説明

盗難抑止装置および輸送機器

【課題】エンジンが回転している状態でユーザ認証を行う場合でも、安全に盗難を抑止することができる盗難抑止装置およびそれを備えた輸送機器を提供する。
【解決手段】盗難抑止装置2のマイコン21は、エンジン50が回転している状態でIDコード読取装置28を用いてユーザ認証を行う。マイコン21は、ユーザ認証の開始から終了までの間に、エンジン50の点火を制御することにより、または燃料噴射を制御することにより、エンジン50の回転速度を予め定められた安全停止速度以下に抑制し、ユーザ認証が成功した失敗した時点でエンジン50を停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸送機器の盗難を抑止する盗難抑止装置(イモビライザ)およびそれを備えた輸送機器に関する。
【背景技術】
【0002】
盗難抑止装置が装着された自動二輪車では、バッテリが放電状態にある場合またはバッテリの配線が外れている場合には、盗難抑止装置に電力が供給されないため、ユーザ認証を行うことができない。その結果、正規のユーザであっても自動二輪車を運転することができなくなる。
【0003】
こうした不便を解消するため、バッテリを有しない車両でも、ユーザ認証を行うことができる無断運転防止装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この無断運転防止装置では、エンジンにより駆動される発電機の出力が無断運転防止装置の電源として使用される。この場合、キックレバー等によりエンジンを始動させることにより、発電機から無断運転防止装置に電力が供給され、エンジンが回転している状態でユーザ認証が行われる。ユーザ認証が成功したとき(そのユーザが正規のユーザであると認定されたとき)には、エンジンの回転が継続される。一方、ユーザ認証が失敗したとき(そのユーザが正規のユーザであると認定されなかったとき)には、エンジンの回転が停止される。
【0004】
上記の無断運転防止装置では、ユーザ認証が終了する前(つまり、そのユーザが正規のユーザであるか否かが判定される前)にエンジンが始動されるので、ユーザ認証中は、正規のユーザ以外の者が車両を走行させることが可能となる。その場合、車両の走行中にユーザ認証が失敗すると、エンジンの回転が停止される。
【0005】
しかしながら、自動二輪車に上記の無断運転防止装置が搭載された場合、コーナリング等で車体が傾いているときにエンジンの回転が急に停止することにより自動二輪車が転倒する可能性がある。そのため、上記の無断運転防止装置を実際の車両に用いることは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−18753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、エンジンが回転している状態でユーザ認証を行う場合でも、安全に盗難を抑止することができる盗難抑止装置およびそれを備えた輸送機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の一局面に従う盗難抑止装置は、エンジンを備えた輸送機器の盗難を抑止する盗難抑止装置であって、エンジンの回転速度を検出する検出部と、エンジンが回転している状態でユーザ認証を行う認証部と、認証部によるユーザ認証の開始から終了までの間にエンジンの回転速度が予め定められた許容回転速度以下に抑制されるようにエンジンを制御し、認証部によるユーザ認証が失敗した場合にエンジンを停止させる制御部とを備えたものである。
【0009】
その盗難抑止装置においては、エンジンが回転している状態で認証部によりユーザ認証が行われる。また、検出部によりエンジンの回転速度が検出される。認証部によるユーザ認証の開始から終了までの間には、エンジンの回転速度が予め定められた許容回転速度以下に抑制されるように制御部によりエンジンが制御される。そして、ユーザ認証が失敗した場合に、制御部によりエンジンが停止される。それにより、エンジンの急停止に起因する輸送機器の急停止が防止される。その結果、エンジンが回転している状態でユーザ認証を行う場合でも、輸送機器の盗難を安全に抑止することが可能となる。
【0010】
(2)制御部は、認証部によるユーザ認証が成功した場合にエンジンの回転速度の抑制を解除してもよい。
【0011】
この場合、ユーザ認証が成功した場合には、エンジンの回転が維持される。それにより、正規のユーザは、輸送機器を通常の走行状態に円滑に移行させることができる。
【0012】
(3)許容回転速度は、エンジンのアイドリング状態での回転速度であってもよい。この場合、エンジンの回転速度がアイドリング状態での回転速度以下に抑制される。
