説明

皮膚外用剤

【課題】脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体に、様々な機能性を有する脂溶性成分が内包ないし被覆されていて、各種の化粧品開発に利用可能で多様な機能性を有する保存安定性に優れた皮膚外用剤の提供。
【解決手段】脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体と、脂溶性成分と、ショ糖脂肪酸エステルおよび/又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを含有し、脂溶性成分が、脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体に内包ないし被覆されていることを特徴とする皮膚外用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚性状に有用な脂溶性の機能性成分を含み、角質水分含量維持能に優れた、良好な安定性を有する皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、保湿作用を有する物質として、多価アルコール、糖類、有機酸、アミノ酸、ムコ多糖等が紫外線や加齢に伴うシワやくすみ等の皮膚の性状変化を改善する目的で、化粧料等に配合されている。ところが、これらの保湿作用を有する物質については、その効果が十分に得られない場合や一定量以上配合すると商品価値を著しく損なう場合があることが指摘されているため、これらの代替物として、角質細胞間脂質やその類似物を使用する方法が報告されている(特許文献1)。
【0003】
この角質細胞間脂質は、生体皮膚内において、ラメラ構造を構成することによりバリアー機能に寄与していると考えられていることから、リン脂質等を用いて人工的にラメラ構造体(「リポソーム」ともいう。)を調製して、これを各種化粧料に利用する方法が提案されている。本出願人もこれまでに脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体を含む分散液が優れた保湿作用を有することを見出し、これを利用する技術について報告している(特許文献2)。
また、脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体は、一般的なリン脂質等で構成されるラメラ構造体に比べて、分散液としての品質や保存安定性が極めて低いという特性を有していることから、これを改善する方法として、アルキル又はアルケニルグリセリンエーテル、更には水溶性高分子を用いた安定化技術についても本出願人は報告している(特許文献3)。
【0004】
一方で、化粧品分野においては、美白作用、メラニン生成阻害作用、抗酸化作用、抗炎症作用、コラーゲン合成促進・分解抑制作用等、皮膚の性状改善に有用な機能性成分として、ビタミンA、ビタミンE、グリチルレチン酸またはそれらの誘導体など、各種の脂溶性成分が広く利用されている。これらの脂溶性成分は、一般に、安定性や皮膚に対する親和性に優れていると考えられており、多様な機能性を有する水溶性成分よりもその利用範囲は広い。そのため、近年では、様々な機能性を有する水溶性成分についても、脂溶性の誘導体が開発され、利用されている。その代表的なものを例示すれば、ビタミンCの脂溶性誘導体であるテトラ−2−へキシルデカン酸アスコルビル(NIKKOL VC−IP)を挙げることができる。このテトラ−2−へキシルデカン酸アスコルビルは、対人試験により、抗酸化、抗炎症、美白効果が確認され、機能性原料としての利用が期待されている。
【0005】
このように多様な機能性を有する脂溶性成分を利用した技術は多数報告されており、本出願人は、前記した優れた保湿作用を有する脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体と、ビタミンA又はその誘導体とを用いて、肌荒れやシワ形成抑制作用の向上等の新たな機能性を付加した皮膚外用剤を報告している(特許文献4)。
【特許文献1】特開昭63−192704号公報
【特許文献2】特許第2606761号公報
【特許文献3】特許第3093930号公報
【特許文献4】特許第3641152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体に、ビタミンA以外の脂溶性成分を内包または被覆させるべく検討を行った。しかしながら、脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体に、脂溶性成分を添加する場合には、その脂溶性成分の種類によって、脂肪酸グリセリドを構成成分とするラメラ構造体に内包ないし被覆され難い場合があるという知見を得た。中でも、脂溶性成分として、脂溶性ビタミンC、ビタミンE或いはグリチルレチン酸またはその誘導体は、脂肪酸グリセリドを構成成分とするラメラ構造体に内包ないし被覆させることができないことが判明した。
