説明

皮膚外用剤

【課題】皮膚のバリア機能及び保湿機能の低下を予防又は改善することを目的とする。
【解決手段】マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤とを含んで成る皮膚外用剤を皮膚に適用することにより達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤とを含んで成る皮膚外用剤、特に皮膚のバリア機能及び保湿機能の低下を予防又は改善するための皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
人類を始めとする様々な動物の身体全体を覆う皮膚は、日光、乾燥、酸化、環境によるストレス、精神的ストレスなどの外的因子及び加齢によるしわの形成、硬化、しみ、くすみ、弾力性の低下等の変化に曝されている。
【0003】
天然皮膚においては、大きく分けて、表皮と真皮の二つの層から構成されており、表皮と真皮の間には表皮基底膜と呼ばれる薄くて繊細な膜が存在する。表皮の代謝は、この基底膜を通して真皮の細胞が産生する因子や血液供給に依存しており、そして皮膚における表皮の増殖と分化は、基底膜と真皮によって調節されているものと考えられている。したがって、基底膜を介する表皮・真皮間のコミュニケーションは、皮膚表皮の機能調節にとって重要な役割を担っているものと推測される。
【0004】
これに関して、マトリックスメタロプロテアーゼの阻害剤、又はマトリックスメタロプロテアーゼとマトリックスタンパク質産生亢進剤の両者を投与することで皮膚基底膜構造の再形成が促進されることが知られており(特開 2001-269398 号公報)、そしてセリンプロテアーゼを阻害する物質及び表皮基底膜成分の主要構成成分であるIV型、VII型コラーゲン又はラミニン5の産生量を高める物質によって、マトリックスプロテアーゼ阻害剤による基底膜形成促進効果をさらに促進させることが知られている(特開 2004−75661 号公報)。また、ヘパラナーゼ活性を阻害する化合物は、しわ形成過程において生体内の基底膜機能を改善し、しわの形成を抑制することが知られている(WO 2009/123215 号)。
しかしながら、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤の組み合わせによって表皮のバリア機能及び保湿機能を有意に改善することについては知られておらず、また基底膜を介する表皮・真皮間の相互作用は極めて複雑であるため、このような組み合わせが皮膚のバリア機能や保湿機能を有意に改善するという事実は極めて意外である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−269398号公報
【特許文献2】特開2004−75661号公報
【特許文献3】WO2009/123215号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、皮膚機能の変化、特に皮膚のバリア機能及び保湿機能の低下を予防又は改善するための新規な皮膚外用剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このたび、本発明者は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤との組み合わせによって表皮のバリア機能及び保湿機能を有意に改善することを見出した。
【0008】
したがって、本願は以下の発明を包含する:
[1] マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤とを含んで成る皮膚外用剤。
[2] 皮膚のバリア機能及び保湿機能の低下を予防又は改善するための、[1]に記載の皮膚外用剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤とを含んで成る皮膚外用剤を皮膚表面に適用することによって、皮膚の表皮中に存在するヒアルロン酸及びヘパラン硫酸量を有意に増加させ、そして表皮細胞の分化・増殖を正常化させることができる。これにより皮膚表皮のバリア機能及び保湿機能を改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A】コントロール群、MMP阻害剤群、ヘパラナーゼ阻害剤群、及びMMP阻害剤+ヘパラナーゼ阻害剤群における表皮中のヒアルロン酸量を示すグラフである。
【図1B】コントロール群、MMP阻害剤群、ヘパラナーゼ阻害剤群、及びMMP阻害剤+ヘパラナーゼ阻害剤群における培養上清中のヒアルロン酸量を示すグラフである。
【図2A】コントロール群、MMP阻害剤群、ヘパラナーゼ阻害剤群、及びMMP阻害剤+ヘパラナーゼ阻害剤群における表皮中のヘパラン硫酸量を示すグラフである。
【図2B】コントロール群、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤群、ヘパラナーゼ阻害剤群、及びMMP阻害剤+ヘパラナーゼ阻害剤群における培養上清中のヘパラン硫酸量を示すグラフである。
【図3】水、5%グリセリン、及び各種の0.2%グリコサミノグリカン(ヒアルロン酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸A及びコンドロイチン硫酸B)の水分蒸散速度定数を示すグラフである。
【図4】コントロール群、MMP阻害剤群、ヘパラナーゼ阻害剤群、及びMMP阻害剤+ヘパラナーゼ阻害剤群における表皮中のパールカン及びヘパラン硫酸の免疫染色を示す写真である。
【図5】コントロール群、MMP阻害剤群、ヘパラナーゼ阻害剤群、及びMMP阻害剤+ヘパラナーゼ阻害剤群における表皮中のロリクリン及びフィラグリンの免疫染色を示す写真である。
