポリアニオン性物質の含有量が1重量部未満であると、油性混合液の油滴の上記水性分散媒体中での分散状態が不安定となることがあり、発泡温度領域の広い発泡粒子が安定して得られないことがある。上記ポリアニオン性物質の含有量が10重量部を超えると、油性混合液の油滴粘度が極端に上昇してしまい、目的とする発泡粒子の粒子径が得られず、発泡温度領域の広い発泡粒子が安定して得られないことがある。
【0020】
上記水性分散媒体には、上記水酸化マグネシウムコロイド、上記ポリアニオン性物質の他に、必要に応じて、補助安定剤を添加してもよい。
上記補助安定剤は特に限定されず、例えば、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合生成物、尿素とホルムアルデヒドとの縮合生成物、水溶性窒素含有化合物、ポリエチレンオキサイド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、ゼラチン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ジオクチルスルホサクシネート、ソルビタンエステル、各種乳化剤等が挙げられる。
【0021】
上記水溶性窒素含有化合物は特に限定されず、例えば、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート、ポリジメチルアミノエチルアクリレート等のポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ポリジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ポリジメチルアミノプロピルメタクリルアミド等のポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ポリアクリルアミド、ポリカチオン性アクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリアミンサルフォン、ポリアリルアミン等が挙げられる。これらのなかでは、ポリビニルピロリドンが好ましい。
【0022】
上記補助安定剤として上記縮合生成物又は上記水溶性窒素含有化合物を用いる場合、上記縮合生成物又は水溶性窒素含有化合物の添加量は特に限定されず、目的とする発泡粒子の粒子径により適宜決定することができるが、全モノマー成分100重量部に対する好ましい下限が0.05重量部、好ましい上限が2重量部である。
【0023】
また、上記水性分散媒体には、必要に応じて、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩を添加してもよい。このような無機塩を添加することで、より均一な粒子形状を有する発泡粒子が得られる。上記水性分散媒体に上記無機塩を添加する場合、上記水性分散媒体中の上記無機塩の含有量は特に限定されないが、上記イオン交換水100重量部に対する好ましい上限は100重量部である。
更に、上記水性分散媒体には、必要に応じて、亜硝酸アルカリ金属塩、塩化第一スズ、塩化第二スズ、重クロム酸カリウム等を添加してもよい。
【0024】
本発明の発泡粒子の製造方法では、次いで、上記水性分散媒体中に、モノマー混合物と揮発性膨張剤とを含有する油性混合液を分散させる工程(以下、単に、油性混合液を分散させる工程ともいう)を行う。
【0025】
上記モノマー混合物は、ニトリル系モノマーを含有することが好ましい。
上記ニトリル系モノマーは特に限定されず、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−エトキシアクリロニトリル、フマルニトリル等が挙げられる。これらのなかでは、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが特に好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0026】
上記モノマー混合物は、上記ニトリル系モノマーと共重合することのできる他のモノマー(以下、単に、他のモノマーともいう)を含有してもよい。
上記他のモノマーは特に限定されず、目的とする発泡粒子に必要とされる特性に応じて適宜選択することができるが、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、分子量が200〜600のポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリアリルホルマールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、上記他のモノマーとして、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸等の不飽和モノカルボン酸や、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸や、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、ジシクロペンテニルアクリレート等のアクリル酸エステル類や、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、イソボルニルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類や、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、スチレン等のビニルモノマー等も挙げられる。
これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらのなかでは、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸又は無水マレイン酸、イタコン酸が特に好ましい。
【0027】
上記モノマー混合物中の上記他のモノマーの含有量は特に限定されないが、上記ニトリル系モノマー100重量部に対する好ましい上限が40重量部である。上記他のモノマーの含有量が40重量部を超えると、上記ニトリル系モノマーの含有量が低下して、得られる発泡粒子はガスバリア性が低下し、発泡温度領域が狭くなることがある。
【0028】
上記モノマー混合物は、金属カチオン塩を含有してもよい。
上記金属カチオン塩を含有することにより、例えば、メタクリル酸等の上記モノマー混合物中のカルボキシル基含有モノマーのカルボキシル基と、上記金属カチオンとがイオン架橋を形成し、得られる発泡粒子は、シェルの架橋効率が上がり、耐熱性が向上して、発泡温度領域が拡大する。そのため、このような発泡粒子をマトリックス樹脂に配合して成形する際には、成形時に高温で加熱しても粒子の破裂及び収縮が生じにくく、該粒子を用いて高発泡倍率で発泡成形を行うことができる。また、上記イオン架橋を形成することにより、得られる発泡粒子は、高温でもシェルの弾性率が低下しにくい。そのため、このような発泡粒子をマトリックス樹脂に配合して成形すると、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等の成形方法を用いる場合でも粒子の破裂及び収縮が生じにくく、該粒子を用いて高発泡倍率で発泡成形を行うことができる。
【0029】
上記金属カチオン塩を形成する金属カチオンは、例えば、メタクリル酸等の上記モノマー混合物中のカルボキシル基含有モノマーのカルボキシル基とイオン架橋を形成することのできる金属カチオンであれば特に限定されず、例えば、Na、K、Li、Zn、Mg、Ca、Ba、Sr、Mn、Al、Ti、Ru、Fe、Ni、Cu、Cs、Sn、Cr、Pb等のイオンが挙げられる。これらのなかでは、2〜3価の金属カチオンであるCa、Zn、Alのイオンが好ましく、Znのイオンが特に好ましい。
また、上記金属カチオン塩は、上記金属カチオンの水酸化物であることが好ましい。これらの金属カチオン塩は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0030】
上記金属カチオン塩を2種以上併用する場合、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のイオンからなる塩と、上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属以外の金属カチオンからなる塩とを組み合わせて用いることが好ましい。上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属のイオンは、カルボキシル基等の官能基を活性化することができ、該カルボキシル基等の官能基と、上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属以外の金属カチオンとのイオン架橋形成を促進させることができる。
上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属は特に限定されず、例えば、Na、K、Li、Ca、Ba、Sr等が挙げられる。これらのなかでは、塩基性の強いNa、K等が好ましい。
【0031】
上記モノマー混合物中の上記金属カチオン塩の含有量は特に限定されないが、上記ニトリル系モノマー100重量部に対する好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が10重量部である。上記金属カチオン塩の含有量が0.1重量部未満であると、得られる発泡粒子の耐熱性を向上させる効果が充分に得られないことがある。上記金属カチオン塩の含有量が10重量部を超えると、得られる発泡粒子をマトリックス樹脂に配合して成形すると、得られる発泡成形体は発泡倍率が著しく低下することがある。
【0032】
上記モノマー組成物は、重合開始剤を含有することが好ましい。
上記重合開始剤は特に限定されず、例えば、過酸化ジアルキル、過酸化ジアシル、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、アゾ化合物等が挙げられる。
上記過酸化ジアルキルは特に限定されず、例えば、メチルエチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド等が挙げられる。
【0033】
上記過酸化ジアシルは特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等が挙げられる。
【0034】
上記パーオキシエステルは特に限定されず、例えば、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、(α,α−ビス−ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。
【0035】
