説明

発熱定着ベルトおよび定着装置

【課題】 軸方向に加えられる押圧力に対する機械的強度に優れ、長期間の使用によっても端部割れなどを生じず、かつ、定着画像における画像ムラの発生が抑制される発熱定着ベルトおよび定着装置を提供することにある。
【解決手段】 本発明の発熱定着ベルトは、抵抗発熱層と、当該抵抗発熱層に給電するための一対の電極とを備える無端状の発熱定着ベルトであって、
前記抵抗発熱層が、耐熱性樹脂中に、長さ30〜150μmの黒鉛繊維が、発熱定着ベルトの周方向に沿って伸びるよう配向された状態で分散されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の画像形成方法によって形成されたトナー像を画像支持体上に熱定着するための発熱定着ベルト、および当該発熱定着ベルトを備えた定着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機やレーザービームプリンターなどの画像形成装置においては、トナー現像後、普通紙などの画像支持体上に転写された未定着トナー像を定着させる方法として、熱ローラ方式で接触加熱定着する方法が多く用いられてきた。
【0003】
しかしながら、熱ローラ方式の定着装置は、定着可能な温度まで昇温させるのに時間がかかり、かつ、多量の熱エネルギーを要する、という問題があり、電源投入からコピースタートまでの時間(ウォーミングアップタイム)の短縮と、省エネルギー化の観点から、近年は熱フィルム定着方式を採用することが主流になってきている。
【0004】
この熱フィルム定着方式の定着装置においては、ポリイミドなどよりなる耐熱性フィルムの外面にフッ素樹脂などの離型層が積層されてなるシームレスの定着ベルトが用いられている。
このような熱フィルム定着方式の定着装置においては、例えばセラミックヒーターを介して耐熱性フィルムが加熱され、その耐熱性フィルム表面においてトナー像が定着されるため、耐熱性フィルムの熱伝導性が重要なポイントとなるところ、当該耐熱性フィルムを薄膜化して熱伝導性の向上を図ると機械的強度が低下し、高速で回動させることが難しいために中速〜高速機に採用することが難しく、また、セラミックヒーターなどが破損しやすい、という問題があった。
【0005】
このような問題を解決するために、近年、定着ベルトそのものに発熱体を有する抵抗発熱層を組み込み、この抵抗発熱層に給電することにより定着ベルトを直接加熱し、トナー像を定着させる方式の定着装置が提案されている。この方式の定着装置が搭載された画像形成装置は、ウォーミングアップタイムが短く、消費電力も熱フィルム定着方式より小さく、省エネルギー化と高速化などの面から優れたものであるといえる。
このような定着ベルトの抵抗発熱層としては、ポリイミド樹脂などの耐熱性樹脂に導電性物質が分散されてなるものが用いられている。
【0006】
然るに、このような発熱定着ベルトは、省エネルギー化を図るために薄く構成されているので、機械的強度が十分ではない、という問題がある。具体的には、例えば、駆動時における発熱定着ベルトと当該発熱定着ベルトの軸方向への移動を規制する部材との接触によって、発熱定着ベルトの端部にヒビや欠けなどの端部割れが生じることがある。
【0007】
発熱定着ベルトの機械的強度を向上させるための技術としては、例えば、抵抗発熱層において、黒鉛繊維を耐熱性樹脂中に一定の方向に配向させて分散させることや(特許文献1参照)、カーボンナノ材料を耐熱性樹脂中に軸方向に配向させて分散させること(特許文献2参照)などが提案されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された発熱定着ベルトにおいては、数百μm〜数mmと極めて長い黒鉛繊維が用いられており、このような極めて長い黒鉛繊維は、一定の方向に配向させることは容易であるが、得られる発熱定着ベルトが製膜性の劣ったものとなり、定着画像に画像ムラが生じる、という問題がある。
また、特許文献2に開示された発熱定着ベルトにおいては、カーボンナノ材料が軸方向に配向されているために、軸方向に加えられる押圧力に対する機械的強度の向上の効果はほとんど得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭59−77467号公報
【特許文献2】特開2009−109997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来、短い黒鉛繊維を用いた発熱定着ベルトは、製膜性に優れたものとなるが、当該短い黒鉛繊維は長い黒鉛繊維に比べて流動性に自由度があることから、一定の方向に配向させることは困難であった。
本発明においては、特定の方法によって抵抗発熱層を形成することによって、短い黒鉛繊維を周方向に配向させた発熱定着ベルトを得た。
【0011】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、軸方向に加えられる押圧力に対する機械的強度に優れ、長期間の使用によっても端部割れなどを生じず、かつ、定着画像における画像ムラの発生が抑制される発熱定着ベルトおよび定着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の発熱定着ベルトは、抵抗発熱層と、当該抵抗発熱層に給電するための一対の電極とを備える無端状の発熱定着ベルトであって、
前記抵抗発熱層が、耐熱性樹脂中に、長さ30〜150μmの黒鉛繊維が、発熱定着ベルトの周方向に沿って伸びるよう配向された状態で分散されてなることを特徴とする。
【0013】
本発明の発熱定着ベルトにおいては、前記耐熱性樹脂が、ポリイミド樹脂であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の発熱定着ベルトにおいては、前記抵抗発熱層上に、弾性層および離型層が積層され、発熱定着ベルトの表面層が当該離型層から構成されてなることが好ましい。
