説明

白金成形物の表面硬化方法及び表面が硬化された白金成形物

【課題】本発明の目的は、薄肉であっても耐自重変形性に優れて、変形しにくく、取り扱いが容易であり、高温高圧状態での耐食性及び耐久性を有し、還元雰囲気中での白金の粒成長及び粒界腐食を防止できる表面が硬化された白金成形物及びその表面硬化方法を提供することである。
【解決手段】本発明に係る白金成形物の表面硬化方法は、白金成形物20の表面に、イリジウム塩若しくはルテニウム塩のいずれか一方又は両方を含有する塗布液を塗布して塗布層を形成する塗布工程と、該塗布層を窒素ガス雰囲気中又は火炎中で熱分解して前記塗布層をイリジウム、ルテニウム又はイリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種を含む合金からなる被覆層30とする熱分解工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金成形物の表面を硬化する方法及び表面が硬化された白金成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、合成、分解、結晶育成などの化学反応において、反応効率、反応性などを向上させることを目的として、超臨界状態の溶媒を用いた処理が行なわれている。使用する溶媒の種類によって、例えば、溶媒として水を用いる水熱合成法、溶媒としてアンモニアを用いる安熱合成法が挙げられる。このような処理は、オートクレーブと呼ばれる圧力容器内において高温高圧条件下で実施することができる。その処理条件は、例えば、800℃及び4000気圧の超高温超高圧状態で実施されることもある。圧力容器を用いて合成される単結晶は、水熱合成法では、例えば、人工水晶、酸化亜鉛であり、安熱合成法では、例えば、窒化ガリウムである。これらの単結晶は、各種光学、電子素子などの用途に利用され、高い純度が要求される。したがって、圧力容器の内表面は、超高温超高圧状態で不純物が溶出しないことが求められ、一般に、耐食性及び耐久性に優れる白金又は白金の合金で形成される。
【0003】
ところで、白金は、耐熱性を有し、化学的に安定であり、更に柔らかく加工しやすいため、その成形物は、高温状態での理化学実験、鉱工業など多岐にわたって利用されている。しかし、白金は、その柔らかさゆえ、変形しやすい。また、比重が大きいため、成形物の厚さが薄いと、自重で変形することがある。したがって、強度を保持するためには、成形物の厚さを厚くする必要があるが、白金の使用量が増えると、当然に素材価格が上がり、成形物が非常に高価になるという問題があった。
【0004】
そこで、通常、圧力容器は、物理強度をニッケル基合金からなる外筒で保持し、その内部に耐食性を目的として白金で形成された薄肉の成形物を内筒容器として用いた2重構造としている(例えば、特許文献1を参照。)。しかし、この内筒容器は、非常に薄肉であるため、自重による変形が生じ(自重による変形の耐性を、以降、「耐自重変形性」という。)、圧力容器本体への取り付け作業などの取り扱いが困難になるという問題があった。
【0005】
白金を合金化することで、強度が高まり、成形物の取り扱いが容易になり、更には化学的安定性が向上することが知られている(例えば、特許文献2の段落0033を参照。)。また、用途は異なるが、電解用電極構造体として、金属表面に皮膜を形成することによって、化学的安定性及び物理的強度を向上させる技術が提案されている(例えば、特許文献3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−102671号公報
【特許文献2】特開2010−53017号公報
【特許文献3】特開2006−130486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
白金は、耐熱性を有し、化学的に安定であるという性質を有する反面、高温の還元雰囲気中では、粒成長及び粒界腐食を起こしやすいという性質がある。そのため、安熱合成法などの高温の還元雰囲気中にさらされる圧力容器の内筒として使用する場合には、白金の消耗が早く、内筒の寿命が短くなるという問題がある。他方、イリジウム及びルテニウムは、高温の還元雰囲気に対して安定であることが知られている。
【0008】
白金の合金は、白金と比較して物理的強度及び化学的安定性に優れることが知られているが、白金を合金にすると、加工性が極端に劣るという問題を抱えており、現実に白金の合金を圧力容器の内筒として使用しているケースはほとんどない。また、特許文献2の段落0034及び段落0035に示されるように、圧力容器には、内筒容器が内部圧力と外部圧力との差によって変形又は破損することを防止するために、容易に変形して圧力差を解消するためのベローズ構造などの圧力緩衝機構を設置することが好ましいが、白金の合金は、その加工性の悪さからベローズには、使用できない。したがって、内筒容器に白金の合金を用いたとしても、ベローズに、白金を用いることとなり、構造が複雑になるという問題を抱えている。
【0009】
前記のとおり、白金成形物の強度を向上させて取り扱いを容易にし、かつ、安熱合成法などの高温の還元雰囲気中でも安定して使用できる程度に耐食性を向上させた白金成形物は無いのが現状である。特許文献3には、チタン基材の表面に貴金属コーティングを行なうことで、化学的及び物理的な安定化を図る技術が提案されているが、この技術は、あくまでも、チタン基材の表面に窒化チタン層を形成し、その表面に貴金属を含む電極物質のコーティングを行なう技術であり、白金成形物の強度を向上させ、かつ、白金が還元雰囲気中で粒成長及び粒界腐食を起こすことを防止するというものではない。
【0010】
本発明の目的は、薄肉であっても耐自重変形性に優れて、変形しにくく、取り扱いが容易であり、高温高圧状態での耐食性及び耐久性を有し、還元雰囲気中での白金の粒成長及び粒界腐食を防止できる表面が硬化された白金成形物及びその表面硬化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る白金成形物の表面硬化方法は、白金成形物の表面に、イリジウム塩若しくはルテニウム塩のいずれか一方又は両方を含有する塗布液を塗布して塗布層を形成する塗布工程と、該塗布層を窒素ガス雰囲気中又は火炎中で熱分解して前記塗布層をイリジウム、ルテニウム又はイリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種を含む合金からなる被覆層とする熱分解工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る白金成形物の表面硬化方法は、前記白金成形物の厚さが、0.2〜1.0mmである形態により適している。薄肉であっても強度を保持できる。
【0013】
本発明に係る白金成形物の表面硬化方法では、さらに、前記被覆層の表面の一部の領域又は全部の領域を窒化処理する工程を有することが好ましい。表面をより硬くすることができる。また、酸化物の形成を防止でき、安熱合成法において、より純度の高い生成物を得ることができる。
【0014】
本発明に係る白金成形物の表面硬化方法では、前記塗布液は、更に白金化合物を含有することが好ましい。被覆層をイリジウム若しくはルテニウムのいずれか一方又は両方と白金との合金とすることができ、被覆層と白金成形物との密着をより高めることができる。
【0015】
本発明に係る白金成形物の表面硬化方法では、前記塗布液は、更にアルコールを含有することが好ましい。熱分解が還元雰囲気となり、酸素を除去することができるため、酸化物の生成を防止できる。また、耐食性の高いイリジウム、ルテニウム又はイリジウムもしくはルテニウムの少なくとも一種を含む合金をより安定的に析出することができるため、高温の還元雰囲気中での使用において、腐食を最小とすることができる。
