説明

皮膚の表面反射の目立ちやすさの評価方法

【課題】皮膚のキメや皮膚色という各個の皮膚特性要因から皮膚の表面反射が外観的に目立ちやすいかどうかを定量的に評価することができる皮膚の表面反射の目立ちやすさの評価方法を提供すること。
【解決手段】被験部位の皮膚のキメの細かさの度合いを求め、前記被験部位の皮膚色を計測して、皮膚の明るさを求め、前記で求められたキメの細かさの度合いおよび前記で得られた皮膚の明るさに基づいて表面反射の目立ちやすさを評価することを特徴とする皮膚の表面反射の目立ちやすさの評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の表面反射の目立ちやすさの評価方法に関する。さらに詳しくは、皮脂分泌が主たる原因であると考えられている顔面などの皮膚の表面反射が外観的に目立ちやすいかどうかを定量的に評価することができる皮膚の表面反射の目立ちやすさの評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「テカり」や「ギラつき」と呼ばれる、顔面に生じる好まれない表面反射は、美しい肌にメークアップした外観の状態を大きく損なう原因となる。また、女性と比べて皮脂量が多い男性は、「テカり」や「ギラつき」が発生しやすいため、モニターによる調査結果では、自己の肌悩みの上位に挙げられるだけでなく、女性からみた男性に対する印象を悪化させる要因となっている。
【0003】
従来、顔面に生じる表面反射は、皮膚表面に過多の皮脂が存在することが原因であると考えられていたが、近年、メークアップファンデーションの開発に関する研究により、皮膚表面の皮溝皮丘による微細な凹凸形状が入射光を表面で散乱させることから、皮膚の外観と関連していると考えられている(例えば、非特許文献1および非特許文献2参照)。
【0004】
しかし、本発明者らが先行技術文献を調査した範囲内では、皮膚のキメや皮膚色という各個の皮膚特性要因から皮膚の表面反射が外観的に目立ちやすいかどうかを定量的に評価することができる皮膚の表面状態の評価方法は、未だ提案されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】坂東ら、「日本化粧品技術者会誌」(粧技誌)、日本化粧品技術者会、2002年、第36巻、第1号、p.25−35
【非特許文献2】西村ら、「日本化粧品技術者会誌」(粧技誌)、日本化粧品技術者会、2006年、第40巻、第2号、p.88−94
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、皮膚のキメや皮膚色という各個の皮膚特性要因から皮膚の表面反射が外観的に目立ちやすいかどうかを定量的に評価することができる皮膚の表面反射の目立ちやすさの評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
(I) (1)被験部位の皮膚のキメの細かさの度合いを求め、
(2)前記被験部位の皮膚色を計測し、皮膚の明るさを求め、
(3)前記(1)で求められたキメの細かさの度合いおよび前記(2)で得られた皮膚の明るさに基づいて表面反射の目立ちやすさを評価する
ことを特徴とする皮膚の表面反射の目立ちやすさの評価方法、
(II) キメの細かさの度合いが、複数の被験者の被験部位の皮膚のレプリカを作製し、キメが細かいレプリカ、キメが粗いレプリカ、およびキメが粗いレプリカとキメが細かいレプリカとの中間のキメを有するレプリカを用いて評点付けをしたレプリカを基準にして求められた評点である前記(I)に記載の皮膚の表面反射の目立ちやすさの評価方法、および
(III) 皮膚の明るさが、分光側色計を用いて前記被験部位の皮膚色をL***表色系で計測されたL*値である前記(I)または前記(II)に記載の皮膚の表面反射の目立ちやすさの評価方法
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の皮膚の表面反射の目立ちやすさの評価方法によれば、皮膚のキメや皮膚色という各個の皮膚特性要因から皮膚の表面反射が外観的に目立ちやすいかどうかを定量的に評価することができるという効果が奏される。したがって、本発明の皮膚の表面反射の目立ちやすさの評価方法によれば、皮膚のキメや皮膚色の改善が単なるスキンケア効果として評価されるだけでなく、テカりやギラつきの目立ちやすさという、肌悩みに直結した観点で定量的に評価することができるとともに、表面反射の目立ちやすさの予測、すなわちギラつきやすい肌質であるかどうかの予測をすることができるという効果も奏する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らは、「テカり」や「ギラつき」が皮膚で目立つ要因として、皮脂量以外の要因が関与していることを推論して研究を重ねたところ、皮脂が皮膚の「テカり」や「ギラつき」の主要因であるが、さらに皮膚のキメと皮膚色も大きな要因であることが判明した。
