説明

発熱装置

【課題】発熱部の温度分布に関し、発熱抵抗体の形状に制限されることなく、配線から基板への熱損失を小さくすることで、発熱抵抗体自体の温度分布を平均化し、発熱部で最も高温となる部分の劣化を防止する発熱装置を提供する。
【解決手段】発熱装置は、基板に設けた空洞上に形成した発熱体の全体に通電する主通電手段と、少なくとも1つ以上の前記発熱体の一部の範囲に通電する副通電手段を有する発熱装置であって、前記主通電手段と前記副通電手段は連動して間欠動作し、さらに前記発熱体の共通部分の発熱量を低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱部の温度分布を平均化する発熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発熱部の温度分布を変更する発熱装置に関し、発熱部となる抵抗体へ通電してジュール発熱させる発熱素子(マイクロヒータともいう)が知られている。この発熱素子は、Si基板の空洞上に架橋した微小な発熱部が組み込まれたものである。この発熱部は、半導体微細加工技術を用いて微小な寸法で形成するため、発熱部の熱容量が小さく、電力を通電してから数十ミリ秒で所定温度に到達させることができる。
【0003】
また、特許文献1には、半導体基板のダイヤフラム部の表面に形成した発熱抵抗体と上流側測温抵抗体及び下流側測温抵抗体からなり、その発熱抵抗体は、その両端の近傍においてスリットが形成され、スリット近傍の抵抗値が増大するようになっていることにより、温度分布を適正化する熱式流量センサが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、基板の空洞部を架橋するようにブリッジが設けられ、そのブリッジの中央にヒータが、その片脇に測温体がそれぞれ形成されたフローセンサが開示されている。
このヒータは、流量を測定するためその両端端子に電圧を通電され、流体温度よりも高い温度に制御される。このとき流量がある閾値以上である高い領域では、ヒータに設けられた中間端子に所定の電圧をさらに与えることによって、測温体に近い部分のヒータ温度を上昇させ、ヒータの温度分布を変更する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような発熱装置では、雰囲気温度(Ta)から所定の発熱温度(Th)に発熱させる場合、発熱部からSi基板への熱の損失のため発熱部の温度分布が発熱温度や雰囲気温度によって変化する。発熱温度(Th)と雰囲気温度(Ta)の差(ΔTh(=Th−Ta))が大きい場合、ΔThが小さい場合よりも発熱部からSi基板への熱損失が増え、発熱部の温度分布が大きくなり、発熱部で最も高温となる部分の劣化が早くなるという問題がある。
【0006】
また、特許文献1に係る技術では、発熱温度分布の変更につき発熱抵抗体の形状に依存しており、かつ調整が複雑であるため、確実に温度分布を平均化することは困難である。加えて、特許文献2に係る技術は、測温体に近い部分のヒータの発熱量を多くして、測温体が流体温度程度まで冷却されるのを防止するものであって、ヒータ自体の温度分布を平均化するものではない。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、このような発熱部の温度分布に関し、発熱抵抗体の形状に制限されることなく、配線から基板への熱損失を小さくすることで、発熱抵抗体自体の温度分布を平均化し、発熱部で最も高温となる部分の劣化を防止する発熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の発熱装置は、基板に設けた空洞上に形成した発熱体の全体に通電する主通電手段と、少なくとも1つ以上の前記発熱体の一部の範囲に通電する副通電手段を有する発熱装置であって、前記主通電手段と前記副通電手段は連動して間欠動作し、さらに前記発熱体の共通部分の発熱量を低下させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発熱部の温度分布に関し、発熱抵抗体の形状に制限されることなく、配線から基板への熱損失を小さくすることで、発熱抵抗体自体の温度分布を平均化し、発熱部で最も高温となる部分の劣化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態の発熱装置につき、(a)装置ブロック図、(b)動作タイミング、(c)発熱時の温度分布の様子を示した図である。