【0015】
本発明の定着装置は、電子写真方式の画像形成装置に備えられる定着装置であって、
上記の発熱定着ベルトおよびニップ部形成用ローラを有する定着用回転体と、加圧ローラとを備え、
前記発熱定着ベルトが、当該発熱定着ベルトの内側に配置されたニップ部形成用ローラと当該発熱定着ベルトの外側に配置された加圧ローラとによって挟圧されるよう設けられると共に、
前記ニップ部形成用ローラの回転軸の両端部の各々に、前記発熱定着ベルトの軸方向への移動を規制する状態に移動規制部材が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の発熱定着ベルトによれば、耐熱性樹脂中に、特定の短い黒鉛繊維が、発熱定着ベルトの周方向に沿って伸びるよう配向された状態で分散されているので、軸方向に不可避的に加えられる押圧力に対する機械的強度に優れ、長期間の使用によっても端部割れなどを生じず、しかも、定着画像における画像ムラの発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の定着装置の構成の一例を示す模式図であって、(a)はニップ部形成用ローラに係るベアリング材を外した状態で示す斜視図、(b)は横断面図である。
【図2】図1の定着装置をニップ部形成用ローラに係るベアリング材を有する状態で示す縦断面図である。
【図3】図1の定着装置における発熱定着ベルトの一部分を切りだして示した斜視図である。
【図4】発熱定着ベルトの抵抗発熱層における黒鉛繊維の配向状態を示す斜視図である。
【図5】発熱定着ベルトの抵抗発熱層を部分的に拡大して示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0019】
〔定着装置〕
図1は、本発明の定着装置の構成の一例を示す模式図であって、(a)はニップ部形成用ローラに係るベアリング材を外した状態で示す斜視図、(b)は横断面図であり、図2は図1の定着装置をニップ部形成用ローラに係るベアリング材を有する状態で示す縦断面図である。
本発明の定着装置は、電子写真方式の画像形成装置に備えられ、例えば、画像支持体Pにおけるトナー像が形成された一面に接する一方の定着用回転体22と、他方の定着用回転体である加圧ローラ26とが互いに圧接されてなるものであり、これら定着用回転体22および加圧ローラ26の圧接部によりニップ部Nが形成されている。
画像支持体Pにおけるトナー像が形成された一面に接する一方の定着用回転体22は、無端状の本発明の発熱定着ベルト10および当該発熱定着ベルト10の内側に配置されたニップ部形成用ローラ22aを有し、発熱定着ベルト10は、当該ニップ部形成用ローラ22aと当該発熱定着ベルト10の外側に配置された加圧ローラ26とによって挟圧されるよう設けられている。
そして、定着用回転体22においては、ニップ部形成用ローラ22aが、その回転軸22bの両端部の各々設けられた軸受け部材22dによって定着装置の機枠(図示せず)に支承されている。この軸受け部材22dは、発熱定着ベルト10の軸方向への移動を規制する移動規制部材としても作用している。
図1および図2において、26bは加圧ローラ26の回転軸であり、また、図2において、22cは駆動ギアである。
【0020】
この例の定着装置20においては、加圧ローラ26の軸方向長さが、ニップ部形成用ローラ22aよりも短く構成されると共に、発熱定着ベルト10の軸方向長さとニップ部形成用ローラ22aの軸方向長さが略同等に構成されており、かつ、発熱定着ベルト10の抵抗発熱層15(図3参照)が形成された中央部のみが加圧ローラ26と接触して圧接されており、加圧ローラ26と接触していない発熱定着ベルト10の両端部に、一対の電極12、12がそれぞれ設けられ、これらの電極12が給電部材12bおよびリード線12aを介して高周波電源29に接続されてなる。
【0021】
この定着装置20においては、ニップ部形成用ローラ22aの回転駆動に従って発熱定着ベルト10が回転されると共に加圧ローラ26が従動して回転され、トナー像がその一面に形成された画像支持体Pが、ニップ部Nに挟圧されながら搬送されることによって、当該トナー像が画像支持体P上に定着される。
【0022】
〔発熱定着ベルト〕
本発明の発熱定着ベルト10は、図3および図4に示されるように、長径(L)が30〜150μmの黒鉛繊維(以下、「黒鉛短繊維」ともいう。)Gが、当該発熱定着ベルト10の周方向に沿って伸びるよう配向された状態で分散された樹脂よりなる抵抗発熱層15と、弾性層13と、離型層17とが積層され、抵抗発熱層15に給電するための一対の電極12が設けられてなる。
具体的には、無端状の抵抗発熱層15上に補強層11が形成され、この補強層11上に弾性層13が形成され、さらにこの弾性層13上に離型層17が形成されると共に、抵抗発熱層15の両端部に接触する状態に、周方向に全周にわたって電極12が形成されてなる。
補強層11は、必要に応じて設けられるものであって、本発明の発熱定着ベルト10には、必要に応じて、さらに他の機能層を設けることもできる。
【0023】
本発明において、発熱定着ベルト10の周方向とは、当該発熱定着ベルト10の周面における当該発熱定着ベルト10の軸に対して略垂直な方向(図4においてαで示す)をいう。
本発明において、「黒鉛短繊維Gが、発熱定着ベルト10の周方向に沿って伸びるよう配向された状態」とは、図5に示されるように、光学顕微鏡で倍率100倍で観察したときの任意の黒鉛短繊維G100個について、90個数%以上が、当該発熱定着ベルト10の長手方向に対して垂直な線c1を中心に±20°以内の傾きθで配向している状態をいう。
