説明

皮革様シート及びその製造方法

【課題】一体感のある風合いおよび柔軟性を有するとともに、光沢むらのない高級な外観を有し、天然皮革に近い充実感を有する皮革様シート及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】基体層の少なくとも一面に、熱接着性樹脂層を介してポリウレタン不織布が溶融されてなる銀面層が積層されていることを特徴とする皮革様シート、及び該ポリウレタン不織布を構成するポリウレタン樹脂の軟化温度よりも20℃以上低い温度を有する熱接着性樹脂を基体層と該ポリウレタン不織布からなる層の間に存在させ、該熱接着性樹脂を軟化溶融させて基体層とポリウレタン不織布が溶融されてなる銀面層を積層一体化することを特徴とする皮革様シートの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が、その内部に微細孔が形成されているポリウレタン不織布の溶融層からなる表面層を有し、その表面層とその下に存在している基体層との間を、ランダムに分布する少量の接着性樹脂により融着することにより、一体感のある風合いおよび柔軟性を有するとともに、光沢むらのない高級な外観を有し、天然皮革に近い充実感を有する皮革様シートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、銀面を有する皮革様シートの製造方法に関して多くの提案がなされてきた。それらの提案の多くは、繊維質シートの一面に高分子弾性体からなる湿式凝固層あるいは乾式凝固層を付与し銀面を形成する方法である。また透気・透湿性を有する銀付調皮革様シートの製造方法についても多くの提案がなされてきた。それらの方法は、繊維質表面に、発泡剤、添加剤、凝固調節剤等を添加して、湿式凝固法又は乾式凝固法により形成された通気性多孔質層を積層する方法、あるいはレーザー光線等により表面の銀面層に穴をあける方法等である。
【0003】
天然皮革調の外観を有し、さらに透気・透湿性を有する皮革様シートの製造方法として、高分子弾性体を含有する繊維質シートの表面を熱溶融する方法や、表面に繊維又は弾性体の溶剤を付与して、該シートの表面を構成する繊維或いは高分子弾性体を溶かして表面を平滑化し、銀面を形成する方法も提案されている(例えば特許文献1〜3参照)。更に繊維絡合体の表面に極細繊維立毛面を形成し、繊維の溶剤或いは膨潤剤を付与し熱プレスで繊維を接合して表面を平滑化し、さらにその表面に高分子弾性体の被覆層を設ける皮革様シートの製造方法も知られている。また、特許文献4には、ポリウレタンの不織布を基布に直接融着させながら造面する方法が提案されている。
更に、特許文献5には、基材層の上にホットメルト不織布層を積層し、この上に着色層を設けることでボリューム感および通気性に優れた皮革様シートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭48−535号公報
【特許文献2】特公昭48−536号公報
【特許文献3】特公昭48−537号公報
【特許文献4】特開平10−8382号公報
【特許文献5】特開2008−63674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来から提案されている方法のように、繊維層の表面に発泡剤、添加剤、凝固調節剤等を添加して湿式凝固法又は乾式凝固法により形成された通気性多孔質層を積層する方法で得られるシートは、透気性の点で満足できるものではない。また、この方法の場合には、銀面はゴム反発感が強いことや表面の折れシワ形態が悪い等の問題もある。表面の被覆層にレーザー等により穴をあける方法の場合には、透気性については満足できるものの外観が高級感に欠ける。
また、特許文献1〜3等のように、繊維質シートを構成する繊維および高分子弾性体を熱溶融あるいは溶剤等により溶解して平滑化し銀面を形成する方法の場合には、透気・透湿性に関しては満足できるものの、表面が硬くなり、天然皮革に近い充実感に欠け、かつ外観の光沢むらが発生し高級感に欠けるものとなる。
更に、特許文献4のように、ポリウレタンの不織布を基布に直接溶融させながら造面する方法では、製造の際の造面速度を遅くすることにより、光沢むらのない高級な外観を達成し、通気性も良好な皮革様シートが得られるものの、ポリウレタン不織布を熱で融かしながら基布に接着するため、融けたポリウレタン不織布が必ずしも基布に接着せず、熱エンボスロール等の接着装置の方へ融着しやすく、安定性に欠けるうえ、十分な接着性を発現させるために高温、かつ/又は高圧で融着させることが必要であり、この影響で光沢むらが発生しやすく、通気性も測定サンプルの採取位置によりばらつきがあった。更に、基体層のポリウレタン含率が低い場合には、更にこの現象は顕著になり、より好ましくない。
また、特許文献5のようにホットメルト不織布層を積層する場合においても、同様に熱溶融したホットメルト不織布が、基布に融着する場合に、同時にこれが基布に融着させる装置(熱エンボス装置等)にも融着しやすく、安定して製造することが難しい。
更に、ホットメルト不織布は、通常繊維径が太く地合が不均一であるため、この層を厚くしないと十分な銀面の平滑感・高級感が得られず、一方、十分な平滑感を得るためにこの層の目付を上げ、厚くした場合には、得られた銀付調皮革様シートは、風合いの硬いものとなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、高級感のある外観と、天然皮革に近い充実感を有する皮革様シートについて鋭意検討を行った結果、繊維絡合不織布及びその内部に含有された高分子弾性体からなる基体層の少なくとも一面に、ポリウレタン不織布を、熱接着性樹脂により熱融着させ基体層と積層一体化することで上記課題が解決されることを見出した。
すなわち、本発明は、
(1)繊維絡合不織布を有する基体層の少なくとも一面に、熱接着性樹脂層を介してポリウレタン不織布が溶融されてなる銀面層が積層され、かつ、該基体層と該ポリウレタン不織布からなる銀面層との剥離強度が30N/2.5cm以上であることを特徴とする皮革様シート、
(2)ポリウレタン不織布が15〜125g/m2の目付からなる前記(1)に記載の皮革様シート、
(3)熱接着性樹脂が湿気硬化型ホットメルトポリウレタンからなる前記(1)又は(2)に記載の皮革様シート、
(4)熱接着性樹脂層が目付3〜40g/m2の熱接着シートである前記(1)〜(3)のいずれか1に記載の皮革様シート、
(5)熱接着シートがポリウレタン連続繊維不織布からなる前記(4)に記載の皮革様シート、
(6)基体層が、極細長繊維不織布と、その内部にポリウレタン樹脂が0〜20質量%含有されてなる前記(1)〜(5)のいずれか1に記載の皮革様シート、
(7)基体層とその少なくとも一面に、ポリウレタン不織布を積層一体化して得られる皮革様シートの製造方法であって、該ポリウレタン不織布を構成するポリウレタン樹脂の軟化温度よりも20℃以上低い軟化温度を有する熱接着性樹脂を基体層と該ポリウレタン不織布からなる層の間に存在させ、該熱接着性樹脂を軟化溶融させて基体層とポリウレタン不織布からなる層を積層一体化することを特徴とする皮革様シートの製造方法、及び
