説明

発色性の優れた極細糸からなる嵩高繊維の製造方法

【課題】後加工の量産性に優れ、布帛物の表面が超極細繊維からなる布帛物であり、該布帛物の表面が嵩高性および風合いのふくらみ感に優れ、かつ黒染色物の発色性、深色性が極めて優れた布帛を提供する。
【解決手段】水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールと他の熱可塑性重合体からなる多成分系繊維から該ポリビニルアルコールを溶媒により溶解除去するに先立って、溶媒として、該ポリビニルアルコールを凝固させる能力を有する無機塩と該ポリビニルアルコールの収縮を促進させる能力を有する化合物を溶解している水溶液を用いて該多成分系繊維を収縮させ、その後に、該多成分系繊維から該ポリビニルアルコールを除去することを特徴とする極細嵩高繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嵩高性および発色性等に優れた極細糸からなる嵩高繊維あるいは同繊維からなる布帛の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から熱可塑性ポリエステル系の極細繊維を得る技術として、直接紡糸法による方法や、非相溶性の2成分からなる海島型複合繊維から、海成分を溶解除去する方法、非相溶性の2成分からなる分割型複合繊維を分割させて極細化させる製造方法等が提案されている。
【0003】
しかしながら上記の製造方法の場合、単に極細化するのみであり、嵩高感を賦与することは、非常に困難である。また該製造法で得られる極細繊維のうち、特に0.1デシテックス以下の極細繊維の場合には、満足な発色性、深色性とはならない。さらに、これら極細繊維に対しては、実撚と仮撚を施し難く、布帛にした場合に表面の凹凸感が生じ難く、そして仮撚加工の場合には、仮撚独特の捲縮賦与することが不可能であり、これらの方法によって商品化の価値を高めることが困難であるのが実状である。
【0004】
また、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールと他の熱可塑性重合体からなる複合繊維を布帛にしたのち、該ポリビニルアルコールを水により溶解除去する際に、該複合繊維に収縮を生じさせることにより緻密な布帛が得られることは公知である(例えば特開2005−154925号公報)。しかしながら、ポリビニルアルコールを溶解除去する際に収縮率をコントロールすることは一般に難しく、例えば収縮が十分発現する前にポリビニルアルコールが溶解してしまったりして、所期の収縮を達成することは困難である。
【0005】
【特許文献1】特開2005−154925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の従来の欠点を解決し、極細糸からなる嵩高繊維の生産、後加工の量産性および発色性に優れ、特に実撚織物の場合、該織物に内在している糸間の拘束力に打ち勝つ力、即ち解撚力を与えて商品化の価値を高める製造方法を提供すること、さらに収縮が十分に発現し、所期のふくらみ感を有する極細繊維布帛を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールと他の熱可塑性重合体からなる多成分系繊維から該ポリビニルアルコールを溶媒により溶解除去するに先立って、溶媒として、下記式(1)を満足する無機塩と該ポリビニルアルコールの収縮を促進させる能力を有する化合物を溶解している水溶液を用いて該多成分系繊維を収縮させ、その後に、該多成分系繊維から該ポリビニルアルコールを除去することを特徴とする極細嵩高繊維の製造方法である。
1/N≧0.5・・・・(1)
(式中のNは、無機塩水溶液10ccに水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールの2重量%水溶液を2滴滴下し、直ちに振盪して白色沈殿を生ずる最低無機塩濃度のグラム等量)
【0008】
さらに、本発明方法において好適な場合として、上記無機塩が硫酸ナトリウムもしくは硫酸アンモニウムである場合、あるいは硫酸アンモニウムと硫酸ナトリウムの混合物である場合が挙げられ、また、上記の収縮を促進させる化合物が、ポリオキシアルキレン構造を有するモノエーテル型の化合物群から選択される1種以上の化合物である場合、より好適な場合として、上記のポリオキシアルキレン構造を有するモノエーテル型の化合物が、ポリオキシエチレン鎖あるいはポリオキシプロピレン連鎖、またはこれらの両方を有し、片末端近くにエーテル結合を有する化合物である場合、更により好適な場合として、ポリオキシアルキレン構造を有するモノエーテル型の化合物が、下記式(2)又は下記式(3)で示される化合物である場合が挙げられる。