従って、本発明の目的は、脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体に、様々な機能性を有する脂溶性成分が内包ないし被覆されていて、各種の化粧品開発に利用可能で多様な機能性を有する保存安定性に優れた皮膚外用剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
斯かる実情に鑑み、本発明者らは上記問題を解決すべく鋭意研究をした結果、ショ糖脂肪酸エステルおよび/又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を使用することにより、多種の脂溶性成分が脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体に内包ないし被覆されていて、しかも経時的な保存安定性にも優れた皮膚外用剤が容易に得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体と、脂溶性成分と、ショ糖脂肪酸エステルおよび/又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを含有し、脂溶性成分が、脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体に内包ないし被覆されていることを特徴とする皮膚外用剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の皮膚外用剤は、優れた保湿作用を有すると共に、脂溶性成分の持つ多様な機能性が付加された新規の機能性化粧品として利用することができる。また、本発明の皮膚外用剤は、角質細胞間脂質に類似する構造を有し、皮膚に対する親和性にも優れた脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体に、多様な機能性を有する脂溶性成分が内包ないし被覆されているので、加齢や紫外線などの外的因子の影響に伴う肌荒れやシワの形成抑制等、皮膚の様々な性状変化に対する高い改善効果を期待することができる。更に、本発明の皮膚外用剤は、経時的な保存安定性にも優れているので、各種化粧品として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に用いるラメラ構造体の構成成分である脂肪酸モノグリセリドとしては、炭素数8〜18の飽和または不飽和脂肪酸のモノグリセリドを好ましいものとして挙げることができる。例えば、カプリル酸モノグリセリド、カプリン酸モノグリセリド、ラウリン酸モノグリセリド、ミリスチン酸モノグリセリド、パルミチン酸モノグリセリド、ステアリン酸モノグリセリド、オレイン酸モノグリセリド等を挙げることができる。これらの脂肪酸モノグリセリドは単独で又は2種以上のものを組み合わせて使用することができる。なかでも特に、脂肪酸モノグリセリドとして、パルミチン酸モノグリセリドとステアリン酸モノグリセリドとを4:6〜2:8の比率で併用するとラメラ構造体が形成されやすくなるので好ましい。
【0011】
また、ラメラ構造体の安定性を向上させるために、ステロール類を配合することが好ましい。ここで、ステロール類としては、例えば、コレステロール、コレスタノール、シトステロール、β−シトステロール、スチグマステロール、スチグマスタノール、カンペステロール、カンペスタノール、デスモスステロール、イソフコステロール、クレロステロール、クリオナステロール、ラトステロール、フンギステロール、エピステロール、2,2−デヒドロスチグマステロール、2,2−ジヒドロスピナステロール、スピナステロール、アベナステロール、コンドリラステロール等の動植物性ステロール類、チモステロール、アスコステロール、フェコステロール、エルゴステロール、1,4−デヒドロエルゴステロール等の微生物由来ステロール類などが挙げられ、これらは2種以上組み合わせて使用することもできる。
特に、コレステロールやβ−シトステロール、スチグマステロールとカンペステロールの混合物であるフィトステロールを使用することが望ましい。
このステロール類の使用量は、特に制限されるわけではなく、適宜好ましい範囲を設定すればよいが、ラメラ構造体の安定性の点から、ラメラ構造体の構成成分となる脂肪酸モノグリセリド1重量部に対して、0.05重量部〜2.0重量部、特に0.1重量部〜1.0重量部程度とすることが好ましい。
【0012】
本発明において、ラメラ構造体には、前記の脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするものであるが、構造や品質(機能性を含む)の安定性を損なわない範囲で、低温下における相転移や高温下での粒子の相互作用を防止する目的で他の成分を更に配合することができる。このような成分としては、グリセリンに炭素数が8〜20のアルキル基又はアルケニル基が1〜3個エーテル結合したアルキル又はアルケニルグリセリンエーテル、具体的には、モノパルミチルグリセリンエーテル、モノステアリルグリセリンエーテル、モノオレイルグリセリンエーテル等を例示することができる。また、さらに水溶性高分子、具体的には、ビニルピロリドン、ビニルアルコール、酢酸ビニル及びジアルキルアミノアルキルメタクリレートから選ばれる1種又は2種以上の(共)重合体、ポリエチレングリコール、セルロース類等も例示することができる。
