説明

白色有機蛍光化合物及び発光素子

【課題】キナクリドン骨格及びオキサジアゾリン骨格を有することにより堅牢であり、加工性が良好で、大きな輝度で白色発光する白色有機蛍光化合物及び発光素子を提供すること。
【解決手段】下式(1)で示される白色有機蛍光化合物及びこれを利用した発光素子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は白色有機蛍光化合物に関し、さらに詳しくは、キナクリドン骨格及びオキサジアゾリン骨格を有することにより堅牢であり、加工性が良好で、大きな輝度で白色発光する白色有機蛍光化合物及びこれを利用した発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、従来、R、G、及びBの三原色それぞれを発光させる素子及び白色発光素子を中心に開発が進められてきた。白色発光は、赤発光の化合物、青発光の化合物及び緑発光の化合物や複数の発光化合物を混色して白色発光を実現するものであった.そこで、単一化合物で白色蛍光を発する化合物の調査が進められた結果、以下の式(2)で示されるキナクリドンを骨格に有する化合物が白色発光を実現するものであることが知られるようになった。なお、キナクリドンはピグメントバイオレット19とも称される顔料として周知であり、一般に、堅牢性、耐候性、耐光性及び耐熱性に優れると言われている。
【0003】
【化1】

【0004】
例えば、式(3)で示される白色有機蛍光化合物は、キナクリドン骨格を有する良好なEL素子用発光材料として研究されてきた。
【0005】
【化2】

【0006】
ここで、R11およびR12についてはいくつかの基が開示されている。例えば、R11は水素原子、アルキル基、ベンジル基などが、R12はアルキル基が知られている。(特許文献1、特許文献2参照)。しかし、これら式(3)で示される化合物のうちすでに知られている上記の特性基を持つ白色有機蛍光化合物は、EL素子としての輝度や寿命にはまだ難点があった。特に、EL素子として基板上に安定的に付着させるには問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開2003−192684
【特許文献2】特開2003−203780
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明の目的は、有機EL素子等を初めとする各種の白色発光体に利用可能な白色有機蛍光化合物を提供することにある。また、この発明の目的は高輝度、高純度白色及び長寿命のEL素子用の発光材料として適した蛍光化合物及びこれを利用した発光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、下式(1)で示される白色有機蛍光化合物である。
【0010】
【化3】

【0011】
(但し、式(1)において、Arは、以下の式(1A)、(1B)、又は(1C)で示される芳香族基である。Arは、以下の式(1D)、(1E)、(1F)、(1G)又は(1H)で示される芳香族基である。Arは水素原子、及び−CH−Arで示される基である。前記Arは、水素原子、又は以下の式(1J)、(1K)、(1L)、(1M)、(1N)又は(1R)で示される芳香族基である。)
【0012】
【化4】

【0013】
(但し、式(1A)において、Rは、炭素数1〜10のアルキル基又はカルボン酸基を示す。ベンゼン環上に結合するRの数は0〜3のいずれかの整数である。式(1A)において、(1)で示される結合手は、式(1)で示される白色有機蛍光化合物における窒素原子に結合し、(2)で示される結合手は式(1)におけるカルボニル基中の炭素原子に結合し、(3)で示される結合手は式(1)におけるオキサジアゾリン環中の炭素原子に結合する。)
【0014】
【化5】

【0015】
(但し、式(1B)において、Rは前記と同様の意味を示す。ナフタレン環上に結合するRの数は0〜5のいずれかの整数である。式(1B)において、(1)で示される結合手は、式(1)で示される白色有機蛍光化合物における窒素原子に結合し、式(1B)におけるナフタレン環上の1位又は2位に結合し、(2)で示される結合手は式(1)におけるカルボニル基中の炭素原子に結合し、式(1B)におけるナフタレン環上の前記結合手(1)に隣接する炭素に結合し、(3)で示される結合手は式(1)におけるオキサジアゾリン環中の炭素原子に結合する。)
【0016】
【化6】

【0017】
(但し、式(1C)において、Rは前記と同様の意味を示す。ナフタレン環上に結合するRの数は0〜5のいずれかの整数である。式(1C)において、(1)で示される結合手は、式(1)で示される白色有機蛍光化合物における窒素原子に結合し、式(1C)におけるナフタレン環上の1位又は2位に結合し、(2)で示される結合手は式(1)におけるカルボニル基中の炭素原子に結合し、式(1C)におけるナフタレン環上の前記結合手(1)に隣接する炭素に結合し、(3)で示される結合手は式(1)におけるオキサジアゾリン環中の炭素原子に結合する。)
【0018】
【化7】

【0019】
(但し、式(1D)において、Rは、炭素数1〜10のアルキル基、又はシアノ基を示す。ベンゼン環上に結合するRの数は0〜5である。)
【0020】
【化8】

【0021】
(但し、式(1E)において、Rは、炭素数1〜10のアルキル基、シアノ基又はカルボン酸基を示す。ナフタレン環上に結合するRの数は0〜7である。)
【0022】
【化9】

【0023】
(但し、式(1F)において、Rは、水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基を示す。)
【0024】
【化10】

【0025】
(但し、式(1G)において、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を示す。ピレン環上に結合するRの数は0〜9である。)
【0026】
【化11】

【0027】
(但し、式(1H)において、R10は、炭素数1〜10のアルキル基を示す。ピレン環上に結合するR10の数は0〜9である。)
【0028】
【化12】

【0029】
(但し、式(1J)において、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を示す。ベンゼン環上に結合するRの数は0〜5である。)
【0030】
【化13】

【0031】
(但し、式(1K)において、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を示す。ナフタレン環上に結合するRの数は0〜7である。)
【0032】
【化14】

【0033】
(但し、式(1L)において、Rは、水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基を示す。)
【0034】
【化15】

【0035】
(但し、式(1M)において、Rは、水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基を示す。)
【0036】
【化16】

