説明

白金架橋ナノワイヤ粒子担持カーボン及びその製造方法

【課題】燃料電池用の電極触媒などとして用いることができる、白金をナノサイズレベルで形状制御してカーボンに担持させた新規な白金−カーボン複合体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】白金ナノ粒子を担持したカーボンにおいて、前記白金ナノ粒子が、白金元素によってその骨格が形成され、かつ直径1〜5nmの交差結合したワイヤ状骨格が3次元的に架橋した外径5〜100nmの単結晶からなる又は微結晶が連結したワイヤ状形態を有することを特徴とする。また、白金錯化合物、二種類の非イオン性界面活性剤、水、及び各種カーボンからなるからなる反応混合物を調製し、次いでこの反応混合物に還元剤水溶液を添加して反応させる白金ナノ粒子を担持したカーボンの製造方法において、前記反応混合物を減圧下で調製することにより、白金架橋ナノワイヤ粒子を生成させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金の化学的及び電気化学的特性を利用した燃料電池用電極触媒などの各種電気化学反応に用いる触媒、自動車排ガス処理用触媒等の産業及び環境分野における各種化学反応に用いる触媒、燃料電池用ガス拡散電極、金属―空気電池用ガス拡散電極、食塩電解用ガス拡散電極、電気分解用等のガス拡散電極、マイクロリアクター構成材料、物質貯蔵材料、各種センサ、ペースト、電気配線材、電気抵抗体、キャパシタ、永久磁石などの機能性材料として使用される新規な白金架橋ナノワイヤ粒子担持カーボン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー変換及び物質変換のための各種電極触媒並びにガス拡散電極は、一般に、カーボン等の導電性担体に、金属塩の水溶液あるいはコロイド分散系を用いて金属成分を導入したのち、焼成、水素還元などの処理を行い調製する方法や(非特許文献1)、CVDなどの気相法を用いて調製される。つまり、電極触媒は、固体担体の表面に金属粒子を担持した複合粒子の形で調製され、その活性は、金属種はもとより、担持された金属微粒子の大きさ、結晶面の種類、担体の種類などによって変化し、微粒子の形状および大きさの制御は特に重要である。
【0003】
このため、白金触媒及び白金電極触媒の調製法として、上記の一般的な方法を様々に工夫することに加えて、ポリビニルピロリドンなどの保護剤存在下で液相還元し白金コロイドを作製する方法(非特許文献2)なども開発されてきている。
【0004】
最近では、メソポーラスシリカを鋳型とする光還元、Hガス及び電着法を用いた還元により白金ナノワイヤが得られており、(非特許文献3、4)また、パラジウムについても、シリカを鋳型として、その細孔径に応じた直径および長さをもつナノワイヤが合成されている(非特許文献5)。また、三次元細孔構造をもつメソポーラスシリカを鋳型とする水素還元により、白金ワイヤが三次元網目状に連結し、シリカ壁の厚さに相当する直径約3nmの細孔をもつポーラス白金粒子が得られているが(非特許文献6)、いずれもカーボン上への担持についての言及はない。
【0005】
一方、本発明者らは、二種類の界面活性剤から成る液晶を鋳型として塩化白金酸を還元する手法を開発し、還元剤および白金塩の種類によって、外径5〜7nm、内径2〜4nmの白金、パラジウムなどの白金ナノチューブ、直径1.5〜4nm、外径20〜100nmのスポンジ状白金ナノ粒子及び該スポンジ状白金ナノ粒子(スポンジ状形態を有する白金ナノシート)担持カーボンを製造した(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0006】
しかしながら、上記の文献に開示されている白金ナノ構造体は、あくまで独立して生成するバルクの超微粉やスポンジ状白金ナノ粒子(シート)担持カーボンであり、白金架橋ナノワイヤ粒子担持カーボンについての言及はない。
【0007】
【非特許文献1】富永博夫ほか1名、化学総説「触媒設計」、日本化学会編、1982年、p.50-63
【非特許文献2】N. Toshimaほか1名、Bull. Chem. Soc. Jpn., 65, 400 (1992)
【非特許文献3】M. Sasakiほか6名、MicroporousMesoporous Mater., 21, 597 (1998).
【非特許文献4】Z. Liuほか7名、Angew. Chem. Int. Ed., 39, 3107 (2000).
