説明

発電用石炭ボイラーでの汚泥を含む廃棄物の利用方法

【課題】廃棄物、特に汚泥を主体とする廃棄物を、発電用石炭ボイラーにおいて大量かつ効率良く燃料として用い、同時に石炭ボイラーから発生する石炭灰の有効利用を促進し、更には石炭ボイラーから発生する有害な窒素酸化物を削減することが可能な廃棄物利用方法を提供する。
【解決手段】噴流床型ガス化炉で、汚泥を含む廃棄物を、酸素または酸素富化空気により部分酸化させて可燃性ガスとスラグへ転換し、石炭ボイラーで、石炭および前記可燃性ガスを空気により燃焼し、生じる石炭灰を含む排ガスから当該石炭灰を分離し、前記分離後の石炭灰を前記噴流床型ガス化炉へ投入して、前記石炭灰をスラグへと転換すると共に、前記石炭灰中に残留する未燃の固体炭素分を部分酸化させて可燃性ガスへと転換することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水や産業排水の生物学的処理により発生する活性汚泥を、発電用石炭ボイラーにおける燃料として有効利用する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
排水、特に下水を生物学的処理によって浄化する際に発生する余剰の活性汚泥(以下汚泥と略す)、木材(間伐材、建設廃材、製材残材等)を代表格とする木質系バイオマスは、化石燃料を代替するクリーンかつ再生利用可能な炭素質資源としてその有効利用が期待されている。しかし、汚泥やバイオマスは通常の状態における水分含有量が多く、かつ石炭と同様の固体ベースの燃料であるためハンドリング性が悪く、また、酸素含有量が多いという特性上、同じ重量当りの化石燃料と比較して発熱量が低い等、使用し難いエネルギー資源であることもまた事実であり、廃棄物の一種としての扱われているのが現状である。
【0003】
汚泥や木質バイオマスを、手軽にかつ低コストに有効利用する手段としては、主として発電用用途で用いられる石炭ボイラーの燃料として使用する直接燃料利用が一般的であり、既にいくつか実用化例も報告されている。しかし、これら廃棄物系原料と石炭との間には、基本性状(組成、灰融点等)、燃焼性、ハンドリング性等、様々な差異が存在するため、石炭に混合してボイラーで燃焼させることのできる割合には限界があった。
【0004】
また、特に汚泥中には石炭あるいは木質バイオマスと比較して窒素含有量が多く、そのまま石炭ボイラーで燃焼させた場合には、燃焼に付随して発生する有害な窒素酸化物発生量が増加してしまうという問題もあった。
【0005】
その様な石炭ボイラーにおいて汚泥や木質系バイオマス等の廃棄物系燃料を利用する上での量的な制約を緩和する一つの方法として、例えば特許文献1には、廃棄物燃料に含有される塩素系化合物等有害物質による石炭ボイラーへの負荷を低減するため、廃棄物燃料をガス化して可燃性ガスへと転換し、その可燃性ガス中に含有される塩素系化合物等の有害物質を除去した後に、石炭ボイラーの燃料として用いる廃棄物の利用方法が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開平9−241666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1においては、そのままではハンドリング性の問題から発電用の石炭ボイラーへ投入することができないゴミを主体とする廃棄物をガス化して可燃性ガスへと転換し、可燃性ガス中に含有される腐食性の塩素化合物や重金属成分をベンチュリースクラバーによる水洗浄を行うことによって浄化した後に、石炭ボイラーへ燃料として供給するものと述べられている。しかし、この方法においては、廃棄物を高温でガス化して生成した可燃性ガスの持つ顕熱を全く利用していないことになり、廃棄物の持つエネルギーを最大限有効かつ効率良く利用するという目的には反するものであった。
