説明

白金(II)錯体並びに該錯体の製法及び使用

本発明は、白金(II)錯体、特に、中性二座配位子を含有するジカルボキシラト白金(II)錯体(例えば、オキサリプラチン等)の製造法に関する。この方法には、ビス−ジカルボキシラトプラチネート(II)種を適当な中性の二座配位子と反応させることによって中性のジカルボキシラト白金(II)錯体生成物を生成させる工程及び必要に応じて該生成物を再結晶化処理に付すことによって中性二座配位子を含有する純粋なジカルボキシラト白金(II)錯体を生成させる工程が含まれる。本発明は、ビス−ジカルボキシラトプラチネート(II)種の製造方法及び本発明方法によって製造することができる新規な白金(II)錯体にも関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金(II)錯体の製造、特に、中性二座配位子を含有するジカルボキシラト白金(II)錯体[例えば、抗癌活性を有する点で重要性が増大しているオキサリプラチン(oxaliplatin)等]の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から中性二座配位子(非脱離基)を含有するジカルボキシラト白金(II)錯体(例えば、オキサリプラチン等)は、銀塩を使用して錯体からハロゲン化物イオンを除去する方法によって合成されている。この方法においては、銀塩の使用によって多数の不純物がもたらされる。該錯体を抗癌性薬剤用に供するのに適当な純度まで精製するためには、この種の不純物は別の方法によって除去されなければならない。
【0003】
オキサリプラチンとその薬学的特性は、キダニらによって最初に開示されている:J. Med. Chem.、1978年、第21巻、第13135頁;米国特許第4169846号明細書。この特許発明においては、ハロゲノ白金化合物が出発物質として使用されている。ハロゲン化物イオンが銀塩によって除去された後、オキサレートは遊離酸又はその塩の形態で導入される。
【0004】
一般に、オキサリプラチンの製造法は以下の反応式によって説明される。
【化1】