【図6】培養4日目及び8日目のコントロール群、MMP阻害剤群、ヘパラナーゼ阻害剤群、及びMMP阻害剤+ヘパラナーゼ阻害剤群における表皮中のKi67陽性の増殖性細胞の免疫染色を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ヒトの体内の約70%は水分で構成されており、乾燥した大気中で生命活動を営むためには、体内に存在する水分の蒸散、及び外界からの異物の侵入を防ぐためのバリア機能が不可欠である。また体内の水分を保持するための保湿機能も極めて重要であり、これによって皮膚は適度な水分を含有し、皮膚に柔軟性や潤いを保つことができる。
【0012】
正常な天然の皮膚においては、表皮の最も内側に存在する基底層では細胞分裂によって新しい細胞が絶えず一定の割合で増殖しており、これらの基底細胞は上方へと押し上げられて、有棘細胞、顆粒細胞及び角質細胞へと分化し、最終的には角片となって剥がれ落ちる。しかしながら、何らかの原因によって表皮の高次構造に異常がある場合には、このような表皮細胞の角化プロセスが正常に行なわれず、表皮の保湿機能及びバリア機能が低下するものと考えられる。
【0013】
このたび、本発明らは、溶媒を添加した培養液中で形成された人工皮膚(コントロール群)、N−ヒドロキシ−2−[[(4−メトキシフェニル)スルホニル]3−ピコリル)アミノ]−3−メチルブタンアミド塩酸塩を添加した培養液中で形成された人工皮膚(MMP阻害剤群)、1−[4−(1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)−フェニル]−3−[4−(1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)−フェニル]−ウレアを添加した培養液中で形成された人工皮膚(ヘパラナーゼ阻害剤群)、及びN−ヒドロキシ−2−[[(4−メトキシフェニル)スルホニル]3−ピコリル)アミノ]−3−メチルブタンアミド塩酸塩と1−[4−(1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)−フェニル]−3−[4−(1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)−フェニル]−ウレアを添加した培養液中で形成された人工皮膚(MMP阻害剤+ヘパラナーゼ阻害剤群)において、これらの各皮膚モデルの表皮中に存在するヒアルロン酸量及びヘパラン硫酸量を測定したところ、MMP阻害剤+ヘパラナーゼ阻害剤群においてヒアルロン酸量とヘパラン酸量が共に増大していたことを見出した。これはMMP阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤の組み合わせが、表皮中のヒアルロン酸及びヘパラン硫酸の分解を有意に抑制する作用を有することを意味する。また、MMP阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤の組み合わせによるヘパラン硫酸の分解の抑制作用は、ヘパラン硫酸及びヘパラン硫酸プロテオグリカンであるパールカンの免疫染色により、これらがMMP阻害剤+ヘパラナーゼ阻害剤群の表皮中に顕著に存在していることからも確認できる(図4を参照のこと)。
【0014】
ヒアルロン酸及びヘパラン硫酸はグルコサミノグリカンの1種であり、哺乳類の細胞表面に広く存在していることが知られている。図3に示されるとおり、各種のグルコサミノグリカンの中でもヒアルロン酸及びヘパラン硫酸の水分蒸散速度定数は顕著に低いことから、ヒアルロン酸及びヘパラン硫酸は強力な保水作用を有していることが判明した。したがって、MMP阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤の組み合わせによって、皮膚の保湿機能を有意に改善することができるものと考えられる。
【0015】
さらに驚くべきことに、本発明らは、MMP阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤の組み合わせにより、人工皮膚の表皮構造が正常な天然皮膚と極めて近似する構造に再構築されることを見出した。具体的には、図5に示されるとおり、MMP阻害剤+ヘパラナーゼ阻害剤群の皮膚モデルでは、表皮の分子マーカーとして知られるロリクリン及びフィラグリンの発現量が有意に増加しており、そしてこれらの分化マーカーは基底膜だけでなく、表皮顆粒層にも均一に存在している。正常な天然皮膚においては、フィラグリンやロリクリンは表皮顆粒層中に存在するケラチンを束ねるタンパクとして皮膚のバリア機能に関わっているものと考えられている。したがって、MMP阻害剤+ヘパラナーゼ阻害剤群の皮膚モデルにおいて有意な量のフィラグリンやロリクリンが顆粒層に均一に存在しているという事実は、MMP阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤の組み合わせが、皮膚のバリア機能を有意に改善することを示す重要な証拠である。
【0016】
またさらに、MMP阻害剤+ヘパラナーゼ阻害剤群における皮膚モデルにおいては、培養から8日目においても依然としてKi67陽性の増殖性細胞が高い割合で存在している(図6を参照のこと)。これは表皮の基底細胞の増殖性が維持されていることを示す。
【0017】
したがって、本発明においては、皮膚機能の変化、特に、皮膚のバリア機能及び保湿機能の低下を予防又は改善するために、活性成分としてMMP阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤との組み合わせを、医学的又は美容学的に使用することができる。
【0018】
マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)阻害剤