【0008】
一方、現在、石炭ボイラーから日々大量に発生する石炭灰(フライアッシュ)は、セメント原料(粘土代替の混和材)、コンクリート原料、土壌改良剤としての有効利用が行われているものの、依然として有効利用されずに埋め立てられてしまう場合も多く、これまで以上に幅広い有効利用方法の開発が望まれている。また、仮に、石炭灰をやむを得ず最終的に埋め立ててしまう場合であっても、石炭灰中に微量に含有される有害金属物質(例えば、As、Pb、Cr等)の長期的スパンにおける溶出のおそれもあることから、これら環境への配慮も今後益々重要となることは必至である。
【0009】
それら石炭灰を有効利用するための種々の課題を解決する手段として、石炭灰をその融点以上の温度で溶融させスラグ化することは極めて有効である。例えば、スラグとすることによって、建設材料(路盤材)としての条件(粒度、強度等)を満たすため、その用途が拡大する。また、スラグ状態であれば、いかなる方法であっても石炭灰を有効利用する際に問題となる含有される重金属類の溶出を抑制することが可能となる。更には、やむを得ず埋め立てを行う場合であっても、スラグとすることによって石炭灰の場合よりも嵩密度が格段に大きくなるため、埋め立て地への運搬および埋め立て地の延命対策のためには有意義である。
【0010】
しかし、石炭灰を電気炉、アーク炉等の炉によって溶融し、スラグとすることは勿論可能であるが、その効果に対するコスト(設備コスト、操業コスト)を比較した場合、現状では石炭灰をスラグ化することは経済的に厳しいのが現実であった。
【0011】
また、石炭灰中には、ボイラー内において燃焼しきらなかった未燃炭素分が少なくとも1質量%以上、平均すると5〜10質量%程度は含有されていることが知られている。石炭灰を埋め立て処理する場合、これらの未燃炭素分は、当然のことながら基本的には何らエネルギー的に利用されることなく廃棄されるということになってしまう。また、石炭灰中に含有されるカーボンは、現状、石炭灰の有効利用を行うにあたっても問題となっている。例えば、セメント原料として用いる場合にはセメントキルンにおける安定操業を阻害し、またコンクリートと混合して路盤材として用いる場合には、強度の低下を引き起こす原因となってしまう。従って、石炭灰中に含有される炭素自体を低減あるいは有効利用することができれば、エネルギー的観点からは勿論のこと、その後の石炭灰の有効利用を行う観点からも極めて好ましい。
【0012】
そこで、本発明の目的は、廃棄物、特に汚泥を主体とする廃棄物を、発電用石炭ボイラーにおいて大量かつ効率良く燃料として用い、同時に石炭ボイラーから発生する石炭灰の有効利用を促進し、更には石炭ボイラーから発生する有害な窒素酸化物を削減することが可能な廃棄物利用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明の要旨は次の通りである。
(1) 噴流床型ガス化炉で、汚泥を含む廃棄物を、酸素または酸素富化空気により部分酸化させて可燃性ガスとスラグへ転換し、石炭ボイラーで、石炭および前記可燃性ガスを空気により燃焼し、生じる石炭灰を含む排ガスから当該石炭灰を分離し、前記分離後の石炭灰を前記噴流床型ガス化炉へ投入して、前記石炭灰をスラグへと転換すると共に、前記石炭灰中に残留する未燃の固体炭素分を部分酸化させて可燃性ガスへと転換することを特徴とする、発電用石炭ボイラーでの汚泥を含む廃棄物の利用方法。
(2) 前記汚泥が、汚泥乾燥設備で乾燥された乾燥汚泥であることを特徴とする、(1)に記載の発電用石炭ボイラーでの汚泥を含む廃棄物の利用方法。
(3) 前記汚泥を含む廃棄物に、木質バイオマスを含むことを特徴とする、(1)又は(2)に記載の発電用石炭ボイラーでの汚泥を含む廃棄物の利用方法。