【0016】
本発明に係る白金成形物の表面硬化方法では、前記白金成形物が、圧力容器の内筒であり、前記塗布工程は、前記内筒の内表面若しくは外表面のいずれか一方又は両方に前記塗布液を塗布して前記塗布層を形成する形態を含む。耐自重変形性が得られるので内筒単体での取り扱い性が向上し、圧力容器本体へ内筒の取り付けが容易になる。また、安熱合成法において、白金の粒成長及び粒界腐食を防止できる。
【0017】
本発明に係る白金成形物の表面硬化方法では、前記白金成形物が、圧力容器の内筒であり、更に、該内筒を前記圧力容器の本体に設置する設置工程を有し、該設置工程の後に、前記塗布工程と前記熱分解工程とを有し、前記塗布工程は、前記内筒の内表面に前記塗布液を塗布して前記塗布層を形成し、前記熱分解工程は、該塗布層をガスバーナーの火炎中で熱分解して前記被覆層を形成する形態を含む。圧力容器の本体に設置したままで、大型加熱炉などの特別な設備がなくても内筒の内表面の硬化処理を行なうことができる。
【0018】
本発明に係る白金成形物の表面硬化方法では、前記白金成形物が、圧力容器の本体に収容される種結晶取り付け用の棚であり、前記塗布工程は、前記棚の全表面に前記塗布液を塗布して前記塗布層を形成する形態を含む。安熱合成法による単結晶の育成において、不純物を少なくすることができる。
【0019】
本発明に係る白金成形物の表面硬化方法では、前記白金成形物が、圧力容器の開口部に設けられたフランジであり、前記塗布工程は、前記フランジの少なくともシール箇所となる部分の表面に前記塗布液を塗布して前記塗布層を形成する形態を含む。フランジの表面硬度を高めることができる。また、圧力容器の本体に設置したままで、大型加熱炉などの特別な設備がなくてもフランジの表面の硬化処理を行なうことができる。
【0020】
本発明に係る白金成形物の表面硬化方法では、前記白金成形物が、るつぼであり、前記塗布工程は、前記るつぼの内表面若しくは外表面のいずれか一方又は両方に前記塗布液を塗布して前記塗布層を形成する形態を含む。薄肉のるつぼの、取り扱い性が向上する。また、還元雰囲気中での耐久性が向上する。
【0021】
本発明に係る表面が硬化された白金成形物は、白金成形物の表面にイリジウム、ルテニウム又はイリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種を含む合金からなる被覆層を設けたことを特徴とする。
【0022】
本発明に係る表面が硬化された白金成形物では、前記白金成形物の表面は、圧力容器の内筒の内表面若しくは外表面のいずれか一方又は両方、圧力容器の本体に収容される種結晶取り付け用の棚の全表面、圧力容器の開口部に設けられたフランジの少なくともシール箇所となる部分の表面又はるつぼの内表面若しくは外表面のいずれか一方又は両方である形態を含む。
【0023】
本発明に係る表面が硬化された白金成形物では、前記白金成形物の厚さが、0.2〜1.0mmである形態を含む。成形物が薄肉であっても強度を保持でき、耐自重変形性を有する。
【0024】
本発明に係る表面が硬化された白金成形物では、前記被覆層の厚さが、1〜30μmであることが好ましい。白金成形物の表面を被覆して、化学的安定性及び物理的強度を向上させることができる。
【0025】
本発明に係る表面が硬化された白金成形物では、前記白金成形物の白金元素と前記被覆層に含まれる金属元素とが拡散していることが好ましい。白金成形物と被覆層との密着性が向上し、より化学的安定性及び物理的強度を向上させることができる。
【0026】
本発明に係る表面が硬化された白金成形物では、前記被覆層の一部の領域又は全部の領域において前記被覆層の少なくとも表面側がイリジウム、ルテニウム又はイリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種を含む合金の窒化処理層であることが好ましい。表面をより硬くすることができる。また、酸化物の形成を防止でき、安熱合成法において、より純度の高い生成物を得ることができる。
【0027】
本発明に係る表面が硬化された白金成形物では、前記窒化処理層の厚さが、1〜30μmであることが好ましい。表面をより硬くすることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、薄肉であっても耐自重変形性に優れて、変形しにくく、取り扱いが容易であり、高温高圧状態での耐食性及び耐久性を有し、還元雰囲気中での白金の粒成長及び粒界腐食を防止できる表面が硬化された白金成形物及びその表面硬化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施形態に係る白金成形物の断面構造の一形態を示す模式図である。
【図2】棚を有する圧力容器の一例を示す断面図である。
【図3】内筒容器を有する圧力容器の一例を示す断面図である。
【図4】大型の圧力容器の一例を示す断面図である。
【図5】図4に示す圧力容器のシール部を示す部分拡大断面図であり、(a)はフランジ及びガスケットの一形態を示す断面部分拡大図であり、(b)はガスケットの一形態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0031】
図1は、本実施形態に係る白金成形物の断面構造の一形態を示す模式図である。本実施形態に係る表面が硬化された白金成形物100は、白金成形物20の表面にイリジウム、ルテニウム又はイリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種を含む合金からなる被覆層30を設けている。
【0032】
白金成形物20の種類は、特に限定されないが、例えば、圧力容器の内筒、圧力容器の本体に収容される種結晶取り付け用の棚(バッフル・籠・結晶取りつけ)(以降、棚という。)、圧力容器の開口部に設けられたフランジ、るつぼである。ここで、圧力容器の内筒は、単独で密閉空間を形成し、圧力容器本体に収容して圧力容器に接合せずに使用するカプセルタイプの内筒(以降、内筒容器という。)及び圧力容器本体に収容し、圧力容器本体の内表面に密着又は接着させて使用するライニングタイプの内筒(以降、内筒という。)を包含する。
【0033】
白金成形物20の厚さは、0.2〜1.0mmであることが好ましい。より好ましくは、0.3〜0.7mmである。0.2mm未満では、物理的強度及び耐自重変形性に劣る場合がある。1.0mmを超えると、白金成形物を薄肉とし、白金の使用量を減らして成形物の価格を抑えることが困難となる。なお、白金成形物20の厚さは、全体が均一であってもよいし、部分的に厚さを変えてもよい。部分的に厚さを変える形態は、例えば、前記内筒において、フランジの厚さ並びに底部の厚さを筒部の厚さよりも厚くして補強する形態である。このとき、最も薄い部分の厚さ(例えば、円筒の側壁部分又は底部の厚さ)が、0.2〜1.0mmであることが好ましい。
【0034】