【0005】
田中貴金属工業社による米国特許第5290961号明細書には、上記の方法には、生成物中に多くの不純物が含まれるという欠点があるということが教示されている。この種の不純物には、未反応のPtLX、AgX及びAgが含まれる。PtLXの存在は、一般に該化合物が水に対して不溶性であるということに起因する。この結果、第二段階においては、PtLXを溶解させるために多量の水を使用しなければならない。このため、AgXは水に対して不溶性ではあるが、該化合物を溶液から完全に除去することが妨げられる。田中貴金属工業社による米国特許第5338874号及び同第5420319号明細書には、高い光学的純度を有するシス−オキサラト(トランス−l−1,2−シクロヘキサンジアミン)白金(II)の製造法が開示されており、該化合物が抗癌剤の活性な薬学的成分として使用できることが教示されている。しかしながら、これらの特許公報に記載されている方法には、複雑な多段階工程が含まれており、最終的に生成物から除去されなければならない銀化合物を使用するという難点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の従来技術に関連する問題点、即ち、銀化合物を用いて中性二座配位子を含有するジカルボキシラト白金(II)錯体(例えば、オキサリプラチン等)を製造する従来法は、最終生成物の汚染をもたらすだけでなく、製造時間の浪費と製品のコスト高をもたらすという問題点を解決するためになされたものである。さらに、上記錯体の製法において、銀化合物が不要になれば、新規な白金化合物群(即ち、N以外のドナー原子、S又はSe等を含有する配位子)の合成が可能になり、本発明はこのような点にも向けられたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の観点は、下記の工程 i)及び所望による工程 ii)を含む中性二座配位子を含有する白金(II)錯体、特に、中性二座配位子を含有するジカルボキシラト白金(II)錯体(例えば、オキサリプラチン等)の製造方法に関する:
i)ビス−ジカルボキシラトプラチネート(II)種を適当な中性二座配位子と反応させることによって、中性ジカルボキシラト白金(II)錯体生成物を生成させ、次いで所望により、
ii)該生成物を再結晶化処理に付すことによって、中性二座配位子を含有する純粋なジカルボキシラト白金(II)錯体を生成させる。
【0008】
ビス−オキサラトプラチネート(II)種及び配位子は、一般的には、40℃〜100℃(好ましくは、約95℃)で0.5〜3時間(好ましくは、1時間)反応させる。
【0009】
いずれのジカルボキシラトプラチネート(II)種も次の方法によって生成物から除去してもよい。即ち、生成物を蒸留水に溶解させ、得られる溶液にオキサレート(例えば、Cs)を添加する。この場合、オキサレートは、ジカルボキシラトプラチネート(II)種を、溶解された生成物から濾過によって分離することができる化学種に変換させる。
【0010】
中性二座配位子は、一般的にはアミンであり、アミンはジアミンであってもよい。
【0011】
上記方法を化学的及び光学的に純粋なオキサリプラチンの調製に適用する場合、配位子は光学的に純粋なトランス−l−1,2−ジアミノシクロヘキサンである。
【0012】
中性二座配位子は、N以外のドナー原子を含有していてもよく、あるいは、Nと共にN以外のドナー原子(例えば、一般的には、S及びSe)を含有していてもよい。このような配位子としては以下の化合物が例示される。
【0013】
(a)Sドナー原子(例えば、チオエーテル性基)を有する中性二座複素環式アミン、例えば、1−アルキル/アリール−2−アルキルチオアルキル/アリール複素環式アミン、特にイミダゾール又はピリジン。この種の配位子としては、次の化合物が例示される:
配位子(i) 1−メチル−2−メチルチオエチルイミダゾール
配位子(ii) 1−メチル−2−メチルチオプロピルイミダゾール
配位子(iii) 1−ブチル−2−メチルチオメチルイミダゾール
配位子(iv) 1−メチル−2−メチルチオメチルイミダゾール
配位子(v) 1−ブチル−2−メチルチオエチルイミダゾール
配位子(vi) 2−メチルチオメチルピリジン
配位子(vii) 2−メチルチオエチルピリジン
配位子(viii) 2−メチルチオプロピルピリジン
【0014】
(b)アミノアルキルチオアルキル/アリール化合物。この種の配位子としては次の化合物が例示される:
配位子(ix) 1−アミノ−2−チオメチルエタン
配位子(x) 1−アミノ−2−チオエチルエタン
【0015】
(c)ジチオエーテル。この種の配位子としては次の化合物が例示される:
配位子(xi) 2,5−ジチアヘキサン
【0016】
(d)ジセレノエーテル。この種の配位子としては次の化合物が例示される:
配位子(xii) 2,5−ジセレノヘキサン等。
【0017】
ドナー原子としてS又はSeを含有する新規なオキサラト白金(II)錯体であって、本発明方法を使用して調製することができる該錯体としては、下記の錯体が例示される:
錯体(i) オキサラト(1−メチル−2−メチルチオエチルイミダゾール)白金(II)
錯体(ii) オキサラト(1−メチル−2−メチルチオプロピルイミダゾール)白金(II)
錯体(iii) オキサラト(1−ブチル−2−メチルチオメチルイミダゾール)白金(II)
錯体(iv) オキサラト(1−メチル−2−メチルチオメチルイミダゾール)白金(II)
錯体(v) オキサラト(1−ブチル−2−メチルチオエチルイミダゾール)白金(II)
錯体(vi) オキサラト(2−メチルチオメチルピリジン)白金(II)
錯体(vii) オキサラト(1−アミノ−2−チオエチルエタン)白金(II)
錯体(viii)オキサラト(1−アミノ−2−チオプロピルエタン)白金(II)
錯体(ix) オキサラト(1−アミノ−2−チオメチルエタン)白金(II)
錯体(x) オキサラト(1−アミノ−2−チオエチルエタン)白金(II)
錯体(xi) オキサラト(2,5−ジチアヘキサン)白金(II)
錯体(xii) オキサラト(2,5−ジセレノヘキサン)白金(II)。
【0018】
上記の新規な錯体は、患者の癌を処置する方法に使用してもよく、又、患者の癌を処置するための薬剤の製造に使用してもよい。
【0019】
本発明方法によって製造される錯体は痕跡量の銀も含有しない。
【0020】
本発明の第二の観点は、本発明の第一の観点に係る方法において使用してもよいビス−ジカルボキシラトプラチネート(II)種、例えば、ビス−オキサラトプラチネート(II)塩等の製造方法に関する。本発明の第二の観点による製法には、白金(II)化合物(例えば、KPtX)若しくは白金(IV)化合物(例えば、KPtX)(式中、Xはハロゲン原子、例えば、Cl,Br又はIを示し、好ましくはClを示す)をジカルボキシレート(例えば、オキサレート)と反応させる工程が含まれる。白金(II)化合物若しくは白金(IV)化合物とオキサレート塩は1:4よりも高いモル比で反応させる。該モル比は、好ましくは1:8以上、より好ましくは1:16以上、最も好ましくは1:24以上である。
【0021】
白金(IV)化合物を使用する場合、該化合物はオキサレートによって白金(II)へ還元されるが、該化合物は別の還元剤、例えば、SO又はスルフィットによって還元されてもよい。
【0022】
オキサレートは典型的にはKである。
【0023】
白金(II)ビス−ジカルボキシラト種は一般的にはKPt(C・2HOである。
【0024】
白金(II)化合物若しくは白金(IV)化合物とオキサレーは、典型的には、40℃〜100℃未満の温度(好ましくは約95℃)において0.5〜4時間(典型的には1時間)反応させる。
【0025】
図1は、KPtClとKを95℃で一定時間(1時間15分)反応させたときの、K対KPtClとの比及びKPt(C・2HOの合成効率(収率)との関係を示すグラフである。
【0026】
図2は、KPtClとKを95℃で反応させたときにKPt(C・2HOの収率が85%になるのに要した時間とオキサレート対白金比との関係を示すグラフである。
【0027】
図3は、実施例4において水(6ml)に分散させたときに溶解しなかったオキサリプラチン生成物のクロマトグラフである。
【0028】
図4は、実施例4において図3に示すオキサリプラチンを水で洗浄した後の該生成物のクロマトグラフである。
【0029】
図5は、実施例4において調製した生成物であって、キラルカラムにおいて光学的純度を示した化学的に純粋なオキサリプラチン生成物のクロマトグラフである。
【0030】
本発明は、オキサリプラチンのような中性2座配子(「非脱離基」)を含有する白金(II)錯体、得にジカルボキシラト白金(II)錯体の製造方法、及びN以外の供与体原子を含有する新規な白金(II)錯体に関する。該製造方法は下記の工程1及び2並びに所望による工程3を含む。
工程1:ビス−ジカルボキシラトプラチネート(II)種(典型的には、KPt(C・2HOを調製する。
工程2:ビス−ジカルボキシラトプラチネート(II)種を適当な中性二座配位子と反応させることによって、中性二座配位子生成物を含有するジカルボキシラト白金(II)錯体を形成させる。
工程3:得られた生成物を再結晶させることによって、中性二座配位子を含有する純粋なオキサラト白金(II)錯体を形成させる。
【0031】
工程1
これらの全ての工程において採用した反応時間は、反応試薬を約10g使用したときの時間である。
【0032】
ビス−ジカルボキシラトプラチネート(II)種、例えば、KPt(C・2HOは、出発物質としてKPtCl又はKPtClを使用して合成してもよい。又、出発物質としてHPtClを使用してもよい。
【0033】
方法1:KPtClを使用してKPt(C・2HOを合成する方法
PtClとKを1:16のモル比で蒸留水に溶解させ、該溶液を40℃〜100℃(典型的には、約95℃)で0.5〜2時間(典型的には、1時間)にわたって撹拌させる。反応溶液を2℃〜10℃(一般的には約5℃)の温度において0.5〜2時間(一般的には1時間)冷却させることによって晶出を完結させる。沈殿した生成物は、濾過処理に付した後、少量の冷水で5回洗浄した後、アセトンで1回洗浄し、次いで自然乾燥させる。
【化2】