O−(CHCHO)−(CHCH(CH)O)―H・・・・(2)
(式中のRは炭素原子数が5以下のアルキル基を示し、nは10〜60の整数、mは10〜35の整数を示す)
−O(CHCHO)−H (3)
(式中のRは炭素数が25以下のアルキル基、同アルキル基をもつアリルを示し、pは5〜18の整数を示す。)
【0009】
さらに、本発明方法において好適な場合として、上記多成分系繊維から該ポリビニルアルコールを溶媒により溶解除去する処理を、溶媒の昇温速度を2℃/分以下にした昇温条件下で実施する場合や、上記の繊維を布帛の状態にして上記製造方法を実施する場合、製造方法に用いられる繊維が側糸として用いられている構造加工糸である場合、あるいは上記製造方法に用いられている繊維が芯糸として用いられている構造加工糸である場合、上記製造方法に用いられる繊維が多層構造の内層部として用いられる編物である場合等が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明方法に用いられる多成分系繊維を構成する水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(以下、単にPVAと略すことがある)は、エチレン単位を5〜15モル%含有している共重合PVAであることが、溶解時の収縮挙動の点で好ましい。多成分系繊維の製糸性、水に対する溶解安定性からは8〜12モル%のエチレン単位を含有している場合がより望ましい。
また、PVAのけん化度は90〜99.99%が好ましく、92〜99.98%がより好ましく、93〜99.97%がさらに好ましく、94〜99.96%が特に好ましい。けん化度が90%未満の場合には、PVAの熱安定性が悪く熱分解やゲル化によって満足な溶融紡糸を行うことが出来ない場合がある。一方、けん化度99.99%よりも大きいPVAは、通常、安定に製造することができず、繊維化も安定にできない。また、PVAの重合度としては、250〜1000の範囲が溶融紡糸性および水溶性の点で好ましい。より好ましくは、300〜800の範囲である。
【0011】
本発明に使用される多成分系繊維は、上記のPVA成分が繊維長さ方向に連続しており、かつ繊維の全表面もしくは表面の一部に露出するように配置されていることが重要である。本発明で用いる多成分系繊維の好適な断面形態として、該PVA成分を海成分とし、他の熱可塑性重合体成分を島成分とした海島断面構造であり、その海島断面構造の断面形態からみた島成分の分布は均一およびランダムな不均一である場合が含まれる。海島断面構造以外に、同心一芯芯鞘状、偏心一芯芯鞘状、バイメタル状に接合された構造もしくは多層積層構造、ランダム複合構造などが挙げられる。操業安定性および本発明の効果をより発揮するためには、海島断面構造体の断面形態からみた島成分の分布が、海成分中に均一に複数の島として存在している場合が好ましい。繊維断面中の島成分の本数としては、5〜100本が好ましく、より好ましくは10〜80本である。
【0012】
多成分系繊維中に占める上記PVA成分の比率としては、10〜90重量%の範囲が好ましく、より好ましくは15〜60重量%の範囲、さらに好ましくは20〜50重量%の範囲である。また多成分系繊維の太さとしては、0.5〜10デシテックスの範囲が好ましく、より好ましくは1.0〜5デシテックスの範囲である。
【0013】
上記の海島断面構造体から得られる多成分系繊維から本発明の方法によって得られる極細繊維の単繊維の繊度の好適な範囲は、0.001デシテックス以上、0.5デシテックス以下であって、この場合の該デシテックスの調節は、上記の好適な海島断面構造からなる多成分系繊維に於ける該PVA成分の島数、複合比率、多成分系繊維の単繊維の繊度等より決められる。該極細繊維の単繊維の繊度が0.001デシテックスより小さいと、紡糸の操業安定性が低く、また嵩高感を有する繊維が得にくい。そして該繊度が0.5デシテックスより大きいと、極細繊維本来の柔軟性、可とう性を有さず、そして布帛にした場合にピーチスキン調およびパウダータッチ調等の手触り感が得られないので好ましくない。
【0014】
