説明

皮膚荒れの予防・治療剤および食品

【課題】マツタケ(Tricholoma matsutake)を利用して、安全で、長期間投与・摂取可能な、皮膚荒れ予防・治療剤および食品を提供する。
【解決手段】マツタケ(Tricholoma matsutake)、特にはマツタケFERM BP−7304株、の菌糸体、培養物(Broth)または子実体(胞子を含む)のいずれかをそのまま、あるいはその乾燥物、あるいはそれらの抽出物(例えば熱水抽出液、アルカリ溶液抽出液、熱水抽出液・アルカリ溶液抽出液の有機溶媒抽出液)を含有する、皮膚荒れの予防・治療剤および食品。本発明は紫外線や活性酸素に起因する皮膚細胞の機能低下を防止し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物やヒトにおける皮膚荒れの予防・治療のための薬剤および食品に関する。本発明の薬剤および食品は、医薬品として投与することができるだけでなく、種々の形態、例えば、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)やいわゆる健康食品(いずれも飲料を含む)、または飼料として飲食物の形で与えることも可能である。さらには、口中に一時的に含むものの、そのほとんどを口中より吐き出す形態、例えば、歯磨き剤、洗口剤、チューインガム、うがい剤などの形で与えることも、あるいは鼻から吸引させる吸入剤の形で与えることも可能である。
【背景技術】
【0002】
ヒトや動物の皮膚では、加齢とともに弛みや皺、しみが増える。このような変化は、皮膚本来の機能である全身保護、体温調節、代謝調節、栄養貯蔵、刺激感受などに大きな影響を与えるとともに、外観的な若さや美容を損ない、心身ともQOL(quality of life;生活の質)は低下する。
【0003】
皮膚は表皮、真皮および皮下組織から成るが、皮膚のしなやかさや弾力に重要な役割を果たしているのは、真皮の約70%の組成を占めるコラーゲンである。コラーゲン新陳代謝は加齢により影響を受け、30代半ばをピークに減り始め、老年期にはピーク時の約1/5になる。また、閉経に伴うエストロゲン分泌減少はコラーゲン産生を低下させる。コラーゲン新陳代謝の低下はその特有の立体構造を変化させ、他指標の低下(表皮ターンオーバーの遅延、バリア機能や水分保持機能低下、皮脂分泌能や角質機能低下)と相まって、皮膚機能を低下させる。
【0004】
さらに、皮膚の物性や機能は、加齢以外の因子により影響を受ける。アトピー性皮膚炎や湿疹・皮膚炎群、化粧品による接触性皮膚炎のような疾病を除くと、太陽光(紫外線)の影響が大きい。太陽光(紫外線)によるフォトエイジング(=光老化)は、皮膚の色調(つや、くすみ、しみ、あかみ)や触感(きめ、はり、いぼ、しわ)に変化を引き起こす。フォトエイジングのメカニズムに、コラーゲンの過剰ロスが関与するとされている。
【0005】
皮膚の老化や劣化を予防して若々しい肌を保つために、美容手術や再生医療に加えて、いわゆる“ドクターズ・コスメ”のような医療用化粧品、乾燥や紫外線防御を目的とした保湿剤や日焼け止めクリームなどの外用剤、レザー光線照射、ヒアルロン酸やコラーゲンなどの皮膚充填剤、動きジワを目立たなくするボツリヌス菌毒素製剤、エストロゲンなどの女性ホルモン、レチノイド、抗酸化剤投与などが試みられている。国内の皮膚美容術施行者数は2005年で約480万人、医療用化粧品の市場は230億円に達すると推定されており、今後、急伸長する有望市場と注目されている。しかし、臨床的には有効性を満足するものはほとんどない。
【0006】
ところで、きのこ類は多用な生物活性を有することから、古くから日本人の健康に寄与してきた。例えばマツタケ〔Tricholoma matsutake(S. Ito & Imai)Sing.〕については、特公昭57−1230号公報(特許文献1)に、マツタケ菌糸体の液体培養物を熱水または希アルカリ溶液で抽出して得られる抽出液から分離精製されたエミタニン−5−A、エミタニン−5−B、エミタニン−5−C、およびエミタニン−5−Dに、サルコーマ180細胞の増殖阻止作用があることが開示され、特許第2767521号公報(特許文献2)には、マツタケ子実体の水抽出物から分離精製された分子量20〜21万のタンパク質(サブユニットの分子量10〜11万)が抗腫瘍活性を有することが開示されている。
【0007】
さらに、本発明者らにより、マツタケ熱水抽出液、マツタケアルカリ溶液抽出液、あるいはこれら抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分が免疫増強活性を有することが見出されている(国際公開第01/49308号パンフレット(特許文献3))。本発明者らはまた、マツタケの特定の菌糸体由来の部分精製画分にストレス負荷回復促進作用があることも見出した(特開2003−050227号公報(特許文献4))。
【0008】
【特許文献1】特公昭57−1230号公報
【特許文献2】特許第2767521号公報
【特許文献3】国際公開第01/49308号パンフレット
【特許文献4】特開2003−050227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のようにマツタケには抗腫瘍活性、免疫増強活性、ストレス負荷回復促進作用などの種々の生理活性が含まれることが見出されている。しかしながら、本発明者の知る限りにおいて、マツタケが皮膚荒れに対して優れた予防・治療効果を有するということについては、これまで報告がされていない。
【0010】
本発明者は、マツタケが紫外線や活性酸素に起因する皮膚細胞の機能低下を防止し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明の課題は、マツタケを利用した皮膚荒れの予防・治療剤および食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、マツタケ(Tricholoma matsutake)またはその抽出物を含む、皮膚荒れの予防・治療剤および食品に関する。
【0013】
また本発明は、マツタケ(T. matsutake)が菌糸体、培養物(Broth)または子実体(胞子を含む)である、上記皮膚荒れの予防・治療剤および食品に関する。
【0014】
また本発明は、マツタケ(T. matsutake)がFERM BP−7304株である、上記皮膚荒れの予防・治療剤および食品に関する。
【0015】
また本発明は、マツタケ(T. matsutake)がFERM BP−7304株の菌糸体の乾燥粉末である、上記皮膚荒れの予防・治療剤および食品に関する。
【0016】
また本発明は、マツタケ抽出物が、FERM BP−7304株の菌糸体の熱水抽出液、アルカリ溶液抽出液、またはそれら抽出液の有機溶媒抽出液である、上記皮膚荒れの予防・治療剤および食品に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、安全で、安定的に大量供給が可能な、皮膚荒れの予防・治療のための薬剤および食品が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の皮膚荒れの予防・治療剤および食品に用いられるマツタケ〔Tricholoma matsutake(S. Ito & Imai)Sing.〕は、菌糸体、培養物(Broth)、子実体のいずれの形態のものも用いることができ、生でも乾燥したものでもよい。本発明では子実体は胞子も含むものとする。これら菌糸体、培養物(Broth)、子実体の各抽出物も用いることができる。
【0019】
本発明では特にマツタケFERM BP−7304株が好ましく用いられる。
【0020】