なお、本発明において、発熱定着ベルト10の軸方向とは、発熱定着ベルト10の軸に対して略水平な方向をいい、黒鉛短繊維が発熱定着ベルトの軸方向に沿って伸びるよう配向された状態とは、同様に観察した時の任意の黒鉛短繊維100個について、90個数%以上が、当該発熱定着ベルトの長手方向に平行な線c2を中心に±20℃以内の傾きで配向している状態をいう。
【0024】
黒鉛短繊維Gの90個数%以上が発熱定着ベルト10の長手方向に対して垂直な線c1を中心に±20°以内の傾きθで配向していることにより、発熱定着ベルトの端部と移動規制部材(軸受け部材22d)の衝突により生じるひずみに対して高い応力を有し、割れに対する十分な抵抗力が得られる。
【0025】
発熱定着ベルト10の抵抗発熱層15における黒鉛短繊維の配列方向は、光学顕微鏡によって観察することができる。
具体的には、抵抗発熱層15上に積層されている離型層17、弾性層13および補強層11を剥がした後、抵抗発熱層15の表面を、光学顕微鏡を用いて倍率100倍において観察することができる。
【0026】
〔抵抗発熱層〕
(樹脂)
本発明の発熱定着ベルト10に係る抵抗発熱層15を構成する樹脂は、ポリイミド樹脂を含むものであり、その他の樹脂も含んでいてもよい。
その他の樹脂としては、短期的耐熱性が200℃以上、長期的耐熱性が150℃以上である耐熱性樹脂であることが好ましく、このような耐熱性樹脂としては、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリアリレート樹脂(PAR)、ポリサルフォン樹脂(PSF)、ポリエーテルサルフォン樹脂(PES)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)などが挙げられる。
また、その他の樹脂として、上記の耐熱性樹脂以外の非耐熱性樹脂を含んでいてもよいが、非耐熱性樹脂の含有割合は抵抗発熱層15を構成する樹脂全体の40体積%未満であることが極めて好ましい。
【0027】
抵抗発熱層15を構成する樹脂におけるポリイミド樹脂の含有割合は、50体積%以上であることが好ましく、特に好ましくは100体積%である。
【0028】
(黒鉛短繊維)
抵抗発熱層15に分散される黒鉛短繊維Gは、導電性物質であって、繊維状の黒鉛である。
ここに、繊維状とは、長径(L)が短径(l)の4倍以上であるものをいう。
【0029】
黒鉛短繊維Gの長径(L)は30〜150μmであり、好ましくは30〜80μmである。
また、黒鉛短繊維Gの短径(l)は3〜15μmであることが好ましく、より好ましくは5〜10μmである。
長径が30μm未満である場合は、長期間にわたって使用したときに端部割れなどを生じる。これは、軸方向に加えられる押圧力に対する機械的強度が十分に得られないためと推察される。長径が150μmを超える場合は、定着画像において繊維模様が現われてしまうなどの画像ムラが発生する。これは、得られる抵抗発熱層が表面の粗いものとなるためと推察される。
また、短径が3μm未満である場合は、抵抗発熱層15中に分散された黒鉛短繊維同士が接触したときにその接触抵抗が過剰に大きくなり、抵抗発熱層15全体の抵抗値を十分に低下させることができないことがあり、また、短径が15μmを超える場合は、黒鉛短繊維の抵抗発熱層15中における分散性が低いものとなり、通電抵抗に局部的なバラツキが生じるおそれがある。
【0030】
以上において、黒鉛短繊維Gの長径(L)および短径(l)は、走査型電子顕微鏡写真を用いて500倍に拡大した写真を撮影し、これをスキャナーにて取り込んだ画像から、任意の500個のサンプルについてそれぞれ長径および短径を測定し、算出される平均値である。
【0031】
黒鉛短繊維Gの作製方法としては、公知の製造方法を採用することができる。すなわち、まず、ノズルから引き出して繊維状にした黒鉛を、さらに細くする必要がある場合には、必要に応じて加熱しながら延伸した後、200〜300度の温度で蒸し焼きにして炭化させ、炎に強い糸を作製し、次いで、1000〜3000度の高熱で蒸し焼きにする。このような過程を経ることにより、糸に含まれた炭素以外の不純物が抜け落ち、非常に強度が高い炭素の骨組み(分子構造)のものが得られる。このような過程を経て、まず、所望の黒鉛短繊維Gの短径(l)を有する糸を得、これを所定の長さ(長径(L))に切断することにより、目的とする黒鉛短繊維Gを作製することができる。
【0032】
黒鉛短繊維Gの体積固有抵抗は、1×10-1Ω・m以下であることが好ましい。
黒鉛短繊維Gの体積固有抵抗は、繊維状のものである場合、当該黒鉛短繊維Gに一定電流I(A)を流し、距離Lだけ離れた電極間の電位差V(V)を測定し、下記式(1)から算出される。
式(1):体積固有抵抗ρv=(V・Wt)/IL
〔ただし、Wtは黒鉛短繊維Gの断面積である。〕
【0033】
抵抗発熱層15における黒鉛短繊維Gの含有量は、5〜60質量%とされる。
【0034】
抵抗発熱層15の厚みは、10〜300μmであることが好ましく、より好ましくは30〜200μm、特に好ましくは80〜160μmである。
【0035】
抵抗発熱層15の体積抵抗率は、8×10-6〜1×10-2Ω・mであることが好ましい。
【0036】
抵抗発熱層15の体積抵抗率は、発熱定着ベルト10の円周方向全周の両端部に導電テープによって電極を設け、その両端の抵抗値を測定し、下記式(2)によって算出される。
式(2):体積抵抗率ρ=(R・d・W)/L
〔ただし、Rは抵抗値(Ω)、dは抵抗発熱層15の厚み(m)、Wは発熱定着ベルト10の円周方向の長さ(m)、Lは電極間の長さ(m)である。〕
【0037】
〔電極〕
本発明の発熱定着ベルト10に設けられる電極12は、層状のものとされ、具体的には、電鋳加工、へら絞り加工、プレス絞り加工などによって形成されたリング状の電極部材、または、金属シートをレーザ溶接などによってリング状に加工された電極部材を、抵抗発熱層15の形成工程においてポリイミド樹脂を生成させるためのポリアミド酸ドープ液の塗布前に回転芯体に嵌めこみ、ポリイミド樹脂の焼成によって抵抗発熱層15に接着させることにより、形成することができる。