(4) 前記石炭ボイラーで生じた排ガス中に含有される窒素酸化物を、前記噴流床型ガス化炉で転換されて生じた前記可燃性ガス中に含有されるアンモニアと反応させることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の発電用石炭ボイラーでの汚泥を含む廃棄物の利用方法。
(5) 前記汚泥乾燥設備から排出されるアンモニアを含む排ガスを、前記噴流床型ガス化炉または前記石炭ボイラーに投入することを特徴とする、(2)〜(4)のいずれか1項に記載の発電用石炭ボイラーでの汚泥を含む廃棄物の利用方法。
(6) 前記汚泥を含む廃棄物中の灰分と、前記石炭灰中の灰分とを、前記噴流床型ガス化炉内にて混合することで、混合後の灰分の融点を、前記石炭灰中の灰分の融点よりも低下させることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の発電用石炭ボイラーでの汚泥を含む廃棄物の利用方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、廃棄物、特に汚泥を主体とする廃棄物を、発電用石炭ボイラーにおいて大量かつ効率良く燃料として用い、同時に石炭ボイラーから発生する石炭灰の有効利用を促進し、更には石炭ボイラーから発生する有害な窒素酸化物を削減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る廃棄物の利用方法のフローを示す説明図である。
【0017】
本実施形態では、汚泥と木質バイオマスを含む廃棄物を用いる例を示すが、汚泥単独でも本発明を実施することができる。
【0018】
以下に述べる噴流床型ガス化溶融炉(以下、「噴流床型ガス化炉」と称する。)とは、一般的には10mm以下にまで微粉化したガス化原料を窒素または空気等のガスによる気流搬送によって炉内へ投入し、ガス化原料と同時に炉内へ投入される酸素と瞬時に反応(ガス化反応、部分酸化反応、不完全燃焼反応)させることによって、ガス化原料を短時間(一般的には20sec以内)でガスへと転換し、同時にガス化原料中に含有される灰分を溶融させ、スラグ化する機能を併せ持つタイプのガス化炉であるものと定義される。
【0019】
ここで述べるところのスラグとは、汚泥中に含有される灰分がその融点以上の温度において溶融したものを意味する(再度冷却されて固化したものも含む)。また、灰分の融点とはJIS(M8801 灰の溶融性試験方法)において規定される溶流点温度を意味する。
【0020】
また、以下に述べるところの石炭ボイラーとは、石炭をエネルギー源として、その燃焼反応熱を利用して蒸気を発生させ、発生した蒸気の熱エネルギーを発電設備(スチームタービンおよび発電機)17を用いて電気エネルギーへと変換する蒸気原動機プラントにおいて、高温高圧の蒸気を発生する機器であるものと定義される。なお、ボイラーには、自然循環ボイラー、強制循環ボイラー、貫流ボイラー等、様々な形式なものが存在するが、近年の発電用大体積ボイラーとしては超臨界圧貫流ボイラーが採用される場合がほとんどである。
【0021】
下水処理場の生物学的処理施設から排出された汚泥(いわゆる脱水ケーキ)1の一部は、熱風乾燥機、伝導伝熱乾燥機等の汚泥乾燥設備2へ導入され、乾燥処理が施される。この際、乾燥処理後の乾燥汚泥中の水分をできる限り少なくすることが、後段のガス化溶融炉における熱効率を高めるためには望ましい。しかし、必要以上に汚泥の乾燥を進行させることは汚泥乾燥設備の規模増大、所要燃料の増加等へと繋がってしまうため、乾燥汚泥中の水分含有率は乾燥汚泥の微粉化が容易となる25質量%以下とすれば良い。
【0022】