これら成分の配合量は、適宜好ましい範囲を設定すればよいが、例えば、アルキル又はアルケニルグリセリンエーテルであれば、構成成分となる脂肪酸モノグリセリド1重量部に対して、0.05重量部〜2.0重量部、特に0.1重量部〜重量1.0部程度とするのが好ましく、水溶性高分子であれば、構成成分となる脂肪酸モノグリセリド1重量部に対して、0.05重量部〜1.0重量部、特に0.1重量部〜0.5重量部程度とするのが好ましい。
【0013】
本発明において、ラメラ構造体は、前記した脂肪酸モノグリセリド又はこれを含有する油相混合物を原料として調製される。例えば、脂肪酸モノグリセリド又はこれを含有する油相混合物を加熱して溶融混合した後、同程度の温度に保持された水相混合物(防腐剤などを溶解した精製水)を添加し、物理的に攪拌して油相を水相に分散することにより、本発明に用いるラメラ構造体の分散液を調製することができる。
このときの加熱温度としては、45℃〜100℃、好ましくは50℃〜80℃である。また、ここでの物理的攪拌には、既存の機器を使用すればよく、例えば、超音波乳化装置、高圧均一分散装置、ナノマイザー、ホモミキサー、ホモジナイザー、コロイドミル、高速攪拌機等の微粒化装置を使用すればよい。なお、物理的攪拌の条件などは、特に制限されず、常法に従って行えばよい。
【0014】
また、これ以外にも脂肪酸モノグリセリド又はこれを含有する油相混合物を有機溶媒に溶解し、次いで溶媒を蒸留して脂質層を沈積させ、これに水相混合物を添加混合して加熱し、超音波を照射して調製する方法がある。このとき用いる有機溶媒としては、ジククロメタン、クロロホルム、アセトン、メタノールなどを例示することができる。
【0015】
いずれの方法でもラメラ構造体の分散液を調製することはできるが、工業的な規模で効率よくラメラ構造体の調製を行うには、前者の方法で行うことが好ましい。このようにして得られるラメラ構造体の分散液は、構成成分である脂肪酸モノグリセリドの特性上、リポソームと同様に、油相と水相とからなるラメラ相が板状ではなく、閉じた状態、すなわち、複数の油相と水相とからなるマルチ型の円形や多角形を形成した構造体が水溶液中で分散している状態となる。
【0016】
本発明で使用する脂溶性成分としては、皮膚の性状に対して有益な効果を与える機能性を有するものであれば特に制限されることはなく、何れも好適に使用することができる。中でも、α−トコフェロール又はその誘導体である酢酸DL−α−トコフェロール、コハク酸DL−α−トコフェロール、コハク酸DL−α−トコフェロールカルシウム、ニコチン酸DL−α−トコフェロール、リノール酸DL−α−トコフェロール等のビタミンEエステル類;水溶性ビタミンであるビタミンCの脂溶性誘導体であるステアリン酸アスコビル、パルミチン酸アスコビル、ジパルミチン酸アスコビルまたはテトラ−2−へキシルデカン酸アスコルビル(NIKKOL VC−IP)等の脂肪酸アスコルビル;更にグリチルレチン酸又はその誘導体であるグリチルレチン酸ステアリル等のグリチルレチン酸のエステルを好適なものとして例示することができる。
これらの脂溶性成分は、前記した脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体に内包ないし被覆され難く、後述するショ糖脂肪酸エステルやポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を用いることで、容易に脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体に内包ないし被覆されやすくなる。
なお、レチノール (Retinol)、レチナール (Retinal) 、レチノイン酸 (Retinoic Acid) およびこれらの3−デヒドロ体と、その誘導体であるビタミンAは、既に報告している通り、そのままでも脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体に内包ないし被覆されやすいが、本発明の脂溶性成分として使用してもよい。
【0017】
これらの脂溶性成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。本発明において、前記脂溶性成分の使用量は、その種類に応じて脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体に内包ないし被覆される程度が異なるため、適宜確認しながら使用量を設定することが望ましいが、脂溶性成分の使用量は、脂肪酸モノグリセリド1重量部に対して、0.002重量部〜0.3重量部、特に0.01重量部〜0.2重量部程度とするのが好ましい。
