説明

目標追跡システム及び目標追跡方法

【課題】 多重仮説追尾にパーティクルフィルタを適用する場合でも、演算量を抑制しながら、高精度に目標が追跡できるようにする。
【解決手段】 目標からの信号波に基づき当該目標を検出して検出目標位置として出力する検出器12と、少なくとも外乱や測定誤差に起因する揺らぎを生成して出力する揺らぎ生成分配器16と、前記検出目標位置に基づき目標の真の位置を推定し、その際に前記揺らぎに基づき仮想粒子を設定して、当該仮想粒子を用いて前記真の目標位置を推定する予測推定器20と、を備えることを特徴とする目標追跡システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の仮想粒子を用いて目標の位置を予測する際の処理負荷を低減した目標追跡システム及び目標追跡方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダー、ソーナー、ライダー等を用いて目標を検出して、追跡する方法として、例えば特許文献1に示すように多重仮説追尾法(MHT:Multiple Hypothesis Tracking)が広く使われている。MHTは複数の目標の追跡が可能であることから、誤検出や検出漏れに対処できる派生方法が数多く存在する。
【0003】
基本的には、前探信による目標位置の検出結果を用いて得られた現探信での目標位置の予測と、現探信での目標位置の検出結果から、現探信での目標の真の位置を推定し、この推定結果から次の探信による目標位置を予測する、という処理を繰り返すことによって、目標の軌跡(トラック)を得る。
【0004】
MHTで予測を行う際には、カルマンフィルタを用いられることが多い。一方、目標の誤検出や検出漏れの頻度が高くない場合はMHTの枠組みを用いず、カルマンフィルタのみで目標を追跡することが多い。
【0005】
ところが近年、非特許文献1に示すような、システムモデルや観測モデルが非ガウシアン系の場合にも対応できるパーティクルフィルタが広く用いられるようになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009‐192550号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】樋口知之,"粒子フィルタ",電子情報通信学会誌,Vol.88,No.12,2005.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、パーティクルフィルタを用いる場合は、仮想粒子の数が多い程、より正確にシステムモデルや観測モデルに追随することになるため精度が上がるが、その反面、演算量が増大するという問題がある。加えて、仮想粒子数については、最適な粒子数を求める指針がこれまで提案されていなかった。
【0009】
そこで、本発明の主目的は、多重仮説追尾法にパーティクルフィルタを適用する場合でも、演算量を抑制しながら、高精度に目標が追跡できるようにした目標追跡システム及び目標追跡方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、目標追跡システムにかかる発明は、目標からの信号波に基づき当該目標を検出して検出目標位置として出力する検出器と、少なくとも外乱や測定誤差に起因する揺らぎを生成して出力する揺らぎ生成分配器と、検出目標位置に基づき目標の真の位置を推定し、その際に揺らぎに基づき仮想粒子を設定して、当該仮想粒子を用いて真の目標位置を推定する予測推定器と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、目標追跡方法にかかる発明は、目標からの信号波に基づき当該目標を検出して検出目標位置として出力する検出手順と、少なくとも外乱や測定誤差に起因する揺らぎを生成して出力する揺らぎ生成分配手順と、検出目標位置に基づき目標の真の位置を推定し、その際に揺らぎに基づき仮想粒子を設定して、当該仮想粒子を用いて真の目標位置を推定する予測推定手順と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、検出目標位置に基づき目標の真の位置を推定し、その際に揺らぎに基づき仮想粒子を設定するので、真の目標位置の予測推定処理に用いられる仮想粒子の数が少なくでき、これにより多重仮説追尾法にパーティクルフィルタを適用する場合でも、演算量を抑制しながら、高精度に目標が追跡できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかる目標追跡システムのブロック図である。