【図2】本発明の一実施形態の発熱装置に用いる発熱素子の一例を示した図で、(a)は平面図、(b)は平面図のI−I‘の断面図を示したものである。
【図3】本発明の別の実施形態の発熱装置につき、(a)装置ブロック図、(b)動作タイミング、(c)発熱時の温度分布の様子を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、発熱装置の発熱部の温度分布に関し、発熱部の迅速な熱応答性を確保しつつ、発熱部となる抵抗体の全体に通電する手段と、その通電手段と連動して発熱部となる抵抗体の一部を通電する手段により、発熱部の温度分布を平均化する技術である。
以下、本発明の実施の形態について、図1から図3を用いて詳細に説明する。
【0012】
図1(a)は、本発明の実施形態の発熱装置1の装置ブロック図である。この発熱装置1は、一つの抵抗体11(発熱体)、主駆動部12(主通電手段)および副駆動部13(副通電手段)並びに検出部14で構成される。抵抗体11(発熱体)はその両端に電極15及び16を配置し、さらに抵抗体11の両端でない位置に一対の中間電極17及び18が配置してある。抵抗体11の両端の電極15及び16は主駆動部12および検出部14、また抵抗体11の一対の中間電極17及び18は副駆動部13にそれぞれ接続してあるものである。抵抗体11は、図2に示すような基板43の空洞42上に架橋した絶縁膜41上に形成した抵抗パターンである。
【0013】
次に、本実施形態の発熱装置1の動作について、図1(b)の動作タイミング図及び(c)の発熱時の温度分布の様子を示した図を用いて以下説明する。
【0014】
主駆動部12によって、抵抗体11の両端に接続した電極15及び16間に、例えばその間が500℃の抵抗値となるよう電流を通電する。このとき、主駆動部12によって、抵抗体11の全体に電流方向i1で電流を通電するタイミング21に連動して数ミリ秒の遅延23後(タイミング22)、副駆動部13により中間電極17及び18間に、一定電流の電流i2を、主駆動部12によって通電する電流i1とは反対の方向に通電する(図1(b))。
【0015】
この場合、電流i2は電流i1による発熱量を調整するものであるので電流i1の半分程度の値に設定する。主駆動部12と副駆動部13の共通部分の抵抗体の中間電極17及び18間には、(i1−i2)の電流を通電することにより抵抗値が下がるため、主駆動部12の電流値が増加するように動作して、非共通部分の発熱量をより増加させることができる。
【0016】
抵抗体11への通電から所定時間経過後、検出部14により抵抗体11の出力を検出して抵抗体11への通電を終了する。この結果、図1(c)の実線31で示すように、抵抗体11の温度が平均温度よりも高い(つまり、主駆動部12のみによる通電の場合の抵抗体11の最大温度が、主駆動部12と副駆動部13とによる通電の場合の抵抗体11の最大温度よりも高い)部分の発熱量を低下することで、抵抗体全体の温度を平均化することができる。なお、参考に副駆動部13を動作させない時の温度分布を破線32で示す。
【0017】
また、主駆動部12による抵抗体11への電流通電開始から副駆動部13による抵抗体11への電流通電開始までに数ミリ秒の遅延を設けることで、所定の抵抗値となるように制御する主駆動部12から抵抗体11に大きな電流を通電することとなるため、抵抗体11はより迅速な熱応答が得られる。なお、この場合の遅延時間は、抵抗体11が所定の抵抗値に到達する前までの間の時間に設定する。
【0018】
上記のように、抵抗体11の両端に接続する電極15及び16と抵抗体11の中間に接続する中間電極17及び18を配置し、主駆動部12による抵抗体11の両端の電極間に電流を通電するタイミングと連動して、副駆動部13により中間電極間に電流を通電することにより、抵抗体の温度分布が安定し、さらに抵抗体が迅速な熱応答を得た発熱装置とすることができる。なお、副駆動部13は定電流や定電圧で抵抗体11へ通電するようにしても同様の効果が得られる。
【0019】
一方、抵抗体11へまだ通電していない間は、抵抗体11の抵抗値を検出部14が検出することにより、雰囲気温度に応じて変化する抵抗値から雰囲気温度を検出することができる。
【0020】