【0013】
(4)盗難抑止装置は、エンジンとともに回転する発電機と、発電機から供給される交流電流を整流する整流器とをさらに備え、検出部は、整流器から出力される電圧の波形に基づいてエンジンの回転速度を検出してもよい。
【0014】
この場合、エンジンの回転速度を検出するために輸送機器における既存の発電機および整流器を有効に活用することができる。それにより、部品点数の増加による製造コストの上昇を回避することが可能となる。
【0015】
(5)盗難抑止装置は、エンジンの回転に同期してエンジンの点火タイミングを制御するパルス信号を発生するパルス発生装置をさらに備え、検出部は、パルス発生装置により発生されるパルス信号に基づいてエンジンの回転速度を検出してもよい。
【0016】
この場合、エンジンの回転速度を検出するために輸送機器における既存のパルス発生装置を有効に活用することができる。それにより、部品点数の増加による製造コストの上昇を回避することが可能となる。
【0017】
(6)制御部は、認証部によるユーザ認証の開始から終了までの間にエンジンの回転速度が許容回転速度以下に抑制されるようにエンジンの点火を制御してもよい。
【0018】
この場合、追加の部品を設けることなく、エンジンの回転速度を許容回転速度以下に抑制することができる。それにより、部品点数の増加による製造コストの上昇を回避することが可能となる。
【0019】
(7)制御部は、認証部によるユーザ認証の開始から終了までの間にエンジンの回転速度が許容回転速度以下に抑制されるようにエンジンの燃料噴射を制御してもよい。
【0020】
この場合、追加の部品を設けることなく、エンジンの回転速度を許容回転速度以下に抑制することができる。それにより、部品点数の増加による製造コストの上昇を回避することが可能となる。
【0021】
(8)本発明の他の局面に従う輸送機器は、本体部と、本体部に設けられるエンジンと、エンジンの回転により本体部を移動させる駆動部と、盗難を抑止する盗難抑止装置とを備え、盗難抑止装置は、エンジンの回転速度を検出する検出部と、エンジンが回転している状態でユーザ認証を行う認証部と、認証部によるユーザ認証の開始から終了までの間にエンジンの回転速度が予め定められた許容回転速度以下に抑制されるようにエンジンを制御し、認証部によるユーザ認証が失敗した場合にエンジンを停止させるエンジンを制御する制御部とを含むものである。
【0022】
その輸送機器においては、エンジンの回転により駆動部が本体部を移動させる。この場合、盗難抑止装置においては、エンジンが回転している状態で認証部によりユーザ認証が行われる。また、検出部によりエンジンの回転速度が検出される。認証部によるユーザ認証の開始から終了までの間には、エンジンの回転速度が予め定められた許容回転速度以下に抑制されるように制御部によりエンジンが制御される。そして、ユーザ認証が失敗した場合に、制御部によりエンジンが停止される。それにより、エンジンの急停止に起因する輸送機器の急停止が防止される。その結果、エンジンが回転している状態でユーザ認証を行う場合でも、輸送機器の盗難を安全に抑止することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、エンジンが回転している状態でユーザ認証を行う場合でも、輸送機器の盗難を安全に抑止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施の形態に係る盗難抑止装置を備えた自動二輪車の電気系統の構成を示すブロック図である。
【図2】本実施の形態に係る自動二輪車を一側方から見た側面図である。
【図3】本実施の形態に係る自動二輪車を他側方から見た側面図である。
【図4】図1の盗難抑止装置の動作を示すフローチャートである。
【図5】バッテリがオープン状態である場合にレクチファイアレギュレータから出力される電圧を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。以下の実施の形態では、本発明に係る盗難抑止装置を輸送機器の一例としてスクータ型の自動二輪車に適用した場合について説明する。
【0026】
(1)盗難抑止装置および自動二輪車の構成
図1は本発明の一実施の形態に係る盗難抑止装置を備えた自動二輪車の電気系統の構成を示すブロック図である。図2は本実施の形態に係る自動二輪車を一側方から見た側面図、図3は本実施の形態に係る自動二輪車を他側方から見た側面図である。
【0027】