(8)熱接着性樹脂の軟化温度近傍で仮積層した後、ポリウレタン不織布の軟化温度以上の温度で積層一体化する前記(7)に記載の皮革様シートの製造方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明で得られる皮革様シートは、表面がポリウレタン不織布の融着層からなる銀面からなり、銀面とその下の基体層との間で一体感のある風合を有し、実用上十分な剥離強度を有する皮革様シートである。更には、透気性、透湿性に優れ特に光沢むらのない極めて優れた外観を有する皮革様シートである。従って、本発明の皮革様シートは、特に銀付調皮革様シートとして、紳士靴、スポーツシューズ、一般靴等に利用できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳述する。本発明は、繊維絡合不織布を有する基体層の少なくとも一面に、熱接着性樹脂層を介してポリウレタン不織布が溶融されてなる銀面層が積層され、かつ、該基体層と該ポリウレタン不織布からなる銀面層との剥離強度が30N/2.5cm以上である皮革様シートである。
【0009】
(基体層の繊維絡合不織布)
本発明を構成する基体層の繊維絡合不織布(以下、「ウェブ絡合シート」ということがある。)を構成する繊維としては、例えば、得られる皮革様シートの柔軟性の観点から、少なくとも2種類のポリマーからなる極細繊維発生型繊維等が挙げられる。極細繊維発生型繊維とは、海成分が、水、溶剤又は水酸化ナトリウム等の分解剤により溶解又は分解することで島成分にフィブリル化する、断面が海島構造を有する抽出型繊維、或いは機械的に又は処理剤によって各ポリマーからなる極細繊維にフィブリル化する分割型繊維等を総称したものである。特に柔軟性を要求されない場合は、もちろん通常の太さの繊維からなるものであってもよいし、更に上記極細繊維発生型繊維と通常繊維とを混合使用したものでもよい。
【0010】
基体層の繊維絡合不織布に用いられる極細繊維を構成するポリマーとしては、例えば6−ナイロン、66−ナイロンをはじめとする溶融紡糸可能なポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンフタレート、イソフタル酸変性ポリエステル、カチオン可染型変性ポリエチレンテレフタレートをはじめとする溶融紡糸可能なポリエステル類、ポリプロピレンで代表されるポリオレフィン類などから選ばれた少なくとも1種類のポリマーが挙げられる。また、抽出型繊維で抽出又は分解除去される成分としては、極細繊維成分と水、溶剤又は分解剤に対する溶解性又は分解性を異にし、水や特定の溶剤又は分解剤に対する溶解性又は分解性が極細繊維成分に比べて高いポリマーであり、かつ紡糸条件下で極細繊維成分より溶融粘度が小さいかあるいは表面張力が小さいポリマーであり、例えばポリビニルアルコール、オレフィン変性ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンプロピレン共重合体、変性ポリエステルなどのポリマーから選ばれた少なくとも1種類のポリマーである。この極細繊維発生型繊維の海成分と島成分の容量比は1:2〜2:1であって、海成分を抽出した後の好適な繊度としては、風合いや充実感の点で0.01〜0.0001dtexの範囲が良い。
【0011】
(繊維絡合不織布の製造及び形態安定化)
極細繊維発生型繊維は、20〜75mm長の短繊維として採取した後にカード法により短繊維ウェッブとした後、あるいはスパンボンド法のような直接法により紡糸と同時に長繊維ウェッブとした後、ニードルパンチや高速流体により絡合処理して繊維絡合不織布とする。次にこの繊維絡合不織布において、その柔軟性を可能な限り保った状態で必要な強度および安定性を確保することが必要であるが、その方法としては、柔軟性を保ったまま繊維を固定するように高分子弾性体溶液が含浸されてもよいし、後に述べるように不織布の収縮による繊維交絡を十分に促進することで必要な強度および安定性を確保できるのであれば、必ずしも高分子弾性体溶液を含浸する必要は無い。
【0012】
高分子弾性体溶液を含浸する場合には含浸処理に先立って、必要に応じて繊維絡合不織布を熱プレスなどの方法により表面平滑化処理を行ってもよい。またその後に行われる高分子弾性体液の含浸・凝固や繊維構成ポリマーの抽出処理の際に生じやすい繊維絡合不織布の形状破壊を防ぐために繊維絡合不織布表面を加熱プレスして、構成繊維間を一部融着させる方法や、あるいはポリビニルアルコールで代表される水溶性樹脂を繊維絡合不織布に含浸させて繊維間を糊付け固定する方法を用いても良い。更には、変性ポリエステルのように容易に熱収縮可能な樹脂を繊維成分として用いた場合には、熱水等により熱収縮を発現させることでより強固な繊維交絡を有する高繊維密度不織布とすることが可能である。このようにして形成される繊維絡合不織布の厚さとしては、1.0〜3.0mmが好ましい。
【0013】
繊維絡合不織布を熱収縮させることにより、繊維絡合不織布の繊維密度および絡合度合を向上させ得るのは、繊維絡合不織布の繊維同士がお互いに拘束し合うためであり、その結果シートの形態安定性を向上させることが出来るとともに皮革様シートに仕上げたときに充実感を発現し、より天然皮革に近いものとすることが出来る。
なお、この熱収縮工程において、長繊維を含有する繊維絡合不織布を熱収縮させ場合には、短繊維を含有する繊維絡合不織布を熱収縮させる場合に比べて、繊維絡合不織布を大きく収縮させることができ、そのために、極細単繊維の繊維密度が特に高くなる。熱収縮処理条件は、十分な収縮が得られる温度であれば特に限定されず、採用する収縮処理方法や処理対象物の処理量などに応じて適宜設定すればよい。例えば温水中へ導入して収縮処理する場合には、70〜150℃の温度範囲における何れかの温度で収縮処理するのが好ましい。
また、乾熱収縮も好ましく採用されるが、湿熱収縮処理がより好ましく、湿熱収縮処理方法としては、スチーム加熱により行うことが好ましい。スチーム加熱条件としては、雰囲気温度が60〜100℃の範囲で、相対湿度40〜100%RH、より好ましくは70〜100%RHの条件で、60〜600秒間加熱処理することが好ましい。このような加熱条件の場合には、繊維絡合不織布を高収縮率で収縮させることができるので好ましい。なお、海島型複合繊維の構成成分としてポリビニルアルコール系樹脂を用いた場合、相対湿度が低すぎる場合には、繊維に接触した水分が速やかに乾燥することにより、収縮が不充分になる傾向がある。
このように湿熱収縮処理された繊維絡合不織布は、極細繊維発生型繊維の熱変形温度以上の温度で加熱ロールや加熱プレスすることにより、さらに、繊維密度を高めてもよい。
【0014】
十分な繊維交絡を確保し、高い繊維密度を確保することで十分な形態安定性を発現させることで、後に高分子弾性体を付与することなく本発明の皮革様シートの基体層として使用可能になり、その結果皮革様シートに仕上げたときに充実感を発現し、より天然皮革に近いものに出来る。
そして、高い繊維密度を確保することで、高分子弾性体の付与が低下することに伴い、ポリウレタン不織布と基体層を構成する繊維絡合不織布との接着性が低下する。しかしながら、本発明では、高い繊維密度を確保可能な長繊維絡合不織布からなる基体層であっても、熱接着性樹脂層を介するによってポリウレタン不織布との接着性を高めることが可能である。特に、繊維絡合不織布の厚さ方向と平行任意の断面において、極細長繊維束の断面が1500〜3000個/mm2の範囲で存在している程度に緻密な構造や、繊維絡合不織布の厚さ方向と平行任意の断面において、極細繊維束間の空隙サイズが70μm以下である場合、或は、少なくとも繊維絡合不織布の厚さ方向と平行任意の断面において、極細繊維束間の平均空隙サイズが10〜40μmの範囲にある緻密な繊維構造からなる皮革様シート用基体において特に顕著な効果が得られる。