汚泥乾燥設備2から排出された乾燥汚泥3および微粉(チップ)に加工された木質バイオマス4、更には石炭ボイラー16から発生した石炭灰23は、窒素または空気の気流搬送によって噴流床型のガス化溶融炉7へ投入される。ガス化溶融炉7内において、乾燥汚泥3および木質バイオマス4中の有機物および石炭灰23中に存在する炭素分を主体とした有機物(未燃物)は、酸素5あるいは酸素富化空気をガス化剤とした部分酸化反応(不完全燃焼)によって、1100〜1700℃の高温でガス化され、高温の可燃性ガス15(主成分はH、CO、CH、CO、HO)へと転換する。また同時に、乾燥汚泥3および木質バイオマス4中の灰分および石炭灰23中の灰分は溶融しスラグへと転換する。スラグの大半はガス化溶融炉7の底部より抜き出され製品スラグ11として回収されるが、その一部はガス化溶融炉7から排出された高温の可燃性ガス15中に飛散同伴するため、ガス化溶融炉7上部のガス冷却器8においてスプレー水あるいはクエンチガス12を吹き込んで1000℃以下にまで冷却し、飛散した溶融スラグを固化することによって灰付着トラブル(スラッギング)を防止することが望ましい。この際、必要以上にガス冷却を行うことは、ガス顕熱を後段の石炭ボイラー16において有効に利用することができなくなることは勿論のこと、ガス冷却器8のサイズアップにも繋がってしまうため好ましくない。従って、ガス冷却器8出口でのガス温度は、800〜1000℃とすることが望ましい。
【0023】
ガス化溶融炉7から排出された高温の可燃性ガス15は石炭ボイラー16へと投入され、燃料の石炭18と共に、空気19により燃焼されて、ボイラー燃料として有効利用される。廃棄物を固体の状態で直接燃料として石炭ボイラー16へ供給する場合と異なり、可燃性ガスへと転換して供給することにより、石炭ボイラー16内におけるこれら廃棄物由来燃料の燃焼性は、石炭自体が燃焼する速度よりも数段速くなるため、元来の石炭ボイラー16の持つ効率、操業性等を何ら阻害することなく、多量の廃棄物を石炭ボイラー16における燃料として利用することが可能となる。
【0024】
またこの際、ガス冷却器8から排出された可燃性ガス15を直ちに石炭ボイラー16へ投入することによって、可燃性ガス15の顕熱までも石炭ボイラー16におけるスチーム製造熱源(すなわち発電用熱源)として有効に利用することができる。勿論、このためには、可燃性ガス15中に石炭ボイラー16側へ何らかのダメージを与える可能性がある腐食性物質等が多量に含有されていてはならないため、塩素を含有する都市ゴミ、塩化ビニルを主体とした廃プラスチックのような廃棄物は本発明においては使用しないことが望ましい。
【0025】
石炭ボイラー16から排出された石炭灰を含む排ガス25は、脱硝設備20、空気予熱器21、脱塵設備22(電気集塵機)、脱硫設備24を経て浄化された後に、浄化後排ガス26として煙突から放散される。
【0026】
脱塵設備22において回収された石炭灰23の全量または一部はガス化溶融炉7内へと投入され、石炭灰23中に含まれる炭素を主体とした有機物が可燃性ガスへと転換されると共に、大半の成分である灰分はスラグ化される。
【0027】
ガス化溶融炉7内におけるガス化反応はいわゆる還元性雰囲気下における反応であるため、汚泥1や木質バイオマス4といった廃棄物中に含有される窒素分(特に汚泥中に多量に含有される窒素分)は、その多くがアンモニア(NH)へと転換する。また、汚泥1中には下水中に溶存した形態で含まれているアンモニウムイオン(NH4+)由来のアンモニアも元々含有されており、これらのアンモニアは乾燥やガス化に際してガスとして放出される。従って、汚泥1を汚泥乾燥設備2で乾燥させる際に発生する乾燥排ガス27および汚泥1を含む廃棄物をガス化した結果生成する可燃性ガス15中には相当量のアンモニアが含有される結果となる。
【0028】
