説明

皮膚、体毛または頭髪の色素形成を誘導、回復または刺激するための2,2’−シクロリグナンの使用

本発明は、皮膚、体毛または頭髪の色素形成を誘導、回復または刺激するための、美容または医薬の分野における2,2’−シクロリグナンの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の説明】
【0001】
本発明は、皮膚、体毛または頭髪の色素形成を誘導、回復または刺激することを意図した組成物の調製のための2,2’−シクロリグナンの使用に関する。
【0002】
ヒトの皮膚の色は、多くの因子、とりわけ人種および性別、更に環境的因子(季節、日光への露出)に依存し;主に、メラノサイトにより産生されるメラニンの性質および濃度に依存する。メラノサイトは、特別なオルガネラであるメラノソームを使用してメラニンを合成する分化した細胞である。ある個体は、生来または偶発的に、局所的な色素形成の欠陥を幾つか有し、局所的な待期療法を必要とするか、あるいは、天然の色素形成を刺激するためのより全体的な治療を必要とする。
【0003】
色素形成は、紫外線照射の有害な効果および全体的な皮膚の光老化に対する天然の有効な保護である。また、皮膚の色素形成は、皮膚がんの発症に対する保護であり;同程度の日光への露出に対して、浅黒い肌の個体および民族は、皮膚の色が薄い個体よりもはるかに皮膚がんを発症しにくい。
【0004】
同様に、体毛および頭髪の色はメラニンによるものである。人生の種々の時期において、とりわけ老化の間、何人かの個体は、毛球(hair bulb)と結びついたメラノサイトにおけるメラニン形成プロセスの低下または停止に伴って、頭髪の脱色が徐々に進行する。頭髪の色素形成プロセスを維持したり、白髪化する傾向の毛髪のメラニン形成および色素形成を刺激したりすることができる予防的または治療的処置を提案できることは非常に有利である。
【0005】
日光およびUV照射に晒されると、毛髪に有害な影響があり、毛幹(hair stem)だけでなく(酸化およびブリーチング)、より破壊的には、毛球(follicle bulb)にも有害な影響があり、これは、毛髪の損失につながり得る。毛包の色素形成の回復または刺激は、毛髪の損失を制限したり、その再生を刺激したりすることができる。
【0006】
皮膚の色素形成の形成メカニズムは、複雑であり、概略的には以下の主要ステップを伴う:チロシン→ドーパ→ドパキノン→メラニン。メラニンは、有機体(organites)またはメラノソームで蓄積され、その後、隣接するケラチノサイトに移される。これらステップの各々は、色素形成に必須である。チロシナーゼ(モノフェノールジヒドロキシルフェニルアラニン:酸素オキシドレダクターゼ EC 1.14.18.1)は、この一連の反応に関与する最初の酵素である。これは、とりわけ、ヒドロキシラーゼ活性によりチロシンのドーパ(ジヒドロキシフェニルアラニン)への変換反応を触媒し、オキシダーゼ活性によりドーパのドパキノンへの変換反応を触媒する。このチロシナーゼは、ある種の生物学的因子の作用の下で、成熟状態にあるときのみ作用し;メラノコルチンレセプター(MCR)などの特定のレセプターを介したシグナリングが、メラノサイトによるメラニン合成プロセスの誘導に関与し、とりわけMC1Rレセプターである。
【0007】
表皮において、メラノサイトは、約36個の隣接するケラチノサイトにより囲まれるメラノサイトを含む表皮のメラニンユニットに関与する。すべての個体は、フォトタイプによる区別なく、皮膚の所定の領域においてほぼ同数のメラノサイトを有する。色素形成についての民族の違いは、メラノサイトの数によるものではなく、メラノソームの性質によるものである。メラノソームは、複合体として凝集し、小さなサイズになる。メラノソームは、高度に分化したオルガネラであり、その唯一の機能はメラニンを産生することである。メラニンは、メラノソームで合成されると、徐々に、核周囲の領域からメラノサイトの樹状突起の端に移動する。樹状突起の端は、食作用を介してケラチノサイトにより捕捉され、メラノソームは、ケラチノサイトにおいて再分配される。このため、メラノサイトの樹状突起伸張およびケラチノサイトの食作用活性は、メラニンの移動に必須の役割を果たす。メラノソームの移動は、スタンダードと考えられる食作用現象であり、これは、「プロテアーゼ活性化レセプター2」(PAR-2)として知られるレセプターを伴う。
【0008】