【0037】
【化17】

【0038】
前記課題を解決するための手段として、請求項2は、一対の電極間に、前記請求項1に記載の白色有機蛍光化合物を含有する発光層を設けてなることを特徴とする発光素子である。
【発明の効果】
【0039】
この発明は、有機EL素子等を初めとする各種の白色発光体に利用可能な高輝度、高純度白色及び長寿命のEL素子用の発光材料として適した白色有機蛍光化合物を提供することができる。特に、EL素子として基板上に良好に密着させ、安定したEL素子の作成に適している。
【0040】
この発明に係る白色有機蛍光化合物においては、その分子構造が共役二重結合を有すること、キナクリドン骨格における窒素原子に水素原子、又は青発光原子団を有すること、中央のベンゼン環を中心にして点対称の構造を有することで、白色有機蛍光化合物自体として輝度の大きな白発光を可能にする。この白色有機蛍光化合物は、分子構造自体が剛直であるから耐久性に優れる。この白色有機蛍光化合物を利用した発光素子は、白色発光素子として使用できるのみならず、適切なフィルターを組み合わせることにより、赤発光、青発光及び緑発光を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明に係る下記式(1)で示される白色有機蛍光化合物は、キナクリドン骨格を有する。キナクリドン自体は、例えばジエチルスクシニルスクシナートとアニリンとを主原料として、例えば縮合、閉環、酸化を行って合成され、ピグメントバイオレット19と称される顔料として周知である。したがって、本発明に係る白色有機蛍光化合物も、堅牢性、耐候性、耐光性及び耐熱性に優れる。
【0042】
【化18】

【0043】
式(1)において、Arは、以下の式(1A)、(1B)、又は(1C)で示される芳香族基である。
【0044】
【化19】

【0045】
但し、式(1A)において、Rは、炭素数1〜10のアルキル基又はカルボン酸基を示す。ベンゼン環上に結合するRの数は1〜3のいずれかの整数である。式(1A)において、(1)で示される結合手は、式(1)で示される白色有機蛍光化合物における窒素原子に結合し、(2)で示される結合手は式(1)におけるカルボニル基中の炭素原子に結合し、(3)で示される結合手は式(1)におけるオキサジアゾリン環中の炭素原子に結合する。
【0046】
前記式(1A)におけるRで示されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、及びデシル基等を挙げることができる。アルキル基が前記式(1A)で示されるベンゼン環上に結合していると、式(1)で示される白色有機蛍光化合物は、溶媒に対する溶解性を向上させる。Rで示されるアルキル基における炭素数が10を越えると、前記式(1A)で示される白色有機蛍光化合物は、逆に溶媒に対する溶解性が低減する。
【0047】
前記式(1A)におけるRで示されるアルキル基のベンゼン環上に結合する数は0〜3のいずれかであり、好適なアルキル基の数は1である。また、前記式(1A)におけるRで示されるアルキル基の好適な結合位置として、式(1A)における結合手(1)に対してオルソの位置を挙げることができる。
【0048】
前記式(1A)におけるRは、カルボン酸基(−COOH)でも有り得る。Rで示されるカルボン酸基のベンゼン環上における結合数は、理論上1〜3であるものの、好適な結合数は1である。Rで示されるカルボン酸基のベンゼン環における好適な結合位置として、式(1A)における結合手(1)に対してオルソ位置又はメタ位置を挙げることができる。
【0049】
前記式(1A)で示される好適な芳香族基として、以下の式(1A−1)、及び(1A−2)で示される芳香族基を挙げることができる。
【0050】
【化20】

【0051】
【化21】

【0052】
前記式(1A−1)及び式(1A−2)においてR1aで示される基は、水素原子又は炭素数1〜10、好ましくは1〜5のアルキル基又はカルボン酸基である。
【0053】
前記式(1)で示される白色有機蛍光化合物を合成するにあたり、前記式(1A−1)又は式(1A−2)の構造を与える好適な原料化合物として、3−アミノ−p−トルイル酸、3−アミノ−o−トルイル酸、4−アミノ安息香酸、2−アミノテレフタル酸、5−アミノイソフタル酸等を挙げることができる。
【0054】
【化22】

【0055】
但し、式(1B)において、Rは前記と同様の意味を示す。ナフタレン環上に結合するRの数は0〜5のいずれかの整数である。式(1B)において、(1)で示される結合手は、式(1)で示される白色有機蛍光化合物における窒素原子に結合し、式(1B)におけるナフタレン環上の1位又は2位に結合し、(2)で示される結合手は式(1)におけるカルボニル基中の炭素原子に結合し、式(1B)におけるナフタレン環上の前記結合手(1)に隣接する炭素に結合し、(3)で示される結合手は式(1)におけるオキサジアゾリン環中の炭素原子に結合する。
【0056】
前記式(1B)で示される芳香族基の中でも、好ましいのは式(1B−1)で示される芳香族基である。
【0057】
【化23】

【0058】
式(1B−1)において、(1)で示される結合手は、式(1)で示される白色有機蛍光化合物における窒素原子に結合し、式(1B−1)におけるナフタレン環上の1位又は2位に結合し、(2)で示される結合手は式(1)におけるカルボニル基中の炭素原子に結合し、式(1B−1)におけるナフタレン環上の前記結合手(1)に隣接する炭素に結合し、(3)で示される結合手は式(1)におけるオキサジアゾリン環中の炭素原子に結合する。
【0059】
前記式(1)で示される白色有機蛍光化合物を合成するにあたり、前記式(1B−1)の構造を与える好適な原料化合物として、4−アミノ−1−ナフタレン酸及び3−アミノ−2−ナフタレン酸等を挙げることができる。
【0060】
【化24】

【0061】
但し、式(1C)において、Rは前記と同様の意味を示す。ナフタレン環上に結合するRの数は0〜5のいずれかの整数である。式(1C)において、(1)で示される結合手は、式(1)で示される白色有機蛍光化合物における窒素原子に結合し、式(1C)におけるナフタレン環上の1位又は2位に結合し、(2)で示される結合手は式(1)におけるカルボニル基中の炭素原子に結合し、式(1C)におけるナフタレン環上の前記結合手(1)に隣接する炭素に結合し、(3)で示される結合手は式(1)におけるオキサジアゾリン環中の炭素原子に結合する。
【0062】
前記式(1C)で示される芳香族基の中でも、好ましいのは式(1C−1)で示される芳香族基である。
【0063】
【化25】