【図2】第1の実施形態にかかる目標追跡システムの動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の第2の実施形態にかかる目標追跡システムのブロック図である。
【図4】本発明の第3の実施形態にかかる目標追跡システムにおける仮想粒子の分布が1次元の場合を示した図である。
【図5】第3の実施形態にかかる目標追跡システムにおける尤度の包絡線により形成された分布曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1の実施形態>
本発明の実施の形態を説明する。図1は、本実施形態にかかる目標追跡システム2のブロック図である。目標追跡システム2は、データ入力部10、目標位置推定装置3、トラック出力部11を備える。目標位置推定装置3は、検出器12、複数の予測推定器20、揺らぎ生成分配器16、トラック生成器14を含んでいる。また、予測推定器20は、同じ機能をなす予測推定器20a〜20nにより形成されて、各予測推定器20a〜20nは、予測部18、推定部19を含んでいる。なお、nは、1以上の正の整数である。
【0015】
データ入力部10は、電波、音波、光波等の振幅、位相、変調方法といった波の時系列的に変動する連続波形情報を含む受信波(信号波)を取得する少なくとも1以上のセンサ素子から構成されるレーダー、ソーナー、ライダー等である。
【0016】
なお、複数のセンサ素子を配置する場合には、一般的に各センサ素子は直線上に半波長間隔で配置される。しかし、本実施形態はかかる配置に限定しない。例えば、各センサ素子をリング形状に配置する構成、球面形状をなすように配置する構成、結晶格子状をなすように配置する構成等が可能である。また、各センサ素子は、同じ感度特性や波長特性等を持つことが好ましいが、本実施形態はこれに限定しない。即ち、各センサ素子は、異なる感度特性、異なる波長特性を持ち場合であっても、本発明は適用可能である。
【0017】
検出器12は、データ入力部10から受信した信号に基づき目標位置を検出する目標位置検出処理を行う。この検出結果は、検出目標位置として予測推定器20に出力される。
【0018】
このとき、データ入力部10から受信した信号に対して直接目標位置検出処理を行ってもよく、また受信した信号に対してフーリエ変換等の直交関数による変換処理等を行った後に目標位置検出処理を行ってもよい。
【0019】
目標位置検出処理は、公知の方法が適用できる。例えば、最も簡便な目標位置検出処理方法として、目標で反射された反射波と送信波とを比較する方法が例示できる。この方法は、送信波をテンプレートとして、この送信波とエコーを含む受信波との相関を取り、その相関係数が予め定めた閾値より大きい場合に、受信波を受信した方向に、かつ、エコー受信までの時間から目標位置を検出する。
【0020】
他の目標検出処理方法として、目標から発せられる反射波(受信波)を様々な雑音環境で予め登録し、登録された反射波をテンプレートとして、このテンプレートと目標検出時に受信した受信波との相関を求めて目標位置を検出する方法が例示できる。また、この場合には、登録されたテンプレートをニューラルネットワーク、サポートベクターマシン、アダブーストのような機械学習アルゴリズムにより予め学習し、この学習結果に基づき受信波のパターン認識を行うことにより目標位置を検出することも可能である。
【0021】
この目標位置検出処理は、データ入力部10からのデータ入力に従って逐次実施してもよく、また予め定めたタイミングで定期的に実施してもよい。さらに、外部にある別のセンサからの出力やオペレータからの指示に従い実施してもよい。
【0022】
なお、アクティブソーナーからの受信波に基づき目標位置検出処理を行う場合、送信波が発信されてから一定時間は、至近距離に存在する物体等による反射波が顕著になるので、かかる反射波を含む受信波に基づき目標位置を検出すると、目標位置検出誤差が大きくなる。そこで、このような場合には、かかる時間帯における受信波に基づき目標位置の検出を行わないことが好ましい。
【0023】
推定部19は、検出器12からの検出目標位置と、後述する予測部18が予測した予測目標位置とに基づき、現時点における真の目標位置を推定して、これを推定目標位置として出力する位置推定処理を行う。
【0024】
即ち、後述するように、予測部18は、検出器12が検出した検出目標位置に対して複数の仮想粒子を用いて目標位置を予測する。推定部19は、検出器12が検出した検出目標位置と、予測部18が予測した予測目標位置とに基づき現時点における真の目標位置を推定する。
【0025】
