説明

皮革様シート状物およびその製造方法

【課題】 気体透過性および透湿性を併有し、更に、油脂汚れに対する防汚性(耐オイルコンタミネーション性)を兼ね備えている皮革様シート状物およびその製造方法を提供することを課題としている。
【解決手段】 皮革様シート状物は、気体透過性および透湿性を有するものであって、表面から裏面まで厚み方向に連通した多数の微細孔を有する微多孔質であって気体透過性および透湿性を有している微多孔ポリウレタン樹脂で形成されかつ疎水性又は非親水性を有している微多孔膜層と、その微多孔膜層の上に積層される表面処理層とを備えており、その表面処理層は、前記微多孔膜層の上に水系樹脂で形成される保護膜層を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体透過性と透湿性とを有する皮革様シート状物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表皮層を有する銀付き調の天然皮革は、衣料品、履物、かばんその他各種の革製品に古くから多用されている。もっとも、近年にあっては、鳥獣保護に関する意識の高まりもあるため、天然皮革の代替品となる素材が求められている。さらに、天然皮革は、水濡れした際に外観変化があり、又、多量吸水による着用不快感や、アフターケアの不便さなどが本来的にあることから、近年では、銀付調の天然皮革の代替物となる人工皮革や合成皮革などの各種の皮革様シート状物が種々提案されている。
【0003】
皮革様シート状物の一種である合成皮革においては、一般的に、防水性と透湿性とを具備した弾力性のある合成樹脂材が表皮層として用いられており、現在では、一般的に用いられる天然皮革に近い風合いを持ち、なおかつ、気体透過性、透湿性および摩耗強度などの性能において、天然皮革と同等又はそれ以上のものが開発されている。
【0004】
皮革様シート状物の表皮層としては、例えば、ポリウレタン樹脂製の無孔質フィルム又はその多孔質フィルムなどのの合成樹脂材が使用される。ここで、皮革様シート状物の表皮層としての無孔質フィルムは、乾式製法により製造される薄膜である。この無孔質フィルムは、多孔質フィルムの透湿機能とは異なり、当該フィルムに内包される親水性を有した官能基(以下「親水基」という。)により透湿機能が確保されている。
【0005】
この無孔質フィルムは、その一面側の水蒸気濃度が上昇すると、当該フィルムが有する親水基を介して水分子が取り込まれ、かかる水分子を当該フィルムにおける水蒸気濃度の低い他面側へ移行させて、当該フィルムの他面側から放散させるものである。つまり、無孔質フィルムは、自己の親水基により水分子を通過させる透湿性と、雨粒の浸透を阻止する防水性とを備えている。
【0006】
ところが、無孔質フィルムは、その空気を透過させる気体透過度が極めて低いか、又は、そもそも気体透過性を有していないため、これを皮革様シート状物の表皮層として使用すると、皮革様シート状物に気体透過性を付与することができない。このため、例えば、かかる無孔質フィルムを用いた皮革様シート状物を生地として使用した衣料製品にあっては、着用者と衣料製品との間に熱が過度に籠もってしまい、却って着心地を阻害してしまうという問題点があった。
【0007】
一方、皮革様シート状物の表皮層としての多孔質フィルムは、その内部に多数の細孔が厚み方向に連通形成されており、これらの多数の細孔が多孔質フィルムの表面に多数開放されかつ均一に散在されている。多孔質フィルムは、その細孔の孔径が、水蒸気の粒径(0.0004μm程度)より大きく且つ雨粒の粒径(100μm〜3mm程度)より小さく、水蒸気粒子を通過させる透湿性と、雨粒の浸透を阻止する防水性とを備えている。
【0008】
このような多孔質フィルムであれば、これを皮革様シート状物の表皮層として用いることで、防水性および透湿性を有する皮革様シート状物に対して、更に、多数の細孔を介して気体透過性も付与されることから、無孔質フィルムが本質的に内包している気体透過性に関する問題点も解消される。
【特許文献1】特開平8−41786
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記した多孔質フィルムでは、揮発性の低い油脂(以下「低揮発性油脂」という。)が細孔内に一旦浸透してしまうと、そこから簡単に油脂を除去することができないとい問題点があった。一方、無孔質フィルムは、その表面に皮脂や食用油等の各種オイルなどに代表される低揮発性油脂が付着したとしても、それらがフィルム内部に浸透することはなく、油脂を容易に拭き取ることが可能なものである。
【0010】
例えば、無着色の多孔質フィルムは、そのフィルム内やその表裏面に無数に存在する細孔で光が乱反射されることで、本来的に白色系の色彩を有している。ところが、かかる白色系の多孔質フィルムに低揮発性油脂が付着すると、その表裏面やその内部の光反射率が低下して、多孔質フィルム全体が透明化してしまう。このため、無着色の多孔質フィルムを用いた生地では、低揮発性油脂による汚れが強調されて、当該生地の外観が損なわれるという問題点があった。
【0011】
一方、顔料で着色された多孔質フィルムによれば、その表面に低揮発性油脂が付着すると、これらが細孔内へ浸入することで、その表面部分の光反射率が低下して、表面の色合いが黒ずんでしまう。したがって、着色された多孔質フィルムを用いた生地にあっても、低揮発性油脂による汚れが強調されて、当該生地の外観が損なわれるという問題点があった。