【0018】
本発明で使用するショ糖脂肪酸エステルとしては、炭素数が16以上の飽和または不飽和或いは分岐した脂肪酸鎖を有するものを好適なものとして挙げることができる。例えば、ヘキサパルミチン酸スクロース、ステアリン酸スクロース、ジステアリン酸スクロース、トリステアリン酸スクロース、ポリステアリン酸スクロース、トリベヘン酸スクロース等が例示できる。中でも特に、トリベヘン酸スクロースが好ましい。
【0019】
また、本発明で使用するポリオキシエチレン硬化ヒマシ油としては、付加ポリオキシエチレンのモル数が40モル以上であることが好ましい。このようなものとしては、POE(40)硬化ヒマシ油、POE(50)硬化ヒマシ油、POE(60)硬化ヒマシ油、POE(80)硬化ヒマシ油またはPOE(100)硬化ヒマシ油(いずれも日光ケミカルズ社製)を好適に使用することができる。中でも特に、POE(40)硬化ヒマシ油またはPOE(50)硬化ヒマシ油を使用することが好ましい。
【0020】
本発明において、ショ糖脂肪酸エステルとポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は併用してもよいし、単独で使用してもよく、ショ糖脂肪酸エステルおよび/またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の使用量は、いずれを使用する場合であっても、それぞれ脂肪酸モノグリセリド1重量部に対して0.01重量部〜1.0重量部、さらに0.02重量部〜0.5重量部、特に0.04重量部〜0.2重量部が好ましい。また、これらの合計量としては、脂肪酸ジモノグリセリド1重量部に対して0.02〜2.0重量部、さらに0.04〜1.0重量部、特に0.08〜0.4重量部が好ましい。
【0021】
本発明の皮膚外用剤は、脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体を調製した後に、脂溶性成分と、ショ糖脂肪酸エステルおよび/又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを他の成分と共に混合することによって調製することができるが、脂肪酸モノグリセリドと、脂溶性成分と、ショ糖脂肪酸エステルおよび/又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とからなる油相混合物を調製し、この油相混合物を上記方法に従って、ラメラ構造体とし、これを他の成分と共に皮膚外用剤とすることが好ましい。
いずれの方法であっても、脂溶性成分の持つ多様な機能性が付加された皮膚外用剤を得ることができるが、脂肪酸モノグリセリドと、脂溶性成分と、ショ糖脂肪酸エステルおよび/又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とからなる油相混合物からラメラ構造体を製造することにより、角質細胞間脂質に類似する構造を有し、皮膚に対する親和性にも優れた脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体に脂溶性成分が内包ないし被覆されている状態となりやすく、皮膚に対する機能性成分の親和性に優れた皮膚外用剤とすることができる。そしてまた、これにより、経時的な保存安定性にも優れたラメラ構造体を含有する皮膚外用剤とすることができる。
【0022】
脂肪酸モノグリセリドと、脂溶性成分と、ショ糖脂肪酸エステルおよび/又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とからなる油相混合物からのラメラ構造体の調製は、上述したとおりの方法で行えば良く、特に制限されないが、本発明においては、界面活性剤相を形成させた後に乳化、分散を行う方法を適用することが特に好ましい。これにより、優れた分散安定性を有し、脂溶性成分が内包ないし被覆されているラメラ構造体を含有する皮膚外用剤を容易に調製することができる。
【0023】
ここで、界面活性剤相を形成させた後に乳化、分散を行う方法とは、乳化技術として知られるD相乳化法である。この方法は、通常、水と多価アルコールおよび乳化剤の混合物を調製し、これに油成分を分散させることにより、透明ないし半透明のゲルエマルジョンを形成させ、これに水を添加することにより行うものであり、水溶性多価アルコールを用いて水相中に界面活性剤相を形成させることを特徴とする。本発明において、上述した方法により乳化を行うと、乳化時に粘度が高くなり製造工程に支障をきたすことがあるため、本発明においては、油相混合物に多価アルコールを添加し、さらに少量の水相を加えることにより界面活性剤相を形成させ、残りの水相を加えて分散させる乳化方法がより好ましい。ここで油相混合物には、脂肪酸モノグリセリドと、脂溶性成分と、ショ糖脂肪酸エステル及び/またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が含まれる。
【0024】