湿熱収縮処理工程における繊維絡合不織布の目付量の変化としては、収縮処理前の目付量に比べて、1.1倍(質量比)以上、さらには、1.3倍以上で、2.0倍以下、さらには1.6倍以下であることが好ましい。
【0015】
(繊維絡合不織布への高分子弾性体の含浸)
また、繊維絡合不織布の形態安定性を高める目的で、繊維絡合不織布の極細繊維化処理を行う前及び/又は後に、必要に応じて、高分子弾性体液を含浸し、高分子弾性体の非溶剤を含む液に浸漬して湿式凝固することで緻密な発泡スポンジを形成させてもよい。あるいは、高分子弾性体の水性液を繊維絡合不織布に含浸させた後に感熱ゲル化させて乾式凝固させることによって、形態安定性を向上させてもよい。
【0016】
繊維絡合不織布に高分子弾性体を含浸させる方法としては、高分子弾性体の溶液又は分散液を含浸し、従来公知の乾式法又は湿式法により凝固させる方法が挙げられる。含浸方法としては、繊維絡合不織布を高分子弾性体の溶液又は分散液で満たされた浴中へ浸した後、プレスロール等で所定の含浸状態になるように絞るという処理を1回又は複数回行うディップニップ法が好ましく用いられる。また、その他の方法として、バーコーティング法、ナイフコーティング法、ロールコーティング法、コンマコーティング法、スプレーコーティング法等を用いてもよい。
【0017】
本実施形態における高分子弾性体の具体例としては、例えば、ポリウレタンエラストマー、アクリロニトリルエラストマー、オレフィンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、アクリルエラストマー等が挙げられる。またこれらを混合した重合体組成物でもよい。しかし、柔軟性、弾性回復性、スポンジ形成性等よりポリウレタンが好ましく用いられる。
ここで含浸する高分子弾性体としては、例えば、平均分子量500〜3000のポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオールあるいはポリエステルポリエーテルジオール等から選ばれた少なくとも1種類のポリマージオールと4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの芳香族系、脂環族系或いは脂肪族系のジイソシアネートなどから選ばれた少なくとも1種類のジイソシアネート化合物と、2個以上の活性水素原子を有する少なくとも1種類の低分子化合物で分子量300以下の化合物、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ヘキサンジオール、3−メチルペンタンジオール−1,5、1,4−シクロヘキサンジオール、キシレングリコール等のジオール類、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン等のジアミン化合物、アジピン酸ヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のヒドラジン或いはヒドラジド類等から選ばれた少なくとも1種類とを反応させて得たポリウレタンである。
【0018】
特に本発明の目的を達成する上では、好ましくは、1,4−ブタンジオール又は3−メチルペンタンジオール−1,5を主体とした鎖伸長剤を所定のモル比で反応させて得たポリウレタンである。
なお、高分子弾性体液中の高分子弾性体濃度は10〜50質量%、ヤング率は10〜150N/mm2の範囲が好ましい。また上記ポリウレタンとしてポリマージオールと上記低分子化合物のモル比が1:1〜1:7の範囲が好ましい。
【0019】
繊維絡合不織布に高分子弾性体を含有させた後に、高分子弾性体及び極細繊維発生型繊維の島成分に対しては非溶剤でかつ海成分に対しては、溶剤又は分解剤として働く液体で処理する事により極細繊維発生型繊維を極細繊維束に変成し、極細繊維絡合不織布と高分子弾性体からなるシートとし、これを本発明の皮革様シートの基体層として用いる。もちろん、高分子弾性体を含有させるのに先立って、極細繊維発生型繊維を極細繊維束に変成する方法を用いてシートとしたものを基体層とすることもできる。
そして、このように高分子弾性体を含有させる場合において、極細繊維絡合不織布に対するその含有割合は本発明の皮革様シートとしての目的を達するものであれば特に限定されるものではないが、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、最も好ましくは天然皮革並の充実感ある風合いと剥離強力を兼ね備える点で15質量%以下である。弾性体含有割合が50質量%を超えると得られる皮革様シートが硬くなりやすいため好ましくない。
【0020】
(ポリウレタン不織布からなる層)
本発明において、基体層の少なくとも一面に熱接着性樹脂を介して積層されるポリウレタン不織布からなる層は、表面層(以下、「銀面層」ということがある。)を構成するもので、ポリウレタン樹脂からなり、その目付は、15〜125g/m2で、当該ポリウレタン不織布は、加熱加圧されてフィルム化され、銀面層を形成するものである。このフィルム化された層、すなわち銀面層は、微細な孔を保っていることが好ましい。このような微細な孔を保つためには、ポリウレタン不織布からなる層を極細ポリウレタン繊維からなる不織布で構成することが好ましい。このような極細ポリウレタン繊維からなる不織布で構成することによって、前記した本発明の優れた性能の基本的部分が得られる。
【0021】
本発明のポリウレタン不織布を構成するポリウレタン成分としては、低分子ジオール、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチルペンタンジオール−1,5等から選ばれた少なくとも1種類との縮合重合によって得たポリエステルジオール、ポリエチレンエーテルグリコール、ポリプロピレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレングリコール等のポリエーテルグリコール、ポリカプロラクトングリコール、ポリバレロラクトングリコール等のポリラクトングリコールから選ばれた少なくとも1種類のポリマージオールであって、平均分子量が500〜3000のポリマージオールをソフトセグメントとするポリウレタンである。とりわけ3−メチルペンタンジオール−1,5を主体としたジオールとジカルボン酸との縮合重合によって得た平均分子量700〜3000のポリエステルジオールを用いたポリウレタンが、溶融成形性、溶剤安定性、耐加水分解性、耐候性、柔軟性、耐屈曲性などの点で適しており、特に直径300μm以下の微細孔を100個/cm2以上有し、かつ少なくとも一部の微細孔にはポリウレタン繊維の橋架け構造が存在しているような銀面層を形成させやすい点で好ましい。
【0022】
また、ポリマージオールと反応させる有機ジイシシアネートとしては、例えば4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシレンジイソシアネート等の脂肪族又は脂環族ジイソシアネート等から選ばれた少なくとも1種類、又は溶融紡糸性或いは溶融成形性を阻害しない範囲内で有機トリイソシアネート等のイソシアネート基を3個以上有する有機ポリイソシアネートを併用しても良い。