汚泥乾燥設備2の方式によっても異なるが、乾燥排ガス27は乾燥工程で使用する熱風等の空気中に汚泥から発生した水蒸気、アンモニア、臭気成分(メチルメルカプタン等)が混合した成分となっている。通常、乾燥排ガスは含有されるアンモニアや臭気成分を除去するためのガス処理設備が必要となるが、本発明においては石炭ボイラー16における燃焼用空気の一部として使用することが適当である。なお、乾燥排ガス27中に含有される臭気成分は石炭ボイラー16中で燃焼分解される。
【0029】
石炭ボイラー16中へ乾燥排ガス27および可燃性ガスを構成する一部として吹き込まれたアンモニアは、以下の反応によって、石炭が石炭ボイラー16中で燃焼する際に発生する窒素酸化物(NO)と反応し、それらの無害化ならびに削減に寄与する。すなわち、本発明では、石炭ボイラーで生じた排ガス中に含有される窒素酸化物を、噴流床型ガス化炉で転換されて生じた可燃性ガス中に含有されるアンモニアと反応させることにより、窒素酸化物を削減することができる。
NO + NH + O → HO + N
【0030】
一般的に、石炭ボイラー16の後段には排ガス25中に含有される窒素酸化物を除去するための脱硝設備20が必要となるが、本発明おいては、アンモニアによる窒素酸化物の低減効果のため、脱硝設備の規模を削減(あるいは脱硝設備の稼働能力を低減)することが可能になる。
【0031】
各種灰分の融点の高低は、灰中の塩基性成分(Fe、CaO、MgO、KO、NaO)と酸性成分(SiO、Al、TiO)の含有量と関係のあることが知られている。すなわち、塩基性成分を増加させることによって融点は低下し、逆に酸性成分を増加させることによって融点は上昇するため、以下の式で定義される灰分中の塩基性成分と酸性成分の比(以下、「塩基度」と称する)を指標とすれば、融点の高低を表す相対的な目安となる。
塩基度=(Fe+CaO+MgO+KO+NaO)/(SiO+Al+TiO
※灰組成の単位は[質量%]
【0032】
石炭ボイラー16から発生する石炭灰23の組成や性状は、当然石炭の種類によっても異なるが、一般的に、石炭ボイラー16内における灰の付着トラブルを避けるために、通常ボイラー燃料用途に用いられる石炭18としては、比較的灰の融点が高い石炭(1300℃以上)が採用される傾向が強い。また、同様に、汚泥1および木質バイオマス4中に含有される灰分の組成や性状も多種多様であるが、石炭18中の灰分と比較すると塩基性成分の含有量が多く、融点が大幅に低い場合が一般的である。
【0033】
従って、ガス化溶融炉7内において吹き込まれた各原料(汚泥、木質バイオマス、石炭灰)中の灰分が混合してできる灰の融点は、その中の大部分を占める石炭灰23の灰融点と比べると大幅な融点降下が起きている。更に加えて、ガス化溶融炉7内は還元性の可燃性ガスの充満したいわゆる還元性雰囲気条件となるが、石炭灰23は還元性雰囲気下においては酸化性雰囲気下よりも融点が50℃以上も低下することが知られている。従って、ガス化溶融炉7内の温度が通常の石炭灰の融点よりも低い温度であっても、溶融スラグ化を促進することができ、殆どの石炭灰について充分にスラグ化を行うことが可能となり、石炭灰23をそれ単独で電気炉等を用いてスラグ化する場合よりも、大幅な省エネルギーを達成することが可能である。すなわち、本発明では、汚泥を含む廃棄物中の灰分と、石炭灰中の灰分とを、噴流床型ガス化炉内にて混合することで、混合後の灰分の融点を、石炭灰中の灰分の融点よりも低下させることにより、溶融スラグ化を促進することができる。
【0034】
なお、特に木質バイオマス中にはKOやNaOのような酸性成分が多く含有されるため、石炭灰の融点降下への効果が大きい。従って、ガス化溶融炉7内へ投入される廃棄物の中の20質量%以上を木質バイオマスとすることが望ましい。
【0035】
