説明

白金ナノ粒子水溶液、白金ナノ粒子担持体の製造方法及び白金ナノ粒子水溶液、白金ナノ粒子担持体

【課題】本発明は、抗酸化作用、除菌作用、さらに抗癌活性作用等の高い効果を奏する白金ナノ粒子水溶液及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
溶媒中に担体と白金ナノコロイド溶液を混合させ、担体と白金ナノコロイドとの混合液を作製して、混合液を瞬間乾燥し、白金ナノ粒子を担持した担持担体を作製するとともにコロイド液を燃焼させ、白金ナノ粒子を担持した担持担体を非イオン界面活性剤を含む水溶液中に分散させて、白金ナノ粒子を担持した担持担体から、白金ナノ粒子と担体とを分離して、白金ナノ粒子水溶液とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金ナノ粒子水溶液、白金ナノ粒子担持体の製造方法及び白金ナノ粒子水溶液、白金ナノ粒子担持体、さらに抗癌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
白金は、化学的に非常に安定な性質を有し、化学反応を促進する触媒機能に優れるため、自動車排ガス処理、燃料電池の電極等種々の用途に利用されている。また、白金の光学特性を利用したバイオセンサーへの利用や、抗酸化性を利用した食料品、化粧品等への利用も行われている。さらに、例えば、シスプラチン(cisplatin)又はカルボプラチン(carboplatin)等は、プラチナ複合体の抗腫瘍剤として知られており、白金の用途領域は幅広い。しかしながら、白金は極めて高価であるため、例えば触媒として利用される際には、できる限り少量で高い効果が発揮されるよう、白金粒子を効率的に使用する必要がある。
【0003】
白金ナノコロイド溶液は、溶媒中に白金ナノ粒子を分散、懸濁し、クエン酸、アスコルビン酸、ポリアクリル酸ナトリウム等の重合体でコーティングし、溶媒として液体を用いたものが一般的に知られている。高い機能を有する白金ナノ粒子水溶液を製造するためには、凝集等を避けて、白金ナノ粒子を分散安定化することが不可欠である。従って、白金ナノコロイド溶液を作製する際には、通常白金ナノ粒子の分散安定化剤(保護材)として重合体を用いて、白金ナノ粒子をコーティングしている。保護剤を含むコロイド溶液では、コロイド粒子の表面に保護剤が吸着することにより、白金ナノ粒子同士の直接的な接触が抑制され、コロイドの凝集や沈殿を防ぐことができる。
【0004】
しかし、白金コロイド溶液から例えば触媒を調製する際には上述の保護材を除去する必要がある。このため、白金コロイドの用途により、保護剤を含まない白金コロイド溶液の提供が求められる場合があるが、保護剤を含む白金コロイド溶液と比較すると、製造時に凝集や沈殿を生じやすいものであり、製造後に白金コロイド溶液を保管する際も、長期の保存が困難であった。特許文献1には、凝集や沈殿を生じにくく、長期間安定性に優れる保護剤を含まない白金コロイド溶液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−228067公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、白金粒子からなる白金コロイドと、水又は水及び有機溶媒の混合溶媒よりなる溶媒とからなる保護剤を含まない白金コロイド溶液において、白金コロイド溶液中の白金含有量が300〜20000ppm、かつ、pH5.0〜12.0、電気伝導度100mS/m以下である白金コロイド溶液が開示されている。しかしながら、白金ナノコロイド溶液を作製する際に、pH等の調整を行う操作が煩雑であるという問題がある。また、白金コロイド溶液の作製における条件が限定的であるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、白金ナノ粒子が凝集することなく、安定的に分散化することが可能な白金ナノ粒子水溶液、白金ナノ粒子担持体及びその製造方法を提供する。また、優れた抗癌活性を示す白金ナノ粒子水溶液、白金ナノ粒子担持体及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の白金ナノ粒子水溶液の製造方法は、