本発明で使用する多成分系繊維を構成する他の熱可塑性重合体は特に制限されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、第3成分を共重合したエチレンテレフタレート系のポリマーが挙げられる。そして、その第3成分としては、イソフタル酸、5―スルホイソフタル酸ナトリウム、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。更に、他の熱可塑性重合体の例として、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ(α・ヒドロキシ酸)等のポリエステル、これらポリエステルを主成分とする共重合ポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6−12等のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタアクリレート等も例示することができる。これらの熱可塑性重合体の中でも、衣料用として用いられるポリエステル、ポリアミド等が好適であり、なかでもポリエチレンテレフタレート、あるいはこれに第3成分を共重合したポリエステルがもっとも好適な例として挙げられる。
【0015】
本発明の布帛とは、長繊維糸条や紡績糸などの糸条物から得られる織物、編物、不織布等を指す。なお、このような布帛の中で、軽量性、保温性等を考慮すると、特にタフタ、デシン、ジョーゼット、ちりめん、ツイルなどの織物、インターロック、トリコット等の編物が好ましい。そして、更には、上記多成分系繊維を用いた織編物や不織布等の布帛にポリウレタン等の弾性重合体を含浸させた複合体等の皮革調布帛に対しても適用可能である。布帛中には、上記多成分系繊維が10重量%以上含まれているのが、収縮性が得られる点で好ましい。また布帛の目付としては、100〜500g/mの範囲が好ましい。
【0016】
また、糸条物が紡績糸である場合には、綿、羊毛、絹、等の天然繊維との混紡糸とすることができ、この混紡糸を用いた織物、編物をも含む。また、長繊維糸条(マルチフィラメント糸条)において、熱処理差の違いによる伸度差のある2種類の長繊維を組み合わせる場合には、その一方の繊維として、本発明に用いられる多成分系繊維を充当し、異なる該2種の糸を引きそろえて仮撚加工を施し、該糸加工の作用により異なる糸条間の糸長差が好適な範囲の10%以上とするように構造加工糸とすることが可能であり、例えば該加工糸において、該加工糸とする前の熱処理の違いによって、側糸あるいは芯糸として使用することが可能である。このような糸条物において、前記多成分系繊維が5〜50重量%含まれているのが2層構造の加工糸が得られやすい点で好ましい。
【0017】
また更には、本発明に用いられる多成分系繊維を多層構造編物の内層部(すなわち3層構造編物の場合には中間層)として充当することも可能である。該編物の機能上の目的の特徴として、見掛けボリウムが大きいにも関わらず、低軽量であること、および内層部のミクロ空隙部に由来する毛細管現象の超吸水の付与等が可能となる。
【0018】
本発明において、上記のような多成分系繊維あるいは、該繊維を含有する布帛を上記の式(1)を満足する無機塩と収縮促進性化合物との両者を含む水溶液で処理することが重要であり、両者の相乗作用によって該PVA成分の膨潤、収縮力を非常に大きく高める作用を発現し、その後にPVA成分を溶解除去することが重要である。
【0019】
上記のような該PVA成分の高度な膨潤、収縮力によって、布帛、特に織物中に内在している織物、交差点に由来する糸間の拘束力に打ち勝つこと、および実撚に対する大きな解撚力を発現させること等が可能となり、Z撚数600T/mの実撚を施した平織物表面には、他の熱可塑性重合体成分からなる繊維が実撚から解撚状態に発現し、繊維が不規則な形態のループやカール状に形成して存在しているため、布帛物に大きな嵩高性を付与することができるものである。
【0020】
本発明においては、前記したように、水溶液で処理する際に、下記の式で示される範囲の沈殿凝析力を有する無機塩と収縮促進性化合物とを併用して水溶液に含有させておくことが重要である。
沈澱凝析力=1/N≧0.5
(上記の式中のNは無機塩水溶液10ccに水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールの2%水溶液を2滴滴下し直ちに振とうして白色沈殿を生ずる最低無機塩濃度のグラム当量)
【0021】
上記の沈澱凝析力の範囲を有する無機塩の具体例として、硫酸ナトリウム(N=0.83)および硫酸アンモニウム(N=1.1)が挙げられる。特に、前者の硫酸ナトリウムの場合には、水に対する溶解度が低いために処理浴の調整に長く時間を要するため、高溶解度の点で硫酸アンモニウムが特に優れている。更には該無機塩による大きい効果の発現には、該無機塩を混合状態で用いること、すなわち硫酸ナトリウムと硫酸アンモニウムを併用することが特に好ましく、該無機塩単独で用いる場合よりも無機塩のそれぞれの使用濃度を少なくすることが可能である。