上記パーオキシジカーボネートは特に限定されず、例えば、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピル−パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルエチルパーオキシ)ジカーボネート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート等が挙げられる。
【0036】
上記アゾ化合物は特に限定されず、例えば、2、2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)等が挙げられる。
【0037】
上記モノマー混合物は、更に、必要に応じて、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、シランカップリング剤、色剤等を含有していてもよい。
【0038】
上記揮発性膨張剤は特に限定されないが、低沸点有機溶剤が好ましく、具体的には、例えば、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、n−ブタン、イソブタン、ブテン、イソブテン、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、n−へキサン、ヘプタン、石油エーテル等の低分子量炭化水素、CClF、CCl、CClF、CClF−CClF等のクロロフルオロカーボン、テトラメチルシラン、トリメチルエチルシラン、トリメチルイソプロピルシラン、トリメチル−n−プロピルシラン等のテトラアルキルシラン等が挙げられる。これらのなかでは、発泡倍率が高く、速やかに発泡を開始する粒子が得られることから、イソブタン、n−ブタン、n−ペンタン、イソペンタン、n−へキサン、石油エーテルが好ましい。これらの揮発性膨張剤は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
また、上記揮発性膨張剤として、加熱により熱分解してガス状になる熱分解型化合物を用いてもよい。
【0039】
上記油性混合液中の上記揮発性膨張剤の含有量は特に限定されないが、上記ニトリル系モノマー100重量部に対する好ましい下限は10重量部、好ましい上限は30重量部である。上記揮発性膨張剤の含有量が10重量部未満であると、得られる発泡粒子は、シェルが厚くなりすぎ、高温でないと発泡できないことがある。上記揮発性膨張剤の含有量が30重量部を超えると、得られる発泡粒子は、シェルの強度が低下し、該粒子を用いると高発泡倍率で発泡成形を行うことができないことがある。
【0040】
上記モノマー混合物と上記揮発性膨張剤とを含有する油性混合液を、上記水性分散媒体中に分散させる方法は特に限定されず、例えば、ホモミキサー(例えば、特殊機化工業社製)等により攪拌する方法、ラインミキサー、エレメント式静止型分散器等の静止型分散装置を通過させる方法等が挙げられる。
これにより、上記水性分散媒体中に、上記モノマー混合物と上記揮発性膨張剤とを含有する油性混合液が分散する。本発明の発泡粒子の製造方法では、上記水性分散媒体が、上記水酸化マグネシウムコロイドと、上記ポリアニオン性物質とを含有することで、上記油性混合液の油滴の上記水性分散媒体中での分散状態が安定化し、発泡温度領域の広い発泡粒子が安定して得られる。
なお、上記静止型分散装置には、上記水性分散媒体と上記油性混合液とを別々に供給してもよく、予め上記水性分散媒体と上記油性混合液とを攪拌混合して得られた分散液を供給してもよい。
【0041】
上記油性混合液を分散させる工程では、上記モノマー混合物と上記揮発性膨張剤とを別々に上記水性分散媒体に添加して、該水性分散媒体中で油性混合液を調製してもよいが、通常は、予め上記モノマー混合物と上記揮発性膨張剤とを混合して油性混合液としてから、上記水性分散媒体に添加する。この場合には、上記油性混合液と上記水性分散媒体とを予め別々の容器で調製しておき、更に別の容器で攪拌しながら混合することにより、上記油性混合液を上記水性分散媒体中に分散させた後、重合反応容器に添加してもよい。
なお、上記モノマー混合物中のモノマーを共重合させるために重合開始剤が用いられるが、上記重合開始剤は、予め上記油性混合液に添加してもよく、上記水性分散媒体と上記油性混合液とを重合反応容器内で攪拌混合した後に添加してもよい。
【0042】
本発明の発泡粒子の製造方法においては、次いで、上記モノマー混合物中のモノマーを共重合させる工程を行う。これにより、共重合体からなるシェルに、コア剤として揮発性膨張剤を内包する発泡粒子が得られる。なお、得られた発泡粒子は、続いて、脱水する工程、乾燥する工程等を経てもよい。
上記共重合させる方法は特に限定されず、例えば、加熱によりモノマーを共重合させる方法等が挙げられる。
【0043】
本発明の発泡粒子の製造方法では、上記水性分散媒体が上記水酸化マグネシウムコロイドを含有することで、得られる発泡粒子の表面に上記水酸化マグネシウムコロイドが残ることがなく、発泡粒子の脱水、乾燥が容易となり、発泡温度領域の広い発泡粒子が得られる。本発明の発泡粒子の製造方法では、更に、上記水性分散媒体が上記ポリアニオン性物質を含有することで、上記油性混合液の油滴の分散状態が安定化し、分散液径のCV値が比較的小さくなり、発泡温度領域の広い発泡粒子が安定して得られる。
【0044】
本発明の発泡粒子の製造方法により製造された発泡粒子は、発泡温度領域が広く、約160〜220℃の温度領域において高い発泡倍率で発泡することができ、耐熱性にも優れる。