【0012】
そこで、本発明は、上述した問題点を解決するために、気体透過性および透湿性を併有し、更に、油脂汚れに対する防汚性(耐オイルコンタミネーション性)を兼ね備えている皮革様シート状物およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的を達成するために請求項1の皮革様シート状物は、気体透過性および透湿性を有するものであって、表面から裏面まで厚み方向に連通した多数の微細孔を有する微多孔質であって気体透過性および透湿性を有している微多孔ポリウレタン樹脂で形成されかつ疎水性又は非親水性を有している微多孔膜層と、その微多孔膜層の上に積層される表面処理層とを備えており、その表面処理層は、前記微多孔膜層の上に水系樹脂で形成される保護膜層を有している。
【0014】
請求項2の皮革様シート状物は、請求項1の皮革様シート状物において、前記保護膜層は、前記微多孔膜層の上に前記水系樹脂が不連続的に存在することで形成されている。
【0015】
請求項3の皮革様シート状物は、請求項1又は2の皮革様シート状物において、前記表面処理層は、前記微多孔膜層の上に印刷剤を用いて印刷される天然皮革を模した皮革模様を備えており、前記保護膜層は、その皮革模様が印刷された状態にある前記微多孔膜層の上に前記水系樹脂を用いて形成されている。
【0016】
請求項4の皮革様シート状物は、請求項1から3のいずれかの皮革様シート状物において、前記微多孔膜層の下に積層される布帛からなる基布層を備えている。
【0017】
請求項5の皮革様シート状物は、請求項1から4のいずれかの皮革様シート状物において、布帛からなる基布層と、その基布層の上に形成され表面から裏面まで厚み方向に連通するとともに前記微細孔より孔径が大きな細孔を多数有する多孔ポリウレタン樹脂からなる多孔質中間層とを備えており、その多孔質中間層の上には前記微多孔膜層が積層されている。
【0018】
請求項6の皮革様シート状物は、請求項1から5のいずれかの皮革様シート状物において、前記微多孔膜層は、前記微細孔の孔径分布のピーク値が0.3μm〜3μmの範囲内である。
【0019】
請求項7の皮革様シート状物は、請求項1から6のいずれかの皮革様シート状物において、前記保護膜層は、その厚みが1μm〜10μmの範囲内である。
【0020】
請求項8の皮革様シート状物の製造方法は、気体透過性および透湿性を有する皮革様シート状物の製造方法であり、気体透過性および透湿性を有する微多孔ポリウレタン樹脂からなる微多孔膜層の上に、所定厚みで水系樹脂を塗工することにより保護膜層を形成するものである。
【0021】
請求項9の皮革様シート状物の製造方法は、請求項8の皮革様シート状物の製造方法において、前記水系樹脂がグラビア塗工方式により前記微多孔膜層の上に塗布(塗工)されることによって前記保護膜層が形成されるものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明の皮革様シート状物およびその製造方法によれば、微多孔ポリウレタン樹脂からなる微多孔膜層の上に水系樹脂による保護膜層を形成することによって、気体透過性を有するとともに透湿性に優れ、なおかつ、表面のオイルコンタミネーションと摩耗強度に優れた、実用レベルにある皮革様シート状物を得ることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい一実施の形態である皮革様シート状物について説明する。この皮革様シート状物は、気体透過性および透湿性を有するものであり、主に、微多孔膜層と、表面処理層とを備えている。また、この皮革様シート状物には、必要に応じて、微多孔膜層および表面処理層に加えて、基布層、多孔質中間層の少なくとも一方又はこれらの双方を付加するようにしても良い。
【0024】
<微多孔膜層>
微多孔膜層は、気体透過性、透水性、防水性及び表面摩耗強度を、皮革様シート状物に付与するものであって、ポリウレタン樹脂液を湿式凝固させることで製造される微多孔ポリウレタン樹脂製の薄膜である。ここでいう微多孔ポリウレタン樹脂とは、凝固した状態にあって多数の微細孔を有するポリウレタン樹脂のことをいう。また、ポリウレタン樹脂とは、主原料となるポリイソシアネートなどのイソシアネート成分とポリオールなどのヒドロキシ成分とを重付加反応させて得られる共重合体を主成分として含むものをいう(以下同じ。)。
【0025】
例えば、微多孔膜層を形成するポリウレタン樹脂としては、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、ポリエーテル−エステル系ポリウレタンなどが用いられるが、特に限定されるものではない。また、微多孔膜層は、その厚みが10μm〜50μmの範囲とされており、特に、30μm〜35μmの厚みとすることが好ましい。また、この微多孔膜層は、その内部に多数の微細孔が厚み方向に連通形成されており、これらの多数の微細孔が微多孔膜層の表面および裏面に開放されかつ均一に散在されている。
【0026】