【0022】
かかる無機塩および化合物などの選択の目安は、例えば、多成分系繊維の一成分であるPVAを単独で繊維化し、該繊維に対して水溶液処理をした場合に、以下に示す収縮増加率の差Cが4%以上になるように、無機塩および収縮促進性化合物など両者を含む水溶液への該物質のそれぞれの添加量や、処理温度条件などを設定することが好ましい。なお、収縮増加率の差とは、後述する方法により求められる値である。
使用する無機塩が、上記式を満足しない場合には、使用する無機塩が上記式を満足できず、後述の収縮増加率の差Cが4%より少なくなり、本発明の目的を達成しにくい。
【0023】
上記のようにして求めた収縮増加率の差Cが4%より少ないと、膨潤、収縮が弱くなり、繊維の発色・深色性が不足するため本発明の目的が達成されにくい。そして、このようにして設定した条件で、具体的に布帛物を処理するにあたり、布帛の面積収縮率が20%以上90%以下になるようにしてPVAを溶解除去することが好ましい。
【0024】
面積収縮率が20%より少ないと、布帛において、例えば織物の場合に、経糸と緯糸との交差点に由来する糸間の拘束力に打ち勝つことが不可能であり、および実撚に対する解撚力が弱くなり、実撚を施した大きな嵩高性を付与することが出来ない。一方、面積収縮率が90%を超えると、粗硬な布帛となるので好ましくない。
【0025】
本発明で使用する収縮促進性化合物としては、例えば、ポリオキシアルキレン誘導体を構成成分とするモノエーテル型の化合物郡から選択される1種以上の化合物を使用することができ、具体的には、ポリオキシアルキレン構造を有するモノエーテル型の化合物が、ポリオキシエチレン鎖あるいはポリオキシプロピレン連鎖、またはこれらの両方を有し、片末端近くにエーテル結合を有する化合物が挙げられる。この化合物以外に、ポリエチレングリコールの片末端水酸基をアルコールにより置換した化合物等も好適例としてが挙げられる。より具体的には、下記式(1)や下記式(2)で示される化合物を使用することが好ましい。
【0026】
O(CHCHO)−(CHCH(CH)O)−H (1)
(式中のRは炭素数が5以下のアルキル基を示し、nは10〜60の整数、mは10〜35の整数を示す。)
−O(CHCHO)−H (2)
(式中のRは炭素数が25以下のアルキル基、同アルキル基をもつアリルを示し、pは5〜18の整数を示す。)
【0027】
具体的な化学式(1)の化合物としては、例えば、ポリオキシエチレン(n=20)ポリオキシプロピレン(m=28)ブチルエーテル、ポリオキシエチレン(n=45)ポリオキシプロピレン(m=33)ブチルエーテル等が挙げられる。
また、化学式(2)の化合物としては、例えば、ポリオキシエチレンオクチルエーテル(p=4、7)、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(p=4、7)、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(p=6、10)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(p=10)等が挙げられる。
【0028】
上記の無機塩の水溶液中での濃度は、溶液濃度で表示すると2g/l以上、50g/l以下であることが好ましいが、該無機塩等を含む処理液を調製する際の操業時の作業性および本発明の目的を達成する効果等の点より、低濃度範囲の5g/l以上、20g/l以下が最も好ましい。より好ましくは、前記したように硫酸ナトリウムと硫酸アンモニウムを併用する場合で、それぞれの無機塩の濃度を10g/l以下となるように低濃度の混合状態で使用することが好ましい。
【0029】
また、上記収縮性化合物の添加量としては、1〜10g/lの濃度範囲が膨潤、収縮性の点で好ましく、より好ましくは2〜4g/lの範囲である。
水溶液処理は、水溶性熱可塑性PVAの水溶解温度未満で行われ、特に水溶解温度より10℃〜30℃低い温度範囲で行うことが好ましい。水溶液処理の際の昇温速度は遅い方が好ましく、具体的には2℃以下/分であることが好ましい。充分にPVA成分を膨潤収縮せしめるためには、0.5℃〜1.0℃/分の昇温速度が好ましい。
本発明においては、膨潤、収縮させた後にPVAの水溶解温度以上に加温しPVAを溶解除去させるが、この場合、単に溶解させるのではなく、PVAの膨潤性を維持させながら該収縮性能を最大現に発揮せしめる意味から昇温速度は遅い方が好ましく、とくに1℃以下/分であることが好ましい。