電極12を形成するための電極部材は、抵抗発熱層15との接着性を向上させるために、抵抗発熱層15との接触箇所をエッチング加工、レーザによる孔あけ加工などによって孔を形成してもよい。電極部材と抵抗発熱層15との接点は一点有ればよいが、通電安定性を考慮すると、周方向に全周にわたって接触されるよう形成されていることが好ましい。
【0038】
電極12を形成するための電極部材としては、特に限定されないが、Ni、SUS、Alなどの電気抵抗率が低く、耐熱性、耐酸化性に優れた材料よりなるものを用いることが好ましい。
【0039】
電極12を形成するための電極部材の厚みは、厚いほど剛性が高くなるので耐破壊性に優れるが、変形し難いことに起因して、加圧ローラ26との圧接部によるニップ部Nを形成し難くなることから、柔軟性とのバランスを考慮すると、好ましくは10〜100μm、より好ましくは30〜60μmである。
【0040】
給電部材12bとしては、例えば銅黒鉛質、炭素黒鉛質などからなる種々のカーボンブラシを用いることができる。
【0041】
抵抗発熱層15への給電は、例えば高周波電源29から、束線やハーネスを経由して、給電部材12b、電極12を介してなされる。
給電部材12bから電極12への給電は、例えば給電部材12bを電極12のみに接触させることによりなされる。具体的な接触方法としては、摺動接触方法やコロなどを用いた回転接触方法などが挙げられる。
給電部材12bと電極12との接触荷重は、導通が確保され、かつ、発熱定着ベルト10の駆動において過剰なストレスとならない程度の荷重であればよい。
【0042】
〔弾性層〕
本発明の発熱定着ベルト10を構成する弾性層13は、例えば、弾性を有する耐熱性樹脂などからなるものとされる。
弾性を有する耐熱性樹脂としては、例えばシリコーンゴム、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素添加NBR(H−NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ウレタンゴム、クロロプレンゴム(CR)、塩素化ポリエチレン(Cl−PE)、エピハロヒドリンゴム(ECO,CO)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンジエンポリマー(EPDM)、フッ素ゴム、アクリルゴム(ACM)などが例示される。これらの中でも、CR、ECO、シリコーンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴムを用いることが好ましい。
【0043】
弾性層13の厚みは、50〜300μmであることが好ましく、より好ましくは100〜200μmである。
【0044】
〔離型層〕
本発明の発熱定着ベルト10を構成する離型層17は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などからなるものとされる。
【0045】
離型層17の厚みは、1〜20μmであることが好ましく、より好ましくは2〜10μmである。
【0046】
〔補強層〕
本発明の発熱定着ベルト10を構成する補強層11は、必要に応じて設けられるものであって、この補強層11は、耐熱性樹脂からなるものとされる。
補強層11を構成する耐熱性樹脂としては、上述の抵抗発熱層15を構成する樹脂として挙げたものを挙げることができる。
【0047】
補強層11の厚みは、20〜100μmであることが好ましく、より好ましくは30〜80μmである。
【0048】
以上のような発熱定着ベルト10によれば、耐熱性樹脂中に、黒鉛短繊維Gが、発熱定着ベルト10の周方向に沿って伸びるよう配向された状態で分散されているので、軸方向に加えられる押圧力に対する機械的強度に優れ、長期間の使用によっても端部割れなどを生じず、しかも、定着画像における画像ムラの発生が抑制される。
【0049】
〔発熱定着ベルトの形成方法〕
以上のような発熱定着ベルト10は、公知の種々の方法を用いて形成することができるが、例えば抵抗発熱層15を以下のように形成させることが好ましい。
【0050】
具体的には、
(1)抵抗発熱層15を形成するための塗布液として、ポリアミド酸に黒鉛短繊維Gを添加して分散させたポリアミド酸ドープ液を調製するポリアミド酸ドープ液調製工程、
(2)回転芯体上に、黒鉛短繊維Gが周方向に配向するようポリアミド酸ドープ液を塗布、乾燥してベルト状前駆体を得るベルト状前駆体作製工程、
(3)ベルト状前駆体を焼成してポリイミド樹脂を生成させるイミド化反応工程
から構成される。
補強層11、電極12、弾性層13、離型層17は、それぞれ、適宜の方法によって形成させることができる。
【0051】
(1)ポリアミド酸ドープ液調製工程
このポリアミド酸ドープ液調製工程は、芳香族テトラカルボン酸と芳香族ジアミンとを縮重合することにより、ポリアミド酸を合成し、これに黒鉛短繊維Gを分散させる工程である。
具体的には、ポリアミド酸の良溶媒からなる溶媒中で縮重合を行い、ポリアミド酸が溶解されたポリアミド酸溶液を得る。
【0052】
ポリアミド酸の良溶媒とは、当該ポリアミド酸を、25℃において20質量%以上の濃度で均一に溶解することができる溶媒をいう。このような良溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルスルホルアミドなどのアミド類;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド類;ジメチルスルホン、ジエチルスルホンなどのスルホン類などの有機極性溶媒を挙げることができる。これらは、1種単独でまたは2種以上を併用してもよい。
良溶媒としては、N−メチルピロリドンを用いることが好ましい。
【0053】