本発明において使用するマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤としては、マトリックスメタロプロテアーゼに対して阻害活性を有する物質であればよく、特に制限はない。マトリックスメタロプロテアーゼとしては、例えばゼラチナーゼ、コラゲナーゼ、ストロメライシン、マトリライシン等が挙げられる。従って、MMP阻害剤は、例えばゼラチナーゼ、コラゲナーゼ、ストロメライシン、マトリライシン等を阻害する物質として選択することができる。
【0019】
マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤の具体例としては、CGS27023A物質(N−ヒドロキシ−2−[[(4−メトキシフェニル)スルホニル]3−ピコリル)アミノ]−3−メチルブタンアミド塩酸塩)(J. Med. Chem. 1997, Vol. 40, p. 2525-2532)、MMP−インヒビター(p-NH2-Bz-Gly-Pro-D-Leu-Ala-NHOH)(FN-437)(BBRC, 1994, Vol. 199, p. 1442-1446)などが挙げられる。好適には、MMP阻害剤はCGS27023A物質である。
【0020】
さらに、本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤としては、種々の植物抽出物やそれらから得られる精製物を使用することができる。このような植物としては、イブキジャコウソウ(Thymus serpyllum L.)、カノコソウ(Valeriana fauriei Briquet)又はその他の近縁植物(Valerianaceae)、カキノキ(Diospyros kaki Thunberg(Ebenaceae))、レンゲソウ(Astragalus sinicus Linne(Leguminosae))、サンザシ(Crataegus cuneata Siebold et Zuccarini(Rosaceae))、ボタン(Paeonia suffruticosa Andrews(Poeonia montan Sims)(Paconiaceae))、コウチャ(Thea sinensis Linne var. assamica Pierre,(Thcaccae))、ユーカリ(Eucalyptus globulus Labillardiere)又はその近縁植物(Myrtaceae)、トルメンチラ(Potentilla tormentilla Schrk(Rosaceae))、シナノキ(Tilia corda:a Mill., Tilia platyphyllus Scop., Tilia europaea Linne(Tiliaceae))、シラカバ(Betula alba Linne(Betulaceze))、マジョラム(Origanummajorana L.)、アセンヤク(Uncaria gambir Roxburgh(Rubiaceae))、クルミ殻(Juglans regia Linne var. sinensis De Candolie)又はその近縁植物(Juglandaceae)、クララ(Sophora flavescens Aiton(Leguminosae))、ワレモコウ(Sanguisorba officinalis Linne(Rosaceae))、オトギリソウ(Hypericum perforatum Linne又はHypericum erectum Thunberg(Guttiferae))、チャ(Thea sinensis Linne(Theaceae))、ウコン(Curcuma longa L(Zingiberaceae))、ウコンの抽出精製物であるクルクミン、ハマスゲ(Symplocos racemosa, Cyperus rotundus)、ミロバランノキ(Cyperus scariosus, Gaultheria fragrantissima, Acacia fornensia, Terminalia chebula)、ベンガルボダイジュ(バンヤジュ)(Ficus bengalensis)、ナンバンサイカチ(Cassia fistula Linn)、ネジキ(Lyonia ovalifolia)、テリハボク(ヤラボ、タマナ)(Calophyllum inophyllum)、テンジクボダイジュ(Ficus religiosa)、トルメンチラ(Potentilla tormentilla S.)の抽出物、アボガド(Persea americana Mill.)の抽出物、マンゴスタン(Garcinia mangostana L.)の抽出物、ヤシ(Cocos balsamifera (L) DC.)の抽出物、又はケイ(Cinnamomum cassia BI.)の抽出物等を挙げることができる。
【0021】
これらの植物の抽出物は、草本植物にあっては、根、葉、茎、花等から抽出物が得られ、木本植物にあっては、根、芽、樹皮、果実、葉、花等から抽出物が得られる。これらの植物からの抽出物は、植物材料を必要に応じて乾燥させ、さらに必要に応じて細断又は粉砕した後、水性抽出剤又は有機溶剤により抽出することにより得られる。水性抽出剤としては、例えば、冷水、温水、又は沸点もしくはそれより低温の熱水を用いることができ、また有機溶剤としては、メタノール、エタノール、1,3−ブタンジオール、エーテル等を、常温で又は加熱して用いることができる。
【0022】
ヘパラナーゼ阻害剤
本発明において使用するヘパラナーゼ阻害剤としては、ヘパラナーゼに対して阻害活性を有する物質であればよく、特に制限はない。ヘパラナーゼは、種々の細胞に存在し、様々なヘパラン硫酸プロテオグリカンのヘパラン硫酸鎖を特異的に分解する酵素である。皮膚では、表皮を構成する表皮角化細胞及び真皮の線維芽細胞、血管内皮細胞などが産生する。各種癌細胞でも産生が高まっていることが知られ、癌の悪性度との関係も示唆されている。癌細胞でヘパラナーゼの産生が高いと転移性が高く、血管新生の誘導性も高いことが知られている(Vlodavsky I et al., Semin Cancer Biol. 2002; 12 (2): 121-129を参照のこと)。