【0010】
そこで、本発明者らは、皮脂が多く存在するときに「テカり」や「ギラつき」の現象が顕著になるのは当然のことながら、同程度の皮脂量でもこれらの現象の程度は異なる場合があることから、皮脂量の影響を排除した状態で、例えば、同程度の皮脂量が分泌された場合に、皮膚の表面反射が外観的に目立ちやすいかどうかを定量的に評価することができる方法を開発するべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の皮膚の表面反射の目立ちやすさの評価方法は、前記したように、
(1)被験部位の皮膚のキメの細かさの度合いを求め、
(2)前記被験部位の皮膚色を計測して、皮膚の明るさを求め、
(3)前記(1)で求められたキメの細かさの度合いおよび前記(2)で得られた皮膚の明るさに基づいて表面反射の目立ちやすさを評価する
ことを特徴とする。
【0012】
本発明の皮膚の表面反射の目立ちやすさの評価方法によれば、皮膚のキメや皮膚色が加齢や化粧料の使用などによって変化した場合であっても、皮膚の表面反射が外観的に目立ちやすいかどうかを定量的に評価することができる。
【0013】
このような表面反射の目立ちやすさを定量的に評価する評価値を算出するには、例えば、式(I):
〔表面反射の目立ちやすさの評価値〕
=p×〔キメの細かさの度合い〕+q×〔皮膚の明るさ〕 (I)
(式中、pはキメの細かさの度合いに乗じられる係数、qは皮膚の明るさに乗じられる係数、を示す)
で表すことができる。
【0014】
被験部位の皮膚のキメの細かさの度合いを求める方法は、キメを数値化することができる方法であればよく、特に限定されない。
【0015】
被験部位の皮膚のキメの細かさの度合いを求める方法としては、例えば、光透過性のよい顔料入りレプリカ剤で採取されたレプリカ各点の光透過度の違いから皮膚表面形状を定量化する方法、シリコーンラバーなどのレプリカ剤で採取されたレプリカに斜光照明をあてて生じた影を画像解析により様々なパラメーターで解析する方法、そのレプリカ表面を触針で走査し、凹凸の程度を調べる方法、レーザーを用いてレプリカ表面の凹凸を精度よく三次元的に表示する方法などの間接法、微細な体動の影響を受けにくいように短時間での測定が可能な格子パターン投影法を用い、インビボ(in vivo)で皮膚の凹凸を三次元測定する方法などの直接法が挙げられる。
【0016】
前記被験部位の皮膚のキメの細かさの度合いを求める方法の具体例としては、高橋、「日本化粧品技術者会誌」(粧技誌)、日本化粧品技術者会、2000年、第34巻、第1号、p.5−24に記載されている方法、高橋、「日本化粧品技術者会誌」(粧技誌)、日本化粧品技術者会、2002年、第36巻、第2号、p.93−101に記載されている方法などが挙げられる。
【0017】
しかしながら、キメは、皮溝の深さ、幅、配列規則性、方向性などの複合的要因により、その状態の良否が判断される。前記斜光照明による影の解析値や凹凸の三次元情報から得られる深さや体積に関する物理的数値は、複合要因の中の一部のみの観点である可能性があるため、複合的判断による評価として、パネラーによる評点付けが有用である。
【0018】
したがって、本発明においては、複数の被験者の被験部位の皮膚のレプリカを作製し、キメが細かいレプリカ、キメが粗いレプリカ、およびキメが粗いレプリカとキメが細かいレプリカとの中間のキメを有するレプリカを用いて評点付けをしたレプリカを基準にして求められた評点により、キメの細かさの度合いを求めることが好ましい。
【0019】
レプリカは、型取り剤を被験部位の皮膚に塗布し、皮膚のキメやしわなどの皮膚の表面状態を型取り剤の塗布面に転写することによって作製することができる。
【0020】
型取り剤を用いて被験部位の皮膚のレプリカを作製する際には、皮膚のキメが細かい被験者から皮膚のキメが粗い被験者に至るまで、キメの細かさの範囲が広くなるように被験者を選択することが好ましい。なお、選択される被験者の人数は、特に限定されない。