メラニンのレベルは、個体群ごとに変化するが、チロシナーゼの量はあまり変化せず、チロシナーゼのメッセンジャーRNAレベルは、白色または黒色の皮膚で同一である。このため、メラニン形成の変化は、チロシナーゼ活性の変化、またはケラチノサイトのメラノソーム食作用能力の変化によるものである。このことは、ケラチノサイトが、色素形成の主要なプレイヤーであることを示す:1)ケラチノサイトは、定量的に、メラニンユニットの主要な代表物であり、情報分子(サイトカインおよびホルモン)を介してメラニン形成活性の大部分に影響を及ぼす薬剤でもある;2)ケラチノサイトは、高密度の樹状突起ネットワークにおいて、メラノソームの十分な提示と組み合わされた食作用能力をもち、これにより、表皮でのメラニンの最適な分配および色素形成が可能である。物質が、メラニン合成プロセスの活性化に直接的もしくは間接的に作用する場合、および/またはケラチノサイトによるメラノソーム食作用能力を刺激する場合、色素形成促進(pro-pigmenting)であると認識される。
【0009】
α−メラノトロピン(α−メラノサイト刺激ホルモン、α−MSH)およびコルチコトロピン(副腎皮質刺激ホルモン、ACTH)などの物質は、特定のレセプター、とりわけMC1-Rレセプターへの結合を介して、メラノサイトによるメラニンの増殖および合成を刺激する。しかし、現在入手可能であり、皮膚または毛髪の天然のメラニン色素形成のために使用される天然の誘導物質はほとんどない。
【0010】
国際特許出願 WO 2005/044289は、メラニンの合成を阻害し、これにより皮膚を美白する美容の目的のために、チョウセンゴミシ(Schisandra chinesis)の果実の抽出物を使用することを記載する。同様に、国際特許出願 WO 01/41778は、メラニンの合成を阻害することを意図した美容用組成物であって、ゴミシンNまたはg-シザンドリン(g-schizandrin)、あるいはその他のSchisandraの抽出物を含有する美容用組成物を開示する。この文献は、とりわけ皮膚を美白するためのかかる美容用組成物の使用をクレームする。
【0011】
日本特許出願 JP 01 016721は、その一部に、老化および動脈硬化症の効果を防ぐためのSchisandra果実から抽出したゴミシンNの使用を記載する。
【0012】
最後に、本来Schisandraから抽出されるゴミシンAおよびその類似体は、肝臓障害を治療するために中国薬局方で広く使用され、治療で既に使用され、無毒に関する多数のデータが、既に知られており、入手可能である。更に、ゴミシンAおよびその誘導体の産業化は、既に運転され、安価である。
【0013】
公知の化合物より効果的な活性でヒトの皮膚、体毛および頭髪の色素形成を誘導、回復または刺激することができ、かつ皮膚に対する副作用がなく、少量で使用することができるように強化された作用を有する、新規化合物に対する需要が残っている。
【0014】
大変驚くべきことに、出願人は、幾つかの2,2’−シクロリグナン、たとえばゴミシンAおよびその類似体が、有効な用量で細胞毒性を示すことなく、低濃度においても、皮膚、体毛または頭髪の優れた色素形成促進(pro-pigmenting)活性を示すことを実証した。
【0015】
とりわけ、出願人は、ゴミシンAが、
1)メラノサイトによるメラニンの生合成;
2)メラノサイトにおける高密度の樹状突起ネットワークの形成;
3)ケラチノサイトの食作用活性
を刺激することにより、色素形成メカニズムの幾つかの主要な構成成分に作用し、これによりメラニン産生量を増大させるとともに、隣接するケラチノサイトへのメラノソームの移動効率を増大させるという利点を有することを発見した。
【0016】
更に、毛髪に関して、ゴミシンAが、毛包(毛球)の色素形成を実質的に刺激し、毛包の変性を制限し、毛包の生存を増大させる。
【0017】
したがって、本発明の一つの主題は、皮膚、体毛または頭髪の色素形成を誘導、刺激または回復するための、少なくとも一つの2,2’−シクロリグナンまたは前記2,2’−シクロリグナンの美容用として許容可能な塩の美容的使用である。
【0018】
本発明の文脈内において、
− 2,2’−シクロリグナンは、2,2’−シクロリグナンの左旋性の形態または右旋性の形態、または存在する場合には、これら二つの形態の混合物を指す;
− アルキル基は、直鎖または分枝の、一価の、飽和の、1〜6個の炭素原子を含む炭化水素系鎖を指し、その代表エレメントは、たとえば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチルまたはヘキシル基である;
− 上記で定義される「アルキル」の用語は、この用語が、アルキルオキシ基などの基の名称に組み込まれるとき、同じ定義をもつ。よって、アルキルオキシ基の代表エレメントは、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシまたはペンチルオキシ基である;