被覆層30は、イリジウム、ルテニウム又はイリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種を含む合金からなる。イリジウム、ルテニウム又はイリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種を含む合金は、還元雰囲気において粒成長を起こしにくい性質を有する。また、それらの融点は、2000℃以上であることから、1000℃程度の使用条件では化学的及び物理的に安定である。このように本実施形態に係る表面が硬化された白金成形物100は、表面にイリジウム、ルテニウム又はイリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種を含む合金が露出しているため、還元雰囲気中での化学的安定性を向上することができる。イリジウムを含む合金(以降、イリジウム合金という。)としては、例えば、イリジウム−ルテニウム合金、イリジウム−白金合金、イリジウム−ロジウム合金、イリジウム−金合金、イリジウム−レニウム合金である。ルテニウムを含む合金(以降、ルテニウム合金という。)としては、例えば、ルテニウム−イリジウム合金、ルテニウム−白金合金、ルテニウム−ロジウム合金、ルテニウム−金合金、ルテニウム−レニウム合金である。この中で、白金との合金である、イリジウム−白金合金又はルテニウム−白金合金が、白金成形物20との密着性がより高まり、物理的強度及び化学的安定性がより向上する点で好ましい。なお、イリジウム又はルテニウムと白金との合金のうち、白金の含有量は、10〜70質量%であることが好ましく、より好ましくは15〜60質量%である。合金中の白金の含有量が、10質量%未満では、所望の効果が得られない場合がある。70質量%を超えると、物理的強度及び還元雰囲気中での耐食性が不足する場合がある。特に十分な硬さが得られず、所期の目的が達成出来ない可能性がある。また、安熱合成法で使用する場合には、被覆層30は、イリジウム又はルテニウムの酸化物を含まないことが好ましい。より純度の高い反応生成物を得ることができる。
【0035】
被覆層30に含有させる金属をイリジウム、ルテニウム又はイリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種を含む合金のいずれとするかは、使用する条件及び目的に応じて適宜選択可能である。なお、合金は、例示した2種の金属からなる合金に限定されず、合金化する限りにおいて、3種以上の金属からなる合金とすることができる。3種以上の金属からなる合金は、例えば、ルテニウム−白金−ロジウム合金、イリジウム−白金−ロジウム合金、イリジウム−ルテニウム−ロジウム合金、イリジウム−白金−レニウム合金、ルテニウム−白金−レニウム合金、イリジウム−ルテニウム−レニウム合金、イリジウム−ルテニウム−ロジウム−白金である。
【0036】
本実施形態に係る表面が硬化された白金成形物100では、白金成形物20の白金元素と被覆層30に含まれるイリジウム、ルテニウムなどの金属元素とが拡散していることが好ましい。白金成形物20の白金と被覆層30のイリジウム、ルテニウム又はイリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種を含む合金とが、拡散することで、白金成形物20と被覆層30とが一体となり、密着性が向上し、より物理的強度及び化学的安定性を向上させることができる。拡散状態は、例えば、白金成形物20から白金元素が被覆層30に拡散する状態、被覆層30から金属元素が白金成形物20に拡散する状態、白金成形物20から白金元素が被覆層30に拡散し、かつ、被覆層30から金属元素が白金成形物20に拡散する相互拡散状態である。このように、本実施形態に係る表面が硬化された白金成形物100は、加工性の良好な白金を成形した後、イリジウム、ルテニウム又はイリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種を含む合金からなる被覆層を形成し、白金成形物20の白金元素と被覆層30の金属元素とを拡散させることによって、白金成形物20と被覆層30との界面を合金化しているため、白金の優れた加工適性を活かし、かつ、物理的強度及び化学的安定性を高めることができる。よって、様々な形状の白金成形物20に対応可能である。
【0037】
被覆層30は、1層だけで形成してもよいし、2層以上で形成してもよい。2層以上で形成する場合には、各層の構成を変えることができる。被覆層30を2層以上で形成する場合には、白金成形物20と隣接する第一被覆層は、イリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種と白金との合金からなる層とすることが好ましい。白金成形物20の表面上に第一被覆層と第二被覆層とを順に設ける場合には、例えば、第一被覆層をイリジウム又はルテニウムと白金との合金とし、第二被覆層をイリジウム又はルテニウムとロジウムとの合金とする。またこの第二の被覆層が、上記、イリジウム、ルテニウム、又はイリジウム、ルテニウムに更に第三の金属を含むことが出来ることも当然である。なお、各層の構成をイリジウム、ルテニウム又はイリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種を含む合金のいずれとするかは、使用条件及び目的に応じて、適宜選択可能であり、本実施形態はこれに制限されない。2層以上で形成した各被覆層に含まれる金属元素同士の間においても、白金成形物20の白金元素及び被覆層30に含まれる金属と同様に拡散していることが好ましい。拡散によって各層間が一体となり合金化するため、密着性が向上し、物理的強度及び化学的安定性を高めることができる。
【0038】
被覆層30の厚さは、1〜30μmであることが好ましい。より好ましくは、3〜10μmである。1μm未満では、物理的強度及び還元雰囲気中での耐食性が不十分である場合がある。また時として基材白金との拡散によって層に埋没する可能性がある。30μmを超えると、熱膨張係数の差異により急熱急冷など取り扱い条件によっては、剥離しやすくなる。また、イリジウム、ルテニウムなどの金属の使用量が増え、経済的に好ましくない。被覆層30を2層以上で形成する場合には、全被覆層の合計の厚さを前記範囲とする。また、層毎に厚さを変えることができる。
【0039】
イリジウム、ルテニウム又はイリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種を含む合金は、僅かではあるが、酸素を吸収する特性を有する。したがって、安熱合成法などの還元雰囲気中での反応に用いられる場合において、還元雰囲気を保持することができるという効果を奏する。
【0040】
本実施形態に係る表面が硬化された白金成形物100では、被覆層30の一部の領域又は全部の領域において被覆層30の少なくとも表面側がイリジウム、ルテニウム又はイリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種を含む合金の窒化処理層(不図示)であることが好ましく、より表面を硬化することができる。また、被覆層30の表面を窒化処理層とすることによって、被覆層20の表面に酸化物が形成されることを防止することができるため、安熱合成法などの酸素が不純物となる反応に用いる場合に好適である。
【0041】
白金成形物20が圧力容器の開口部に設けられたフランジである場合において、被覆層30の一部の領域を窒化処理層とするときは、例えば、特に物理的強度が必要なシール箇所となる部分だけを窒化処理層とする。白金成形物20がるつぼである場合において、被覆層30の一部の領域を窒化処理層とするときは、例えば、特に耐食性が必要な内表面のうち、反応に用いる薬品が接する部分及び接しうる部分だけを窒化処理層とする。
【0042】
窒化処理層は、被覆層30に含有されるイリジウム、ルテニウム又はイリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種を含む合金の窒化物を含有する。窒化処理層の窒化物の含有量は、表面が最も多く、基材の内部に向かうにつれて、次第に少なくなる分布となっている。窒化処理層の厚さは、1〜30μmであることが好ましい。より好ましくは、1〜10μmである。1μm未満では、表面を硬化する効果が不足する場合がある。30μmを超えると、窒化処理層の表面が脆くなり、窒化処理層内部で残留応力によるクラックの発生で表面が脆くなり、圧力を加えた場合に剥離が発生することがある。また、窒化処理にかかる時間が長くなるため経済的に好ましくない。
【0043】