【0064】
前記式(1)において、Arは、以下の式(1D)、(1E)、(1F)、又は(1G)で示される芳香族基である。
【0065】
【化26】

【0066】
但し、式(1D)において、Rは、炭素数1〜10のアルキル基、又はシアノ基を示す。ベンゼン環上に結合するRの数は0〜5である。ベンゼン環上に複数のRが結合する場合、それら複数のRは同一であっても相違していても良い。
【0067】
前記Rの中でも炭素数が1〜5のアルキル基が好ましい。アルキル基として示されるRの結合位置としては、オキサジアゾリン環に結合する結合手に対してパラ位を挙げることができる。
【0068】
【化27】

【0069】
但し、式(1E)において、Rは、炭素数1〜10のアルキル基、シアノ基又はカルボン酸基を示す。ナフタレン環上に結合するRの数は0〜7である。
【0070】
好適なRは水素原子又はシアノ基であり、Rの好適な結合位置としては、オキサジアゾリン環に結合する結合手に対してパラ位を挙げることができる。
【0071】
【化28】

【0072】
但し、式(1F)において、Rは、水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基を示す。
【0073】
好適なRは炭素数1〜10のアルキル基であり、2個のRが同一であることが好ましい。
【0074】
【化29】

【0075】
但し、式(1G)において、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を示す。ピレン環上に結合するRの数は0〜9である。
【0076】
【化30】

【0077】
但し、式(1H)において、R10は、炭素数1〜10のアルキル基を示す。ぺリレン環上に結合するR10の数は0〜9である。
【0078】
前記式(1)で示される白色有機蛍光化合物を合成するにあたり、前記Arの構造を与える好適な原料化合物として、以下の式(1D−1)、(1E−1)、(1F−1)、(1F−2)、(1G−1)又は(1H−1)で示される化合物等を挙げることができる。
【0079】
【化31】

【0080】
Arは、水素原子又は−CH−Arで示される基である。前記Arは、水素原子、又は以下の式(1J)、(1K)、(1L)、(1M)、(1N)又は(1R)で示される芳香族基である。
【0081】
【化32】

【0082】
但し、式(1J)において、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を示す。ベンゼン環上に結合するRの数は0〜5である。
【0083】
好適なRは、炭素数1〜10のアルキル基である。Rの好適な結合位置は、メチレン基に結合する結合手に対してパラ位である。
【0084】
【化33】

【0085】
但し、式(1K)において、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を示す。ナフタレン環上に結合するRの数は0〜7である。
【0086】
【化34】

【0087】
但し、式(1L)において、Rは、水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基を示す。
【0088】
【化35】

【0089】
但し、式(1M)において、Rは、水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基を示す。好適なRは炭素数1〜10、特に炭素数1〜8のアルキル基である。
【0090】
【化36】

【0091】
【化37】

【0092】
前記式(1)で示される白色有機蛍光化合物を合成するにあたり、前記Arの構造を与える好適な原料化合物として、以下の式(1J−1)、(1K−1)、(1L−1)、(1L−2)、(1M−1)、(1M−2)及び(1N−1)で示される化合物等を挙げることができる。
【0093】
【化38】

【0094】
上記のように、キナクリドン骨格の窒素原子に結合する特性基を選択することにより、分子内の立体障害や電子供与性に起因してキナクリドン骨格、さらには分子全体に立体的あるいは電子状態のひずみが生じ、発光機能が変化する。これにより、相対的に発光し難いとされる低波長側の発光が増えるため、分子全体における共役二重結合による赤色発光と前記Arの構造による青色発光とでバランスの取れた白色発光可能な化合物となる。
【0095】
式(1)で示される白色有機蛍光化合物は、例えば、以下の反応式に従って製造することができる。
【0096】
先ず、反応式(1)に示されるように、シクロヘキサジエン化合物(a)とアミノカルボン酸化合物(b)とを反応させてシクロヘキサジエン化合物(a)における水酸基をアミノ化する。
【0097】
【化39】

【0098】
上記アミノカルボン酸化合物(b)におけるAr1aは、式(10A)、式(10B)又は式(10C)で示される。
【0099】
【化40】

【0100】
但し、式(10A)においてRは前記と同様の意味を示し、結合手(1)はアミノ基に結合する結合手であり、結合手(2)はカルボン酸基に結合する結合手である。
【0101】
【化41】

【0102】
但し、式(10B)においてRは前記と同様の意味を示す。結合手(1)はアミノ基に結合する結合手であり、結合手(1)のナフタレン環上における結合位置は1位又は2位である。また、結合手(2)はカルボン酸基に結合する結合手である。
【0103】
【化42】

【0104】
但し、式(10C)においてRは前記と同様の意味を示す。結合手(1)はアミノ基に結合する結合手であり、結合手(1)のナフタレン環上における結合位置は1位又は2位である。また、結合手(3)はカルボン酸基に結合する結合手である。
【0105】
前記シクロヘキサジエン化合物(a)におけるRはメチル基、エチル基などの低級アルキル基である。上記反応式は、例えば、ジアルキル−2,5−ジヒドロキシ−1,4−シクロヘキサジエン−1,4−ジカルボキシレート等の上記反応式中の化合物(a)と3−アミノ−9−アルキルカルバゾール等の上記反応式中の化合物(b)とを適宜の溶媒中で加熱することにより進行する。脱水反応により生成したアミノ基を有する脱水反応生成物(c)が得られる。脱水反応には、適宜の脱水剤例えば濃硫酸等を使用することができる。
【0106】
上記脱水反応生成物(c)をさらに濃硫酸等で処理すると、シクロヘキサジエン環の脱水素反応が起こって芳香化化合物(d)が生じる。
【0107】
【化43】

