説明

皮下埋込ポート及びその製造方法

【課題】コスト増を伴うことなく注射針の貫通防止用の底板を確実に固定することができる皮下埋込ポートを提供すること。
【解決手段】本発明の皮下埋込ポート11は、ハウジング12、セプタム13、底板41、カテーテル接続部14を備える。ハウジング12は、凹部32を有する有底カップ形状のベース31をカバー21で覆った構造である。注射針18が挿通可能なセプタム13は、ハウジング12内に配置されている。底板41は、ベース31よりも硬質の材料からなり、ベース31の底部内面33a側に配置されている。底板41は、外周縁部42に複数の角部43を有する。複数の角部43は、凹部32の内側面34aに対して底板41の周方向D1から食い込んでいる。その結果、底板41がベース31の底部33に固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の皮下に埋め込んだ状態で使用される皮下埋込ポート及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
患者に対して長期間にわたり抗がん剤や栄養剤を投与するための医療用器具として、皮下埋込ポートと呼ばれるものが従来よく知られている。皮下埋込ポートは、血管内に留置したカテーテルに接続されるとともに、患者の胸部等の皮下に埋め込まれた状態で使用される。従来における一般的な皮下埋込ポートは、合成樹脂製のハウジング内に弾性体からなるセプタムを配置した構造を有している。ハウジングは有底カップ形状のベースとそれを覆うカバーとにより構成される。ハウジング内においてセプタムの下方には注液室が区画されている。そして、皮膚を通してセプタムに注射針を差し込み、その先端を注液室に到達させる。この状態で薬剤を導入することにより、カテーテルを介して血管内に薬剤が注入されるようになっている。
【0003】
また、注射針がハウジングの底部を貫通することを防止するために、ハウジングの底部に金属製の底板を設けた皮下埋込ポートが従来提案されている。そして、このような底板は、例えばベースの底部に配置して熱溶着することで固定されるようになっている。また、別の従来技術では、ベースにあらかじめ保持リップを一体形成しておき、底板を配置して保持リップを変形させることで、底板が固定されるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記従来技術には次のような問題があった。
熱溶着により底板を固定する従来技術の場合、熱溶着の後工程としてベースとカバーとを超音波溶着により固定する場合があるが、その際に本来発振させるべきではない底板が超音波によって発振してしまう。その結果、底板の周辺の溶着部が溶融してしまい、底板が位置ずれしたり外れたりする等の問題が発生する。
【0006】
また、保持リップにより底板を固定する従来技術の場合、保持リップを変形させる必要があるため工程が煩雑になるばかりでなく、底板の固定も不十分なものとなりやすい。このほか、インサート成形法により底板をベースに埋め込む方法や、別の固定用パーツを用いて底板をベースに固定するという方法も考えられるが、いずれも工程の煩雑化が避けられず、製造コストも増大してしまう。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、コスト増を伴うことなく注射針の貫通防止用の底板を確実に固定することができる皮下埋込ポートを提供することにある。また、本発明の別の目的は、上記の優れた皮下埋込ポートを比較的簡単に製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段1〜6を以下に列挙する。
【0009】
[1]注液室を区画する凹部を有する有底カップ形状のベースをカバーで覆った構造のハウジングと、注射針が挿通可能であり、前記カバーの孔部から一部を露出させた状態で前記ハウジング内に配置されたセプタムと、前記ベースよりも硬質の材料からなり、前記ベースの底部内面側に配置された底板と、前記ハウジングの外側面に設置されたカテーテル接続部とを備えた皮下埋込ポートにおいて、前記底板は、外周縁部に複数の角部を有する部材であり、前記複数の角部が前記凹部の内側面に対して前記底板の周方向から食い込むことで、前記底板が前記ベースの底部に固定されていることを特徴とする皮下埋込ポート。
【0010】