【0034】
方法2:KPtClを使用してKPt(C・2HOを合成する方法(この場合、オキサレートは還元剤と錯生成剤として作用する)
とKPtClを34:1のモル比で水中へ懸濁させ、得られた懸濁液を40℃〜100℃(一般的には、約95℃)の温度において、図2の曲線によって示されるように、0.5〜4時間(一般的には、55分間)撹拌させる。該モル比が24:1の場合には、わずかに10分間の付加的時間が必要になるだけである。反応容器を2℃〜10℃(一般的には、約5℃)において0.5〜2時間(一般的には1時間)保持することによって晶出を完結させる。濾過処理に付した沈殿生成物は、少量の冷水で5回洗浄し、次いでアセトンで1回洗浄し後、自然乾燥させる。
【化3】

【0035】
この反応においては、オキサレートは2つの役割を果たす。第一に、オキサレートは還元剤として作用する。Kの溶液をKPtClの懸濁液と共に加熱すると、該白金化合物はガスの発生を伴って溶解し、暗橙色溶液が形成される。溶液の暗色化を伴う出発物質の消失は、PtCl2−の形成(即ち、白金(IV)から白金(II)への還元)を示す。ガスの発生は、オキサレートからCOへの酸化を示す。
【0036】
全てのKPtClが溶解した後、オキサレートは、錯生成剤としての第二の役割を開始し、淡黄色沈殿物の生成が開始する。このように、オキサレートは、白金と配位結合してKPt(C・2HOを形成する適当な錯形成剤として作用する。従って、この方法は2つの別々の反応に分けることができる。オキサレートの代わりに、別の還元剤(例えば、SO)を使用することによって、白金(IV)を白金(II)へ還元させてもよい。
【化4】

【0037】
Pt(C・2HO合成に関する従来法においては、少過剰(4倍まで)のKを100℃において長時間(18時間まで)使用していた。[例えば、次の文献を参照されたい:D.F.シュライバー編、無機合成、第XIX巻、第16頁〜第17頁(1979年)]。この間に白金種の還元がおこなわれて白金金属(白金黒)が生成する。
【0038】
本発明方法の観点によれば、全く予想外のことには、次のことが判明した。即ち、より低い反応温度(100℃未満、一般的には95℃)において、白金化合物とオキサレートを1:4よりも大きなモル比(好ましくは1:8よりも大きなモル比、より好ましくは1:16よりも大きなモル比、最も好ましくは1:24以上のモル比)で反応させることにより、反応時間が短縮すると共に、白金金属への還元(白金黒の生成)は発生しない。
【0039】
より高濃度の錯化アニオン(オキサレート)は、ビス−オキサラトプラチネート(II)種の安定剤として作用するだけでなく、還元と配位子交換の反応速度を改善し、これによってビス−オキサラトプラチネート(II)種の高収率がもたらされる。使用するオキサレートの過剰度が大きくなるほど、KPt(C・2HOの収率(%)は高くなる。図1に示すように、KPtClに対してKを1:16のモル比で使用すると、KPt(C・2HOの収率は僅かに67%であるが、該収率は、オキサレートの過剰度が高くなるに伴って増加し、該モル比が34:1になると、該収率は86%になる。
【0040】
図2においては、KPtClからKPt(C・2HOを製造する場合の最大収率(約85%)に達するのに必要な反応時間(分)に対して白金とシュウ酸カリウムのモル比をプロットして得られたグラフを示す。該比が8:1以下のときの実験においては、分解に起因して微細に分割された黒色の白金金属が形成された。この現象は、約8.5時間まで加熱をおこなうことに伴って漸進的に発生した。該比を3:1〜8:1に選定する場合には、最大の変換率を達成するために必要な反応時間は長くなり、収率も低い値となった。KPt(C・2HOの合成に関する文献によれば、該比が3:1のときに還流を18時間(1080分間)おこなった後の収率は30%であった[D.F.シュライバー編、無機合成、第XIX巻、第16頁〜第17頁(1979年)]。オキサレートの使用量が増加するに伴って、収率が85%に達するのに必要な反応時間は短縮された。即ち、該モル比が12:1のときの該反応時間(156分間)は、該モル比が16:1,24:1及び34:1になると該反応時間はそれぞれ110分間、65分間及び55分間に短縮された。
【0041】
工程2
ビス−ジカルボキシラトプラチネート(II)種、即ち、KPt(C・2HOは適当な(好ましくは、光学的に純粋な)中性二座配位子と反応させることによって、中性白金(II)オキサラト化合物、例えば、オキサリプラチンを形成させてもよい。
【0042】
Pt(C・2HOは適当な溶剤系に溶解させてもよく、得られた溶液に、適当な溶剤に溶解させた配位子(L)を添加する。配位子はいずれの中性二座供与体配位子から選択してもよいが、オキサリプラチンの場合には、配位子はジアミン、即ち、光学的に純粋なトランス−l−1,2−ジアミノシクロヘキサンである。光学的に純粋なトランス−l−1,2−ジアミノシクロヘキサンは、例えば、次の文献に記載の方法に従って、酒石酸を用いる晶出化によって光学的に純粋な状態で得てもよく、該文献の記載内容も本願明細書の一部を成すものである:ハンス−ジェルグ・シャンツ、マイケル A.リンセイス及びデクラン G.ギルヘニィ、「(R,R)−及び(S,S)−シクロヘキサン−1,2−ジアミン並びに(R)−及び(S)−ビノールの改良分割法」、テトラヘドロン・アシメトリー、第12巻(2003年)、第2763頁〜第2769頁。調製された溶液は40℃〜100℃の温度(一般的には約95℃)に0.5〜2時間(一般的には1時間)維持することによって、オキサリプラチンのようなオキサラト白金(II)錯体を含有する沈殿物を生成させる。
【化5】