【0108】
前記脱水素反応生成物(d)に、例えばDMF中でRHal(ただし、Halはハロゲン原子を示す。)を反応させることにより、前記脱水素反応生成物(d)における窒素原子をアルキル化させることもできる。
【0109】
次いで、反応式2に示されるように、脱水反応生成物(d)におけるカルボン酸を酸ハロゲン化物(e)にする。
【0110】
酸ハロゲン化反応は例えば塩化チオニルを前記酸ハロゲン化物(e)に反応させることにより行われる。
【0111】
反応式3に示されるように、酸ハロゲン化物(e)とHNHNO−Arで示されるヒドラジド化合物とを縮合反応させて、化合物(f)を得る。以下の反応式3において、Xはハロゲン原子、例えば塩素原子を示す。
【0112】
【化44】

【0113】
前記化合物(f)を脱水することにより、オキサジアゾール環を形成してオキサジアゾリン環化合物(g)を得る。
【0114】
【化45】

【0115】
オキサジアゾール環を形成する閉環反応は、適宜の溶媒中で加熱することにより、好ましくは硫酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸の触媒の存在下に適宜の溶媒例えばジクロロベンゼン等の不活性高沸点有機溶媒中で加熱することにより、進行する。
【0116】
このオキサジアゾリン環化合物(g)とX−Ar(ただし、Xはハロゲン原子例えば塩素原子である。)とを反応させて、N置換化合物(h)を得る。
【0117】
【化46】

【0118】
N置換化合物(h)を加熱することにより、又は例えばp−トルエンスルホン酸等の酸触媒の存在下に加熱することにより、式(1)で示される本発明の白色有機蛍光化合物を得ることができる。
【0119】
この発明に係る白色有機蛍光化合物は、上記の合成経路のみによって合成されることはなく、この発明の実施例に示されるように上記以外のいくつかの合成経路を辿って合成することができる。
【0120】
他の合成経路を以下に示す。
【0121】
前記反応式1により得られる脱水反応生成物(c)をさらに例えば2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノベンゾキノン等で処理すると、シクロヘキサジエン環の脱水素反応が起こって芳香化化合物(d)が生じる。
【0122】
次いで反応式7により、芳香化化合物(d)に例えばp−トルエンスルホン酸等の酸触媒の存在下に加熱することにより閉環反応を行ってキナクリドン骨格化合物(k)を合成する。
【0123】
【化47】

【0124】
次いで、反応式8に示されるように、キナクリドン骨格化合物(k)とHNHNO−Arで示されるヒドラジド化合物とを縮合反応させて、縮合化合物(m)を合成する。
【0125】
【化48】