図1に示すように、スクータ型の自動二輪車1は、盗難抑止装置2、半波整流型のレクチファイアレギュレータ3、ACマグネトウジェネレータ4、バッテリ5、AC(交流)負荷6、DC(直流)負荷7、メインスイッチ9、パルス発生装置10、エンジンコントロールユニット(以下、ECUと呼ぶ)11、イグニッションコイル12およびエンジン50を含む。
【0028】
この自動二輪車1は、図3に示されるキックレバー60を踏み下ろしてエンジン50を始動するキック始動式である。
【0029】
図1の盗難抑止装置2は、マイコン(マイクロコンピュータ)21、入力回路22、AD(アナログ−デジタル)変換回路25、出力制御回路26、電源回路27およびID(識別子)読取装置28を含む。マイコン21はメモリを内蔵する。なお、メインスイッチ9をオンオフするためのキーの保持部には、トランスポンダ29が取り付けられている。
【0030】
ACマグネトウジェネレータ4は、エンジン50に取り付けられている。このACマグネトウジェネレータ4は、図3のキックレバー60を踏み下ろすことによりエンジン50とともに回転して発電を行い、交流電圧を発生する。ACマグネトウジェネレータ4には、レクチファイアレギュレータ3およびAC負荷6が接続されている。AC負荷6はヘッドライト等を含む。
【0031】
レクチファイアレギュレータ3には、バッテリ5が着脱自在に接続されているとともに、DC負荷7が接続されている。DC負荷7はメータ等を含む。また、レクチファイアレギュレータ3には、メインスイッチ9を介して盗難抑止装置2の入力回路22が接続されているとともに、盗難抑止装置2の電源回路27が接続されている。レクチファイアレギュレータ3は、ACマグネトウジェネレータ4から供給される交流電流を半波整流し、半波整流波形を有する電圧(以下、半波整流電圧と呼ぶ)を出力する。
【0032】
ECU11には、パルス発生装置10が接続されているとともに、盗難抑止装置2の出力制御回路26が接続されており、さらにイグニッションコイル12が接続されている。イグニッションコイル12は、エンジン50内の混合気に点火するための点火プラグに接続されている。
【0033】
パルス発生装置10は、ピックアップコイル(パルサコイル)等により構成される。このパルス発生装置10は、ACマグネトウジェネレータ4の近傍に配置され、ACマグネトウジェネレータ4が1回転するごとにパルス信号を点火タイミング信号として出力する。
【0034】
盗難抑止装置2において、入力回路22はAD変換回路25に接続され、AD変換回路25はマイコン21に接続されている。AD変換回路25は、入力回路22により入力された電圧をデジタル信号に変換する。マイコン21には出力制御回路26およびIDコード読取装置28が接続されている。
【0035】
電源回路27は、入力回路22、AD変換回路25、マイコン21、出力制御回路26およびIDコード読取装置28に電力を供給するように構成されている。
【0036】
マイコン21のメモリには、後述する図4のユーザ認証プログラムPRGおよび正規のユーザのIDコードが書き換えおよび読み出し可能に記憶されている。また、マイコン21のメモリには、安全停止速度Feが読み出し可能に記憶されている。
【0037】
ここで、安全停止速度Feは、走行中の自動二輪車1を安全に停止させることができるエンジン50の回転速度(許容回転速度)を意味する。本実施の形態では、安全停止速度Feはアイドリング回転速度(エンジン50のアイドリング状態での回転速度)に設定されている。アイドリング回転速度は例えば1500r/minである。
【0038】
図2および図3に示す自動二輪車1においては、本体フレーム31の前端にヘッドパイプ32が設けられる。ヘッドパイプ32の上端にはハンドル33が設けられる。ハンドル33の下部に盗難抑止装置2が設けられる。ヘッドパイプ32にフロントフォーク34が取り付けられる。この状態で、フロントフォーク34は、ヘッドパイプ32の軸心を中心として所定の角度範囲内で回転可能となっている。フロントフォーク34の下端に前輪35が回転可能に支持される。
【0039】
本体フレーム31の中央部には、エンジン50が設けられる。エンジン50にはインジェクタ36が取り付けられる。エンジン50のシリンダヘッドの近傍の本体フレーム31には、図1のイグニッションコイル12(図2および図3には図示せず)が設けられる。ECU11は、シート45の下部におけるサイドカバー内に設けられる。また、図2に示すように、エンジン50には、ACマグネトウジェネレータ4が取り付けられ、ACマグネトウジェネレータ4の近傍に図1のパルス発生装置10(図2および図3には図示せず)が設けられる。
【0040】