ガス化溶融炉7内の温度は、汚泥1および木質バイオマス4等の廃棄物の中に含まれる灰分および石炭灰23が充分に溶融、スラグ化し、ガス化溶融炉7の炉底から安定して抜き出すことが可能な低粘度状態となる温度以上とするが、必要以上の高温とすることは、ガス化溶融炉7内の炉壁の寿命を極度に短縮し、かつ放熱による熱損失も増加するために好ましくないので1600℃以下とすることが望ましい。より好ましくは1300℃以下とすることができれば、特殊な耐火物(クロム系耐火物)等を用いる必要がなくなるため好適である。
【0036】
石炭灰23中に含有される固体炭素は、石炭ボイラー16において通常の空気燃焼では燃焼させることができなかったいわゆる燃え残り成分(未燃物)であり、酸素との反応性に極めて乏しいが(ガス化速度、燃焼速度が遅い)、ガス化の際にガス化剤として酸素又は酸素富化空気を用いることで、この未燃分の固体炭素を反応させることができる。このような石炭灰23中に含有される炭素を高い転換効率でガスへと転換するために、また併せて同伴窒素による持ち出し顕熱を削減する観点からも、ガス化剤としては、酸素が好ましく、更に、酸素5としては可能な限り高濃度酸素を用いることがより好ましい。しかし、必要以上に高濃度の酸素を製造することは酸素製造設備10における投入エネルギーの増大等デメリットが増すばかりであり、ガス化そのものに与える影響は少ないため、ここで用いる酸素5は一般的な酸素製造法(吸着分離法〈PSA〉、深冷分離法)によって製造可能な濃度(80体積%以上)で構わない。
【0037】
また、酸素製造設備10の規模削減のため、空気9から酸素製造設備10によって製造した酸素5を空気と混合した酸素富化空気を酸素の代わりに使用しても良い。この際の酸素富化空気中の酸素濃度は空気中に通常含有される酸素濃度よりも高い濃度であれば、同伴する窒素の持ち出し顕熱によるガス化溶融炉7の効率低下を多少なりとも回避できる。しかし、ガス化溶融炉7における熱効率向上、また石炭灰23中の炭素を少しでも高い効率(炭素転換率)でガスへと転換するためには、ガス化剤として酸素富化空気よりも80体積%以上の酸素を用いることが望ましい。
【0038】
ここで添加する酸素量は、汚泥1、木質バイオマス4、石炭灰23中の全ての有機物を完全燃焼させるために必要な酸素量(いわゆる理論酸素量)よりも少ない酸素量とする。ここでいう有機物とは乾燥ベースの汚泥中の灰分を除いた部分(炭素、水素、窒素、硫黄、酸素を主体)を意味する。その割合は各々の原料中の発熱量およびガス化溶融炉7の内部温度をいくらに設定するかによって異なるが、理論酸素量を1とした場合の相対割合(酸素比として定義される指標)で0.2〜0.8の範囲内で調整することが好適である。0.2未満の酸素比では、ガス化せずに未燃物へと転換する有機物が極めて多くなるため、また、0.8を超過する酸素比では、可燃性のガス成分(H、CH等)へ転換する割合がほとんどなくなり、大部分が燃焼ガス(CO、HO)まで転換してしまうため、本発明の目的からして好ましくない。より好ましくは、0.4〜0.7の範囲内で調整することである。この範囲でガス化を行えば、汚泥の持つ有機物に対して発生する未燃物の割合を30質量%以下に抑え、かつ可燃性ガス中に含有される可燃性成分の割合を40体積%以上(ドライガスベース)とすることが可能である。
【0039】
また、汚泥1および木質バイオマス4等の廃棄物原料中の炭素を主体とする有機物と石炭灰23中に含有される同じく有機物ではそのガス化反応速度が大きく異なるため、それぞれ別々のバーナーからガス化溶融炉7内へ投入し、酸素比を各々の適切な値で管理することが望ましい。すなわち、ガス化反応速度の速い(ガス化し易い)汚泥1および木質バイオマス4用のバーナー13の酸素比よりも、ガス化反応速度が遅い(ガス化し難い)石炭灰用のバーナー14の酸素比を高くすることが望ましい。
【0040】
また、ガス化剤としてスチーム6を酸素5と併用しても良い。特に、ガス化し難い石炭灰23用のバーナー14においては、炭素転換率を向上させるためにスチーム6をガス化剤として酸素5と共に添加することが望ましい。