【0126】
前記縮合化合物(m)を脱水することによりオキサジアゾール環を形成してオキサジアゾール環化合物(n)を合成する。
【0127】
【化49】

【0128】
このオキサジアゾール環化合物(n)は、式(1)におけるArが水素原子であるときの、この発明の目的化合物である。このオキサジアゾール環化合物(n)とX−Ar(ただし、Xはハロゲン原子例えば塩素原子である。)とを反応させると、Arが−CH−Arであるときのこの発明の目的化合物が得られる。
【0129】
本発明に係る白色有機蛍光化合物は、400〜700nmの領域で発光が見られ、白色発光可能な有機EL素子に利用することができる。
【0130】
本発明の白色有機蛍光化合物を用いた有機EL素子は、ITO陽極と、ポリビニルカルバゾール(PVK)、2−(4−tert−ブチルフェニル)5−(4−ビフェニル)−1,3,4−オキザジアゾール及び白色有機蛍光化合物含有の発光層と、この発光層の表面に形成された陰極とを有して成る構造とすればよい。発光は、前記陰極と前記陽極との間に電界が印加されると、陰極側から電子が注入され、陽極から正孔が注入され、更に電子が発光層において正孔と再結合し、エネルギー準位が伝導帯から価電子帯に戻る際にエネルギーを光として放出する現象である。
【0131】
この有機EL素子は、陽極及び陰極の間に、この発明に係る白色有機蛍光化合物含有の発光層を有している限り様々のタイプの構造を採用することができる。この有機EL素子として、例えば、図1に示されるように、透明基板2の表面に形成された透明電極3と、その透明電極3の表面に形成されたところの、この発明に係る白色有機蛍光化合物を含有する発光層4と、この発光層4の表面に形成された陰極5とを備えて成る一層型有機発光素子を挙げることができる。
【0132】
この一層型有機発光素子において、発光層を、前記式(1)で示される白色有機蛍光化合物を蒸着させることにより形成された蒸着層とすることができ、また、この発光層を、前記(1)で示される本発明の白色有機蛍光化合物をポリビニルカルバゾール等の高分子化合物と共に有機溶媒に溶解し、得られる高分子溶液を塗布し、乾燥することにより得られる発光層とすることもできる。
【0133】
又、これとは別のタイプの有機EL素子として、陽極と陰極との間に、電子を輸送する電子輸送性物質、この発明に係る白色有機蛍光化合物、及びホールを輸送するホール輸送性高分子を共に含有する発光層を有する一層型有機発光素子、基板上に形成された陽極と陰極との間に、ホール輸送性物質を含有するホール輸送層と、この発明に係る白色有機蛍光化合物含有の電子輸送性発光層とを積層して成る二層型有機低分子発光素子(例えば、陽極と陰極との間に、ホール輸送層と、ゲスト色素としてこの発明に係る白色有機蛍光化合物及びホスト色素を含有する発光層とを積層して成る二層型色素ドープ型発光素子)、陽極と陰極との間に、ホール輸送性物質を含有するホール輸送層と、この発明に係る白色有機蛍光化合物と電子輸送性物質とを共蒸着してなる電子輸送性発光層とを積層して成る二層型有機発光素子(例えば、陽極と陰極との間に、ホール輸送層と、ゲスト色素としてこの発明に係る白色有機蛍光化合物及びホスト色素とを含有する電子輸送発光層とを積層して成る二層型色素ドープ型有機発光素子)、陽極と陰極との間に、ホール輸送層、この発明に係る白色有機蛍光化合物含有の発光層及び電子輸送層を積層して成る三層型有機発光素子を挙げることができる。上記各種の有機EL素子において、一層の発光層、並びに二層及び三層からなる積層体を有機層と称されることがある。
【0134】
上記有機EL素子は通常基板上に形成されることができる。この基板としては、例えばガラス、プラスチック等の透明基板を挙げることができる。前記陽極としては、仕事関数が大きくて透明であり、電圧を印加することにより前記膜にホールを注入することができる限り様々の素材を採用することができる。具体的には、陽極として、ITO、In23、SnO2、ZnO、CdO等、及びそれらの化合物等の無機透明導電材料、及びポリアニリン等の導電性高分子材料等で形成することができる。この陽極は、前記基板上に、化学気相成長法、スプレーパイロリシス、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタ法、イオンビームスパッタ法、イオンプレーティング法、イオンアシスト蒸着法、その他の方法により形成されることができる。
【0135】
前記陰極は、仕事関数の小さな物質が採用され、例えば、MgAg、アルミニウム合金、金属カルシウム等の、金属単体又は金属の合金で形成されることができる。好適な陰極はアルミニウムと少量のリチウムとの合金電極である。この陰極は、例えば基板の上に形成された前記発光層を含む有機層の表面に、蒸着技術により、容易に形成することができる。
【0136】
前記電子輸送性物質としては、例えば、2−(4−tert−ブチルフェニル)−5−(4−ビフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール等のオキサジアゾール誘導体及び2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、並びに2,5−ビス(5’−tert−ブチル−2’−ベンゾキサゾリル)チオフェン等を挙げることができる。また、電子輸送性物質として、例えばキノリノールアルミ錯体(Alq3)、ベンゾキノリノールベリリウム錯体(Bebq2)等の金属錯体系材料を好適に使用することもできる。
【0137】
前記ホール輸送物質としては、トリフェニルアミン系化合物例えばN,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(m−トリル)−ベンジジン(TPD)、及びα−NPD等、ヒドラゾン系化合物、スチルベン系化合物、複素環系化合物、π電子系スターバースト正孔輸送物質等を挙げることができる。
【0138】
この有機EL素子における有機層は、塗布法例えばスピンキャスト法、コート法、及びディップ法、並びに蒸着法のいずれかにより形成されることができる。塗布法及び蒸着法のいずれを採用するにしても、電極と有機層との間に、バッファ層を介装するのが好ましい。前記陰極と前記有機層との間に形成される前記バッファ層を形成することのできる材料として、例えば、フッ化リチウム等のアルカリ金属化合物、フッ化マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物、酸化アルミニウム等の酸化物、4,4’−ビスカルバゾールビフェニル(Cz−TPD)を挙げることができる。また、例えばITO等の陽極と有機層との間に形成されるバッファ層を形成する材料として、例えばm−MTDATA(4,4’,4''−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン)、フタロシアニン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体、無機酸化物例えば酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化バナジウム、フッ化リチウムを挙げることができる。これらのバッファ層は、その材料を適切に選択することにより、有機EL素子の駆動電圧を低下させることができ、発光の量子効率を改善することができ、発光輝度の向上を達成することができる。
【0139】
この発光素子における電子輸送性発光層は、通常の場合、50〜80%のポリビニルカルバゾール(PVK)と、電子輸送性発光剤5〜40%と、この発明に係る白色有機蛍光化合物0.01〜20%(重量)とで形成されていると、白色発光が高輝度で起こる。ホール輸送性高分子としては、例えばポリビニルカルバゾール、ポリ(3−アルキレンチオフェン)が挙げられる。また、この有機層中には、増感剤としてルブレンが含有されているのが好ましく、特に、ルブレンとAlq3とが含有されているのが好ましい。
【0140】
この発明に係る白色有機蛍光化合物を利用した有機EL素子は、例えば一般に直流駆動型の素子として使用することができ、また、パルス駆動型の素子及び交流駆動型の素子としても使用することができる。
【0141】
この発明に係る白色有機蛍光化合物は、更に、モノクロディスプレイ、カラーディスプレイ等のディスプレイ分野、ライトサイン、直視型サイン、間接照明、LCD用バックライト等の照明分野にも使用される。
【実施例】
【0142】
(実施例1)
この実施例1では、以下の式(201)で示される白色有機蛍光化合物を製造した。
【0143】
【化50】

【0144】
<脱水反応>
3Lの3口フラスコに3−アミノ−安息香酸100gと、メタノール1L及びエタノール1Lと、式(a−1)で示されるシクロヘキサジエン化合物 75.6gとを加えて、100℃に加熱しながら15時間反応を行った。反応終了後に、フラスコの内容物を濾過して固体の濾過物を超音波洗滌し、次いでDMACで再結晶することにより式(c−1)で示されるアミノ化合物(c−1)を得た。このアミノ化合物のIRチャートを図2に、NMRチャートを図3に示した。
【0145】
【化51】

【0146】
【化52】

【0147】
<脱水素反応>
2Lの3口フラスコに、前記アミノ化合物(c−1)を47.3g入れ、シアノベンゾキノン25.3g及びDMF800mLを更に加えて、150℃に加熱しながら3時間反応させた。反応終了後に溶媒を除去して得られる固形物をメタノール洗滌して式(d−1)で示される芳香族化合物を得た。この化合物のIRチャートを図4に、またNMRチャートを図5に示した。
【0148】
【化53】

【0149】
<N−メチル化反応>
前記式(d−1)で示される芳香族化合物 15gを1Lの耐圧ビンに入れ、ヨウ化メチル 18.3gとN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)500mLを加えた。耐圧ビン内を160℃に16時間半加熱することにより反応を行った。反応終了後に、DMFを除去し、生じた粘ちょう物を5%苛性ソーダ水溶液に溶解し、そこに濃塩酸を加えることにより生じた沈殿物を濾過により集めた。得られた固形物を水洗して式(n−1)で示されるN−メチル化物を得た。この化合物のIRチャートを図6に、またNMRチャートを図7に示した。
【0150】
【化54】

【0151】
<閉環反応(キナクリドン環形成反応)>
300mLの、窒素置換した3口フラスコに前記N−メチル化物(n−1)15gとダウサーム100mLと、ビフェニール53gと、ジフェニルエーテル147gとを入れ、280℃に加熱しながら14時間反応させた。反応終了後にフラスコの内容物を濾過して得られた固形物をジエチルエーテルで洗滌することにより式(m−1)で示されるキナクリドン環化合物(m−1)を得た。このキナクリドン環化合物(m−1)のIRチャートを図8に、またNMRチャートを図9に示した。
【0152】
【化55】

