説明

直動案内装置

【課題】有端状のセパレータを使用しても、方向転換路に形成された案内溝にベルト部の端部が強く擦れないようにする。
【解決手段】セパレータ4のベルト部42を案内する案内溝50は、円弧状の方向転換路24に形成された円弧部5と、これに連続する直線部6とからなる。案内溝50の円弧部5の外周面をなす第1円弧51の中心C1 を、方向転換路24の基準円弧の中心C0 よりも、方向転換路24の外周面側に配置する。案内溝50の、円弧部5の方向転換路24の最も深い位置(循環R底)での幅(中心点C0 、C1 、C2 を通る直線Sに沿った幅)W1 を、直線部の幅W0 より広くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有端状のセパレータを備えた直動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直動案内装置は、案内レールとスライダと複数個の転動体とを備え、案内レールの幅方向両側面に転動体の転動面が形成され、スライダは、案内レールの幅方向両側に配置される脚部と、案内レールの厚さ方向一端側に配置されて両脚部を連結する胴部とからなる。そして、前記両脚部の内側面に、案内レールの転動面に対向配置される転動面を有し、この転動面と案内レールの転動面とにより転動体の転動通路が形成されている。また、前記両脚部に転動体の戻し通路が形成され、さらに、前記戻し通路と前記転動通路を連通させる方向転換路として、外周面が円弧状の凹部からなり、内周面が円弧状の凸部からなる円弧状の通路が形成されている。そして、前記転動通路、戻し通路、および方向転換路により、転動体の循環経路が構成され、この循環経路内を転動体が移動することで、案内レールおよびスライダの一方が他方に対して相対的に直動する。
【0003】
隣り合う転動体の間に配置される間座部と、間座部を挟んで反対側となる各位置に固定されて間座部を連結するベルト部とからなる有端状のセパレータを備えた直動案内装置の従来例としては、下記の特許文献1および特許文献2に記載されたものがある。
特許文献1では、両端部を有する可撓性の樹脂連結体(ベルト部)で転動体に介装される介装部(間座部)が連結された有端転動体チェーン(有端状のセパレータ)が、無限軌道(循環経路)内に組み込まれ、無限軌道内で対向する転動体チェーンの両端部の間に隙間が形成されている。この例の図1では、方向転換路におけるベルト部を案内する案内溝が、ボール(転動体)の中心の軌跡と同じになっているように見える。
【0004】
特許文献2には、方向転換路におけるベルト部の軌跡が、ボール(転動体)の中心の軌跡より方向転換路の内周側にずれた位置となるように、ベルト部を案内する案内溝を形成し、方向転換路を通過する転動体と間座部との間に十分な隙間を設けることで、方向転換路から潤滑剤を効率よく取り込んで、負荷転走路(転動通路)を転走(転動)する転動体を円滑に潤滑することが記載されている。
【特許文献1】特許3243415号公報 図1
【特許文献2】特開平11−247854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1および2のいずれの場合でも、ベルト部の両端以外の部分では、間座部を挟む前後に転動体が存在しているため、方向転換路でベルト部が曲がり易いのに対して、ベルト部の端部の間座部の間には転動体が存在しないため、方向転換路でベルト部の端部が曲がり難い。これにより、方向転換路においてベルト部の端部がベルト案内溝に強く擦れて、摩擦力が増大する恐れがある。
【0006】
無端状のセパレータは、全ての間座部を挟む前後に転動体が存在しているため、方向転換路でベルト部が曲がり易く、上述のような摩擦力増大も生じないが、端部同士をつなぐ作業が必要なため、生産性の点で問題がある。
本発明はこのような従来技術の問題点に着目してなされたものであり、有端状のセパレータを使用しても、方向転換路に形成された案内溝にベルト部の端部が強く擦れないようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、案内レールとスライダと複数個の転動体と有端状のセパレータとで構成され、案内レールの幅方向両側面に、転動体の転動面が形成され、スライダは、案内レールの幅方向両側に配置される脚部と、案内レールの厚さ方向一端側に配置されて両脚部を連結する胴部とからなり、前記両脚部の内側面に、案内レールの転動面に対向配置される転動面を有し、この転動面と案内レールの転動面とにより転動体の転動通路が形成され、前記両脚部に転動体の戻し通路が形成され、前記両脚部にはまた、前記戻し通路と前記転動通路を連通させる方向転換路として、外周面が円弧状の凹部からなり、内周面が円弧状の凸部からなる円弧状の通路が形成され、前記転動通路、戻し通路、および方向転換路で転動体の循環経路が構成され、セパレータは、隣り合う転動体の間に配置される間座部と、間座部を挟んで反対側となる各位置に固定されて間座部を連結するベルト部と備え、前記循環経路に沿って前記ベルト部を案内する、円弧状の方向転換路に形成された円弧部と、これに連続する直線部とからなる案内溝が形成され、前記案内溝に沿って前記ベルト部が前記循環経路内を案内され(すなわち、ベルト部は方向転換路に形成された円弧状の案内溝に沿って湾曲可能な弾性を有している)、前記循環経路内を転動体が移動することで、案内レールおよびスライダの一方が他方に対して相対的に直動する直動案内装置において、前記円弧部の外周面をなす第1円弧の中心が、方向転換路の外周面をなす基準円弧の中心よりも、方向転換路の外周面側に配置され、案内溝の円弧部の方向転換路の最も深い位置(循環R底)での幅が、直線部の幅より広く形成されていることを特徴とする直動案内装置を提供する。