位置推定処理方法としては以下の方法が例示できる。即ち、予測部18が各々の仮想粒子に対して予測した予測目標位置に対して、真の目標位置としての尤もらしさを示す尤度を算出する。そして、この尤度を重みとして、重み付けされた複数の予測目標位置の平均値を真の目標位置と推定とする。
【0026】
なお、尤度の算出方法としては、各予測目標位置と検出目標位置との距離の逆数又は距離の2乗の逆数の定数倍を尤度とする方法が利用できる。また、各予測目標位置と検出目標位置との距離を全仮想粒子の位置の誤差共分散で割ったマハラノビス距離を求め、そのマハラノビス距離の逆数又はマハラノビス距離の2乗の逆数の定数倍を尤度とする方法が利用できる。また、これら距離やマハラノビス距離又は距離やマハラノビス距離の2乗の逆数の定数倍を指数に含む指数関数の定数倍を、尤度とすることも可能である。
【0027】
予測部18は、予め運動モデルを記憶して、この運動モデルと推定部19からの推定目標位置とに基づき、複数の仮想粒子を用いて予測目標位置を予測して出力する位置予測処理を行う。
【0028】
運動モデルは、目標の初期位置、速度、加速度等の運動パラメータと、後述する揺らぎ生成分配器16から得られる各運動パラメータに対する外乱や測定誤差等に起因する揺らぎと、を含むモデルである。また、運動パラメータとしては、例えば幅広く採用されている等速直線運動を用いる方法がある。
【0029】
そして、推定部19からの推定目標位置を運動モデルに適用して、現時点より未来の予め定められたタイミングにおける目標の位置を検出目標位置毎に、複数の仮想粒子を用いて予測する。
【0030】
揺らぎ生成分配器16は、各運動パラメータの外乱や測定誤差等に起因する揺らぎを、予め与えられた分布形状の乱数として保持して、目標の初期位置、速度、加速度等の運動パラメータの揺らぎを生成して出力する。
【0031】
このとき、生成される揺らぎは以下のようにして設定される。即ち、異なる検出目標位置に対する仮想粒子間では、揺らぎの確率分布の全体の幅が異なることを許容しながら、揺らぎの確率分布が同じ形状となるように設定する。一方、同一の検出目標位置に対する仮想粒子間では、揺らぎの確率分布の幅も揺らぎの確率分布の形状も異なるように、揺らぎの確率分布を設定する。
【0032】
揺らぎの生成方法としては、与えられた範囲の数値を一様に生成する擬似乱数の関数を用いる方法や、ガウシアン等特定形状の確立分布を示すように数値を生成する擬似乱数の関数を用いる方法が適用できる。また、擬似乱数を生成する方法としてはメルセンヌツイスター等の公知の方法が適用できる。ガウシアン分布を示す方法としては、例えばボックス−ミューラー法等の公知の方法が適用できる。
【0033】
トラック生成器14では、予測推定器20によって得られた目標の真の位置を時系列に連ねてトラックを作成する。例えば、探信毎に得られた推定位置をメモリに記憶と、各々の推定位置に対し、その推定位置を算出した前回の探信による推定位置が記憶されているメモリの領域(アドレス)を指し示すポインタとを同時に記憶することにより、トラックの作成が可能になる。
【0034】
トラック出力部11では、生成されたトラックを外部の記憶装置等に一時記憶したり、外部の表示装置等に出力したりする。外部の記憶装置としては、例えばハードディスクやSSD(Solid State Drive)やブルーレイやDVD(Digital Versatile Disc)等が適用可能である。また、外部の表示装置としては、例えばテレビモニタやコンピュータディスプレイやプロジェクタ等が適用可能である。
【0035】
このような目標追跡システムの動作を図2に従い説明する。
【0036】
ステップS1:先ず検出器12は、データ入力部10で受信された受信波の信号を受信して、目標の位置を検出する目標位置検出処理を行う。検出された検出目標位置は、予測推定器20の推定部19に入力する。
【0037】
ステップS2: 推定部19には予測部19から予測目標位置が入力すると共に、先に述べたように検出器12から検出目標位置が入力している。そこで、推定部19は、検出目標位置と予測目標位置とを用いて、例えば最尤法等により目標位置を算出して出力する。算出された目標位置は、予測部18に対して推定目標位置として出力される。なお、後述するように、この算出された目標位置は、トラック生成器14にも出力され、この際には真の目標位置として出力される。
【0038】
ステップS3: 予測部18には、揺らぎ生成分配器16からの揺らぎが入力すると共に、推定部19から推定目標位置が入力する。そして、予測部18は、予め記憶している運動パラメータに対して揺らぎ生成分配器16から受信した揺らぎを取り込んだ運動モデルを生成し、複数の仮想粒子を用いて推定目標位置に運動モデルを適用したて、予測目標位置を算出する。算出された予測目標位置は、推定部19に出力される。