溶媒中に担体と白金ナノコロイド溶液を混合させ、担体と白金ナノコロイドとの混合液を作製する混合工程と、
前記混合液を瞬間乾燥し、白金ナノ粒子を担持した担持担体を作製するとともにコロイド液を燃焼させる瞬間乾燥工程と、
前記白金ナノ粒子を担持した担持担体を非イオン界面活性剤を含む水溶液中に分散させて、前記白金ナノ粒子を担持した担持担体から、白金ナノ粒子と担体とを分離する分離工程と、を備えることを特徴とする。
(2)本発明の白金ナノ粒子担持体の製造方法は、
溶媒中に担体と白金ナノコロイド溶液を混合させ、担体と白金ナノコロイドとの混合液を作製する混合工程と、
前記混合液を瞬間乾燥し、白金ナノ粒子を担持した担持担体を作製するとともにコロイド液を燃焼させる瞬間乾燥工程と、を備えることを特徴とする。
(3)本発明の白金ナノ粒子水溶液は、
溶媒中に担体と白金ナノコロイド溶液を混合して担体と白金ナノコロイドとの混合液とし、
前記混合液を瞬間乾燥して白金ナノ粒子を担持した担持担体を作製するとともにコロイド液を燃焼させて、
前記白金ナノ粒子を担持した担持担体を非イオン界面活性剤を含む水溶液中に分散させて、前記白金ナノ粒子を担持した担持担体から、白金ナノ粒子と担体とを分離してなることを特徴とする。
(4)本発明の白金ナノ粒子担持体は、
溶媒中に担体と白金ナノコロイド溶液を混合して担体と白金ナノコロイドとの混合液とし、
前記混合液を瞬間乾燥して白金ナノ粒子を担持した担持担体を作製するとともにコロイド液を燃焼させてなることを特徴とする。
(5)本発明の抗癌剤は、前記(3)に記載の白金ナノ粒子水溶液又は前記(4)に記載の白金ナノ粒子担持体により得られたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の白金ナノ粒子水溶液及び白金ナノ粒子担持体の製造方法は、
溶媒中に担体と白金ナノコロイド溶液を混合させ、担体と白金ナノコロイドとの混合液を作製する混合工程と、
前記混合液を瞬間乾燥し、白金ナノ粒子を担持した担持担体を作製するとともにコロイド液を燃焼させる瞬間乾燥工程と、
前記白金ナノ粒子を担持した担持担体を非イオン界面活性剤を含む水溶液中に分散させて、前記白金ナノ粒子を担持した担持担体から、白金ナノ粒子と担体とを分離する分離工程と、を備えるので、
この製造方法により、コロイド状態を維持するクエン酸等の有機物で分散させた状態ではなく、白金ナノ粒子そのものを水溶液中に均一分散させた状態で維持することができ、白金ナノ粒子自体が備えている抗酸化作用、除菌作用、さらに抗癌活性作用等の効果を、容易に発現させることができる。
また、本発明の白金ナノ粒子水溶液及び白金ナノ粒子担持体は、クエン酸等の有機物を用いてコロイド状に分散させたナノサイズの白金ナノ粒子を、その表面をコーティングしている有機物を燃焼させて消失させたものであるので、
コロイド状の状態では発現できなかった、白金ナノ粒子自体が備えている抗酸化作用、除菌作用、さらに抗癌活性作用等の効果を高めることができる。
さらに、本発明の白金ナノ粒子水溶液や白金ナノ粒子担持体は、白金ナノ粒子自体が備えている抗酸化作用、除菌作用、さらに抗癌活性作用等の効果を利用して抗癌剤として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の白金ナノ粒子水溶液の製造方法を示す説明図である。
【図2】本発明の白金ナノ粒子水溶液の製造方法を詳細に示す説明図である。
【図3】本発明の白金ナノ粒子水溶液を用いた腹膜播種治療の効果を示す。
【図4】本発明の白金ナノ粒子水溶液を用いた肺疾患治療の効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態の白金ナノ粒子水溶液の製造方法は、溶媒中に担体と白金ナノコロイド溶液を混合させ、担体と白金ナノコロイドとの混合液を作製して、混合液を瞬間乾燥し、白金ナノ粒子を担持した担持担体を作製するとともにコロイド液を燃焼させ、白金ナノ粒子を担持した担持担体を非イオン界面活性剤を含む水溶液中に分散させて、白金ナノ粒子を担持した担持担体から、白金ナノ粒子と担体とを分離して、白金ナノ粒子水溶液とする。
