説明

皮膜形成方法、抗菌素材及び生産方法

【課題】 銅素材を利用して生じる抗菌作用の対象を広くするのに適した皮膜形成方法等を提案する。
【解決手段】 イミダゾール化合物を用いた銅素材の皮膜形成方法であって、銅素材の表面に凹凸を形成するエッチングステップと、凹凸が形成された銅素材に対して、イミダゾール化合物を用いて有機皮膜を形成するコーティングステップを含む。表面積が増加することにより、大腸菌などだけでなく、白癬菌に対しても抗菌作用が認められる。さらに、エッチングステップにおいて、貫通孔を形成することにより、白癬菌に対する抗菌作用を強化し、かつ、通気性なども確保することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膜形成方法、抗菌素材及び生産方法に関し、特に、イミダゾール化合物を用いた銅素材の皮膜形成方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、銅が、抗菌作用を有することは知られている。また、プリント基板において、銅表面を有機皮膜することも知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】福田,“鉛フリー対応水溶性プレフラックス”,表面技術,vol.59,No.9,2008,p.29-33
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、銅による抗菌作用は、銅自体がイオン化することにより生じるものである。そのため、耐食性が低く、コストが高くなる。さらに、その抗菌性は、黄色ブドウ球菌や大腸菌に対しては認められるものの、白癬菌に対しては、たとえ認められるとしても小さいものである。
【0005】
また、非特許文献1にあるように、プリント基板の技術分野において、防錆対策やはんだ濡れ性・はんだ付け性を高めるために、銅表面に有機皮膜を形成することは知られている。しかしながら、抗菌対策を目的として銅に有機皮膜を形成するものではなかった。
【0006】
そこで、本発明は、銅素材上の有機皮膜を利用して、銅素材そのものによる抗菌作用よりも広い対象に抗菌作用を及ぼすことに適した皮膜形成方法等を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明の第1の観点は、イミダゾール化合物を用いた銅素材の皮膜形成方法であって、前記銅素材の表面に凹凸を形成するエッチングステップと、前記凹凸が形成された銅素材に対して、前記イミダゾール化合物を用いて有機皮膜を形成するコーティングステップを含むものである。
【0008】
本願発明の第2の観点は、第1の観点において、前記エッチングステップにおいて、前記凹凸を形成して貫通孔を形成することにより、前記有機皮膜が形成された銅素材による白癬菌に対する抗菌作用を強化したことを特徴とするものである。
【0009】
本願発明の第3の観点は、エッチング処理により表面に凹凸が形成された銅素材を備えた抗菌素材であって、前記銅素材に対して、イミダゾール化合物を用いて有機皮膜が形成されることにより、白癬菌に対して抗菌作用を有するものである。
【0010】
本願発明の第4の観点は、イミダゾール化合物を用いた銅素材を備える抗菌素材を生成する生産方法であって、前記銅素材の表面に凹凸を形成するエッチングステップと、前記凹凸が形成された銅素材に対して、前記イミダゾール化合物を用いて有機皮膜を形成して、前記抗菌素材を生産するコーティングステップを含むものである。
【0011】
なお、本願において、「抗菌」は、殺菌・滅菌・消毒・除菌・静菌・サニタイズなどを意味する用語として使用する。
【0012】
また、本願発明を、第3の観点において、エッチング処理により表面に凹凸を形成して貫通孔が形成された銅素材を備えた抗菌素材(抗菌フィルター)としてとらえてもよい。
【0013】
さらに、本願発明を、第4の観点において、エッチングステップにおいて、前記銅素材の表面に凹凸を形成して、貫通孔を形成することを特徴とする抗菌素材(抗菌フィルター)の生産方法として捉えてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本願発明の各観点によれば、イミダゾール化合物を利用して銅素材に有機皮膜を形成することにより、抗菌作用の対象を、黄色ブドウ球菌や大腸菌などに加えて、白癬菌をも対象とすることができる。さらに、有機皮膜により銅自体がイオン化することを防ぎ、耐食性を高めることが可能になる。さらに、エッチング技術を利用して銅素材の表面に凹凸を形成して表面積を増加する(ハニカム処理を行う)ことにより、イミダゾール化合物による抗菌作用を、より強度なものとすることができる。
【0015】
すなわち、銅そのものが抗菌作用を有すること自体は、知られている。しかしながら、これは、銅のイオン化によるものであり、銅自体の性質によるものであった。そのため、耐食性に劣り、さらに、白癬菌には有効でなかった。