【0039】
ステップS4: 推定部19は、先に述べたように、予測目標位置と検出目標位置とに基づき目標位置を算出して、これを真の目標位置としてトラック生成器14に出力する。
【0040】
ステップS5: トラック生成器14は、受信した真の目標位置のトラックを生成して、トラック出力部に出力する。
【0041】
このように、多重仮説追尾法にパーティクルフィルタを適用する際、トラック毎に独立してパーティクルフィルタを実行する。そして、次の探信での目標位置を予測する際に、疑似乱数等による揺らぎを各仮想粒子の内部パラメータに付加する。この揺らぎは独立性を求められるため、仮想粒子毎に疑似乱数を発生させる。仮想粒子数の増大に従い擬似乱数の発生回数も増大するが、この疑似乱数による揺らぎを異なるトラック間で共有することによって疑似乱数発生の回数が大幅に抑制できるようになる。そして、その後はこの擬似乱数を再利用することによって、演算負荷を低減させる。
【0042】
以上説明したように、レーダー、ソーナー、ライダー等の信号波を取得して目標位置を予測する際に、トラック間で共通した揺らぎが付加されるので、多重仮説追尾にパーティクルフィルタを適用するような場合でも、演算量の増大が抑制できるようになる。
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態を説明する。なお、第1の実施形態と同一構成に関しては同一符号を用い、説明を適宜省略する。図3は、本実施形態にかかる目標追尾システムのブロック図である。
【0043】
第2の実施形態においては、第1の実施形態に対して仮想粒子数を算出する仮想粒子数算出器17が追設されている。仮想粒子数算出器17においては、異なる検出目標位置の間で仮想粒子の分布が等しいのにも関わらず、等しくないとしてしまう確率や、異なる検出目標位置の間で仮想粒子の分布が異なるにも関わらず、等しいとしてしまう確率等の統計的パラメータを用いて、異なる検出目標位置の間での仮想粒子の分布の平均値や分散値等の統計量が等しいか否かを判断するのに十分な仮想粒子数が算出される。そして、十分な仮想粒子数と判断した場合には、その仮想粒子数を必要仮想粒子数として揺らぎ生成分配器16に出力する。揺らぎ生成分配器16は、必要仮想粒子数だけ仮想粒子の生成されるような揺らぎを生成する。
【0044】
ここで、異なる検出目標位置の間で仮想粒子の分布が等しいのにも関わらず等しくないとしてしまう確率をα、異なる検出間で仮想粒子の分布が異なるにも関わらず等しいとしてしまう確率をβとする。そして、正規分布に対し、値がx以上となる定義域においての積分をzと表す場合、異なる検出目標位置の間の仮想粒子の分布が等しいとする帰無仮説の真偽を判定するために必要な仮想粒子の数をnとする。
【0045】
このとき、必要な仮想粒子の数nは、例えば、永田靖に従い("サンプルサイズの決め方",朝倉書店,2003.)統計学的に式1で与えられる。


【0046】
ただし、Δは2つの仮想粒子の分布の平均値の差を、仮想粒子の分布で割った値である。換言すると、2つの仮想粒子の分布の平均値の間のマハラノビス距離である。
【0047】
これにより、必要最低限の仮想粒子数を算出できるので、演算量を必要最低限に抑えることが可能になる。
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態を説明する。なお、第1の実施形態と同一構成に関しては同一符号を用い、説明を適宜省略する。
【0048】
これまでの実施形態においては、揺らぎ生成分配器16は、他の構成要素と独立して揺らぎを生成した。生成された揺らぎは、予測部18における予測目標位置の算出に用いる仮想粒子の分布を決定している。従って、仮想粒子の分布をより適切な分布とするならば、最終的に取得する真の目標位置の精度が向上する。
【0049】
このような観点から、本実施形態では、揺らぎ生成分配器16において、推定目標位置の算出の基となった仮想粒子の分布形状に基づき揺らぎの分布形状を決めるようにした。
【0050】
例えば、推定部19で尤度を求めた際、次の探信における仮想粒子の分布の形状を、この尤度で決まる仮想粒子の分布形状に比例させる方法が適用できる。
【0051】
この方法を図4、図5を参照して説明する。図4は、仮想粒子の分布が1次元の場合を示した図である。また、図5は、尤度の包絡線により形成された新たな分布曲線である。
【0052】
図4のように各尤度に対する重心位置が定義できる。そこで、図5に示すように、尤度の棒グラフの頂点を滑らかに繋げた曲線を生成し、この曲線を尤度の重心位置を原点とする新たな分布曲線とする。滑らかに繋がる曲線の生成方法としては、例えばスプライン補間等の公知の方法が適用できる。