【0043】
工程3
粗製生成物は、オキサラト白金(II)錯体を充分に過剰量の水を用いて抽出することによって精製してもよい。低温においてオキサリプラチンのようなオキサラト白金(II)錯体と類似の溶解性を示す不純物であるKPt(C・2HOは、Csの添加によってCsPt(Cへ変換させることによって除去してもよい。この添加物は冷却時にPt(C2−を除去する。この溶液の濾液を真空蒸発処理に付すことによって得られる固体を少量の熱水で洗浄することにより残留するPt(C2−及びオキサレート塩を除去する。白色固体を冷水で洗浄することによって純粋なオキサリプラチンを得てもよい。冷却後に沈殿するCsPt(Cを除去した後の濾液から付加的な量のオキサラト白金(II)錯体を得てもよい。最終工程は、上記の白色沈殿物の再結晶化から成る。最終的なオキサリプラチン生成物の化学的純度及び光学的純度はそれぞれ>99.5%及び>99.98%である。化学的及び光学的に純粋なオキサリプラチンの全収率は15%である。
【0044】
オキサリプラチンを調製するための上記の本発明方法は僅かに5工程からなり、全反応時間は16時間である。この方法には僅かに4種の化学物質(即ち、KPtCl/KPtCl、K及びCs)及び適当な中性二座配位子が必要なだけである。
【0045】
上記の方法は、中性二座配位子を有するその他の多数の白金(II)錯体を調製するために使用してもよく、又、該方法は、N以外の他の供与体原子(一般的には、S及びSe)を含む以下に例示する中性二座配位子を有する白金(II)錯体の調製を可能にする:
i)S供与体原子を含む複素環式アミン系中性二座配位子、例えば、一般式1−アルキル/アリール−2−アルキルチオアルキル/アリール複素環式アミンで表されるチオエーテル性S含有化合物、特にイミダゾール類又はピリジン類、
ii)アミノアルキルチオアルキル/アリール化合物、
iii)ジチオエーテル、例えば、2,5−ジチアヘキサン、及び
iv)ジセレノエーテル、例えば、2,5−ジセレノヘキサン等。
【0046】
供与体原子としてSやSeを含有する配位子は銀化合物を用いる反応においては使用することはできない。これらの原子は白金イオンと銀イオンに非常に強く結合するからである。
【0047】
以下に例示する中性の2−メチルチオアルキルイミダゾール及びピリジン二座配位子は、後記のイミダゾール及びピリジンの2−メチルチオアルキル錯体(i)〜(v)を調製するための以下の方法に使用してもよい:
配位子(i) 1−メチル−2−メチルチオエチルイミダゾール、
配位子(ii) 1−メチル−2−メチルチオプロピルイミダゾール、
配位子(iii) 1−ブチル−2−メチルチオメチルイミダゾール、
配位子(iv) 1−メチル−2−メチルチオメチルイミダゾール、
配位子(v) 1−ブチル−2−メチルチオエチルイミダゾール、
配位子(vi) 2−メチルチオメチルピリジン、
配位子(vii) 2−メチルチオエチルピリジン及び
配位子(viii) 2−メチルチオプロピルピリジン。
【0048】
上記の配位子は次の文献に記載の方法によって調製してもよく、該文献の記載内容も本願明細書の一部を成すものである:
JGH デュプリーズ、TIA ゲルバー、W.エッジ、VLV ムトチワ及びBJAM ファンブレヒト、「金属イオン分離における窒素試薬 XI. 新規なNSイミダゾール誘導体の合成と抽出挙動」、Solv. Ext. & Ion Exch. (2001年)、第19巻(1)、第143頁〜第154頁。
【0049】
Pt(C・2HOは、90℃の水浴上において、蒸留水に溶解させてもよく、この溶液中へ、1モル当量の所望の中性二座配位子のアセトン溶液を撹拌下で滴下する。得られる白金(II)溶液を90℃で1時間半にわたって撹拌した後、冷却させる。得られる沈殿物を濾取し、冷蒸留水で1回洗浄した後、50℃のオーブン内で自然乾燥させる。
【0050】
上記の方法によって調製されるイミダゾールの2−メチルチオアルキル錯体としては、下記の式(I)で表される化合物が例示される。式(I)において、R及びRはアルキル基(例えば、CH基及びC基等)又はアリール基(例えば、フェニル基)から選択されてもよく、一般的なイミダゾールの2−メチルチオアルキル錯体は下記の錯体(i)〜(v)である。
【0051】
【化6】

【0052】
上記の錯体(i)〜(v)の化学名は次の通りである:
錯体(i) オキサラト(1−メチル−2−メチルチオエチルイミダゾール)白金(II)、
錯体(ii) オキサラト(1−メチル−2−メチルチオプロピルイミダゾール)白金(II)、
錯体(iii) オキサラト(1−ブチル−2−メチルチオメチルイミダゾール)白金(II)、
錯体(iv) オキサラト(1−メチル−2−メチルチオメチルイミダゾール)白金(II)及び
錯体(v) オキサラト(1−ブチル−2−メチルチオエチルイミダゾール)白金(II)。
【0053】
本発明によるピリジンの2−メチルチオアルキル錯体としては、下記の式(II)で表される化合物が例示される。式(II)において、Rはアルキル基(例えば、CH基及びC基等)又はアリール基(例えば、フェニル基)から選択されてもよく、一般的なピリジンの2−メチルチオアルキル錯体は下記の錯体(vi)〜(viii)である。
【0054】
【化7】