【0021】
被験部位の皮膚のレプリカを採取する際に使用される型取り剤としては、例えば、型取り用シリコーンゴムなどが挙げられ、アール・エス・アイ(有)製、商品名:SKIN CAST、旭化成ワッカーシリコーン(株)製、商品名:二液型RTVシリコーンゴム〔ELASTOSIL(登録商標)Mシリーズ〕などとして商業的に容易に入手することができる。
【0022】
次に、作製されたレプリカのキメの細かさの度合いを求める。レプリカに転写されている皮膚のキメの細かさの度合いは、種々の方法で求めることができる。レプリカに転写されている皮膚のキメの細かさの度合いを測定する方法としては、例えば、機器を用いてキメの深さや面積などによってレプリカに転写されている皮膚のキメの細かさを測定する方法、評価パネラーによってレプリカに転写されている皮膚のキメの細かさを評価する方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。具体的には、以下のようにして皮膚のキメの細かさの度合いを求めることができる。
【0023】
まず、複数の被験者のレプリカを用意し、それらのレプリカにキメの細かさの順位付けをする。
【0024】
次に、キメが細かいレプリカからキメが粗いレプリカまで順にレプリカを並べ、キメが細かいレプリカ、キメが粗いレプリカ、およびキメの細かさが、キメが細かいレプリカとキメが粗いレプリカとの中間であるレプリカを決定し、それぞれに点数を付与する。例えば、キメが細かいレプリカについては5点、キメの細かさが中間であるレプリカについては3点、キメが粗いレプリカについては1点の各ポイントを付与するというようにすればよい。この場合、これらの3つのレプリカを基準サンプルとし、すべてのレプリカについて1〜5点の範囲内で点数を付与する。
【0025】
なお、レプリカの点数は、皮膚の表面反射の目立ちやすさの評価の精度を高める観点から、訓練された3〜10人程度の評価者によって行ない、評価者全員のレプリカの点数を合計し、その合計得点を評価者の人数で除した値とすることが好ましい。
【0026】
一方、皮膚色の明るさは、前記被験部位の皮膚色を計測して求められる。皮膚色の明るさを求める方法としては、例えば、分光測色計〔コニカミノルタホールディングス(株)製、品番:CM−2600d〕を用い、SCE(正反射光除去)方式でL***表色系におけるL*値を計測する方法を例示することができる。この計測は、前記キメの細かさの度合いを求める前に行なってもよく、あるいは前記キメの細かさの度合いを求めた後に行なってもよい。本発明は、それらのいずれの態様も包含するものである。この場合、L*値は、被験部位の1ヵ所のみの値であってもよいが、より精度を高めるために、複数箇所、例えば、被検部位の3〜5ヵ所について測定し、その測定値の平均値であることが好ましい。
【0027】
なお、被験部位の皮膚色をL***表色系で計測しているが、計測されるL*値、a*値およびb*値のうち、L*値が用いられる。これは、後述の実施例に示されるように、皮脂量の影響を排除して、キメ細かさの度合いや皮膚色がギラつきやすさへ及ぼす影響について解析した結果、L*値、a*値およびb*値のうち、L*値のみがギラつきやすさへの影響度が強いものとして選択されたからである。
【0028】
以上のようにして求められたキメの細かさの度合いおよび前記で得られた皮膚の明るさにより、表面反射の目立ちやすさを評価する。表面反射の目立ちやすさの評価値は、前記式(I)で示したように、重み付けをしたキメの細かさの度合いと重み付けをした皮膚の明るさとを加算した値として求めることができる。
【0029】
式(I)において、キメが細かいレプリカについては5点、キメの細かさが中間であるレプリカについては3点、キメが粗いレプリカについては1点の3つの基準サンプルを用い、すべてのレプリカについて1〜5点の範囲内で点数を付与し、また、皮膚の明るさについてL***表色系におけるL*値を計測した場合、係数pは、−0.6〜−0.3であることが好ましく、係数qは−0.3〜−0.1であることが好ましい。なお、表面反射の目立ちやすさの評価値は、例えば、0〜100や、−10〜10などの数値範囲を指標に変換してもよい。
【0030】