【0053】
このように、目標位置予測処理において用いる仮想粒子の分布をフィードバック処理により設定することで、真の目標位置の精度が向上する。
<第4の実施形態>
次に、本発明の第4の実施形態を説明する。なお、第1の実施形態と同一構成に関しては同一符号を用い、説明を適宜省略する。
【0054】
推定部19は、予測目標位置と検出目標位置とに基づき推定目標位置を推定する目標位置推定処理を行った。このとき、データ入力部10は、連続して目標からの受信波を受信することを前提としている。
【0055】
しかし、例えば、レーダーやソーナーでは、ノイズ、クラッタ、残響等により連続して目標位置が検出できない場合(目標が失探した場合)やノイズ等を目標からの受信波と誤認して、検出目標位置が予測目標位置に対して予め設定された範囲を超えたりする場合が発生する。以下、このような場合を目標失探と記載する。
【0056】
特に、検出目標位置が検出されなかった場合は、予測目標位置と検出目標位置との存在を前提とした、上述した各実施形態における目標位置推定処理が行えなくなる。また、検出目標位置が予測目標位置に対して予め設定された範囲を超えるような場合には、演算された推定目標位置に大きなエラーが含まれる恐れがある。
【0057】
そこで、本実施形態では、かかる場合においても目標追跡が行えるように、推定部19は、予測部18からの予測目標位置を推定目標位置として出力する。
【0058】
これにより、目標失探は発生しても、大きな誤差を含まずに目標の追跡が継続できるようになる。
<第5の実施形態>
次に、本発明の第5の実施形態を説明する。なお、第1の実施形態と同一構成に関しては同一符号を用い、説明を適宜省略する。本実施形態は、目標探失が繰り返される場合に対する処理に関する。
【0059】
目標探失が繰り返される場合には、トラックには、同じ真の目標位置が推定部から出力されることが起きる。このような場合には、目標を見失ったとして目標追跡処理を停止する方が、演算処理リソースの負荷を削減するために好ましい。
【0060】
そこで、目標失探が連続し、かつ、予め設定された回数に達した場合や、予め定めた頻度で目標失探が発生した場合には、目標を見失ったとして目標追跡装置における追跡処理を停止させる。目標追跡装置の停止は、検出器12が目標位置の検出結果に基づき判断したり、トラック生成器14がトラック情報を監視して判断したりすることが可能である。そして、かかる判断結果は予測推定器20等に指示する。
【0061】
これにより、目標失探によるリソース負荷が軽減できると共に、精度の悪い目標位置を出力することによるユーザによるトラック把握ミスが防止できる。
<第6の実施形態>
次に、本発明の第6の実施形態を説明する。なお、第1の実施形態と同一構成に関しては同一符号を用い、説明を適宜省略する。
【0062】
異なるトラック間で推定目標位置の距離が、予め定めた範囲内にある状態が所定回数連続した場合や、予め設定したパターンが継続する場合が起こりえる。このような場合には、実際は目標が1つであるとみなし、複数のトラックで管理するよりも1つに纏めることにより、予測や推定に必要な演算能力を節約することができる。
【0063】
そこで、本実施形態においては、トラック生成器14は、上述した事態が生じた際には、トラックを1つに統合するべく、予測推定器20に指示する。
【0064】
これにより、予測推定器20のリソースが効率的に利用できるようになる。また、複数のトラックを統合することにより、ユーザによるトラック把握が容易になる。
【0065】
以上説明した本発明の特徴を付記として、以下に纏める。
<付記1>
目標からの信号波に基づき当該目標を検出して検出目標位置として出力する検出器と、
少なくとも外乱や測定誤差に起因する揺らぎを生成して出力する揺らぎ生成分配器と、
前記検出目標位置に基づき目標の真の位置を推定し、その際に前記揺らぎに基づき仮想粒子を設定して、当該仮想粒子を用いて前記真の目標位置を推定する予測推定器と、を備えることを特徴とする目標追跡システム。
<付記2>
付記1に記載の目標追跡システムであって、
前記検出器は、前記信号波から連続的に又は予め定めた時間間隔で、複数の前記目標を検出すると共に、
前記予測推定器は複数設けられて、前記予測推定器毎に、前記目標の前記真の目標位置をそれぞれ演算出力することを特徴とする目標追跡システム。
<付記3>
付記2に記載の目標追跡システムであって、
前記予測推定器は、前記目標の位置を予測して予測目標位置として出力する予測部と、
前記予測部からの複数の前記予測目標位置に基づき前記目標の前記真の位置を推定する推定部と、を備え、かつ、
