説明

皮膚疾患を治療するためのアダパレンを含む薬剤組成物

【課題】皮膚疾患を治療するためのアダパレンを含む薬剤組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、炎症性または増殖性成分を有する皮膚病の治療を対象とし、組成物の総重量に対して0.3重量%のアダパレンを含む薬剤組成物を製造するための、6-[3-(1-アダマンチル)-4-メトキシフェニル]-2-ナフタレン酸(アダパレン)またはその塩の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性または増殖性成分を有する皮膚病を治療するための薬剤組成物、特に皮膚用組成物における6-[3-(1-アダマンチル)-4-メトキシフェニル]-2-ナフタレン酸の使用に関し、その化学構造は以下の通りである。
【化1】

【背景技術】
【0002】
6-[3-(1-アダマンチル)-4-メトキシフェニル]-2-ナフタレン酸(以下、アダパレンと呼ぶ)は、ナフトエ酸から誘導したレチノイドであり、抗炎症性である。この分子は、尋常性ざ瘡およびレチノイドに感受性のある皮膚症を局所治療するための開発の対象となってきた。
【0003】
アダパレンは本出願人によって特許EP0199636で記載されており、後者はまた、特許EP0358574でこの成分を合成する方法を提供している。
【0004】
本出願人は、重量濃度0.1%で、アルコールローション、水性ゲルおよびクリームの形態に処方したアダパレンを市販している。これらの組成物はざ瘡の治療を対象としている。
最後に、アダパレンは光損傷を受けた皮膚に有益な作用を有すると記載されている(光損傷を受けた皮膚に対するアダパレン0.1および0.3%のゲルおよびビヒクルの作用の写真診断。M.Goldfarbら、Clinical Dermatology、オーストリア、ウィーン、2000年5月)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許EP0199636
【特許文献2】特許EP0358574
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M.Goldfarbら、Clinical Dermatology、オーストリア、ウィーン、2000年5月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本出願人は、炎症性または増殖性成分を有する皮膚病の治療を対象とした、アダパレンを重量濃度0.3%で含む新規な薬剤組成物を開発した。詳細には、本出願人は意外にも、本発明による組成物が、既知の組成物よりも良好な治療有効性を示すことに加えて、有効成分が低濃度の既知の組成物に匹敵する良好な忍容性を示すことを認めた。
【0008】
平均年齢65歳の個人で得た、光損傷を受けた皮膚(適応症「光損傷」)に関する治験で観察した忍容性に関する結果は、本発明の状況では利用できなかった。詳細には、若い個人へのアダパレンの使用に関しては(特に、ティーンエイジャーまたは青少年の密集したざ瘡に関し)、皮膚は非常に様々な生理病理学的特徴(多くの病変、特に炎症性病変の存在、皮膚浸透性の変更、小胞状チャネルの角質化亢進、免疫応答、皮膚の細菌性コロニー形成(P.acne)、脂漏過剰を伴う皮脂腺過形成)を示す。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明の主題は、炎症性または増殖性成分を有する皮膚病の治療を対象とした薬剤組成物を製造するための、6-[3-(1-アダマンチル)-4-メトキシフェニル]-2-ナフタレン酸(アダパレン)またはその塩の使用であり、この薬剤組成物は組成物の総重量に対して0.3重量%のアダパレンを含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】薬剤の性質に応じて病変数の減少について得られた結果を示す図である。
【図2】薬剤の性質に応じて病変数の減少について得られた結果を示す図である。
【図3】薬剤の性質に応じて病変数の減少について得られた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
用語「アダパレン塩」は、特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水性アンモニアなどの有機塩基、またはリジン、アルギニンもしくはN-メチルグルカミンなどの有機塩基の薬剤として許容される塩基と形成した塩を意味するものである。
用語「アダパレン塩」はまた、ジオクチルアミンおよびステアリルアミンなどの脂肪族アミンと形成した塩を意味するものである。
【0012】
本発明による組成物は、経腸的、非経口的、局所的または経眼的に投与することができる。
【0013】
本発明による薬剤組成物は、局所施用するのが好ましい。
【0014】
経腸的には、薬剤組成物は、錠剤、ゼラチンカプセル、糖衣錠、シロップ剤、懸濁液、溶液、粉剤、顆粒剤、乳濁液、あるいは制御放出用のミクロスフェアもしくはナノスフェアの懸濁液または脂質もしくはポリマーベシクルの懸濁液の形態であってよい。非経口的には、薬剤組成物は、注入用または注射用の溶液または懸濁液の形態であってよい。
【0015】