本発明の発泡粒子の製造方法により製造された発泡粒子の用途は特に限定されず、発泡温度領域が広いことから様々な用途に適用することができる。例えば、本発明の発泡粒子の製造方法により製造された発泡粒子をマトリックス樹脂に配合し、射出成形、押出成形等の成形方法を用いて成形することで、遮熱性、断熱性、遮音性、吸音性、防振性、軽量化等を備えた発泡成形体を製造することができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、広い温度領域で発泡することのできる発泡粒子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0047】
(実施例1)
重合反応容器中で、イオン交換水263重量部に塩化マグネシウム8.3重量部を溶解した水溶液に、イオン交換水50重量部に水酸化ナトリウム4.7重量部を溶解した水溶液を攪拌下で徐々に添加して、pH9.5の水酸化マグネシウムコロイドを含有する水性分散媒体を調製した。この水酸化マグネシウムコロイドを含有する水性分散媒体に対し、カルボン酸変性PVA(重量平均分子量6000)を3重量部添加して、水酸化マグネシウムコロイドとカルボン酸変性PVAとを含有する水性分散媒体を調製した。
次いで、表1に示した配合で油性混合液を調製し、この油性混合液を水性分散媒体に添加して、分散液を調製した。得られた分散液をホモジナイザーで攪拌混合した後、窒素置換した加圧重合器(20L)内へ仕込み、加圧(0.2MPa)しながら、60℃で20時間反応させた。
【0048】
(比較例1)
重合反応容器中で、イオン交換水263重量部に塩化マグネシウム8.3重量部を溶解した水溶液に、イオン交換水50重量部に水酸化ナトリウム4.7重量部を溶解した水溶液を攪拌下で徐々に添加して、pH9.5の水酸化マグネシウムコロイドを含有する水性分散媒体を調製した。
次いで、表1に示した配合で油性混合液を調製し、この油性混合液を水性分散媒体に添加して、分散液を調製した。得られた分散液をホモジナイザーで攪拌混合した後、窒素置換した加圧重合器(20L)内へ仕込み、加圧(0.2MPa)しながら、60℃で20時間反応させた。
【0049】
(評価)
実施例、比較例において、油性混合液を水性分散媒体に添加して得られた分散液、及び、得られた発泡粒子について、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0050】
(1)分散液の分離状態の安定性
油性混合液を水性分散媒体に添加し、ホモジナイザーで攪拌混合した後の分散液を、20mLのサンプル管に採取した。分散液の分離層を上からA(粒子)層、B(水)層、C(凝集物)層とし、5分後、30分後、60分後の分離状態の安定性を目視判断した。分散液の分離層がA層、B層のみであった場合を「○」と、A層、B層、C層が存在した場合を「×」として評価した。
【0051】
(2)分散液径分布
油性混合液を水性分散媒体に添加し、ホモジナイザーで攪拌混合した後の分散液について、光回折式粒度分布計(堀場製作所社製、LA−910)を用いて、分散液径のCV値を測定した。分散液径のCV値が20%以上60%未満であった場合を「○」と、60%以上100%未満であった場合を「△」と、100%以上200%未満であった場合を「×」として評価した。
【0052】
(3)発泡倍率
発泡粒子を約0.1g秤量し、10mLのメスシリンダーに入れた。このメスシリンダーを160℃、180℃、200℃又は220℃に加熱したオーブンに5分間投入し、膨張した粒子のメスシリンダー内での容積を測定した。
膨張した粒子のメスシリンダー内での容積が2mL未満であった場合を「×」と、2mL以上5mL未満であった場合を「△」と、5mL以上8mL未満であった場合を「○」と、8mL以上であった場合を「◎」として評価した。
【0053】
(4)耐熱性
上記(3)の測定を行った後のサンプルを、220℃に加熱したオーブンに更に10分間投入し、膨張した粒子のメスシリンダー内での容積を測定した。
上記(1)の測定を行った直後の膨張した粒子のメスシリンダー内での容積をL、更に220℃で10分間処理した後の膨張した粒子のメスシリンダー内での容積をHとしたとき、H/Lが0.4未満であった場合を「×」と、0.4以上0.6未満であった場合を「△」と、0.6以上0.8未満であった場合を「○」と、0.8以上であった場合を「◎」として評価した。
【0054】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、発泡温度領域の広い発泡粒子を得ることのできる発泡粒子の製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化マグネシウムコロイドと、ポリアニオン性物質とを含有する水性分散媒体を調製する工程と、
前記水性分散媒体中に、モノマー混合物と揮発性膨張剤とを含有する油性混合液を分散させる工程と、
前記モノマー混合物中のモノマーを共重合させる工程とを有する
ことを特徴とする発泡粒子の製造方法。
【請求項2】
ポリアニオン性物質は、ポリカルボン酸系アニオンであることを特徴とする請求項1記載の発泡粒子の製造方法。

【公開番号】特開2011−144291(P2011−144291A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7319(P2010−7319)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】