【0041】
なお、ガス化溶融炉7内の圧力は特に規定しないが、大気圧よりも低い圧力とした場合には、外部からの空気の漏れ込みによる爆発の危険性があるため好ましくない。また、大気圧よりも高い加圧条件とする場合にはガス化溶融炉7をコンパクトにすることのできるメリットもある。
【0042】
ガス化溶融炉7内へ投入される汚泥1以外の廃棄物としては、塩素等の腐食性物質を多量に含有しないものであれば、木質バイオマス、草藁系バイオマス、廃プラスチック、食品系残渣、各種炭材等、ガス化溶融炉7内へ気流搬送によって投入することができるものであれば何を用いても構わない。また、廃棄物ではなく、石炭(微粉炭)を汚泥1と共にガス化原料として使用しても構わない。
【0043】
なお、石炭ボイラーから発生する窒素酸化物の低減効果を最大限発揮するためには、最初からアンモニアを多く含有する汚泥のみをガス化溶融炉内へ投入する廃棄物として利用するのが良いが、それ以外の廃棄物に含有されるアンモニア以外の窒素の一部に関しても、ガス化の際にアンモニアに転換し、汚泥中に元来含有されるアンモニアと同様の効果を発揮するため、ガス化溶融炉内へ投入される廃棄物の中の30質量%以上を汚泥が占めていれば特に構わない(汚泥の重量は汚泥乾燥機後の重量ベース)。
【0044】
本発明で使用する汚泥1として、下水汚泥以外に、産業排水の生物学的処理施設から発生する余剰の活性汚泥(例えば、コークス炉排水(安水)処理設備、ステンレス酸洗排水の処理設備、各種食品工場の排水処理設備から排出される余剰汚泥等)を用いても良い。
【実施例】
【0045】
図2に示したフローに従って、本発明例を実施した。
【0046】
使用した下水汚泥1、木質バイオマス4、石炭灰23の分析値をそれぞれ表1、表2、表3に示す。なお、この下水汚泥は下水処理場の脱水機から排出されたもの(脱水ケーキ)である。
【0047】
【表1】

【表2】

【表3】

【0048】
下水汚泥1(脱水ケーキ)150t/dayを汚泥乾燥設備2において乾燥後、生成した微粉状の乾燥汚泥3(32t/day,水分含有量5.1質量%)を同じく微粉(チップ状)の木質バイオマス4(50t/day)と共に同一のバーナー13(2本)から、また石炭ボイラー16から発生した石炭灰23(50t/day)を別のバーナー14(2本)から、空気による気流搬送によってガス化溶融炉7内へ投入した。
【0049】
ガス化溶融炉7内において、各々のバーナーへは酸素製造設備10において製造された酸素5(酸素濃度93%)をガス化剤として供給(47500Nm/day)したが、乾燥汚泥3および木質バイオマス4用のバーナー13における酸素比は0.55、石炭灰用のバーナー14における酸素比は0.62となるように調整した。また、石炭灰用のバーナー14へはガス化剤として酸素5と共にスチーム6を供給(2t/day)した。
【0050】
ガス化溶融炉7内の温度は、1300℃に維持した結果、各々の原料中の有機物は可燃性ガス15へと転換し、また、炉内温度は石炭灰の融点よりも低い温度ではあったが、各々の原料中の灰分は、ガス化溶融炉内で混合され、乾燥汚泥3および木質バイオマス4の灰分による融点降下および還元性ガス雰囲気による融点降下により溶融スラグ化が促進された結果、問題無く製品スラグ11として回収できた。生成した高温の可燃性ガスはガス化溶融炉の上部のガス冷却器8において水スプレーによって1000℃まで冷却された後、石炭ボイラー16へ導入され、石炭ボイラー16において発電を行うための燃料として有効に利用された。
【0051】