【0153】
<重縮合反応(ヒドラジド化反応)>
前記キナクリドン環化合物(m−1)1.5gと、ピレンヒドラジド2.74gと、塩化リチウム2.6gと、亜リン酸ジフェニル4.92gと、ピリジン14.4mLと、N−メチルピロリドン22.8mLとを、200mLの三口フラスコに装入し、内容物を120℃に加熱しながら14時間反応を行った。反応終了後にフラスコの内容物を濃縮し、濃縮物を氷水に投入した。濃縮物と氷水との混合物を濾過し、得られる固形分を水洗し、その後にメタノール洗滌することにより式(p−1)で示されるヒドラジド化合物を得た。そのヒドラジド化合物のIRチャートを図10に、またNMRチャートを図11に示した。
【0154】
【化56】

【0155】
<閉環反応>
前記式(p−1)で示されるヒドラジド化合物4.0gと、脱水1,4−ジオキサン200mLとオキシ三塩化リン100mLとを500mLの、窒素置換した三口フラスコに装入し、110℃に加熱しながら14時間反応を行った。反応終了後にフラスコの内容物を氷水に投入し、濾過して固形分を得た。この固形分を水洗し、メタノール洗滌して式(201)で示す目的化合物を得た。この目的化合物のIRチャートを図12に、またNMRチャートを図13に示した。
【0156】
<発光特性の評価(1)>
混合キシレンに前記目的化合物(201)を10mg/Lの濃度になるように溶解して試料液を調製した。この試料液を、島津製作所製のF−4500型分光蛍光光度計に装填して、以下の条件にて蛍光スペクトルを測定した。得られた蛍光スペクトルを図14に示した。
測定条件
測定モード 波長スキャン
励起波長 365nm
蛍光開始波長 400nm
蛍光終了波長 700nm
スキャンスピード 1200nm/分
励起側スリット 5.0nm
蛍光側スリット 5.0nm
ホトマル電圧 700V
図14から判るように、この実施例1で得られた白色有機蛍光化合物は、400〜700nmに蛍光発光が見られ、全領域をカバーしており、白色発光することが確認された。
【0157】
(実施例2)
この実施例2では、以下の式(202)で示される白色有機蛍光化合物を製造した。
【0158】
【化57】

【0159】
<閉環反応(キナクリドン骨格の形成反応)>
前記実施例1で合成したアミノ化合物(c−1)10gと、p−トルエンスルホン酸24.6gとo−ジクロルベンゼン500mLとを、1Lの三口フラスコに装入し、内容物を160℃に加熱しながら24時間半反応を行った。反応終了後にフラスコの内容物を濾過して固形の濾過残を2回のメタノール洗滌をし、さらに石油エーテルで洗滌することにより式(p−2)で示されるキナクリドン骨格化合物を得た。そのキナクリドン骨格化合物のIRチャートを図15に、またNMRチャートを図16に示した。
【0160】
【化58】

【0161】
<縮合反応(ヒドラジド化反応)>
前記式(p−2)で示されるキナクリドン骨格化合物1.0gと、ピレンヒドラジド1.941gと、塩化リチウム2.6gと、亜リン酸ジフェニル3.5gと、ピリジン14.4mLと、N−メチルピロリドン22.8mLとを、窒素置換した三口フラスコに装入し、120℃に加熱しながら17時間反応を行った。反応終了後にフラスコの内容物を氷水に投入し、濾過して固形分1.3gを得た。この固形分を水洗し、メタノール洗滌して式(q−1)で示すヒドラジド化合物を得た。このヒドラジド化合物のIRチャートを図17に、またNMRチャートを図18に示した。
【0162】
【化59】

【0163】
<閉環反応(オキサジアゾール環形成反応)>
300mLの、窒素置換した3口フラスコに、前記ヒドラジド化合物(q−1)1gと1,4−ジオキサン120mLと二塩化オキシリン60mLとを入れ、窒素雰囲気下に110℃に加熱しながら反応させた。反応終了後にフラスコの内容物を濾過して得られた固形物を4回水洗し、メタノール洗滌し、乾燥することにより式(202)で示される目的化合物の白色有機蛍光化合物を得た。この目的化合物(202)のIRチャートを図19に示した。
【0164】
<発光特性の評価(1)>
混合キシレンに前記目的化合物(202)を10mg/Lの濃度になるように溶解して試料液を調製した。この試料液を、島津製作所製のF−4500型分光蛍光光度計に装填して、以下の条件にて蛍光スペクトルを測定した。得られた蛍光スペクトルを図20に示した。
測定条件
測定モード 波長スキャン
励起波長 365nm
蛍光開始波長 400nm
蛍光終了波長 700nm
スキャンスピード 1200nm/分
励起側スリット 5.0nm
蛍光側スリット 5.0nm
ホトマル電圧 700V
図20から判るように、この実施例1で得られた白色有機蛍光化合物は、400〜700nmに3個の発光ピークを有する蛍光発光が見られ、全領域をカバーしており、白色発光することが確認された。
(実施例3)
この実施例3では、以下の式(203)で示される白色有機蛍光化合物を製造した。
【0165】
【化60】

【0166】
<脱水反応>
100mLの3口フラスコに6−アミノ−2−ナフチルカルボン酸1gと、エタノール130mLと、酢酸30mLと、式(a−1)で示されるシクロヘキサジエン化合物 0.55gとを装入して、115℃に加熱しながら4時間反応を行った。反応終了後に、フラスコの内容物を濾過して固体の濾過物をメタノール及び石油エーテルで洗滌して式(c−2)で示されるアミノ化合物(c−2)を得た。このアミノ化合物のIRチャートを図21に、NMRチャートを図22に示した。
【0167】
【化61】