本実施の形態において、白金ナノ粒子とは、白金族金属及び/又は白金族金属以外の貴金属からなり、白金を25質量%以上含有する粒子をいい、その平均粒径は5〜100nmであり、特に30〜50nmのものが好ましく用いられる。
白金ナノ粒子の粒径分布を限定的範囲とし、かつその平均粒径を30〜50nmの範囲とすると、白金ナノ粒子の抗酸化作用、除菌作用、さらに抗癌活性作用等の効果を高めることができる。
本実施の形態において、このような狭い粒径分布を有する白金ナノ粒子を分散させた白金ナノ粒子水溶液は、以下の製造方法によって調製する。
【0012】
図1に示すように、白金ナノ粒子水溶液は、精製水等の溶媒中に担体と白金ナノコロイド溶液を混合させ、担体と白金ナノコロイドとの混合液を作製する混合工程S1と、前記混合液を瞬間乾燥し、白金ナノ粒子を担持した担持担体を作製するとともにコロイド液を燃焼させる瞬間乾燥工程S2と、前記白金ナノ粒子を担持した担持担体を非イオン界面活性剤を含む水溶液中に分散させて、前記白金ナノ粒子を担持した担持担体から、白金ナノ粒子と担体とを分離する分離工程S3と、を備える。
【0013】
図2は、本実施の形態において、白金ナノ粒子水溶液の製造方法を詳細に示す説明図である。図2に示すように、本実施の形態において用いる白金ナノコロイド溶液に用いられている白金ナノ粒子は、白金塩溶液から作製される。
すなわち、白金ナノ粒子の原料となる白金塩溶液には、ジニトロジアンミン白金塩、ヘキサヒドロキソ白金酸、テトラアンミン白金等を使用できる。
また、白金塩化物の溶液や白金そのものを用いることもできる。
白金塩化物としては、塩化白金酸カリウム、四塩化白金酸カリウム、塩化白金、六塩化白金酸六水和物等が挙げられる。
更に白金化合物を用いてもよい。白金化合物としてはヨウ化白金酸、臭化白金酸、フッ化白金酸が挙げられる。また、これら白金塩を添加する溶媒としては、水又は水及び有機溶媒の混合溶媒を使用できる。
更に白金そのものを用いてもよい。白金としては板状のものでも粉末状のものでもよく、それらに液相レーザーアブレーションの原理に基づく高出力パルスレーザーを照射させ、均一性の高いナノ粒子の分散液を得ることもできる。
【0014】
次に、上記白金塩溶液とカルボン酸類水溶液を混合させる。これは、カルボン酸類が白金ナノ粒子の保護材(コーティング)として機能し、白金ナノコロイドを溶液中で均一に分散させるためである。
コーティングによって、溶媒中での白金ナノ粒子の凝集や沈殿を防ぎ、溶液の安定性を向上させるという効果を奏する。
白金ナノ粒子へのコーティングは、溶媒である水にカルボン酸類を溶解させることにより行う。
例えば、カルボン酸類を脱イオン水に溶解させ、室温での飽和水溶液を調製することによって行うことが好ましい。
ここで溶解させるカルボン酸類としては、例えば、グリコール酸、クエン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸、フマル酸、乳酸、コハク酸、酒石酸及びこれらを用いた塩類からなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物が挙げられる。
【0015】
次いで、上記白金塩溶液とカルボン酸類水溶液との混合液を還元し、白金ナノコロイドを形成させる。また、白金から得られたナノ粒子は直接、カルボン酸類を加えて凝集を防ぎながら、白金ナノコロイドを形成させる。
用いる還元剤水溶液の調製は、溶媒である水に還元剤を溶解させることにより行う。
これは例えば、還元剤を脱イオン水に溶解させ、飽和水溶液を調製することによって行うことが好ましい。
ここで溶解させる還元剤としては、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、アスコルビン酸、シュウ酸、蟻酸、これらを用いた塩類からなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物が挙げられる。