使用する良溶媒の量は、縮重合後に得られるポリアミド酸溶液中のポリアミド酸の濃度が例えば2〜50質量%の範囲内になるような量であればよい。
【0054】
芳香族テトラカルボン酸と芳香族ジアミンとを縮重合させる方法としては、公知の種々の方法を採用することができる。具体的には、例えば、芳香族テトラカルボン酸と芳香族ジアミンとをほぼ等モルで用い、溶媒中において、100℃以下、好ましくは0〜80℃の温度範囲にて0.1〜60時間縮重合する方法が挙げられる。
【0055】
〔芳香族テトラカルボン酸〕
ポリアミド酸の合成に用いられる芳香族テトラカルボン酸としては、特に限定されず、例えば、芳香族テトラカルボン酸、その酸無水物、その塩およびエステル化物、並びにそれらの混合物を挙げることができ、特に芳香族テトラカルボン酸の酸二無水物を用いることが好ましい。
芳香族テトラカルボン酸の酸二無水物の具体例としては、例えば、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、2,2−ビス[3,4−(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BPADA)、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、オキシジフタル酸無水物(ODPA)、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホキシド二無水物、チオジフタル酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物および9,9−ビス[4−(3,4’−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二無水物などを挙げることができる。これらの中でも、特に、ピロメリット二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、2,2−ビス[3,4−(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BPADA)、オキシジフタル酸無水物(ODPA)などが好ましい。
これらは、1種単独でまたは2種以上を併用してもよい。
【0056】
芳香族テトラカルボン酸の使用量は、芳香族テトラカルボン酸:芳香族ジアミンがモル比で0.85:1〜1.2:1である量であることが好ましい。
【0057】
ポリアミド酸は、数平均分子量が1,000以上であることが好ましく、より好ましくは2,000〜500,000であり、特に好ましくは5,000〜150,000である。
【0058】
ポリアミド酸の数平均分子量は、テトラヒドロフラン(THF)可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるものである。具体的には、装置「HLC−8220」(東ソー社製)およびカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZM−M3連」(東ソー社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2ml/minで流し、測定試料を室温において超音波分散機を用いて5分間処理を行う溶解条件で濃度1mg/mlになるようにテトラヒドロフランに溶解させ、次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して試料溶液を得、この試料溶液10μLを上記のキャリア溶媒と共に装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出し、測定試料の有する分子量分布を単分散のポリスチレン標準粒子を用いて測定した検量線を用いて算出する。検量線測定用の標準ポリスチレン試料としては、Pressure Chemical社製の分子量が6×10、2.1×10、4×10、1.75×10、5.1×10、1.1×10、3.9×10、8.6×10、2×10、4.48×10のものを用い、少なくとも10点程度の標準ポリスチレン試料を測定し、検量線を作成した。また、検出器には屈折率検出器を用いた。
【0059】
〔芳香族ジアミン〕
ポリアミド酸の合成に用いられる芳香族ジアミンとしては、特に限定されず、例えば、パラフェニレンジアミン(PPD)、メタフェニレンジアミン(MPDA)、2,5−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニル、2,2−ビス(トリフルオロメチル)−4、4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MDA)、2,2−ビス−(4−アミノフェニル)プロパン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(33DDS)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(44DDS)、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(34ODA)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(133APB)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(134APB)、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPSM)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、2,2−ビス(3−アミノフェニル)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンおよび9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンなどを挙げることができる。