多数の微細孔は、微多孔膜層内に単位面積(1平方インチ)当たりに略50万個程度形成されており、透水性及び防水性の双方を具備するにあたって有効な微細孔の孔径分布のピーク値(以下単に「孔径分布ピーク値」という。)が0.3μm〜3μmの範囲内とされている。このように、微多孔膜層は、その微細孔の孔径分布ピーク値が0.3μm〜3μmの範囲内であり、一般的な多孔質フィルムの孔径分布ピーク値が1μm〜20μmの範囲であることに比べて、その多孔質構造が緻密なものとなっている。この多孔質構造の緻密化によって、微多孔質膜層は、その表面の滑らかさが向上されるとともに、更に、摩耗時における表面の揺れや歪みが少なくなることから、その表面摩耗強度の向上が図られている。
【0027】
このように、微多孔膜層は、微細孔の孔径分布ピーク値が0.3μm〜3μmの範囲内であるのに対し、水蒸気の粒径は略0.4nm(=0.0004μm)程度であり、雨粒にあっては最も細かな霧雨から最も大きな雷雨までの粒径が略100μmから略3mm(=3,000μm)程度の範囲となる。したがって、微多孔膜層は、その微細孔の孔径が水蒸気の粒径より大きく且つ雨粒の粒径より小さいので、かかる多数の微細孔を通じて水蒸気粒子を通過させる透湿性を備えると共に、これとは相反する雨粒の浸透を阻止する防水性とを備えるのである。
【0028】
さらに、微多孔膜層は、その表面にある微細孔の孔径が、その裏面にある微細孔の孔径に比べて全体的に小さく形成されていることがより好ましい。さすれば、この微細孔の孔径が小さな微多孔膜層の表面側を、皮革様シート状物の表面側として、その微多孔膜の表面側に表面処理層を形成することで、雨粒が微多孔膜層内へより一層浸透し難いものとなる。
【0029】
また、微多孔膜層は、その透湿度が13,000〜18,000g/m・24hあり、耐水度は10,000mmHO(水柱)(=1kgf/cm≒0.098Mpa)以上ある。ここで、耐水度は、JIS規格L1092「繊維製品の防水性試験方法」における「耐水度試験(静水圧法)」の「B法(高水圧法)」(以下「JIS規格L1092(B法)」ともいう。)に準拠して測定したものである。また、透湿度は、JIS規格L1099「繊維製品の透湿度試験方法」における、「塩化カルシウム法(A−1法)」(以下「JIS規格L1099(A−1法)」ともいう。)と、「酢酸カリウム法(B−1法)」(以下「JIS規格L1099(B−1法)」ともいう。)と、に準拠して測定したものである。
【0030】
さらに、微多孔膜層を形成する微多孔ポリウレタン樹脂は、疎水性又は非親水性も付与されている。このため、微多孔膜層は、その各微細孔の周縁部分も疎水化又は非親水化されている。このように疎水性又は非親水性があるが故に、微多孔膜層は、気体透過性や透湿性とは相反する性質である防水性をも併有するものとなる。しかも、微多孔膜層は、その素材が疎水性又は非親水性を有するものであるが故に、経時劣化に対する耐久性が高められている。
【0031】
ここで、疎水性又は非親水性を有する微多孔ポリウレタン樹脂としては、例えば、疎水性又は非親水性を有する有機溶剤(メチルエチルケトン(MEK)等のケトン系溶剤を含む。)を用いた微多孔ポリウレタン樹脂や、或いは、親水性の有機溶剤(例えばジメチルホルムアミド(DMF)を含む。)を用いた微多孔ポリウレタン樹脂であっても撥水剤などの疎水性成分が添加されたものが用いられる。
【0032】
そのうえ、微多孔膜層は、有機溶剤型の微多孔ポリウレタン樹脂で形成されることで、例えば、水系ポリウレタン樹脂などの水系のポリウレタン樹脂で形成される場合に比べて、細孔の孔径を微細化でき、かつ、細孔の単位面積当たりの存在個数を大きくなる。つまり、微多孔膜層は、有機溶剤型の微多孔ポリウレタン樹脂で形成されることで、水系の微多孔ポリウレタン樹脂で形成されるもの比べて、防水性や透湿度が優れたものとなっている。なお、水系ポリウレタン樹脂は、水系樹脂の一種であり、分子中に水に安定分散させるために必要な親水成分を導入するか、又は、外部乳化剤を使用して分散することによって得られるポリウレタンの水分散体である。
【0033】
なお、微多孔膜層は、それを形成するポリウレタン樹脂に所定量の顔料を添加することで着色しても良い。ただし、顔料を添加して着色された微多孔膜層は、そもそも表面及び内部に微細孔を多数内包する多孔質構造であるため、入射光が乱反射することで、顔料の添加量に応じた色合いよりも実際には淡色のものとなる。
【0034】
以上説明したように、微多孔膜層は、防水性、透湿性および表面摩耗強度の観点から、有機溶剤型の微多孔ポリウレタン樹脂で形成されるものが好適ではある。しかしながら、水系ポリウレタン樹脂などの無機溶剤型のポリウレタン樹脂であっても、例えば撥水剤等を添加することで疎水化したものであれば、微多孔膜層の素材として用いても良い。ただし、水系ポリウレタン樹脂製などの無機溶剤型のポリウレタン樹脂を用いて微多孔膜層を形成する場合には、上記した有機溶剤型の微多孔ポリウレタン樹脂を用いたものに比べて、微多孔膜層の微細孔の孔径が大きくなることや、その表面摩耗強度が若干低下することに配慮する必要がある。
【0035】
<表面処理層>
表面処理層は、皮革様シート状物の表面に皮革表面としての種々の表面特性を付与するものであり、上記した微多孔膜層の上(表面側)に形成される皮革模様と保護膜層とを備えている。
【0036】
<皮革模様>