【0023】
ヘパラナーゼ阻害剤の具体例としては、4−1H−ベンゾイミダゾール2−イル−フェニルアミン及びその誘導体、ケイヒ酸誘導体、例えば(E)−N−(5−メチルイソオキザゾールー3―イル)−3−(3,4,5−トリメトキシフェニル)アクリルアミド又は、(E)−3−(2−クロロフェニル)−N−(ピリジン−3−イルメチル)アクリルアミド、テトラゾール誘導体、ナフタレン誘導体、シクロアルカノン誘導体、4−アルキルレソルシノール、例えば4−イソブチルレソルシノール、又は1−[4−(1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)−フェニル]−3−[4−(1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)−フェニル]−ウレアが挙げられる。
【0024】
さらに、本発明のヘパラナーゼ阻害剤としては、種々の植物抽出物やそれから得られる精製物を使用することができる。このような植物抽出物としては、カノコソウ(Valeriana fauriei Briquet)又はその他の近縁植物(Valerianaceae)から得られるカノコウソウエキス、ヒノキ(Chamaecyparis)、例えば日本産ヒノキ(Chamaccyparis obtusc)、タイワンヒノキ(Chamaecyparis oatuse var. formosana)、アスナロ(Thujopsis delabrata)又はその変種であるヒバ(T. d. var. hondae)から得られるヒノキエキス、キウイ(A. cninensis)から得られるキウイエキス、レモン(C. limon)から得られるレモンエキス、トマト(L. esculentum)から得られるトマトエキス、ニンニク(A. sativum)から得られるニンニクエキス、ユリ(Lilium)、例えばニワシロユリ(L. candidum)から得られるユリエキス、長命草(P. japonicum)から得られる長命草エキス、ダイダイ(C. aurantium)から得られるトウヒエキス、ムクロジ(S. mukorossi)から得られるムクロジエキス、パセリ(P. crispum)から得られるパセリエキス、ナツメ(Z. jujuba. var. inermis)から得られるタイソウエキス、ウンシュウミカン(C. unshiu)又はその近縁種(C. chachiensis)から得られるチンピエキス、イラクサ(U. thunbergiana)から得られるイラクサエキス等を挙げることができる。
【0025】
これらの植物抽出物もまた上述したとおり、当業界において慣習的な方法を用いて抽出することが可能である。
【0026】
本発明においては、活性成分として、1又は複数のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)阻害剤及び1又は複数のヘパラナーゼ阻害剤の組み合わせを用いることができる。これらは水溶液、油液、その他の溶液、乳液、クリーム、ゲル、懸濁液、マイクロカプセル、粉末、顆粒、カプセル、固形等の形態をとり得る。それ自体既知の方法でこれらの形態に調製した上で、例えばローション製剤、乳液剤、クリーム剤、軟膏剤、硬膏剤、ハップ剤、エアゾール剤、注射剤、内服剤(錠剤、散剤、顆粒剤、丸剤、シロップ剤、トローチ剤等)、坐剤等として、身体に塗布、貼付、噴霧、注射、飲用、挿入することができる。これらの製剤形の中でも、ローション製剤、乳液剤、クリーム剤、軟膏剤、硬膏剤、ハップ剤、エアゾール剤等の皮膚外用剤が、好ましい剤形であると考えられる。ここで記す製剤、特に皮膚外用剤には、医薬品、医薬部外品、化粧料等が含まれ、以下同様の意味で用いることとする。本発明の皮膚外用剤に含有されるMMP阻害剤の量は、その種類により異なるが、典型的には約10μg/L〜10g/Lであり、好適には約100μg/L〜1g/Lであり、そして最適には約1mg/L〜100mg/Lである。本発明の皮膚外用剤に含有されるヘパラナーゼ阻害剤の量は、その種類により異なるが、典型的には約10μg/L〜100g/Lであり、好適には約100μg/L〜10g/Lであり、そして最適には約1mg/L〜1g/Lである。
【0027】
本発明の皮膚外用剤には、それらを調製する際に常用されている賦形剤、香料等をはじめ、油脂類、界面活性剤、防腐剤、キレート剤、水溶性高分子、アルコール類、増粘剤、粉末成分、紫外線防御剤、保湿剤、薬効成分、酸化防止剤、中和剤、pH調整剤、洗浄剤、乾燥剤、乳化剤等を適宜配合できる。これら各種成分を本発明の皮膚外用剤に配合する場合には、本発明の所期の効果を損なわない範囲内で行う必要がある。
【0028】
上記適宜配合される任意配合成分のうち、油分としては、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ミリスチルアルコール、オレイルアルコール等の直鎖アルコール、モノステアリルグリセリンエーテル、ラノリンサルコール、コレステロール、フィトステロール、イソステアリルアルコール等の分岐鎖アルコール等の高級アルコール、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸、固形パラフィン、ビースワックス、硬化ヒマシ油、カルナウバロウ、バリコワックス等のワックス、牛脂、豚脂、羊脂、スクワラン、ヤシ油、パーム油、パーム核油、大豆油、オリーブ油、綿実油、ホホバ油、ヒマシ油、ラノリン等の動植物油脂、流動パラフィン、ワセリン等の鉱物油、トリメチルプロパントリイソステアレート、イソプロピルミリステート、グリセロールトリ−2−エチルヘキサネート、ペンタエリスリトールテトラ−2−エチルヘキサネート、シリコーン油、ポリオキシエチレン(以下、POEとも記載する)ポリオキシプロピレン(以下、POPとも記載する)ペンタエリスリトールエーテル等の合成油等が挙げられる。