【実施例】
【0030】
以下に、実施例等により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって何ら限定されるものではない。なお、実施例中における各物性値は以下の方法によって測定した。
【0031】
[収縮増加率の差]
多成分系繊維の成分として用いる変性ポリビニルアルコールからなる単独マルチフィラメントを準備し、該フィラメントについて下記のようにして求めた。
収縮増加率の差C(%)=B−A
C:収縮性化合物のみを含む場合の収縮増加率と、収縮性化合物と本発明の規定する無機塩の両者を含む場合の収縮増加率との差を示す。
B:荷重2mg/dtex下で収縮性化合物と本発明規定の無機塩の両者を含む場合の収縮増加率
A:荷重2mg/dtex下で収縮性化合物のみを含む場合の収縮増加率
A=Y−X/X×100(%)
B=Z−X/X×100(%)
X:荷重2mg/dtex下で水のみで50℃(20℃より50℃まで昇温速度1℃/分)処理した後の収縮率(%)
Y:荷重2mg/dtex下で収縮促進性化合物を含有する水溶液(処理濃度5g/l)を用いて50℃で処理した後の収縮率(%)
Z:荷重2mg/dtex下で収縮促進性化合物(処理濃度5g/l)および本発明規定の無機塩(処理濃度0.8グラム当量/l)などを含有する水溶液を用いて50℃で処理した後の収縮率(%)
【0032】
[面積収縮率]
面積収縮率(%)={1−(1−L)}×(1−Y)}×100
(上記、式中のLは処理後の幅方向の収縮率を示す。Yは処理後の長さ方向の収縮率を示す。)
【0033】
[発色性・深色性]
黒染色物をC−2000形 日立カラーアナライザーにて測色しJIS Z8719に準拠して次式によりL値を求めた。
=116(Y/Y1/3―16
ここで、Y:完全拡散反射面の標準の光によるYの値。Y:黒染色物の三刺激値。
値が小さいほど発色性・深色性が大きいことを示す。
【0034】
[布帛の厚みの増加率]
下記の方法により染色物について厚み変化を調べた。
JIS L−1079−76に準拠して厚みの測定を行い、次式により厚みの増加率を求めた。
T=F−F/F
(Tは厚み増加率、Fは布帛物の染色前の厚さ、Fは同布帛物の処理後の厚さ)
【0035】
[風合い・ふくらみ]
10人のパネラーによる官能試験を行い、ふくらみ感に優れていると感じたパネラーの人数で下記のように判断した。ここで用いた布帛は、平織である。
◎:9人以上がふくらみ感に優れていると判断
○:7〜8人がふくらみ感に優れていると判断
△:5〜6人がふくらみ感に優れていると判断
×:4人以下がふくらみ感に優れていると判断
【0036】
実施例1〜2および比較例1〜2
島成分ポリマーとして、イソフタル酸を10モル%共重合したポリエチレンテレフタレートを用い、海成分ポリマーとして、エチレン単位8.3%を含有し、けん化度98.6%、重合度380のエチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、単にPVAと略す)を用い、それぞれのペレットを2軸押出機により、海島構造(島成分と海成分の複合重量比=70/30)で、島数が36である円形紡糸ノズルより溶融吐出し、紡糸口金の下方1.2mの位置に設置した長さ1.0m、入口径8mm、内径30mmφのチューブヒーター(内壁温度200℃)に導入し、チューブヒーターから出て来た糸条にカラス口オイリング(ギアポンプ給油方式)で付与し、2個の引き取りローラーを介して3800m/分の引取速度で巻き取り、114dtex/48fのマルチフィラメントを得た。紡糸性に問題なく、得られたマルチフィラメントを使って、経糸のSZ撚1200T/m、緯糸のSZ撚1200T/mの構成で平織とした。
【0037】
ついでこの平織物を、表1に示すように、各種無機塩を10g/lの濃度で、さらに収縮促進性化合物(ポリオキシエチレンオクチルエーテル:p=7)を3g/lの濃度で含有する水溶液を用いて、表1に示す昇温速度で開始温度30℃より100℃まで昇温し、40分間の処理を行った。次いで90℃、20分間の湯洗いを行った。
そして各処理物についてプレセット170℃1分間の乾熱処理を行い、黒染色、そして還元洗浄を行った。これらの170℃、1分間の乾熱プレセット品などの性能を表1に示す(実施例1および2)。
【0038】
比較例として、収縮促進性化合物のみを濃度3g/lで含有する水溶液(比較例1)、該収縮促進性化合物と本発明規定の範囲外の沈殿凝析力を有する無機塩(硝酸ナトリウム)を10g/lの濃度で含有する水溶液(比較例2)を使用する以外は実施例1と同様の方法により、上記布帛を処理した。