マツタケFERM BP−7304株は、本出願人によって新規菌株として従前に出願され(国際公開第02/30440号パンフレット)、独立行政法人産業技術総合研究所((旧)工業技術院生命工学研究所)に平成12年9月14日に寄託されている。このマツタケFERM BP−7304株は、京都府亀岡市で採取したマツタケCM6271株から子実体組織を切り出し、試験管内で培養することにより菌糸体継代株を得たものであり、株式会社クレハ 生物医学研究所で維持している。
【0021】
マツタケFERM BP−7304株の子実体の形態は、「原色日本新菌類図鑑(1)」(今関六也・本郷次雄編、保育社、昭和32年発行)プレート(plate)9頁および26頁に記載のマツタケ子実体に合致するものであった。
【0022】
マツタケFERM BP−7304株の継代は、エビオス寒天斜面培地で実施することができる。マツタケFERM BP−7304株の菌糸体をエビオス寒天平板培地に接種すると、白色の菌糸が放射状に密に生育し、大きなコロニーを形成する。走査型電子顕微鏡で観察すると、太さ1〜2μmの枝状の菌糸体が無数に存在し、菌糸体側部に数μm程度の突起物が時々みられる。該菌株の菌糸体を大量培養する場合は、液体培地に接種し、静置培養、振盪培養、タンク培養等により行うことができる。
【0023】
なお、マツタケFERM BP−7304株は、もっぱら菌糸体の形状で継代維持または培養することが可能であるが、子実体の形状となることもある。
【0024】
マツタケFERM BP−7304株の菌学的性質は以下のとおりである。
【0025】
(1)麦芽エキス寒天培地における培養的・形態的性質
白色の菌糸が放射状に密に生育してコロニーを形成する。接種30日目のコロニー径は約4cmである。
【0026】
(2)ツアペック寒天培地、オートミール寒天培地、合成ムコール寒天培地、およびフェノールオキシダーゼ反応検定用培地における培養的・形態的性質
上記いずれの培地においても、接種後1ヶ月経過しても菌糸の発育はほとんどみられない。
【0027】
(3)YpSs寒天培地における培養的・形態的性質
白色の光沢を有し、マット状に生育する。接種30日目の生育距離は約5mmである。
【0028】
(4)グルコース・ドライイースト寒天培地における培養的・形態的性質
白色の光沢を有し、マット状に生育する。接種30日目の生育距離は約2mmである。
【0029】
(5)最適生育温度および生育範囲
滅菌処理した液体培地(3%グルコース、0.3%酵母エキス、pH7.0)10mLの入った100mL容三角フラスコに、マツタケFERM BP−7304株の種菌約2mgを接種し、5〜35℃の種々の温度でそれぞれ培養し、28日目にフラスコから菌体を取り出し、蒸留水でよく洗浄した後に乾燥させ、質量を測定した。その結果、菌体質量は5〜15℃の範囲で直線的に増加し、15〜25℃の範囲で緩やかに増加した。27.5℃以上ではほとんど増殖しなかった。最適生育温度は15〜25℃である。
【0030】
(6)最適生育pHおよび生育範囲
液体培地(3%グルコース、0.3%酵母エキス)のpHを1モル/L塩酸または1モル/L水酸化カリウムで調整し、pH3.0〜8.0の種々の培地を調製して菌体の生育pHを調べた。すなわち各培地をフィルター滅菌し、培地10mLを滅菌済100mL容三角フラスコに分注した。マツタケFERM BP−7304株の種菌約2mgを接種後、22℃で培養し、フラスコから菌体を取り出し、蒸留水でよく洗浄した後に乾燥させ、質量を測定した。その結果、菌体の生育限界はpH3.0〜7.0、最適生育pHは4.0〜6.0であった。
【0031】
(7)対峙培養による帯線形成の有無
エビオス寒天平板培地に、マツタケFERM BP−7304株のブロック(約3mm×3mm×3mm)と、公知の13種類のマツタケ株(例えば、IFO 6915株;(財)発酵研究所)の各ブロック(約3mm×3mm×3mm)とを、約2cm間隔に対峙して植菌し、22℃で3週間培養した後、両コロニー境界部に帯線が生じるか否かを判定した。
【0032】
その結果、マツタケFERM BP−7304株は、公知のマツタケ株(13種類)のいずれの株に対しても明確な帯線を形成しなかった。なお、マツタケでは異株間対峙培養で帯線は生じないとされており、公知のマツタケ株(13種類)間についても、明確な帯線を形成した組み合わせはなかった。
【0033】
(8)栄養要求性
滅菌処理した菌根菌用合成培地(「太田培地」。Ohtaら、"Trans. Mycol. Soc. Jpn.", 31, 323-334, 1990)10mLの入った100mL容三角フラスコに、マツタケFERM BP−7304株の種菌約2mgを接種し、22℃で培養し、42日目にフラスコから菌体を取り出し、蒸留水でよく洗浄した後に乾燥させ、質量を測定したところ、菌体441mgが得られた。
【0034】
上記菌根菌用合成培地中の炭素(C)源であるグルコースの代わりに、28種類の糖質関連物質のいずれか1つを加えた各培地に、マツタケFERM BP−7304株を接種して培養し、培養終了後、菌体質量を測定した。その結果、菌体質量が多かった糖質関連物質から菌体質量が少なかった糖質関連物質を順に示せば、以下のとおりである。
【0035】
小麦デンプン>トウモロコシデンプン>デキストリン>メチルβグルコシド>セロビオース>マンノース>フラクトース>アラビノース>ソルビトール>グルコース>ラクトース>グリコーゲン>マンニトール>リボース>マルトース>トレハロース>ガラクトース>ラフィノース>メリビオース>N−アセチルグルコサミン。
【0036】
なお、セルロース、ダルチトール、シュークロース、キシロース、メチルαグルコシド、イヌリン、イノシトール、およびソルボースでは、菌の発育はほとんどみられなかった。
【0037】
次に、上記菌根菌用合成培地中の窒素(N)源である酒石酸アンモニウムの代わりに、15種類の窒素関連物質のいずれか1つを加えた各培地に、マツタケFERM BP−7304株を接種して培養し、培養終了後、菌体質量を測定した。
【0038】
その結果、菌体質量が多かった窒素関連物質から菌体質量が少なかった窒素関連物質を順に示せば、以下のとおりである。
【0039】
コーンスティープリカー>大豆ペプトン>ミルクペプトン>硝酸アンモニウム>硫酸アンモニウム>酒石酸アンモニウム>炭酸アンモニウム>アスパラギン>リン酸アンモニウム>塩化アンモニウム>硝酸ナトリウム>肉エキス>酵母エキス>カザミノ酸>クロレラ>トリプトーン>硝酸カリウム。
【0040】
さらに、上記合成培地中のミネラルおよびビタミン類のうち、特定の1成分を除去した培地に、マツタケFERM BP−7304株を接種して培養し、培養終了後、菌体質量を測定した。
【0041】
その結果、塩化カルシウム・二水和物、硫酸マンガン(II)・五水和物、硫酸亜鉛・七水和物、硫酸コバルト・七水和物、硫酸銅・五水和物、硫酸ニッケル・六水和物、塩酸アミン、ニコチン酸、葉酸、ビオチン、塩酸ピリドキシン、塩化カーチニン、アデニン硫酸・二水和物、または塩酸コリンのいずれか1つを培地から除いても、菌体質量にほとんど影響がなかった。
【0042】
一方、硫酸マグネシウム・七水和物、塩化鉄(II)、またはリン酸二水素カリウムのいずれか1つを培地から除くと、菌体質量は顕著に減少した。すなわち、マグネシウム、鉄、リン、およびカリウムは、マツタケFERM BP−7304株の増殖に必須と考えられる。
【0043】
(9)DNA塩基組成(GC含量)
GC含量は49.9%である。
【0044】
(10)RAPD法により生成するDNAパターン
6種類の異なるPCR(Polymerase Chain Reaction)用プライマー(10mer)をそれぞれ単独で用いるRAPD(Random Amplified Polymorphic DNA)法により生成するDNAパターンについて、マツタケFERM BP−7304株と、公知の44種類のマツタケ株(例えば、IFO 6915株;(財)発酵研究所)とを比較したところ、マツタケFERM BP−7304株は、公知のマツタケ株(44種類)のいずれとも異なるDNAパターンを示した。
【0045】