【0016】
イミダゾール化合物は、銅と同様、例えば黄色ブドウ球菌や大腸菌に対して抗菌作用を有する。さらに、白癬菌に対しても、抗菌作用を有し、例えば軟膏など直接塗布する形で商品化されている。
【0017】
発明者らは、イミダゾール化合物の抗菌作用をより容易な形で活用するために、自らの高度なエッチング技術と、さらに、イミダゾール化合物を用いて銅の有機皮膜を形成することが可能なことに着目して、本願発明をおこなった。本願発明には、例えば微細な凹凸を形成するような、高度なエッチング技術が不可欠である。本願発明は、このような高度なエッチング技術を有する発明者らならではの視点によるものである。例えば、非特許文献1に記載されているように、従来の銅表面の有機皮膜は、プリント基板等の技術分野におけるものである。そのため、非特許文献1等には、銅素材の表面に凹凸を形成することは、記載も示唆もされていない。
【0018】
さらに、本願発明の第2の観点にあるように、貫通孔を形成するという高度なエッチング処理を行うことにより、表面積を広げ、抗菌作用を強化することが可能になる。さらに、このようなフィルターを形成することにより、例えば、通気性を確保して、マスク用フィルター、インナーソール、ろ過フィルター、マット等に利用することができるようになる。そのため、本願発明の有効活用が、より容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】銅素材に対する皮膜形成処理について、本願発明と従来の技術とを比較する図である。
【図2】ドーケンコート処理を行った銅素材の表面の拡大図である。
【図3】皮膜形成処理について、オーガード処理及びドーケンコート処理がなされたものと、銅そのものとを比較する図である。
【図4】ハロー幅(発育阻止帯)の概要を示す図である。
【図5】標準サブロー培地による試験結果について、オーガード処理及びドーケンコート処理がなされたものと、銅そのものとの比較図である。
【図6】1/10希釈サブロー培地による試験結果について、オーガード処理及びドーケンコート処理がなされたものと、銅そのものとの比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、図面を参照して、本願発明の実施例について説明する。なお、本願発明は、この実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
図1は、銅素材に対する皮膜形成処理について、本願発明と従来の技術とを比較する図である。従来、無電解で、Ni-Pなどの金属皮膜を形成するには、脱脂及びエッチング処理を行い、酸で洗浄して、触媒を付与して活性化し、無電解Ni-P処理を行い、洗浄して乾燥するという工程で行っていた。この場合、膜厚は、例えば3〜10μm程度のものが形成されている。
【0022】
有機皮膜を形成する処理では、イミダゾール化合物と、銅板から溶出した銅イオンとが反応して生じた銅−イミダゾール錯体が、銅に沈着し、有機皮膜を形成する(以下、「オーガード処理」という。)。この場合、触媒の付与及び活性の工程は必要でない。形成される有機皮膜の膜厚は、およそ0.1〜0.5μmであり、金属皮膜に比較して薄い。
【0023】
本願発明の第1の例では、特殊なエッチング処理として、凹み深さ約30μm、径80μmの均一な凹凸を形成する処理を行う(以下、「ハニカム処理」という。)(本願発明の「エッチングステップ」における処理の一例)。その後、オーガード処理を行う(本願発明の「コーティングステップ」における処理の一例)。ハニカム処理は、銅素材表面の表面積を増やす。従来より、例えば、冷却性能を向上させるなどのために利用可能である。ハニカム処理は、表面積を増やすことから、オーガード処理のみと比較して、抗菌作用を増加させることが予想され、実際に、後に説明するように、すぐれた抗菌作用を示した。
【0024】
本願発明の第2の例では、例えばハニカム処理を継続して行うことなどにより、約80μmの貫通孔を形成する(本願発明の「エッチングステップ」における処理の一例)。その後、オーガード処理を行う(本願発明の「コーティングステップ」における処理の一例)。以下、「ドーケンコート処理」という。これにより、表面積がさらに増加し、かつ、通気性を確保することなどの効果がある。そのため、本願発明の第1の例と比較して、抗菌作用を増加させることが予想され、実際に、後に説明するように、すぐれた抗菌作用を示した。
【0025】
図2は、ドーケンコート処理を行った銅素材の表面を拡大したものである。このような特殊なエッチング処理を行うことにより、表面積が増加する。
【0026】