局所的には、本発明による薬剤組成物は、より具体的には皮膚および粘膜の治療を対象とし、軟膏、クリーム、乳状液、ポマード、粉末、浸透性パッド、溶液、ゲル、スプレー、ローションまたは懸濁液の形態であってよい。制御放出用のミクロスフェアもしくはナノスフェアの懸濁液または脂質もしくはポリマーベシクルの懸濁液またはポリマーパッチおよびヒドロゲルの懸濁液の形態であってよい。局所施用のこの組成物は、無水形態、水性形態または乳濁液の形態であってよい。
【0016】
本発明の好ましい変形では、本発明による薬剤組成物は、ゲル、クリームまたはローションの形態である。
【0017】
特に、薬剤組成物は、特にカルボマー940(BF Goodrich、Carbopol 980)およびプロピレングリコールから選択される1種または複数の成分を含む水性ゲル、または特にペルヒドロスクアレン、シクロメチコン、PEG-20メチルグルコースセキステアレートおよびメチルグルコースセキステアレートから選択される1種または複数の成分を含むクリーム、またはポリエチレングリコール系アルコールローションであることができる。
【0018】
本発明による薬剤組成物は不活性添加剤またはこれらの添加剤の組合せ、例えば
- 湿潤剤;
- 香味増強剤;
- パラ-ヒドロキシ安息香酸エステルなどの保存剤;
- 安定剤;
- 水分調整剤;
- pH調整剤;
- 浸透圧調節剤;
- 乳化剤;
- UV-AおよびUV-B遮断剤;および
- α-トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、スーパーオキシドジスムターゼ、ユビキノールまたはある種の金属キレート剤などの酸化防止剤
を含んでもよい。
【0019】
当然のことながら、当業者であれば、本発明に固有の有利な特性が想定した添加による悪影響を受けないか、または実質的に悪影響を受けないように、これらの組成物に加える任意選択の化合物(複数可)の選択に注意を払う。
【0020】
本発明による薬剤組成物を製造するためのアダパレンの使用は、
- 尋常性ざ瘡、面皰、多形ざ瘡、硬結嚢胞性ざ瘡、集簇性ざ瘡、続発性ざ瘡、例えば日光性、薬物関連または職業性ざ瘡など、
- 乾癬、魚鱗癬および魚鱗癬様状態の広範囲および/または重症の形態、
- ダリエー病、
- 化学線角化症、
- 掌蹠角皮症および毛孔性角化症、
- ロイコプラジア(leucoplasias)およびロイコプラジフォーム(leucoplasiform)の状態、扁平苔癬、
- 任意の良性または悪性、重症および広汎性皮膚用製剤
から選択される炎症性または増殖性成分を有する皮膚病の治療を対象とする。
【0021】
本発明による組成物は、尋常性ざ瘡などのざ瘡の治療、特に中程度からやや重篤な尋常性ざ瘡の治療に適している。
【0022】
次に、事実上いかなる制限もしない実例により、アダパレン0.3%を含む組成物の種々の製剤、本発明による組成物の治療状態および治療した患者の組成物に対する良好な忍容性を示す結果を挙げる。
【実施例】
【0023】
[実施例1]
局所投与製剤
この実施例では、アダパレン0.3%を含む種々の具体的な局所製剤を例示する。
【0024】
本実施例のアダパレンは、Sylachim社Finorga事業部から提供される(製品番号CF9611996)。
(a)クリーム
アダパレン 3mg
カルボマー934(BF Goodrich Carbopol 974) 4.5mg
エデト酸二ナトリウム 1mg
PEG20メチルグルコースセスキステアレート 35mg
メチルグルコースセスキステアレート 35mg
グリセロール 30mg
メチルパラベン 2mg
シクロメチコン 130mg
ペルヒドロスクアレン 60mg
フェノキシエタノール 5mg
プロピルパラベン 1mg
pH6.5+/-0.3に必要な量の水酸化ナトリウム
精製水 1gにする十分量
(b)ローション
アダパレン 3mg
PEG400 700mg
エタノール 1gにする十分量
(c)水性ゲル
アダパレン 3mg
カルボマー940(BF Goodrich Carbapol 980) 11mg
エデト酸二ナトリウム 1mg
メチルパラベン 2mg
ポロキサマー124 2mg
プロピレングリコール 40mg
水酸化ナトリウム:pH5.0+/-0.3を得るのに必要な量
精製水 1gにする十分量
【0025】
[実施例2]
0.3%アダパレンゲルの有効性および0.1%アダパレンゲルとの比較
ざ瘡に罹患している患者からなる集団で試験を実施した。この集団を3個の群に分けた。第1の群には0.3%アダパレンゲルを毎日局所施用し、第2の群には同じビヒクル中の0.1%アダパレンゲルを毎日局所施用し、第3の群は上記2種のゲルの組成物に対応するが活性剤を含まないゲルを毎日局所施用する対照群である。
【0026】
図1から3は、それらの性質に応じて病変数の減少について得られた結果を示す。
【0027】
これらの知見から以下の結論が導かれる:
- 0.3%アダパレンゲルは0.1%アダパレンゲルよりも迅速に作用する;具体的には、治療の4週目から0.1%アダパレンゲルと0.3%アダパレンゲルとの間の有効性に差異が示されている;
- 0.3%アダパレンゲルは治療の8週間後に明らかにより大きな治療効果を生じる。
【0028】
[実施例3]
0.3%アダパレンゲルに関する忍容性
1.アダパレンの血漿濃度の測定
中程度からやや重篤な尋常性ざ瘡を患う8人の個人を、治療する皮膚(顔面、胸部および背部)1000cm2に0.3%アダパレンゲル2gを毎日施用することにより10日間治療する。
【0029】