本発明の皮膚荒れの予防・治療剤および食品は、有効成分として、(i)マツタケFERM BP−7304株(例えば、当該株の菌糸体、培養物(Broth)または子実体)の生のものをそのまま、あるいはこれを乾燥粉末としたもの、(ii)マツタケFERM BP−7304株の熱水抽出液(例えば、当該株の菌糸体、培養物(Broth)または子実体の、熱水抽出液)、(iii)マツタケFERM BP−7304株のアルカリ溶液抽出液(例えば、当該株の菌糸体、培養物(Broth)または子実体の、アルカリ溶液抽出液)、(iv)マツタケFERM BP−7304株の熱水抽出液および/またはアルカリ溶液抽出液の、有機溶媒抽出液などを含む態様が好ましく例示されるが、これら例示に限定されるものではない。
【0046】
本発明の皮膚荒れ予防・治療剤および食品における有効成分として用いられ得るマツタケFERM BP−7304株の菌糸体としては、例えば、培養により得られる菌糸体(すなわち培養菌糸体)と培地との混合物から適当な除去手段(例えば、濾過)により培地を除去しただけの状態で使用することもできるし、あるいは、培地を除去した後の菌糸体から適当な除去手段(例えば、凍結乾燥)により水分を除去した菌糸体乾燥物の状態で使用することもでき、さらには前記菌糸体乾燥物を粉砕した菌糸体乾燥物粉末の状態で使用することもできる。
【0047】
本発明の皮膚荒れ予防・治療剤および食品における有効成分として用いられ得るマツタケFERM BP−7304株の培養物(Broth)としては、例えば、培養により得られる菌糸体(すなわち培養菌糸体)と培地との混合物の状態で使用することもできるし、あるいは、前記混合物から適当な除去手段(例えば、凍結乾燥)により水分を除去した培養物(Broth)乾燥物の状態で使用することもでき、さらには前記培養物(Broth)乾燥物を粉砕した培養物(Broth)乾燥物粉末の状態で使用することもできる。
【0048】
上記培養工程は、特に限定されるものでなく、一般にマツタケ菌を培養する方法を任意に用いることができるが、例えば、マツタケFERM BP−7304株(「マツタケ菌I」)を固形培地または液体培地で培養または保存してマツタケ菌IIを得る工程、前記マツタケ菌IIを静置液体培養してマツタケ菌IIIを得る工程、前記マツタケ菌IIIを振盪培養してマツタケ菌IVを得る工程、前記マツタケ菌IVを100L未満の小型培養装置を用いて、培養液中に通気を行わない攪拌培養してマツタケ菌Vを得る工程、前記マツタケ菌Vを100L以上の中型・大型培養装置を用いて深部攪拌培養してマツタケ菌VIを得る工程、前記マツタケ菌VIを100L以上の中型・大型培養装置を用いて深部攪拌培養してマツタケ菌VIIを得る工程、および前記マツタケ菌VIIを100L以上の中型・大型培養装置を用いて深部撹拌培養してマツタケ菌VIIIを得る工程、からなる培養方法(国際公開第2004/038009号パンフレット)が、マツタケ菌の生理活性を損うことなく大量生産できるという点から好適に用いられる。
【0049】
〈マツタケ菌Iを培養または保存してマツタケ菌IIを得る工程〉
用いる培地としては、一般にマツタケ菌を培養する栄養源基質を有する培地であれば特に制限なく使用することができる。例えば、太田培地(Ohtaら、"Trans. Mycol. Soc. Jpn.", 31, 323-334, 1990)、MMN培地(Marx, D. H., "Phytopathology", 59:153-163, 1969)、浜田培地(浜田、"マツタケ", 97-100, 1964)等が挙げられるが、これら例示に限定されるものでない。
【0050】
固形培地用の固形化剤としては、カラギーナン、マンナン、ペクチン、寒天、カードラン、デンプン、アルギン酸等が好適例として挙げられる。これらのうち寒天が好ましい。
【0051】
使用可能な培地の栄養源基質には、炭素源、窒素源、無機元素源などが挙げられる。
【0052】
上記炭素源としては、米デンプン、小麦粉デンプン、バレイショデンプン、サツマイモデンプン等のデンプン類;デキストリン、アミロペクシン等の多糖類;マルトース、シュクロース等の少糖類;フラクトース、グルコース等の単糖類などが挙げられる。さらに麦芽エキスを挙げることができる。マツタケ菌の生長速度から、グルコースなどの単糖類が好ましい時期と、デンプン類が好ましい時期とがあるので、時期に応じた炭素源を選択し、必要に応じて組合せて使用する。
【0053】
上記窒素源としては、酵母エキス、乾燥酵母、コーンスティーブリカー、大豆粉、大豆ペプトンなどの天然由来物質や、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、尿素などが挙げられる。これらは単独で、あるいは組合せて用いることができる。一般に生長速度を考慮すると、天然由来物質、特に酵母エキスが好ましい。
【0054】
上記無機元素源は、リン酸および微量元素を供給するために使用される。例を挙げると、リン酸塩のほか、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、マンガン、銅、鉄などの金属イオンの無機塩(例えば、硫酸塩、塩酸塩、硝酸塩、リン酸塩、等)があり、必要量を培地中に溶解する。
また、培地にビタミンB1などのビタミン類、アミノ酸類を添加することもできる。
【0055】
さらに、使用するマツタケ菌の性質に応じて、植物抽出物、有機酸、核酸関連物質などを添加することができる。植物抽出物としては、果菜類、根菜類、葉菜類などの抽出物が例示される。有機酸としては、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、乳酸などが例示される。核酸関連物質としては、市販の核酸、核酸抽出物、酵母、酵母エキスなどが例示される。
【0056】
固形培地を調製する場合、炭素源の使用量は、好ましくは10〜100g/L、より好ましくは10〜50g/L、特に好ましくは20〜30g/Lである。
【0057】
窒素源の使用量は、窒素元素相当量で0.005〜0.1モル/Lが好ましく、より好ましくは0.007〜0.07モル/L、特に好ましくは0.01〜0.05モル/Lである。
【0058】
リン酸塩の使用量は、リン元素相当量で0.001〜0.05モル/Lが好ましく、より好ましくは0.005〜0.03モル/L、特に好ましくは0.01〜0.02モル/Lである。さらに他の無機塩、ビタミン類、植物抽出物、有機酸、核酸関連物質など、マツタケ菌の性質に応じて適宜添加することができる。また、調製した栄養源基質溶液のpHを、好ましくは4〜7、より好ましくは4.5〜6.0、特に好ましくは5.0〜5.5とする。
【0059】
〈静置液体培養〉
次に、マツタケ菌II(マツタケ菌Iを固形培地または液体培地で培養または保存したマツタケ菌)を静置液体培養してマツタケ菌IIIを製造する方法について記載する。
通常、100mL〜2L容の三角フラスコを用いて行う。
【0060】
この静置液体培養は、液体培地にマツタケ菌IIを接種することにより開始する。
接種したマツタケ菌IIを含有する培養液と液体培地とを合せた混合物と、接種したマツタケ菌IIを含有する培養液との体積比(「接種時拡大倍率」)が好ましくは2〜50倍、より好ましくは3〜30倍となる量の液体培地を使用する。
【0061】
接種したマツタケ菌IIを含有する培養液中のマツタケ菌IIの乾燥菌糸体質量と、接種したマツタケ菌IIを含有する培養液と液体培地とを合せた混合物の体積比(「初発菌糸体濃度」)を、好ましくは0.05〜3g/L、より好ましくは0.1〜2g/Lとなるように、液体培地にマツタケ菌IIを含有する培養液を接種する。
【0062】
該静置液体培養での培養温度は15〜30℃が好ましく、より好ましくは20〜25℃であり、培養期間は30〜400日間が好ましく、より好ましくは120〜240日間である。培養期間が30日未満、あるいは400日超では、大量培養に適した生育能を有するマツタケ菌IIIを得ることが困難となる。