また、汚泥乾燥設備2から排出された乾燥排ガス27は燃焼用空気の一部として石炭ボイラーへ投入された(図示せず)。乾燥排ガス中にはアンモニアが1.2質量%、可燃性ガス中にはアンモニアが0.3質量%(3000ppm)含有されており、このアンモニアを投入した効果によって、石炭ボイラー16から排出される排ガス中のNO濃度は130ppm(脱硝設備20入口)となった。比較例として、ボイラーにおいて石炭のみを燃焼した操業も行ったが、排ガス中のNO濃度は200ppm(同じく脱硝設備20入口)となり、実施例では、大幅に排ガス中の窒素酸化物の発生量を低下させることが可能であった。
【0052】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施形態に係る廃棄物の利用方法のフローを示す説明図である。
【図2】本発明の実施例における廃棄物の利用方法のフローおよびマスバランスを示す説明図である。
【符号の説明】
【0054】
1 汚泥(脱水ケーキ)
2 汚泥乾燥設備
3 乾燥汚泥
4 木質バイオマス
5 酸素
6 スチーム
7 ガス化溶融炉
8 ガス冷却器
9 空気
10 酸素製造設備
11 製品スラグ
12 スプレー水またはクエンチガス
13 汚泥または汚泥および木質バイオマス用バーナー
14 石炭灰用バーナー
15 可燃性ガス
16 石炭ボイラー
17 発電設備(スチームタービンおよび発電機)
18 石炭
19 燃焼用空気
20 脱硝設備
21 空気予熱器
22 脱塵設備
23 石炭灰
24 脱硫設備
25 排ガス
26 浄化後排ガス
27 乾燥排ガス



【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴流床型ガス化炉で、汚泥を含む廃棄物を、酸素または酸素富化空気により部分酸化させて可燃性ガスとスラグへ転換し、
石炭ボイラーで、石炭および前記可燃性ガスを空気により燃焼し、生じる石炭灰を含む排ガスから当該石炭灰を分離し、
前記分離後の石炭灰を前記噴流床型ガス化炉へ投入して、前記石炭灰をスラグへと転換すると共に、前記石炭灰中に残留する未燃の固体炭素分を部分酸化させて可燃性ガスへと転換することを特徴とする、発電用石炭ボイラーでの汚泥を含む廃棄物の利用方法。
【請求項2】
前記汚泥が、汚泥乾燥設備で乾燥された乾燥汚泥であることを特徴とする、請求項1に記載の発電用石炭ボイラーでの汚泥を含む廃棄物の利用方法。
【請求項3】
前記汚泥を含む廃棄物に、木質バイオマスを含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の発電用石炭ボイラーでの汚泥を含む廃棄物の利用方法。
【請求項4】
前記石炭ボイラーで生じた排ガス中に含有される窒素酸化物を、前記噴流床型ガス化炉で転換されて生じた前記可燃性ガス中に含有されるアンモニアと反応させることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発電用石炭ボイラーでの汚泥を含む廃棄物の利用方法。
【請求項5】
前記汚泥乾燥設備から排出されるアンモニアを含む排ガスを、前記噴流床型ガス化炉または前記石炭ボイラーに投入することを特徴とする、請求項2〜4のいずれか1項に記載の発電用石炭ボイラーでの汚泥を含む廃棄物の利用方法。
【請求項6】
前記汚泥を含む廃棄物中の灰分と、前記石炭灰中の灰分とを、前記噴流床型ガス化炉内にて混合することで、混合後の灰分の融点を、前記石炭灰中の灰分の融点よりも低下させることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発電用石炭ボイラーでの汚泥を含む廃棄物の利用方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−262047(P2009−262047A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114345(P2008−114345)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】