また、図3に示すように、本体フレーム31の中央部に、レクチファイアレギュレータ3およびキックレバー60が設けられる。エンジン50の後方に延びるように、本体フレーム31にリアアーム38が接続される。リアアーム38は、後輪39および後輪ドリブンスプロケット40を回転可能に保持する。後輪ドリブンスプロケット40には、チェーン41が取り付けられる。
【0041】
(2)盗難抑止装置の動作
次に、本実施の形態に係る盗難抑止装置2の動作について説明する。ここで、バッテリ5が放電状態であるかまたはバッテリ5の配線が外れているかによりバッテリ5から盗難抑止装置2に電力が供給されない状態をオープン状態と呼ぶ。一方、バッテリ5から盗難抑止装置2に電力が供給される状態をクローズド状態と呼ぶ。
【0042】
図4は図1の盗難抑止装置2の動作を示すフローチャートである。図5はバッテリ5がオープン状態である場合にレクチファイアレギュレータ3から出力される電圧を示す波形図である。
【0043】
ユーザはメインスイッチ9をオンにし、キックレバー60を踏み下ろす。それにより、ACマグネトウジェネレータ4が回転して発電を行い、レクチファイアレギュレータ3に交流電流を供給する。レクチファイアレギュレータ3は、ACマグネトウジェネレータ4から供給される交流電流を半波整流し、半波整流電圧を出力する。
【0044】
バッテリ5がクローズド状態である場合には、レクチファイアレギュレータ3から出力される半波整流電圧がバッテリ5により平滑化され、メインスイッチ9を通して盗難抑止装置2の入力回路22および電源回路27に平滑化された電圧が与えられる。バッテリ5がオープン状態である場合には、レクチファイアレギュレータ3から出力される半波整流電圧がメインスイッチ9を通してそのまま盗難抑止装置2の入力回路22および電源回路27に与えられる。それにより、盗難抑止装置2が動作する。この場合、電源回路27は、電力をマイコン21、入力回路22、AD変換回路25およびIDコード読取装置28に与える。
【0045】
図4において、マイコン21は、まず、バッテリ状態判定工程(ステップS1)で、入力回路22により入力される電圧の波形に基づいて、バッテリ5がオープン状態であるか否かを判定する。すなわち、マイコン21は、入力される電圧が半波整流波形を有する場合には、バッテリ5がオープン状態であると判定し、入力される電圧が平滑化された波形を有する場合には、バッテリ5がオープン状態でない(クローズド状態である)と判定する。
【0046】
この判定の結果、バッテリ5がオープン状態である場合には、バッテリ5から盗難抑止装置2に電力が供給されないので、マイコン21は、第1エンジン点火工程(ステップS2)に移行し、出力制御回路26をオン状態にする。それにより、出力制御回路26からECU11に電力が供給され、ECU11が動作を開始する。この場合、ECU11に接続されたイグニッションコイル12に高電圧が発生し、点火プラグがエンジン50内の混合気体に点火を行う。その結果、エンジン50が始動する。
【0047】
一方、パルス発生装置10は、ACマグネトウジェネレータ4の回転に伴ってエンジン50のクランクの1回転ごとに点火タイミング信号をECU11に与える。それにより、点火タイミング信号に応答してイグニッションコイル12に高電圧が発生し、点火プラグがエンジン50内の混合気に点火を行う。その結果、エンジン50の回転が継続し、ACマグネトウジェネレータ4からレクチファイアレギュレータ3およびメインスイッチ9を経由して盗難抑止装置2に継続的に電力が供給される。
【0048】
この状態で、マイコン21は、ユーザ認証開始工程(ステップS3)に移行し、ユーザ認証を開始する。ユーザ認証では、マイコン21は、IDコード読取装置28を通してトランスポンダ29に記憶されたIDコードを読み取り、予めメモリに記憶されたIDコードと比較する。
【0049】
ユーザ認証中において、マイコン21は、現在エンジン回転速度検出工程(ステップS4)で、レクチファイアレギュレータ3から出力される電圧の波形に基づいて、現在エンジン回転速度F0を検出する。この現在エンジン回転速度F0は、現時点でのエンジン50の回転速度を意味し、経時的に変化する。
【0050】
バッテリ5がオープン状態であるときには、図5に示すように、レクチファイアレギュレータ3から半波整流電圧が出力され、メインスイッチ9を通して盗難抑止装置2の入力回路22に入力される。このとき、エンジン50の1回転で発生する半波の数は、ACマグネトウジェネレータ4の極数に比例する。例えば、8極のACマグネトウジェネレータ4の場合には、エンジン50の1回転で4つの半波が発生し、6極のACマグネトウジェネレータ4の場合には、エンジン50の1回転で3つの半波が発生する。したがって、この比例関係に基づいて、マイコン21は、電圧波形の周期Tからエンジン50の回転速度を算出することにより現在エンジン回転速度F0を検出する。なお、周期Tは、電圧が予め定められたしきい値Vrefを超えてから次にしきい値Vrefを超えるまでの時間である。