− ゴミシンは、ゴミシンA、ゴミシンB、ゴミシンC、ゴミシンD、ゴミシンE、ゴミシンF、ゴミシンG、ゴミシンH、ゴミシンJ、ゴミシンL1、ゴミシンL2、ゴミシンO、ゴミシンT、ゴミシンR、ゴミシンSまたはその異性体から選択される、2,2’−シクロリグナンまたは2,2’−シクロリグナンの混合物を指す。
【0019】
好ましくは、本発明の文脈内で使用される2,2’−シクロリグナンは、以下の式(I)により示される:
【化1】

【0020】
ここで、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15およびR16は、互いに独立して、以下から選択される:
− 水素原子;
− またはハロゲン原子;
− またはニトロ、(C1-C6)アルキル、(C1-C6)アルキル-COOH、(C1-C6)アルキル-COONa、トリフルオロ(C1-C6)アルキル、(C3-C6)シクロアルキル、アシル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C18)アリール、(C6-C18)アリール-COOH、(C6-C18)アリール-COONa、(C6-C18)アリール-(C1-C4)アルキル、(C1-C6)アルキル-(C6-C18)アリール、1〜3個のへテロ原子を含む(C5-C18)ヘテロアリール、CH(OH)-(C6-C18)アリール、CO(C6-C18)-アリール、(CH2)nCONH-(CH2)m-(C6-C18)アリール、(CH2)nSO2-NH-(CH2)m-(C6-C18)アリールまたは(CH2)nCONH-CH(COOH)-(CH2)p-(C6-C18)アリール基(ここでnは1〜4、mは0〜3、pは0〜2である)から選択される基;
− またはORx、SRxまたはNRxRy基、ここで(i)RxおよびRyは、独立して、水素原子、(C1-C6)アルキル、(C3-C6)シクロアルキル、(C6-C18)アリール、(C6-C18)アリール-(C1-C4)アルキル、(C1-C12)アルキル-(C6-C18)アリール、(C3-C6)シクロアルキル-(C6-C12)アリール、1〜3個のへテロ原子を含む(C5-C12)ヘテロアリール、NR’R”またはNR’COR”基(ここでR’およびR”は、独立して、水素原子および(C1-C6)アルキル、(C3-C6)シクロアルキルおよび(C6-C12)アリール基および1〜3個のへテロ原子を含む芳香族もしくは非芳香族(C5-C12)へテロ環から選択される基を表す)から選択される基を表すか、あるいは(ii)RxおよびRyは、一緒に、(C2-C6)アルキルまたは(C2-C6)アルケニルまたは(C2-C6)ヘテロアルキルまたは(C2-C6)ヘテロアルケニルを形成する。
【0021】
美容用として許容可能な塩としては、たとえば、ナトリウム塩、ペンタアセテート、および三臭化物が挙げられる。2,2’−シクロリグナンのグリコシル化誘導体またはエステルが使用されてもよい。たとえば、ヘミコハク酸から形成されるエステルが挙げられる。
【0022】
好ましくは、本発明の文脈内で使用される2,2’−シクロリグナンは、以下の式(II)により示される:
【化2】

【0023】
ここで、
− X1、X2、X3、X4、X5およびX6は、互いに独立して、以下から選択される:
− OまたはS原子;
− またはNRz基、ここでRzは、水素原子および(C1-C6)アルキル、(C3-C6)シクロアルキルおよび(C6-C12)アリール基および1〜3個のへテロ原子を含む芳香族もしくは非芳香族(C5-C12)へテロ環から選択される基である;
− R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15およびR16は、互いに独立して、以下から選択される:
− 水素原子;
− またはハロゲン原子;
− またはニトロ、(C1-C6)アルキル、(C1-C6)アルキル-COOH、(C1-C6)アルキル-COONa、トリフルオロ(C1-C6)アルキル、(C3-C6)シクロアルキル、アシル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C18)アリール、(C6-C18)アリール-COOH、(C6-C18)アリール-COONa、(C6-C18)アリール-(C1-C4)アルキル、(C1-C6)アルキル-(C6-C18)アリール、1〜3個のへテロ原子を含む(C5-C18)ヘテロアリール、CH(OH)-(C6-C18)アリール、CO(C6-C18)-アリール、(CH2)nCONH-(CH2)m-(C6-C18)アリール、(CH2)nSO2-NH-(CH2)m-(C6-C18)アリールまたは(CH2)nCONH-CH(COOH)-(CH2)p-(C6-C18)アリール基(ここでnは1〜4、mは0〜3、pは0〜2である)から選択される基;