【非特許文献5】K-. B. Leeほか2名、Adv. Mater., 13, 7, 517 (2001).
【非特許文献6】H. J. Shinほか3名J. Am. Chem. Soc., 123, 1246-1247 (2001).
【特許文献1】木島 剛、特開2004−034228
【特許文献2】木島 剛、ほか1名、特開2006−045582
【特許文献3】木島 剛、ほか1名、特開2006−228450
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、白金に代表される白金及びその合金をカーボン上に担持する従来技術は、還元剤の添加や各種反応の利用によって自己組織的に形成される球状もしくは不定形の超微粒子が大多数であり、新規な物性の発現及び燃料電池用電極の性能向上のために、白金をナノサイズレベルで形状制御してカーボンに担持させ、これによって従来とは異なる形態、性質を有する新規な白金−カーボン複合体の開発が諸分野から望まれている。
【0009】
また、燃料電池用の電極として、酸素還元活性が低いことに起因するカソード過電圧の低減が強く望まれている。
本発明は、燃料電池用の電極触媒などとして用いることができる、白金をナノサイズレベルで形状制御してカーボンに担持させた新規な白金−カーボン複合体及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのため、本発明者らにおいては、以上紹介した従来技術を前提技術とし、従来技術とは異なる形態の、形状制御した白金系触媒を開発すべく、本発明者らが先に提案し、特許出願した特許文献1〜3に記載の複合界面活性剤系を基礎とする鋳型合成法をさらに発展させた結果、白金塩を含む特定の反応混合物を調製し、減圧下で反応混合物に予めカーボン粉末を混合し、混合物が所定の割合に達した後、還元反応をすることによってカーボン粉末に白金架橋ナノワイヤ粒子を析出させることに成功し、これによって新規な形態の白金―カーボン複合体を提供することができることを知見した。本発明は、この知見に基づいてなされたものであり、その構成は以下(1)から(9)に記載のとおりである。
【0011】
すなわち、第1の発明は、(1)白金ナノ粒子を担持したカーボンにおいて、前記白金ナノ粒子が、白金元素によってその骨格が構成され、かつ直径1〜5nmの交差結合したワイヤ状骨格が3次元的に架橋した外径5〜100nmの単結晶からなる又は微結晶が連結したワイヤ状形態を有することを特徴とする、白金ナノ粒子を担持したカーボンである。
【0012】
第2の発明は、前記第1の発明の製造方法を提示するものである。すなわち、(2)白金錯化合物、及び、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタンエステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーよりなる群から選択された二種類の非イオン性界面活性剤、水、並びに各種カーボンからなる反応混合物を調製し、次いでこの反応混合物に還元剤水溶液を添加して反応させる白金ナノ粒子を担持したカーボンの製造方法において、前記反応混合物を減圧下で調製することにより、白金元素によってその骨格が形成され、かつ交差結合したワイヤ状骨格が3次元的に架橋した単結晶からなる又は微結晶が連結したワイヤ状形態を有する白金ナノ粒子を生成させることを特徴とする、白金ナノ粒子を担持したカーボンの製造方法である。
【0013】
第3〜6の発明は、第2の発明の実施形態を示すものである。
すなわち、(3)前記白金錯化合物として、ヘキサクロロ白金酸又はその塩等を用い、二種類の非イオン性界面活性剤については、(4)前記ポリオキシエチレンアルキルエーテル類として、ノナエチレングリコールドデシルエーテル、ノナエチレングリコールモノヘキサデシルエーテル等を用い、(5)前記ポリオキシエチレンソルビタンエステルとして、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等を用い、(6)前記還元剤水溶液として、ヒドラジン水溶液等を用いる(2)に記載の白金ナノ粒子を担持したカーボンの製造方法である。
【0014】
また、第7の発明は、(7)第1の発明の白金架橋ナノワイヤ粒子担持カーボンを含んでなり、その物性に基づいた用途に使用することを特徴とする機能性材料であり、第8〜9の発明は、さらに具体的な用途に使用するものである。
すなわち、第8の発明は、(8)電極触媒などの触媒材料として供され、使用される前記(7)の機能性材料であり、第9の発明は、(9)その用途が専ら燃料電池や金属空気電池などのガス拡散電極として供され、使用されること、又は電気分解用等の電極として供され、使用されることを特徴とする前記(7)の機能性材料を提供するものである。