以上の実施例および比較例により得られた布帛の収縮率、発色性、布帛の厚み増加率、風合い(ふくらみ)等を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
実施例3
実施例1で用いた織物について表2に示すように本発明で規定する沈澱凝析力を有する硫酸アンモニウム5g/lと硫酸ナトリウム5g/lとを併用し、実施例1に使用した収縮促進性化合物と同一の化合物を濃度3g/lの濃度で含有する溶液中にて、開始温度30℃より表2に記載した加温昇温速度で昇温し、そして100℃にて40分間の処理を行った。次いで90℃、20分間の湯洗いを行った。そして各処理物についてプレセット170℃1分間の乾熱処理を行い、黒染色そして還元洗浄を行った。この170℃、1分間の乾熱プレセット品の性能を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
実施例4、比較例3
実施例1で用いた織物について、表3に示すように、ポリオキシアルキレン構造を有するモノエーテル型の化合物と沈殿凝析力を有する硫酸アンモニウム5g/lとを混合した状態にての溶液中にて開始温度30℃よりの加温昇温速度1℃/分で昇温し、そして100℃で40分間の処理を行った。次いで90℃、20分間の湯洗いを行った。そして各処理物について、プレセット170℃1分間の乾熱処理を行い、黒染色そして還元洗浄を行った。これらの170℃、1分間の乾熱プレセット品等の性能を表3に示す。
【0043】
また、この実施例において、硫酸アンモニウムを使用しない以外は同一の方法により収縮処理を行い、さらに上記実施例と同様に黒染色そして還元洗浄を行った。得られた織物の性能評価結果を表3に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
実施例5および比較例4
島成分ポリマーとしてイソフタル酸を4モル%共重合したポリエチレンテレフタレート(PET)を用い、海成分ポリマーとしてエチレン単位を8.3モル%含有し、けん化度98.6%のエチレン−ビニルアルコール共重合体を用い、それぞれのペレットを2軸押出機により、海島構造(島成分と海成分の複合比率=60/40)で、島数が36である円形紡糸ノズルより溶融吐出し、紡糸口金の下方1.2mの位置に設置した長さ1.0m、入口径8mm、内径30mmφのチューブヒーター(内壁温度200℃)に導入しチューブヒーターから出て来た糸条にカラス口オイリング(ギアポンプ給油方式)で付与し、2個の引き取りローラーを介して3000/分の引き取り速度で巻取り、110dtex/48fのマルチフィラメントを得た.紡糸性に問題なく、48時間、運転するも毛羽および断糸はなかった。
【0046】
この糸を側糸用として用い、芯糸用としてポリエチレンテレフタレートの延伸糸[120℃低温熱処理糸、75dtex/15f]を用い、この側糸と芯糸を引き揃えて仮撚加工を施し、仮撚方向SおよびZの仮撚糸を得た。このとき、オーバーフィード率は0.3%で、ヒーター温度は165℃、3軸外接型仮撚装置を用いた。
この仮撚糸を丸編み地にし実施3の場合と同様の処理を行ったところ、表面外観が超嵩高感の、風合いにハリ、コシの有る高級感のあるものとなった。該編み地の解舒糸の糸長差は15%であり、非常に大きな値を示した。また光学顕微鏡による観察では構造糸、独特の糸条形態を認めた。
【0047】
比較例4として、島成分ポリマーとしてイソフタル4モル%共重合PETを用い、海成分ポリマーとして5−スルホイソフタル酸5モル%を用い、上記実施例5と同様の複合比率、島数にて同じようにして紡糸を行い、112dtex/48fのマルチフィラメントを得た。このマルチフィラメントを使って、側糸として実施例5と同様にして引き揃え仮撚糸にし、そしてこの仮撚糸から丸編地を作成した。この丸編地について、4%の水酸化ナトリュウムの水溶液中で、100℃処理を行い、海成分を除去した。処理した丸編地に穴あき見られ、ポリエステルに強力劣化が見られ、商品価値の低いものとなった。さらに、上記実施例のものと比べると、ふくらみ感においても、はるかに劣るものであった。
【0048】
実施例6および比較例5