【0023】
そして鎖伸長剤としては、活性水素原子2個有する分子量300以下の化合物、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ヘキサンジオール、3−メチルペンタンジオール−1,5、1,4−シクロヘキサンジオール、キシレングリコール等のジオール類、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン等のジアミン類、アジピン酸ヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のヒドラジン或いはヒドラジド類等から選ばれた少なくとも1種類が挙げられる。特に好ましくは、1,4−ブタンジオール又は3−メチルペンタンジオール−1,5を主体とした鎖伸長剤を用いたポリウレタンである。なお、該ポリマージオールと鎖伸長剤とのモル比は不織布の物性によって自由に変えることができるが、好ましくは1:2〜7程度である。
【0024】
本発明の皮革様シートの表面層を形成するポリウレタン不織布からなる層の目付が15g/m2未満である場合には、基体層との接着時に、後に述べる熱接着性樹脂を溶融させて基体層と極細繊維ポリウレタン不織布からなる層を接着する際に、溶融した熱接着性樹脂が極細繊維ポリウレタン不織布からなる層の繊維空隙を透過して表面に流出することで表面がざらついた触感の悪い銀面を形成する、あるいは銀面の平滑感等の外観が低下してしまう。一方、125g/m2を超える場合には、熱接着性樹脂への加熱が十分で無い場合があり、また銀面層と基体層のバランスが低下することで風合いが低下する傾向にある。さらには熱融着後に、微細孔の径が小さくなる、あるいは微細孔が塞がり、通気性が低下する傾向があるため好ましくない。極細ポリウレタン繊維から成る不織布は、通常の紡糸方法により製造されたポリウレタン繊維を絡合して不織布とする方法、また紡糸と同時に不織布とする方法、例えばスパンボンド法やメルトブローン法等の方法により製造されるものでも良い。特にメルトブローン法を用いて得られる不織布は構成繊維が細く、いわゆる極細繊維と呼称できる範囲であり、かつ、繊維方向がランダムであること等の理由により高級感のある、より天然皮革に近い銀面層が形成されるため好ましい。
なお、本発明において、極細ポリウレタン繊維とは、単繊維の平均繊維径が10μm以下のものをいう。
ここで、単繊維の平均繊維径とは、電子顕微鏡写真により極細ポリウレタン繊維不織布の表面を観察し、任意10箇所の繊維径を測定した平均値とする。
【0025】
(熱接着性樹脂層)
次に本発明の皮革様シートの該基体層とポリウレタン不織布からなる層を熱融着するために用いる熱接着性樹脂は、一度溶融し、固化する際に両層を接着する能力を有する熱可塑性樹脂であればよく、一般に熱接着性樹脂と呼ばれる樹脂であることが好ましい。より好ましくは融点80〜160℃程度の熱接着性樹脂であれば樹脂種等で特に限定されるものではない。例えば、酢酸ビニル系、ポリビニルアルコール系、ポリビニルアセタール系、塩化ビニル系、アクリル系、ポリオレフィン系(ポリエチレン系)、ポリエステル系、ポリアミド系(ナイロン系)、ポリスチレン系、ポリウレタン系の各種熱可塑性、あるいは尿素系、メラミン系、フェノール系、レゾシノール系、エポキシ系、ポリエステル系、ポリウレタン系の架橋タイプ樹脂いずれもが使用可能である。また、より強固な接着を発現させたい場合は、架橋タイプの樹脂を用いても良い。
【0026】
そしてこれら熱接着性樹脂は、基体層およびポリウレタン不織布からなる層との接着において、その接着強度と接着後の柔軟性を良好に保持するために、接着時に適度にその両者に浸透することが好ましい。そのため、本発明で使用する熱接着性樹脂は、その溶融時の流動性において所定の範囲にあることが好ましい。すなわち、樹脂の溶融流動性(MFR:melt flow rate)において、その値が1〜200の範囲にあることが好ましい。この値が低すぎると、接着時に樹脂が流れやすくするように、より高温での接着が必要になり基体層やポリウレタン不織布からなる層を熱で劣化させてしまう可能性がある。
逆に流動性が高すぎると基体層あるいはポリウレタン不織布からなる層の繊維空隙に容易に流れ込んでしまうため、多量の接着剤を塗布することが必要になり、できた積層体としての皮革様シートが硬くなるとともに繊維の目を詰めてしまうため、通気性および透湿性を確保することも困難になる。
本発明において、ポリウレタン不織布からなる層(銀面)と基体層との剥離強度が、後述の測定方法において、30N/2.5cm以上でなければならない。剥離強度が30N/2.5cmであれば、銀付調皮革様シートとしての実用に際して、表面のポリウレタン不織布層、すなわち銀面層が基体層から剥離する不具合を殆んど回避できる。そして、50N/2.5cm以上であることが紳士靴用途に好適であることから好ましく、100N/2.5cm以上であることが過酷な条件に適応可能なスポーツ靴用途等に好適であることから好ましい。
【0027】
本発明の熱接着性樹脂としては、表面のポリウレタン不織布および基体層を形成する繊維や或いは樹脂が含まれている場合にはこの樹脂との親和性があればよく、より広範な種々の樹脂との接着性を有するウレタン系熱接着性樹脂が好ましい。
さらには湿気硬化型ポリウレタン樹脂のような架橋タイプであれば高い耐熱性をも発現可能であるため、より好ましい。該ポリウレタン樹脂を構成する成分としては、上記したポリウレタン繊維を構成する成分と同じ物を用いることができるが、各構成成分の平均分子量を変えたり、平均重合度を低下させる、あるいはポリウレタン繊維を構成する成分と異なる成分を選択することにより、該ポリウレタン不織布を構成するポリウレタン樹脂よりも、軟化点が20℃以上低い樹脂を選択する。
【0028】
これら接着性樹脂を基体層とポリウレタン不織布層との間に供給する方法あるいは形態は、熱接着性樹脂を何れかの層に均一に分布できれば特に限定されない。例えばパウダー状の樹脂を散布してもよいし、液状の熱接着性樹脂或いは溶剤に溶解した熱接着性樹脂をグラビア等で塗布してもよいし、或いは該熱接着性樹脂をフィルム状や不織布状に展開して形成された、目付3〜40g/m2の熱接着シートを積層してもよい。積層後の皮革様シートにおいて、より高レベルの柔軟性や通気性、そして透湿性を確保するためには、不織布状に展開したポリウレタン連続繊維不織布タイプがより好ましい。熱接着樹脂層の目付は、3〜40g/m2であれば、基体層とポリウレタン不織布層との剥離強度を所定の範囲に維持し、柔軟性、及び通気性・透湿性を確保できる。
【0029】
更に、熱接着性樹脂層として熱接着性樹脂の連続線状体からなる不織布、いわゆるポリウレタン連続繊維不織布を用いる場合は、繊維空隙が少なく、より緻密で均一な構造を有していることが好ましい。本発明では、この少ない空隙および均一性を示すファクターとして通気度および平均繊維径を用いると、フラジール法で100〜600cm3/cm2/sec、平均繊維径が10〜100μmの範囲であることが好ましい。
【0030】