皮革模様は、皮革様シート状物の表面に皮革らしい外観デザインや肌触りなどの風合を付与するものであって、上記した微多孔膜層の上(表面側)に、所定の印刷剤を用いて、天然皮革を模した印刷される擬似的模様である。この皮革模様の印刷方式は、微多孔膜層の上に皮革模様を印刷剤を用いて印刷できるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、スクリーン方式、ロール方式、グラビア方式が用いられる。
【0037】
なお、皮革模様は、主として、皮革様シート状物の表面に皮革独特の意匠性(デザイン性)を付与するものであるので、特に天然皮革を模した意匠が不要な場合にあっては必ずしも必須の要素ではない。したがって、皮革模様が不要な場合は、微多孔膜層の表面に保護膜層を直接形成するようにしても良い。
【0038】
<保護膜層>
保護膜層は、皮革様シート状物の表皮層としての微多孔膜層の表面を保護するものであって、特に、微多孔膜層の表面摩耗強度を更に強化するとともに、微多孔膜層の油脂汚れ(オイルコンタミネーション)に対する耐性(耐オイルコンタミネーション性)を付与するものである。この保護膜層は、微多孔膜層の上(表面側)に水系樹脂を塗工凝固することで形成される薄膜層である。ここでいう水系樹脂とは、例えば、乳化性や水溶性を有しないポリマーを界面活性剤などを用いて強制乳化させた強制乳化樹脂、自己乳化性を有するポリマーを乳化および分散させた自己乳化性樹脂、又は、水溶性を有するポリマーを溶解させた水溶性樹脂などをいう。
【0039】
例えば、保護膜層を形成する水系樹脂としては、耐候性および耐摩耗性を有するものが好適であり、例えば、エーテル系ポリウレタン、ポリカーボネート系ポリウレタンなどの水系ポリウレタン樹脂がより好ましい。なかでも、ポリカーボネート系ポリウレタンは、エーテル系ポリウレタンに比べて耐候性および耐摩耗性の点において優れており、特に、過酷な使用環境が用途として想定される皮革様シート状物にあっては保護膜層の素材としてポリカーボネート系ポリウレタンを採用することが好ましい。
【0040】
以上のように、保護膜層が水系樹脂で形成されるものであるのに対し、微多孔膜層が上記したように疎水性又は非親水性を有するポリウレタン樹脂で形成されているため、保護膜層を形成する水系樹脂は、微多孔膜層に対する親和性が油性樹脂(溶剤型樹脂)に比べて低いものとなる。よって、水系樹脂液が微多孔膜層の上に塗工された場合、かかる水系樹脂液が微多孔膜層の上で表面張力を発揮し、微多孔膜層の上で弾かれて、微多孔膜層の表面にある各微細孔内へ浸透され難くなる。
【0041】
つまり、微多孔膜層の表面の撥水性によって、水系樹脂が微多孔膜層内へ浸透することが防止され、水系樹脂が微多孔膜層の表面上で確実に凝固されて、微多孔膜層の表面上に保護膜層が確実に形成されるのである。また、保護膜層は、その厚みが1μm〜10μmの範囲内にあり、微多孔膜の厚みと比較しても格段に薄い超薄膜状に形成されている。ここで、保護膜層の素材としての水系樹脂は、油性樹脂に比べて粘性調整が容易であることから、細かな粘性調整によって微多孔膜層の上に超薄膜状に塗工することに極めて適している。
【0042】
しかも、保護膜層は、上記したように水系樹脂が超薄膜状に塗工形成されたものであり、かつ、微多孔膜層が疎水化又は非親水化されているため、塗工後の水系樹脂が微多孔膜層上に不連続的に存在した状態で凝固することによって形成されている。ここで、図1は、下記実施例における皮革様シート状物の表面、即ち、微多孔膜層上に形成された保護膜層の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって撮影した図面代用写真である。
【0043】
図1に示すように、この皮革様シート状物の保護膜層は、水系樹脂の凝固被膜が多数の微小片となって、これらが鱗状に配置されるような形態となっている。そして、これらの各微小片は互いに部分的に上下に重なり合うような格好で微多孔膜層上に積層されている。ところで、下記実施例からも実証される通り、保護膜層が微多孔膜層上に形成されていても、皮革様シート状物が気体透過性や透湿性を喪失しない。
【0044】
このため、保護領域は微多孔膜層上を全体的に被覆している訳ではなく、保護膜層には、上下に重なり合った凝固被膜の微小片同士の間に隙間が所々に存在していて、かかる隙間が微多孔膜層の微多孔と連通しているものと推察される。また、図1を観察すると、凝固被膜の微小片の全てが相互に連続的に繋がっているのではなく、隣り合った凝固被膜の微小片同士の間にも隙間が所々にあって、そこから微多孔膜層の表面が露出しているものとも推察される。
【0045】
つまり、保護膜層は、微多孔膜層を被覆する水系樹脂の凝固被膜が存在する領域である保護領域と、この水系樹脂の凝固被膜の隙間をぬって微多孔膜層の表面へと連通する領域である非保護領域とを備えたものとなっていることが推察される。以上のことから、本明細書において「水系樹脂が微多孔膜層上に不連続的に存在」するとは、保護領域となる水系樹脂の凝固被膜が存在する中に局所的に非保護領域が存在したような形態となっているこという。
【0046】
このように微多孔膜層の上に凝固した水系樹脂が不連続的に多数散在した状態で積層形成されるので、保護膜層は、微多孔膜層の表面に存在する多数の微細孔の全てが塞がれることがない。結果、微多孔膜層の表面には、局所的に保護膜層における保護領域が存在しない非保護領域ができるため、この非保護領域と連通する微細孔を通じて微多孔膜層の気体透過性や透湿性が確保されるのである。