以上のようにして求められる表面反射の目立ちやすさの評価値により、皮膚のキメおよび皮膚色から皮膚の表面反射が外観的に目立ちやすいかどうかを皮脂量の影響を排除して、定量的に評価することができる。したがって、本発明の皮膚の表面反射の目立ちやすさの評価方法によれば、皮膚のキメや皮膚色の改善が単なるスキンケア効果として評価されるだけでなく、テカりやギラつきの目立ちやすさという、肌悩みに直結した観点で定量的に評価することができるとともに、表面反射の目立ちやすさの予測、すなわちギラつきやすい肌質であるかどうかの予測をすることもできる。
【実施例】
【0031】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0032】
(1)実施の準備
年齢が26〜57歳である成人男性20名を被験者とし、皮膚特性に偏りがないようにした。
【0033】
試験当日の朝、各被験者に洗顔してもらい、その後は洗顔や皮脂の除去を一切行なわずに過ごし、皮脂が十分に分泌されていると考えられるその日の午後3時以降に、被検部位として各被験者の前額部の皮膚をカメラで撮影し、皮脂量測定装置〔カウレッジ・アンド・カーザカ・エレクトロニック・ゲーエムベーハー(Courage & Khazaka Electronic GmbH)社製、商品名:セブメーター(Sebumeter)SM810〕を用いて皮脂量を測定し、直ちに市販の洗顔料で洗顔し、再度、各被験者の前額部の皮膚をカメラで撮影し、皮脂量を測定した。その後、各被験者の前額部の皮膚の皮膚色を分光測色計〔コニカミノルタホールディングス(株)製、品番:CM−2600d〕を用いて、SCE(正反射光除去)方式でL***表色系で被験部位の3ヵ所を測定した。また、アール・エス・アイ(有)製、商品名:SKIN CASTを用いて各被験者の前額部の皮膚のレプリカ約3cm×3cmをそれぞれ1枚ずつ作製した。
【0034】
作製したレプリカ20枚について、キメの細かさを順位付けした後、キメが細かいレプリカ、キメが粗いレプリカ、およびキメが細かいレプリカとキメが粗いレプリカとの中間であるレプリカを決定した。キメが細かいレプリカを評点5とし、キメが粗いレプリカを評点1点とし、キメが細かいレプリカとキメが粗いレプリカとの中間であるレプリカを評点3として、訓練された評価者3名により、すべてのレプリカについて1〜5点の評点付けをした後、3名の評点の平均値を算出し、これをキメスコアとした。
【0035】
なお、各被験者の前額部の皮膚をカメラで撮影する際には、デジタルカメラ〔コニカミノルタホールディングス(株)製、商品名:DiMAGE 7i、500万画素〕およびリングフラッシュ〔コニカミノルタホールディングス(株)製、商品名:MACRO 1200 AF〕を用い、レンズ部とリングフラッシュ部にそれぞれ偏光フィルターを装着した。レンズ部は可動であり、2枚の偏光フィルターの偏光方向が平行または垂直となるようにして撮影を行なった。ホワイトバランスおよび露出は、一定となるように制御した。
【0036】
洗顔前の顔面の皮膚の画像は、ギラつきが顕著な状態での顔面の皮膚の画像に該当し、洗顔後の顔面の皮膚の画像は、ギラつきが顕著でない状態での顔面の皮膚の画像に該当する。
【0037】
2枚の偏光フィルターの偏光角度が平行となるようにして撮影した画像をP画像とし、2枚の偏光フィルターの偏光角度が垂直となるようにして撮影した画像をC画像とした。これらの画像は、ギラつき度を評価するために用いた。
【0038】
なお、ギラつき度の算出方法としては、例えば、前記P画像を用いて目視評価する方法、P画像とC画像の両方を用いて、画像処理とその解析によりギラつき度を算出する方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0039】
(2)ギラつき度の算出
目視評価には、各被験者の洗顔前および洗顔後のP画像合計40枚を用いた。ギラつきの有無を絶対評価によってスコア化することが困難であることから、P画像40枚からギラつきのレベルが2、4または6に該当する画像を選定し、これらの画像を判断基準の画像とした後、その他のP画像37枚について1〜7の7段階の評点を付した。
【0040】
前記操作を評価者10名で実施した後、各評価者の評点を集計し、その平均点を算出して目視による各画像のギラつき度とした。
【0041】
(3)表面反射の目立ちやすさの評価値の算出
40枚の画像について、撮影と同時に計測した皮脂量と、前記で求めたギラつき度との単回帰分析を行なった。ギラつき度が皮脂量のみに依存するのであれば、すべてのデータが単回帰直線上に位置することになると考えられる。