さらに、その用途が専らマイクロリアクター構成材料として供され、使用される機能性材料、その用途が専ら物質貯蔵材料として供され、使用される機能性材料、その用途が専ら温度、圧力、湿度、結露、流量、風速、光、ガス、酸素濃度、若しくは変位を検出あるいは測定するセンサ、又は形状記憶センサとして供され、使用される機能性材料、その用途が専らペーストとして供され、使用されることを特徴とする機能性材料、その用途が専ら電気配線材、電気抵抗体、またはキャパシタとして供され、使用される機能性材料、その用途が専ら永久磁石として供され、使用される機能性材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の製造方法の骨子は、少なくとも二種類の界面活性剤、白金塩の水溶液及びカーボンとを減圧下で適切な条件で混合することによって得られる構造を鋳型として白金塩を還元することによって特定寸法のナノ粒子をカーボン上に誘導するというものであり、鋳型を構築するための最適温度や混合条件も、対象とする白金の種類、用いる界面活性剤の特性、用いるカーボンの特性、及び還元剤の種類によって多様に変化する。
【0016】
白金錯化合物(白金塩)として、ヘキサクロロ白金酸(HPtCl)を用い、二種類の非イオン性界面活性剤として、ノナエチレングリコールドデシルエーテル、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレートを用いた場合には、以下のような条件を採用することができる。
ヘキサクロロ白金酸2モルに対し、ノナエチレングリコールドデシルエーテルを1〜10モル、水を1〜600モル加えて60〜70℃で10〜30分間振とう混合後、冷却しA水溶液とする。次に、50〜70℃でポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレートを1〜10モル、水を1〜600モル加えて10〜30分混合後、冷却しB水溶液とする。A水溶液にB水溶液を添加し、10〜30分攪拌後、ここに、カーボンを、Ptの全体重量比が10〜70wt%となるように加え、任意のモル比となるまで減圧下で攪拌しながら水を除去する。0〜30℃好ましくは0〜10℃まで十分冷却して、ヒドラジンをヘキサクロロ白金酸1モル当たり1〜700モル好ましくは350〜600モル滴下し、その温度で1分〜24時間保持し、その後、エタノール洗浄、水洗を経て乾燥させ、白金架橋ナノワイヤ粒子担持カーボンを得る。
【0017】
本発明の特徴である減圧の条件は、限定されるものではないが、0.01〜0.0001atmを採用することが好ましい。特許文献3に記載されているように、反応混合物の調整を常圧で行った場合には、本発明に示すようなワイヤ状形態を有する白金ナノ粒子を担持したカーボンは得られない。
【0018】
カーボンとしては、ファーネスブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブ等を用いることができる。
【0019】
本発明は、以上の特徴を持つものであるが、以下、本発明を実施例及び添付した図面に基づき、具体的に説明する。ただし、これらの実施例は、あくまでも本発明の一つの態様を開示するものであり、決して本発明を限定する趣旨ではない。本発明を構成する金属種や製造方法もこの実施例によって限定されるべきではない。
【0020】
図1は、以下に記載する本発明の実施例1で得られた交差結合したワイヤ状白金ナノ粒子担持カーボンの透過形電子顕微鏡による観察写真であり、これによると、本発明の白金組織は、交差結合したワイヤ状構造を呈し、かつ、カーボン上に担持されていることが観察される。
【実施例1】
【0021】
白金を白金成分とする白金架橋ナノワイヤ粒子担持カーボンを以下のようにして製造した。
ヘキサクロロ白金酸(HPtCl)2モルに対し、ノナエチレングリコールドデシルエーテル(C12EO)を2モル、水を300モル加えて60℃で10分間振とう混合後、冷却しA水溶液とした。次に60℃でポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート(Tween60;米国
Atlas Powder社
商品名)を2モル、水を300モル加えて15分間混合後、冷却しB水溶液とした。A水溶液にB水溶液を添加し、10分攪拌後、ここに、ファーネスブラック(VXC72R;米国 Cabot 社 商品名)を、Ptの全体重量比が46wt%となるように加え、HPtCl:C12EO:Tween60:HO=2:2:2:30となるまで減圧下(0.0008atm)で攪拌しながら水を除去した。4℃まで十分冷却して、ヒドラジンをヘキサクロロ塩化白金酸1モル当たり481モル滴下し、その温度で10分間保持し、その後、エタノール洗浄、水洗を経て乾燥させ、黒色粉末を得た。
【0022】
PtCl:C12EO:Tween60:HO=2:2:2:30で調整して得られた生成物のX線回折パターンは、白金の結晶構造を反映したピークを示しており、得られた生成物が白金を担持したカーボンであることが確認された(図3)。
【0023】