【0047】
また、保護膜層の塗工方式は、微多孔膜層の上に水系樹脂液を直接塗布する方式であれば、特に限定されるものではなく、例えば、グラビアコータ、ナイフコータ、パイプコータ、キスコータなどの装置によって行われる塗工方式が用いられる。なかでも、グラビアコータを用いたグラビア塗工方式によれば、ロールメッシュサイズを調整することで任意の分布密度で、水系樹脂を微多孔膜層の上に微小点状に多数散在するように塗工することができる。
【0048】
なお、塗工された微小点状の水系樹脂は、凝固するまでに微多孔膜層の上で広がり、上記した微小片状の凝固被膜になるものと推察される。つまり、微多孔膜層上に微小点状に多数散在するように塗工された水系樹脂は、塗工後から凝固するまで間に広がることで多数の微小片状の凝固被膜となって、微多孔膜層上に鱗状に配置されるものと推察される。
【0049】
<基布層>
次に、基布層について説明する。基布層は、上記のように微多孔膜層及び表面処理層から構成される皮革様シート状物において、その微多孔膜層の下(裏面側)に積層形成されるものである。この基布層は、皮革としての引張強度や全体的な風合いを皮革様シート状物に付与するためものである。この基布層は布帛によって形成されている。この基布層となる布帛としては、例えば、木綿や絹等の天然繊維、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、若しくは、ポリエステル系繊維などを単独で又は2以上組み合わせた織物、編物又は不織布が用いられる。
【0050】
また、基布層は、染色加工や制電加工等の機能加工が施されていても良い。さらに、基布層となる布帛は、その素材が上記したものに必ずしも限定されるものではなく、又、その織物組織または編物組織についても特に限定されるものではなく、少なくとも通気性又は気体透過性並びに透湿性を有するものであれば良い。
【0051】
(基布層を微多孔膜層の下に積層する手段)
このような基布層を微多孔膜層の下(裏面側)に積層するための積層方式としては、ラミネーション方式、又は、湿式コーティング方式のいずれかが用いられる。
【0052】
ここでいうラミネーション方式は、気体透過性および透湿性を有するフィルムを下地材の上に接着することで、その下地材の上にフィルムを一体的に積層形成するものである(以下同じ。)。一方、湿式コーティング方式は、樹脂液を下地材の上に直接塗布(コーティング)した後、下地材ごと水中に通過させて、その樹脂中に含まれる溶剤を水中へ溶出させつつ樹脂を凝固させることで、その樹脂から溶剤が溶出した跡が多数の連通孔となり、結果、気体透過性および透湿性を有する樹脂層を下地材の上に直接に積層形成するものである(以下同じ。)。
【0053】
例えば、ラミネーション方式によれば、微多孔質ポリウレタンフィルムを基布層の上(一面)に接着することで、上記した微多孔膜層が基布層の上に積層形成される。このとき、微多孔質ポリウレタンフィルムは、基布層との対向面間に微小な点状又は線状に塗布された接着剤によって、基布層と点接着又は線接着される。すると、微多孔膜層は、基布層との対向面にある微細孔が接着剤で覆われる割合が最小限に抑えられ、微多孔膜層の気体透過性や透湿性の低下が抑制される。
【0054】
なお、ラミネーション方式による場合、微多孔膜層となる微多孔質ポリウレタンフィルムは、その製造方法が特に限定されるものではないが、上記した微細孔を均一緻密に形成するには湿式凝固方式により製造することがより好ましい。
【0055】
また、湿式コーティング方式によれば、ポリウレタン樹脂液を基布層の上(一面)に均一な薄膜状に直接コーティングした後、その積層体を水中に通過させて、基布層に塗布されたポリウレタン樹脂に含まれる溶剤を水中へ溶出させつつ凝固させることで、基布層に塗布されたポリウレタン樹脂から溶剤が溶出した跡が多数の微細孔となり、結果、上記した微多孔膜層が基布層の上に直接に積層形成される。
【0056】
なお、直接コーティングの方式としては、微多孔膜層を形成するためのポリウレタン樹脂液を直接塗布する方式であれば、特に限定されるものではないが、例えば、グラビアコータ、ナイフコータ、パイプコータ、キスコータなどの装置によって行われる塗工方式が用いられる。
【0057】
<多孔質中間層>
次に、多孔質中間層について説明する。多孔質中間層は、上記した基布層と微多孔膜層との間に、又は、基布層に代えて微多孔膜層の下(裏面側)に積層形成されるものである。この多孔質中間層は、弾力性や厚み等の皮革としての風合いを、皮革様シート状物に付与するものであって、多孔ポリウレタン樹脂製の薄膜である。ここでいう多孔ポリウレタン樹脂とは、凝固した状態にあって多数の細孔を有するポリウレタン樹脂のことをいい、特に、細孔の孔径(孔径分布ピーク値)が微多孔膜層を形成する微多孔ポリウレタン樹脂の微細孔よりも大きく、かつ、細孔の単位面積当たりの個数が少ないものをいう。
【0058】
また、この多孔質中間層は、気体透過性および透湿性を確保するため、その内部に多数の細孔が厚み方向に連通形成され、これらの多数の細孔が多孔質中間層の表面および裏面に開放散在されている。この多孔質中間層を形成するポリウレタン樹脂としては、例えば、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、ポリエーテル−エステル系ポリウレタンなどが用いられるが、特に限定されるものではない。