【0029】
界面活性剤としては、セッケン用素地、ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム等の脂肪酸セッケン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム等の高級アルキル硫酸エステル塩、POEラウリル硫酸トリエタノールアミン、POEラウリル硫酸ナトリウム等のアルキルエーテル硫酸エステル塩、ラウロイルサルコシンナトリウム等のN−アシルサルコシン酸、N−ミリストイル−N−メチルタウリンナトリウム、ヤシ油脂肪酸メチルタウリッドナトリウム等の高級脂肪酸アミドスルホン酸、POEステアリルエーテルリン酸等のリン酸エステル塩、モノラウロイルモノエタノールアミドPOEスルホコハク酸ナトリウム、ラウリルポリプロピレングリコールスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸塩、リニアドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、リニアドデシルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、N−ステアロイルグルタミン酸ジナトリウム、N−ステアロイルグルタミン酸モノナトリウム等のN−アシルグルタミン酸塩、硬化ヤシ油脂肪酸グリセリン硫酸ナトリウム等の高級脂肪酸エステル硫酸エステル塩、ロート油等の硫酸化油、POEアルキルエーテルカルボン酸、POEアルキルアリルエーテルカルボン酸塩、高級脂肪酸エステルスルホン酸塩、二級アルコール硫酸エステル塩、高級脂肪酸アルキロールアミド硫酸エステル塩、ラウロイルモノエタノールアミドコハク酸ナトリウム、カゼインナトリウム等のアニオン系界面活性剤;塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム等のアルキルトリメチルアンモニウム塩、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム塩等のジアルキルジメチルアンモニウム塩、塩化セチルピリジニウム等のアルキルピリジニウム塩、アルキル四級アンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルイソキノリニウム塩、ジアルキルモリホニウム塩、POEアルキルアミン、アルキルアミン塩、ポリアミン脂肪酸誘導体、アミルアルコール脂肪酸誘導体、塩化ベンザルコニウム等のカチオン系界面活性剤;2−ココイル−2−イミダゾリニウムヒドロキシド−1−カルボキシエチロキシ二ナトリウム塩等のイミダゾリン系両性界面活性剤、アミドベタイン、スルホベタイン等のベタイン系界面活性剤等の両性界面活性剤;ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノイソステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタントリオレエート等のソルビタン脂肪酸エステル類、モノ綿実油脂肪酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリン、セスキオレイン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリンリンゴ酸塩等のグリセリンポリグリセリン脂肪酸類、モノステアリン酸プロピレングリコール等のプロピレングリコール脂肪酸エステル類、硬化ヒマシ油誘導体、グリセリンアルキルエーテル、POE・メチルポリシロキサン共重合体等の親油性非イオン界面活性剤;POEソルビタンモノオレエート、POEソルビタンモノステアレート等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類、POEソルビットモノラウレート、POEソルビットモノオレエート、POEソルビットモノステアレート等のPOEソルビット脂肪酸エステル類、POEグリセリンモノオレエート、POEグリセリンジステアレート等のPOEグリセリン脂肪酸エステル類、POEモノオレエート、POEジステアレート、POEモノジオレエート等のPOE脂肪酸エステル類、POEラウリルエーテル、POEオレイルエーテル、POEコレスタノールエステル等のPOEアルキルエーテル類、POEオクチルフェニルエーテル、POEノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル類、ブルロニック等のプルアロニック型類、POE・POPモノブチルエーテル、POE・POPセチルエーテル、POE・POPグリセリンエーテル等のPOE・POPアルキルエーテル類、POEヒマシ油、POE硬化ヒマシ油、POE硬化ヒマシ油モノイソステアレート、POE硬化ヒマシ油マレイン酸等のPOEヒマシ油硬化ヒマシ油誘導体、POEソルビットミツロウ等のPOEミツロウ・ラノリン誘導体、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、脂肪酸イソプロパノールアミド等のアルカノールアミド、POEプロピレングリコール脂肪酸エステル、POE脂肪酸アミド、POEアルキルアミン、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルエトキシジメチルアミンオキシド等の親水性非イオン界面活性剤等が挙げられる。
【0030】
アルコール類としては、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等の低級アルコール等が挙げられる。
【0031】