これらの中でも、特に、パラフェニレンジアミン(PPD)、メタフェニレンジアミン(MPDA)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MDA)、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(33DDS)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(44DDS)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(34ODA)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(133APB)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(134APB)、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPSM)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)などが好ましい。
これらは、1種単独でまたは2種以上を併用してもよい。
【0060】
ポリアミド酸ドープ液は、上記のように得られたポリアミド酸溶液に黒鉛短繊維Gを溶解または分散させると共に必要に応じて導電剤、界面活性剤、粘度調整剤などの添加剤を含有させ、必要に応じて、希釈用の溶媒を添加して濃度および粘度を調整することにより、調製される。
【0061】
ポリアミド酸ドープ液における全溶媒の量は、20〜90質量%であることが好ましく、より好ましくは40〜70質量%である。
【0062】
また、ポリアミド酸ドープ液の粘度は、所望の厚みを有する抵抗発熱層15が得られる限り特に制限されず、例えば10cp〜10,000cpとされる。
【0063】
界面活性剤および粘度調整剤などの添加剤としては、最新ポリイミド−基礎と応用―(日本ポリイミド研究会編(NTS出版)および最新ポリイミド材料と応用技術(監修;柿本雅明、CMC出版)に記載の物質が使用できる。
【0064】
ポリアミド酸ドープ液に溶解しない黒鉛短繊維Gおよび/または添加剤を含有させる場合には、ポリアミド酸ドープ液に対して、均一な分散を達成する手段を用いることが好ましい。例えば、撹拌羽根による混合、スタチックミキサーによる混合、1軸混練機や2軸混練機による混合、ホモジナイザーによる混合、超音波分散機による混合など、公知の混合機を用いて混合・分散するとよい。
【0065】
(2)ベルト状前駆体作製工程
このベルト状前駆体作製工程は、ポリアミド酸ドープ液を適宜の回転芯体上に塗布した後、溶媒を蒸発させて除去することによりベルト状前駆体を作製する工程である。
回転芯体としては、例えばステンレス鋼管などを用いることができる。
【0066】
ポリアミド酸ドープ液を回転芯体上に塗布する方法としては、スパイラル塗布法を用いることができる。
スパイラル塗布法は、モーノポンプやギアポンプなどの送液ポンプ、テフロン(登録商標)チューブなどの配管およびノズルからなる塗布装置を用い、回転芯体に対して、当該回転芯体を回転軸を水平に保持して回転させると共に、塗布装置にノズルを回転芯体の周面に近接させて当該ノズルからポリアミド酸ドープ液を吐出しながら、当該ノズルを回転芯体の軸方向に移動させることにより、当該回転芯体の周面全域にポリアミド酸ドープ液をスパイラル状に塗布する方法である。
【0067】
具体的な塗布条件の具体例を挙げる。
・回転芯体のサイズ:φ30mm、長さ450mm
・ポリアミド酸ドープ液の温度:25℃
・ノズルの形状:円錐状ノズル
・ノズルの口径:4mm
・ノズル先端部と回転芯体の周面までの距離:5〜20mm
・ノズルからの吐出量:3cc/min
・ノズルの回転芯体の軸方向への移動速度:45mm/min
・回転芯体の回転速度(周速度):3500〜4500mm/min
【0068】
回転芯体上にスパイラル塗布法によって塗布することにより、黒鉛短繊維Gを、発熱定着ベルト10の周方向に沿って伸びるよう配向された状態で抵抗発熱層15中に分散させることができる。
これは、通常、ポリアミド酸ドープ液中に分散された黒鉛短繊維は、流動性に自由度があるために一定方向に配向させることが困難であるところ、塗布装置の配管およびノズルにおいて当該配管およびノズルが伸びる方向に黒鉛短繊維Gが配向し、ノズルの移動方向すなわち回転芯体の周方向に黒鉛短繊維Gが配向した状態が維持されるからである。
【0069】
溶媒を蒸発させるための乾燥温度は、後述するイミド化開始温度より低い温度であって、溶媒が蒸発し得る温度であれば特に制限されず、例えば、40〜280℃、好ましくは80〜260℃であり、より好ましくは120〜240℃、特に好ましくは120〜220℃である。
この乾燥は、乾燥後のベルト状前駆体の溶媒含有量がベルト状前駆体の形成に適した程度となるまで行えばよい。
【0070】
(3)イミド化反応工程
このイミド化反応工程は、ベルト状前駆体を特定の焼成温度において所定時間にわたって焼成することによりポリアミド酸をイミド化して、ポリイミド樹脂による抵抗発熱層15を形成させると共に電極12を当該抵抗発熱層15に接着させる工程である。
【0071】
イミド化反応に係る特定の焼成温度は、イミド化開始温度であって、通常280℃以上、好ましくは280〜400℃、より好ましくは300〜380℃、特に好ましくは330〜380℃とされる。
また、焼成時間は、通常10分間以上、好ましくは30〜240分間である。
【0072】
〔画像形成装置〕
本発明の定着装置は、公知の種々の構成を有する画像形成装置に搭載することができる。
【0073】
〔画像支持体〕