従って、手段1に記載の発明によると、底板の有する複数の角部が、凹部の内側面に対して底板の周方向から食い込むため、保持リップや別の固定用パーツに頼らなくても底板がベースの底部に確実に固定される。
【0011】
[2]前記底板において前記複数の角部がある外周縁部の肉厚は、前記底板における中心部側の肉厚よりも薄いことを特徴とする手段1に記載の皮下埋込ポート。
【0012】
従って、手段2に記載の発明によると、複数の角部を凹部の内側面に対して底板の周方向から食い込ませるときに、複数の角部の受ける抵抗が小さくなる。このため、複数の角部を容易にかつ確実に食い込ませることができる。よって、各角部の食い込み代を増やすことができ、より確実に底板を固定することができる。
【0013】
[3]前記底板は、角部を5つ以上有する多角形状であることを特徴とする手段1または2に記載の皮下埋込ポート。
【0014】
従って、手段3に記載の発明によると、例えば三角形状や四角形状の底板を用いた場合に比べて角部の食い込み箇所が多くなるため、より確実に底板を固定することができる。なお、上記多角形状は正多角形状であることが好ましく、この場合には各角部の食い込み代が等しくなる点で有利である。
【0015】
[4]手段1乃至3のいずれか1項に記載の皮下埋込ポートの製造方法であって、 前記底板を前記ベースの底部内面側に配置した状態で、前記底板をその周方向に回転させて前記複数の角部を前記凹部の内側面に対して食い込ませることにより、前記底板を前記ベースの底部に固定する底板固定工程と、前記底板固定工程の後、超音波を作用させて前記ベースと前記カバーとを溶着する超音波溶着工程とを含むことを特徴とする皮下埋込ポートの製造方法。
【0016】
従って、手段4に記載の発明によると、底板固定工程において底板をその周方向に回転させると、複数の角部が凹部の内側面に対して食い込み、底板がベースの底部に固定される。続く超音波溶着工程において超音波を作用させると、ベースとカバーとが溶着されて一体化し、ハウジングが形成される。従って、この製造方法によれば、底板を固定するにあたり特に工程や部品点数が増えるわけでもないので、上記の優れた皮下埋込ポートを比較的簡単に製造することができる。
【0017】
[5]前記超音波溶着工程では、同時に前記ベースに対して前記底板を溶着固定することを特徴とする手段4に記載の皮下埋込ポートの製造方法。
【0018】
従って、手段5に記載の発明によると、超音波溶着工程において超音波を作用させると、ベースとカバーとの界面部分が溶融して溶着するばかりでなく、底板の食い込み部分も発振して発熱する。このとき、食い込み部分の周囲の材料が溶融し、底板における各角部を覆うような盛り上がり部が形成される結果、ベースに対して底板がより確実に溶着固定される。よって、工程の増加を回避することができる。
【0019】
[6]前記底板固定工程では、あらかじめ治具係合部を形成しておいた底板を用いるとともに、前記治具係合部に治具の先端を係合させた状態で前記治具により回転力を与えることで、前記底板をその周方向に回転させることを特徴とする手段4または5に記載の皮下埋込ポートの製造方法。
【0020】
従って、手段6に記載の発明によると、治具係合部に治具の先端を係合させた状態で治具により底板に回転力を与えることができるため、比較的小さい力で底板を周方向に回転させることができる。このため、底板の各角部を容易にかつ確実に食い込ませることができる。
【発明の効果】
【0021】
従って、請求項1〜3に記載の発明によれば、コスト増を伴うことなく注射針の貫通防止用の底板を確実に固定することができる皮下埋込ポートを提供することができる。また、請求項4〜6に記載の発明によれば、上記の優れた皮下埋込ポートを比較的簡単に製造することができる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)は本発明を具体化した一実施形態の皮下埋込ポートの正面図、(b)はその平面図。
【図2】図1のA−A線における断面図。
【図3】(a)は実施形態の皮下埋込ポートにおける底板の平面図、(b)は(a)の底板のB−B線における断面図、(c)は底板固定前のベースの平面図。
【図4】底部固定工程を説明するための断面図。
【図5】底板固定工程において固定前の状態を示す平面図。
【図6】底板固定工程において固定後の状態を示す平面図。
【図7】底板固定工程において固定後の状態を示す要部の拡大平面図。