【0042】
実際には、単回帰直線からデータが外れる場合が生じるが、これは、皮脂量以外に、ギラつき度を高めたり低めたりする要因が存在することが考えられる。
【0043】
その要因について詳細に解析するために、各被験者のデータについて、「残差(前記単回帰直線からどの程度離れているか)」と皮脂量以外の皮膚特性との相関性を確認した。その結果、相関性が認められたのは、キメスコア(R=−0.613)、皮膚色L*値(R=−0.580)およびa*値(R=−0.582)の3要因であった。
【0044】
残差との相関性が認められた皮脂量以外の皮膚特性は、ギラつきに対する影響力を有する要因となる可能性がある。そこで、皮脂量以外の要因による影響力を詳細に解析するために、前記3要因について重回帰分析を行なった。
【0045】
なお、ここで、重回帰分析とは、多数の説明変数によって1つの目的変数を説明または予測するときに用いられる統計的方法である。
【0046】
重回帰分析によれば、目的変数yと説明変数x1, x2, x3に関し、式:
y=a11+a22+a33+b
(式中、yはギラつき度と皮脂量の単回帰式からの残差、x1はキメスコア、x2は皮膚色L*値、x3は皮膚色a*値、a1はキメスコアの偏回帰係数、a2は皮膚色L*値の偏回帰係数、a3は皮膚色a*値の偏回帰係数、bは定数項を示す)
で表される一次回帰式を想定し、実測データから偏回帰係数a1、a2、a3およびbを求めることができる。また、その一次回帰式の精度を高めるために、変数の選択を行なうことがある。
【0047】
変数の選択方法として「ステップワイズ法」がよく用いられており、この方法によれば、変数を増減させることによって最適な変数を決定することができる。「ステップワイズ法」は、通常、統計学の成書に詳述されているが、例えば、統計解析ソフト〔SAS Institute Japan(株)製、商品名:JMP〕などによって簡便に行なうことができる。
【0048】
今回、被験者20名の洗顔前後のデータを用いて(N=40)、皮脂量とギラつき度との単回帰直線からの残差を目的変数とし、キメスコア、皮膚色L*値およびa*値の3つの変数を説明変数とした重回帰分析を行なった。
【0049】
ステップワイズ法で変数を選択すると、皮膚色明度a*は選択されず、キメスコアと皮膚色明度L*とが選択された。この2つを説明変数として再度最小二乗法による重回帰分析を行なった結果、自由度調整済決定係数は、0.450であった。偏回帰係数は、キメスコアで−0.456(a)、皮膚色明度L*で−0.160(a)となった。
【0050】
これらの重み付けをしたギラつきやすさの評価値は、式(II):
〔ギラつきやすさの評価値〕
=〔キメスコア〕×(−0.456)+〔皮膚色明度L*〕×(−0.160) (II)
で表される。
【0051】
式(II)において、ギラつきやすさの評価値が大きいほどギラつきが起こりやすく、小さいほどギラつきが起こりにくい。すなわち、ギラつきやすさの評価値は、キメが粗くて皮膚色が暗い場合には、ギラつきが起こりやすく、また、キメ細かくて皮膚色が明るい場合には、ギラつきが起こりにくいことを、適切な重み付けによって数値化している。
【0052】
前記ギラつきやすさの評価値について、〔キメスコア〕と〔皮膚色明度L*〕のそれぞれ取りうる上限値と下限値を代入したときの最小値と最大値をそれぞれ0および100とし、0が最もギラつきにくいことを示し、100が最もギラつきやすいことを示す式を求めた。この式から導かれる値をギラつきやすさ度とした。
【0053】
より具体的には、各要因の上限値と下限値が必要になる。本発明においては、キメスコアの上限値は5、下限値は1、皮膚色明度L*の上限値は59.9、下限値は49.1であった。すなわち、キメスコアが5で皮膚色明度L*が59.9のときのギラつきやすさの評価値は最小値−11.85となるが、そのときのギラつきやすさ度を0とした。また、キメスコアが1で皮膚色明度L*が49.1のときのギラつきやすさの評価値は最大値−8.30となるが、そのときのギラつきやすさ度を100とした。このように換算するときのギラつきやすさ度は、式:
〔ギラつきやすさ度〕
=100×[−11.85−ギラつきやすさの評価値]÷[−11.85−(−8.30)]
=100×(11.85+ギラつきやすさの評価値)÷3.55
=333.64+28.16×ギラつきやすさの評価値
=333.64−12.84×(キメスコア)−4.50×(皮膚色明度L*