【0055】
上記の錯体(vi)〜(viii)な化学名は次の通りである:
錯体(vi) オキサラト(2−メチルチオメチルピリジン)白金(II)、
錯体(vii) オキサラト(2−メチルチオエチルピリジン)白金(II)及び
錯体(viii) オキサラト(2−メチルチオプロピルピリジン)白金(II)。
【0056】
上記のイミダゾール及びピリジンの2−メチルチオアルキル錯体は抗癌性を発揮した。
【0057】
以下の配位子は、下記の方法を用いてPt(II)オキサレートの脂肪族アミノチオエーテル錯体を調製するために使用してもよい:
配位子(ix) 1−アミノ−2−チオメチルエタン及び
配位子(x) 1−アミノ−2−チオエチルエタン。
【0058】
Pt(C・2HOは、90℃の水浴上において、蒸留水に溶解させてもよく、この白金(II)溶液中へジメチルホルムアミド(dmf)を、20:80の水:dmf混合溶剤が形成されるように添加する。この溶液中へ、1モル当量の所望の配位子をアセトンに溶解させた溶液を撹拌下で滴下する。得られる白金(II)溶液を90℃で2時間にわたって撹拌した後、室温まで冷却させる。得られる沈殿物を濾取し、冷蒸留水で1回洗浄した後、50℃のオーブン内で自然乾燥させることによって、淡黄色の生成物を得た(収率:47%)。
【0059】
上記の方法によって調製される白金(II)オキサレートの脂肪族アミノチオエーテル錯体としては、次の錯体が例示される:
錯体(ix) オキサラト(1−アミノ−2−チオメチルエタン)白金(II)及び
錯体(x) オキサラト(1−アミノ−2−チオエチルエタン)白金(II)。
【0060】
オキサリプラチンを調製するための常套法、例えば、米国特許第5420319号明細書に記載されている方法等においては6工程が使用され、全反応時間は38時間に達する。本発明方法においては、工程数が少なくなり、反応時間も短縮される。従って、本発明方法は、従来法に比べて、単純化され、反応効率が高く、又、原価効率も高くなる。本発明方法においては、例えば、米国特許第5420319号明細書に記載されているような常套法において問題となる不純物は発生しない。即ち、本発明方法においては、一般的に水に対して極めて不溶性であるPtLXが生成せず、又、除去されなければならない銀は使用されない。本発明方法において除去されなければならない副生物は、オキサリプラチンの場合、KPt(C・2HOを調製するときの過剰のK並びにPtL(C)を調製するときの未反応のKPt(C・2HO及びオキサレート塩である。過剰のオキサレート塩は水に対する溶解性が非常に高いために、蒸留水で洗浄することによって容易に除去することができる。
【0061】
銀化合物を使用しないことによる別の利点は、反応を暗所でおこなう必要がなく、又、N以外の供与体原子、例えば、銀イオンと容易に反応するS及びSe等を含む中性二座配位子を用いて反応をおこなうことができる。この種の配位子は、銀化合物を使用する方法においては用いることができない。従って、本発明方法は、特に、白金(II)の二座N,N配位子オキサラト錯体並びに供与体原子としてN,S又はSeを有する二座配位子を含む多数の新規なオキサラト白金(II)錯体の合成を可能にする。試験結果によれば、これらの化合物は、新規な抗癌剤としての用途を有する。このような抗癌剤は患者の癌の処置法に使用してもよく、又、患者の癌の処置用薬剤の製造法において使用してもよい。
【実施例】
【0062】
本発明を以下の実施例によって説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
実施例1:KPtClからのKPt(C・2HOの調製

PtCl(2.075g;4.6ミリモル)及びK(13.561g;73.6ミリモル)を約95℃において蒸留水(30ml)中に溶解させ、この溶液を1時間撹拌した。反応容器を約5℃で2時間冷蔵して生成した沈殿物を濾取し、水(4ml)で5回洗浄した後、アセトン(2ml)ですすぎ、次いで50℃のオーブン内で自然乾燥させた。生成物の収率は98%であった。
【0063】
実施例2:オキサレート(還元剤)及びKPtClからのKPt(C・2HOの調製

PtCl(1.425g;2.9ミリモル)及びK(18.392g;99.8ミリモル)を約95℃において蒸留水(50ml)中に溶解させ、この溶液を1時間15分撹拌し、次いで反応容器を冷蔵庫内で2時間冷蔵して生成した沈殿物を濾取した。過剰のK水洗によって除去し、沈殿物を水(3ml)で5回洗浄した後、アセトン(2ml)で1回すすぎ、次いで50℃のオーブン内で自然乾燥させた。生成物の収率は86%であった。
【0064】
実施例3:SO(還元剤)及びKPtClからのKPt(C・2HOの調製

PtCl(0.326g;0.67ミリモル)を約95℃において蒸留水(6ml)中へ懸濁させた。この懸濁液へSOの飽和溶液を、全てのKPtClが溶解するまで滴下した。得られた白金溶液中へ過剰のK(1.981g;10.8ミリモル)を直接添加し、さらに1時間撹拌した。反応混合物を2時間冷蔵させ、生成した沈殿物を濾取し、沈殿物を水(3ml)で5回洗浄した後、アセトン(1ml)で1回すすぎ、次いで50℃のオーブン内で自然乾燥させた。生成物の収率は78%であった。
【0065】
実施例4:オキサリプラチンの合成