【0059】
ここで、この多孔質中間層の厚み、細孔の孔径、細孔の単位面積当たりの個数などの各種の特性値については、特に限定されるものではなく、皮革様シート状物の用途に応じて適宜変更することができる。例えば、多孔質中間層の細孔の孔径サイズは、特に限定されるものではなく、微多孔膜層の孔径分布ピーク値を越えるような一般的な多孔ポリウレタンであれば良い。
【0060】
(多孔質中間層の上に微多孔膜層を積層する手段)
このような多孔質中間層の上(表面側)に微多孔膜層を積層するための積層方式としては、上記した基布層の上に微多孔膜層を積層する場合と同様に、ラミネーション方式、又は、湿式コーティング方式のいずれを用いても良い。
【0061】
例えば、ラミネーション方式によれば、微多孔質ポリウレタンフィルムを多孔質中間層の上に接着することで、上記した微多孔膜層が基布層の上に積層形成される。このとき、微多孔質ポリウレタンフィルムと多孔質中間層とは、微多孔膜層および多孔質中間層の気体透過性および透湿性の低下を抑制するため、当然のことながら点接着又は線接着される。なお、このとき用いられる接着剤は、特に限定されるものではなく、例えば、ホットメルトタイプ、2液溶剤タイプなどが用いられる。
【0062】
例えば、湿式コーティング方式によれば、ポリウレタン樹脂液を多孔質中間層の上に均一な薄膜状に直接コーティングした後、その積層体を水中に通過させて、多孔質中間層に塗布されたポリウレタン樹脂に含まれる溶剤を水中へ溶出させつつ凝固させることで、多孔質中間層に塗布されたポリウレタン樹脂から溶剤が溶出した跡が多数の微細孔となり、結果、上記した微多孔膜層が多孔質中間層の上に直接に積層形成される。なお、直接コーティングの方式も、特に限定されるものではなく、上記のようにグラビアコータ、ナイフコータ、パイプコータ、キスコータなどの装置によって行われる塗工方式が用いられる。
【0063】
(多孔質中間層を基布層の上に積層する手段)
また、このような多孔質中間層を基布層の上(一面)に積層するための積層方式としては、湿式コーティング方式、乾式コーティング方式、又は、ラミネーション方式のいずれを用いても良い。
【0064】
例えば、湿式コーティング方式によれば、ポリウレタン樹脂液を基布層の一面に均一膜状に直接コーティングした後、その積層体を水中に通過させて、基布層に塗布されたポリウレタン樹脂に含まれる溶剤を水中へ溶出させつつ凝固させることで、そのポリウレタン樹脂から溶剤が溶出した跡が多数の細孔となり、結果、上記した多孔質中間層が基布層の上に直接に積層形成される。なお、直接コーティングの方式は、特に限定されるものではなく、例えば、グラビアコータ、ナイフコータ、パイプコータ、キスコータなどの装置によって行われる塗工方式が用いられる。
【0065】
例えば、乾式コーティング方式によれば、ポリウレタン樹脂液に発泡剤を調合した重合体溶液を基布層の一面に均一膜状に直接コーティングした後、そのポリウレタン樹脂を乾燥させて乾式凝固させることで、そのポリウレタン樹脂から発泡剤とともに溶剤が気化した後が多数の細孔となり、結果、上記した多孔質中間層が基布層の上に直接に積層形成される。なお、直接コーティングの方式は、湿式コーティング方式による場合と同様のものが用いられる。
【0066】
例えば、ラミネーション方式によれば、多孔質ポリウレタンフィルムを基布層の一面に接着することで、上記した多孔質中間層が基布層の上に積層形成される。このとき、多孔質中間層(多孔質ポリウレタンフィルム)と基布層とは、多孔質中間層の気体透過性および透湿性の低下を抑制するため、当然のことながら点接着又は線接着される。なお、このとき用いられる接着剤は、特に限定されるものではなく、例えば、ホットメルトタイプ、2液溶剤タイプなどが用いられる。
【0067】
なお、本実施の形態により得られる皮革様シート状物は、衣料用、インテリア用、鞄用、靴用、手袋用、雑貨小物用、ベルト用、ランドセル用、野球グローブ、ボール用等の一般的に皮革様シート状物が用いられているあらゆる用途分野に使用されるものである。
【実施例】
【0068】
次に、本発明の好ましい実施例について説明する。まず、本実施例の皮革様シート状物に対して行った評価方法について、以下に説明する。なお、実施例中に「部」、「%」とあるのは、いずれも重量基準であり、皮革様シート状物の特性測定値および特性評価結果は、下記の方法により得られたものである。
【0069】
(色彩)
色彩は、GretagMacbeth社製Color−Eye7000Aを用いて、皮革様シート状物に関する色相(H)、明度(V)、彩度(C)について測定したものである。
(透湿度)
透湿度は、皮革様シート状物について、JIS規格K6549「革の透湿度試験方法」に準拠して測定したものである。
(剥離強度)
剥離強度は、皮革様シート状物について、JIS規格L1089「衣料用接着布試験方法」に準拠して測定したものである。
(耐水度)
耐水度は、皮革様シート状物について、JIS規格L1092(B法)に準拠して測定したものである。
(耐摩耗性)
耐摩耗性は、下記の摩擦試験を行った皮革様シート状物(試験片)の表面変化を、下記の評価方法に基づいて評価したものである。
(摩擦試験)