【0063】
静置液体培養後の培養液中の乾燥菌糸体含有量(単位:g/L)を初発菌糸体濃度との比(「菌糸体増加率」)が、2〜25倍となるように培養することが、生育能の点から好ましい。
【0064】
静置液体培養に使用する液体培地は、その浸透圧を、好ましくは0.01〜0.8MPa、より好ましくは0.02〜0.7MPa、特に好ましくは0.03〜0.5MPaとなるように、栄養源基質を使用する。
【0065】
静置液体培養に用いる栄養源基質として、マツタケ菌Iを培養する固形培地と同じ炭素源、窒素源、無機元素源、ビタミンB1などのビタミン類、アミノ酸類等を使用することができる。
【0066】
炭素源の使用量は、好ましくは10〜100g/L、より好ましくは20〜60g/L、特に好ましくは25〜45g/Lである。通常、グルコース等の単糖類を使用する。
【0067】
窒素源の使用量は、窒素元素相当量で0.005〜0.1モル/Lが好ましく、より好ましくは0.007〜0.07モル/L、特に好ましくは0.01〜0.05モル/Lである。
【0068】
リン酸塩を使用する場合は、リン元素相当量で0.001〜0.05モル/Lが好ましく、より好ましくは0.005〜0.03モル/L、特に好ましくは0.01〜0.02モル/Lになるようにする。
【0069】
さらに、他の無機塩、ビタミン類、植物抽出物、有機酸、核酸関連物質など、マツタケ菌の性質に応じて適宜添加することができる。
【0070】
調製した栄養源基質溶液のpHを、好ましくは4〜7、より好ましくは4.5〜6.5、特に好ましくは5.0〜6.0とする。
【0071】
マツタケ菌IIIを含有する静置液体培養による培養液の一部若しくは全部を、マツタケ菌IIを含有する培養液(若しくは培養物)と同様に静置液体培養の接種源として、再度、静置液体培養工程で使用することもできる。
【0072】
〈振盪培養〉
次いで、マツタケ菌III(マツタケ菌IIを静置液体培養して得られたマツタケ菌)を振盪培養して、マツタケ菌IVを製造する方法について記載する。
通常、300mL〜5L容の三角フラスコを用いて行う。
【0073】
この振盪培養は、液体培地にマツタケ菌IIIを接種することにより開始する。
接種したマツタケ菌IIIを含有する培養液と液体培地とを合せた混合物と、接種したマツタケ菌IIIを含有する培養液との体積比(「接種時拡大倍率」)が、好ましくは2〜50倍、より好ましくは3〜30倍、特に好ましくは5〜10倍となる量の液体培地を使用する。
【0074】
なお、接種時拡大倍率に見合う培養液の量を確保するために、静置液体培養を複数の培養装置を用いて製造することもできる。
【0075】
接種したマツタケ菌IIIを含有する培養液中のマツタケ菌IIIの乾燥菌糸体質量と、接種したマツタケ菌IIIを含有する培養液と液体培地とを合せた混合物の体積比(「初発菌糸体濃度」)を、好ましくは0.05〜3g/L、より好ましくは0.1〜2g/Lとなるように、液体培地にマツタケ菌IIIを含有する培養液を接種する。
【0076】
振盪培養では、培養温度は15〜30℃が好ましく、より好ましくは20〜25℃であり、培養期間は7〜50日間が好ましく、より好ましくは14〜28日間である。
【0077】
振盪培養に要する動力として、通常、三角フラスコ内の培養液単位体積あたりの攪拌所要動力0.05〜0.4kW/m3を用いる。
【0078】
静置液体培養後の培養液中の乾燥菌糸体含有量(単位:g/L)と初発菌糸体濃度との比(「菌糸体増加倍率」)が2〜25倍となるように培養することが、生育能の点で好ましい。
【0079】
振盪培養に使用する液体培地は、その浸透圧を、好ましくは0.01〜0.8MPa、より好ましくは0.02〜0.7MPa、特に好ましくは0.03〜0.5MPaとなるように、栄養源基質を使用する。
【0080】
振盪培養に用いられる栄養源基質として、マツタケ菌IIを培養する液体培地と同じ炭素源、窒素源、無機元素源、ビタミンB1などのビタミン類、アミノ酸類を使用することができる。
【0081】
炭素源の使用量は、好ましくは10〜100g/L、より好ましくは20〜60g/L、特に好ましくは25〜45g/Lである。通常、グルコース等の単糖類を使用する。
【0082】
窒素源の使用量は、窒素元素相当量で0.005〜0.1モル/Lが好ましく、より好ましくは0.007〜0.07モル/L、特に好ましくは0.01〜0.05モル/Lである。
【0083】
リン酸塩の使用量は、リン元素相当量で0.001〜0.05モル/Lが好ましく、より好ましくは0.005〜0.03モル/L、特に好ましくは0.01〜0.02モル/Lになるようにする。
【0084】
さらに、他の無機塩、ビタミン類、アミノ酸類、植物抽出物、有機酸、核酸関連物質など、マツタケ菌の性質に応じて適宜添加することができる。
【0085】
調製した栄養源基質溶液のpHを、好ましくは4〜7、より好ましくは4.5〜6.5、特に好ましくは5.0〜6.0とする。
【0086】
〈攪拌培養〉
次に、攪拌培養により、マツタケ菌V、マツタケ菌VI、マツタケ菌VII、マツタケ菌VIIIを製造する方法について記載する。
【0087】
この攪拌培養は、液体培地にマツタケ菌(IV〜VII)を接種することにより開始する。以下の説明において、マツタケ菌IVは、マツタケ菌IIIを振盪培養して得られるマツタケ菌をいい;マツタケ菌Vは、マツタケ菌IVを100L未満の小型培養装置を用いて培養液中に通気を行わない撹拌培養を行って得られたマツタケ菌をいい;マツタケ菌VIは、マツタケ菌Vを100L以上の中型・大型培養装置を用いて深部撹拌培養して得られたマツタケ菌をいい;マツタケ菌VIIは、マツタケ菌VIを100L以上の中型・大型培養装置を用いて深部撹拌培養して得られたマツタケ菌をいい;マツタケ菌VIIIは、マツタケ菌VIIを100L以上の中型・大型培養装置を用いて深部撹拌培養して得られたマツタケ菌をいう。
【0088】
攪拌培養で用いる液体培地は、次のようにして調製することができる。
栄養源基質は、振盪培養で使用する、炭素源、窒素源、無機元素源、ビタミンB1などのビタミン類、アミノ酸類と同じものを使用することができる。
【0089】
炭素源の使用量は、好ましくは10〜100g/L、より好ましくは20〜60g/L、特に好ましくは25〜45g/Lである。デンプン類を好ましく使用できる。
【0090】
攪拌を行う培養液中の浸透圧に影響するグルコースなどの単糖類を併用する場合、その使用量は、好ましくは0.1〜60g/L、より好ましくは0.5〜40g/L、特に好ましくは0.7〜20g/Lである。
【0091】
窒素源の使用量は、窒素元素相当量で0.005〜0.1モル/Lが唖好ましく、より好ましくは0.007〜0.07モル/L、特に好ましくは0.01〜0.05モル/Lである。
【0092】
リン酸塩の使用量は、リン元素相当量で0.001〜0.05モル/Lが好ましく、より好ましくは0.005〜0.03モル/L、特に好ましくは0.01〜0.05モル/Lである。
【0093】
さらに、他の無機塩、ビタミン類、アミノ酸類、植物抽出物、有機酸、核酸関連物質など、マツタケ菌の性質に応じて適宜、添加することができる。
【0094】
調製した栄養源基質溶液のpHを、好ましくは4〜7、より好ましくは4.5〜6.5、特に好ましくは5.0〜6.0とする。
【0095】
攪拌培養に使用する液体培地は、その浸透圧を、好ましくは0.01〜0.8MPa、より好ましくは0.02〜0.7MPa、特に好ましくは0.03〜0.5MPaとなるように、栄養源基質を使用する。
攪拌培養の培養温度は、15〜30℃、好ましくは20〜25℃とする。
【0096】
接種したマツタケ菌(IV〜VII)を含有する培養液と液体培地とを合せた混合物と、接種したマツタケ菌(IV〜VII)を含有する培養液との体積比(「接種時拡大倍率」)が、好ましくは2〜50倍、より好ましくは3〜30倍、特に好ましくは5〜10倍となる量の液体培地を使用する。