− R’1、R’2、R’3、R’4、R’5、R’6およびR’7は、互いに独立して、以下から選択される:
− 水素原子、(C1-C6)アルキル、(C3-C6)シクロアルキル、(C6-C18)アリール、(C6-C18)アリール-(C1-C4)アルキル、(C1-C12)アルキル-(C6-C18)アリール、(C3-C6)シクロアルキル-(C6-C12)アリールまたは1〜3個のへテロ原子を含む(C5-C12)ヘテロアリール基から選択される基;または
− 一緒にまたはR9、R10、R15またはR16と、(C2-C6)アルキルまたは(C2-C6)アルケニルまたは(C2-C6)ヘテロアルキルまたは(C2-C6)ヘテロアルケニルを形成する。
【0024】
より詳細には、本発明の一つの主題は、皮膚、体毛または頭髪の色素形成を誘導、刺激または回復するための、式(II)(ここでX1、X2、X3、X4、X5およびX6は酸素原子を表す)により表される少なくとも一つの2,2’−シクロリグナンの美容的使用である。
【0025】
非常に好ましくは、本発明の一つの主題は、皮膚、体毛または頭髪の色素形成を誘導、刺激または回復するための、少なくとも一つのゴミシン、好ましくはゴミシンAの美容的使用である。
【0026】
式(I)または式(II)により表される本発明の2,2’−シクロリグナンは、天然由来のもの、半合成に由来するもの、合成に由来するものの何れであってもよい。
【0027】
式(I)または式(II)により表される本発明の2,2’−シクロリグナンは、純粋なものを使用してもよいし、混合物を使用してもよい。式(I)または式(II)の少なくとも一つの2,2’−シクロリグナンを含有する植物抽出物が使用されてもよい。好ましくは、前記植物抽出物は、Schisandraceae科から得られる。より好ましくは、式(I)または式(II)の2,2’−シクロリグナンは、チョウセンゴミシ(Schisandra chinensis)の抽出物から得てもよい。よって、チョウセンゴミシ(Schisandra chinensis)の抽出物は、皮膚、体毛または頭髪の色素形成を誘導、刺激または回復するために使用され得る。
【0028】
「Schisandraの抽出物」の表現は、Schisandraの細胞の抽出物、より具体的には、Schisandraceae科のSchisandra属の少なくとも一つの植物の細胞の抽出物を意味すると理解される。この細胞材料は、インビトロ培養またはインビボ培養により得ることができる。「インビトロ培養」の表現は、植物または植物の部分を人工的に得ることを可能にする当業者に公知のすべての技術を意味すると理解される。「インビボ培養」の表現は、植物または植物の一部を得ることを可能にするすべての培養技術を意味すると理解される。よって、前記抽出物は、Schisandraceae科のSchisandra属の少なくとも一つの植物の器官(たとえば根、茎、葉、樹皮、果実、種子)、器官細胞または未分化細胞の抽出物であり得る。この抽出物は、抽出物のタイプに依存して可変的な割合で、式(I)または式(II)の2,2’−シクロリグナンに豊んでいる。
【0029】
本発明のSchisandraの抽出物は、クルードな形態または精製された形態で使用され得る。本発明のSchisandraの抽出物を精製することにより、クルードな抽出物の毒性の問題を回避することができる。本発明のSchisandraの抽出物の精製は、
− 前記抽出物に存在する式(I)または式(II)の2,2’−シクロリグナンまたは2,2’−シクロリグナンの混合物を濃縮すること;または
− 純粋なゴミシンを得ること
の何れかとすることができる。
【0030】
Schisandraの抽出物の精製を行うために、当業者に公知の抽出または精製方法が使用され得る。とりわけ、本発明に従って、Schisandraの抽出物は、アルコール(特にメタノールまたはエタノール)または水の抽出により、あるいは溶媒、たとえばケトン、エステル、エーテル、ポリオール、塩素系溶媒、およびこれら溶媒の少なくとも二つの混合液を用いた抽出、たとえば水/アルコールの抽出により得ることができる。
【0031】