本実施形態に係る白金成形物の表面硬化方法は、白金成形物20の表面に、イリジウム塩若しくはルテニウム塩のいずれか一方又は両方を含有する塗布液を塗布して塗布層を形成する塗布工程と、該塗布層を窒素ガス雰囲気中又は火炎中で熱分解して前記塗布層をイリジウム、ルテニウム又はイリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種を含む合金からなる被覆層30とする熱分解工程と、を有する。
【0044】
白金成形物20は、一般公知の方法、例えば、鋳造方法、鍛造方法、プレス成形、溶接などで作製する方法で得ることができる。したがって、白金成形物20を成形する方法は、本実施形態では特に限定されない。白金成形物20の厚さは、0.2〜1.0mmであることが好ましい。
【0045】
塗布工程は、白金成形物20の表面に、イリジウム塩若しくはルテニウム塩のいずれか一方又は両方を含有する塗布液を塗布し、乾燥させて塗布層を形成する。塗布液は、後に行なわれる熱分解によってイリジウム、ルテニウム又はイリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種を含む合金を析出させて被覆層30を形成できればよく、本実施形態では特に限定されない。塗布液は、例えば、イリジウム塩又はルテニウム塩と、溶媒としてアルコールと、を配合した溶液である。イリジウム塩は、例えば、塩化イリジウム、硝酸イリジウム、塩化イリジウム酸、イリジウムブトキシドなどである。ルテニウム塩は、例えば、塩化ルテニウム、硝酸ルテニウム、塩化ルテニウム酸、ルテニウムブトキシドなどである。この中で、加熱分解によってイリジウム、ルテニウム又はイリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種を含む合金を効率的に析出できる点で、イリジウム塩は、塩化イリジウムであることが好ましく、ルテニウム塩は、塩化ルテニウムであることが入手しやすく比較的安価であるので好ましい。
【0046】
塗布液には、更にイリジウム又はルテニウムと合金を形成する金属の化合物を配合することができる。イリジウム又はルテニウムと合金を形成する金属の化合物は、例えば、塩化白金酸、ジニトロジアンミン白金などの白金化合物、塩化ロジウム、硝酸ロジウムなどのロジウム化合物、塩化金酸、塩化金、シアン化金などの金化合物、塩化レニウム、硝酸レニウムなどのレニウム化合物である。この中で、白金化合物としては、塩化白金酸、ジニトロジアンミン白金などを使用することが好ましく、イリジウム塩やルテニウム塩と組み合わせるには、塩化白金酸を選定することが特に好ましい。イリジウム又はルテニウムと白金との合金が形成され、白金成形物との密着性が高まるため、物理的強度及び還元雰囲気中での耐食性がより向上する。
【0047】
塗布液は、溶媒としてアルコールを含有することが好ましい。ここで、アルコールは、溶媒であり、かつ、有機還元剤となる。アルコールは、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノールが挙げられる。塗布液には、更に、テレビン油などのアルコール以外の有機還元剤を配合してもよい。本実施形態は、塗布液を塗布する方式及び乾燥する方式に制限されない。
【0048】
熱分解工程では、塗布層を窒素ガス雰囲気中又は火炎中で熱分解することによって、塗布工程で得られた塗布層に含まれるイリジウム塩若しくはルテニウム塩のいずれか一方又は両方及びイリジウム又はルテニウムと合金を形成する金属の化合物を、イリジウム、ルテニウム又はイリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種を含む合金として析出させて被覆層30を形成する。イリジウム及びルテニウムは、酸素を含む雰囲気中で熱分解すると、酸化物を形成するため、窒素ガス雰囲気中又は火炎中で塗布層を熱分解することで、金属を析出させることができる。熱分解は、窒素ガスが供給可能な加熱炉を用いて、窒素雰囲気中で行なうことが好ましい。しかし、作業現場においては、例えば、白金成形物が加熱炉に入らないような大型である場合、白金成形物が着脱困難な状態で別部品に取りつけられていて全体を加熱することができない場合、設備を整えることができない場合も想定される。そのような場合には、大気雰囲気中でガスバーナーを用いて火炎中で熱分解を行なうことができる。ここで、空気中の酸素は燃焼に使用されるため、白金成形物の表面は、実質的に窒素雰囲気となり、金属としてイリジウム、ルテニウム又はイリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種を含む合金を析出することができる。さらに、窒素雰囲気をより高めることができる点で、ガスバーナーのトーチの周囲に窒素ガスを供給しながら熱分解を行なうことがより好ましい。また、塗布液にアルコールを含有させることで、より還元雰囲気とすることができ、酸化物の生成を防止できる。
【0049】
被覆層30の厚さは、1〜30μmであることが好ましい。より好ましくは、1〜10μmである。当該厚さになるまで塗布工程及び熱分解工程を複数回繰り返すことが好ましい。ポアが少なく、均一な塗布層を得ることができ、白金成形物の表面をイリジウム、ルテニウム又はイリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種を含む合金によって更に確実に被覆することができる。塗布工程1回あたりの塗布量は、0.05〜1μmとすることが好ましい。より好ましくは、0.10〜0.5μmである。
【0050】
塗布工程及び熱分解工程を複数回繰り返す場合には、全塗布工程において塗布液の成分を同じとしてもよいし、2種類以上の塗布液を用いてもよい。2種類以上の塗布液を用いる場合には、最初の塗布工程で用いる塗布液には、イリジウム塩若しくはルテニウム塩のいずれか一方又は両方に加えて、塩化白金酸などの白金化合物を含有させることが好ましい。例えば、塗布工程及び熱分解工程を15回繰り返して被覆層を5μmにする場合において、最初の5回の塗布工程では、塗布液を、塩化イリジウムと塩化白金酸とのアルコール溶液として塗布工程1回あたりの塗布量を0.2μmとし、次の10回の塗布工程では、塗布液を、塩化イリジウムと塩化ルテニウムとのアルコール溶液として塗布工程1回あたりの塗布量を0.4μmとする形態である。これによって、白金成形物20の表面上に形成したイリジウム−白金合金からなる第一被覆層と該第一被覆層の上に形成したイリジウムからなる第二被覆層とからなる2層構成の被覆層30を形成することができる。被覆層30は、白金成形物20との密着性が高まるため、物理的強度及び還元雰囲気中での耐食性がより向上する。更に熱膨張率(線膨張係数)が段階的に起こるために加熱、冷却において被覆層自身の破壊が起こりにくくなると共に剥離しにくくなる。
【0051】
白金成形物20の白金元素と被覆層30に含まれる金属元素との間では、拡散が行なわれることが好ましい。拡散は、熱分解工程における加熱によって熱分解処理と同時に行なってもよいが、熱分解工程後、更に加熱して、白金成形物20の白金元素と被覆層30に含まれる金属元素とを拡散させると共に、被覆層内の歪みを除去するための安定化工程を設けることが好ましい。特に、被覆層30に含まれる金属として、2種類以上の金属を含有する場合には、熱分解工程で、イリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種を含む金属を予め合金化して被覆層を形成しておき、安定化工程で更に加熱することよって、より効率的に拡散を行なうことができる。また、塗布工程及び熱分解工程を複数回繰り返して被覆層を形成する場合には、熱分解工程において、各被覆層のイリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種を含む金属の合金化を行ない、安定化工程によって隣接する被覆層に含まれる金属同士の間及び白金成形物の白金元素と白金成形物と隣接する第一被覆層に含まれる金属との間での拡散処理を行なうことができる。