次に、本発明の実施形態の発熱装置に用いる発熱素子(抵抗体11)について、図2を用いて説明する。
【0021】
この発熱素子は、基板43の空洞42上に架橋した絶縁膜41上に抵抗パターンを形成し、基板43上の電極15及び16とは抵抗パターンの両端を接続し、さらに基板43上の二つの中間電極17及び18とは抵抗パターンの両端でない位置で接続したものである。この中間電極は、抵抗パターンの両端の電極に通電した時の発熱温度分布において、上述した図1(c)の実線で示した平均温度31との差が大きい高温部が中間電極間に含まれるよう抵抗パターンと接続している。
【0022】
ここで、この発熱素子の既知の作製方法について、以下に簡単に説明する。
【0023】
第1に、電極間の絶縁性を保つため、Si基板の表面にSiO2(二酸化ケイ素)、Ta25(五酸化タンタル)、Si34(窒化ケイ素)などの絶縁膜をCVD(Chemical Vapor Deposition)、スパッタ法などにより、例えば0.5μm成膜する。
【0024】
第2に、絶縁膜上に抵抗体となる電気導電性の高いPt(白金)、Au(金)、NiCr(ニッケルクロム)、W(タングステン)などの抵抗膜をスパッタ法などにより、例えば0.3μm成膜する。
【0025】
第3に、抵抗膜を抵抗体の形状に加工するため、幅4μm、長手方向164μm、短手方向4μmの折り返しパターン、そのパターンの両端に接続する電極部および、折り返し部に接続する二つの中間電極部をフォトレジストで形成し、それをマスクとして抵抗膜をエッチングする。その後、レジスト除去して所定形状の抵抗体を作製する。
【0026】
第4に、電極間の絶縁性を保つため、基板表面にSiO2、Ta25、Si34などの絶縁膜をCVD、スパッタ法などにより、例えば0.5μm成膜する。
【0027】
抵抗体下のSi基板をエッチングして空洞を形成するための窓、および電極部上の絶縁膜を除去するための開口パターンをフォトレジストで形成し、開口部から絶縁膜をエッチングする。その後レジストを除去する。
【0028】
空洞を形成するため、KOH(水酸化カリウム)、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)などを用いてSi基板を異方性エッチングして、一辺が300μm×300μmの空洞上に架橋した構造体を完成する。
【0029】
この抵抗体を発熱させることにより、周囲雰囲気の気体へ伝熱させるために要した電力と、既知の周囲雰囲気の熱伝導率との関係から、周囲雰囲気の熱伝導率として高速に検出する。さらにその熱伝導率と既知の周囲雰囲気の状態の関係により、周囲雰囲気の気体の状態として高速に検出する。
【0030】
例えば、気体の熱伝導率と周囲雰囲気の濃度との関係により検出するものは、周囲雰囲気として空気中の湿度として、周囲雰囲気の熱伝導率と空気中の水蒸気濃度との関係による湿度センサがあり、周囲雰囲気の熱伝導率と水蒸気と水素との濃度の関係による燃料電池の水素濃度センサがある。
【0031】
また、抵抗体に触媒や金属酸化物半導体などのガス感応材料を被覆し、抵抗体によってガス感応材料を活性化させることによって、ガスセンサを形成することができる。
【0032】
さらに、周囲雰囲気の気体へ伝熱させるために要した電力を、既知の周囲雰囲気の圧力との関係により圧力センサ、既知の周囲雰囲気の流速との関係によりフローセンサ、とすることもできる。
【0033】
次に、本発明の別の実施形態の発熱装置50について、図3を用いて、以下説明する。なお、上記実施形態における構成と同一の構成については、その記載を省略する。
【0034】
図3(a)は、本発明の別の実施形態の発熱装置50の装置ブロック図である。この発熱装置50は、一つの抵抗体11(発熱体)と駆動部51(主通電手段)及び電流分割部52(副通電手段)、ならびに検出部14で構成され、抵抗体11には抵抗体の両端に配置した電極15及び16と、さらに抵抗体の両端でない位置に接続する一対の中間電極17及び18が配置してあり、抵抗体11の両端の電極15及び16は駆動部51および検出部14、また抵抗体11の一対の中間電極17及び18は電流分割部52にそれぞれ接続しているものである。
【0035】
電流分割部52は中間電極間の抵抗値と同じ抵抗値を持ち、駆動部51の動作時にはスイッチ等により閉ループとなるよう動作するものである。これにより、通電手段により温度分布を平均化するにあたり、簡易な制御とすることができる。