図3は、抗菌フィルター用評価試験を行ったものである。抗菌フィルター用評価試験として、ATP法を用いる。ATP法は、動物、植物、微生物(細菌)などには、必ずATP(アデノシン3リン酸)が含まれており、このATPを測定することにより、食品の残された汚れや微生物を検査・測定するものである。図3では、大腸菌(NBRC No.3972)と黄色ブドウ球菌(NBRC No.12732)に対して、抗菌率95%以上(24時間)を比較したものである。ドーケンコート処理は、銅の試験結果とほぼ同様の抗菌効果を示し、かつ、単なるオーガード処理と比較して、より高い抗菌作用を示している。また、黄色ブドウ球菌に対しては、銅及びオーガード処理はほぼ同じ抗菌率を示した。ドーケンコート処理も、抗菌効果は良好である。
【0027】
続いて、図4〜図6を参照して、白癬菌に対する抗菌作用について説明する。評価には、ハロー幅(発育阻止帯)測定法を用いる。図4は、その概要を示す図である。図4において、9cmシャーレに、サブロー寒天培地1を準備する。白癬菌は、NBRC No.32410の菌を用いる。白癬菌は、2日で発芽し、全面より発生する。その中に、3cmの評価サンプルを置く。7日又は14日経過後での発育阻止帯5の大きさにより、各評価サンプルの抗菌作用を評価する。すなわち、(ハロー直径T−サンプル幅S)/2をハロー幅Hとし、これを2方向で小数点1桁まで算出する。なお、培地は、評価サンプルの上にも存在する。白癬菌は、その部分にも塗られている。白癬菌が、評価サンプル上でも発芽するかについても評価している。
【0028】
図5は、標準サブロー培地による試験結果を示す。ドーケンコートA及びBは、それぞれ、評価サンプルが、異なるイミダゾールの液(すなわち、官能基が異なる)を用いてドーケンコート処理が行われた銅板である場合の試験結果を示す。オーガードA及びBは、それぞれ、ドーケンコートA及びBと同一の条件下で、評価サンプルが、単なるオーガード処理が行われた銅板である場合の試験結果を示す。さらに、銅板による試験結果を示す。
【0029】
銅板のみでは、白癬菌は2日で発芽し、4日で完全に覆われる。それに対し、単なるオーガード処理でも、一定の抗菌作用は認められた。さらに、ドーケンコート処理では、ドーケンコートAは、オーガードAよりも顕著な抗菌作用を示した。ドーケンコートBでも、少なくとも14日目では、オーガードBよりもすぐれた抗菌作用を示す。
【0030】
図6は、1/10に希釈したサブロー培地による試験結果を示す。図5と同様に、ドーケンコートA及びBは、それぞれ、評価サンプルが、異なるイミダゾールの液(すなわち、官能基が異なる)を用いてドーケンコート処理が行われた銅板である場合の試験結果を示す。オーガードA及びBは、それぞれ、ドーケンコートA及びBと同一の条件下で、評価サンプルが、単なるオーガード処理が行われた銅板である場合の試験結果を示す。さらに、銅板による試験結果を示す。
【0031】
銅板のみでは、同様に抗菌作用が認められない。ドーケンコートAは、オーガードAよりも顕著な抗菌作用を示した。ドーケンコートBでも、全体として、オーガードBよりも顕著な抗菌作用を示した。
【符号の説明】
【0032】
1 サブロー寒天培地、3 評価サンプル、5 発育阻止帯、H1,H2 ハロー幅、T1,T2 ハロー直径、S1,S2 サンプル幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イミダゾール化合物を用いた銅素材の皮膜形成方法であって、
前記銅素材の表面に凹凸を形成するエッチングステップと、
前記凹凸が形成された銅素材に対して、前記イミダゾール化合物を用いて有機皮膜を形成するコーティングステップを含む皮膜形成方法。
【請求項2】
前記エッチングステップにおいて、前記凹凸を形成して貫通孔を形成することにより、前記有機皮膜が形成された銅素材による白癬菌に対する抗菌作用を強化したことを特徴とする請求項1記載の皮膜処理方法。
【請求項3】
エッチング処理により表面に凹凸が形成された銅素材を備えた抗菌素材であって、
前記銅素材に対して、イミダゾール化合物を用いて有機皮膜が形成されることにより、白癬菌に対して抗菌作用を有する抗菌素材。
【請求項4】
イミダゾール化合物を用いた銅素材を備える抗菌素材を生成する生産方法であって、
前記銅素材の表面に凹凸を形成するエッチングステップと、
前記凹凸が形成された銅素材に対して、前記イミダゾール化合物を用いて有機皮膜を形成して、前記抗菌素材を生産するコーティングステップを含む生産方法。

【図1】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−87348(P2013−87348A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230881(P2011−230881)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(598062952)株式会社オジックテクノロジーズ (1)
【Fターム(参考)】