すなわち、本発明の皮膚外用剤の調製は、脂肪酸モノグリセリドと、脂溶性成分と、ショ糖脂肪酸エステルおよび/又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを含む油相混合物に、更に多価アルコールを添加して、これに水相を添加して分散させることにより行うことができる。
このとき、油相混合物に添加する多価アルコールとしては、特に制限されるものではないが、1,3−ブチレングリコール、1,2−ペンタンジオール等の2価以下のアルコールを用いることが好ましい。
また、油相混合物に添加するこれら多価アルコールの添加量は、特に制限されるわけではなく、およそ、油相混合物1重量部に対して0.02重量部〜0.5重量部、好ましくは0.05重量部〜0.25重量部となるように設定すればよい。
【0025】
かくして得られた本発明の皮膚外用剤は、優れた保湿作用を有する他、角質細胞間脂質に類似する構造を有し、皮膚に対する親和性にも優れた脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体に内包ないし被覆されている状態で多様な機能性を有する脂溶性成分が含まれているので、化粧料、医薬品、医薬部外品、治療用外用剤などの皮膚の性状改善を目的とした各種の形態で広く利用することが可能である。例えば、本発明の皮膚外用剤は、分散安定性や作用効果を妨げない範囲で一般に使用される各種副素材と共に、ローション類、乳液類、クリーム類、パック類等の基礎化粧料、シャンプー、リンス、トリートメント、ヘアトニック、ヘアリキッド、ヘアクリーム、ヘアミルク等の頭髪用製品、入浴剤や石鹸などの浴用化粧品、ファンデーション、口紅、マスカラ、アイシャドウなどのメーキャップ化粧料、日焼け止めなどの特殊化粧品等、種々の形態とすることができる。
【0026】
このとき使用できる副素材としては、界面活性剤、油脂成分、アルコール類、保湿剤、増粘剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、pH調整剤、香料、色素、紫外線吸収・散乱剤、アミノ酸、水溶性高分子、発泡剤、顔料、植物抽出物、乳酸菌培養物又はその加工物などを挙げることができる。また、本発明の皮膚外用剤中のラメラ構造体、脂溶性成分、ショ糖脂肪酸エステル及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の含有量は、特に限定されることはなく、0.01重量%〜50重量%、さらに0.05重量%〜30重量%、特に0.1重量%〜20重量%が好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、試験例、実施例等を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの試験例、実施例等に何ら制限されるものではない。
【0028】
実施例1(皮膚外用剤の調製(1))
脂肪酸モノグリセリドと、コレステロールと、バチルアルコールと、テトラ−2−へキシルデカン酸アスコルビル(NIKKOL VC−IP)および表2に示すショ糖脂肪酸エステル又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを表1に示す処方に従い、およそ70〜80℃で加熱混合溶解して油相混合物a)を調製した。また一方で、精製水にパラオキシ安息香酸メチルをおよそ70〜80℃で加熱混合溶解して水相b)を調製した。
ホモミキサーで物理的な攪拌を行いながら水相b)に油相混合物a)を添加して1分間攪拌し、その後、精製水に溶解した水溶性高分子(ポリビニルピロリドン)を更に添加して、冷却を行い、脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体を含む皮膚外用剤を得た。
得られた皮膚外用剤の性状(組織像)を、暗十字の有無を指標として偏光顕微鏡を用いて確認すると共に、この皮膚外用剤1mlに、オイルレッドO染色原液(武藤化学株式会社製)を200μl添加して、オイルレッドにより染色されるラメラ構造体に内包ないし被覆されていないテトラ−2−へキシルデカン酸アスコルビル(NIKKOL VC−IP)の存在を光学顕微鏡で観察し、以下の指標に基づいて判定を行った。その結果を表2に示す。
【0029】
評価基準
○:ラメラ構造を形成しており、オイルレッドにより染色される油滴もほとんど確認されない。
△:ラメラ構造を形成しており、オイルレッドにより染色される油滴は僅かに確認される。
×:ラメラ構造が形成されない、又は、ラメラ構造は形成するが、オイルレッドにより染色される油滴が多数確認される。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