【0168】
<酸クロリド>
100mLの三つ口フラスコに、式(c−1)に示されるアミノ化合物(c−1) 0.5g、ピリジン 0.1g、及び1−4ジオキサン 100mLを入れた。この100mLのフラスコを氷で冷却しつつ、フラスコの内容物を攪拌しながら塩化チオニル 10mLをフラスコ内に滴下した。滴下終了後、フラスコを常温に戻し、その後、フラスコの内容物を105℃で加熱し、フラスコの内容物を2時間攪拌した。2時間が経過してから、フラスコ内の塩化チオニルを留去した。その後、フラスコの内容物にテトラヒドロフラン(THF)を、100mL加えて、溶解させた。濾紙を使用して、テトラヒドロフラン(THF)に溶けなかった不溶成分を除去し、テトラヒドロフラン(THF)を乾固させた。そして、濃紫色の粉末0.3gを得た。
【0169】
得られた粉末は、図23に示されるIRチャート、及び図24に示されるNMRチャートから、式(r−1)の酸クロリド化合物であった。
【0170】
【化62】

【0171】
<縮合反応(ヒドラジド化反応)>
テトラヒドロフラン(THF) 35mLにナフチルヒドラジド 0.2gを溶解させ、この溶解物を200mLの三つ口フラスコに入れた。このフラスコにさらに、ピリジン 0.1gを入れ、フラスコの内容物を攪拌した。また、このフラスコを氷水で冷却しつつ、式(r−1)で示される酸クロリド化合物(r−1)をテトラヒドロフラン(THF)50mLに加えて溶解させてなる溶解物を、フラスコに滴下した。滴下後、フラスコの内容物の温度を常温に戻し、次いで、60℃に加熱しながら2時間反応させた。反応終了後に、フラスコの内容物を濃縮し、濃縮物を氷水に投入した。濃縮物と氷水との混合物からクロロホルム抽出を行った。クロロホルム溶液からクロロホルムを除去して乾固した後、得られた固形物をメタノールで洗浄し、濾別した。濾別により得られた固形分を真空乾燥した。その結果、茶褐色の粉末0.6gを得た。この粉末は、図25に示すそのIRチャート、及び図26に示すそのNMRチャートから、式(p−3)で示されるヒドラジド化合物であった。
【0172】
【化63】

【0173】
<N−メチルベンジル化反応>
300mlの耐圧ビンに、式(p−3)で示されるヒドラジド化合物(p−3) 0.6g、1−クロロメチル−p−キシレン 0.47g、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF) 75mlを入れた。この耐圧ビン内を160℃に加熱しつつ20時間の反応を行った。反応終了後、内容物をナスフラスコに移し、内容物を濃縮した。濃縮後、内容物を氷水に投入して濃縮物と氷水との混合物を得、この混合物のpHを水酸化ナトリウムで9に調整した。pH9に調整された混合物に、クロロホルム 200mlを加え、クロロホルム溶液を分離し、得られたクロロホルム溶液を水洗した後、濃縮した。濃縮後、この濃縮液を石油エーテル中に、滴下し、沈殿を析出させた。この沈殿を濾別し、乾燥させ、こげ茶色の粉末0.6gを得た。
【0174】
得られた粉末は、図27に示すIRチャート及び図28に示すNMRチャートから、式(s−1)で示されるN−メチルベンジル化合物であった。
【0175】
【化64】

【0176】
<閉環反応>
200mLのナスフラスコに、式(s−1)で示されるヒドラジド化合物 0.24g、1,4−ジオキサン 30mL、オキシ塩化リン 20mL、及び沸石を入れた。フラスコの内容物を110℃に加熱しつつ12時間リフラックスさせた。フラスコ内を放冷後、フラスコの内容物を氷水に投入した。投入後、沈殿物が発生した。この沈殿物を濾別し、水洗した。水洗後、析出物をN,N‐ジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解させた。その後、N,N‐ジメチルアセトアミド(DMAC)を乾固させ、こげ茶色の粉末0.2gを得た。
【0177】
得られた粉末は、図29に示すIRチャート及び図30に示すNMRチャートから、式(q−2)で示されるオキサジアゾール環化合物であった。
【0178】
【化65】