で表され、ギラつきやすさ度が大きいほど、皮脂量以外の要因によってギラつきが目立ちやすいことを示す。
【0054】
実験例1
同程度の皮脂量、皮膚色明度L*で、キメの細かさが異なる被験者Lおよび被験者Rについて、ギラつき度、ギラつきやすさ度、皮脂量、皮膚色明度L*およびキメスコアを調べた。その結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1に示した差の割合は、[〔被験者Rの値〕−〔被験者Lの値〕]/〔各変数最大値と最小値の差〕である。相対的に、ギラつき度、ギラつきやすさ度およびキメスコアは、被験者間に差があり、皮脂量と皮膚色明度は、被験者間に大差がないと判断される。
【0057】
表1に示された結果から、被験者Lと被験者Rとでは、皮脂量や皮膚色明度に大差がないが、ギラつきやすさ度の差が大きいことに伴い、ギラつき度に差が生じていることがわかる。これは、キメスコアの差が大きい(差の割合が負の方向に大きい)ことに由来している。
【0058】
実験例2
同程度の皮脂量、キメの細かさで、皮膚色明度L*が異なる被験者Oおよび被験者Aについて、ギラつき度、ギラつきやすさ度、皮脂量、皮膚色明度L*およびキメスコアを調べた。その結果を表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
表2に示した差の割合は、[〔被験者Aの値〕−〔被験者Oの値〕]/〔各変数最大値と最小値の差〕である。相対的に、ギラつき度、ギラつきやすさ度および皮膚色明度L*は、被験者間に差があり、皮脂量と皮膚色明度は、被験者間に大差がないと判断される。
【0061】
表2に示された結果から、被験者Oと被験者Aとでは、皮脂量やキメスコアに大差がないが、ギラつきやすさ度の差が大きいことに伴い、ギラつき度に差が生じていることがわかる。これは、皮膚色明度L*の差が大きい(差の割合が負の方向に大きい)ことに由来している。
【0062】
表1および表2に示された結果から、皮脂量以外の要因の影響がギラつきやすさ度に反映され、これに伴い、同程度の皮脂量であってもギラつき度が相違している事実、すなわちギラつきやすさ度がギラつきを生じやすいかどうかを反映した結果が示された。
【0063】
以上の結果から、本発明の皮膚の表面反射の目立ちやすさの評価方法によれば、皮膚のキメおよび皮膚色から皮膚の表面反射が外観的に目立ちやすいかどうかを定量的に評価することができることがわかる。このことから、本発明の評価方法によれば、皮膚のキメおよび皮膚色の改善が単なるスキンケア効果として評価されるだけでなく、テカりやギラつきの目立ちやすさという、肌悩みに直結した観点で定量的に評価することができるとともに、表面反射の目立ちやすさの予測、すなわちギラつきやすい肌質であるかどうかを予測することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)被験部位の皮膚のキメの細かさの度合いを求め、
(2)前記被験部位の皮膚色を計測して、皮膚の明るさを求め、
(3)前記(1)で求められたキメの細かさの度合いおよび前記(2)で得られた皮膚の明るさに基づいて表面反射の目立ちやすさを評価する
ことを特徴とする皮膚の表面反射の目立ちやすさの評価方法。
【請求項2】
キメの細かさの度合いが、複数の被験者の被験部位の皮膚のレプリカを作製し、キメが細かいレプリカ、キメが粗いレプリカ、およびキメが粗いレプリカとキメが細かいレプリカとの中間のキメを有するレプリカを用いて評点付けをしたレプリカを基準にして求められた評点である請求項1に記載の皮膚の表面反射の目立ちやすさの評価方法。
【請求項3】
皮膚の明るさが、分光側色計を用いて前記被験部位の皮膚色をL***表色系で計測されたL*値である請求項1または2に記載の皮膚の表面反射の目立ちやすさの評価方法。

【公開番号】特開2010−273736(P2010−273736A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127001(P2009−127001)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本化粧品技術者会 学術委員会、「SCCJ研究討論会(第63回) 講演要旨集」、2008年11月26日発行
【出願人】(390011442)株式会社マンダム (305)
【Fターム(参考)】