よって、本発明の別の主題は、皮膚、体毛または頭髪の脱色を誘導する任意の疾患の予防的または治療的処置を意図した医薬の調製のための、上記で規定した少なくとも一つの2,2’−シクロリグナンまたは薬学的に許容可能な塩の使用である。
【0032】
薬学的に許容可能な塩の例は、Berge et al., “Pharmaceutically acceptable salts”, J. Pharm. Sci. 1997, 66, 1-19 による刊行物に示される。
【0033】
本発明に従って治療され得る皮膚、体毛または頭髪の脱色を誘導する疾患の例として、以下の疾患を挙げることができる:白斑、白皮症、アトピー性皮膚炎、乾癬、らい病、クワシオルコル、フェニルケトン尿症、結節硬化症、限局性白皮症、ワールデンブルグ症候群およびパリスター-キリアン症候群。
【0034】
本発明の別の主題は、皮膚、体毛または頭髪の脱色を誘導する任意の疾患の予防的または治療的処置を意図した皮膚科学的組成物の調製のための、上記で規定した少なくとも一つの2,2’−シクロリグナンまたは薬学的に許容可能な塩の使用である。
【0035】
薬学的に許容可能な塩の例は、Berge et al., “Pharmaceutically acceptable salts”, J. Pharm. Sci. 1997, 66, 1-19 による刊行物に示される。
【0036】
本発明に従って治療され得る皮膚、体毛または頭髪の脱色を誘導する疾患の例として、以下の疾患を挙げることができる:白斑、白皮症、アトピー性皮膚炎、乾癬、らい病、クワシオルコル、フェニルケトン尿症、結節硬化症、限局性白皮症、ワールデンブルグ症候群およびパリスター-キリアン症候群。
【0037】
したがって、本発明の文脈で記載される2,2’−シクロリグナンは、美容用、薬学的または皮膚科学的組成物において使用され得る。かかる組成物で使用することができる2,2’−シクロリグナンの量は、当然、所期の効果に依存し、このため、広い範囲で変動し得る。好ましくは、本発明の2,2’−シクロリグナンまたはそれを含有する植物抽出物を、調製された美容用または薬学的組成物の総重量の0.01〜5%の量で、好ましくは組成物の総重量の0.01〜2.5%の量で、より好ましくは組成物の総重量の0.01〜0.25%の量で使用することができる。
【0038】
好ましくは、本発明の2,2’−シクロリグナンは、選択された投与方法に適合し、適している賦形剤と、美容用または薬学的組成物において結合され得る。好ましくは、前記美容用または薬学的組成物は、局所適用に適合される。
【0039】
組成物は、本発明の使用のために、クリーム、ゲル、ローション、ミルク、水中油または油中水エマルジョン、溶液、軟膏、スプレー、ボディーオイル、ヘアローション、シャンプー、アフターシェーブローション、石鹸、リップ保護スティック、並びにメーキャップスティックおよびペンシルの形態とすることができる。
【0040】
本発明の組成物は、ゲルの形態において、適切な賦形剤、たとえばセルロースエステルまたは他のゲル化剤、たとえばカルボポール(carbopol)またはグアーガムを含む。
【0041】
本発明の組成物は、本発明の抽出物および/または少なくとも一つの2,2’−シクロリグナンがカプセル化された形態、たとえばミクロスフェアの形態にある、ローションまたは溶液の形態とすることができる。これらミクロスフェアは、たとえば、脂肪質の物質、寒天および水から構成され得る。本発明の色素形成促進剤は、ベクター、たとえばリポソーム、グリコスフェア(glycosphere)、シクロデキストリン、カイロミクロン、マクロ−、ミクロ−もしくはナノ粒子、およびマクロ−、ミクロ−もしくはナノカプセルに組み込まれていてもよいし、粉状の有機ポリマー、タルク、ベントナイトおよび他のミネラル支持体の上に吸着されていてもよい。これらエマルジョンは、優れた安定性を示し、0〜50℃の温度で、構成成分の沈殿や相分離が起こることなく、使用に必要な時間維持することができる。
【0042】
本発明の組成物は、化粧品学でよく見られる添加剤またはアジュパントを含有していてもよく、たとえば抗菌剤、フレグランス、抽出および/または合成の脂質、ゲル化および粘度上昇ポリマー、界面活性剤および乳化剤、水溶性もしくは脂溶性有効成分、植物抽出物、組織抽出物、マリン抽出物または合成の活性剤が挙げられる。
【0043】
本発明の組成物は、作用で選ばれた他の追加の有効成分、たとえば日光に対する保護、抗しわ効果、フリーラジカルスカベンジングおよび抗酸化活性、抗刺激活性、細胞栄養、細胞呼吸、細胞の水和および再生、抗脂漏性処理で選ばれた他の追加の有効成分を含んでいてもよいし、更に、皮膚の張性や頭髪の保護に対する作用を備えた他の有効成分を含んでいてもよい。