前記予測部は、前記目標の少なくとも初期位置、速度、加速度に関する運動パラメータ及び、前記揺らぎ生成分配器からの前記揺らぎとを含む運動モデルを記憶し、前記推定目標位置に従って、現在の目標検出タイミングより未来の予め設定されたタイミングにおける前記目標の位置を、当該目標毎に複数の仮想粒子を用いて予測することを特徴とする目標追跡システム。
<付記4>
付記3に記載の目標追跡システムであって、
前記揺らぎ生成分配器は、前記運動パラメータの外乱や測定誤差等に起因する前記揺らぎについて、予め与えられた分布形状の乱数として記憶し、かつ、異なる前記検出目標位置の間では前記揺らぎの確率分布の全体幅が異なっても前記揺らぎの確率分布の形状が同じであるような確率分布の前記揺らぎを生成して記憶出力すると共に、同一の前記検出目標位置に対する前記仮想粒子の間では前記揺らぎの確率分布の幅及び形状が異なるような確率分布の前記揺らぎを生成して記憶出力して、前記目標の検出数が増加した場合には、増加した目標数に対応する揺らぎを生成することを特徴とする目標追跡システム。
<付記5>
付記1乃至4のいずれか1項に記載の目標追跡システムであって、
前記推定部で推定された前記真の位置を時系列に連ねたトラックを生成するトラック生成部を備えることを特徴とする目標追跡システム。
<付記6>
付記1乃至5のいずれか1項に記載の目標追跡システムであって、
少なくとも異なる前記検出目標位置の間で前記仮想粒子の分布が等しいのにも関わらず等しくないとしてしまう確率、又は、異なる前記検出目標位置の間で前記仮想粒子の分布が異なるにも関わらず等しいとしてしまう確率をパラメータとする統計的パラメータに基づき、異なる前記検出目標位置の間で前記仮想粒子の分布の平均値、又は、分散値の少なくとも1つの値の統計量が等しいか否かを判定するために必要な前記仮想粒子数を算出し、その粒子数を必要仮想粒子数とし、当該必要仮想粒子数だけ揺らぎ生成分配器に前記仮想粒子を生成させる仮想粒子数算出器を備えることを特徴とする目標追跡システム。
<付記7>
付記1乃至6のいずれか1項に記載の目標追跡システムであって、
前記揺らぎ生成分配器は、前記推定目標位置を算出した際の前記仮想粒子の分布の形状を元に、前記揺らぎの分布形状を決めることを特徴とする目標追跡システム。
<付記8>
付記1乃至7のいずれか1項に記載の目標追跡システムであって、
前記推定部は、前記検出目標位置が、前記予測目標位置からの前記予測目標位置に対して予め設定された範囲内に含まれるか否かを判断し、当該範囲内に含まれ無いと判断した場合には、前記予測目標位置を前記真の目標位置とすることを特徴とする目標追跡システム。
<付記9>
付記1乃至7のいずれか1項に記載の目標追跡システムであって、
前記トラック生成器は、前記検出目標位置が、前記予測目標位置からの前記予測目標位置に対して予め設定された範囲内に含まれるか否かを判断し、当該範囲内に含まれ無いとの判断が、予め設定された回数連続した場合又は予め設定された頻度で起きた場合には、前記目標を見失ったとして、予測推定処理を停止させる指示を前記予測推定器に出力することを特徴とする目標追跡システム。
<付記10>
付記1乃至7のいずれか1項に記載の目標追跡システムであって、
前記トラック生成器は、異なる前記トラック間における前記推定目標位置の距離が所定範囲内に含まれるか否かを判断し、当該所定範囲内に含まれる回数が予め設定した回数連続する場合、又は、予め設定したパターンで含まれる場合には、異なる前記トラックが1つのトラックとなるように前記予測推定器に指示することを特徴とする目標追跡システム。
<付記11>
目標からの信号波に基づき当該目標を検出して検出目標位置として出力する検出手順と、
少なくとも外乱や測定誤差に起因する揺らぎを生成して出力する揺らぎ生成分配手順と、
前記検出目標位置に基づき目標の真の位置を推定し、その際に前記揺らぎに基づき仮想粒子を設定して、当該仮想粒子を用いて前記真の目標位置を推定する予測推定手順と、を含むことを特徴とする目標追跡方法。
<付記12>
付記11に記載の目標追跡方法であって、
前記検出手順は、前記信号波から連続的に又は予め定めた時間間隔で、複数の前記目標を検出すると共に、複数の前記予測推定手順を並列に行い、前記目標の前記真の目標位置をそれぞれ演算出力する手順を含むことを特徴とする目標追跡方法。
<付記13>
付記12に記載の目標追跡方法であって、
前記予測推定手順は、前記目標の位置を予測して予測目標位置として出力する予測手順と、
前記予測手順からの複数の前記予測目標位置に基づき前記目標の前記真の位置を推定する推定手順と、を含み、かつ、