還元工程は室温で行うことができる。還元工程の時間としては白金塩を還元できる時間であれば、特に限定されるものではない。
これにより、白金塩が還元され、白金ナノコロイドが形成される。
形成される白金ナノコロイドにおける白金ナノ粒子の平均粒径は例えば5〜100nmであり、特に30〜50nmであれば好ましく、白金ナノ粒子が前記カルボン酸類に覆われることによって保護される。
【0016】
白金ナノ粒子を担持させる担体としては、セラミックス等の耐熱物質等が挙げられる。セラミックスは、後述する瞬間乾燥工程S2においても消失することがなく好適に用いることができる。
担体の形状は特に限定されず、粒状であってもよいし、繊維状や膜状であってもよい。
担体材料の種類としては、他にも例えば多孔質無機材料が含まれる。これには、アルミナ、シリカ、シリカゲル、チタニア、ベントナイト、粘土、ジルコニア、マグネシア、その他種々の他の金属酸化物の単独または組み合わせを含むが、これらに限定されるものではない。
気孔率の低いシリカやアルミナは大きな表面積を有し多くの白金ナノ粒子を担持させ得ることができるので好ましく用いることができる。
また、担体の平均粒径としては、0.1〜5μmの範囲のものが好ましい。
【0017】
担体と白金ナノコロイドとの混合液を作製する混合工程S1における混合液の調製は、溶媒に、白金ナノ粒子コロイド溶液とセラミックス等の担体とを混合することにより行う。
溶媒としては、精製水から限外ろ過により不純物を除去した水を使用するが、これに限定されるものではなく、水又は水及び有機溶媒の混合溶媒を使用できる。
上記混合液の調整において、混合液中、白金ナノ粒子コロイド溶液は、1〜100μg/mlに調整されたものを10〜50質量%、セラミックス等の担体は、1〜50質量%、溶媒を残とする。
【0018】
次いで、瞬間乾燥工程S2では、上記混合液を瞬間乾燥し、白金ナノ粒子を担持した担持担体を作製するとともにコロイド液を燃焼させる。
上記混合液の瞬間乾燥し、白金ナノ粒子を担体に担持させた担持担体の作製は、スプレードライヤ等の噴霧乾燥を用いて行う。
なお、瞬間乾燥の方法としては、オーブン等の静置式乾燥、キルン、ロータリーエバポレーター等の回転式乾燥、固定床気流乾燥、流動床乾燥、ベルト炉等の移送型乾燥等も挙げられ、何れの方法を用いてもよく、これらの方法は、何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意に組み合わせで用いてもよい。
また、白金ナノ粒子を担持した担持担体の作製と同時に行われる、担持担体に含まれるコロイド液を燃焼させる瞬間乾燥工程S2での燃焼温度は、大気中で250〜300℃の範囲で行う。
【0019】
上述の瞬間乾燥工程S2により得られた担持担体は、コロイド液を形成していた有機物の保護材が消失し、担体に白金ナノ粒子が付着した状態であり、平均粒径は1〜10μmである。
【0020】
分離工程S3では、白金ナノ粒子を担持した担持担体を非イオン界面活性剤を含む水溶液中に分散させて、白金ナノ粒子を担持した担持担体から、白金ナノ粒子と担体とを分離する。
分離工程S3においては、上述の工程により得られた白金ナノ粒子担持担体を10〜30質量%、残を純水として調整混合する。
この調整混合においては、非イオン界面活性剤(例えば、ノイゲンXL−80あるいはノイゲンTDS−80等)を、混合液中に0.1〜1.0質量%の割合で添加して速やかに混合撹拌する。
混合撹拌後、さらに白金ナノ粒子の非イオン界面活性剤を含む水溶液中への分散を均一にするため、ホモジナイザー等の粉砕機により数分間撹拌し分散させることが好ましい。
ここで使用される粉砕機は超音波分散ミキサー等を使用してもよい。
なお、ここで使用する非イオン界面活性剤としては、特にその種類を特定するものではないが、毒性が低く環境安全性が高いものが好ましい。
【0021】