【0179】
<閉環反応(キナクリドン環形成反応)>
200mLのナスフラスコに、式(q−2)で示されるオキサジアゾール環化合物 0.2g、パラトルエンスルホン酸 0.3g、及びオルトジクロロベンゼン(ODB) 100mLを入れた。フラスコの内容物を160℃、24時間加熱した。加熱終了後、オルトジクロロベンゼン(ODB)を留去し、熱水にて、留去残渣物を水洗した。さらに、この内容物をメタノールを用いて、洗浄して、乾燥させ、黒色の粉末0.1gを得た。
【0180】
得られた粉末は、図31に示すIRチャート及び図32に示すNMRチャートから、式(203)で示される目的化合物の白色発光蛍光化合物であった。
【産業上の利用可能性】
【0181】
本発明の白色有機蛍光化合物を利用して有機EL素子、ディスプレイ、照明装置等により白色に発光させることができる。又、この白色有機蛍光化合物は、プリズムを用いて分光することにより青発光、赤発光及び緑発光が可能な発光素子にすることもでき、さらに、カラーフィルターを用いてフルカラーの表示をすることもでき、LCDのバックライト等にも使用されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0182】
【図1】図1は、一層型有機発光素子を示す説明図である。
【図2】図2は、実施例1におけるアミノ化合物(c−1)のIRチャートである。
【図3】図3は、実施例1におけるアミノ化合物(c−1)のNMRチャートである。
【図4】図4は、実施例1における式(d−1)で示される芳香族化合物のIRチャートである。
【図5】図5は、実施例1における式(d−1)で示される芳香族化合物のNMRチャートである。
【図6】図6は、実施例1における式(n−1)で示されるN−メチル化物のIRチャートである。
【図7】図7は、実施例1における式(n−1)で示されるN−メチル化物のNMRチャートである。
【図8】図8は、実施例1における式(m−1)で示されるキナクリドン環化合物のIRチャートである。
【図9】図9は、実施例1における式(m−1)で示されるキナクリドン環化合物のNMRチャートである。
【図10】図10は、実施例1における式(p−1)で示されるヒドラジド化合物のIRチャートである。
【図11】図11は、実施例1における式(p−1)で示されるヒドラジド化合物のNMRチャートである。
【図12】図12は、実施例1における式(201)で示される白色有機蛍光化合物のIRチャートである。
【図13】図13は、実施例1における式(201)で示される白色有機蛍光化合物のNMRチャートである。
【図14】図14は、実施例1における式(201)で示される白色有機蛍光化合物の蛍光スペクトルチャートである。
【図15】図15は、実施例2における式(p−2)で示されるヒドラジド化合物のIRチャートである。
【図16】図16は、実施例2における式(p−2)で示されるヒドラジド化合物のNMRチャートである。
【図17】図17は、実施例2における式(q−1)で示すオキサジアゾリン環化合物のIRチャートである。
【図18】図18は、実施例2における式(q−1)で示すオキサジアゾリン環化合物のNMRチャートである。
【図19】図19は、実施例2で得られた目的化合物(202)のIRチャートである。
【図20】図20は、実施例2で得られた目的化合物(202)の蛍光スペクトルチャートである。
【図21】図21は、実施例3における式(c−2)で示されるアミノ化合物のIRチャートである。
【図22】図22は、実施例3における式(c−2)で示されるアミノ化合物のNMRチャートである。
【図23】図23は、実施例3における式(r−1)で示される酸クロリド化合物のIRチャートである。
【図24】図24は、実施例3における式(r−1)で示される酸クロリド化合物のNMRチャートである。
【図25】図25は、実施例3における式(p−3)で示されるヒドラジド化合物のIRチャートである。
【図26】図26は、実施例3における式(p−3)で示されるヒドラジド化合物のNMRチャートである。
【図27】図27は、実施例3における式(s−1)で示されるN−メチルベンジル化合物のIRチャートである。
【図28】図28は、実施例3における式(s−1)で示されるN−メチルベンジル化合物のNMRチャートである。
【図29】図29は、実施例3における式(q−2)で示されるオキサジアゾール環化合物のIRチャートである。
【図30】図30は、実施例3における式(q−2)で示されるオキサジアゾール環化合物のNMRチャートである。
【図31】図31は、実施例3で得られた式(203)で示される目的化合物のIRチャートである。
【図32】図32は、実施例3で得られた式(203)で示される目的化合物のNMRチャートである。
【符号の説明】
【0183】
1・・有機EL素子、2・・基板、3・・陽極、4・・発光層、5・・陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)で示される白色有機蛍光化合物。
【化1】

(但し、式(1)において、Arは、以下の式(1A)、(1B)、又は(1C)で示される芳香族基である。Arは、以下の式(1D)、(1E)、(1F)、(1G)又は(1H)で示される芳香族基である。Arは水素原子、及び−CH−Arで示される基である。前記Arは、水素原子、又は以下の式(1J)、(1K)、(1L)、(1M)、(1N)又は(1R)で示される芳香族基である。)
【化2】

(但し、式(1A)において、Rは、炭素数1〜10のアルキル基又はカルボン酸基を示す。ベンゼン環上に結合するRの数は0〜3のいずれかの整数である。式(1A)において、(1)で示される結合手は、式(1)で示される白色有機蛍光化合物における窒素原子に結合し、(2)で示される結合手は式(1)におけるカルボニル基中の炭素原子に結合し、(3)で示される結合手は式(1)におけるオキサジアゾリン環中の炭素原子に結合する。)
【化3】

(但し、式(1B)において、Rは前記と同様の意味を示す。ナフタレン環上に結合するRの数は0〜5のいずれかの整数である。式(1B)において、(1)で示される結合手は、式(1)で示される白色有機蛍光化合物における窒素原子に結合し、式(1B)におけるナフタレン環上の1位又は2位に結合し、(2)で示される結合手は式(1)におけるカルボニル基中の炭素原子に結合し、式(1B)におけるナフタレン環上の前記結合手(1)に隣接する炭素に結合し、(3)で示される結合手は式(1)におけるオキサジアゾリン環中の炭素原子に結合する。)
【化4】

(但し、式(1C)において、Rは前記と同様の意味を示す。ナフタレン環上に結合するRの数は0〜5のいずれかの整数である。式(1C)において、(1)で示される結合手は、式(1)で示される白色有機蛍光化合物における窒素原子に結合し、式(1C)におけるナフタレン環上の1位又は2位に結合し、(2)で示される結合手は式(1)におけるカルボニル基中の炭素原子に結合し、式(1C)におけるナフタレン環上の前記結合手(1)に隣接する炭素に結合し、(3)で示される結合手は式(1)におけるオキサジアゾリン環中の炭素原子に結合する。)
【化5】

(但し、式(1D)において、Rは、炭素数1〜10のアルキル基、又はシアノ基を示す。ベンゼン環上に結合するRの数は0〜5である。)
【化6】

(但し、式(1E)において、Rは、炭素数1〜10のアルキル基、シアノ基又はカルボン酸基を示す。ナフタレン環上に結合するRの数は0〜7である。)
【化7】

(但し、式(1F)において、Rは、水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基を示す。)
【化8】

(但し、式(1G)において、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を示す。ピレン環上に結合するRの数は0〜9である。)
【化9】

(但し、式(1H)において、R10は、炭素数1〜10のアルキル基を示す。ぺリレン環上に結合するR10の数は0〜9である。)
【化10】

(但し、式(1J)において、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を示す。ベンゼン環上に結合するRの数は0〜5である。)
【化11】

(但し、式(1K)において、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を示す。ナフタレン環上に結合するRの数は0〜7である。)
【化12】

(但し、式(1L)において、Rは、水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基を示す。)
【化13】

(但し、式(1M)において、Rは、水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基を示す。)
【化14】

【化15】

【請求項2】
一対の電極間に、前記請求項1に記載の白色有機蛍光化合物を含有する発光層を設けてなることを特徴とする発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公開番号】特開2007−99723(P2007−99723A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−294228(P2005−294228)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(504108875)ヒロセエンジニアリング株式会社 (8)
【Fターム(参考)】