これら熱接着性樹脂の連続線状体からなる不織布、いわゆるポリウレタン連続繊維不織布は、前述の通り、5〜40g/m2の目付を有していることが好ましい。この目付が5g/m2未満では、表面のポリウレタン不織布からなる層と基体層とを十分な接着力で均一に接着することが困難であるため好ましくない。また、40g/m2以上では、十分な接着力を確保できる一方で、接着後の風合が硬くなりすぎ、高級感のない風合となってしまうため好ましくない。
【0031】
熱接着性樹脂のポリウレタン連続繊維不織布は、通常の紡糸方法により製造されたポリウレタン繊維を絡合して不織布とする方法、または、紡糸と同時に不織布とする方法、例えばスパンボンド法やメルトブローン法等の方法により製造されるもの等いずれのものでも良い。特にメルトブローン法を用いて得られる不織布は構成繊維が細くて、繊維方向がランダム、繊維径が一定でなくある程度の分布を有するものであること等の理由により、これを熱接着樹脂層とすれば、高級感のある銀面層が形成されるため好ましい。
【0032】
(皮革様シートの製造方法)
熱接着性樹脂を用いて、ポリウレタン不織布からなる層と基体層を接着し、積層一体化する本発明の皮革様シートの製造方法は、接着して得られる皮革様シートに十分な柔軟性を確保し、より天然皮革に近い感性を発現させることが可能である。さらに、天然皮革並みの充実感、柔軟性そして通気透湿性を確保し天然皮革並の感性を付与するための方法として、基体層に含有される高分子弾性体を少なくする方法を選択した場合に、このような基体層に対して柔軟性を確保した状態で、必要十分な接着強度で、ポリウレタン不織布からなる銀面層を形成するのに特に有効である。
【0033】
本発明における基体層とポリウレタン不織布層とを一体化する方法においては、両者の間に、既に述べたような方法で熱接着性樹脂層を配した上で熱接着することが出来る方法であれば特に限定されるものではない。しかしながら、より容易かつ安定にこれら3層を一体化すると共に、柔軟性を確保した上で均一かつ強固に積層する方法としては、連続線状に展開された熱接着性樹脂からなる不織布、いわゆるポリウレタン連続繊維不織布を用いる方法が、ポリウレタン不織布層のランダムな表面凹凸と連続線状に展開された熱接着性樹脂からなる不織布のランダムな表面凹凸が互いに噛み合って接着するのでそれら不織布を加熱圧着したときに接着力が向上する点で好ましい。
そして積層の順番においても、前述のごとく、熱接着性樹脂のポリウレタン連続繊維不織布を中央に配して熱及び圧力を加えて3層同時に接着してもよく、熱接着性樹脂のポリウレタン連続繊維不織布を、銀面層を構成するポリウレタン不織布からなる層に接着した後で基体層に接着してもよく、逆に熱接着性樹脂のポリウレタン連続繊維不織布を基体層に接着した後で、銀面層を構成するポリウレタン不織布からなる層に接着一体化してもよい。
【0034】
ここで、これら3層を積層する方法としては、中央の熱接着性樹脂の連続線状体からなる不織布が局所的に偏在するようなことなく、その形態を概ね保った状態で概ね均一に展開するような状態で接着できる方法であれば、特に限定されない。
具体的には、熱エンボスによる加熱プレスが好ましく用いられる。この場合、プレス温度、圧力に関しては特に限定されるものではないが、中央の熱接着性樹脂の連続線状体からなる不織布が均一に十分融けて3層の接着に効率よく寄与することが必要であるので、フラットあるいは細かく浅いシボ(梨地等)のロールを用いることが好ましい。
この時、少なくとも表面層(銀面層)となるポリウレタン不織布からなる層の側が熱エンボスロール側に来るように配することが必要である。そして該熱接着性樹脂の連続線状体の軟化点から0〜50℃高い温度で、圧力0.1〜1MPaで加熱加圧することで積層することが好ましい。
【0035】
一方、熱接着性樹脂の連続線状体からなる不織布をポリウレタン不織布あるいは基体層に先に接着し2層化した後で3層接着する場合の、最初の2層化の方法は、接着状態で熱接着性樹脂のポリウレタン連続繊維不織布の形態を有する状態で接着が行われておれば特に限定されないが、好ましくは表面層(銀面層)となるポリウレタン不織布からなる層又は基体層の上に、熱接着性樹脂を溶融し、これらの表面に熱を持った溶融あるいは半溶融状態の連続線状体を形成しながら接触展開し接着する方法、すなわちホットメルトスプレー法、あるいはメルトブロー法などが挙げられる。特に、メルトブロー法は、その線状体を吹き付ける熱風の力が強いため、線状体を十分に細い繊維で形成し、より均一に展開可能であるため特に好ましい。
【0036】
このようにして一体化された積層体は、更に表面層(銀面層)となるポリウレタン不織布の軟化温度以上の温度で積層一体化処理する、例えば、高温・高圧で熱処理することで、表面のポリウレタン不織布をフィルム化させ、スムースな銀面に仕上げることができるのである。
更に、この積層一体化処理は、熱接着性樹脂のポリウレタン連続繊維不織布を構成する熱接着性樹脂を、基体層および極細ポリウレタン不織布からなる層に浸透させるとともに十分な接着力を発現させるのにも有効である。
【0037】
これらを達成するための方法としては、熱エンボス法が好ましく用いられる。
このときのプレス温度、圧力は特に限定されるものではないが、通常、該熱接着性樹脂のポリウレタン連続繊維不織布を構成する樹脂の軟化点より0〜80℃高い温度で、かつ/又は圧力1〜10MPaで積層一体化することが好ましい。軟化点に対して低い温度で接着すると銀面層が形成されないか、あるいは銀面の外観不良が起こり、接着性不良も起こる場合がある。一方、軟化点から80℃を超える高い温度では、熱接着性樹脂のポリウレタン連続繊維不織布の微細孔がつぶれすぎて、通気性不良になる場合がある。あるいは、ポリウレタン不織布を構成する樹脂の流動性が上がりすぎて、熱エンボスロールに付着したり、基体層に流れ込むことで表面平滑性を確保できなくなる。
次に積層(貼り合せ)の圧力としては、1MPaより低い圧力で積層すると接着性不良となる場合があり、10MPaより高い圧力では風合が硬くなる傾向がある。なお、本発明において、軟化点は、融点測定装置(YANACO MP−500V)を用いて、目視にて溶融し始めたと判断した温度をその樹脂の軟化点とした。
【0038】
こうして得られた表面層(銀面層)は、直径300μm以下の微細孔を100個/cm2以上有していることが好ましい。ポリウレタン不織布は、加熱・加圧によりフィルム化するが、フィルムには微細孔が残存している。微細孔の直径が300μmを超えると光沢むらを起こし外観が悪化するため、300μm以下であることが必要であり、好ましくは100μm以下である。また、微細孔の存在個数は100個/cm2以上、好ましくは300個/cm2以上であり、この個数を満足することにより通気度が向上する。なお、本発明において、少量ならば直径300μmを超える気孔が存在しても良い。微細孔直径とは、孔の表面積と同一の面積を有する円の直径と定義する。
【0039】
更に、少なくとも一部の微細孔にはポリウレタン繊維の橋架け構造が存在していることが好ましい。橋架け構造となっているものの割合は特に限定されないが、全微細孔の1割以上であれば光沢むらを解消する傾向にある。好ましくは3割以上を橋架け構造とする。本発明で言う橋架け構造を持った微細孔とは、シートの表面を任意に選び出し電子顕微鏡写真を観察し、微細孔内部に繊維直径3μm以上の繊維が1本以上橋架け状態、すなわち弦のような状態で存在しているものである。ポリウレタン繊維の橋架け構造を有していることが光沢むらを解消する上で、なぜ効果的であるかについては必ずしも明確ではないが、微細孔に入射した光が反射するに際して橋架け繊維によって遮られて、微細孔から出射し難くなるか、あるいは拡散されるためと予測される。