【0044】
本発明の組成物は、好ましくは、一日に1回以上適用することにより、毎日使用することができる。
【0045】
本発明の組成物は、非常に耐性があり、光毒性を示さず、長期間にわたる皮膚への適用が、全身的な効果を伴うことはない。
【0046】
以下の実施例は、非限定的な手法で本発明を詳説する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は、ゴミシンAの存在下において正常なヒトメラノサイトで産生されたメラニンの評価を示す。
【実施例】
【0048】
実施例1:メラノサイト培養物におけるメラニン形成活性の実証
生物学的テストは、メラニン合成に対するゴミシンAの刺激活性を実証した。
ゴミシンAのメラニン形成刺激効果は、B16メラノサイト培養物で測定した。
【0049】
ゴミシンAについて、以下を測定した:
− “酢酸ミリスチン酸ホルボール”(PMA)を含まないプロモセル(Promocell)培地中で、24ウェルプレートにおいて、標準的な条件下で10日間培養した後:
“メチルチアゾリルテトラゾリウム”(MTT)の減少を評価することによる細胞毒性;
ブラッドフォード(Bradford)法に従ったアッセイによるタンパク質の量、および細胞層の観察;
コントロール(コントロールは、テスト化合物なしで実施したテストである)の100%に対する、アルカリ抽出後、産生されたメラニンの分光光度測定による、培養物に存在するメラニンの量。
【0050】
結果を、以下の表1および2にまとめる。
【表1】

【表2】

【0051】
したがって、ゴミシンAは、毒性のない用量で処理したメラノサイト培養物において、メラニン産生の有意な増加を引き起こした。更に、この産物は、ケラチノサイトの増殖/タンパク質合成に対して効果を示さなかった。
【0052】
実施例2:メラノサイト培養物におけるメラニン形成活性の実証
生物学的テストは、メラニン合成に対するゴミシンCの刺激活性を実証した。ゴミシンCのメラニン形成刺激効果は、B16メラノサイト培養物で測定した。
【0053】
ゴミシンCについて、以下を測定した:
− “酢酸ミリスチン酸ホルボール”(PMA)を含まないプロモセル(Promocell)培地中で、24ウェルプレートにおいて、標準的な条件下で10日間培養した後:
“メチルチアゾリルテトラゾリウム”(MTT)の減少を評価することによる細胞毒性、ブラッドフォード(Bradford)法に従ったアッセイによるタンパク質の量、および細胞層の観察;
コントロール(コントロールは、テスト化合物なしで実施したテストである)の100%に対する、アルカリ抽出後、産生されたメラニンの分光光度測定による、培養物に存在するメラニンの量。
【0054】
結果を、以下の表3および4にまとめる。
【表3】

【表4】

【0055】
したがって、ゴミシンCは、毒性のない用量で処理したメラノサイト培養物において、メラニン産生の有意な増加を引き起こした。更に、この産物は、ケラチノサイトの増殖/タンパク質合成に対して効果を示さなかった。
【0056】
実施例3:ゴミシンAの存在下において正常なヒトメラノサイトで産生されたメラニンの評価
プロダクトGPN000715は、ゴミシンAに相当する。
【0057】
テスト調合物およびレファレンス調合物による2Dメラノサイトの処理:
研究は、培養中の白色人種の一次メラノサイトについて実施した。テスト調合物およびレファレンス調合物は、チロシナーゼの基質であるL-dopa(50μM)(Sigma, D9628-5G)の存在下で、4日間適用し、培地は、2日後に新しくした。プロダクトGPN000715は、3種類の濃度:10μM、30μMおよび80μMで適用した。100 nMのレファレンスエレメント(MSH)の適用を実施し、更に0.1 mMのアルブチンの適用も実施した。未処理のコントロール細胞(CTL)は、培地中に静置した。
【0058】
メラニンの定量化:
メラノサイトを、+/−100 000細胞の細胞密度で、6ウェルプレートに播いた。細胞を播いてから1週間後、テストプロダクトおよびレファレンスプロダクトを、L-Dopaの存在下で適用した。処理の4日後、NaOHの溶液(1N)(Merck, 109956)を用いて、37℃で24時間かけて細胞の溶解を行った。その後、細胞の溶解物を10分間遠心分離し、450 nmにおける吸光度を読むために、各溶解物の120μlを96ウェルプレートに移した。0〜100μg/mlの合成メラニン(Sigma, M8631-100MG)でつくられた標準曲線から得られる吸光度と比較することにより、各サンプルのメラニン含量を定量した。