前記予測手順は、前記目標の少なくとも初期位置、速度、加速度に関する運動パラメータ及び、前記揺らぎ生成分配手順からの前記揺らぎとを含む運動モデルを記憶し、前記推定目標位置に従って、現在の目標検出タイミングより未来の予め設定されたタイミングにおける前記目標の位置を、当該目標毎に複数の仮想粒子を用いて予測することを特徴とする目標追跡方法。
<付記14>
付記13に記載の目標追跡方法であって、
前記揺らぎ生成分配手順は、前記運動パラメータの外乱や測定誤差等に起因する前記揺らぎについて、予め与えられた分布形状の乱数として記憶し、かつ、異なる前記検出目標位置の間では前記揺らぎの確率分布の全体幅が異なっても前記揺らぎの確率分布の形状が同じであるような確率分布の前記揺らぎを生成して記憶出力すると共に、同一の前記検出目標位置に対する前記仮想粒子の間では前記揺らぎの確率分布の幅及び形状が異なるような確率分布の前記揺らぎを生成して記憶出力して、前記目標の検出数が増加した場合には、増加した目標数に対応する揺らぎを生成することを特徴とする目標追跡方法。
<付記15>
付記11乃至14のいずれか1項に記載の目標追跡方法であって、
前記推定手順で推定された前記真の位置を時系列に連ねたトラックを生成するトラック生成手順を含むことを特徴とする目標追跡方法。
<付記16>
付記11乃至15のいずれか1項に記載の目標追跡方法であって、
少なくとも異なる前記検出目標位置の間で前記仮想粒子の分布が等しいのにも関わらず等しくないとしてしまう確率、又は、異なる前記検出目標位置の間で前記仮想粒子の分布が異なるにも関わらず等しいとしてしまう確率をパラメータとする統計的パラメータに基づき、異なる前記検出目標位置の間で前記仮想粒子の分布の平均値、又は、分散値の少なくとも1つの値の統計量が等しいか否かを判定するために必要な前記仮想粒子数を算出し、その粒子数を必要仮想粒子数とし、当該必要仮想粒子数だけ揺らぎ生成分配手順に前記仮想粒子を生成させる仮想粒子数算出手順を含むことを特徴とする目標追跡方法。
<付記17>
付記11乃至16のいずれか1項に記載の目標追跡方法であって、
前記揺らぎ生成分配手順は、前記推定目標位置を算出した際の前記仮想粒子の分布の形状を元に、前記揺らぎの分布形状を決めることを特徴とする目標追跡方法。
<付記18>
付記11乃至17のいずれか1項に記載の目標追跡方法であって、
前記推定手順は、前記検出目標位置が、前記予測目標位置からの前記予測目標位置に対して予め設定された範囲内に含まれるか否かを判断し、当該範囲内に含まれ無いと判断した場合には、前記予測目標位置を前記真の目標位置とする手順を含むことを特徴とする目標追跡方法。
<付記19>
付記11乃至17のいずれか1項に記載の目標追跡方法であって、
前記トラック生成手順は、前記検出目標位置が、前記予測目標位置からの前記予測目標位置に対して予め設定された範囲内に含まれるか否かを判断し、当該範囲内に含まれ無いとの判断が、予め設定された回数連続した場合又は予め設定された頻度で起きた場合には、前記目標を見失ったとして、予測推定処理を停止させる手順を含むことを特徴とする目標追跡方法。
<付記20>
付記11乃至17のいずれか1項に記載の目標追跡方法であって、
前記トラック生成手順は、異なる前記トラック間における前記推定目標位置の距離が所定範囲内に含まれるか否かを判断し、当該所定範囲内に含まれる回数が予め設定した回数連続する場合、又は、予め設定したパターンで含まれる場合には、異なる前記トラックが1つのトラックとなるようにする手順を含むことを特徴とする目標追跡方法。
【符号の説明】
【0066】
2 目標追跡システム
3 目標位置推定装置
10 データ入力部
11 トラック出力部
12 検出器
14 トラック生成器
16 生成分配器
17 仮想粒子数算出器
18 予測部
19 推定部
19 予測部
20(20a〜20n) 予測推定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標からの信号波に基づき当該目標を検出して検出目標位置として出力する検出器と、
少なくとも外乱や測定誤差に起因する揺らぎを生成して出力する揺らぎ生成分配器と、
前記検出目標位置に基づき目標の真の位置を推定し、その際に前記揺らぎに基づき仮想粒子を設定して、当該仮想粒子を用いて前記真の目標位置を推定する予測推定器と、を備えることを特徴とする目標追跡システム。
【請求項2】
請求項1に記載の目標追跡システムであって、
前記検出器は、前記信号波から連続的に又は予め定めた時間間隔で、複数の前記目標を検出すると共に、
前記予測推定器は複数設けられて、前記予測推定器毎に、前記目標の前記真の目標位置をそれぞれ演算出力することを特徴とする目標追跡システム。
【請求項3】