【図8】(a)は実施形態における超音波溶着工程前の状態を示す要部(図4の領域P1)の拡大断面図、(b)は実施形態における超音波溶着工程後の状態を示す上記要部の拡大断面図、(c)は従来例における超音波溶着工程後の状態を示す上記要部の拡大断面図。
【図9】(a)〜(f)は別の実施形態の底板を示す平面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した実施形態の皮下埋込ポートを図1〜図9に基づいて詳細に説明する。
【0024】
図1、図2等に示されるように、本実施形態の皮下埋込ポート11は、患者に対して長期間にわたり抗がん剤や栄養剤を投与するためのものである。皮下埋込ポート11を構成するハウジング12は、ベース31とカバー21とによって形成されている。ベース31は、ポリプロピレン等のような汎用の合成樹脂を材料とする成形品であって、図2に示されるように底部33及び底部33の外周部から上方に延びる側壁34を備えている。側壁34の上端は開口している。側壁34の下端外周部には、フランジが形成されている。フランジの一部には、カテーテル接続部14を内包する筒状の突部36が設けられている。このベース31は、側壁34の内部に注液室17を区画する凹部32を有しており、全体として有底カップ形状をなしている。
【0025】
一方、カバー21はベース31よりも一回り大きく形成されており、カバー21の上面中央部には円形状の孔部22が形成されている。このカバー21も、ベース31と同様に、ポリプロピレン等のような汎用の合成樹脂を材料として作製された成形品である。カバー21はベース31を上部から覆うようにしてベース31に取り付けられ、超音波溶着により互いに固定されている。なお、本実施形態では、カバー21及びベース31を互いに超音波溶着することにより固定しているが、接着したり嵌合したりすること等により固定してもよい。
【0026】
図2等に示されるように、ハウジング12内には、硬質ゴム等のような弾性体(好ましくはシリコーン樹脂)からなるセプタム13が配置されている。セプタム13は平面視で円形状をなす部材であって、中央部13aが肉厚に形成されかつ上面側に膨出している。セプタム13における外周部13bは、ベース31の側壁34の上端部と、カバー21の上端裏面側の外周部との間に挟み込まれることで固定されている。セプタム13における肉厚の中央部13aは、カバー21の孔部22を介して外部に突出しており、注射針18が挿通可能となっている。なお、このセプタム13は注液室17から薬剤が漏れないように注液室17を封鎖している。
【0027】
カバー21の外周部における所定箇所は凹状に形成されていて、その部分にはカテーテル接続部14が配設されている。カテーテル接続部14はベース31の側壁34を貫通するとともに、ベース31の外部領域と凹部32とを連通させている。カテーテル16の接続端側には、合成樹脂製のカテーテル固定具15が設けられている。そして、カテーテル接続部14にカテーテル16を挿入した状態でカテーテル固定具15を嵌合または螺着してカテーテル接続部14に取り付けることにより、カテーテル16がカテーテル接続部14に確実に固定されるようになっている。
【0028】
次に、本実施形態の皮下埋込ポート11における底板固定構造について説明する。
図3(a)、(b)に示されるように、この皮下埋込ポート11は底板41を備えている。本実施形態の底板41は、ベース31、カバー21及びセプタム13よりも硬質の金属(具体的にはチタン)製の部材である。この底板41は平面視で正六角形状であり、その外周縁部42に6つの角部43を有したものとなっている。底板41において角部43がある外周縁部42は、底板41の下面側を面取りすることによりテーパ状に形成されている。従って、底板41において角部43がある外周縁部42の肉厚T1は、底板41における中心部側の肉厚T2よりもいくぶん薄くなっている(図3(b)、図8(a)、(b)参照)。また、底板41における離間した2箇所には、治具係合部としての穴51が形成されている。これらの穴51は、底板41の上面側のみにて開口する非貫通穴となっている。その理由は、注射針18の貫通をより確実に防止するためである。
【0029】