以上の工程により得られた白金ナノ粒子と担体を分散した水溶液を、遠心分離機にかけて、水溶液中の平均粒径1μm以上の担体を分離する。
その結果、水溶液中に均一分散された、平均粒径5〜100nmの白金ナノ粒子水溶液を得ることができる。
かくして得られる白金ナノ粒子水溶液は、白金ナノ粒子の抗酸化作用、除菌作用、さらに抗癌活性作用等の効果を高め、有利に使用することができる。この内、抗癌活性作用の効果については後述の実施例にて説明する。
なお、本発明について詳細に説明したが、上記実施の形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また以下の実施例を通じて説明される特徴が本発明を限定するものでもない。
【実施例1】
【0022】
体内において、活性酸素による生体分子の酸化は、癌や炎症等多くの病態の発症および進行に関与していることから、生体分子のレドックス制御は生体機能を制御する上で重要である。
本発明の白金ナノ粒子水溶液は、触媒反応を利用して様々な種類の活性酸素種を持続的に消去可能な抗酸化剤である。
本実施例では、活性酸素が関与する腹膜播種の効率的抑制を目的として、活性酸素種消去効果に優れた白金ナノ粒子水溶液を作製するとともに、腹腔内投与後の治療効果に関して評価した。
【0023】
図3は、本発明の白金ナノ粒子水溶液を用いた腹膜播種治療の効果を示す。腹膜播種治療を目的として、Balb/cヌードマウスの腹腔内に、colon26/Luc細胞を投与した腹膜播種モデルを作製した。
colon26/Luc細胞投与直前及び3日後に、2.0×10−3質量%の白金ナノ粒子水溶液を腹腔内投与し、in vivo微弱光イメージングシステムを用いた観察から、転移抑制効果を判定した。
白金ナノ粒子水溶液の作製にあたっては、担体としてシリカを使用し、上記分離工程S3によって担体としてシリカを分離し、平均粒径が100nmの白金ナノ粒子を10質量%、ノイゲンXL−80界面活性剤を0.1質量%添加して分散させた白金ナノ粒子水溶液を作製した。
また、比較例として、生理食塩水及びシスプラチンを使用した。
活性酸素種消去能は、NBT還元法または蛍光プローブ法により評価した。
また、体内動態評価は、白金ナノ粒子水溶液の腹腔内投与後の各臓器・組織中白金濃度をICP-MSを用いて測定した。
【0024】
その結果、白金ナノ粒子水溶液の腹腔内投与は、各種活性酸素に対して高い活性酸素種消去能を示した。
また、腹腔内投与後の白金ナノ粒子は腹腔内に長期滞留し、腹膜播種治療に有利な体内動態を示した。
さらに、腹腔内投与された白金ナノ粒子は、白金錯体であるシスプラチンと比較して、癌細胞の腹膜への接着・浸潤過程ならびに増殖過程を顕著に抑制したことから、腹膜播種治療における白金ナノ粒子の有用性が示された。
【実施例2】
【0025】
実施例2では、活性酸素が関与するLPS(Lipopolysaccharide)誘発肺障害の効率的抑制を目的として、活性酸素消去効果に優れた白金ナノ粒子水溶液を作製するとともに、経肺投与後の白金ナノ粒子水溶液の治療効果に関して評価した。
【0026】
図4は、本発明の白金ナノ粒子水溶液を用いた肺疾患治療の効果を示す。肺疾患治療を目的として、Wistar 系雄性ラットを pentobarbital 麻酔下、Enna & Schankerらの方法に準じて気管支にカニューレを挿管し、シリンジを用いてラットにLPSを経肺投与することによりLPS誘発肺障害モデルを作製した。
2.0×10−3質量%濃度の白金ナノ粒子水溶液を経肺投与後の肺胞洗浄液中、乳酸脱水素酵素(LDH)活性を指標に肺障害抑制効果を評価した。
白金ナノ粒子水溶液の作製にあたっては、担体としてシリカを使用し、上記分離工程S3によって担体としてシリカを分離し、平均粒径が100nmの白金ナノ粒子を10質量%、ノイゲンXL−80界面活性剤を0.1質量%添加して分散させた白金ナノ粒子水溶液を作製した。
活性酸素種消去能は、NBT還元法または蛍光プローブ法により評価した。
臓器分布評価は、経肺投与4時間後に採血、各臓器の摘出を行い、血漿、各臓器中白金量をICP-MS を用いて測定した。
【0027】