増粘剤としては、アラビアゴム、トラガントカム、ガラクタン、キャロプガム、グアーガム、カラギーナン、ペクチン、寒天、デンプン(トウモロコシ、コムギ、ジャガイモ、コメ)等の植物系高分子、デキストラン、プルラン等の微生物系高分子、カルボキシメチルデンプン、メチルヒドロキシプロピルデンプン等のデンプン系高分子、コラーゲン、カゼイン、ゼラチン等の動物系高分子、メチルセルロース、ニトロセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロース硫酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、結晶セルロース等のセルロース系高分子、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等のアルギン酸系高分子、ポリビニルメチルエーテル、カルボキシビニルポリマー等のビニル系高分子、POE系高分子、POE・POP共重合体系高分子、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アミド等のアクリル系高分子、ポリエチレンイミン、カチオンポリマー、ベントナイト、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ラポナイト、ヘクトライト、無水ケイ酸等の無機系水溶性高分子等の水溶性高分子等が挙げられる。
【0032】
キレート剤としては、シトラマル酸、アガル酸、グリセリン酸、シキミ酸、ヒノキチオール、没食子酸、タンニン酸、コーヒー酸、エチレンジアミン四酢酸、エチレングリコールジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、フィチン酸、ポリリン酸、メタリン酸、ならびにこれらの類似体ならびにこれらのアルカリ金属塩およびカルボン酸エステル等が挙げられる。
【0033】
紫外線吸収剤としては、パラアミノ安息香酸等の安息香酸系紫外線吸収剤;アントラニル酸メチル等のアントラニル酸系紫外線吸収剤;サリチル酸オクチル等のサリチル酸系紫外線吸収剤;パラメトキシケイ皮酸イソプロピル、パラメトキシケイ皮酸オクチル等のケイ皮酸系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0034】
保湿剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、キシリトール、マルチトール、マルトース、D−マンニット、ブドウ糖、果糖、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、グルコサミン、シクロデキストリン等が挙げられる。
【0035】
薬効成分としては、ビタミンA油、レチノール、パルミチン酸レチノール、塩酸ピリドキシン、ニコチン酸ベンジル、ニコチン酸アミド、ニコチン酸dl−α−トコフェロール、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、ビタミンD2、dl−α−トコフェロール、パントテン酸、ビオチン等のビタミン類;アズレン、グリチルリチン等の抗炎症剤;アルブチン、4−メトキシサリチル酸カリウム、2−O−エチルアスコルビン酸、アスコルビン酸グルコシド等の美白剤、エストラジオール等のホルモン類;酸化亜鉛、タンニン酸等の収斂剤;L−メントール、カンフル等の清涼剤;その他塩化リゾチーム、塩酸ピリドキシン、イオウ等を配合することができる。さらに多様な薬効を示す各種抽出物を配合することができる。すなわちドクダミエキス、オウバクエキス、カンゾウエキス、シャクヤクエキス、ボタンピエキス、ヘチマエキス、ユキノシタエキス、ユーカリエキス、チョウジエキス、マロニエエキス、ヤグルマギクエキス、海藻エキス、タイムエキス等が挙げられる。
【0036】
防腐剤としては、メチルパラベン、エチルパラベン、ブチルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル類、安息香酸、サリチル酸、ソルビン酸、パラクロルメタクレゾール、ヘキサクロロフェン、塩化ベンザルコニウム、塩化クロルヘキシジン、トリクロロカルバニリド、感光素、フェノキシエタノール、イソメチルチアゾリノン等が挙げられる。
【0037】
中和剤としては、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、水酸化カリウム、水酸化カリウム、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
【0038】
pH調整剤としては、乳酸、クエン酸、グリコール酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム等が挙げられる。
【0039】
酸化防止剤としては、アスコルビン酸、α−トコフェロール、カロチノイド等が挙げられる。
【0040】
上記成分は例示であり、これらに限定されるものではない。またこれら成分は、所望する形態に応じた処方に従い、適宜組み合わせて配合することが可能である。
【0041】
なお、その薬剤成分に関しては、その配合により本発明の所期の効果が損なわれない範囲で広く配合することができる。このようにして調製された本発明の皮膚外用剤は、皮膚の機能、特には皮膚のバリア機能及び保湿機能の低下を予防又は改善することができる。したがって、本発明の皮膚外用剤は、皮膚のバリア機能及び保湿機能の低下に起因する疾患又は症状、例えば接触性皮膚炎、アレルギー性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、乾燥肌、敏感肌、脂性肌、アクネ、火傷、日焼け、シミ、シワ、皮膚老化等に有効である。
【0042】
また、本発明の他の実施態様においてメタロプロテアーゼ阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤とを含んで成る人工皮膚培養液が提供される。
【0043】