表2に示すとおり、ショ糖脂肪酸エステル又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を添加せずに、脂溶性成分(VC−IP)を配合した皮膚外用剤は、オイルレッドにより染色される油滴が多数確認されるのに対し、ショ糖脂肪酸エステル又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油のいずれかを添加した皮膚外用剤においては、オイルレッドにより染色させる油滴は確認されないか、僅かに確認されるだけで、脂溶性成分(VC−IP)が脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体に均一に内包ないし被覆されることが示された。
【0033】
実施例2(皮膚外用剤の調製(2))
脂肪酸モノグリセリド(ポエムS−100)と、コレステロールと、バチルアルコールと、テトラ−2−へキシルデカン酸アスコルビル(NIKKOL VC−IP)と、ショ糖脂肪酸エステル又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と、更に1,3−ブチレングリコールを表3に示す処方に従い、およそ70〜80℃で加熱混合溶解して油相混合物a)を調製した。また一方で、精製水にパラオキシ安息香酸メチルをおよそ70〜80℃で加熱混合溶解して水相b)を調製した。
攪拌を行いながら油相混合物a)に水相b)を少量ずつ添加して(油相混合物1重量部に対して水相0.01重量部〜0.1重量部程度)界面活性剤相を形成させて十分に混合した後、残りの水相b)を添加して攪拌し、その後、精製水に溶解した水溶性高分子(ポリビニルピロリドン)を更に添加して、冷却を行い、脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体を含む皮膚外用剤を得た。
得られた皮膚外用剤について、実施例1と同様の指標で評価した。その結果を表3に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
1,3−ブチレングリコールを加えた油相混合物と水相とを混合して、界面活性剤相を形成させた場合でも、ショ糖脂肪酸エステル又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を用いることで、脂溶性成分(VC−IP)がラメラ構造体に内包ないし被覆された皮膚外用剤を得ることができた。また、実施例1の表2と表3の結果から、この方法を用いることで、脂溶性成分がラメラ構造体に内包ないし被覆され易くなる傾向が示された。
また更に、このようにして得られた皮膚外用剤は、良好な保存安定性を有していた。
【0036】
試験例1(相転移温度を用いた構造解析)
脂肪酸モノグリセリド(ポエムS−100)と、コレステロールと、バチルアルコール及びテトラ−2−へキシルデカン酸アスコルビル(NIKKOL VC−IP)とを表4に示す処方に従い、およそ70〜80℃で加熱混合溶解して油相混合物a)を調製した。また一方で、精製水にパラオキシ安息香酸メチルをおよそ70〜80℃で加熱混合溶解して水相b)を調製した。
ホモミキサーで物理的な攪拌を行いながら水相b)に油相混合物a)を添加して1分間攪拌し、その後、精製水に溶解した水溶性高分子(ポリビニルピロリドン)を更に添加して、冷却を行い、脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体を含む皮膚外用剤を得た。
得られた皮膚外用剤について、実施例1と同様の指標で評価した。また、得られた皮膚外用剤を約10mgアルミ製のシールセルに封入し、5℃/分の昇降温により、示差走査熱量測定(DSC)で相転移温度(Tc)を測定した。DSCによる結果を表4および図1に示す。
【0037】
【表4】

【0038】
脂質2分子膜の熱による相転移は、分子内の脂肪鎖の運動性と分子間力相互作用である鎖間隔の変化を示すことが知られている。(熱量測定・熱分析ハンドブック 丸善株式会社発行 日本熱測定学会編 P19、図3)すなわち、相転移温度の変化は、脂質2分子膜の鎖間隔の変化を示しており、脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体を含む皮膚外用剤の相転移温度がVC−IPを添加することによって変化することは、脂溶性成分(VC−IP)が脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体に内包ないし被覆され、それにより、ラメラ構造体の鎖間隔に変化が生じていると考えられる。
【0039】
ここで、表4及び図1の結果を考察すると、まず、ショ糖脂肪酸エステルやポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を使用しない場合でも、オイルレッドにより染色される油滴が全く確認されない脂溶性成分(VC−IP)の配合量では、相転移温度の変化が認められた(試験例2)。一方で、試験例3〜4のように、オイルレッドにより染色させる油滴が僅かに確認される脂溶性成分(VC−IP)の配合量では、相転移温度はほぼ一定値を示し、ほとんど変化は認められなかった。
