説明

皮膚の表面状態の評価方法

【課題】顔面皮膚上の好ましくない表面反射である「テカり」や「ギラつき」と呼ばれる現象を簡便かつ的確に定量化することができる皮膚の表面状態の評価方法を提供すること。
【解決手段】被験者の皮膚を撮影し、皮膚表面の反射情報のデジタル画像データおよび皮膚の色情報のデジタル画像データを取得し、前記反射情報のデジタル画像データに含まれている表面反射光を示す画像データおよび表面反射光を示さない画像データのうち、表面反射光を示す画像データの画素数を求め、前記色情報のデジタル画像データから皮膚色の明るさを求め、前記表面反射光を示す画像データの画素数と前記皮膚色の明るさとから皮膚の表面状態を評価することを特徴とする皮膚の表面状態の評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の表面状態の評価方法に関する。さらに詳しくは、例えば、顔面などの皮膚の表面状態を客観的に評価することができる皮膚の表面状態の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
顔面上で皮脂が過多となったときに見られる、いわゆる「テカり」や「ギラつき」と呼ばれる現象は、化粧をする際の化粧崩れの要因となる。また、男性は、一般に女性と比べて皮脂が多いため、皮脂分泌による前記現象が顕著である。モニター調査によれば、前記現象は、男性の自己の肌悩みの上位に挙げられており、女性からみた男性に対する印象を悪化させる要因となっていることが明らかになっている。
【0003】
したがって、前記現象の改善に対する要望は強く、前記現象を客観的に数値化することができれば、前記現象が生じている程度や前記現象が改善された程度を定量的に行なうことができる。
【0004】
皮膚上の正反射を評価する評価装置として、皮膚表面の輝きを評価するようにした評価装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この評価装置には、特殊な機器を必要とするため、皮膚の表面状態を簡易に評価することができる手段が求められている。
【0005】
肌のつやの評価方法として、物理的な肌の光沢度と肌表面の見かけの粗さにより、肌のつやを評価する評価方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、この評価方法では、肌のつやを肌の美しさとしての指標としており、前記「テカり」や「ギラつき」と呼ばれる現象を対象としておらず、当該現象を的確に評価することができる評価方法に関する開示や示唆がない。
【0006】
皮膚表面解析方法として、皮膚表面の微細明暗分布が強調された二次元サンプル画像を加工処理し、高輝度部分を抽出して粒子解析した結果を演算処理し、サンプル皮膚表面の光学的美しさに相関する特性値を計測する解析方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、この解析方法では、しわやキメを含む総合的な肌の美しさを対象としているため、前記「テカり」や「ギラつき」と呼ばれる現象を精度よく的確に評価することができない。
【0007】
皮膚の透明感を評価する方法として、皮膚の正反射率および拡散反射率を用いて皮膚の透明感を評価する方法(例えば、特許文献4参照)、S偏光成分およびP偏光成分の2つの反射光の反射率の合計値を用いて皮膚の透明感を評価する方法(例えば、特許文献5参照)などが提案されている。皮膚表面を観察する方法として、S偏光成分とP偏光成分の受光強度を用いた皮膚表面の観察方法(例えば、特許文献6参照)が提案されている。また、肌色の測定方法として、色素成分濃度空間における肌色の二次元平面を用いた肌色測定方法(例えば、特許文献7参照)などが提案されている。しかし、皮膚の透明感を評価する方法、皮膚表面を観察する方法および肌色測定方法では、いずれも、前記「テカり」や「ギラつき」と呼ばれる現象を精度よく的確に評価することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−220130号公報
【特許文献2】特開2004−166801号公報
【特許文献3】特開平7−231883号公報
【特許文献4】特開2003−47597号公報
【特許文献5】特開2004−215991号公報
【特許文献6】特開平7−75629号公報
【特許文献7】特開2003−275179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、顔面皮膚上の好ましくない表面反射である「テカり」や「ギラつき」と呼ばれる現象を簡便かつ的確に定量化することができる皮膚の表面状態の評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