【0040】
また、ポリウレタン不織布からなる層から形成された層、すなわち銀面層の厚みは、10〜500μmが好ましい。10μmより薄い場合には、銀面層の耐摩耗性が実用上十分でなく、500μmより厚い場合には自然な折れシボが得られず、高級感を損ねる。ここで言う銀面層の厚さとは電子顕微鏡写真により求められる厚さの平均である。
【0041】
本発明の製造方法において、接着に用いる熱接着性樹脂の連続線状体の軟化点が、ポリウレタン不織布を構成するポリウレタンの軟化点より、少なくとも20℃以上低いことが必要である。該皮革様シートの積層貼り合せは、熱融着することにより、熱接着性樹脂のポリウレタン連続繊維不織布の融着固定状態から、これに加え表面層(銀面層)となるポリウレタン不織布の繊維が追加的に融着し、接着面積が大きくなり、その結果として接着力が向上する、その際、接着力の発現は、通気性の低下を抑えるために、表面のポリウレタン不織布の熱融着は、高級感のある銀面層が得られるのに必要な程度に抑えており、主として接着に用いる熱接着性樹脂のポリウレタン連続繊維不織布に基づいている。したがって、軟化点の差が20℃未満或いは接着用樹脂の軟化点の方が高い場合、接着強度が低下し、場合によっては積層物の一体感が損なわれ、あるいはポリウレタン不織布の微細孔が塞がり、通気性が低下する。
【0042】
このようにして得られた皮革様シートは、着色等の後加工を行うことが出来る。着色に関しては、もちろん皮革様シートを構成する成分に染料や顔料を予め添加しておくことも出来る。着色を後加工で行う場合、ジメチルホルムアミドを10質量%未満の量で含む溶剤、樹脂及び着色剤からなる着色剤溶液組成にて着色することができる。それに対し、ジメチルホルムアミドを10質量%以上にすると表面の微細孔がつぶれ透気性が損なわれてしまう。次いで必要に応じて公知の方法によってエンボス型押し、染色、柔軟処理、モミ処理等の仕上処理を行って、銀付調皮革様シートに仕上げることができる。
【実施例】
【0043】
次に、本発明の実施態様を具体的な実施例で説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部及び%は断りのない限り、質量に関するものである。
また、ポリウレタン不織布からなる層(銀面側)と基体層との剥離強度、及び皮革様シートの通気度はそれぞれ以下の方法で測定した。
【0044】
[剥離強度]:巾2.5cm×長さ25cmのテストピースの銀面側を、厚さ約4mmのゴム板にウレタン系接着剤で貼りあわせる。このテストピースに2cm間隔で5区間の印をつけた後、水中に10分間浸漬して取り出し、引張り試験機で50mm/分の速度で剥離試験を行なう。得られたチャートから、各区間の最低値を読み取り、その平均値を1cm巾に換算して示した。
【0045】
[通気度]:JIS L−1096の6.27.2のA法により定められた方法にて測定した。
【0046】
[皮革様シートの基体層断面における海島型繊維または極細長繊維の数密度と極細繊維束間の空隙サイズ、平均空隙サイズ]
サンプルの厚さ方向と平行任意の断面について、走査型電子顕微鏡(100〜300倍程度)を用いて、観察面積が合計0.3〜0.5mm2程度になるように、連続した断面領域を観察した。その観察視野において、海島型繊維、あるいは極細繊維束の長さ方向に対してほぼ垂直であると判断される断面の個数を数え、その合計個数を観察面積で割ることにより1mm2当たりに存在する海島型繊維、あるいは極細繊維束断面の個数を求めた。このような観察を1種類のサンプルに対して少なくとも5箇所以上行い、最も少ない値をそのサンプルの数密度とした。
次に、同じ観察視野において、極細繊維束の断面以外の領域を全て空隙とみなし、極細繊維束の断面に接する最大の円を描いて、その円の直径を測定した。但し、空隙が連続して広範囲に存在する場合には、円同士が重ならないようにして複数の円を描いて、描かれた複数の円の中で最大径の円を測定した。また、観察視野全体において繊維束同士が殆ど全て密着するように存在するような場合を除き、繊維束同士が密着するように存在する部分の空隙は、その観察視野における評価対象からは除外した。なお、密着するように存在するとは、繊維束を構成する極細繊維の繊維径と同等以下程度にまで近接して存在する場合をいう。このようにして測定された円の直径において、観察視野における最大値をサンプルの極細繊維束間の空隙サイズとした。また、観察視野において万遍なく、かつ無作為に選び出した空隙20箇所で測定された円直径について、最大値、最小値を除外した18箇所で算術平均した値を極細繊維束間の平均空隙サイズとした。
【0047】
製造例1
(基体層Aの製造)
基体層として、高流動性ポリエチレン(海成分)、6−ナイロン(島成分)からなる繊度6デニールの海島型繊維を繊維長51mmにカットして得たステープル繊維を用い、乾式繊維ウェブを作り、クロスラップ法で積層ウェブとし、ニードルパンチ法で繊維絡合し熱処理して目付300g/m2の不織布とした。この不織布にポリエステル型ポリウレタン(鎖伸長剤は1,4ブタンジオールでポリマージオールと鎖伸長剤のモル比は1:4)の20%ジメチルホルムアミド溶液を含浸し表面に付着したウレタンをナイフで除去した後、ジメチルホルムアミド水溶液中で凝固した。次いで温水洗浄にて溶剤のジメチルホルムアミドを除去した後、熱トルエンにて繊維中のポリエチレンを溶解除去して極細繊維束の平均本数1000本/束、平均繊度0.001デシテックスの6−ナイロン極細繊維の絡合不織布と多孔質ポリウレタン含有率45質量%からなる繊維シート(基体層A)を得た。
【0048】
製造例2及び製造例3
(基体層B及び基体層Cの製造)
海成分ポリマーとしてエチレン変性ポリビニルアルコール(エチレン単位の含有量8.5モル%、重合度380、ケン化度98.7モル%)、島成分ポリマーとして製造例2では、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.59)を、製造例3ではポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.65)を用い、それぞれ個別に溶融させた。海成分ポリマー中に均一な断面積の島成分ポリマーが25個分布した断面を形成できる、多数のノズル孔が並列状に配置された複数紡糸用口金に、該溶融ポリマーを断面における海成分ポリマーと島成分ポリマーの平均面積比が海成分/島成分=25/75となるよう圧力バランスで供給し、口金温度250℃でノズル孔より吐出させた。
平均紡糸速度が3600m/分となるように気流の圧力を調節したエアジェット・ノズル型の吸引装置で牽引細化させ、平均断面積が177μm2(約2.4dtex)の海島型繊維を紡糸し、ネット上に連続的に捕集した。ネットの移動速度を調節して堆積量を調節し、さらに80℃に保温したエンボスロールにより線圧70kg/cmで押さえ、目付30g/m2の長繊維ウェブを得た。
【0049】