また、図3(c)に示されるように、ベース31における凹部32は、平面視で底板41とほぼ同じ大きさに形成されるとともに、その6箇所には角部43を回避するための屈曲凹部37が設けられている。なお、本実施形態の凹部32は、底板41の装着しやすさを考えて、側壁34の上端の開口側が若干大きくなっている(図2参照)。
【0030】
上記構造の底板41は、ベース31の底部内面33a側に面接触するようにして配置されている。また、底板41における6つの角部43は、それぞれ凹部32の内側面34aに対して底板41の周方向D1から食い込んでいる(図5〜図7参照)。その結果、底板41がベース31の底部33に固定されている。
【0031】
次に、本実施形態の皮下埋込ポート11を製造する方法について述べる。
【0032】
まず、ベース31、カバー21、セプタム13、底板41等をそれぞれ準備しておく。そして、底板41をベース31の底部内面33a側に配置する。その際、底板41の下面側(即ち穴51が開口していない面側)を底部内面33aに接触させるようにする。また、図5に示されるように、6つの角部43が、各々の屈曲凹部37に位置するように配置する。
【0033】
ここで、先端に係合突起を2つ有する専用の治具52を用い、それらの係合突起を底板41における2つの穴51に係合させる。このような係合状態で治具52を操作して回転力を与え、底板41をその周方向D1に20°〜40°程度(好ましくは30°)回転させる。すると、凹部32の内側面34aに対して、各角部43を底板41の周方向D1から食い込ませることができる。その結果、底板41が外周縁部における6点にて支持された状態となり、底板41がベース31の底部33に確実に固定される(図6、図7参照)。
【0034】
このような底板固定工程の後、ベース31とカバー21との間にセプタム13を挟み込むように配置して、超音波溶着工程を実施する。この工程を実施すると、ベース31とカバー21との界面部分に超音波が作用する結果、ベース31とカバー21とが溶着されて一体化してハウジング12となる。このとき同時に底板41にも超音波が作用することから、ベース31側に食い込んでいる底板41の角部43も発振して発熱する。すると、各角部43の周囲の樹脂材料がその熱によって溶融し、各角部43を覆うような盛り上がり部35が形成される(図8(a)、(b)参照)。この結果、ベース31に対して底板41がより確実に溶着固定された状態となる。ちなみに、図8(c)に従来例における超音波溶着工程後の状態を示す。従来例における底板100は特に角部を有するものではないため、底板100の外周縁部42がベース31の内側面34aに食い込んだ構造にはなっていない。言い換えると、底板100の外周縁部2が内側面34aに至っておらず、内側面34aよりも凹部32の中心側に位置している。
【0035】
次に、本実施形態の皮下埋込ポート11の使用方法について簡単に述べる。
【0036】
まず、留置準備作業として、皮下埋込ポート11及びカテーテル16の留置予定部位の皮膚を広範囲に消毒しておく。次いで、常法により、局所または全身麻酔を施し、カテーテル16を切開法やセルジンガー法等によって目的部位に留置する。そして、注射針18をセプタム13に差し込み、注液室17内にヘパリン加生理食塩液を充填することで、十分にエア抜きを行っておく。続いて皮膚切開し、皮下埋込ポート11の留置予定部位に皮下ポケットを作製する。そして、カテーテル16の接続端を適切な長さに切断して、カテーテル固定具15をカテーテル16に挿通させる。この後、皮下埋込ポート11のカテーテル接続部14にカテーテル16をしっかりと挿入し、この状態でカテーテル固定具15を確実に取り付ける。この状態でセプタム13に注射針18を穿刺し、ヘパリン加生理食塩液を注入し、スムーズに流れ、かつ液漏れのないことを確認する。最後に、皮下ポケット内に皮下埋込ポート11を置いて筋膜等に縫合固定し、切開創を縫合することで、カテーテル16及び皮下埋込ポート11の留置作業が完了する。
【0037】
薬剤等の注入は、カテーテル16及び皮下埋込ポート11の留置後1週間程度経過してから行うことができる。まず、皮下埋込ポート11の埋込部周辺の皮膚を十分に消毒する。皮下埋込ポート11の上面中央部、即ちセプタム13がある箇所を狙って経皮的に注射針18を刺し、その先端をハウジング12における注液室17に到達させる。本実施形態の場合、ハウジング12の底部内面33aに硬質な金属製の底板41が配置されていることから、注射針18の先端が底板41に突き当たったとしても、底部33を貫通するといった事態を防止することができる。そしてこの状態でヘパリン加生理食塩液を数mL注入し、カテーテル16の開存を確認してから、抗がん剤などの薬剤を血管内に注入する。薬剤の注入が完了した後、ヘパリン加生理食塩液を数mL注入(ヘパリンロック)し、カテーテル16への逆流に注意しながら針を抜く。以上の結果、注入操作が完了する。