白金ナノ粒子は、各種活性酸素に対して高い活性酸素種消去能を示した。また、経肺投与後の白金ナノ粒子は、肺内に長期滞留する傾向を示し、肺疾患治療に有利な体内動態を示した。
さらに、白金ナノ粒子の経肺投与によりLPSによる肺障害が顕著に抑制されたことから、肺疾患治療における白金ナノ粒子の有用性が明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の白金ナノ粒子水溶液及び白金ナノ粒子担持体の製造方法は、溶媒中に担体と白金ナノコロイド溶液を混合させ、担体と白金ナノコロイドとの混合液を作製し、混合液を瞬間乾燥し、白金ナノ粒子を担持した担持担体を作製するとともにコロイド液を燃焼させ、白金ナノ粒子を担持した担持担体を非イオン界面活性剤を含む水溶液中に分散させて、白金ナノ粒子を担持した担持担体から、白金ナノ粒子と担体とを分離する工程を備えることを特徴とし、コロイド状態を維持するクエン酸等の有機物で分散させた状態ではなく、白金ナノ粒子そのものを水溶液中に均一分散させた状態で分散させることができるので、白金ナノ粒子自体が備えている抗酸化作用、除菌作用、さらに抗癌活性作用等の効果を、容易に発現させることができる。
また、本発明の白金ナノ粒子水溶液及び白金ナノ粒子担持体は、クエン酸等の有機物を用いてコロイド状に分散させたナノサイズの白金ナノ粒子を、その表面をコーティングしている有機物を燃焼させて消失させたものを用いているので、コロイド状の状態では発現できなかった、白金ナノ粒子自体が備えている抗酸化作用、除菌作用、さらに抗癌活性作用等の効果を高めることができる。
したがって、産業上の利用可能性が極めて高い。
【符号の説明】
【0029】
S1 混合工程
S2 瞬間乾燥工程
S3 分離工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中に担体と白金ナノコロイド溶液を混合させ、担体と白金ナノコロイドとの混合液を作製する混合工程と、
前記混合液を瞬間乾燥し、白金ナノ粒子を担持した担持担体を作製するとともにコロイド液を燃焼させる瞬間乾燥工程と、
前記白金ナノ粒子を担持した担持担体を非イオン界面活性剤を含む水溶液中に分散させて、前記白金ナノ粒子を担持した担持担体から、白金ナノ粒子と担体とを分離する分離工程と、を備えることを特徴とする白金ナノ粒子水溶液の製造方法。
【請求項2】
溶媒中に担体と白金ナノコロイド溶液を混合させ、担体と白金ナノコロイドとの混合液を作製する混合工程と、
前記混合液を瞬間乾燥し、白金ナノ粒子を担持した担持担体を作製するとともにコロイド液を燃焼させる瞬間乾燥工程と、を備えることを特徴とする白金ナノ粒子担持体の製造方法。
【請求項3】
溶媒中に担体と白金ナノコロイド溶液を混合して担体と白金ナノコロイドとの混合液とし、
前記混合液を瞬間乾燥して白金ナノ粒子を担持した担持担体を作製するとともにコロイド液を燃焼させて、
前記白金ナノ粒子を担持した担持担体を非イオン界面活性剤を含む水溶液中に分散させて、前記白金ナノ粒子を担持した担持担体から、白金ナノ粒子と担体とを分離してなることを特徴とする白金ナノ粒子水溶液。
【請求項4】
溶媒中に担体と白金ナノコロイド溶液を混合して担体と白金ナノコロイドとの混合液とし、
前記混合液を瞬間乾燥して白金ナノ粒子を担持した担持担体を作製するとともにコロイド液を燃焼させてなることを特徴とする白金ナノ粒子担持体。
【請求項5】
請求項3に記載の白金ナノ粒子水溶液又は請求項4に記載の白金ナノ粒子担持体により得られたものであることを特徴とする抗癌剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−195931(P2011−195931A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66516(P2010−66516)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(501021678)株式会社セラフト (17)
【Fターム(参考)】