エンボス後の長繊維ウェブ表面に、鉱物油系の滑り性油剤を主体とし、帯電防止剤を混合した油剤をスプレー付与した後、クロスラッパー装置を用いて長繊維ウェブを連続的に折りたたむことにより、14層の層状長繊維ウェブにした。ついで、層状長繊維ウェブにニードルパンチングを作用させるニードルパンチ法によって三次元絡合処理を行い、海島型繊維の数密度が500個/mm2の不織布構造体を得た。ニードルパンチングの条件は、ニードル番手40番のニードルAで、両面側からバーブが厚さ方向に貫通するパンチ深さにて予備絡合後、ニードル番手42番のニードルBで、両面側から合計で1700パンチ/cm2のパンチ数で行った。
ついで、この不織布構造体の両面に18℃の水を均一にスプレーした後、直ちに温度75℃、相対湿度95%の雰囲気中を4分間かけて連続的に通過させるような条件で湿熱収縮処理を行った。その後、不織布構造体を乾燥させる前に120℃に保温した金属ロール間でプレス処理して表面を圧縮平滑化しつつ乾燥させ、ついで不織布構造体全体を120℃の雰囲気中へ導入して乾燥させることにより、目付1125g/m2で厚さ方向に平行な断面において、海島型繊維の数密度が1900個/mm2であるように極めて緻密な不織布構造体を得た。
【0050】
得られた不織布構造体に高分子弾性体液としてポリカーボネート/エーテル系ポリウレタンを主体とするポリウレタン組成物の水分散液(固形分濃度15%)を含浸し、不織布構造体の質量100に対して高分子弾性体液の含液量が50になるよう金属ロールでプレスした後、更に不織布構造体の表面温度が80℃になるような条件で赤外線ヒーターを1分間作用させることで感熱凝固させて、最後に120℃の雰囲気中へ導入して水分を乾燥させ、次いで直ちに150℃の雰囲気中へ導入して2分間キュア処理を行うことでポリウレタン組成物を海島型繊維同士の空隙に存在させた。次いで、液流染色機中で90℃の熱水により20分間処理して海島型繊維中の変性ポリビニルアルコールを抽出除去した後、120℃の雰囲気中へ導入して水分を乾燥させることで、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレートの極細長繊維束からなる繊維絡合不織布の内部に、ポリウレタン組成物が約10質量%含有され、厚さ方向と平行断面における極細長繊維束の数密度は2500個/mm2であり、極細繊維束間の空隙サイズは52μm、平均空隙サイズは35μm、厚さ約1.4mmの本発明の皮革様シート用基体層(基体層B)及びポリエチレンテレフタレートの極細長繊維束からなる繊維絡合不織布の内部に、ポリウレタン組成物が10質量%含有された厚さ約1.4mmの本発明の皮革様シート用基体層(基体層C)を得た。
【0051】
製造例4
(ポリウレタン不織布の製造)
平均分子量1150のポリ−3メチル−1,5ペンチルアジペートグリコールと4,4−ジフェニルメタンジイソシアネートおよび1,4−ブタンジオールを1:4:3のモル比(イソシアネートに基づく理論窒素量4.63%)で仕込み、スクリュー式混練型重合機を用い溶融重合法でポリウレタンを重合した。このポリウレタンの軟化点は172℃であった。得られたポリウレタンは溶融状態のままメルトブロー法で温度260℃に加熱したダイオリフィスから押し出されると共に、その両側にあるスロットから0.4MPaの圧力で噴出する260℃に加熱された高速空気により、25m/分の速度で走行するコンベアネット上に吹き付けられ、オリフィスから押し出された樹脂を極細繊維化しながら平均目付25g/m2の不織布Aを得た。この時、コンベアネットのオリフィスと反対側には、スロットから噴出した熱風の3倍以上の空気流量で吸引するサクションにより、繊維流の乱れを防ぐと共に、製造するウェブの所望の均一性を確保した。また、このコンベアとノズルの間隔は25cmとした。得られた不織布は、平均繊維径4.2μmの微細繊維のランダムウェブとなっていた。
【0052】
製造例5
(熱接着性樹脂からなる不織布の製造)
日本ミラクトラン株式会社製熱接着性樹脂E790MSJR(軟化温度100℃)を用い、これを押出機によりメルトブロー法で温度260℃に加熱したダイオリフィスから押し出すと共に、その両側にあるスロットから0.4MPaの圧力で噴出する260℃に加熱された高速空気により、25m/分の速度で走行するコンベアネット上に吹き付け、オリフィスから押し出された樹脂を極細繊維化しながら平均目付25g/m2のポリウレタン連続繊維不織布Dを得た。この時、コンベアネットのオリフィスと反対側には、スロットから噴出した熱風の3倍以上の流量の空気を吸引するサクションにより、繊維流の乱れを防ぐと共に、集積されるポリウレタン連続繊維(ウェブ)の所望の均一性を確保した。また、このコンベアとノズルの間隔は35cmとした。
【0053】
実施例1
製造例1で得られた6−ナイロンの極細繊維絡合不織布を含む基体層A上に、製造例5で得られたポリウレタン連続繊維不織布Dが中間になるように、製造例4で得られた不織布Aを重ね合わせて、110℃の表面梨地模様の熱エンボスロールにて、プレス圧0.196MPa(2kg/cm2)にて接着した積層シートを得た。
この後、エンボスロールの表面温度を160℃に上げ、プレス圧0.49MPa(5kg/cm2)の圧力にて該積層シート表面に存在するポリウレタン不織布の層内の極細ポリウレタン繊維同士を溶融接着して銀面層を形成し、銀付調皮革様シートを得た。
この銀付調皮革様シートは、光沢むらのない高級な皮革様外観を有すると共に通気性0.9cm3/cm2/秒であった。そして表面には、平均直径17μmの微細孔が約700個/cm2存在しており、電子顕微鏡写真から、いくつかの微細孔に橋架けが見られた。また、銀面層(被覆層)の厚みは34μmであった。そしてこのものの剥離強度は163N/2.5cmであった。
【0054】
実施例2
製造例2で得られたイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.59)による極細繊維絡合不織布を含む基体層B上に、製造例5で得られた連続線状体不織布Dをその間に挟むように、製造例4で得られた不織布Aを重ね合わせて、110℃の表面梨地模様の熱エンボスロールにて、プレス圧0.196MPa(2kg/cm2)にて接着した積層シートを得た。
この後、エンボスロールの表面温度を160℃に上げ、プレス圧0.49Mpa(5kg/cm2)圧力にてポリウレタン不織布の極細ポリウレタン繊維同士を溶融接着して銀面層を形成し、銀付調皮革様シートを得た。この銀付調皮革様シートは、光沢むらのない高級な皮革様外観を有すると共に、通気性1.3cm3/cm2/秒であった。そして表面には平均直径18μmの微細孔が約1200個/cm2存在しており、電子顕微鏡写真から、いくつかの微細孔に橋架けが見られた。また、銀面層(被覆層)の厚みは43μmであった。このものの剥離強度は182N/2.5cmであった。
【0055】
実施例3
製造例2において島成分の熱可塑性樹脂として、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレートの変わりにポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.65)を用いたこと以外は製造例2と同様にして得られた製造例3のポリエチレンテレフタレート繊維絡合不織布からなる基体層Cを得た。ここで得られた基体層C上に、製造例5で得られたポリウレタン連続繊維不織布Dをその間に挟むように、製造例4で得られた不織布Aを重ね合わせて、110℃の表面梨地模様の熱エンボスロールにて、0.196MPa(2kg/cm2)にて接着した積層シートを得た。