【0052】
熱分解工程及び安定化工程において、加熱条件は、特に限定されない。安定化工程を行なわない場合には、例えば、熱分解工程において、加熱温度を700〜1000℃とし、加熱時間を1〜2時間とすることで熱分解処理及び拡散処理を同時に行なうことができる。また、安定化工程を行なう場合には、例えば、熱分解工程において、加熱温度を500〜600℃とし、処理時間を5〜15分として熱分解処理を行ない、安定化工程において、加熱温度を700〜1000℃とし、加熱時間を1〜2時間として拡散処理を行なう。安定化工程において、拡散処理は、窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気中又は大気などの酸素含有雰囲気中で行なうこともできる。より好ましくは、窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気中である。不活性雰囲気中で行なうことで、表面に酸化物が形成されることがなく、安熱合成法においてより純度の高い結晶を得ることができる。なお、本実施形態では、熱分解工程で予め合金化されているため、大気雰囲気中などの酸化雰囲気中でも殆ど酸化物が形成されることなく、拡散させることができる。
【0053】
本実施形態に係る白金成形物の表面硬化方法では、さらに、被覆層30の表面の一部の領域又は全部の領域を窒化処理する工程を有することが好ましい。窒化処理は、窒素又は窒素化合物を含有するガス中で加熱することによって行なうことができる。窒素又は窒素化合物を含有するガスは、特に限定されず、例えば、窒素ガス、アンモニアガス、窒素−水素混合ガスである。加熱温度及び加熱時間は、特に限定されず、窒化処理層の厚さが、例えば、1〜30μmの範囲内になる条件を選定することが好ましい。窒化処理によって、白金成形物の表面硬度をより高めることができ、更に、酸化物を除去できるため、安熱合成法において、生成される結晶の純度を向上させることができる。一部の領域を窒化処理する方法は、特に限定されないが、例えば、窒化処理を行なわない部分にマスキングを施す方法がある。
【0054】
図2は、棚を有する圧力容器の一例を示す断面図である。図2に示す圧力容器119は、単結晶の育成用容器として使用されるものである。圧力容器119の基本的な構成は次のとおりである。圧力容器119は、本体1と蓋2とを有する。本体1及び蓋2は、例えば、低合金鋼、ニッケルクロム合金などの耐熱合金で構成されている。本体1は、その外周部に配置したヒータ4によって加熱される。本体1の内部は、下内筒105が設置されている。下内筒105にはフランジ105a(以降、下フランジということもある。)が形成されている。また、蓋2の内部も本体1と同様に、上内筒106が設置されている。上内筒106にはフランジ106a(以降、上フランジということもある。)が形成されている。この下内筒105及び上内筒106は、ライニングタイプの内筒である。本体1は、一端が開口した有底筒状であり、その開口部の外周縁には、遠心方向に張り出した下フランジ105aが設けられている。圧力容器119は、上フランジ106aと下フランジ105aとの間に、ガスケット7を介してナット、クランプなどの固定具3で固定することで密封する構造になっている。したがって、フランジには大きな圧力がかかるため、十分な耐圧を有することが必要である。また、圧力容器の密封時には、上フランジ106aと、ガスケット7と、下フランジ105aとは、線又は面で当接してシール部を形成している(以降、該当接部分をシール箇所という。)。特に、シール箇所には、高い表面硬度が求められる。下内筒105及び上内筒106は、白金などの耐熱耐食性を有する金属で成形されている。ガスケット7は、ニッケル基合金、白金族金属などの耐熱耐食性を有する金属で成形され、より好ましくは、上フランジ106a及び下フランジ105aよりも硬度の低い材料で成形される。
【0055】
図2に示す圧力容器119の本体1内には、棚108が収容されている。棚108は、白金製の架台である。棚108は、上部に種結晶架台10と、下部に原料11と、種結晶架台10と原料11との間に対流制御板9と、を有し、溶媒(不図示)で満たされた下内筒105及び上内筒106内に設置されている。単結晶の育成は、下内筒105及び上内筒106内で行なわれる。したがって、下内筒105及び上内筒106には、高い耐食性が求められるため、白金で成形する必要がある。
【0056】
本実施形態に係る白金成形物の表面硬化方法では、白金成形物が、圧力容器119の下内筒105及び上内筒106であることが好ましい。下内筒105の寸法は、圧力容器の大きさによって異なるが、例えば、中型圧力容器で、内径が20〜70mmであり、容量が0.1〜8lである。大型圧力容器で、内径が70〜150mmであり、容量が8〜50lである。
【0057】
下内筒105の表面処理は、圧力容器119の本体1に設置する前又は圧力容器119の本体1に設置した後のいずれにも行なうことができる。下内筒105の表面処理を本体1への設置前に行なう場合には、被覆層を設ける表面は、下内筒105の内表面若しくは外表面のいずれか一方又は両方とすることができ、下内筒105の寸法、用途、反応条件など各種条件に応じて適宜選択可能である。下内筒105の厚さを、例えば、0.2〜1.0mmのように薄くしても、本体1内への取り付け及び取り外し作業が容易になる。下内筒105の厚さを薄くしても、耐自重変形性を付与することができる。また、下内筒105のハンドリングがしやすくなり、圧力容器119の本体1内への取り付け及び取り外し作業が容易になる。安熱合成法に使用する場合には、下内筒105の少なくとも内表面に被覆層を形成することで、高温の還元雰囲気中での粒成長及び粒界腐食を防止でき、より純度の高い反応生成物を得ることができる。さらに、被覆層を窒化処理することによって、物理的強度をより向上させ、かつ、安熱合成法による反応生成物の純度をより高めることができる。
【0058】
下内筒105の表面処理を圧力容器119の本体1への設置後に行なう場合には、被覆層を設ける表面は、下内筒105の内表面とすることができる。この場合において、熱分解工程は、ガスバーナーの火炎中で熱分解して塗布層を被覆層とすることが好ましい。熱分解工程に、ガスバーナーの火炎を用いることによって、圧力容器119の本体1に設置したままで、表面処理を行なうことができ、下内筒105を取り外し時の、変形又は破損のおそれを避けることができる。また、既に作業現場に設備された白金製下内筒105を有する圧力容器についても、作業現場から移動させることなく、下内筒105の内表面の硬化処理を行なうことができ、安熱合成法に対応した圧力容器とすることができる。さらに、被覆層を、窒素又は水素を加えた窒素ガスをこの容器に加え、外部から加熱することによって、該表面を更に窒化処理し、物理的強度をより向上させ、かつ、安熱合成法による反応生成物の純度をより高めることができる。
【0059】
また、本実施形態に係る表面が硬化された白金成形物では、白金成形物の表面は、圧力容器119の蓋2に配置された上内筒106とすることが好ましい。不純物の生成をより抑制して純度の高い反応生成物を得ることができる。
【0060】
本実施形態に係る白金成形物の表面硬化方法では、白金成形物が、圧力容器119の本体1に収容される棚108であることが好ましい。棚108の素材厚さを、例えば、0.2〜1.0mmのように薄くすることができる。棚108の厚さを薄くしても、自重によって変形することを防止することができる。また、棚108のハンドリングがしやすくなり、圧力容器119の本体1内への収容及び取り出し作業が容易になる。さらに、棚108は白金で一体に成形することができる。棚108の寸法は、圧力容器の大きさによって異なるが、例えば、中型圧力容器で、内径が20〜70mmであり、高さが300〜2000mmである。大型圧力容器で、内径が70〜150mmであり、高さが2000〜3000mmである。