Pt(C・2HO(4.50g;9.97ml)を95℃の蒸留水(815ml)に溶解させることによって白金オキサレート溶液を調製した。次の文献に記載の方法によって調製した光学的に純粋な1当量のトランス−l−1,2−ジアミノシクロヘキサン(1.06g;9.27ミリモル)を蒸留水(74ml)に溶解させ、この溶液のpHを希酢酸で6.6〜7.5に調整することによってアミン溶液を調製した:ハンス−ジェルグ・シャンツ、マイケル A.リンセイス及びデクラン G.ギルヘニィ、「(R,R)−及び(S,S)−シクロヘキサン−1,2−ジアミン並びに(R)−及び(S)−ビノールの改良分割法」、テトラヘドロン・アシメトリー、第12巻(2003年)、第2763頁〜第2769頁。このアミン溶液を8等分し、各々のアミン溶液を45分間かけて白金オキサレート溶液中へ添加した(全添加時間:6時間)。得られた溶液を室温まで冷却させて生成した沈殿物を濾過処理に付し、真空下において濾液から溶剤を除去した。濾液から得られた固体は粗製形態のオキサリプラチンを含有した。
【0066】
得られた固体を70℃の水浴上において蒸留水(40ml)へ10分間かけて懸濁させた。残存する固形分は濾過によって除去した。濾液を冷却し、KPt(C・2HOに対して0.75当量のCsを添加した。この溶液を約20分間撹拌し、生成した沈殿物を濾取し、溶剤は真空下で蒸発させた。残存する固形分は少量の蒸留水(6ml)へ懸濁させ、この懸濁液を70℃で10分間加熱した後、濾過処理に付すことによって濾液(A)を得た。溶解しなかった固形分の大部分はオキサリプラチンであり、少量のオキサレート塩を含有した(図3参照)。この固形分は少量の蒸留水(3ml)で洗浄することによって容易に精製することができ、これによって純粋なオキサリプラチンが得られた(図4参照)。
【0067】
濾液(A)を5℃まで冷却させ、生成した沈殿物を濾取し、溶剤は真空下で蒸発させた。残存した固体の大部分はオキサリプラチンであるが、シュウ酸のセシウム塩とカリウム塩も含まれていた。これらのオキサレート塩は少量の蒸留水(3ml)で5回洗浄することによって除去され、この操作によって付加的な量の純粋なオキサリプラチンが得られた。
【0068】
得られた全てのオキサリプラチン試料の化学的純度及び光学的純度はそれぞれ>99.5%(図4参照)及び>99.98%(図5参照)であった。化学的及び光学的に純粋なオキサリプラチンの全収率は15%であった。
【0069】
実施例5:出発原料としてKPtClを用いることによるオキサリプラチンの調製法

PtCl(41.5g;92.0ミリモル)及びK(271.17g;1178.8ml)を水(600ml)に溶解させ、この溶液を95℃で少なくとも1時間保持した。この間にKPt(C・2HOが徐々に沈殿した。この溶液を5℃で2時間冷却させ、生成した沈殿物を濾取し、水(80ml)で5回洗浄し、最後にアセトンで洗浄した。50℃のオーブン内において45分間保持することによって乾燥した純粋なKPt(C・2HO(43.72g;89.96ミリモル)を得た。この生成物を95℃の純水(120ml)に溶解させ、この溶液へ、トランス−l−1,2−ジアミノシクロヘキサン(10.28g;90.03ミリモル)をアセトン(40ml)に溶解させた溶液を添加し、95℃で1時間半撹拌した。得られた溶液を室温で2時間放置した。真空下において濾液から溶剤を除去した。濾液から得られた固体の大部分は粗製形態のオキサリプラチンを含有した。
【0070】
得られた固体を70℃の水浴上において蒸留水(388ml)へ20分間かけて懸濁させた。残存する固形分は濾過によって除去した。濾液を冷却し、KPt(C・2HOに対して0.75当量のCsを添加した。この溶液を約20分間撹拌し、生成した沈殿物を濾取し、溶剤は真空下で蒸発させた。残存する固形分は蒸留水(58ml)へ懸濁させ、この懸濁液を70℃で20分間加熱した後、濾過処理に付すことによって濾液(A)を得た。溶解しなかった固形分の大部分はオキサリプラチンであり、少量のオキサレート塩を含有した。この固形分は蒸留水(29ml)で洗浄することによって容易に精製することができ、これによって純粋なオキサリプラチンが得られた。
【0071】
濾液(A)を5℃まで冷却させ、生成した沈殿物を濾取し、溶剤は真空下で蒸発させた。残存した固体の大部分はオキサリプラチンであるが、シュウ酸のセシウム塩とカリウム塩も含まれていた。これらのオキサレート塩は少量の蒸留水(29ml)で5回洗浄することによって除去され、純粋なオキサリプラチンが得られた。
【0072】
得られた全てのオキサリプラチン試料の化学的純度及び光学的純度はそれぞれ>99.5%及び>99.98%であった。化学的及び光学的に純粋なオキサリプラチンの全収率は15%であった。
【0073】
実施例6:イミダゾール及びピリジンの2−メチルチオアルキル錯体[オキサラト(1−メチル−2−メチルチオプロピルイミダゾール)白金(II)]の調製法

Pt(C・2HO(0.68g)を90℃の水浴上で蒸留水(40ml)に溶解させ、この溶液へ、1−メチル−2−メチルチオプロピルイミダゾール(0.638g)をアセトン(4ml)に溶解させた溶液を撹拌下で滴下した。得られた白金(II)溶液を90℃で1時間半撹拌した後、一夜冷却した。得られた沈殿物を濾取し、冷蒸留水(6ml)で1回洗浄した後、50℃のオーブン内で自然乾燥させることによって、淡黄色の固体を得た(収率:60%)。
【0074】
実施例7:Pt(II)オキサレートの脂肪族アミノチオエーテル錯体[オキサラト(1−アミノ−2−チオメチルエタン)白金(II)]の調製法