【0008】
直動案内装置において、例えば、方向転換路に形成された案内溝の外周面をなす第1円弧の中心C1 が、方向転換路の前記基準円弧の中心C0 よりも、方向転換路の外周面側に配置され、方向転換路での前記案内溝の内周面をなす第2円弧の中心C2 が、基準円弧の中心C0 と同じ位置か、基準円弧の中心C0 を挟んだ第1円弧の中心C1 の反対側に配置されている(図1)と、これらの中心がすべて同じ(C1 =C0 =C2 )場合と比較して、案内溝の外周面が外側に移動し、案内溝の内周面は同じか内側に移動する。
【0009】
これにより、案内溝の方向転換路に形成された円弧部の幅が、これに連続する直線部の案内溝の幅より広く形成される。その結果、案内溝は、円弧部の方向転換路の最も深い位置での幅(図1のW1 、図2のW2 )が、直線部の幅より広く形成される。
そして、C0 =C2 の場合は外側に膨らむように形成され、方向転換路の外周面に近い側からC1 、C0 、C2 の順の場合は、外側に膨らむとともに内側にも拡がるように形成される。そのため、C1 =C0 =C2 および方向転換路の外周面に近い側からC1 =C0 、C2 の順の場合と比較して、有端状セパレータを組み込んだ時に、方向転換路での案内溝に対するベルト部の端部の擦れが緩和される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の直動案内装置によれば、有端状のセパレータを使用していながら、方向転換路に形成されたベルト案内溝にベルト部の端部が強く擦れないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、この実施形態の直動案内装置を示す部分断面図である。この直動案内装置は、案内レール1とスライダ2と複数個のボール(転動体)3と有端状のセパレータ4とで構成されている。案内レール1の幅方向両側面に、ボール3の転動溝(転動面)11が形成されている。
【0012】
スライダ2は、本体21と、その直動方向両端に固定されたエンドキャップ22とからなる。スライダ2は、また、案内レール1の幅方向両側に配置される脚部(一方の脚部が図示されている)が、案内レール1の厚さ方向一端側に配置されている胴部(図示されていない)で連結された構造になっている。そして、本体21の両脚部の内側面に、案内レール1の転動溝11に対向配置される転動溝21Aを有し、両転動溝11,21Aでボール3の転動通路が形成されている。
【0013】
また、両脚部にボール3の戻し通路23が形成され、両脚部にはまた、戻し通路23と転動通路を連通させる方向転換路24として、外周面24aが円弧状の凹部からなり、内周面24bが円弧状の凸部からなる円弧状の通路が形成されている。これらの転動通路(両転動溝11,21Aで形成される通路)、戻し通路23、および方向転換路24でボール3の循環経路が構成されている。
【0014】
セパレータ4は、隣り合うボール3の間に配置される間座部41と、間座部41を連結するベルト部42とからなり、ベルト部42は間座部41を挟んで反対側となる各位置に配置されている。セパレータ4は合成樹脂を用いた射出成形により、間座部41とベルト部42が一体に形成されている。ベルト部42は後述の案内溝50の円弧部5に沿って湾曲可能な弾性を有している。両端の間座部41aは、ボール3を保持しない面が平面になっており、これ以外の間座部41は、互いに反対側の面がボール3を保持できる球面になっている。また、この間座部41は、循環経路内の内周面側の保持量が外周面側の保持量より少ない形状になっている。
【0015】
循環経路には、セパレータ4のベルト部42を案内する案内溝50が形成されている。案内溝50は、円弧状の方向転換路24に形成された円弧部5と、これに連続する直線部6とからなる。そして、案内溝50の円弧部5の外周面をなす第1円弧51の中心C1 が、方向転換路24の基準円弧の中心C0 よりも、方向転換路24の外周面側に配置され、円弧部5の内周面52をなす第2円弧の中心C2 が、基準円弧の中心C0 を挟んだ第1円弧の中心C1 の反対側に配置されている。
【0016】
そのため、図2に示すように、案内溝50の円弧部5の外周面をなす第1円弧51a(図2の破線)の中心C1 が方向転換路24の基準円弧の中心C0 と同じ場合と比較して、円弧部5の外周面51(図2の実線)が外側に移動し、案内溝50の円弧部5が外側に膨らむように形成される。その結果、案内溝50は、円弧部5の方向転換路24の最も深い位置での幅(中心点C0 、C1 、C2 を通る直線Sに沿った幅)W1 が、直線部の幅W0 より広くなる。そのため、有端状のセパレータ4を組み込んだ時に、案内溝50の円弧部5に対するベルト部42(破線のベルト部は42a)の端部(図2に○で示す部分)の擦れが緩和される。