〔1〕 (1)被験者の皮膚を撮影し、皮膚表面の反射情報のデジタル画像データおよび皮膚の色情報のデジタル画像データを取得し、
(2)前記反射情報のデジタル画像データに含まれている表面反射光を示す画像データおよび表面反射光を示さない画像データのうち、表面反射光を示す画像データの画素数を求め、前記色情報のデジタル画像データから皮膚色の明るさを求め、
(3)前記表面反射光を示す画像データの画素数と前記皮膚色の明るさとから皮膚の表面状態を評価する
ことを特徴とする皮膚の表面状態の評価方法、
【0011】
〔2〕 前記(2)の操作において、皮膚表面の反射情報のデジタル画像データの画素を0〜255で示される256階調の輝度値で表し、40〜120の範囲から選ばれる所定の輝度値以上である画素を有するデジタル画像データを、表面反射光を示す画像データとし、前記所定の輝度値未満である画素を有するデジタル画像データを、表面反射光を示さない画像データとすることにより、表面反射光を示す画像データを皮膚表面の反射情報のデジタル画像データから取得する前記〔1〕に記載の皮膚の表面状態の評価方法、ならびに
【0012】
〔3〕 前記(2)の操作において、皮膚色の明るさが、皮膚の色情報のデジタル画像データを構成している各画素のL***表色系におけるL値または輝度値の平均値である前記〔1〕または前記〔2〕に記載の皮膚の表面状態の評価方法
に関する。
【0013】
なお、本明細書において、「ギラつき度」とは、顔面皮膚上の好ましくない表面反射である「テカり」や「ギラつき」と呼ばれる現象の程度を示す指標を意味する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の皮膚の表面状態の評価方法によれば、顔面皮膚上の好ましくない表面反射である「テカり」や「ギラつき」と呼ばれる現象を簡便かつ的確に定量化することができるという効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】光源に装着された偏光フィルターの偏光角度とレンズ部に装着された偏光フィルターの偏光角度とが平行となるように調節して顔面の皮膚を撮影したときの撮影画像(P画像)を示す図である。
【図2】光源に装着された偏光フィルターの偏光角度とレンズ部に装着された偏光フィルターの偏光角度とが垂直となるように調節して顔面の皮膚を撮影したときの撮影画像光源に装着した偏光フィルターの偏光方向に対してカメラのレンズ部の偏光フィルターの偏光方向を垂直に位置させた図1と同じ顔面の皮膚の撮影画像(C画像)を示す図である。
【図3】図1と同じ顔面の皮膚の表面反射画像を示す図である。
【図4】図1と同じ顔面の皮膚の表面反射画像を二値化させた二値化画像を示す図である。
【図5】図1と同じ顔面の皮膚における二値化画像の一部を拡大し、前記二値化画像に分散して存在している白色画素を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、ヒトが目視により顔面の皮膚を見たときに顔面の皮膚上の好ましくない表面反射である「テカり」や「ギラつき」と呼ばれる現象を簡便に評価することができる方法について研究したところ、前記現象が生じる要因に皮膚表面の反射光と皮膚内部の反射光成分である皮膚色とがあることを推測した。
【0017】
本発明者らは、顔面などの皮膚上の好ましくない表面反射である「テカり」や「ギラつき」と呼ばれる現象を簡便かつ的確に定量化することができる方法を開発するべく鋭意研究を重ねたところ、皮膚表面の反射情報のデジタル画像データと皮膚の色情報のデジタル画像データとから求められる特性値と、皮膚の目視評価によって得られる評価との間に高い相関性があることが見出された。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
【0018】
本発明は、前記したように、
(1)被験者の皮膚を撮影し、皮膚表面の反射情報のデジタル画像データおよび皮膚の色情報のデジタル画像データを取得し、
(2)前記反射情報のデジタル画像データに含まれている表面反射光を示す画像データおよび表面反射光を示さない画像データのうち、表面反射光を示す画像データの画素数を求め、前記色情報のデジタル画像データから皮膚色の明るさを求め、
(3)前記表面反射光を示す画像データの画素数と前記皮膚色の明るさとから皮膚の表面状態を評価する
ことを特徴とする。
【0019】
皮膚に入射した光のうち、皮膚表面で反射した光は、表面反射光となり、「テカり」や「ギラつき」と呼ばれる現象を示すのに対し、皮膚の内部で屈折して散乱した後、皮膚の表面から射出する光は、内部反射光となり、皮膚の色情報を示すことが知られている(小島ら、「化粧肌の質感推定(II)」、日本写真学会誌、社団法人日本写真学会、1993年、第56巻、第4号、p.264−269参照)。
【0020】
本発明においては、まず、被験者の皮膚を撮影し、皮膚表面の反射情報のデジタル画像データおよび皮膚の色情報のデジタル画像データを取得する。
【0021】
被験者の皮膚を撮影する際、カメラの光源部および受光部の双方に偏光フィルターが装着され、そのいずれかの偏光角度が調整可能であることが好ましい。
【0022】
カメラの光源部としては、被験部位が明瞭に撮影されるものであればよく、例えば、カメラ用フラッシュ(ストロボ)、撮影用照明などが挙げられるが、本発明は、かかる例示によって限定されるものではない。これらのなかでは、照射光軸と受光軸を同一にすることができることから、カメラ用フラッシュが好ましく、レンズに直接装着するタイプの接写用リングフラッシュがより好ましい。
【0023】
受光部であるカメラとして、例えば、デジタルカメラを用いる場合、皮膚上の表面反射の分布状態を明瞭に撮影する観点から、100万画素以上のものが好ましい。
【0024】
このカメラを用いて光源に装着された偏光フィルターの偏光角度とレンズ部に装着された偏光フィルターの偏光角度とが平行となるように調節して皮膚を撮影したとき、皮膚表面の反射光では、入射光の偏光性が維持されているので、全反射光画像(以下、P画像という)が得られる。したがって、このP画像には、皮膚表面の反射情報と皮膚の色情報とが含まれている。
【0025】
前記カメラを用い、光源に装着された偏光フィルターの偏光角度とレンズ部に装着された偏光フィルターの偏光角度とが平行となるように調節して顔面の皮膚を撮影したときの撮影画像(P画像)を図1に示す。図1に示される顔面の皮膚の撮影画像は、1300×900ピクセル、すなわち117万個の画素の集合体である。
【0026】
一方、前記カメラを用いて光源に装着された偏光フィルターの偏光角度とレンズ部に装着された偏光フィルターの偏光角度とが垂直となるように調節して皮膚を撮影したとき、内部反射光では偏光性が消失するので、内部反射光画像(以下、C画像という)が得られる。したがって、このC画像には、皮膚の色情報のみが含まれていることから、C画像から皮膚の色情報を取得することができる。
【0027】
前記カメラを用い、光源に装着された偏光フィルターの偏光角度とレンズ部に装着された偏光フィルターの偏光角度とが垂直となるように調節して顔面の皮膚を撮影したときの撮影画像(C画像)を図2に示す。図2に示される顔面の皮膚の撮影画像は、図1と同様に、1300×900ピクセル、すなわち117万個の画素の集合体である。
【0028】
皮膚表面の反射情報のデジタル画像データは、P画像の反射光成分のデジタル画像データおよびC画像の反射光成分のデジタル画像データをコンピュータに取り込み、画像処理ソフトの画像間の論理演算機能を用いて容易に求めることができる。
【0029】
具体的には、P画像の反射光成分のデジタル画像データよりC画像の反射光成分のデジタル画像データを減ずる画像間の演算処理にて、P画像の反射光成分のデジタル画像データからC画像の反射光成分のデジタル画像データを除去することにより、皮膚表面の反射情報のデジタル画像データを得ることができる。すなわち、式:
〔皮膚表面の反射情報のデジタル画像データ〕
=〔P画像で得られたデジタル画像データ〕−〔C画像から得られたデジタル画像データ〕
により、皮膚表面の反射情報のデジタル画像データを求めることができる。
【0030】
画像間演算が可能なコンピュータ・ソフトとしては、例えば、メディア・サイバーネティックス(Media Cybernetics)社製、商品名:イメージ−プロ・プラス・バージョン6.1(Image-Pro Plus v6.1)、ナショナル・インスティテュート・オブ・ヘルス(アメリカ国立衛生研究所:National Institute of Health)製、ソフト名:イメージ・ジェイ(Image J)などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0031】
P画像の反射光成分のデジタル画像データおよびC画像の反射光成分のデジタル画像データをコンピュータに取り込み、画像処理ソフトを用いてP画像の反射光成分のデジタル画像データからC画像の反射光成分のデジタル画像データを除去することによって求められた皮膚表面の反射情報のデジタル画像データ(表面反射画像)を図3に示す。図3は、図1と同様に、1300×900ピクセル、すなわち117万個の画素の集合体である。
【0032】
前記で得られた皮膚表面の反射情報のデジタル画像データ(表面反射画像)をそのままの状態で用いてもよいが、必要により、測定対象部位について一定の画素数の大きさに切り取った後に用いてもよい。この場合、画像処理ソフトを用いてコンピュータで処理することにより、測定対象部位について一定の画素数の大きさに切り取ることができる。
【0033】
画像の切り取りが可能なコンピュータ・ソフトとしては、例えば、メディア・サイバーネティックス(Media Cybernetics)社製、商品名:イメージ−プロ・プラス・バージョン6.1(Image-Pro Plus v6.1)、ナショナル・インスティテュート・オブ・ヘルス(アメリカ国立衛生研究所:National Institute of Health)製、ソフト名:イメージ・ジェイ(Image J)、アドビー(adobe)社製、商品名:フォトショップ(Photoshop)などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0034】
次に、前記皮膚表面の反射情報のデジタル画像データに含まれている表面反射光を示す画像データおよび表面反射光を示さない画像データのうち、表面反射光を示す画像データの画素数を求め、前記色情報のデジタル画像データから皮膚色の明るさを求める。
【0035】
まず、皮膚表面の反射情報のデジタル画像データ(表面反射画像)から表面反射光を示す画像データの画素数を求める方法について説明する。
【0036】
表面反射光を示す画像データを皮膚表面の反射情報のデジタル画像データ(表面反射画像)から取得する方法としては、例えば、皮膚表面の反射情報のデジタル画像データの画素を0〜255で示される256階調の輝度値で表し、40〜120の範囲から選ばれる所定の輝度値以上である画素を有するデジタル画像データを、表面反射光を示す画像データとし、前記所定の輝度値未満である画素を有するデジタル画像データを、表面反射光を示さない画像データとする。
【0037】
ここで、表面反射光を示す画像データと表面反射光を示さない画像データとの境界となる輝度値は、皮膚表面の反射情報のデジタル画像データから求められる特性値と皮膚の目視評価によって得られる評価との間における相関性を高める観点から、40〜120、好ましくは60〜100、より好ましくは70〜90である。したがって、表面反射光を示す画像データと表面反射光を示さない画像データとの境界となる輝度値は、前記範囲内に含まれる数値であって、その範囲内から任意に選択される所定の輝度値である。
【0038】
なお、画像処理を簡便に行なう観点から、皮膚表面の反射情報のデジタル画像データ(表面反射画像)のうち、前記所定の輝度値以上である画素を一律に白色(255階調)に変換し、前記所定の輝度値未満である画素を一律に黒色(0階調)に変換し、二値化画像を作成してもよい。前記二値化画像は、画像解析ソフトを用いてコンピュータで処理することにより、容易に作成することができる。
【0039】
前記二値化処理が可能な画像解析ソフトとしては、例えば、メディア・サイバーネティックス(Media Cybernetics)社製、商品名:イメージ−プロ・プラス・バージョン6.1(Image-Pro Plus v6.1)、スケイラー・コーポレーション(Scalar corporation)社製、商品名:ユーエスビー・ディジタル・スケール(USB Digital Scale)などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0040】
前記画像解析ソフトを用い、皮膚表面の反射情報のデジタル画像データ(表面反射画像)のうち、前記所定の輝度値以上である画素を一律に白色(255階調)に変換し、前記所定の輝度値未満である画素を一律に黒色(0階調)に変換することによって作成した二値化画像を図4に示す。図4は、図1と同様に、1300×900ピクセル、すなわち117万個の画素の集合体である。
【0041】
なお、前記二値化画像を用いる場合、皮膚表面の反射情報のデジタル画像データ(表面反射画像)のうち表面反射光を示す画像データは、白色画素で表される。図5は、図4に示される二値化画像の一部を拡大し、前記二値化画像に分散して存在している白色画素の集合体を示す図であり、130×90ピクセル、すなわち11700個の画素の集合体である。
【0042】
対象部位に存在するすべての白色画素を合計してもよいが、皮膚の目視評価によって得られる評価との相関性を高める観点から、特定の大きさの白色画素の集合体に限定することも有効である。その場合は、白色画素集合体の個々の画素数を求める必要があるが、画像解析ソフトを用いてコンピュータで処理することにより、対象部位に存在する白色画素の集合体の個数および各画素数が算出される。
【0043】
集合体の個別画素数の算出が可能なコンピュータ・ソフトとしては、例えば、メディア・サイバーネティックス(Media Cybernetics)社製、商品名:イメージ−プロ・プラス・バージョン6.1(Image-Pro Plus v6.1)などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0044】
実際には、すべての白色画素の合計についても、白色画素の集合体の各画素数を合計することにより求められる。
【0045】
一方、皮膚色の明るさは、前記皮膚の色情報のデジタル画像データから求められる。より具体的には、皮膚色の明るさは、例えば、前記で得られたC画像においては、当該C画像を構成している各画素のL***表色系におけるL*値の平均値や、皮膚の色情報のデジタル画像データにおける輝度値の平均値などを指標とすることができる。
【0046】
皮膚色の明るさは、皮膚の明るさを数値化させることができるコンピュータ・ソフトを用い、皮膚の色情報のデジタル画像データをコンピータで処理することによって数値化することができる。
【0047】
***表色系におけるL*値の平均値を算出することができるコンピュータ・ソフトとしては、例えば、アドビー(adobe)社製、商品名:フォトショップ(Photoshop)などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。また、輝度値の平均値を算出することができるコンピュータ・ソフトとしては、例えば、メディア・サイバーネティックス(Media Cybernetics)社製、商品名:イメージ−プロ・プラス・バージョン6.1(Image-Pro Plus v6.1)、ナショナル・インスティテュート・オブ・ヘルス(アメリカ国立衛生研究所:National Institute of Health)製、ソフト名:イメージ・ジェイ(Image J)、スケイラー・コーポレーション(Scalar corporation)社製、商品名:ユーエスビー・ディジタル・スケール(USB Digital Scale)などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0048】
以上のようにして求められた表面反射光を示す画像データの画素数と前記皮膚色の明るさとから、皮膚のギラつきなどの皮膚の表面状態をギラつき度として評価することができる。
【0049】
より具体的には、ギラつき度は、表面反射光を示す画像データの画素数と、数値化された皮膚色の明るさとを加算することによって求められる。このとき、皮膚表面の反射情報のデジタル画像データと皮膚の色情報のデジタル画像データとから求められる特性値と、皮膚の目視評価によって得られる評価との相関性を高める観点から、表面反射光を示す画像データの画素数および数値化された皮膚色の明るさには、それぞれ、係数を乗じることが好ましい。
【0050】
したがって、ギラつき度は、式(I):
〔ギラつき度〕
=a1×〔表面反射光を示す画像データの画素数〕+a2×〔皮膚色の明るさ〕 (I)
(式中、a1は表面反射光を示す画像データの画素数に乗じられる係数、a2は皮膚色の明るさに乗じられる係数を示す)
で表すことができる。なお、式(I)には、必要により、定数項が含まれていてもよい。
【0051】
式(I)において、a1およびa2は、皮膚の目視評価によって得られる評価を目的変数とし、皮膚表面の反射情報のデジタル画像データと皮膚の色情報のデジタル画像データとから求められる特性値を説明変数とした重回帰分析を行ない、その偏回帰係数から求められる。より具体的には、例えば、1300×900ピクセルのP画像とC画像の画像を用いた場合、表面反射光を示す画像データを輝度値80で二値化処理し、10〜316ピクセルの白色集合体のピクセル数の合計を「表面反射光を示す画像データの画素数」とし、色情報のデジタル画像データのL***表色系におけるL*値を「皮膚色の明るさ」とする。その場合のa1は、皮膚の目視評価との高い相関性を高める観点から、1×10-5〜7×10-5であることが好ましく、3×10-5〜5×10-5であることがより好ましい。また、a2は、前記と同様に皮膚の目視評価との高い相関性を高める観点から、−8×10-2〜−1×10-2であることが好ましく、−7×10-2〜−2×10-2であることがより好ましい。
【0052】
また、本発明においては、式(I)における表面反射光を示す画像データの画素数および皮膚色の明るさの各変数を平均0、分散1に標準化した数値を用いることにより、式(II):
〔ギラつき度〕
=a1'×〔標準化した表面反射光を示す画像データの画素数〕+a2'×〔標準化した皮膚色の明るさ〕 (II)
(式中、a1'は標準化した表面反射光を示す画像データの画素数に乗じられる係数、a2'は標準化した皮膚色の明るさに乗じられる係数を示す)
に基づいて、ギラつき度を算出することもできる。なお、式(II)には、必要により、定数項が含まれていてもよい。
【0053】
なお、式(I)によって求められるギラつき度と式(II)で求められるギラつき度とは、その数値の大きさが異なるだけで、ギラつき度が実質的に変わるものではない。
【0054】
各変数の標準化は、対象となるデータの平均値および標準偏差を求め、各データからその平均値を減じ、標準偏差で除することによって行なうことができる。標準化した数値を用いて決定された係数は、一般に「標準偏回帰係数」といわれており、元の変数の測定単位を問わない。偏回帰係数をbi、目的変数の標準偏差を(Syy)1/2、説明変数Xiの標準偏差を(Sii)1/2とすると、標準化偏回帰係数b'iについては、一般に、b'i=bi(Sii/Syy1/2の関係が認められる。
【0055】
式(II)において、標準化した皮膚表面の反射情報のデジタル画像データと標準化した皮膚の色情報のデジタル画像データとから求められる特性値と、皮膚の目視評価によって得られる評価との相関性を高める観点から、標準化した表面反射光を示す画像データの画素数に乗じられる標準偏回帰係数a1'は、0.3〜1であることが好ましく、0.5〜1であることがより好ましい。また、標準化した皮膚色の明るさに乗じられる標準偏回帰係数a2'は−0.7〜0であることが好ましく、−0.5〜0であることがより好ましい。
【0056】
以上のようにして求められたギラつき度は、顔面などの皮膚上の好ましくない表面反射である「テカり」や「ギラつき」と呼ばれる現象を定量的に簡便かつ的確に評価する際の指標となり、皮膚の目視評価によって得られる評価に対し、非常に高い相関性を有する。したがって、このギラつき度を用いれば、顔面などの皮膚上の好ましくない表面反射である「テカり」や「ギラつき」と呼ばれる現象を簡便かつ的確に定量化することができる。
【実施例】
【0057】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0058】
実施の準備
年齢が26〜57歳である成人男性20名を被験者とし、皮膚特性に偏りがないようにした。
【0059】
試験当日の朝、各被験者に洗顔してもらい、その後は洗顔や皮脂の除去を一切行なわずに過ごし、皮脂が十分に分泌されていると考えられるその日の午後3時以降に、カメラで各被験者の前額部の皮膚の画像撮影を行ない、直ちに市販の洗顔料で洗顔し、再度、前記と同様にして画像撮影を行なった。
【0060】
なお、画像撮影の際には、デジタルカメラ〔コニカミノルタホールディングス(株)製、商品名:DiMAGE 7i、500万画素〕およびリングフラッシュ〔コニカミノルタホールディングス(株)製、商品名:MACRO 1200 AF〕を用い、レンズ部とリングフラッシュ部にそれぞれ偏光フィルターを装着した。レンズ部は可動であり、2枚の偏光フィルターの偏光方向が平行および垂直となるようにして撮影を行なった。ホワイトバランスおよび露出は、一定となるように制御した。
【0061】
洗顔前の顔面の皮膚の画像は、ギラつきが顕著な状態での顔面の皮膚の画像に該当し、洗顔後の顔面の皮膚の画像は、ギラつきが顕著でない状態での顔面の皮膚の画像に該当する。
【0062】
2枚の偏光フィルターの偏光角度が平行となるようにして撮影した画像をP画像とした。その撮影画像(P画像)を図1に示す。図1に示される顔面の皮膚の撮影画像は、1300×900ピクセル、すなわち117万個の画素の集合体である。
【0063】
また、2枚の偏光フィルターの偏光角度が垂直となるようにして撮影した画像をC画像とした。その撮影画像(C画像)を図2に示す。図2に示される顔面の皮膚の撮影画像は、1300×900ピクセル、すなわち117万個の画素の集合体である。
【0064】
参考例1
前記で得られたP画像40枚を用い、皮膚の「ギラつき」を目視により評価した。より具体的には、「ギラつき」の有無の評価は、スコアで表すことが困難であるため、あらかじめ「ギラつき」のレベルが2、4または6である見本画像を40枚から選定した。
【0065】
次に、評価者10名でP画像40枚の「ギラつき」を評価、すなわち上記見本画像を元に「ギラつき」のレベル1〜7の7段階評点を付してもらい、その「ギラつき」の評価の平均点を求め、これを各P画像の「ギラつき」の目視によるスコアとした。
【0066】
各40枚のP画像およびC画像を用いてP画像で得られたデジタル画像データからC画像で得られたデジタル画像データを除去することにより、皮膚表面の反射情報のみを取り出した。
【0067】
なお、皮膚表面の反射情報のデジタル画像データは、P画像の反射光成分のデジタル画像データおよびC画像の反射光成分のデジタル画像データをコンピュータに取り込み、画像処理ソフトとしてメディア・サイバーネティックス(Media Cybernetics)社製、商品名:イメージ−プロ・プラス・バージョン6.1(Image-Pro Plus v6.1)を用いてP画像の反射光成分のデジタル画像データからC画像の反射光成分のデジタル画像データを除去することによって求めた。得られた皮膚表面の反射情報のデジタル画像データ(表面反射画像)を図3に示す。図3は、1300×900ピクセル、すなわち117万個の画素の集合体である。
【0068】
前記皮膚表面の反射情報のデジタル画像データから表面反射光を示す画像データと表面反射光を示さない画像データを取得し、それらのデータのうち表面反射光を示す画像データの画素数を求めた。
【0069】
より具体的には、皮膚表面の反射情報のデジタル画像データの画素を0〜255で示される256階調の輝度値で表し、40〜120の範囲から選ばれる所定の輝度値として輝度値80を設定し、その輝度値が80以上である画素を有するデジタル画像データを、表面反射光を示す画像データとし、その輝度値が80未満である画素を有するデジタル画像データを、表面反射光を示さない画像データとした。画像解析ソフトとして、メディア・サイバーネティックス(Media Cybernetics)社製、商品名:イメージ−プロ・プラス・バージョン6.1(Image-Pro Plus v6.1)を用いて皮膚表面の反射情報のデジタル画像データ(表面反射画像)のうち、輝度値が80以上である画素を一律に白色(255階調)に変換し、輝度値が80未満である画素を一律に黒色(0階調)に変換することにより、二値化画像を作成した。図4は、1300×900ピクセル、すなわち117万個の画素の集合体である。
【0070】
前記二値化画像に分散して存在している白色画素の集合体の各画素数は、メディア・サイバーネティックス(Media Cybernetics)社製、商品名:イメージ−プロ・プラス・バージョン6.1(Image-Pro Plus v6.1)を用いてコンピュータで処理することによって求めた。図5は、図4に示される二値化画像の一部を拡大し、前記二値化画像に分散して存在している白色画素の集合体を示す図である。
【0071】
次に、白色画素の集合体の総ピクセル数を表計算ソフト〔マイクロソフト(Microsoft)社製、商品名:Excel 2000〕の関数機能を用い、表1に示されるように分類されたクラスに相当する白色集合体の総ピクセル数を算出した。
【0072】
【表1】

【0073】
皮膚色の明るさは、C画像を構成している各画素のL***表色系におけるL*値、a*値およびb*値について、画像解析ソフトとしてアドビー(adobe)社製、商品名:フォトショップ・バージョン7.0(Photoshop v7.0)を用いて各平均値を求めた。
【0074】
次に、いずれの画像解析値が「ギラつき」のスコアと高い相関性を示すかについて検証するために、各画像解析値と目視による「ギラつき」のスコアとの単相関係数を算出した。
【0075】
具体的には、表1に示される各クラスにおける白色集合体の総ピクセル数と目視による「ギラつき」のスコアとの相関係数、ならびにL***表色系におけるL*値、a*値およびb*値の各平均値と目視による「ギラつき」のスコアとの相関係数を算出した。
【0076】
表1に示される各クラスにおける白色集合体の総ピクセル数と目視による「ギラつき」のスコアとの相関係数を表2に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
一般に、P値が0.05未満であるとき、相関関係が有意であると考えられているが、表2に示された結果から、ピクセル数が大きくなるにしたがって相関性が高くなる傾向があることがわかる。
【0079】
次に、表1に示される各クラスにおける白色集合体の総ピクセル数と目視による「ギラつき」のスコアとの相関係数について詳細に解析した。
【0080】
もっとも高い相関係数を示すのは、クラスVであるが、このクラス分けは人為的であることから、白色集合体のピクセル数をクラスVの範囲に限定することが「ギラつき」のスコアとの相関関係をもっとも強く示すことにはならず、他のクラスを含めたほうがより強い相関性を示す可能性がある。
【0081】
したがって、クラスVを中心とし、選択するピクセル数の範囲を変化させて再度、相関係数を調べた。その結果を表3に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
表3に示された結果から、クラスIV〜VIを合計したとき、もっとも高い相関性が示されたことから、32〜999ピクセルに含まれる白色集合体のピクセル数の合計(以下、「白色集合体ピクセル数」という)を表面反射画像からの最適パラメータとした。
【0084】
また、L***表色系におけるL*値、a*値およびb*値の各平均値と目視による「ギラつき」のスコアとの相関係数を表4に示す。なお、L***表色系におけるL*値、a*値およびb*値は、アドビー(adobe)社製、商品名:フォトショップ(Photoshop)を用いて測定した。
【0085】
【表4】

【0086】
表4に示された結果から、L*値およびa*値で有意な相関性が認められることがわかる。これらの有用な変数を統合して最適化するために、相関が認められた3要素、すなわち、「白色集合体ピクセル数」、「L*値」および「a*値」について重回帰分析を行なった。重回帰分析とは、多数の説明変数によって1つの目的変数を説明または予測したいときに用いられる統計的方法である。これは目的変数yと説明変数x1,・・・,xpに関して、
y=a11+・・・+app+b
の一次式を想定して実測のn個のデータからa1,・・・,ap,bを導く方法であり、その結果が目的変数を予測する式の係数となる。
【0087】
画像40枚を対象とし、白色集合体ピクセル数、L***表色系におけるL*値およびa*値について、式:
y=a11+a22+a33+b
において、yをギラつきのスコアの平均値、x1を白色集合体ピクセル数、a1を白色集合体ピクセル数の偏回帰係数、x2をL***表色系におけるL*値、a2をL***表色系におけるL*値の偏回帰係数、x3をL***表色系におけるa*値、a3をL***表色系におけるa*値の偏回帰係数、bを定数項とし、統計解析ソフトJMP〔SAS Institute Japan(株)製〕の「モデルの当てはめ」の「ステップワイズ法モデル」を用いて重回帰における変数選択を行なった。
【0088】
その結果、a*値は選択されず、白色集合体ピクセル数とL*値が選択された。最小二乗法を用いて、これら2つを説明変数とした重回帰分析を再度実施した。その結果を表5に示す。
【0089】
【表5】

【0090】
表5に示された結果から、式(III):
〔ギラつき度〕
=4.224×10-5×X1−0.042×X2+6.601 (III)
(式中、X1は白色集合体ピクセル数、X2は皮膚色明度を反映するL*値を示す)
で表されるギラつき度が求められ、重回帰分析の自由度調整済み重相関係数(R)は、0.888であった。
【0091】
目視による「ギラつき」のスコアおよび式(III)から求められたギラつき度の結果を表6に示す。
【0092】
【表6】

【0093】
表6に示された結果から、式(III)で表されるギラつき度は、各被験者の皮脂の除去によるギラつきの変化を正確に反映していることがわかる。また、洗顔前は、被験者Gのほうが被験者Qよりも白色集合体ピクセル数が少ないが、皮膚色の影響を受けてギラつき度は被験者Gのほうが高いことがわかる。
【0094】
以上の結果から、ギラつき度は、顔面などの皮膚上の好ましくない表面反射である「テカり」や「ギラつき」と呼ばれる現象を定量的に簡便かつ的確に評価する際の指標となり、皮膚の目視評価によって得られる評価に対し、非常に高い相関性を有する。したがって、このギラつき度を用いれば、顔面などの皮膚上の好ましくない表面反射である「テカり」や「ギラつき」と呼ばれる現象を簡便かつ的確に定量化することができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)被験者の皮膚を撮影し、皮膚表面の反射情報のデジタル画像データおよび皮膚の色情報のデジタル画像データを取得し、
(2)前記反射情報のデジタル画像データに含まれている表面反射光を示す画像データおよび表面反射光を示さない画像データのうち、表面反射光を示す画像データの画素数を求め、前記色情報のデジタル画像データから皮膚色の明るさを求め、
(3)前記表面反射光を示す画像データの画素数と前記皮膚色の明るさとから皮膚の表面状態を評価する
ことを特徴とする皮膚の表面状態の評価方法。
【請求項2】
前記(2)の操作において、皮膚表面の反射情報のデジタル画像データの画素を0〜255で示される256階調の輝度値で表し、40〜120の範囲から選ばれる所定の輝度値以上である画素を有するデジタル画像データを、表面反射光を示す画像データとし、前記所定の輝度値未満である画素を有するデジタル画像データを、表面反射光を示さない画像データとすることにより、表面反射光を示す画像データを皮膚表面の反射情報のデジタル画像データから取得する請求項1に記載の皮膚の表面状態の評価方法。
【請求項3】
前記(2)の操作において、皮膚色の明るさが、皮膚の色情報のデジタル画像データを構成している各画素のL***表色系におけるL*値または輝度値の平均値である請求項1または2に記載の皮膚の表面状態の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−273737(P2010−273737A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127003(P2009−127003)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本化粧品技術者会 学術委員会、「SCCJ研究討論会(第63回) 講演要旨集」、2008年11月26日発行
【出願人】(390011442)株式会社マンダム (305)
【Fターム(参考)】