Pt(C・2HO(0.291g;0.6ミリモル)を90℃の水浴上で蒸留水(8ml)に溶解させ、この白金(II)溶液へ、dmf(32ml)を添加することによって、水:dmfの溶剤比を20:80に調整した。1−アミノ−2−チオメチルエタン配位子(1モル当量;0.6ミリモル)をアセトン(3ml)に溶解させた溶液を上記の溶液中へ撹拌下で滴下した。得られた白金(II)溶液を90℃で2時間撹拌した後、反応溶液を室温下で一夜冷却した。得られた沈殿物を濾取し、冷蒸留水(3ml)で1回洗浄した後、50℃のオーブン内で自然乾燥させることによって、淡黄色の生成物を得た(収率:47%)。
【0075】
実施例8
実施例6及び7で得られた化合物の純度は元素(C、H及びN)分析と赤外分光分析によって決定し、又、配位子はNMR分析によって測定した。全ての錯体は、FABマススペクトルデータから得られた分子量ピークを示した。該分子量ピークは1分子錯体に相当する。但し、Pt(1−メチル−2−メチルチオプロピルイミダゾール)Cはフラクションのみを示した。
【0076】
実施例9
実施例6で得られた錯体の抗癌試験をおこない、この結果を、培地として5%牛胎児血清を用いた同じ条件下でシスプラチンを使用しておこなった試験結果と比較した。子宮頚部癌細胞に対するオキサラト(1−メチル−2−メチルチオプロピルイミダゾール)白金(II)の10μM溶液及び100μM溶液の抑制率はそれぞれ88.6%及び97.7%であった。一方、シスプラチン溶液の対応する値はそれぞれ85.4%及び95.3%であった。
グルタチオンを10mMの濃度で含有する培地を用いた別の抗癌試験においても上記錯体は優れた効果を示した。即ち、結腸癌細胞及び乳癌細胞に対する上記錯体の100μM溶液の抑制率はそれぞれ85%及び72%であったのに対し、シスプラチンを用いた場合の対応する抑制率はそれぞれ48%及び10%であった。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】KPtClとKを95℃で一定時間(1時間15分)反応させたときの、K対KPtClとの比及びKPt(C・2HOの合成効率(収率)との関係を示すグラフである。
【図2】KPtClとKを95℃で反応させたときにKPt(C・2HOの収率が85%になるのに要した時間とオキサレート対白金比との関係を示すグラフである。
【図3】実施例4において水(6ml)に分散させたときに溶解しなかったオキサリプラチン生成物のクロマトグラフである。
【図4】実施例4において図3に示すオキサリプラチンを水で洗浄した後の該生成物のクロマトグラフである。
【図5】実施例4において調製した生成物であって、キラルカラムにおいて光学的純度を示した化学的に純粋なオキサリプラチン生成物のクロマトグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程 i)及び所望による工程 ii)を含む中性二座配位子を含有する白金(II)錯体の製造方法:
i)ビス−ジカルボキシラトプラチネート(II)種を中性二座配位子と反応させることによって、中性二座配位子を含有する中性ジカルボキシラト白金(II)錯体生成物を生成させ、次いで所望により、
ii)該生成物を再結晶化処理に付すことによって、中性二座配位子を含有する純粋なジカルボキシラト白金(II)錯体を生成させる。
【請求項2】
ビス−オキサラトプラチネート(II)種及び配位子を40℃〜100℃で0.5〜3時間反応させる請求項1記載の方法。
【請求項3】
ビス−オキサラトプラチネート(II)種及び配位子を約95℃で反応させる請求項2記載の方法。
【請求項4】
ビス−オキサラトプラチネート(II)種及び配位子を約1時間反応させる請求項2又は3記載の方法。
【請求項5】
生成物を蒸留水に溶解させることによって該生成物を汚染させているジカルボキシラトプラチネート(II)を該生成物から除去し、次いでジカルボキシラトプラチネート(II)種を、濾過処理によって該溶解生成物から分離させることができる化学種に変換させるオキサレートを添加する請求項1から4いずれかに記載の方法。
【請求項6】
オキサレートがCsである請求項5記載の方法。
【請求項7】
中性二座配位子がアミンである請求項1から6いずれかに記載の方法。
【請求項8】
アミンがジアミンである請求項7記載の方法。
【請求項9】
化学的及び光学的に純粋なオキサリプラチンを調製するための請求項8記載の方法であって、配位子が光学的に純粋なトランス−l−1,2−ジアミノシクロヘキサンである該方法。
【請求項10】
中性二座配位子がN以外のドナー原子を含有するか、又はNと共にN以外のドナー原子を含有する請求項1から7いずれかに記載の方法。
【請求項11】
N以外のドナー原子がS又はSeから選択される請求項10記載の方法。
【請求項12】
中性二座配位子が、ドナー原子としてSを含む中性の複素環式アミン二座配位子である請求項11記載の方法。
【請求項13】
中性の複素環式アミン二座配位子がチオエーテル性Sを含む請求項12記載の方法。
【請求項14】
中性二座配位子が1−アルキル/アリール−2−アルキルチオアルキル/アリール複素環式アミンである請求項13記載の方法。
【請求項15】
複素環式アミンがイミダゾール又はピリジンである請求項14記載の方法。
【請求項16】
中性二座配位子が下記の配位子(i)〜(viii)のいずれかである請求項15記載の方法:
配位子(i) 1−メチル−2−メチルチオエチルイミダゾール
配位子(ii) 1−メチル−2−メチルチオプロピルイミダゾール
配位子(iii) 1−ブチル−2−メチルチオメチルイミダゾール
配位子(iv) 1−メチル−2−メチルチオメチルイミダゾール
配位子(v) 1−ブチル−2−メチルチオエチルイミダゾール
配位子(vi) 2−メチルチオメチルピリジン
配位子(vii) 2−メチルチオエチルピリジン
配位子(viii) 2−メチルチオプロピルピリジン