透過型電子顕微鏡による観察により、カーボン上に担持された白金生成物が、直径1〜5nmの交差結合したワイヤ状骨格が3次元的に連結した外径5〜100nmの単結晶からなるワイヤ状形態及び微結晶が連結したワイヤ状形態を有することを確認した(図1、図2)。これにより、本発明にかかる多孔性の単結晶構造のあるいは微結晶が連結したワイヤ状白金ナノ粒子が担持されたカーボンが得られたことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、上述したように、燃料電池用電極触媒、燃料電池用ガス拡散電極、金属―空気電池用ガス拡散電極、食塩電解用のガス拡散電極、電気分解用等のガス拡散電極等においてきわめて有意な活性を有し、これによって極めて高価な白金ないし白金材料を使用するデバイスにおいて、材料節減効果を有することはもちろん、高レベルの性質、機能を発現するものと期待される。燃料電池、金属―空気電池、食塩電解等に利用されるガス拡散電極及びその構成材料は、近未来の重要技術に位置づけられており、エネルギーおよび環境の観点からも最重要の技術課題の一つである。本発明の特異な形態、特異な間隙を有しなる白金を担持したカーボン材料の意義は、極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1で得られた白金架橋ナノワイヤ粒子担持カーボンの透過型電子顕微鏡による観察図である。
【図2】実施例1で得られた白金架橋ナノワイヤ粒子担持カーボンの透過型電子顕微鏡による観察図(図1の拡大図)である。
【図3】実施例1で得られた白金架橋ナノワイヤ粒子担持カーボンのX線回折図形である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金ナノ粒子を担持したカーボンにおいて、前記白金ナノ粒子が、白金元素によってその骨格が形成され、かつ直径1〜5nmの交差結合したワイヤ状骨格が3次元的に架橋した外径5〜100nmの単結晶からなる又は微結晶が連結したワイヤ状形態を有することを特徴とする、白金ナノ粒子を担持したカーボン。
【請求項2】
白金錯化合物、及び、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタンエステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーよりなる群から選択された二種類の非イオン性界面活性剤、水、並びに各種カーボンからなる反応混合物を調製し、次いでこの反応混合物に還元剤水溶液を添加して反応させる白金ナノ粒子を担持したカーボンの製造方法において、前記反応混合物を減圧下で調製することにより、白金元素によってその骨格が形成され、かつ交差結合したワイヤ状骨格が3次元的に架橋した単結晶からなる又は微結晶が連結したワイヤ状形態を有する白金ナノ粒子を生成させることを特徴とする、白金ナノ粒子を担持したカーボンの製造方法。
【請求項3】
前記白金錯化合物が、ヘキサクロロ白金酸又はその塩であることを特徴とする請求項2に記載の白金ナノ粒子を担持したカーボンの製造方法。
【請求項4】
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテル類が、ノナエチレングリコールドデシルエーテル又はノナエチレングリコールモノヘキサデシルエーテルであることを特徴とする請求項2又は3に記載の白金ナノ粒子を担持したカーボンの製造方法。
【請求項5】
前記ポリオキシエチレンソルビタンエステルが、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートであることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の白金ナノ粒子を担持したカーボンの製造方法。
【請求項6】
前記還元剤水溶液が、ヒドラジン水溶液であることを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載の白金ナノ粒子を担持したカーボンの製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の白金ナノ粒子を担持したカーボンからなる機能性材料。
【請求項8】
触媒材料であることを特徴とする請求項7に記載の機能性材料。
【請求項9】
電極用材料であることを特徴とする請求項7に記載の機能性材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−201602(P2008−201602A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37200(P2007−37200)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、産業再生法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【Fターム(参考)】