摩擦試験は、皮革様シート状物について、JIS規格L0849「摩擦に対する染色堅ろう度試験方法」における「学振形摩擦試験機」を用いて、その摩擦試験機の摩擦子の先端に摩擦用白綿布(かなきん3号)を取り付け、乾燥試験の場合は摩擦用白綿布をそのままで、又、湿潤試験の場合は摩擦用白綿布を水で100%湿潤状態として、200gの荷重で、500回往復摩擦するというものである。
(耐摩耗性の評価方法)
耐摩耗性の評価は、上記摩擦試験を受けた皮革様シート状物について、その表面の中で最も変化している部分(以下「評価部分」という。)とJIS規格L0804に準拠した「変退色用グレースケール」とを比較して、試験片である皮革様シート状物の評価部分が当該「変退色用グレースケール」の何号の色票と同等又は近しいかを目視によって判定したものである。
(耐オイルコンタミネーション性)
耐オイルコンタミネーション性は、試験片である皮革様シート状物の表面に対して、低揮発性油脂としてのゴマ油(かどや製油(株)社製)を1滴だけ滴下した後、10分間放置し、その後、ゴマ油が付着した皮革様シート状物の表面をテッシュペーパーで拭き取り、その汚染による変色部分をJIS規格L0805に準拠した「汚染用グレースケール」と比較して判定したものである。
【0070】
<実施例>
本実施例の皮革様シート状物は、基布層としてポリエステルとレーヨンの混紡綾織物であり、その厚みが400μm〜420μmのものを用いる。そして、この基布層の上に、湿式コーティング方式によって厚みが80μm〜85μmで、細孔の孔径分布ピーク値が15μm〜90μmの多孔質中間層が形成される。このようにして積層された基布層と多孔質中間層との積層体に関する、透湿度、耐水度、耐摩耗性(乾式試験)、耐摩耗性(湿式試験)及び耐オイルコンタミネーション性の測定および評価結果については、表1に示す通りである。
【0071】
【表1】

【0072】
また、この多孔質中間層の上には、グラビアコータを用いてホットメルトタイプの接着剤を多数の微小点状に均一に塗布した後、湿式凝固方式により製造された厚み30μm〜35μmで微細孔の孔径分布ピーク値が0.3μm〜3μmの範囲内にある微多孔質ポリウレタンフィルムが点接着される。この点接着によって、微多孔質ポリウレタンフィルム製の微多孔膜層が多孔質中間層の上に積層形成される。なお、微多孔膜層を形成する微多孔質ポリウレタンフィルムには、予め皮革風の茶色系の着色が施されている。
【0073】
ここで、本実施例における微多孔膜層を形成する微多孔質ポリウレタンフィルムに関する特性測定値については、表2に示すとおりである。
【0074】
【表2】

【0075】
また、微多孔膜層の上には、更に皮革模様が印刷される。この皮革模様は、グラビアコータを用いたグラビア方式によって、微多孔膜層の表面に所定の印刷剤が塗工(塗布)され、かつ、この塗工後に印刷剤が乾燥されることで形成される。このときに使用される印刷剤の処方例は、以下の通りである。
(印刷剤の処方例)
ラックスキン U−2265
[セイコー化成(株)製]: 100部
メチルエチルケトン(MEK) 33.5部
ジメチルホルムアミド(DMF): 33.5部
DilacYellow PV−5822
[大日本インキ化学工業(株)製]: 1.5部
Dilac Brown PV−5818
[大日本インキ化学工業(株)製]: 1.5部
Dilac Black PV−5824
[大日本インキ化学工業(株)製]: 1.5部
【0076】
さらに、この皮革模様が印刷された状態にある微多孔膜層の上には、保護膜層が形成される。この保護膜層は、グラビアコータ(70メッシュ、深度110μmのロールを使用)を用いたグラビア塗工方式によって、微多孔膜層の上に所定の水系樹脂を加工速度10m/minで塗工(塗布)し、この塗工後に水系樹脂を乾燥させることで形成される。
【0077】
かかる場合に、水系樹脂として水系ポリウレタン樹脂(固形分20%)を用いる場合、かかる水系ポリウレタン樹脂の粘度は1000cps〜7000cpsの範囲内に調整することが好ましい。そこで、水系樹脂の処方例としては、以下の通りとなる。なお、下記する処方例に基づく水系樹脂は、その粘度が4000cpsに調整されている。
(水系樹脂の処方例)
シャインバインダー B1006(固形分40%)
(エーテル系ポリウレタン樹脂)
[松井色素化学工業(株)製]: 100部
水: 300部
【0078】
以上のようにして得られた実施例の皮革様シート状物について、上記した色彩、透湿度、剥離強度、耐水度、耐摩耗性(乾式試験)、耐摩耗性(湿式試験)、及び、耐オイルコンタミネーション性について、それぞれ測定又は評価し、その測定及び評価結果を下記する表3に示した。また、この表3には、下記する比較例1〜3に関し、本実施例の皮革様シート状物と同じ項目について測定及び評価結果が併記されている。
【0079】
【表3】

【0080】
<比較例1>
比較例1の皮革様シート状物は、上記した保護膜層が不在である点を除けば、本実施例の皮革様シート状物と共通するものである。つまり、比較例1では、上記した実施例における基布層、多孔質中間層、微多孔膜層、及び、皮革模様のみからなる表面処理層を備えたものである。
【0081】
<比較例2>