【0051】
その後、マイコン21は、現在エンジン回転速度判定工程(ステップS5)に移行し、メモリから安全停止速度Feを読み出し、現在エンジン回転速度F0が安全停止速度Fe以下であるか否かを判定する。
【0052】
この判定の結果、現在エンジン回転速度F0が安全停止速度Fe以下でない(つまり、現在エンジン回転速度F0が安全停止速度Feを超えている)場合には、マイコン21は、エンジン50の回転速度を低下させるために、第1エンジン点火停止工程(ステップS6)に移行し、出力制御回路26を一時的にオフ状態にする。それにより、イグニッションコイル12に高電圧が発生せず、点火プラグによるエンジン50内の混合気への点火が一時的に停止する。その後、マイコン21は、出力制御回路26を再びオン状態にし、現在エンジン回転速度検出工程(ステップS4)に戻る。
【0053】
現在エンジン回転速度判定工程(ステップS5)での判定の結果、現在エンジン回転速度F0が安全停止速度Fe以下である場合には、マイコン21は、ユーザ認証終了判定工程(ステップS7)に移行し、ユーザ認証が終了したか否かを判定する。
【0054】
この判定の結果、ユーザ認証が終了していない場合には、マイコン21は、現在エンジン回転速度検出工程(ステップS4)に移行し、ユーザ認証が終了するまでステップS4〜S7の処理を繰り返す。その結果、ユーザ認証が終了するまでエンジン50の回転速度が安全停止速度Fe以下に抑制される。
【0055】
ユーザ認証終了判定工程(ステップS7)での判定の結果、ユーザ認証が終了した場合には、マイコン21は、ユーザ認証結果判定工程(ステップS8)に移行し、ユーザ認証が成功したか失敗したかを判定する。トランスポンダ29に記憶されたIDコードと予めメモリに記憶されたIDコードとが一致する場合には、ユーザ認証が成功したと判定され、これらが一致しない場合には、ユーザ認証が失敗したと判定される。
【0056】
この判定の結果、ユーザ認証が成功したときには、自動二輪車1を運転しようとしている者は正規のユーザであると考えられるため、マイコン21は、第2エンジン点火工程(ステップS9)に移行し、出力制御回路26のオン状態を継続させる。それにより、引き続き点火タイミング信号に応答してイグニッションコイル12に高電圧が発生し、点火プラグがエンジン50内の混合気に点火を行う。その結果、正規のユーザは自動二輪車1を通常どおり運転することが可能となる。
【0057】
一方、ユーザ認証結果判定工程(ステップS8)での判定の結果、ユーザ認証が失敗した場合には、自動二輪車1を運転しようとしている者は正規のユーザでないと考えられるため、マイコン21は、第2エンジン点火停止工程(ステップS10)に移行し、出力制御回路26をオフ状態にする。それにより、イグニッションコイル12に高電圧が発生せず、点火プラグによるエンジン50内の混合気への点火が停止する。この場合、エンジン50の回転速度が安全停止速度Fe以下に抑制されているので、このままエンジン50を停止しても安全である。その結果、自動二輪車1の転倒を防止して自動二輪車1を安全に停止させつつ、自動二輪車1の盗難を抑止することが可能となる。
【0058】
一方、バッテリ状態判定工程(ステップS1)での判定の結果、バッテリ5がオープン状態でない場合には、バッテリ5から盗難抑止装置2に電力が供給されているので、マイコン21は、直ちにユーザ認証開始工程(ステップS3)に移行し、ユーザ認証を行う。この場合、盗難抑止装置2にはバッテリ5から電力が供給される。
【0059】
(3)盗難抑止装置の効果
このように、本実施の形態に係る盗難抑止装置2によれば、ユーザ認証の開始から終了までの間、エンジン50の回転速度が安全停止速度Fe以下に抑制され、ユーザ認証が失敗した場合にエンジン50が低速回転状態から停止状態に移行する。そのため、エンジン50の回転速度の急激な低下による自動二輪車1の失速が回避される。したがって、その結果、自動二輪車1を安全に停止させつつ自動二輪車1の盗難を抑止することが可能となる。
【0060】
また、エンジン50の回転速度を検出するために、既存の部品であるレクチファイアレギュレータ3が用いられるので、新たな部品および配線を追加する必要がない。そのため、部品点数の増加による製造コストの上昇を回避することが可能となる。
【0061】