【0059】
結果
図1は、テストエレメントおよびレファレンスエレメントの存在下における適用4日後の、単層での、メラノサイトによるメラニンの産生の定量を表す。各バーは、標準偏差(n=3)を表す。データの統計解析のために、フィッシャー(Fischer)比較テストを使用した(アスタリスク“*”は、コントロールに対してp<0.01を意味する)。
【0060】
よって、ゴミシンAは、30μMの濃度で、正常なヒトメラノサイトにおいて、40%のオーダーで、メラニンの量を有意に増大させることが観察される

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚、体毛または頭髪の色素形成を誘導、刺激または回復するための、少なくとも一つの2,2’−シクロリグナンまたは前記2,2’−シクロリグナンの美容用として許容可能な塩の美容的使用。
【請求項2】
2,2’−シクロリグナンが、式(I)
【化1】

により示されることを特徴とする、請求項1に記載の使用:
ここで、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15およびR16は、互いに独立して、以下から選択される:
− 水素原子;
− またはハロゲン原子;
− またはニトロ、(C1-C6)アルキル、(C1-C6)アルキル-COOH、(C1-C6)アルキル-COONa、トリフルオロ(C1-C6)アルキル、(C3-C6)シクロアルキル、アシル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C18)アリール、(C6-C18)アリール-COOH、(C6-C18)アリール-COONa、(C6-C18)アリール-(C1-C4)アルキル、(C1-C6)アルキル-(C6-C18)アリール、1〜3個のへテロ原子を含む(C5-C18)ヘテロアリール、CH(OH)-(C6-C18)アリール、CO(C6-C18)-アリール、(CH2)nCONH-(CH2)m-(C6-C18)アリール、(CH2)nSO2-NH-(CH2)m-(C6-C18)アリールまたは(CH2)nCONH-CH(COOH)-(CH2)p-(C6-C18)アリール基(ここでnは1〜4、mは0〜3、pは0〜2である)から選択される基;
− またはORx、SRxまたはNRxRy基、ここで(i)RxおよびRyは、独立して、水素原子、(C1-C6)アルキル、(C3-C6)シクロアルキル、(C6-C18)アリール、(C6-C18)アリール-(C1-C4)アルキル、(C1-C12)アルキル-(C6-C18)アリール、(C3-C6)シクロアルキル-(C6-C12)アリール、1〜3個のへテロ原子を含む(C5-C12)ヘテロアリール、NR’R”またはNR’COR”基(ここでR’およびR”は、独立して、水素原子および(C1-C6)アルキル、(C3-C6)シクロアルキルおよび(C6-C12)アリール基および1〜3個のへテロ原子を含む芳香族もしくは非芳香族(C5-C12)へテロ環から選択される基を表す)から選択される基を表すか、あるいは(ii)RxおよびRyは、一緒に、(C2-C6)アルキルまたは(C2-C6)アルケニルまたは(C2-C6)ヘテロアルキルまたは(C2-C6)ヘテロアルケニルを形成する。
【請求項3】
2,2’−シクロリグナンが、式(II)
【化2】

により示されることを特徴とする、請求項1または2に記載の使用:
ここで、
− X1、X2、X3、X4、X5およびX6は、互いに独立して、以下から選択される:
− OまたはS原子;
− またはNRz基、ここでRzは、水素原子および(C1-C6)アルキル、(C3-C6)シクロアルキルおよび(C6-C12)アリール基および1〜3個のへテロ原子を含む芳香族もしくは非芳香族(C5-C12)へテロ環から選択される基である;
− R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15およびR16は、互いに独立して、以下から選択される:
− 水素原子;
− またはハロゲン原子;