【0061】
被覆層30を設ける表面は、圧力容器119の本体1に収容される棚108の全表面とすることが好ましい。棚108の構成部の全表面に被覆層を形成することで、安熱合成法で使用する場合には、高温の還元雰囲気中での粒成長及び粒界腐食を防止でき、より純度の高い反応生成物を得ることができる。さらに、被覆層を窒化処理することによって、反応生成物の純度をより向上させることができ、かつ、物理的強度を高めることができる。安熱合成法で使用する場合には、当然に、下内筒105及び上内筒106の内表面にも被覆層を設けることが好ましい。
【0062】
図3は、内筒容器を有する圧力容器の一例を示す断面図である。図3に示す圧力容器19は、基本構成を図2に示す圧力容器と同じくする。図3に示す圧力容器19の本体1内には、内筒容器8が収容されている。内筒容器8は、白金製の密封可能な筒状容器である。その上部には圧力調整のためのベローズ12が内筒容器8の内部を密封した状態で取りつけられている。内筒容器8の内部には、図2に記載された棚108と溶媒(不図示)とが収容されている。単結晶の育成は、内筒容器8内で行なわれる。したがって、図3の圧力容器19では、下防食ライニング5及び上防食ライニング6は、直接は処理液には触れないために、内筒に要求されるほどの高い耐食性は必須としない。白金であることが特に好ましいが、これに限定されず、例えば、商品名ハステロイ、インコネルなどのニッケル基合金、チタン、チタン合金、タンタル、タンタル合金とすることができる。内筒容器8の寸法は、圧力容器の大きさによって異なるが、例えば、中型圧力容器で、内径が20〜70mmであり、容量が0.1〜8lである。大型圧力容器で、内径が70〜150mmであり、容量が8〜50lである。
【0063】
本実施形態に係る白金成形物の表面硬化方法では、白金成形物が、圧力容器19の内筒容器8であることが好ましい。内筒容器8の厚さを、例えば、0.2〜1.0mmのように薄くすることができる。内筒容器8の厚さを薄くしても、自重によって変形することを防止することができる。また、内筒容器単体でのハンドリングがしやすくなり、圧力容器19の本体1内への収容及び取り出し作業が容易になる。さらに、内筒容器8とベローズ12とを白金で一体に成形することができるため、内筒容器8とベローズ12との複雑な接合が不要となり、内筒容器8の耐圧性をより高めることができる。
【0064】
被覆層30を設ける表面は、圧力容器19の内筒容器8の内表面若しくは外表面のいずれか一方又は両方とすることができ、内筒容器8の寸法、用途、反応条件など各種条件に応じて適宜選択可能である。安熱合成法に使用する場合には、内筒容器8の少なくとも内表面に被覆層を形成することで、高温の還元雰囲気中での粒成長及び粒界腐食を防止でき、より純度の高い反応生成物を得ることができる。さらに、被覆層を窒化処理することによって、反応生成物の純度をより向上させることができ、かつ、物理的強度を高めることができる。
【0065】
図3の圧力容器19において、下防食ライニング5、上防食ライニング6を白金としたときは、その内表面に被覆層を形成して表面を硬化することができる。これによって、ガスケット/フランジ部分の簡略化を図ることができ、構造的に簡単に出来る。
【0066】
図4は、大型の圧力容器の一例を示す断面図である。図4に示す圧力容器900は、基本構成を図2に示す圧力容器と同じとする。図4の圧力容器900には、更に、本体1と下内筒105との間に下防食ライニング5が配置され、蓋2と上内筒106との間にも上防食ライニング6が配置されている。下防食ライニング5及び上防食ライニング6は、商品名インコネル、ハステロイなどの耐圧耐熱耐食性に優れたニッケル基合金で構成されている。下防食ライニング5及び上防食ライニング6は、下内筒105及び上内筒106が破損して強腐食性の物質が流出した場合に、本体1が腐食されるのを防止する役割をもち、より高温高圧条件に対応した圧力容器とすることができる。なお、図2の圧力容器119は中型の圧力容器であるが、それらに防食ライニングを設けてもよい。
【0067】
図4に示す大型圧力容器900は、本体1の内面に下防食ライニング5と下内筒105とが配置された構造であるため、下内筒105の表面処理を行なうことによって、どうしても大型化する内筒自身の白金材を薄くすることが出来る。これによって高価な白金の使用量を減らすことが可能となり、大きな経済メリットを得ることが出来る。
【0068】
図5は、図4に示す圧力容器のシール部を示す部分拡大断面図である。前述のとおり、下フランジ105a及び上フランジ106aには大きな圧力がかかるため、高い表面硬度が求められる。したがって、本実施形態に係る白金成形物の表面硬化方法では、白金成形物20が、圧力容器900の開口部に設けられた下フランジ105a及び上フランジ106aである形態に好適である。
【0069】
下内筒105と下フランジ105aとは、白金で一体として成形してもよいし、下フランジ105aを別部品として成形し、下内筒105と下フランジ105aとを接合してもよい。下フランジ105aを別部品として成形する場合には、本実施形態では、下内筒105と下フランジ105aとを接合する方法に制限されない。接合する方法は、例えば、図5に示すように、下内筒105の開口周縁にフランジ取付部Tを設け、その上に下フランジ105aを溶接又は拡散による接合によって取りつける方法が挙げられる。また、下内筒105及び下フランジ105aと同様に、上内筒106と上フランジ106aとは、白金で一体として成形してもよいし、上フランジ106aを別部品として成形し、上内筒106と上フランジ106aとを接合してもよい。
【0070】
被覆層を設ける表面は、下フランジ105a及び上フランジ106aの少なくともシール箇所となる部分Sの表面とすることが好ましい。被覆層は、少なくともシール箇所となる部分Sの表面に形成されていればよいが、より好ましくは、上フランジ106aと下フランジ105aとが対面する側の全表面を被覆する形態である。全表面に形成することで、上フランジ106a及び下フランジ105aの耐久性を向上させることができる。なお、図5を用いて、図4に示す圧力容器のフランジについて説明したが、本実施形態では、白金成形物としてのフランジは、図4に示す下内筒105に取りつけられた下フランジ105aに限定されず、例えば、図3に示す下防食ライニング5及び上防食ライニング6に形成された下フランジ5a及び上フランジ6aを包含する。
【0071】
図4における上フランジ106a、下フランジ105a、図3における上フランジ6a、下フランジ5aの変形を防止するために、図4における上フランジ106a、下フランジ105a、図3における上フランジ6a、下フランジ5aの表面は、ガスケット7の表面よりも硬いことが好ましい。図4における上フランジ106a、下フランジ105a、図3における上フランジ6a、下フランジ5aの表面に被覆層30を形成することよって、ガスケット7よりも表面を硬くすることができる。図4における上フランジ106a、下フランジ105a、図3における上フランジ6a、下フランジ5aの表面をより硬くするために、塗布工程及び熱分解工程を2回以上繰り返して被覆層を形成することが好ましい。ポアが少なく、均一な被覆層を得ることができ、物理的強度を高めることができる。ここで、少なくとも最初の塗布工程で用いる塗布液には、イリジウムの塩又はルテニウムの塩と塩化白金酸などの白金化合物とを配合して、イリジウム又はルテニウムと白金との合金からなる被覆層を形成することが好ましい。白金成形物と被覆層との密着性が高まり、より物理的強度を向上させることができる。さらに硬さを求める場合には、被覆層30の表面を窒化処理することで、表面硬度及び物理的強度をより高めることができる。