さらに、点火プラグによるエンジン50内の混合気への点火を一時的に停止することによりエンジン50の回転速度を安全回転速度Fe以下に抑制しているので、新たな部品および配線を追加する必要がない。そのため、部品点数の増加による製造コストの上昇を回避することが可能となる。
【0062】
(4)他の実施の形態
(a)上記の実施の形態では、バッテリ5がオープン状態である場合に、レクチファイアレギュレータ3から出力される電圧の波形に基づいてエンジン50の回転速度が検出されるが、エンジン50の回転速度の検出方法はこれに限定されない。例えば、図1に破線で示すように、盗難抑止装置2内にマイコン21に接続される入力回路23をさらに設け、入力回路23を通してパルス発生装置10からの点火タイミング信号を盗難抑止装置2のマイコン21に入力してもよい。それにより、マイコン21は、点火タイミング信号に基づいてエンジン50の回転速度を検出することができる。
【0063】
この場合、エンジン50の回転速度を検出するために、既存の部品であるパルス発生装置10と入力回路23とを接続する配線のみを追加すればよく、新たな部品を追加する必要がない。そのため、部品点数の増加による製造コストの上昇を回避することが可能となる。
【0064】
(b)上記の実施の形態では、ACマグネトウジェネレータ4から供給される交流電流がレクチファイアレギュレータ3により半波整流され、レクチファイアレギュレータ3から出力される半波整流電圧に基づいてエンジン50の回転速度が検出されるが、これに限定されない。例えば、しきい値Vrefを適当に決定し、ACマグネトウジェネレータ4から出力される交流電流を全波整流し、全波整流波形を有する電圧に基づいてエンジン50の回転速度を検出してもよい。
【0065】
(c)上記の実施の形態では、安全停止速度Feがアイドリング回転速度に設定されているが、安全停止速度Feはこれに限定されない。自動二輪車1の走行特性等に応じて、安全停止速度Feをアイドリング回転速度とは別の値に設定することも可能である。
【0066】
(d)上記の実施の形態では、点火プラグによるエンジン50内の混合気への点火を一時的に停止することによりエンジン50の回転速度を安全回転速度Fe以下に抑制しているが、エンジン50の回転速度を抑制する方法はこれに限定されない。例えば、図2および図3に示されるインジェクタ36による燃料噴射を一時的に停止することによりエンジン50の回転速度を抑制してもよい。
【0067】
この場合、新たな部品および配線を追加する必要がない。そのため、部品点数の増加による製造コストの上昇を回避することが可能となる。
【0068】
(e)上記の実施の形態では、キックレバー60によりエンジン50が始動されるが、盗難抑止装置2はキックレバー60を有しない自動二輪車にも適用することができる。この場合には、バッテリ5がオープン状態である場合にユーザが自動二輪車を押すことによりエンジン50を始動することができる。
【0069】
(f)上記の実施の形態では、盗難抑止装置2を輸送機器の一例としてスクータ型の自動二輪車1に適用しているが、これに限定されない。盗難抑止装置2をスクータ型以外の形式の自動二輪車(例えば、鞍乗型自動二輪車)に適用してもよい。
【0070】
また、盗難抑止装置2は自動三輪車、自動四輪車、および船舶等の種々の輸送機器に適用することも可能である。
【0071】
さらに、盗難抑止装置2はバッテリを有しない輸送機器に適用することも可能である。
【0072】
(5)請求項の各構成要素と実施の形態の各構成要素との対応の対応
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各構成要素との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。
【0073】
上記実施の形態では、ACマグネトウジェネレータ4、レクチファイアレギュレータ3およびマイコン21が検出部の一例であり、パルス発生装置10およびマイコン21が検出部の他の例であり、マイコン21、IDコード読取装置28およびトランスポンダ29が認証部の例であり、マイコン21、出力制御回路26およびECU11、イグニッションコイル12および点火プラグが制御部の一例であり、マイコン21およびインジェクタ36が制御部の他の例であり、安全停止速度Feが許容回転速度の例である。
【0074】
また、ACマグネトウジェネレータ4が発電機の例であり、レクチファイアレギュレータ3が整流器の例であり、パルス発生装置10がパルス発生装置の例である。
【0075】
さらに、盗難抑止装置2および後輪39を除く自動二輪車1の部分が本体部の例であり、後輪39が駆動部の例である。