比較例2の皮革様シート状物は、本実施例の皮革様シート状物に対し、上記した保護膜層に代えて、耐オイルコンタミネーション性および表面摩耗強度(耐摩耗性)を改善する目的で、皮革模様が印刷された状態にある微多孔膜層の上に、撥水剤をグラビアコータで塗布したものである。つまり、比較例2では、上記した実施例における基布層、多孔質中間層、微多孔膜層、並びに、皮革模様及び撥水剤からなる表面処理層を備えたものである。なお、このとき使用される撥水剤の処方例は、以下の通りである。
(撥水剤の処方例)
フッ素系撥水剤(固形分20%): 5部
水: 95部
【0082】
<比較例3>
比較例3の皮革様シート状物は、本実施例の皮革様シート状物に対し、上記した水系樹脂による保護膜層に代えて、耐オイルコンタミネーション性および表面摩耗強度(耐摩耗性)を改善する目的で、皮革模様が印刷された状態にある微多孔膜層の上に、油性ポリウレタン樹脂をグラビアコータで塗布して油性樹脂製の保護膜層を形成したものである。つまり、比較例3では、上記した実施例における基布層、多孔質中間層、微多孔膜層、並びに、皮革模様及び油性樹脂製の保護膜層からなる表面処理層を備えたものである。なお、このとき使用される油性樹脂の処方例は、以下の通りである。
(油性樹脂の処方例)
油性ポリウレタン樹脂(固形分20%) 100部
【0083】
表3によれば、本実施例の皮革様シート状物は、比較例1〜3に対して、色彩、透湿度、剥離強度および耐水度に関してほぼ同等の測定結果が得られるとともに、耐摩耗性(乾式試験及び湿式試験)及び耐オイルコンタミネーション性に関してはより良好な評価結果が得られた。
【0084】
以上、実施例に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、各種寸法、形状、素材等について種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】保護膜層の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって撮影した図面代用写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体透過性および透湿性を有する皮革様シート状物において、
表面から裏面まで厚み方向に連通した多数の微細孔を有する微多孔質であって気体透過性および透湿性を有している微多孔ポリウレタン樹脂で形成されかつ疎水性又は非親水性を有している微多孔膜層と、
その微多孔膜層の上に積層される表面処理層とを備えており、
その表面処理層は、前記微多孔膜層の上に水系樹脂で形成される保護膜層を有していることを特徴とする皮革様シート状物。
【請求項2】
前記保護膜層は、前記微多孔膜層の上に前記水系樹脂が不連続的に存在することで形成されていることを特徴とする請求項1記載の皮革様シート状物。
【請求項3】
前記表面処理層は、前記微多孔膜層の上に印刷剤を用いて印刷される天然皮革を模した皮革模様を備えており、
前記保護膜層は、その皮革模様が印刷された状態にある前記微多孔膜層の上に前記水系樹脂を用いて形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の皮革様シート状物。
【請求項4】
前記微多孔膜層の下に積層される布帛からなる基布層を備えていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の皮革様シート状物。
【請求項5】
布帛からなる基布層と、その基布層の上に形成され表面から裏面まで厚み方向に連通するとともに前記微細孔より孔径が大きな細孔を多数有する多孔ポリウレタン樹脂からなる多孔質中間層とを備えており、その多孔質中間層の上には前記微多孔膜層が積層されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の皮革様シート状物。
【請求項6】
前記微多孔膜層は、前記微細孔の孔径分布のピーク値が0.3μm〜3μmの範囲内であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の皮革様シート状物。
【請求項7】
前記保護膜層は、その厚みが1μm〜10μmの範囲内であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の皮革様シート状物。
【請求項8】
気体透過性および透湿性を有する皮革様シート状物の製造方法において、
気体透過性および透湿性を有する微多孔ポリウレタン樹脂からなる微多孔膜層の上に、所定厚みで水系樹脂を塗工することにより保護膜層を形成することを特徴とする皮革様シート状物の製造方法。
【請求項9】
前記水系樹脂がグラビア塗工方式により前記微多孔膜層の上に塗布されることによって前記保護膜層が形成されるものである請求項8記載の皮革様シート状物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−228187(P2009−228187A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78756(P2008−78756)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(392017624)平松産業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】