本発明の定着装置を用いた画像形成方法において、トナー像を定着させる画像支持体Pとしては、薄紙から厚紙までの普通紙、上質紙、アート紙あるいはコート紙などの塗工された印刷用紙、市販されている和紙やはがき用紙、OHP用のプラスチックフィルム、布などの各種を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0074】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明の実施形態は上記の例に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
例えば、発熱定着ベルト10を構成する抵抗発熱層15と弾性層13との層間には、接着性を安定させる目的から、プライマー層を形成させることができる。このプライマー層の厚みは、例えば2〜5μmとされる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0076】
〔実施例1〕
(1)電極の作製
外径30mm、全長450mmのステンレス鋼管の両端部それぞれ5cmの領域に、幅20mm、厚さ50μmの電極リング部材を嵌めこむことにより、電極付き回転芯体〔1〕を形成した。
【0077】
(2)抵抗発熱層を作製するためのポリアミド酸ドープ液の調製
ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンから得られたポリアミド酸80gと、黒鉛繊維(径8μm、長さ32μm)18gとを、遊星方式の混合機で十分に撹拌・脱泡することにより、ポリアミド酸ドープ液〔1〕を得た。
【0078】
(3)抵抗発熱層および補強層の作製
電極付き回転芯体〔1〕を回転軸を水平に保持して回転させると共に、モーノポンプ、テフロン(登録商標)チューブおよびノズルを備える塗布装置を用いて、このノズルを電極付き回転芯体〔1〕上に近接させて当該ノズルから上記のポリアミド酸ドープ液〔1〕を吐出しながら、当該ノズルを電極付き回転芯体〔1〕の軸方向に移動させることにより、当該電極付き回転芯体〔1〕の電極リングの軸方向内側に少し重なるよう、ステンレス鋼管の電極リングのない中央領域全域にポリアミド酸ドープ液〔1〕をスパイラル状に塗布し、さらに平坦化させることによって、膜厚600μmの塗布膜を形成し、その後、回転軸を水平に保持して回転速度(周速度)50mm/minで回転させながら、120℃で1時間乾燥して溶媒を飛ばして積層構造体〔a〕を得、次いで、積層構造体〔a〕上に、ポリアミド酸「U−ワニスS301」(宇部興産社製)を膜厚500μmで塗布した後、塗布物を120℃で20分間乾燥してベルト状前駆体を得、これを窒素雰囲気下、室温から400℃まで3時間かけて昇温させて焼成してイミド化させることにより、抵抗発熱層を電極リングに接着する状態に形成すると共に補強層を形成して、無端状のポリイミド樹脂ベルトからなる積層構造体〔A1〕を作製した。
この積層構造体〔A1〕について光学顕微鏡で観察したところ、黒鉛繊維が周方向に配向していることが確認された。
−塗布条件−
・ポリアミド酸ドープ液の温度:25℃
・ノズルの形状:円錐状ノズル
・ノズルの口径:4mm
・ノズル先端部と回転芯体〔1〕の周面までの距離:20mm
・ノズルからの吐出量:3cc/min
・ノズルの回転芯体〔1〕の軸方向への移動速度:45mm/min
・回転芯体〔1〕の回転速度(周速度):4000mm/min
【0079】
(4)弾性層の作製
上記の積層構造体〔A1〕上に、プライマー「X331565」(信越化学社製)をはけ塗りし、常温で30分乾燥させてプライマー層を形成した後、シリコーンゴム「KE1379」(信越化学社製)の液状ゴムおよびシリコーンゴム「DY356013」(東レダウコーニングシリコーン社製)2液を予め2:1の割合で混合した組成物を、プライマー層上に200μmの厚みとなるよう塗布し、150℃で30分間加熱して一次加硫し、さらに200℃で4時間加熱してポスト加硫を行ってプライマー層上に弾性層を形成して、積層構造体〔A1〕上に弾性層が設けられた積層構造体〔A2〕を形成した。この弾性層の硬度は26度であった。
【0080】
(5)離型層の作製
積層構造体〔A2〕の弾性層の表面を洗浄した後、フッ素樹脂(B)として、PTFE樹脂ディスパージョン「30J」(デュポン社製)中に、積層構造体〔A2〕を回転させながら3分間浸漬した後、取り出し、常温で20分間乾燥し、次いで、弾性層の表面のフッ素樹脂を布で拭き取り、さらに、フッ素樹脂(A)として、PTFE樹脂とPFA樹脂を7:3の割合で混合し、固形分濃度45%、粘度:110mPa・sに調整したフッ素樹脂ディスパーション「855−510」(デュポン社製)を、フッ素樹脂(B)による層上に最終の厚さで15μmとなるようにコーティングし、室温で30分乾燥後、230℃で30分間加熱した。その後、炉内温度が270℃に設定した内径100mmの管状炉内を、約10分で通過させ、フッ素樹脂を焼成により形成し、冷却して、積層構造体〔A2〕の弾性層上に離型層を形成して、発熱定着ベルト〔1〕を得た。その後、ステンレス管から発熱定着ベルト〔1〕を分離した。
【0081】
〔実施例2〜5、比較例1〜4〕
実施例1において、黒鉛繊維として、それぞれ表1に示された長さのものを用いたことの他は全て同様にして、発熱定着ベルト〔2〕〜〔9〕を得た。
この発熱定着ベルト〔2〕〜〔9〕の抵抗発熱層について光学顕微鏡で観察したところ、発熱定着ベルト〔2〕〜〔5〕、〔9〕については黒鉛繊維が周方向に配向していることが確認され、また、発熱定着ベルト〔6〕、〔7〕については黒鉛繊維がランダムに配向していることが確認された。
【0082】
〔比較例5〕
実施例1において、回転芯体に対するポリアミド酸ドープ液〔1〕の塗布を、回転芯体をポリアミド酸ドープ液中に軸方向が縦となるよう浸漬し、所定の速度で引き上げることにより塗布膜を形成したことの他は全て同様にして、発熱定着ベルト〔10〕を得た。