島成分ポリマーとして、イソフタル酸を5モル%共重合したポリエチレンテレフタレートを用い、海成分ポリマーとして、エチレン単位を8.3モル%含有し、けん化度98.6%のエチレン−ビニルアルコール共重合体を用い、それぞれのペレットを二軸押出機により、海島構造(島成分と海成分の複合比率=60/40)で、島数が36である円形紡糸ノズルより溶融吐出し、紡糸口金の下方1.2mの位置に設置した長さ1.0m、入り口径8mm、内径30mmφのチューブヒーター(内壁温度200℃)に導入しチューブヒーターから出て来た糸条にカラス口オイリング(ギアポンプ給油方式)で付与し、2個の引き取りローラーを介して3800m/分の引き取り速度で巻き取り、110dtex/48fのマルチフィラメントを得た。紡糸性に問題なかった。得られたマルチフィラメントを使って、75dtex/24fのポリエチレンテレフタレート(以下PETと略す)の延伸糸に通常の方法でカバリングした。このカバリング糸を用いてダブルニットの内層部に配置するように、そして、その両外層部にカバリングをしていないPETを配したダブルニットとした。
このニットを実施例3の場合と同じ条件にて処理を行った。得られたダブルニット地の吸水長は100mmであり、極めて優れた吸水性を示す。このことから、このような内層部が極めて吸水性が高い編物をスポーツウエアーに使用すると極めて優れた吸汗性を示し、しかも肌と接する部分が汗を保持していないことから、スポート衣料として極めて優れていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールと他の熱可塑性重合体からなる多成分系繊維から該ポリビニルアルコールを溶媒により溶解除去するに先立って、溶媒として、下記式(1)を満足する無機塩と該ポリビニルアルコールの収縮を促進させる能力を有する化合物を溶解している水溶液を用いて該多成分系繊維を収縮させ、その後に、該多成分系繊維から該ポリビニルアルコールを除去することを特徴とする極細嵩高繊維の製造方法。
1/N≧0.5・・・・(1)
(式中のNは、無機塩水溶液10ccに水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールの2重量%水溶液を2滴滴下し、直ちに振盪して白色沈殿を生ずる最低無機塩濃度のグラム等量)
【請求項2】
無機塩が硫酸ナトリウムである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
無機塩が硫酸アンモニウムである請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
無機塩が、硫酸アンモニウムと硫酸ナトリウムの混合物である請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
収縮を促進させる化合物が、ポリオキシアルキレン構造を有するモノエーテル型の化合物群から選択される1種以上の化合物である請求項1記載の製造方法。
【請求項6】
ポリオキシアルキレン構造を有するモノエーテル型の化合物が、ポリオキシエチレン鎖あるいはポリオキシプロピレン連鎖、またはこれらの両方を有し、片末端近くにエーテル結合を有する化合物である請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
ポリオキシアルキレン構造を有するモノエーテル型の化合物が、下記式(2)で示される化合物あるいは下記式(3)で示されている化合物である請求項5記載の製造方法。
O−(CHCHO)−(CHCH(CH)O)―H (2)
(式中のR1は炭素原子数が5以下のアルキル基を示し、nは10〜60の整数、mは10〜35の整数を示す)
−O(CHCHO)−H (3)
(式中のRは炭素数が25以下のアルキル基、同アルキル基をもつアリルを示し、pは5〜18の整数を示す。)
【請求項8】
多成分系繊維から該ポリビニルアルコールを溶媒により溶解除去する処理を、溶媒の昇温速度を2℃/分以下にした昇温条件下で実施する請求項1記載の製造方法。
【請求項9】
繊維を布帛の状態にして実施する請求項1記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1記載の繊維が側糸として用いられている構造加工糸である請求項1記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1記載の繊維が、多層構造を有する編物の内層部として用いられている請求項1記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−77550(P2007−77550A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−269470(P2005−269470)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】