人工皮膚の製造に用いる基礎培地としては、人工皮膚の製造に従来から使用されている任意の培地を用いることができ、これらの培地としては10%の牛胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM);10%の牛胎児血清、トランスフェリン5μg/ml、インシュリン5μg/ml、tri−ヨードチロニン2nM、コレラトキシン0.1nM、ヒドロコーチゾン0.4μg/mlを含むDMEM−Ham’sF12(3:1);ケラチノサイト増殖培地(KGM)と10%牛胎児血清を含むDMEMとを1:1に混合した培地、等が挙げられる。これらの基礎培地に添加されるMMP阻害剤の量は、その種類により異なるが、典型的には約10μg/L〜10g/Lであり、好適には約100μg/L〜1g/Lであり、そして最適には約1mg/L〜100mg/Lである。また基礎培地に添加されるヘパラナーゼ阻害剤の量は、その種類により異なるが、典型的には約10μg/L〜100g/Lであり、好適には約100μg/L〜10g/Lであり、そして最適には約1mg/L〜1g/Lである。
【0044】
本発明の人工皮膚培養液にも、培養液の調製に常用的に使用されている上述の成分を適宜配合できる。これら各種成分を本発明の人工皮膚培養液に配合する場合には、本発明の所期の効果を損なわない範囲内で行う必要がある。
【0045】
人工皮膚の製造においてはまず、真皮モデルを作成する。真皮モデルはヒト線維芽細胞を含む収縮I型コラーゲンゲル、キチンキトサンとコンドロイチン硫酸およびコラーゲンで架橋形成した中あるいは上部にヒト線維芽細胞を含ませたもの、あるいはコラーゲンゲルを遠心などによって圧縮させた後ヒト線維芽細胞を中あるいは上部に含ませたものでもよい。例えば次のようにして調製することができる。線維芽細胞懸濁コラーゲン溶液を氷上にて作製後、ペトリ皿内にてコラーゲンをゲル化させて調製する。その後、ペトリ皿壁面からゲルを剥離し、コラーゲンゲルをCO2インキュベーター内にて収縮させる。また皮膚真皮に似せるために、線維芽細胞に加えて血管内皮細胞、脂肪細胞や神経細胞を含有することもできる。
【0046】
次に、上記真皮モデルの上に、表皮細胞、例えばヒト正常表皮ケラチノサイトを培養し、表皮を形成する。皮膚細胞の培養による表皮層の形成は次のようにして行うことができる。まず真皮モデルを金網などの上にのせる、もしくはセルカルチャーインサート内に静置する。さらにガラスリングをこの真皮モデルの上にのせ、このガラスリング内に液漏れをさせないようにヒト由来の表皮ケラチノサイト懸濁液を入れる。あるいはセルカルチャーインサート内壁に真皮モデルを密着させ、表皮ケレチノサイト懸濁液を真皮モデル上部以外に零れ落ちないように加える。CO2インキュベーター内にてケラチノサイトを接着させ、リングを使用した場合はリングを外すもしくはそのまま継続して培養するなどどちらでもよい。ガラスリングの代わりにゴムリングを利用してもよい。またヒト表皮に似せるために、表皮細胞の他に色素細胞やランゲルハンス細胞を加えてもよい。上記培地を表皮層の境界まで満たし、表皮層を空気に曝しながら、培養を継続し、角層を形成させる。
【0047】
この方法によれば、培養から約1日〜4週間、典型的には約4日〜2週間という極めて短期間で、正常な天然皮膚の表皮構造に極めて近い人工皮膚を得ることができる。また、図6に示されるとおり、MMP阻害剤+ヘパラナーゼ阻害剤群における皮膚モデルにおいては、培養から8日目においても依然としてKi67陽性の増殖性細胞が高い割合で存在していることから、本発明の培養液中で形成された人工皮膚は長期間の培養が可能であると考えられる。
【0048】
そのようにして得られた本発明の人工皮膚は、生体の天然皮膚が何らかの原因による病変又は損傷を伴う場合には、その代替物として臨床的に移植することができる。また、本発明の人工皮膚は、火傷によるケロイド跡、植皮跡、手術跡、深いしわ、深い傷跡、ニキビ跡、大きな毛穴、小じわ等を補正するために、皮膚上の凹凸表面に美容学的に適用することも可能である。さらに、本発明の人工皮膚は、研究用又は試験用モデルとして、例えば医薬又は化粧料の皮膚透過試験又は効能もしくは毒性を試験するために、あるいは創傷治癒、細胞遊走、癌細胞の侵入、癌細胞の転移又は癌の進行等を研究するために用いることができる。
【実施例】
【0049】
1.皮膚モデルの培養方法
皮膚モデル(EFT-400、MatTeK 社製)を専用培地(EFT-400-ASY、MatTeK 社製)中で培養した。コントロール群として、ジメチルスルホキシド(DMSO)とエタノールを終濃度が0.1%となるように専用培地に添加し、ヘパラナーゼ阻害剤群として、終濃度が50μMとなるように50mMの1−[4−(1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)−フェニル]−3−[4−(1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)−フェニル]−ウレア(DMSO溶媒)を専用培地に添加し、MMP阻害剤群として、終濃度が10μMとなるように10mMのN−ヒドロキシ−2−[[(4−メトキシフェニル)スルホニル]3−ピコリル)アミノ]−3−メチルブタンアミド塩酸塩(CGS27023A, エタノール溶媒)を専用培地に添加し、そしてヘパラナーゼ阻害剤+メタロプロテアーゼ(MMP)阻害剤群として、各々終濃度が50μM及び10μMとなるように50mMの1−[4−(1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)−フェニル]−3−[4−(1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)−フェニル]−ウレア(DMSO溶媒)及び10mMのCGS27023A(エタノール溶媒)を専用培地に添加して、これらを培養した。培地交換は毎日2mL/ウェルで行い、培養から4日目及び8日目に皮膚モデルを回収して実験に用いた。また培地交換の際に、培養液を全て回収し、−80℃にて保管し、そしてこれらを以下の実験に用いた。