血液試料を1、2、4、6、8および10日目に採取する。10日目の最終施用後、1、2、6、8、10、12、16および24時間目に試料を採取する。
【0030】
これらの試料の総アダパレン(遊離およびコンジュゲート)の血漿濃度を以下のプロトコル:
- β-グルクロジナーゼとアリールスルファターゼとの混合物での酵素加水分解;
- 液体-液体抽出;
- HPLC(高速液体クロマトグラフィー)の通過;
- 次いで蛍光検出
を使用して判定する。
【0031】
この方法により最小濃度0.15ng/mlの検出が可能になり、アダパレンを最小濃度0.25ng/mlに定量化できる。
【0032】
結論
10日間の治療後に測定したアダパレンの血漿濃度は非常に低く、0.3%アダパレンゲルを毎日使用することの安全性を確認している。
【0033】
2a)0.3%アダパレンゲルの局所投与によって引き起こされた副作用の臨床観察
2種の観察をすることができる:
- 第1に、本実施例3のポイント1の枠組み内で治療した患者を監視すると、0.3%アダパレンゲルへの忍容性は患者すべてについて良好であることが分かった。患者はすべて、治療の7日目を最大とする皮膚の乾燥および落屑の徴候を示した。その後、これらの徴候は治療の最後まで減少する。
【0034】
2b)さらに、上記の実施例2で記載した試験も参照する。
【0035】
有効性の測定と平行して実験者は、第1に0.3%アダパレンゲルを局所施用して起こされた可能性のある副作用、第2に0.1%アダパレンゲルの施用により引き起こされた副作用を記録した。最後に、活性成分なしのゲルを投与した対照集団について同じ観察をした。
【0036】
観察を次表に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
この表を見ると、望ましくない副作用の出現は、異なる濃度の活性剤を含む2種のゲルについて統計的に同じであることが分かる。望ましくない副作用の強度は平均的であり、この2種のゲルが患者によく忍容されているという結論につながる。
【0039】
これらの観察に基づいて、尋常性ざ瘡を患う患者は、0.3%アダパレンゲル、臨床条件下で弱いまたは非常に弱いと称されるアダパレンへの曝露によって治療できると判断することができる。
【0040】
したがって、これら種々の研究により、アダパレン0.3%を含有する薬剤組成物は炎症性または増殖性成分を有する皮膚病、特に尋常性ざ瘡の治療に特に適するようにする利益/危険比を示すことが確実である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
尋常性ざ瘡、面皰、多形ざ瘡、硬結嚢胞性ざ瘡、集簇性ざ瘡、続発性ざ瘡、例えば日光性、薬物関連または職業性ざ瘡など、乾癬、魚鱗癬および魚鱗癬様状態の広範囲および/または重症の形態、ダリエー病、掌蹠角皮症および毛孔性角化症、ならびに炎症後色素沈着から選択される炎症性または増殖性成分を有する皮膚病の治療を対象とした薬剤組成物を製造するための6-[3-(1-アダマンチル)-4-メトキシフェニル]-2-ナフタレン酸(アダパレン)またはその塩の使用であって、薬剤組成物が、組成物の総重量に対して0.3重量%のアダパレンを含むことを特徴とする使用。
【請求項2】
尋常性ざ瘡の治療を対象とした薬剤組成物を製造するための請求項1に記載の6-[3-(1-アダマンチル)-4-メトキシフェニル]-2-ナフタレン酸(アダパレン)またはその塩の使用。
【請求項3】
中程度からやや重篤な尋常性ざ瘡の治療を対象とした薬剤組成物を製造するための請求項1または2に記載の6-[3-(1-アダマンチル)-4-メトキシフェニル]-2-ナフタレン酸(アダパレン)またはその塩の使用。
【請求項4】
組成物を局所施用することを特徴とする請求項1から3の一項に記載の使用。
【請求項5】
組成物が、ゲル、ローションまたはクリームの形態であることを特徴とする請求項1から4の一項に記載の使用。
【請求項6】
組成物が、
- アダパレン 3mg
- カルボマー940(BF Goodrich Carbopol 980) 11mg
- エデト酸二ナトリウム 1mg
- メチルパラベン 2 mg
- ポロキサマー124 2mg
- プロピレングリコール 40mg
- 水酸化ナトリウム:pH5.0+/-0.3を得るのに必要な量
- 精製水 1gにする十分量
の処方のゲルであることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
炎症性または増殖性成分を有する皮膚病の治療を対象とした、生理学的に許容される媒体中に6-[3-(1-アダマンチル)-4-メトキシフェニル]-2-ナフタレン酸(アダパレン)またはその塩を含む薬剤組成物であって、組成物の総重量に対して0.3重量%のアダパレンを含むことを特徴とする組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−32287(P2011−32287A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254916(P2010−254916)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【分割の表示】特願2003−574183(P2003−574183)の分割
【原出願日】平成15年3月12日(2003.3.12)
【出願人】(599045604)ガルデルマ・リサーチ・アンド・デヴェロップメント (117)
【Fターム(参考)】