【0038】
以上述べたように本実施形態によれば下記の作用効果を奏する。
【0039】
(1)本実施形態の皮下埋込ポート11では、ハウジング12を構成するベース31の底部内面33a側に金属製の底板41を配置しているため、注射針18の先端が底部33を貫通するといった事態を防止することができる。また、底板41の有する6つの角部43が、凹部32の内側面34aに対して、底板41の周方向D1からしっかりと食い込んだ状態となる。よって、超音波溶着工程を経て底板41の周辺の樹脂が多少溶融したとしても、底板41が位置ずれしたり外れたりすることはなく、高い信頼性を付与することができる。また、従来技術のように保持リップや別の固定用パーツに頼らなくてもよいことから、工程の煩雑化やコスト増を伴うことなく底板41をベース31の底部33に確実に固定することができる。
【0040】
(2)底板41において6つの角部43がある外周縁部42の肉厚T1は、底板41における中心部側の肉厚T2よりも薄くなっている。この場合、各角部43を凹部32の内側面34aに対して底板41の周方向D1から食い込ませるときに、各角部43の受ける抵抗が比較的小さくなる。このため、各角部43を容易にかつ確実に食い込ませることができる。よって、各角部43の食い込み代を増やすことができ、より確実に底板41を固定することができる。
【0041】
(3)本実施形態の底板41は、平面視で正六角形状をなす部材であるため、角部43を6つ有している。従って、例えば三角形状や四角形状の底板を用いた場合に比べて角部43の食い込み箇所が多くなり、ベース31に対してより確実に底板43を固定することができる。また、底板41が正六角形状であるため、底板41を同じ角度回転させることにより、各角部43の食い込み代を同程度にすることができる。
【0042】
(4)本実施形態の皮下埋込ポート11の製造方法によれば、上述したように、底板固定工程において底板41をその周方向D1に回転させると、6つの角部43が凹部32の内側面34aに対して食い込み、底板41がベース31の底部33に固定される。続く超音波溶着工程において超音波を作用させると、ベース31とカバー21とが溶着されて一体化し、ハウジング12が形成される。従って、この製造方法によれば、底板41を固定するにあたり特に工程や部品点数が増えるわけでもないので、上記の優れた皮下埋込ポート11を比較的簡単に製造することができる。
【0043】
(5)本実施形態の製造方法では、超音波溶着工程において超音波を作用させると、ベース31とカバー21との界面部分が溶融して溶着するばかりでなく、底板41の食い込み部分も発振して発熱する。このとき、食い込み部分の周囲の樹脂材料が溶融し、底板41における各角部43を覆うような盛り上がり部35が形成される。その結果、ベース31に対して底板41がより確実に溶着固定される。よって、工程の増加を回避することができる。
【0044】
(6)本実施形態の製造方法では、治具係合部である2つの穴51に治具52の先端を係合させ、この状態で治具52により底板41に回転力を与えることができる。ゆえに、本来であれば凹部32の底部内面33aに配置されているため回転させにくい状況にある底板43を、比較的小さい力で周方向D1に簡単に回転させることができる。そのため、底板41の各角部43を容易にかつ確実にベース31に食い込ませることができる。
【0045】
[別の実施形態]
なお、本発明の実施形態は以下のように変更してもよい。
【0046】
・上記実施形態では、抗がん剤等の薬剤を注入するための皮下埋込ポート11を示したが、例えば栄養剤などを注入するための皮下埋込ポート11であってもよい。
【0047】
・上記実施形態では、ベース31等よりも硬質の材料からなる底板41として金属製の底板を使用したが、これに代えて例えばセラミック製の底板を使用してもよい。
【0048】
・上記実施形態では、正六角形状の底板41を使用した例を示したが、勿論これに限定されるわけではない。例えば、図9(a)に示される別の実施形態のように角部43を5つ有する正五角形状の底板41Aを使用したり、図9(b)に示される別の実施形態のように角部43を8つ有する正八角形状の底板41Bを使用したりしてもよい。