【0050】
2.ヒアルロン酸量測定
上記において培養したコントロール群(n=5)、MMP阻害剤群(n=5)、ヘパラナーゼ阻害剤群(n=5)、及びMMP阻害剤+ヘパラナーゼ阻害剤群(n=5)をヒアルロン酸量測定試験に供した(nは試験に供した各々の皮膚モデル数を意味する)。各々の皮膚モデルは表皮と真皮を分離して、LIPAバッファー(ナカライ社)に可溶化させ、不溶画分を遠心にて除去した上清を皮膚モデルの表皮画分とした。−80℃で保管してある培養上清を解凍し、これらの溶液中のヒアルロン酸量をヒアルロン酸量測定キット(生化学工業)にて測定を行った。皮膚モデル表皮中では、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)阻害剤+ヘパラナーゼ阻害剤群の表皮にて有意なヒアルロン酸量の増加が確認できた(図1A)。一方で、培養上清中のヒアルロン酸量は、ヘパラナーゼ阻害剤を含む群にて、有意なヒアルロン酸量の低下が確認できた(図1B)。これらの結果から、ヘパラナーゼ阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤の両方が存在することで、ヒアルロン酸の分解を抑制し、表皮のヒアルロン酸量を高めることが明らかとなった。
【0051】
3.ヘパラン硫酸量測定
ヒアルロン酸測定と同様に、上記において培養したコントロール群(n=5)、MMP阻害剤群(n=5)、ヘパラナーゼ阻害剤群(n=5)、及びMMP阻害剤+ヘパラナーゼ阻害剤群(n=5)をヘパラン硫酸量測定試験に供した(nは試験に供した各々の皮膚モデル数を意味する)。培養上清と皮膚モデル表皮画分中のヘパラン硫酸量を、ヘパラン硫酸量測定キット(生化学工業)にて測定を行った。培養上清中のヘパラン硫酸量結果において、MMP阻害剤+ヘパラナーゼ阻害剤群は、コントロール群と比較して有意にヘパラン硫酸量が低下していた(図2B)。また皮膚モデル表皮中のヘパラン硫酸量を測定したところ、MMP阻害剤+ヘパラナーゼ阻害剤群ではコントロール群と比較して有意にヘパラン硫酸量が増加していた(図2A)。これらの結果から、ヘパラナーゼ阻害剤を含む群、特にMMP阻害剤+ヘパラナーゼ阻害剤群では、ヘパラン硫酸の分解が抑制され、表皮中のヘパラン硫酸量が増加することが明らかとなった。
【0052】
4.水分蒸散速度係数の測定
ヘパラン硫酸(n=5)、コンドロイチン硫酸A(n=5)、コンドロイチン硫酸B(n=5)、ケラタン硫酸(n=5)、及びヒアルロン酸(生化学工業)(n=5)をMilliQに溶解して各0.2%水溶液を作成し、また5.0%グリセリン(n=5)及びMilliQを比較サンプルとして用意した(nは各々の試料数を意味する)。天秤に2×2cmにカットした濾紙を設置し、各溶液10μLを浸み込ませ1分毎に8分間濾紙の重量を測定した。測定開始3分後から8分までの重量(mg)を縦軸にプロットし、横軸を経過時間(分)としたときの傾き(mg/分)を水分蒸散速度定数として算出した(図3)。この中でも0.2%ヒアルロン酸の水分蒸散速度定数は顕著に小さかったが、次いで0.2%ヘパラン硫酸の水分蒸散速度定数も5%グリセリンの水分蒸散速度定数と同程度であり、水分の蒸散を抑えていることがわかった。
【0053】
5. 皮膚モデルの免疫染色
培養後の皮膚モデルをメスにて半分にカットし、4℃のアセトンに入れて4℃で48時間以上静置させた。アセトン、安息香酸メチル、キシレンと順に溶液置換を行い、パラフィンにて包埋することでAMeX法によるパラフィンブロックを作成した。3μmの組織切片を作製し、パールカン(図4A−D)、ヘパラン硫酸(図4E−H)、ロリクリン(図5A−D)、フィラグリン(図5E−H)、ならびに培養4日目及び8日目におけるKi67(図6)の免疫染色を実施した。得られた免疫染色画像を図4〜6に示す。ヘパラナーゼ阻害剤群、MMP阻害剤群、MMP阻害剤+ヘパラナーゼ阻害剤群では、コントロール群と比較して、ヘパラン硫酸、フィラグリン及びロリクリンの発現量が増加していたが、特にMMP阻害剤+ヘパラナーゼ阻害剤群においては顕著に増加していた。また、ヘパラナーゼ阻害剤を含む群においては、Ki67陽性の増殖性細胞の存在が維持されていることが明らかになった。
【0054】
6.遺伝子抽出
半分にカットした培養後の皮膚モデルをピンセットで素早く表皮と真皮を分けた。それぞれを350μLのRLT緩衝液(RNeasy mini kit, QIAGEN)に入れ、ジルコニアボールを加え、粉砕器にて組織を破砕した。その後、RNeasy mini kit(QIAGEN)にてRNAを抽出した。さらに、Quick Amp-Labeling kit(Agilent)にてCy3ラベル化し、増幅を行い、そして全ヒトマイクロアレイアッセイを行った。Genespring GX にて発現変動している遺伝子群の解析を行った。その結果、ヘパラナーゼ阻害剤+MMP阻害剤群においては、細胞増殖に関連する遺伝子群(cell cycle)の発現が低下しており、その一方で細胞分化に関連する遺伝子群(Keratinization)の発現は増大していたことからヘパラナーゼ阻害剤とMMP阻害剤との組み合わせにより、表皮細胞の増殖が抑制され、分化が亢進されることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤とヘパラナーゼ阻害剤とを含んで成る皮膚外用剤。
【請求項2】
皮膚のバリア機能及び保湿機能の低下を予防又は改善するための請求項1に記載の皮膚外用剤。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−184308(P2011−184308A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48167(P2010−48167)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】