請求項2に記載の目標追跡システムであって、
前記予測推定器は、前記目標の位置を予測して予測目標位置として出力する予測部と、
前記予測部からの複数の前記予測目標位置に基づき前記目標の前記真の位置を推定する推定部と、を備え、かつ、
前記予測部は、前記目標の少なくとも初期位置、速度、加速度に関する運動パラメータ及び、前記揺らぎ生成分配器からの前記揺らぎとを含む運動モデルを記憶し、前記推定目標位置に従って、現在の目標検出タイミングより未来の予め設定されたタイミングにおける前記目標の位置を、当該目標毎に複数の仮想粒子を用いて予測することを特徴とする目標追跡システム。
【請求項4】
請求項3に記載の目標追跡システムであって、
前記揺らぎ生成分配器は、前記運動パラメータの外乱や測定誤差等に起因する前記揺らぎについて、予め与えられた分布形状の乱数として記憶し、かつ、異なる前記検出目標位置の間では前記揺らぎの確率分布の全体幅が異なっても前記揺らぎの確率分布の形状が同じであるような確率分布の前記揺らぎを生成して記憶出力すると共に、同一の前記検出目標位置に対する前記仮想粒子の間では前記揺らぎの確率分布の幅及び形状が異なるような確率分布の前記揺らぎを生成して記憶出力して、前記目標の検出数が増加した場合には、増加した目標数に対応する揺らぎを生成することを特徴とする目標追跡システム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の目標追跡システムであって、
前記推定部で推定された前記真の位置を時系列に連ねたトラックを生成するトラック生成部を備えることを特徴とする目標追跡システム。
【請求項6】
目標からの信号波に基づき当該目標を検出して検出目標位置として出力する検出手順と、
少なくとも外乱や測定誤差に起因する揺らぎを生成して出力する揺らぎ生成分配手順と、
前記検出目標位置に基づき目標の真の位置を推定し、その際に前記揺らぎに基づき仮想粒子を設定して、当該仮想粒子を用いて前記真の目標位置を推定する予測推定手順と、を含むことを特徴とする目標追跡方法。
【請求項7】
請求項6に記載の目標追跡方法であって、
前記検出手順は、前記信号波から連続的に又は予め定めた時間間隔で、複数の前記目標を検出すると共に、複数の前記予測推定手順を並列に行い、前記目標の前記真の目標位置をそれぞれ演算出力する手順を含むことを特徴とする目標追跡方法。
【請求項8】
請求項7に記載の目標追跡方法であって、
前記予測推定手順は、前記目標の位置を予測して予測目標位置として出力する予測手順と、
前記予測手順からの複数の前記予測目標位置に基づき前記目標の前記真の位置を推定する推定手順と、を含み、かつ、
前記予測手順は、前記目標の少なくとも初期位置、速度、加速度に関する運動パラメータ及び、前記揺らぎ生成分配手順からの前記揺らぎとを含む運動モデルを記憶し、前記推定目標位置に従って、現在の目標検出タイミングより未来の予め設定されたタイミングにおける前記目標の位置を、当該目標毎に複数の仮想粒子を用いて予測することを特徴とする目標追跡方法。
【請求項9】
請求項8に記載の目標追跡方法であって、
前記揺らぎ生成分配手順は、前記運動パラメータの外乱や測定誤差等に起因する前記揺らぎについて、予め与えられた分布形状の乱数として記憶し、かつ、異なる前記検出目標位置の間では前記揺らぎの確率分布の全体幅が異なっても前記揺らぎの確率分布の形状が同じであるような確率分布の前記揺らぎを生成して記憶出力すると共に、同一の前記検出目標位置に対する前記仮想粒子の間では前記揺らぎの確率分布の幅及び形状が異なるような確率分布の前記揺らぎを生成して記憶出力して、前記目標の検出数が増加した場合には、増加した目標数に対応する揺らぎを生成することを特徴とする目標追跡方法。
【請求項10】
請求項6乃至8のいずれか1項に記載の目標追跡方法であって、
少なくとも異なる前記検出目標位置の間で前記仮想粒子の分布が等しいのにも関わらず等しくないとしてしまう確率、又は、異なる前記検出目標位置の間で前記仮想粒子の分布が異なるにも関わらず等しいとしてしまう確率をパラメータとする統計的パラメータに基づき、異なる前記検出目標位置の間で前記仮想粒子の分布の平均値、又は、分散値の少なくとも1つの値の統計量が等しいか否かを判定するために必要な前記仮想粒子数を算出し、その粒子数を必要仮想粒子数とし、当該必要仮想粒子数だけ揺らぎ生成分配手順に前記仮想粒子を生成させる仮想粒子数算出手順を含むことを特徴とする目標追跡方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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