以上のことから、ショ糖脂肪酸エステルやポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を使用しない場合であっても、脂溶性成分(VC−IP)はラメラ構造体に内包ないし被覆されるが、その量は極微量であり、実質的には、ショ糖脂肪酸エステルやポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を使用しない場合には、脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体に、脂溶性成分(VC−IP)はほとんど内包ないし被覆されないことを示唆している。
【0040】
実施例3(相転移温度を用いた構造解析(1))
脂肪酸モノグリセリド(ポエムS−100)と、コレステロールと、バチルアルコールと、テトラ−2−へキシルデカン酸アスコルビル(NIKKOL VC−IP)と、ショ糖脂肪酸エステルとしてトリベヘン酸スクロースと、更に1,3−ブチレングリコールを表5に示す処方に従い、およそ70〜80℃で加熱混合溶解して油相混合物a)を調製した。また一方で、精製水にパラオキシ安息香酸メチルをおよそ70〜80℃で加熱混合溶解して水相b)を調製した。
攪拌を行いながら油相混合物a)1重量部に対して水相b)を0.01重量部〜0.1重量部程度、少量ずつ添加して界面活性剤相を形成させて十分に混合した後、残りの水相b)を添加して攪拌し、その後、精製水に溶解した水溶性高分子(ポリビニルピロリドン)を更に添加して、冷却を行い、脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体を含む皮膚外用剤を得た。
得られた皮膚外用剤について、試験例1と同様に、性状(組織像)と相転移温度を評価した。その結果を表5および図2に示す。
【0041】
【表5】

【0042】
表5及び図2の結果から、ショ糖脂肪酸エステルとしてトリベヘン酸スクロースを使用することにより、オイルレッドにより染色される油滴が確認されない、又は僅かに確認される脂溶性成分(VC−IP)の配合量で、相転移温度の変化が認められ、脂溶性成分(VC−IP)がラメラ構造体に内包ないし被覆されていることが示された。
【0043】
実施例4(相転移温度を用いた構造解析(2))
脂肪酸モノグリセリド(ポエムS−100)と、コレステロールと、バチルアルコールと、テトラ−2−へキシルデカン酸アスコルビル(NIKKOL VC−IP)と、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油としてPOE(40)硬化ヒマシ油と、更に1,3−ブチレングリコールを表6に示す処方に従い、およそ70〜80℃で加熱混合溶解して油相混合物a)を調製した。また一方で、精製水にパラオキシ安息香酸メチルをおよそ70〜80℃で加熱混合溶解して水相b)を調製した。
攪拌を行いながら油相混合物a)1重量部に対して水相b)を0.01重量部〜0.1重量部程度、少量ずつ添加して界面活性剤相を形成させて十分に混合した後、残りの水相b)を添加して攪拌し、その後、精製水に溶解した水溶性高分子(ポリビニルピロリドン)を更に添加して、冷却を行い、脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体を含む皮膚外用剤を得た。
得られた皮膚外用剤について、試験例1と同様に、性状(組織像)と相転移温度を評価した。その結果を表6および図3に示す。
【0044】
【表6】

【0045】
表6及び図3の結果から、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油としてPOE(40)硬化ヒマシ油を使用することにより、オイルレッドにより染色される油滴が確認されない、又は僅かに確認される脂溶性成分(VC−IP)の配合量で、相転移温度の変化が認められ、脂溶性成分(VC−IP)がラメラ構造体に内包ないし被覆されていることが示された。
【0046】
実施例5(相転移温度を用いた構造解析(3))
脂肪酸モノグリセリド(ポエムS−100)と、コレステロールと、バチルアルコールと、酢酸DL−α−トコフェロールと、ショ糖脂肪酸エステルとしてトリベヘン酸スクロースと、更に1,3−ブチレングリコールを表7に示す処方に従い、およそ70〜80℃で加熱混合溶解して油相混合物a)を調製した。また一方で、精製水にパラオキシ安息香酸メチルをおよそ70〜80℃で加熱混合溶解して水相b)を調製した。
攪拌を行いながら油相混合物a)1重量部に対して水相b)を0.01重量部〜0.1重量部程度、少量ずつ添加して界面活性剤相を形成させて十分に混合した後、残りの水相b)を添加して攪拌し、その後、精製水に溶解した水溶性高分子(ポリビニルピロリドン)を更に添加して、冷却を行い、脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体を含む皮膚外用剤を得た。
得られた皮膚外用剤について、試験例1と同様に、性状(組織像)と相転移温度を評価した。その結果を表7および図4に示す。