【0072】
本実施形態に係る表面が硬化された白金成形物の表面が、図4における上フランジ106a、下フランジ105a、図3における上フランジ6a、下フランジ5aである場合には、JIS Z 2244:2009に準じて測定した表面のビッカース硬度が、300Hv〜500Hvであることが好ましい。より好ましくは、350Hv〜450Hvである。300Hv未満では、締め付けによって、大きな変形(つぶれ)が起こり、十分なシールができなくなる場合がある。また、ガスケットより表面硬度が低くなる場合があり、フランジが変形し、圧力容器の寿命を縮めてしまうことがある。500Hvを超えると、亀裂が生じるおそれがある。さらに、破断する場合がある。
【0073】
本実施形態に係る白金成形物の表面硬化方法では、白金成形物が、るつぼであることが好ましい。白金製のるつぼは、例えば、各種酸化物の単結晶育成、光学ガラスの融解など微量不純物の混入を防止する目的で使用される。本実施形態では、白金成形物20として、ジルコニア(ZrO)などの酸化物を分散させた、いわゆる強化白金製のるつぼを包含する。被覆層30を設ける表面は、るつぼの内表面若しくは外表面のいずれか一方又は両方とすることができ、るつぼの寸法、用途、反応条件など各種条件に応じて適宜選択可能である。るつぼの厚さを、例えば、0.2〜1.0mmのように薄くすることができる。るつぼの厚さを薄くしても、自重によって変形することを防止することができる。また、るつぼのハンドリングがしやすくなる。さらに、還元雰囲気中での耐久性が向上する。さらに、被覆層30を窒化処理することによって、反応生成物の純度をより向上させることができ、かつ、物理的強度を高めることができる。るつぼの寸法は、例えば、内径が25〜100mmであり、高さが25〜150mmであり、容量が0.01〜2lである。なお、本実施形態は、るつぼの形状及び寸法に制限されるものではない。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を示しながら本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されない。
【0075】
(実施例1)
白金成形物として、白金を直径(内寸)30mm、高さ200mm、厚さ0.2mmである一端が開口した有底円筒状の圧力容器の内筒を成形した。塩化イリジウムと塩化白金酸とをモル比で80:20となるように配合し、ブタノールに溶解し、イリジウム及び白金の合計モル濃度で0.25mol−Ir+Pt/lの溶液を塗布液とした。得られた塗布液を内筒の内表面に塗布し、60℃で10分間静置し、乾燥させ塗布層を形成した。1回あたりの塗布量は、20ml/mであった。塗布層の表面を大気雰囲気中でガスバーナーの火炎を用いて加熱処理して熱分解を行ったところ、厚さ0.1μmのイリジウム−白金合金の被膜を得た。熱分解工程において、火炎があたっている部分の中心部における加熱処理面の最高温度が600〜750℃の範囲になるように加熱し、処理時間は10分とした。なお、本実施例において火炎の温度は、放射温度計(型式AD‐5616、エーアンドディー社製)を用いて測定した。塗布液の塗布から熱分解までを10回繰り返し、イリジウム−白金合金からなる厚さが1.0μmの被覆層を形成した。被覆層の表面を更に大気雰囲気中でガスバーナーの火炎を用いて加熱することによって、安定化処理を行なった。安定化工程において、火炎があたっている部分の中心部における加熱処理面の最高温度が750〜900℃の範囲になるように加熱し、処理時間は20分とした。得られた内筒は、表面の硬さが増し、圧力容器本体への取り付けが容易となった。また、内表面は、イリジウム−白金合金で被覆されているため、安熱合成法の容器として用いても粒成長及び粒界腐食を起こしにくい内筒とすることができた。
【0076】
(実施例2)
白金成形物として、白金製内筒の開口部の外周縁に直径70mm、厚さ2.0mmであるフランジを成形した。塩化ルテニウムと塩化白金酸とをモル比で1:1となるように配合し、ブタノールに溶解し、ルテニウム及び白金の合計モル濃度で0.5mol−Ru+Pt/lの溶液を第一塗布液とした。得られた第一塗布液をフランジの蓋側のフランジ(上フランジ)と対面する側の表面に塗布し、40℃で15分間静置し、乾燥させ塗布層を形成した。1回あたりの塗布量は、20ml/mであった。塗布層の表面を大気雰囲気中でガスバーナーの火炎を用いて加熱処理して熱分解を行ったところ、厚さ0.2μmのルテニウム−白金合金の被膜を得た。第一熱分解工程において、火炎があたっている部分の中心部における加熱処理面の最高温度が550〜650℃の範囲になるように加熱し、処理時間は30分とした。第一塗布液の塗布から熱分解までを5回繰り返し、ルテニウム−白金合金からなる厚さが1.0μmの第一被覆層を形成した。次いで、塩化ルテニウムと塩化ロジウムとをモル比で1:1となるように配合し、ブタノールに溶解し、ルテニウム及びロジウムの合計モル濃度で1.0mol−Ru+Rh/lの溶液を第二塗布液とした。得られた第二塗布液を第一被覆層上に塗布し、60℃で10分間静置し、乾燥させ塗布層を形成した。1回あたりの塗布量は、0.5μmであった。塗布層の表面を大気雰囲気中でガスバーナーの火炎を用いて加熱処理して熱分解を行ない、塗布から、厚さ0.5μmのルテニウム−ロジウム合金の被膜を得た。第二熱分解工程において、火炎があたっている部分の中心部における加熱処理面の最高温度が650〜750℃の範囲になるように加熱し、処理時間は30分とした。第二塗布液の塗布から熱分解までを20回繰り返し、ルテニウム−ロジウムからなる厚さが10μmの第二被覆層を形成した。さらに、マッフル付きの電気炉を用いて大気雰囲気中で、雰囲気温度を700℃とし、処理時間を2時間として安定化処理を行なった。得られた表面が硬化されたフランジは、見かけ上、白金とは僅かに色調が異なり、若干黒色を帯びた金属光沢を示した。JIS Z 2244:2009に準じてビッカース硬度を測定したところ、350〜380Hvであり、フランジとして十分な表面硬度を有することが確認できた。
【0077】
(実施例3)
白金成形物として、直径(内寸)70mm、高さ100mm、厚さ0.8mmであるるつぼを成形した。塩化イリジウムをブタノールに溶解し、イリジウムのモル濃度で0.5mol−Ir/lの溶液を塗布液とした。得られた塗布液をるつぼの内表面及び外表面に塗布し、40〜50℃で10分間静置し、乾燥させ塗布層を形成した。1回あたりの塗布量は、20ml/mであった。塗布層の表面をブタンガス及び空気の混合気体を送りながらガスバーナーの火炎を用いて加熱処理して熱分解を行ったところ、厚さ0.1μmのイリジウム金属の被膜を得た。熱分解工程において、火炎があたっている部分の中心部における加熱処理面の最高温度が800〜850℃の範囲になるように加熱し、処理時間は20分とした。塗布液の塗布から熱分解までを10回繰り返し、イリジウム金属からなる厚さが1.0μmの被覆層を形成した。被覆層の表面を更に大気雰囲気中でガスバーナーの火炎を用いて加熱することによって、安定化処理を行なった。安定化工程において、火炎があたっている部分の中心部における加熱処理面の最高温度が850〜900℃の範囲になるように加熱し、処理時間は40分とした。得られたるつぼは、表面の硬さが増し、ハンドリング性が向上した。
【0078】
(実施例4)