− またはニトロ、(C1-C6)アルキル、(C1-C6)アルキル-COOH、(C1-C6)アルキル-COONa、トリフルオロ(C1-C6)アルキル、(C3-C6)シクロアルキル、アシル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C18)アリール、(C6-C18)アリール-COOH、(C6-C18)アリール-COONa、(C6-C18)アリール-(C1-C4)アルキル、(C1-C6)アルキル-(C6-C18)アリール、1〜3個のへテロ原子を含む(C5-C18)ヘテロアリール、CH(OH)-(C6-C18)アリール、CO(C6-C18)-アリール、(CH2)nCONH-(CH2)m-(C6-C18)アリール、(CH2)nSO2-NH-(CH2)m-(C6-C18)アリールまたは(CH2)nCONH-CH(COOH)-(CH2)p-(C6-C18)アリール基(ここでnは1〜4、mは0〜3、pは0〜2である)から選択される基;
− R’1、R’2、R’3、R’4、R’5、R’6およびR’7は、互いに独立して、以下から選択される:
− 水素原子、(C1-C6)アルキル、(C3-C6)シクロアルキル、(C6-C18)アリール、(C6-C18)アリール-(C1-C4)アルキル、(C1-C12)アルキル-(C6-C18)アリール、(C3-C6)シクロアルキル-(C6-C12)アリールまたは1〜3個のへテロ原子を含む(C5-C12)ヘテロアリール基から選択される基;または
− 一緒にまたはR9、R10、R15またはR16と、(C2-C6)アルキルまたは(C2-C6)アルケニルまたは(C2-C6)ヘテロアルキルまたは(C2-C6)ヘテロアルケニルを形成する。
【請求項4】
X1、X2、X3、X4、X5およびX6が酸素原子を表すことを特徴とする、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
2,2’−シクロリグナンがゴミシン(gomisin)であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
ゴミシンがゴミシンAであることを特徴とする、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
2,2’−シクロリグナンが、美容用組成物中に、前記組成物の総重量の0.01〜5%の量で存在することを特徴とする、請求項1〜6の何れか1項に記載の使用。
【請求項8】
皮膚、体毛または頭髪の脱色を誘導する疾患の予防的または治療的処置を意図した医薬の調製のための、請求項1〜6の何れか1項に規定される少なくとも一つの2,2’−シクロリグナン、または薬学的に許容可能な塩の使用。
【請求項9】
以下の疾患:白斑、白皮症、アトピー性皮膚炎、乾癬、らい病、クワシオルコル、フェニルケトン尿症、結節硬化症、限局性白皮症、ワールデンブルグ症候群およびパリスター-キリアン症候群の一つの治療を意図した医薬の調製のための、請求項1〜6の何れか1項に規定される少なくとも一つの2,2’−シクロリグナン、または薬学的に許容可能な塩の使用。
【請求項10】
2,2’−シクロリグナンが、前記医薬の総重量の0.01〜5%の量で存在することを特徴とする、請求項8または9に記載の使用。
【請求項11】
皮膚、体毛または頭髪の脱色を誘導する疾患の予防的または治療的処置を意図した皮膚科学的組成物の調製のための、請求項1〜6の何れか1項に規定される少なくとも一つの2,2’−シクロリグナン、または薬学的に許容可能な塩の使用。
【請求項12】
以下の疾患:白斑、白皮症、アトピー性皮膚炎、乾癬、らい病、クワシオルコル、フェニルケトン尿症、結節硬化症、限局性白皮症、ワールデンブルグ症候群およびパリスター-キリアン症候群の一つの治療を意図した皮膚科学的組成物の調製のための、請求項1〜6の何れか1項に規定される少なくとも一つの2,2’−シクロリグナン、または薬学的に許容可能な塩の使用。
【請求項13】
2,2’−シクロリグナンが、前記組成物の総重量の0.01〜5%の量で存在することを特徴とする、請求項11または12に記載の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2010−536920(P2010−536920A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−522328(P2010−522328)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【国際出願番号】PCT/EP2008/061004
【国際公開番号】WO2009/027330
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(510051680)
【氏名又は名称原語表記】GREENTECH
【住所又は居所原語表記】Biopole Clermont−Limagne, 63360 ST BEAUZIRE, FRANCE
【Fターム(参考)】