【0047】
【表7】

【0048】
表7及び図4の結果から、ショ糖脂肪酸エステルとしてトリベヘン酸スクロースを使用することにより、オイルレッドにより染色される油滴が確認されない、又は僅かに確認される脂溶性成分(理研Eアセテート960)の配合量で、相転移温度の変化が認められ、脂溶性成分(理研Eアセテート960)がラメラ構造体に内包ないし被覆されていることが示された。
【0049】
実施例6(相転移温度を用いた構造解析(4))
脂肪酸モノグリセリド(ポエムS−100)と、コレステロールと、バチルアルコールと、グリチルレチン酸ステアリル(Co−グレチノール)と、ショ糖脂肪酸エステルとしてトリベヘン酸スクロースと、更に1,3−ブチレングリコールを表8に示す処方に従い、およそ70〜80℃で加熱混合溶解して油相混合物a)を調製した。また一方で、精製水にパラオキシ安息香酸メチルをおよそ70〜80℃で加熱混合溶解して水相b)を調製した。
攪拌を行いながら油相混合物a)1重量部に対して水相b)を0.01重量部〜0.1重量部程度、少量ずつ添加して界面活性剤相を形成させて十分に混合した後、残りの水相b)を添加して攪拌し、その後、精製水に溶解した水溶性高分子(ポリビニルピロリドン)を更に添加して、冷却を行い、脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体を含む皮膚外用剤を得た。
得られた皮膚外用剤の性状を暗十字の有無を指標として偏光顕微鏡を用いて確認し、以下の指標に基づいて判定を行った。また、試験例1と同様に、得られた皮膚外用剤について、相転移温度を測定した。その結果を表8および図5に示す。
【0050】
評価基準
○:ラメラ構造を形成している。
△:ラメラ構造は形成しているが、その形状に僅かな歪みが生じている。
×;ラメラ構造は形成されない。
【0051】
【表8】

【0052】
表8及び図5の結果から、ショ糖脂肪酸エステルとしてトリベヘン酸スクロースを使用することにより、ラメラ構造体の形状に歪みを生じさせない脂溶性成分(Co−グレチノール)の配合量で、相転移温度の変化が認められ、脂溶性成分(Co−グレチノール)がラメラ構造体に内包ないし被覆されていることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】VC−IP配合による相転移温度の変化を示す図である。
【図2】VC−IP配合による相転移温度の変化を示す図である。
【図3】VC−IP配合による相転移温度の変化を示す図である。
【図4】酢酸DL−α−トコフェロール配合による相転移温度の変化を示す図である。
【図5】グリチルレチンステアリル配合による相転移温度の変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体と、脂溶性成分と、ショ糖脂肪酸エステルおよび/又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを含有し、脂溶性成分が、脂肪酸モノグリセリドを構成成分とするラメラ構造体に内包ないし被覆されていることを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項2】
脂肪酸モノグリセリドと、脂溶性成分と、ショ糖脂肪酸エステルおよび/又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを含有する油相混合物から調製されたものである請求項1に記載の皮膚外用剤。
【請求項3】
脂溶性成分が、脂溶性ビタミンC、ビタミンE、グリチルレチン酸及びそれらの誘導体の群から選ばれる1種又は2種以上である請求項1又は2のいずれか1項に記載の皮膚外用剤。
【請求項4】
脂肪酸モノグリセリドの構成脂肪酸が、炭素数8〜18の飽和又は不飽和脂肪酸である請求項1〜3のいずれか1項に記載の皮膚外用剤。
【請求項5】
ショ糖脂肪酸エステルの構成脂肪酸が、炭素数が16以上の脂肪酸である請求項1〜4のいずれか1項記載の皮膚外用剤。
【請求項6】
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の付加ポリオキシエチレンのモル数が40モル以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載の皮膚外用剤。
【請求項7】
皮膚化粧料である請求項1〜6のいずれか1項に記載の皮膚外用剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−120873(P2010−120873A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295180(P2008−295180)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000006884)株式会社ヤクルト本社 (132)
【Fターム(参考)】