【0097】
接種したマツタケ菌(IV〜VII)を含有する培養液中のマツタケ菌(IV〜VII)の乾燥菌糸体質量と、接種したマツタケ菌(IV〜VII)を含有する培養液と液体培地とを合せた混合物の体積比(「初発菌糸体濃度」)を、好ましくは0.01〜5g/L、より好ましくは0.05〜3g/L、特に好ましくは0.1〜2g/Lとなるように、液体培地にマツタケ菌(IV〜VII)を含有する培養液を接種する。
【0098】
攪拌培養で得られるマツタケ菌(V〜VII)を、さらに攪拌培養の母菌として用いる場合の培養日数は、3〜20日間が好ましく、特には5〜14日間である。
【0099】
これらの培養日数後に、マツタケ菌(V〜VII)の乾燥菌糸体含有量が、好ましくは0.5〜10g/L、より好ましくは1〜8g/L、特に好ましくは1〜6g/Lになっている培養液は、攪拌培養に適した生育能を有するマツタケ菌(V〜VII)を含有している。
【0100】
静置液体培養後の培養液中の乾燥菌糸体含有量(単位:g/L)と初発菌糸体濃度との比(「菌糸体増加率」)が2〜25倍となるように培養することが、生育能の点で好ましい。
【0101】
他方、攪拌培養で得られるマツタケ菌(V〜VIII)を、マツタケ菌糸体として分離する場合の培養日数は5〜30日間であり、好ましくは7〜20日間、特に好ましくは10〜15日間である。
【0102】
これらの培養日数から、炭素源の資化速度が著しく低下した時を培養終了とするのが好ましいが、適宜、製造サイクル、製造コスト等の製造形態に合せて決定することができる。
【0103】
静置液体培養後の培養液中の乾燥菌糸体含有量(単位:g/L)と初発菌糸体濃度との比(「菌糸体増加倍率」)が35〜100倍となるように培養することが、工業的な生産の点で好ましい。
【0104】
マツタケ菌IVを含有する振盪培養で製造した培養液を、100L以上の中型、および大型培養槽などの培養装置による攪拌培養工程で使用することもできる。
【0105】
攪拌培養に使用する培養装置は、通気攪拌ができ、無菌性が確保できれば特に制限なく使用することが可能で、必要に応じて通気することができ、または通気装置を装着できるものを使用する。したがって、通常の、小型、中型および大型の培養槽、またはジャーファーメンターを使用することができる。
【0106】
100L未満のジャーファーメンターまたは小型培養槽を用いて、マツタケ菌IVの培養を行いマツタケ菌Vを製造する場合、液体培地中に通気せずに、攪拌培養を行うのが好ましい。100L未満のジャーファーメンターまたは小型培養槽で通気を行って培養すると、菌糸が凝集し、成長点が欠失して母菌としての生育能が損われる場合があるからである。
【0107】
また、100L以上の中型、および大型培養槽などの培養装置により工業スケールで深部攪拌培養を行う場合、必要に応じて通気を行う。この場合の通気量は0.05〜1.0vvm、特には0.2〜0.5vvmとするのが好ましい。
【0108】
攪拌培養における攪拌は、培養初期では培養液単位体積あたりの所要攪拌動力で制御する。通常、0.01〜2kW/m3、好ましくは0.05〜1kW/m3の範囲で攪拌を行うことにより、マツタケ菌糸体が良好に生育する。培養初期を過ぎれば菌が生育を始め、酸素供給量が不足し、さらに、生育した菌糸体の分散が不十分になるので、適宜、攪拌の強度を大きくすることが必要になる。当該深部攪拌では、培養初期には低通気、低撹拌速度で培養し、培養後期には高通気、高攪拌速度で培養するのが好ましい。
【0109】
深部攪拌培養から得られたマツタケ菌糸体の分離・回収は、常法によって行うことができる。例えば、フィルタープレスなどによる濾過、遠心分離などである。
【0110】
得られた菌糸体は、例えば蒸留水により充分に洗浄してから、次の熱水抽出工程を実施するのが好ましい。また抽出効率が向上するように、破砕物または粉体の状態に加工するのが好ましい。
【0111】
本発明の皮膚荒れ予防・治療剤および食品における有効成分として用いられ得るマツタケFERM BP−7304株の子実体としては、例えば、子実体をそのままで、または子実体を破砕した状態で使用することもできるし、あるいは、子実体から適当な除去手段(例えば、凍結乾燥)により水分を除去した子実体乾燥物の状態で使用することもでき、さらには、前記子実体乾燥物を粉砕した子実体乾燥物粉末の状態で使用することもできる。
【0112】
本発明の皮膚荒れ予防・治療剤および食品における有効成分として用いられ得るマツタケFERM BP−7304株の熱水抽出液は、例えば培養により得られるマツタケFERM BP−7304株の菌糸体(すなわち培養菌糸体)、培養物(Broth)、または子実体を熱水で抽出することにより得ることができる。
【0113】
熱水抽出に用いる熱水の温度は、マツタケFERM BP−7304株に含有される皮膚荒れ予防・治療効果を示す成分が、熱水抽出液中に充分に抽出される温度である限り特に限定されるものではないが、60〜100℃程度が好ましく、80〜98℃程度がより好ましい。
【0114】
菌糸体または子実体を熱水抽出に用いる場合には、抽出効率が向上するように、破砕物または粉体の状態に加工することが好ましい。
【0115】
また抽出の際には、抽出効率が向上するように、攪拌または振盪しながら実施するのが好ましい。抽出時間は、例えば、菌糸体の状態(例えば、破砕物または粉体の状態に加工した場合にはその加工状態)、熱水の温度、または攪拌若しくは振盪の有無若しくは条件に応じて、適宜決定することができるが、通常1〜6時間程度であり、2〜3時間程度が好ましい。
【0116】
得られた熱水抽出液は、不要物が混在する状態で、そのまま、本発明の皮膚荒れ予防・治療剤の有効成分として用いることもできるし、あるいは不溶物を除去してから、さらにはそこから抽出液中の低分子画分(好ましくは分子量3500以下の画分)を除去してから、本発明の皮膚荒れ予防・治療剤の有効成分として用いることもできる。
【0117】
本発明の皮膚荒れ予防・治療剤および食品における有効成分として用いられ得るマツタケFERM BP−7304株のアルカリ抽出液は、例えば、上述したマツタケFERM BP−7304株の熱水抽出液の製造方法において、熱水の代わりにアルカリ溶液を用いること以外は、上記熱水抽出液の製造方法に準じた方法により得ることができる。
【0118】
アルカリ溶液抽出に用いるアルカリ溶液としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルカリ金属(ナトリウム、カリウムなど)の水酸化物、特には水酸化ナトリウムの水溶液を用いることができる。アルカリ溶液のpHは8〜13が好ましく、9〜12がより好ましい。アルカリ溶液抽出は0〜30℃程度で実施するのが好ましく、0〜25℃程度がより好ましい。抽出時間は、例えば、菌糸体残渣の状態(例えば、破砕物または粉体の状態に加工した場合にはその加工状態)、アルカリ溶液のpH若しくは温度、または攪拌若しくは振盪の有無若しくは条件に応じて、適宜決定することができるが、通常30分間〜5時間程度であり、1〜3時間程度が好ましい。得られたアルカリ溶液抽出液は、そのまま、あるいは所望により中和処理を実施してから、本発明の皮膚荒れ予防・治療剤および食品に用いる。
【0119】
さらに、熱水抽出液および/またはアルカリ溶液抽出液に、有機溶媒(例えば、クロロホルム、メタノール、エーテル、エタノール、酢酸エチル、ヘキサン等)またはそれらの混合物(例えば、クロロホルムとメタノールとの混合液)を加えて、好ましくは15〜30℃の温度で30分間〜5時間程度、攪拌することにより、有機溶媒可溶層若しくは水可溶層に移行する画分を回収して、本発明の皮膚荒れ予防・治療剤および食品に用いることもできる。
【0120】
本発明の皮膚荒れ予防・治療剤および食品は、有効成分であるマツタケ、特にはマツタケFERM BP−7304株、あるいはその抽出物を、単独で、あるいは所望により薬剤学的に許容し得る担体とともに、ヒトや動物に投与することができる。