この後、エンボスロールの表面温度を160℃に上げ、プレス圧0.49MPa(5kg/cm2)の圧力にてポリウレタン不織布を溶融接着して銀付調皮革様シートを得た。この銀付調皮革様シートは、光沢むらのない高級な皮革様外観を有すると共に通気性0.3cm3/cm2/秒であった。そして表面には平均直径10μmの微細孔が約950個/cm2存在しており、電子顕微鏡写真から、約3割の微細孔に橋架けが見られた。また銀面層(被覆層)の厚みは53μmであった。剥離強度は148N/2.5cmであった。
【0056】
実施例4
製造例2と同様に、ニードルパンチング後の不織布構造体を長さ方向、幅方向の何れの方向にも張力や摩擦応力が殆ど作用しないようにしつつ、温度75℃の熱水に5秒間以上浸漬させることで収縮処理を行い、ついで繊維絡合不織布構造体全体を120℃の雰囲気中へ導入して乾燥させることにより、強固な繊維交絡状態を確保し、ポリウレタン樹脂の含浸による形態安定化を省略した基体層Dを得た。ここで得られたシート上に、製造例5で得られたポリウレタン連続繊維不織布Dをその間に挟むように、製造例4で得られた不織布Aを重ね合わせて、110℃の表面梨地模様の熱エンボスロールにて、プレス圧0.196MPa(2kg/cm2)にて接着した積層シートを得た。
この後、エンボスロールの表面温度を160℃に上げ、プレス圧0.49MPa(5kg/cm2)の圧力にて、該積層シート表面に存在するポリウレタン不織布の極細ポリウレタン繊維同士を溶融接着して銀面層を形成し、銀付調皮革様シートを得た。この銀付調皮革様シートは、光沢むらのない高級な皮革様外観と天然皮革並の充実感ある風合いを有すると共に通気性2.5cm3/cm2/秒であった。そして表面には平均直径32μmの微細孔が約1800個/cm2存在しており、電子顕微鏡写真から、いくつか微細孔に橋架けが見られた。また、銀面層(被覆層)の厚みは53μmであった。このものの剥離強度は83N/2.5cmであった。
【0057】
実施例5
製造例3で得られた基体層C上に、湿気硬化型ポリウレタン熱接着性樹脂を15g/m2の目付となるようにホットメルトマシンでスプレー塗布したのち製造例4で得られたポリウレタン不織布Aを重ね合わせて、常温の表面梨地様のニップロールにて、プレス圧0.196MPa(2kg/cm2)にて接着した積層シートを得た。
この後、エンボスロールの表面温度を160℃に上げ、プレス圧0.49MPa(5kg/cm2)の圧力にてポリウレタン不織布を溶融接着して銀付調皮革様シートを得た。この銀付調皮革様シートは、光沢むらのない高級な皮革様外観を有すると共に通気性2.3cm3/cm2/秒であった。そして表面には平均直径21μmの微細孔が約1500個/cm2存在しており、電子顕微鏡写真から、約3割の微細孔に橋架けが見られた。また、銀面層(被覆層)の厚みは24μmであった。このものの剥離強度は107N/2.5cmであった。
【0058】
比較例1
製造例1で得られた繊維シート(基体層A)上に150メッシュのグラビアロールを用いて接着用樹脂としてポリウレタン樹脂(SSTC−44:大日精化製、軟化点110℃)の10%ジメチルホルムアミド(以下DMF)溶液を点状に塗布した直後、製造例4で得たポリウレタン不織布Aを重ね合わせ、プレスロール(110℃、0.196MPa)で接着、乾燥して仮固定し、基体層Aとポリウレタン不織布とが積層されたシートを得た。その後表面温度160℃のエンボスロールでプレス圧0.49Mpa(5kg/cm2)の圧力にてポリウレタン不織布Aを溶融接着して銀付調皮革様シートを得た。この銀付調皮革様シートは、光沢むらのない高級な皮革様外観を有すると共に通気性4.3cm3/cm2/秒であった。そして表面には平均直径12μmの微細孔が約750個/cm2存在しており、電子顕微鏡写真から、約3割の微細孔に橋架けが見られた。また銀面層の厚みは22μmであった。しかしながら、このものの剥離強度は26N/2.5cmで、実用上要求される剥離強度である30N/2.5cmに満たないものであった。
【0059】
比較例2
製造例3により得られたシート(基体層C)を用いた他は比較例1と同様に積層して銀付調皮革様シートを得た。得られた銀付調皮革様シートの剥離強度は、24N/2.5cmと、比較例1と同様に剥離強度不足のものであった。
【0060】
比較例3
製造例3において、含有するポリウレタンが20質量%となるよう調整したシート(基体層D)を用いたこと以外は比較例1と同じく積層して銀付調皮革様シートを得た。得られた銀付調皮革様シートの剥離強度は、17N/2.5cmと、比較例1と同様に剥離強度不足のものであった。
【0061】
以上の実施例、比較例について、まとめて表1に示す。
【0062】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明で得られる皮革様シートは、銀面とその下の基体層との間で一体感のある風合を有し、かつ、実用上十分な剥離強度を有し、更に透気性、透湿性に優れ特に光沢むらのない極めて優れた外観を有する皮革様シートであり、紳士靴、スポーツシューズ、一般靴等に利用できる。また、本発明の皮革様シートの製造方法は、透気性、透湿性に優れ特に光沢むらのない極めて優れた外観を有する皮革様シートを安定して製造する方法として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維絡合不織布を有する基体層の少なくとも一面に、熱接着性樹脂層を介してポリウレタン不織布が溶融されてなる銀面層が積層されており、かつ、該基体層と該ポリウレタン不織布からなる銀面層との剥離強度が30N/2.5cm以上であることを特徴とする皮革様シート。
【請求項2】
ポリウレタン不織布が、15〜125g/m2の目付からなる請求項1に記載の皮革様シート。
【請求項3】
熱接着性樹脂が、湿気硬化型ホットメルトポリウレタンからなる請求項1又は2に記載の皮革様シート
【請求項4】
熱接着性樹脂層が、目付3〜40g/m2の熱接着シートである請求項1〜3のいずれか1項に記載の皮革様シート。
【請求項5】
熱接着シートが、ポリウレタン連続繊維不織布からなる請求項4に記載の皮革様シート。
【請求項6】
基体層の繊維絡合不織布が、極細長繊維不織布とその内部にポリウレタン樹脂が0〜20質量%含有されてなる請求項1〜5のいずれか1項に記載の皮革様シート。
【請求項7】
基体層とその少なくとも一面に、ポリウレタン不織布を積層一体化して得られる皮革様シートの製造方法であって、該ポリウレタン不織布を構成するポリウレタン樹脂の軟化温度よりも20℃以上低い軟化温度を有する熱接着性樹脂を、基体層と該ポリウレタン不織布の間に存在させ、該熱接着性樹脂を軟化溶融させて基体層とポリウレタン不織布を積層一体化することを特徴とする皮革様シートの製造方法。
【請求項8】
熱接着性樹脂の軟化温度近傍で仮積層した後、ポリウレタン不織布の軟化温度以上の温度で積層一体化する請求項7に記載の皮革様シートの製造方法。

【公開番号】特開2011−69018(P2011−69018A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221257(P2009−221257)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】