【請求項17】
中性二座配位子がアミノアルキルチオアルキル/アリール化合物である請求項10記載の方法。
【請求項18】
中性二座配位子が下記の配位子(ix)又は(x)である請求項17記載の方法:
配位子(ix) 1−アミノ−2−チオメチルエタン
配位子(x) 1−アミノ−2−チオエチルエタン
【請求項19】
中性二座配位子がジチオエーテルである請求項10記載の方法。
【請求項20】
中性二座配位子が下記の配位子(xi)である請求項19記載の方法:
配位子(xi) 2,5−ジチアヘキサン
【請求項21】
中性二座配位子がジセレノエーテルである請求項10記載の方法。
【請求項22】
中性二座配位子が下記の配位子(xii)である請求項19記載の方法:
配位子(xii) 2,5−ジセレノヘキサン
【請求項23】
1又は複数のドナー原子としてS又はSeを含有するオキサラト白金(II)錯体。
【請求項24】
オキサラト(1−メチル−2−メチルチオエチルイミダゾール)白金(II)。
【請求項25】
オキサラト(1−メチル−2−メチルチオプロピルイミダゾール)白金(II)。
【請求項26】
オキサラト(1−ブチル−2−メチルチオメチルイミダゾール)白金(II)。
【請求項27】
オキサラト(1−メチル−2−メチルチオメチルイミダゾール)白金(II)。
【請求項28】
オキサラト(1−ブチル−2−メチルチオエチルイミダゾール)白金(II)。
【請求項29】
オキサラト(2−メチルチオメチルピリジン)白金(II)。
【請求項30】
オキサラト(1−アミノ−2−チオエチルエタン)白金(II)。
【請求項31】
オキサラト(1−アミノ−2−チオプロピルエタン)白金(II)。
【請求項32】
オキサラト(1−アミノ−2−チオメチルエタン)白金(II)。
【請求項33】
オキサラト(1−アミノ−2−チオエチルエタン)白金(II)。
【請求項34】
オキサラト(2,5−ジチアヘキサン)白金(II)。
【請求項35】
オキサラト(2,5−ジセレノヘキサン)白金(II)。
【請求項36】
患者の癌を処置する方法であって、請求項23から35いずれかに記載のオキサラト白金(II)錯体を患者へ投与することを含む該方法。
【請求項37】
患者の癌を処置する方法において使用するための請求項23から35いずれかに記載のオキサラト白金(II)錯体。
【請求項38】
請求項23から35いずれかに記載のオキサラト白金(II)錯体の使用であって、患者の癌を処置する方法において使用するための薬剤の製造法における該使用。
【請求項39】
痕跡量の銀を含有しないオキサラト白金(II)錯体。
【請求項40】
ビス−ジカルボキシラトプラチネート(II)種の製造方法であって、白金(II)化合物又は白金(IV)化合物をジカルボキシレートと、1:4よりも高い高モル比で反応させる工程を含む該方法。
【請求項41】
白金(II)化合物又は白金(IV)化合物をオキサレート塩と、1:8以上の高モル比で反応させる請求項40記載の方法。
【請求項42】
白金(II)化合物又は白金(IV)化合物をオキサレート塩と、1:16以上の高モル比で反応させる請求項41記載の方法。
【請求項43】
白金(II)化合物又は白金(IV)化合物をオキサレート塩と、1:24以上の高モル比で反応させる請求項42記載の方法。
【請求項44】
白金(II)化合物が式KPtX(式中、Xはハロゲン化物を示す)で表される化合物である請求項40から43いずれかに記載の方法。
【請求項45】
白金(IV)化合物が式KPtX(式中、Xはハロゲン化物を示す)で表される化合物である請求項40から43いずれかに記載の方法。
【請求項46】
XがClを示す請求項44又は45記載の方法。
【請求項47】
ジカルボキシレートがオキサレートである請求項40から46いずれかに記載の方法。
【請求項48】
ビス−カルボキシラトプラチネート(II)種がビス−オキサラトプラチネート(II)塩である請求項40から47いずれかに記載の方法。
【請求項49】
オキサレートによって白金(IV)化合物が白金(II)化合物へ還元される請求項45を引用する請求項47記載の方法。
【請求項50】
白金(IV)化合物がSO又はスルフィットによって還元される請求項45記載の方法。
【請求項51】
オキサレートがKである請求項47記載の方法。
【請求項52】
ビス−ジカルボキシラト白金(II)種がKPt(C・2HOである請求項48記載の方法。
【請求項53】
白金(II)化合物若しくは白金(IV)化合物及びオキサレートを40℃〜100℃未満の温度において0.5〜4時間反応させる請求項40から52いずれかに記載の方法。
【請求項54】
白金(II)化合物若しくは白金(IV)化合物及びオキサレートを約95℃で反応させる請求項53記載の方法。
【請求項55】
白金(II)化合物若しくは白金(IV)化合物を約1時間反応させる請求項53又は54記載の方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−512318(P2007−512318A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540664(P2006−540664)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【国際出願番号】PCT/IB2004/003855
【国際公開番号】WO2005/051966
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(506177855)プラトコ・テクノロジーズ・(プロプライエタリー)・リミテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】PLATCO TECHNOLOGIES (PROPRIETARY) LIMITED
【Fターム(参考)】