【0121】
本発明において「皮膚荒れ予防・治療」とは、動物やヒトなどにおいて、皮膚荒れ症の予防、皮膚荒れ症後(病的状態)の治療を意味するが、皮膚荒れ症を遅延・抑制せしめる効果も含む。また皮膚荒れにより誘発され得る疾患の発症防止効果も含む。したがって、本発明の皮膚荒れ予防・治療剤および食品の投与・摂取時期は、特に限定されるものではないが、日常的に継続投与・摂取するのが好ましい。
【0122】
本発明における皮膚荒れ予防・治療効果は、皮膚荒れのタイプを問うものでなく、いずれのタイプの皮膚荒れに対しても奏功し得る。本発明では「皮膚荒れ」として特に、長時間の太陽光暴露や、ストレス負荷により生じる肌荒れの予防・治療を企図している。ただしこれに限定されるものでない。
【0123】
本発明の皮膚荒れ予防・治療剤および食品の投与・摂取剤型としては特に限定されるものでなく、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、若しくは丸剤等の経口剤、または注射剤、外用液剤、軟膏剤、座剤、局所投与のクリーム、点眼薬などの非経口剤を挙げることができる。
【0124】
経口剤は、例えば、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ぶどう糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、または合成ケイ酸アルミニウムなどの賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、または酸化防止剤等を用いて、常法により製造することができる。
【0125】
非経口投与方法としては、注射(皮下、静脈内など)等が例示される。なかでも注射剤が最も好適に用いられる。
【0126】
例えば、注射剤の調製においては、有効成分の他に生理食塩水若しくはリンゲル液等の水溶性溶剤、植物油若しくは脂肪酸エステル等の非水溶性溶剤、ブドウ糖若しくは塩化ナトリウム等の等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、懸濁化剤、または乳化剤などを任意に用いることができる。
【0127】
また、本発明の皮膚荒れ予防・治療剤および食品は、徐放性ポリマーなどを用いた徐放性製剤の手法を用いて投与してもよい。例えば、本発明の皮膚荒れ予防・治療剤および食品をエチレンビニル酢酸ポリマーのペレットに取り込ませて、このペレットを治療すべき組織中に外科的に移植することができる。
【0128】
本発明の皮膚荒れ予防・治療剤および食品は、これに限定されるものではないが、マツタケFERM BP−7304株あるいはその抽出物等の有効成分を0.01〜99質量%、好ましくは0.1〜80質量%の量で含有することができる。
【0129】
本発明の皮膚荒れ予防・治療剤および食品を用いる場合の投与・摂取量は、被投与者の年齢、性別、体重、または投与・摂取方法などに応じて適宜決定することができ、経口的にまた非経口的に投与・摂取することが可能である。
【0130】
また、投与・摂取形態も医薬品に限定されるものではなく、種々の形態、例えば、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)やいわゆる健康食品(いずれも飲料を含む)、または飼料として飲食物の形で与えることも可能である。さらには、口中に一時的に含むものの、そのほとんどを口中より吐き出す形態、例えば、歯磨き剤、洗口剤、チューインガム、うがい剤などの形で与えることも、あるいは鼻から吸引させる吸入剤の形で与えることも可能である。例えば、マツタケFERM BP−7304株あるいはその抽出物等の有効成分を、添加剤(食品添加剤など)として、所望の食品(飲料を含む)、飼料、歯磨剤、洗口剤、チューインガム、またはうがい剤等に添加することができる。
【0131】
なお、上記において、特定保健用食品は、その食品が持つ健康機能の表示が認められる食品(食品ごとに厚生労働省の許可を必要とする)をいい、栄養機能食品は栄養成分の機能を明記できる食品(厚生労働省が作成した規格基準を満たす必要あり)をいい、いわゆる健康食品とは上記保健機能食品以外の食品一般を広く意味するもので、健康補助食品等を含むものである。
【実施例】
【0132】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例によってなんら限定されるものでない。
【0133】
(実施例1)
[マツタケ菌糸体の有機溶媒可溶性画分の調製]
株式会社クレハ 生物医学研究所で樹立および維持しているマツタケCM6271株(マツタケFERM BP−7304株)菌糸体を、滅菌済み培地(3%グルコース、0.3%酵母エキス、pH6.0)100mLの入った500mL容三角フラスコ20本に接種し、22℃で250rpmの振盪培養機で4週間培養を行った。
【0134】
培養終了後、培養物(Broth)を濾紙濾過により菌糸体を分離し、蒸留水で充分に洗浄した後、凍結乾燥した。得られた乾燥物を粉砕して菌糸体粉末20gを得た。
【0135】
上記菌糸体粉末1.0gを、300mL容のビーカーに入れ、100mLの蒸留水を加え、98℃で1時間攪拌抽出した。この操作を2回繰り返した後、遠心分離により、上清と残渣に分け、それぞれを回収した。次いで、残渣に0.2モル/Lの水酸化ナトリウム溶液100mLを加え、25℃で1時間攪拌抽出した。この操作を2回繰り返した後、遠心分離により、上清を回収し、1.0モル/Lの塩酸溶液を用いて中和した。これら熱水抽出液とアルカリ抽出液を混合し、ロータリーエバポレーターを用いて50mLにまで濃縮した。この濃縮液に、クロロホルムとメタノールとの混合液(2:1、v/v。以下、「ChMe液」と記す)50mLを加え、25℃で1時間攪拌抽出した。この操作を3回繰り返した後、水層部、中間層、およびChMe液層をそれぞれ回収した。ChMe液層と中間層とを合わせ(「非水層」)、ロータリーエバポレーターを用いて乾固し、乾固物0.55g〔C画分(=CM6271由来C画分)〕を得た。また水層部も同様に回収し、凍結乾燥を施して粉末0.45g〔W画分(=CM6271由来W画分)〕を得た。
【0136】
〈検体溶液〉
上記W画分は0.15Mリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)に、上記C画分はジメチルスルホキシド(DMSO)に、それぞれ溶解させてから、以下の実施例での実験に用いた。
【0137】
(実施例2)
[紫外線照射によるヒト皮膚細胞のダメージに対する作用]
培養皮膚細胞への紫外線照射は、フリーラジカルや他の活性酸素種を発生させ、細胞に酸化ストレスを引き起こすため、紫外線によるフォトエイジングのインビトロ(in vitro)モデルとして汎用されている(Jones SAら、"Redox Reports"、4:291−299、1999;Matsuo Mら、"Gerontology"、50:193−199、2004)。太陽光由来の紫外線のうち、波長200〜400nm(UV−C波、UV−B波、UV−A波)が上記紫外線実験に最も効率的であり、上記の作用発現にはUV−B波(波長290〜300nm)が重要とされている。そこで、皮膚由来の培養細胞株の紫外線照射ダメージに対するCM6271抽出物の影響を検討した。
【0138】
(i)材料
日本人皮膚由来正常2倍体線維芽細胞NHSF46を、行政独立法人・理化学研究所・筑波研究所・バイオリソースセンターから入手し、10%の仔牛血清を添加したHF−RITC80−7(IWAKI、旭テクノグラス(株))を培地に用い、75cm2培養フラスコ内、37℃の5%炭酸ガス培養器中で維持した。継代回数は週1回とし、継代時には、0.25%トリプシン溶液で、フラスコに付着している細胞を剥がし、遊離状態にした後、別のフラスコに接種した。実験には、継代回数5〜8代目の細胞(=「細胞懸濁液」)を用いた。