【0049】
・上記実施形態においては正多角形状の底板41,41A,41Bを例示したが、例えば図9(c)〜(e)に示す別の実施形態のような構成を採用してもよい。図9(c)に示す底板41Cは、円形状をなす底板本体の4箇所から直角三角形状の角部43を突出させた構造となっている。図9(d)に示す底板41Dは、円形状をなす底板本体の6箇所から略長方形状の角部43を突出させた構造となっている。図9(e)に示す底板41Eは、6つの角部43を有する星型形状となっている。なお、以上示した実施形態のものは、いずれも底板中心を基準とした回転対称形状となっている。
【0050】
・上記実施形態においては、治具係合部としての穴51が2つ形成された底板41を例示したが、このような穴51は3つ以上形成されていてもよい。また、図9(f)に示す別の実施形態の底板41Fのように、治具係合部として溝51Aを形成してもよい。
【0051】
・上記実施形態においては、角部43が比較的鋭い角である場合を例示したが、超音波溶着工程の際に超音波で発振する程度の鋭さがあればよいことから、若干鈍い角を有する角部43であってもよい。
なお、本発明の実施形態から把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0052】
(1)上記手段1において、平面視での前記底板の形状及び大きさは、平面視での前記凹部の形状及び大きさに略等しいとともに、前記凹部の内側面には前記角部を回避するための屈曲凹部が設けられていること。
【符号の説明】
【0053】
11…皮下埋込ポート
12…ハウジング
13…セプタム
14…カテーテル接続部
17…注液室
18…注射針
21…カバー
22…孔部
31…ベース
32…凹部
33a…底部内面
34a…内側面
41,41A,41B,41C,41D,41E,41F…底板
42…外周縁部
43…角部
51…治具係合部としての穴
51A…治具係合部としての溝
52…治具
D1…底板の周方向
T1…外周縁部の肉厚
T2…中心部側の肉厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
注液室を区画する凹部を有する有底カップ形状のベースをカバーで覆った構造のハウジングと、注射針が挿通可能であり、前記カバーの孔部から一部を露出させた状態で前記ハウジング内に配置されたセプタムと、前記ベースよりも硬質の材料からなり、前記ベースの底部内面側に配置された底板と、前記ハウジングの外側面に設置されたカテーテル接続部とを備えた皮下埋込ポートにおいて、
前記底板は、外周縁部に複数の角部を有する部材であり、前記複数の角部が前記凹部の内側面に対して前記底板の周方向から食い込むことで、前記底板が前記ベースの底部に固定されていることを特徴とする皮下埋込ポート。
【請求項2】
前記底板において前記複数の角部がある外周縁部の肉厚は、前記底板における中心部側の肉厚よりも薄いことを特徴とする請求項1に記載の皮下埋込ポート。
【請求項3】
前記底板は、角部を5つ以上有する多角形状であることを特徴とする請求項1または2に記載の皮下埋込ポート。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の皮下埋込ポートの製造方法であって、
前記底板を前記ベースの底部内面側に配置した状態で、前記底板をその周方向に回転させて前記複数の角部を前記凹部の内側面に対して食い込ませることにより、前記底板を前記ベースの底部に固定する底板固定工程と、
前記底板固定工程の後、超音波を作用させて前記ベースと前記カバーとを溶着する超音波溶着工程と
を含むことを特徴とする皮下埋込ポートの製造方法。
【請求項5】
前記超音波溶着工程では、同時に前記ベースに対して前記底板を溶着固定することを特徴とする請求項4に記載の皮下埋込ポートの製造方法。
【請求項6】
前記底板固定工程では、あらかじめ治具係合部を形成しておいた底板を用いるとともに、前記治具係合部に治具の先端を係合させた状態で前記治具により回転力を与えることで、前記底板をその周方向に回転させることを特徴とする請求項4または5に記載の皮下埋込ポートの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate