説明

皮膚を選択的に洗浄するためのアルキルエーテルシトレート

【課題】自然な皮膚常在細菌叢にほとんどまたは全く影響を与えないが、効果的に皮膚に汚れを付着させないようにできる界面活性剤処方を提供する。
【解決手段】一般式:RO(CHCHO)H[式中、Rは6〜22個の炭素原子を有するアルキル基であり、nは5〜9の値をとるエトキシル化度を表す。]に相当するエトキシル化アルコールのクエン酸エステル混合物をアルキルエーテルシトレートとして用いることを特徴とするアルキルエーテルシトレートの使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、皮膚を洗浄する化粧品および医薬品、より具体的には、特定のアルキルエーテルシトレートを用いた皮膚表面を選択的に洗浄するための製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
古くから皮膚洗浄の目的は、皮膚に汚れを付着させない、従ってとりわけ感染性の細菌および真菌の移行を防ぐことであった。例えば、シャワーバス、シャワージェル、リンス、シャンプーなどのような界面活性製剤または洗浄剤の頻繁すぎる使用は、皮膚にダメージを与える。皮膚自体の脂質が汚れと全く同様に除去され、皮膚はカサカサになる。皮膚は荒れ、乾燥する。加えて、自然な皮膚常在細菌叢は頻繁な洗浄によって死滅されるか、またはその組成が変更される。即ち、健康な皮膚環境に関与する微生物は死滅および/または除去される。皮膚常在細菌叢はまた、皮膚および粘膜の酸性保護膜を維持する重要な役割を果たしている。皮膚の自然な酸性保護膜が攻撃または死滅されると、病原菌が皮膚に繁殖するか、または「本来の」皮膚常在細菌叢より優勢になって、炎症を招く恐れがある。常在微生物の典型例は、変更された恒常性によって病原性を発現し得る。自然な皮膚常在細菌叢は、グラム陽性菌(例えば、Staphylococcus epidermidis、Propionibacterium acnes)またはマラセジア属酵母に支配されている細菌および酵母/真菌の異種スペクトルからなる。また、各個人の皮膚常在細菌叢の組成は、居住場所および生活環境に依存する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする課題は、健康な皮膚常在細菌叢が皮膚のバリア機能において重要な役割を果たしているので、その自然な皮膚常在細菌叢にほとんどまたは全く影響を与えない、界面活性剤処方を提供することである。しかしながら同時に、該処方は効果的に皮膚に汚れを付着させないようにできる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、皮膚を洗浄するための選択的界面活性剤としてのアルキルエーテルシトレートの使用に関する。本発明において、選択的界面活性剤は、皮膚上に自然に生息する微生物(細菌および酵母/真菌)を、仮に行うとしても限られた程度でしか攻撃しない界面活性剤であると理解される。該界面活性剤は、疾患誘導しないように病原菌の数を制限する自然な平衡作用を損なうことなく、常態の皮膚/粘膜微生物叢および微生物の皮膚/粘膜生態系を保護および維持するために使用される。該界面活性剤は、皮膚および皮膚バリア機能を保護し、恒常性を維持する働きをする。該界面活性剤は、皮膚の酸性保護膜の自然なpH値を維持し、皮膚の病原菌別個体群を制御し、従って自然な皮膚生態系を維持する働きをするために使用される。
【0005】
本発明において、用語「皮膚」は、皮膚および粘膜の両方を含意する。皮膚微生物叢/皮膚常在細菌叢/常在細菌叢は、皮膚に常在する微生物(細菌、酵母、真菌、ウイルス)および微生物生態系を意味する。それらは、バリア機能を果たす皮膚の微生物生態系を表す。用語「皮膚洗浄剤」は、例えば以下の化粧品および医薬品を包含する:ボディクレンジング剤、インティメイトケア剤、シャワーバス、シャワーオイル、シャワージェル、シャンプー、コンディショナー、フォームバス、ボディシャンプー、乾燥および湿潤洗浄布、クリーム並びにローションなど。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
アルキルエーテルシトレート
アルキルエーテルシトレートは、一般式(I):
O(CHCHO)H (I)
[式中、Rは6〜22個の炭素原子を有する直鎖アルキル基であり、nはエトキシル化度を表す。]
に相当するエトキシル化アルコールのクエン酸エステル混合物であると理解される。しかしながら、該アルキル基は、異なったアルキル鎖長を有する天然または合成物質由来の脂肪アルコール混合物から誘導されてもよい。好ましい態様では、アルキル基Rは、45〜75重量%のC12アルコール、15〜35重量%のC14アルコール、0〜15重量%のC16アルコール、および0〜20重量%のC18アルコールを含んでなる脂肪アルコール混合物から誘導される。nは5〜9の数である。クエン酸エステル混合物におけるモノエステルのジエステルに対する重量比は、好ましくは3:1〜10:1の範囲である。
【実施例】
【0007】
界面活性剤の抗菌効果の尺度は、最小阻害濃度(MIC)を実験条件下で相対的に測定する生物学的試験システムで確立することができる。試験物質の希釈系では、MICは更なる増殖が不可能であるまさにその濃度である。界面活性剤が穏やかであるほど、MIC値は高い。
【0008】
種々の界面活性剤の最小阻害濃度を、皮膚上に生息する3種の微生物について測定した(表1)。界面活性剤は、INCI命名法による名称で記載する。
【0009】
【表1】

【0010】
アルキルエーテルシトレートであるラウレス−7 シトレートは、Propionibacterium acnesおよびStaphylococcus epidermidisが相当高濃度でしか阻害されないという事実によって他の界面活性剤と区別される。
アルキルエーテルシトレートを他の界面活性剤と組み合わせて使用する場合、アルキルエーテルシトレートの選択性は、製剤全体の殺菌能に影響を及ぼす。即ち、恒常性の維持または微生物叢の増殖特性に関するアルキルエーテルシトレートの長所は、組成物全体に影響を及ぼす。病原菌に対する皮膚の防御力は、低減されるどころか、常套の界面活性剤によってしばしば維持されるように、不変である。
【0011】
表2は、アルキルエーテルシトレートとアルキルエーテルスルフェートの各種混合物の最小阻害濃度を示す。同じ活性物質含有率であるにもかかわらず、アルキルエーテルシトレートの含有率が高い製剤ほど、最小阻害濃度が高い、即ち、低刺激性であり、従って自然および健康な皮膚常在細菌叢の維持または回復に寄与することが明らかである。
【0012】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚を洗浄するための選択的界面活性剤としてのアルキルエーテルシトレートの使用。
【請求項2】
疾患誘導しないように病原菌の数を制限する自然な平衡作用を損なうことなく、常態の皮膚/粘膜微生物叢および微生物の皮膚/粘膜生態系を保護および維持するためのアルキルエーテルシトレートの使用。
【請求項3】
皮膚および皮膚バリア機能を保護し、恒常性を維持するためのアルキルエーテルシトレートの使用。
【請求項4】
皮膚の酸性保護膜の自然なpH値を維持し、病原菌別個体群を制御するためのアルキルエーテルシトレートの使用。
【請求項5】
自然な皮膚生態系を維持するためのアルキルエーテルシトレートの使用。
【請求項6】
一般式(I):
O(CHCHO)H (I)
[式中、Rは6〜22個の炭素原子を有するアルキル基であり、nは5〜9の値をとるエトキシル化度を表す。]
に相当するエトキシル化アルコールのクエン酸エステル混合物をアルキルエーテルシトレートとして用いることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のアルキルエーテルシトレートの使用。
【請求項7】
アルキル基Rが、45〜75重量%のC12アルコール、15〜35重量%のC14アルコール、0〜15重量%のC16アルコール、および0〜20重量%のC18アルコールを含んでなる脂肪アルコール混合物から誘導されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のアルキルエーテルシトレートの使用。
【請求項8】
クエン酸エステル混合物におけるモノエステルのジエステルに対する重量比が3:1〜10:1の範囲であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のアルキルエーテルシトレートの使用。

【公開番号】特開2008−74848(P2008−74848A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−241091(P2007−241091)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(505066718)コグニス・アイピー・マネージメント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (191)
【氏名又は名称原語表記】Cognis IP Management GmbH
【Fターム(参考)】