実施例1において、塩化イリジウムと塩化ルテニウムとをモル比で80:20となるように配合し、ブタノールに溶解し、イリジウム及びルテニウムの合計モル濃度で0.5mol−Ir+Ru/lの溶液を塗布液とした以外は、実施例1に準じて、白金成形物である圧力容器の内筒の表面を硬化処理した。得られた内筒の内表面は、イリジウム−ルテニウム合金で被覆されていた。得られた内筒は、表面の硬さが増し、圧力容器本体への取り付けが容易となった。また、安熱合成法の容器として用いても粒成長及び粒界腐食を起こしにくい内筒とすることができた。参考までに実施例2で測定したと同様にJIS Z 2244:2009に準じてビッカース硬度を測定したところ、380〜400Hvであった。
【0079】
(実施例5)
実施例2において、安定化処理後、更に、純窒素ガス中で、1100℃で3時間保持してフランジ表面の全部の領域を窒化処理した。窒化処理層の厚さは、約5μmであった。窒化処理層の表面について、JIS Z 2244:2009に準じてビッカース硬度を測定したところ、420〜450Hvであり、実施例2で得られたフランジよりも表面硬度が向上したことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明に係る白金成形物の表面硬化方法は、白金成形物が、例えば、0.2〜1.0mmのように薄肉であっても、物理的強度を確保できる。また、白金成形物の内表面をイリジウム、ルテニウム又はイリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種を含む合金とすることで、安熱合成法などの還元雰囲気中であっても、白金の粒成長及び粒界腐食を防止でき、化学的に安定な白金成形物とすることができる。例えば、圧力容器の内筒、フランジ及びるつぼの内表面、外表面又は内外表面を硬化するのに好適である。また、白金製のトング、蒸発皿など白金成形物の表面を硬化するのに適している。
【符号の説明】
【0081】
1 本体
2 蓋
3 固定具
4 ヒータ
5 下防食ライニング
6 上防食ライニング
5a,105a 下フランジ
6a,106a 上フランジ
7 ガスケット
8 内筒容器
8a 内筒容器のフランジ
9 対流制御版
10 種結晶架台
11 原料
12 ベローズ
19,119,900 圧力容器
20 白金成形物
30 被覆層
100 表面が硬化された白金成形物
105 下内筒
106 上内筒
100 白金成形物
108 棚(バッフル・籠・結晶取りつけ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金成形物の表面に、イリジウム塩若しくはルテニウム塩のいずれか一方又は両方を含有する塗布液を塗布して塗布層を形成する塗布工程と、
該塗布層を窒素ガス雰囲気中又は火炎中で熱分解して前記塗布層をイリジウム、ルテニウム又はイリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種を含む合金からなる被覆層とする熱分解工程と、
を有することを特徴とする白金成形物の表面硬化方法。
【請求項2】
前記白金成形物の厚さが、0.2〜1.0mmであることを特徴とする請求項1に記載の白金成形物の表面硬化方法。
【請求項3】
さらに、前記被覆層の表面の一部の領域又は全部の領域を窒化処理する工程を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の白金成形物の表面硬化方法。
【請求項4】
前記塗布液は、更に白金化合物を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の白金成形物の表面硬化方法。
【請求項5】
前記塗布液は、更にアルコールを含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の白金成形物の表面硬化方法。
【請求項6】
前記白金成形物が、圧力容器の内筒であり、
前記塗布工程は、前記内筒の内表面若しくは外表面のいずれか一方又は両方に前記塗布液を塗布して前記塗布層を形成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の白金成形物の表面硬化方法。
【請求項7】
前記白金成形物が、圧力容器の内筒であり、
更に、該内筒を前記圧力容器の本体に設置する設置工程を有し、
該設置工程の後に、前記塗布工程と前記熱分解工程とを有し、
前記塗布工程は、前記内筒の内表面に前記塗布液を塗布して前記塗布層を形成し、
前記熱分解工程は、該塗布層をガスバーナーの火炎中で熱分解して前記被覆層を形成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の白金成形物の表面硬化方法。
【請求項8】
前記白金成形物が、圧力容器の本体に収容される種結晶取り付け用の棚であり、
前記塗布工程は、前記棚の全表面に前記塗布液を塗布して前記塗布層を形成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の白金成形物の表面硬化方法。
【請求項9】
前記白金成形物が、圧力容器の開口部に設けられたフランジであり、
前記塗布工程は、前記フランジの少なくともシール箇所となる部分の表面に前記塗布液を塗布して前記塗布層を形成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の白金成形物の表面硬化方法。
【請求項10】
前記白金成形物が、るつぼであり、
前記塗布工程は、前記るつぼの内表面若しくは外表面のいずれか一方又は両方に前記塗布液を塗布して前記塗布層を形成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の白金成形物の表面硬化方法。
【請求項11】
白金成形物の表面にイリジウム、ルテニウム又はイリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種を含む合金からなる被覆層を設けたことを特徴とする表面が硬化された白金成形物。
【請求項12】
前記白金成形物の表面は、圧力容器の内筒の内表面若しくは外表面のいずれか一方又は両方、圧力容器の本体に収容される種結晶取り付け用の棚の全表面、圧力容器の開口部に設けられたフランジの少なくともシール箇所となる部分の表面又はるつぼの内表面若しくは外表面のいずれか一方又は両方であることを特徴とする請求項11に記載の表面が硬化された白金成形物。
【請求項13】
前記白金成形物の厚さが、0.2〜1.0mmであることを特徴とする請求項11又は12に記載の表面が硬化された白金成形物。
【請求項14】
前記被覆層の厚さが、1〜30μmであることを特徴とする請求項11〜13のいずれか一つに記載の表面が硬化された白金成形物。
【請求項15】
前記白金成形物の白金元素と前記被覆層に含まれる金属元素とが拡散していることを特徴とする請求項11〜14のいずれか一つに記載の表面が硬化された白金成形物。
【請求項16】
前記被覆層の一部の領域又は全部の領域において前記被覆層の少なくとも表面側がイリジウム、ルテニウム又はイリジウム若しくはルテニウムの少なくとも一種を含む合金の窒化処理層であることを特徴とする請求項11〜15のいずれか一つに記載の表面が硬化された白金成形物。
【請求項17】
前記窒化処理層の厚さが、1〜30μmであることを特徴とする請求項16に記載の表面が硬化された白金成形物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−12632(P2012−12632A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147872(P2010−147872)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000136561)株式会社フルヤ金属 (48)
【Fターム(参考)】