この発熱定着ベルト〔10〕の抵抗発熱層について光学顕微鏡で観察したところ、黒鉛繊維が軸方向に配向していることが確認された。
【0083】
<性能評価>
以上の発熱定着ベルト〔1〕〜〔10〕を用いて、端部割れ、並びに、製膜性および画像ムラについての評価を行った。
【0084】
(1)端部割れ
複写機「bizhub C280」(コニカミノルタビジネステクノロジーズ社製)の定着装置を用いて、これに外部電源、駆動ユニットおよび温度制御ユニットを接続し、さらに、発熱定着ベルトを装着可能に改造すると共に加圧ローラの両端部の加圧力を異なる大きさにして加圧バランスを崩すように改造した定着装置空回転治具に、発熱定着ベルトを装着し、この状態で発熱定着ベルトに電圧を印加し、180℃の温調温度で制御しながら、紙などの画像支持体は通紙せずに1000時間(実機通紙枚数約100万枚に相当)駆動させる強制耐久試験を行った。なお、加圧ローラの両端部の加圧バランスが崩れていることにより、発熱定着ベルトがニップ部形成用ローラのベアリング材に接触しやすくなる。
−定着装置空回転治具の構成条件−
・発熱定着ベルトの回転速度:130mm/sec
・駆動伝達側の加圧力:6kgf
・非駆動伝達側の加圧力:9kgf
【0085】
発熱定着ベルト〔1〕〜〔10〕をそれぞれに10個用意し、これらについて定着装置空回転治具による強制耐久試験を行い、発熱定着ベルトの端部の状態を目視で確認し、下記の評価基準に従って評価した。結果を表1に示す。
−評価基準−
◎:10個すべてについて、1,000時間耐久後も端部に変形が見られず、まったく問題ないレベル。
○:10個すべてについて、600時間耐久した時点で端部に変形が見られず、実使用上問題ないレベル。
△:600時間耐久した時点で、10個のうちのいくつかについて、端部に多少の変形が見られ、問題があるレベル。
×:10個すべてについて、600時間耐久前に敗れや亀裂、割れなどの破損が見られ、問題があるレベル。
【0086】
(2)製膜性
発熱定着ベルト〔1〕〜〔10〕について、それぞれ、抵抗発熱層のみが構成された評価用ベルトを作製し、この評価用ベルトについて、フィッシャー社製の渦電流式膜厚計を用いて膜厚偏差を測定し、下記の評価基準に従って評価した。結果を表1に示す。
−評価基準−
◎:ベルト軸方向の膜厚偏差が10μm以下のレベル。
○:ベルト軸方向の膜厚偏差が10μmより大きく20μm以下のレベル。
△:ベルト軸方向の膜厚偏差が20μmより大きく30μm以下のレベル。
×:ベルト軸方向の膜厚偏差が40μmより大きいレベル。
【0087】
(3)画像ムラ
複写機「bizhub C280」(コニカミノルタビジネステクノロジーズ社製)の定着装置に、加圧バランスは通常のまま、発熱定着ベルトを装着し、常温常湿環境下(温度25℃、湿度50%)においてテスト画像を50,000枚形成し、得られた定着画像について下記の評価基準に従って評価した。結果を表1に示す。
−評価基準−
◎:50,000枚目の定着画像に画像スジ・色ムラが見られず、まったく問題ないレベル。
○:40,000枚目の定着画像に画像スジ・色ムラが見られず、まったく問題ないレベル。
△:40,000枚目の定着画像に多少の画像スジ・色ムラが見られ、問題があるレベル。
×:どの定着画像にも大量の画像スジ・色ムラが見られ、問題があるレベル。
【0088】
【表1】

【符号の説明】
【0089】
10 発熱定着ベルト
11 補強層
12 電極
12a リード線
12b 給電部材
13 弾性層
15 抵抗発熱層
17 離型層
20 定着装置
22 定着用回転体
22a ニップ部形成用ローラ
22b 回転軸
22c 駆動ギア
22d 軸受け部材
26 加圧ローラ
26b 回転軸
29 高周波電源
G 黒鉛短繊維
N ニップ部
P 画像支持体



【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗発熱層と、当該抵抗発熱層に給電するための一対の電極とを備える無端状の発熱定着ベルトであって、
前記抵抗発熱層が、耐熱性樹脂中に、長さ30〜150μmの黒鉛繊維が、発熱定着ベルトの周方向に沿って伸びるよう配向された状態で分散されてなることを特徴とする発熱定着ベルト。
【請求項2】
前記耐熱性樹脂が、ポリイミド樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の発熱定着ベルト。
【請求項3】
前記抵抗発熱層上に、弾性層および離型層が積層され、発熱定着ベルトの表面層が当該離型層から構成されてなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の発熱定着ベルト。
【請求項4】
電子写真方式の画像形成装置に備えられる定着装置であって、
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の発熱定着ベルトおよびニップ部形成用ローラを有する定着用回転体と、加圧ローラとを備え、
前記発熱定着ベルトが、当該発熱定着ベルトの内側に配置されたニップ部形成用ローラと当該発熱定着ベルトの外側に配置された加圧ローラとによって挟圧されるよう設けられると共に、
前記ニップ部形成用ローラの回転軸の両端部の各々に、前記発熱定着ベルトの軸方向への移動を規制する状態に移動規制部材が設けられていることを特徴とする定着装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−101239(P2013−101239A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245248(P2011−245248)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】