【0139】
(ii)CM6271の投与(検体溶液の調製)
実施例1で得たCM6271由来C画分はジメチルスルホキシド(DMSO)に、CM6271由来W画分は0.15Mリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)に、それぞれ溶解させてから、以下の(iii)、(iv)の実験に用いた。
【0140】
(iii)紫外線照射による細胞増殖に対する影響
96ウエルの培養用プレート(MicrotestTM 96 3072、日本ベクトンディキンソン(株))の各ウエルに、3×105cells/mLの上記細胞懸濁液を100μLずつ分注し、各ウエルに、所定濃度の検体溶液[=上記(ii)に示すCM6271由来C画分(10μg/mL)、または同W画分(100μg/mL)]50μLを加えた後、37℃の5%炭酸ガス培養器中で24時間培養した。各ウエルの培養液を、所定濃度の検体溶液を含むハンクス平衡塩液(HBSS;Hanks' Balanced Solution)150μLに置き換えた。次に、クリーンベンチ内に、東芝GL20−A殺菌灯を照射源とした照射装置をセットし、放射能計でモニターしながら、25℃で1時間、プレートを照射した(照射量1.0J/cm2、2.0J/cm2、3.0J/cm2)。なお照射波長は文献的に汎用されている254nmを主波長とするUV波長とした。照射後、各ウエルの培養液を10%仔牛血清添加HF−RITC80−7培地に置き換え、37℃の5%炭酸ガス培養器中で24時間培養した。非照射群として、プレートをアルミホイルで覆うことにより遮光した群を設けた。培養開始22時間目に、各ウエルに細胞増殖検出試薬WST−1((株)同仁化学研究所)20μLを加えた。培養終了時、プレートリーダーを用いて吸光度(450−630nm)を測定し、細胞増殖測定を行った(MTTアッセイ)。結果を表1に示す。
【0141】
(iv)紫外線照射による細胞のコラーゲン産生能に対する影響
一方、コラーゲン産生能の評価はRobertsらの方法に準じて実施した(Roberts ABら、"Proc Natl Acad Sci"、USA、83:4167−4171、1986)。すなわち、24ウエルの培養用プレート(CostarTM 3524、Corning Inc.,米国)の各ウエルに、3×105cells/mLの上記細胞懸濁液を1.0mLずつ分注し、各ウエルに、下記表2に示す所定濃度になるように検体溶液(上記(ii)に示すCM6271由来C画分または同W画分溶液)100μLを加えた後、37℃の5%炭酸ガス培養器中で24時間培養した。上記(iii)で記した方法と同様の方法で紫外線照射した後、37℃の5%炭酸ガス培養器中で24時間培養した。培養終了3.5時間前、各ウエルに0.25mMアスコルビン酸を加え15分間反応させ、次に、L−[2、3−3H]−プロリン(アマシャムバイオサイエンス(株))222kBqを加えて3時間反応させた。培養終了後、上清を回収し、細菌由来コラゲナーゼ(和光純薬工業(株))を用いて酵素処理した。次いで、50%三塩化酢酸を加え、生成沈殿を遠心分離により回収した。液体シンチレーションカウンターを用いて、沈殿画分の放射能を測定し、コラーゲン産生測定を行った(L−[2、3−3H]−プロリン取り込みアッセイ)。結果を表2に示す。
【0142】
【表1】

【0143】
【表2】

【0144】
表1、2の結果から明らかなように、皮膚由来正常2倍体線維芽細胞NHSF46の増殖能およびコラーゲン産生量は、紫外線照射量(1.0J/cm2、2.0J/cm2、3.0J/cm2)に依存して低下するが、CM6271由来のC画分またはW画分の共存により、有意に軽減された。すなわち、CM6271は、紫外線照射により誘導される酸化ストレスやフォトエイジングを防止する作用を有することが示唆された。
【0145】
(実施例3)
[活性酸素によるマウス皮膚細胞ダメージに対する作用]
老化モデルマウスの皮膚では、リポフスチン(lipofuscin)沈着と弾力繊維が自然生成することが報告されている(Okada Tら、"J Clin Biochem Nutr"、9:171−177、1990)。また、本マウス皮膚の過酸化脂質レベルは対照マウスよりも高値とされている(Komura Sら、"J Clin Biochem Nutr"、5:255−260、1988)。これらの成績は、紫外線照射なしでも酸化ストレスは誘導可能なことを示唆しており、実際、酵素反応により人為的に発生させた活性酸素に対する抗活性酸素物質のスクリーニング・システムが開発されている(Richard MJら、"Free Rad Res Comms"、16:303−314、1992)。そこで、活性酸素によるマウス皮膚細胞ダメージに対するマツタケ菌糸体抽出物の影響を検討した。
【0146】
(i)材料
日本エスエルシー(株)から雌性ヘアレスマウスHOS:HR−1を購入し、予備飼育の後、実験に用いた。すなわち、マウス腹部をエチルアルコールにて滅菌消毒した後、約50μLの注射用生理食塩水を皮内注射し、膨らんだ部域の皮膚をパンチして切り取り、滅菌した剃刀刃を用いて1mm角の皮膚片に細切した。10%仔牛血清と2mMグルタミン、50μg/mLのゲンタマイシンを添加した最小必須培地(MEM:Minimum Essential Medium)入りの培養用シャーレに浸漬し、37℃の5%炭酸ガス培養器中で培養した。線維芽細胞の増殖が旺盛となり、容器の半分程度を占めるようになってから、培地を除き、HBSSで洗浄した後、トリプシンを加えて数分間処理することにより、細胞を器壁から剥がし、培地に懸濁し、別のシャーレに入れて、37℃の5%炭酸ガス培養器中で培養した。この細胞を分裂齢1とし、組織培養用フラスコ(FALCON 3014、日本ベクトン・ディッキンソン(株))中で継代培養し、実験には分裂齢8の細胞(=細胞懸液)を用いた。
【0147】
(ii)CM6271の投与(検体溶液の調製)
実施例1で得たCM6271由来C画分はジメチルスルホキシド(DMSO)に、CM6271由来W画分は0.15Mリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)に、それぞれ溶解させてから、以下の(iii)、(iv)の実験に用いた。
【0148】
(iii)活性酸素による細胞増殖に対する影響
96ウエルの培養用プレートの各ウエルに、3×105cells/mLの上記細胞懸濁液を100μLずつ分注し、37℃の5%炭酸ガス培養器中で24時間培養した。次に、各ウエルに、所定濃度の検体溶液[=上記(ii)に示すCM6271由来C画分(10μg/mL)、または同W画分(100μg/mL)]50μLを加えた後、スーパーオキシドアニオンラジカル(・O2-)発生溶液〔=1.5mMのヒポキサンチン、500U/mLのカタラーゼ、40mU/mLのキサンチンオキシダーゼを含むHBSS溶液〕を50μL加えて37℃で3時間反応させた。次いで、プレートの各ウエルを洗浄液(1.26mM塩化カルシウムと0.81mM硫酸マンガンを含むHBSS溶液)で洗浄し、培養液を加えた後、細胞増殖検出試薬「WST−1」を20μL加え、2時間反応の後、プレートリーダーを用いて吸光度(450nm〜630nm)を測定し、細胞増殖測定を行った(MTTアッセイ)。結果を表3に示す。
【0149】
(iv)活性酸素による脂質過酸化レベルに対する影響