【0017】
符号K0 は循環経路内でのボール(転動体)3の中心の軌跡を示し、ベルト部42の案内溝50が、循環経路で内周側にずれた位置に形成されていることが分かる。また、この実施形態では、間座部41の循環経路の内周面側の保持量が外周面側の保持量より少ない形状になっていることによっても、間座部41でベルト部42が内周側に引き込まれることが緩和されて、方向転換路24での案内溝50(円弧部5)に対するベルト部42の端部の擦れが緩和される。
【0018】
また、図2の案内溝50Aの円弧部5Aは、外周面をなす第1円弧51aと内周面をなす第2円弧52で形成され、第2円弧52の中心は図1と同じC2 である。すなわち、図2の案内溝50Aの円弧部5Aをなす第1円弧51a(破線)の中心C1 と第2円弧52(実線)の中心C2 は、方向転換路の外周面に近い側からC1 =C0 、C2 の順に配置されているため、C1 =C0 =C2 の場合よりは、案内溝50Aの円弧部5Aの幅が広く、円弧部5Aの方向転換路24の最も深い位置での幅(中心点C0 =C1 とC2 を通る直線Sに沿った幅)W2 が、直線部の幅W0 より広くなる。
【0019】
なお、案内溝50の円弧部5の幅が大きくなるにつれて、方向転換路24でのボール(転動体)3の拘束力が弱くなるため、第1円弧51の中心C1 の基準円弧の中心C0 からのずれ量L1 および第2円弧52の中心C2 の基準円弧の中心C0 からのずれ量L2 には限界がある。これらのずれ量L1 ,L2 の最大許容値は、方向転換路24の大きさ(外周面および内周面をなす円弧の大きさ、方向転換路24の幅)によって異なるが、案内溝50の円弧部5に対するベルト部42の端部の擦れ量の抑制と、転動体の拘束力の確保の両面から、それぞれ転動体直径の20%以下とすることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態の直動案内装置を示す部分断面図である。
【図2】本発明の実施形態の効果を従来例との比較で説明する、直動案内装置の部分断面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 案内レール
11 案内レールの転動溝(転動面)
2 スライダ
21 スライダの本体
21A スライダの転動溝(転動面)
22 スライダのエンドキャップ
23 戻し通路
24 方向転換路
24a 方向転換路の外周面
24b 方向転換路の内周面
3 ボール(転動体)
4 セパレータ
41 間座部
41a セパレータの両端の間座部
42 ベルト部
42a ベルト部
5 案内溝の円弧部
5A 案内溝の円弧部
50 案内溝
50A 案内溝
51 円弧部の外周面(第1円弧)
51a 円弧部の外周面(第1円弧)
52 円弧部の内周面(第2円弧)
0 方向転換路の基準円弧の中心
1 第1円弧の中心
2 第2円弧の中心
0 案内溝の直線部の幅
1 案内溝の循環R底での幅
2 案内溝の循環R底での幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
案内レールとスライダと複数個の転動体と有端状のセパレータとで構成され、
案内レールの幅方向両側面に、転動体の転動面が形成され、
スライダは、案内レールの幅方向両側に配置される脚部と、案内レールの厚さ方向一端側に配置されて両脚部を連結する胴部とからなり、
前記両脚部の内側面に、案内レールの転動面に対向配置される転動面を有し、この転動面と案内レールの転動面とにより転動体の転動通路が形成され、前記両脚部に転動体の戻し通路が形成され、前記両脚部にはまた、前記戻し通路と前記転動通路を連通させる方向転換路として、外周面が円弧状の凹部からなり、内周面が円弧状の凸部からなる円弧状の通路が形成され、
前記転動通路、戻し通路、および方向転換路で転動体の循環経路が構成され、
セパレータは、隣り合う転動体の間に配置される間座部と、間座部を挟んで反対側となる各位置に固定されて間座部を連結するベルト部と備え、
前記循環経路に沿って前記ベルト部を案内する、円弧状の方向転換路に形成された円弧部と、これに連続する直線部とからなる案内溝が形成され、
前記案内溝に沿って前記ベルト部が前記循環経路内を案内され、前記循環経路内を転動体が移動することで、案内レールおよびスライダの一方が他方に対して相対的に直動する直動案内装置において、
前記円弧部の外周面をなす第1円弧の中心が、方向転換路の外周面をなす基準円弧の中心よりも、方向転換路の外周面側に配置され、案内溝の円弧部の方向転換路の最も深い位置での幅が、直線部の幅より広く形成されていることを特徴とする直動案内装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−127740(P2009−127740A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−303255(P2007−303255)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】