【0076】
請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する他の種々の構成要素を用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、自動三輪車、自動四輪車、および船舶等の種々の輸送機器等に利用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 自動二輪車
2 盗難抑止装置
3 レクチファイアレギュレータ
4 ACマグネトウジェネレータ
5 バッテリ
6 AC負荷
7 DC負荷
9 メインスイッチ
10 パルス発生装置
11 ECU
12 イグニッションコイル
21 マイコン
22 入力回路
25 AD変換回路
26 出力制御回路
27 電源回路
28 ID読取装置
29 トランスポンダ
31 本体フレーム
32 ヘッドパイプ
33 ハンドル
34 フロントフォーク
35 前輪
36 インジェクタ
38 リアアーム
39 後輪
40 後輪ドリブンスプロケット
41 チェーン
45 シート
50 エンジン
60 キックレバー
Fe 安全停止速度
PRG ユーザ認証プログラム
T 周期
Vref しきい値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを備えた輸送機器の盗難を抑止する盗難抑止装置であって、
前記エンジンの回転速度を検出する検出部と、
前記エンジンが回転している状態でユーザ認証を行う認証部と、
前記認証部によるユーザ認証の開始から終了までの間に前記エンジンの回転速度が予め定められた許容回転速度以下に抑制されるように前記エンジンを制御し、前記認証部によるユーザ認証が失敗した場合に前記エンジンを停止させる制御部とを備えた、盗難抑止装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記認証部によるユーザ認証が成功した場合に前記エンジンの回転速度の抑制を解除する、請求項1記載の盗難抑止装置。
【請求項3】
前記許容回転速度は、前記エンジンのアイドリング状態での回転速度である、請求項1または2記載の盗難抑止装置。
【請求項4】
前記エンジンとともに回転する発電機と、
前記発電機から供給される交流電流を整流する整流器とをさらに備え、
前記検出部は、前記整流器から出力される電圧の波形に基づいて前記エンジンの回転速度を検出する、請求項1〜3のいずれかに記載の盗難抑止装置。
【請求項5】
前記エンジンの回転に同期して前記エンジンの点火タイミングを制御するパルス信号を発生するパルス発生装置をさらに備え、
前記検出部は、前記パルス発生装置により発生されるパルス信号に基づいて前記エンジンの回転速度を検出する、請求項1〜3のいずれかに記載の盗難抑止装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記認証部によるユーザ認証の開始から終了までの間に前記エンジンの回転速度が前記許容回転速度以下に抑制されるように前記エンジンの点火を制御する、請求項1〜5のいずれかに記載の盗難抑止装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記認証部によるユーザ認証の開始から終了までの間に前記エンジンの回転速度が前記許容回転速度以下に抑制されるように前記エンジンの燃料噴射を制御する、請求項1〜5のいずれかに記載の盗難抑止装置。
【請求項8】
本体部と、
前記本体部に設けられるエンジンと、
前記エンジンの回転により前記本体部を移動させる駆動部と、
盗難を抑止する盗難抑止装置とを備え、
前記盗難抑止装置は、
前記エンジンの回転速度を検出する検出部と、
前記エンジンが回転している状態でユーザ認証を行う認証部と、
前記認証部によるユーザ認証の開始から終了までの間に前記エンジンの回転速度が予め定められた許容回転速度以下に抑制されるように前記エンジンを制御し、前記認証部によるユーザ認証が失敗した場合に前記エンジンを停止させる前記エンジンを制御する制御部とを含む、輸送機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−298398(P2009−298398A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116150(P2009−116150)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(000191858)ヤマハモーターエレクトロニクス株式会社 (98)
【Fターム(参考)】