一方、脂質過酸化レベルの測定はMoysan Aらの方法に準じて実施した(Moysan Aら、"J Invest Dermatol"、100:692−698、1993)。すなわち、直径6cmの培養シャーレ(FALCON3002J、日本ベクトン・ディッキンソン(株))に、5.5×104cells/mLの上記細胞懸濁液を5.0mLずつ分注し、各ウエルに、下記表4に示す所定濃度になるように検体溶液(実施例1で調製したCM6271由来C画分または同W画分)100μLを加えた後、37℃の5%炭酸ガス培養器中で3日間培養した。培地交換してから24時間後、上記(iii)で記した方法と同様の方法によりスーパーオキシドアニオンラジカル発生溶液を加えて活性酸素を産生させた後、培養上清を回収し、−80℃で凍結保存した。測定時に、検体(=培養上清)を解凍し、その900μLに2%ブチル化ヒドロキシトルエンのエタノール溶液90μLを加えた後、0.375%のチオバルビツル酸の0.25M塩酸−15%三塩化酢酸を添加し、80℃で15分間おいた。当該溶液を冷却の後、ブタノールを加えて振盪攪拌した後、遠心分離を行い、ブタノール層を回収した。細胞は2mLのHBSSで2回洗浄した後、500μLの純水を加えて器壁から剥がし、50μLの1% Tween100溶液を加えた。30秒後に、超音波処理して細胞を可溶化した。そのタンパク質含量を銅フォリン法により測定し、アルブミン換算で算出した。光波長515nmと550nmにおけるブタノール層の吸光度を測定し、別に用意した1,1,3,3−テトラエトキシプロパン(シグマ・アルドリッチ社)溶液での検量線に外挿し、nmol/mg相当量としてTBAR(=チオバルビツール酸反応性物質)値を算出し、脂質過酸化レベル測定を行った(TBARアッセイ)。結果を表4に示す。
【0150】
【表3】

【0151】
【表4】

【0152】
表3の結果から明らかなように、ヘアレスマウス由来皮膚細胞の増殖能はスーパーオキシドアニオンラジカル(・O2-)により抑制されるが、CM6271由来のC画分またはW画分の共存により、有意に防止された。また、表4に示すように、TBAR産生で示される脂質過酸化レベルは、スーパーオキシドアニオンラジカルにより増加するが、CM6271由来のC画分またはW画分の共存により防止された。すなわち、CM6271は、スーパーオキシドアニオンラジカルにより誘導される酸化ストレスを防止する作用を有することが示唆された。
【0153】
(実施例4)
[ヘアレスマウス皮膚のダメージに対する作用]
へアレスマウス(Hos(R):HR−1、(株)星野試験動物飼育所)は1987年に米国から導入されたアルビノ系動物であり、ヌードマウスよりも皮膚が薄く、各種刺激に感受性高いことから、化粧品の開発研究だけでなく、皮膚の基礎研究や紫外線による皮膚発癌並びに紫外線吸収剤の研究、経皮吸収型医薬品の開発研究に汎用されている。そこで、へアレスマウスを用いて、皮膚ダメージに対するマツタケ菌糸体抽出物の影響を検討した。
【0154】
(i)材料と方法
天井部に紫外線照射装置(アトー(株))を取り付けたステンレス製箱(縦70cm、横70cm、高さ50cm、奥行き50cm)に、雌性へアレスマウスHOS:HR−1(日本エスエルシー(株)から購入)を収容したケージを入れ、マウス背中から約25cm離れた高さに照射ランプを調整し、放射能計でモニターしながら、25℃で15分間照射した(照射量3J/cm2照、最小紅斑生成量の3倍量に相当)。照射後、マウスは通常の飼育環境で飼育し、皮膚変化を2週間観察した。
【0155】
一部のマウス(n=5)では、照射後5日目にと殺し、紫外線照射部位の皮膚を切り取り、乾燥させ、TBARを実施例3に記載の方法と同じ手法で測定した(TBARアッセイ)。
【0156】
(ii)CM6271の投与
実施例1で得たCM6271由来C画分の所定量を0.5%メチルセルロース400CP(信越化学工業(株)製)溶液に懸濁したものを用いた。
【0157】
(iii)実験群構成
A群: CM6271(上記(ii))を1.0g/kg/回量、照射10日前から照射後10日目まで、ヘアレスマウスに連日経口投与した(CM6271投与群)。
【0158】
B群: 0.5%メチルセルロース400CP液0.2mLのみを、照射10日前から照射後10日目まで、ヘアレスマウスに連日経口投与した(対照群)。
【0159】
(iv)結果
紫外線照射により、対照群のヘアレスマウス皮膚はダメージを受け、照射後1〜5日目をピークに炎症反応を引き起こして紅斑を生成するが、5日目以降、回復の経過をたどった。一方、CM6271投与群マウスでは、肉眼的に、照射後の皮膚炎症反応は対照群よりも軽度であり、その回復も早かった。
【0160】
さらに、下記表5に示すように、ヘアレスマウス皮膚の脂質過酸化レベルは、CM6271投与群で有意に低かった。すなわち、CM6271の投与は、紫外線照射により誘導される皮膚ダメージを改善する作用を有することが示唆された。
【0161】
【表5】

【0162】
(まとめ)
皮膚細胞の紫外線および活性酸素障害モデルを用いて、CM6271の作用を調べた。
【0163】
(1)日本人皮膚由来正常2倍体線維芽細胞NHSF46に紫外線を照射すると、細胞増殖とコラーゲン合成が抑制されたが、CM6271由来成分共存下では、これらの抑制は防止された。
【0164】
(2)ヘアレスマウス皮膚由来の細胞をスーパーオキシドアニオンラジカル(・O2-)に暴露すると細胞増殖は抑制され、脂質過酸化(TBAR)レベルは増加するが、CM6271由来成分共存下では防止された。
【0165】
(3)紫外線を照射したへアレスマウス皮膚では炎症反応により紅班が生成するが、CM6271の投与により、紅班の形成が抑制された。一重項酸素によってコラーゲンの架橋が起こり、それがシワや紅班形成の原因の1つといわれている。CM6271由来成分が、紫外線によって発生した一重項酸素を消去しシワや紅班の生成を抑制したと考えられる。
【0166】
以上の成績は、CM6271が、紫外線や活性酸素による皮膚細胞障害を防御することを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マツタケ(Tricholoma matsutake)またはその抽出物を含む、皮膚荒れの予防・治療剤。
【請求項2】
マツタケ(T. matsutake)が菌糸体、培養物(Broth)または子実体(胞子を含む)である、請求項1記載の皮膚荒れの予防・治療剤。
【請求項3】
マツタケ(T. matsutake)がFERM BP−7304株である、請求項1または2記載の皮膚荒れの予防・治療剤。
【請求項4】
マツタケ(T. matsutake)がFERM BP−7304株の菌糸体の乾燥粉末である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の皮膚荒れの予防・治療剤。
【請求項5】
マツタケ抽出物が、FERM BP−7304株の菌糸体の熱水抽出液、アルカリ溶液抽出液、またはそれら抽出液の有機溶媒抽出液である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の皮膚荒れの予防・治療剤。
【請求項6】
マツタケ(Tricholoma matsutake)またはその抽出物を含む、皮膚荒れの予防・治療のための食品。
【請求項7】
マツタケ(T. matsutake)が菌糸体、培養物(Broth)または子実体(胞子を含む)である、請求項6記載の食品。
【請求項8】
マツタケ(T. matsutake)がFERM BP−7304株である、請求項6または7記載の食品。
【請求項9】
マツタケ(T. matsutake)がFERM BP−7304株の菌糸体の乾燥粉末である、請求項6〜8のいずれか1項に記載の食品。
【請求項10】
マツタケ抽出物が、FERM BP−7304株の菌糸体の熱水抽出液、アルカリ溶液抽出液、またはそれら抽出液の有機溶媒抽出液である、請求項6〜9のいずれか1項に記載の食品。

【公開番号】特開2007−320870(P2007−320870A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−150738(P2006−150738)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】