【0036】
次に、本発明の別の実施形態の発熱装置50について、図3(b)の動作タイミング図及び(c)の発熱時の温度分布の様子を示した図を用いて以下説明する。
【0037】
駆動部51によって、抵抗体の両端に接続した電極15及び16間に、例えばその間が一定の電圧となるよう電流i1を通電するタイミング61と連動して電流分割部52を動作させ(タイミング62)、中間電極17及び18間の抵抗値と電流分割部52の抵抗値に応じて、電流分割部52に電流i3を迂回させる。電流分割部52を迂回した電流i3は再度抵抗体11に戻り、抵抗体11を流れた電流i2と合流して電流i1となる(図3(b))。
【0038】
抵抗体11の共通部分は電流i1より低い電流i2のため、図3(c)の実線71で示すように、抵抗体11の温度が平均温度よりも高い(つまり、駆動部51のみによる通電の場合の抵抗体11の最大温度が、駆動部51に加えて電流分割部52を設けて通電する場合の抵抗体11の最大温度よりも高い)部分の発熱量を低下することにより、抵抗体全体の温度を平均化することができる。
【0039】
上記のように、抵抗体11の両端に接続する電極15及び16と抵抗体の中間に接続する中間電極17及び18を配置し、駆動部51による抵抗体の両端の電極間に通電するタイミング61と連動して、中間電極17及び18から電流分割部52へ電流を迂回することにより、中間電極間に抵抗パターンの中央部分を配置し温度上昇を抑えることができるため、抵抗体の温度分布が安定した発熱装置とすることができる。
【0040】
本発明の上述の各実施形態の発熱装置は、気体の熱伝導率を利用したガスセンサ、流体の流速と熱伝導の関係を利用したサーマルフローセンサ、気体密度と熱伝導の関係を利用した気体圧力センサ、加速度と熱移動の関係を利用した加速度センサなどに関する技術に応用することができる。
【0041】
また、本発明の上述の各実施形態の発熱装置は、化学合成を行うコンビナトリアルマイクロデバイスや、バイオ、医療分野におけるマイクロチップにおいて、DNA等に熱サイクルを与えるPCR操作のために組み込まれたマイクロヒータ、タンパク質と反応させるマイクロリアクターに組み込まれたマイクロヒータなどに関する技術にも応用することができる。
【0042】
なお、上述する各実施の形態は、本発明の好適な実施の形態であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更実施が可能である。
【符号の説明】
【0043】
1、50 発熱装置
11 抵抗体
12 主駆動部
13 副駆動部
14 検出部
15、16 電極
17、18 中間電極
41 絶縁膜
42 空洞
43 基板
51 駆動部
52 電流分割部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0044】
【特許文献1】特許第3461469号公報
【特許文献2】特許第4253976号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に設けた空洞上に形成した発熱体の全体に通電する主通電手段と、
少なくとも1つ以上の前記発熱体の一部の範囲に通電する副通電手段を有する発熱装置であって、
前記主通電手段と前記副通電手段は連動して間欠動作し、さらに前記発熱体の共通部分の発熱量を低下させることを特徴とする発熱装置。
【請求項2】
前記共通部分では、前記主通電手段によって前記発熱体に通電する電流方向と、前記副通電手段によって前記発熱体に通電する電流方向とが、逆方向であることを特徴とする請求項1に記載の発熱装置。
【請求項3】
前記共通部分では、前記副通電手段によって前記発熱体に通電する電流値を分割することを特徴とする請求項1に記載の発熱装置。
【請求項4】
前記共通部分では、前記発熱体の発熱温度分布において前記主通電手段のみによる通電の場合の発熱温度分布の最大温度が、前記主通電手段と前記副通電手段とによる通電の場合の発熱温度分布の最大温度よりも高いことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の発熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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