説明

直動案内軸受装置

【課題】長ストロークにも対応可能な、上面カバーと接触する虞の無いコンパクトかつ低コストの可動子を設けた直動案内軸受装置を提供する。
【解決手段】固定子側の可動子ストローク両端近傍で支持する上面カバー5を磁性体とし、直動案内軸受装置の軸方向と垂直な断面において、上面カバー5をその上下左右の内周四面で包囲する可動子4のうち、上面カバー5の上側面と対向する可動子4の内周下面に永久磁石10を備え、その磁力により上面カバー5を反重力方向に吸引することで、長ストロークの直動案内軸受装置に適用した場合でも、上面カバー5と接触する虞の無い可動子4を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば産業用ロボット、各種工作機械等に用いられる、直動案内軸受装置に関し、特に、長ストローク(行程)の直動案内軸受装置の固定子と可動子との隙間を覆うために設けるカバーおよび可動子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ボールねじやベルト、もしくはリニアモータ等で駆動される直動案内軸受装置が、多くの産業機械の重要な機械要素として使用されている。これら直動案内軸受装置には、固定子に対する可動子の滑らかで安定した作動性、低騒音や長寿命などの特性が共通して求められている。しかしながらこうした直動案内軸受装置において、可動子は固定子側に設定した可動子のストローク分だけ移動するようになっており、可動子と対面していない固定子部分は外部に露出しているために、例えば点検時等において固定子上面から直動案内軸受装置の内部に工具等を落下させて直接的に固定子部分を損傷させてしまったり、落下・侵入した小異物に気づかず装置を作動し損傷させてしまったり、長期間使用するにつれて固定子側の溝や隙間に塵埃が入りこみむなどして可動子の円滑な作動が阻害され、位置決め精度が悪くなってしまうというような問題があった。
【0003】
この部分の改善の先行技術としては、特許文献1(特開2001−116042号公報)があり、これには図3(a)斜視図に示すように、スライド部(可動子)11が移動するストロークに亘る上面カバー39を端板41、41に取り付け、スライド部(可動子)11を駆動モータ17で駆動する直動案内軸受装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−11604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この先行技術では、図3(b)に示されるように、前述した駆動モータ17にて、ボール螺子軸25を回転させることによって、ガイドレール(固定子)21の内側面21cと移動体(可動子)23の側面23cのそれぞれに設けられた溝21d、23d、及びボール51とで構成される直動案内軸受機構によって、スライド部(可動子)11が移動するようになっている。しかしながら、この先行技術で開示されている上面カバー39は、図3(b)の断面図にて明らかなように、カバー部材が平板形状をしており、それをガイドレール(固定子)21の軸方向両端近くの端板41、41で2点支持する上面カバー39の設定方法では、直動案内軸受装置が長ストローク品となった場合には、その自重によるたわみで平面度が維持できず、カバーを取り囲んでいるスライド部(可動子)11が移動する際に、スライド部11の内面側に上面カバー39が接触してしまう虞があり、可動子の円滑な作動が阻害されるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、直動案内軸受装置において、固定子側の可動子ストローク両端近傍で支持する上面カバーを磁性体とし、直動案内軸受装置の軸方向と垂直な断面において、上面カバーをその上下左右の内周四面で包囲する可動子のうち、上面カバーの上側面と対向する可動子の内周下面に永久磁石を備え、その磁力により上面カバーを反重力方向に吸引することで、長ストロークの直動案内軸受装置に適用した場合でも、可動子と接触する虞の無いカバーと可動子とを低コストで設けることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題を解決するために、本発明の請求項1に係る直動案内軸受装置は、基台となりうる固定子と、負荷物を搭載可能な可動子と、前記固定子に対し前記可動子を直線上に所定のストローク分移動可能なように案内する直動案内軸受と、前記固定子に備え前記可動子が移動するストローク分の前記固定子の隙間をふさぐ上面カバーと、前記固定子に対し前記可動子を直線移動させることが可能な駆動機構からなる直動案内軸受装置において、前記上面カバーの材質は磁性体であり、前記可動子は前記上面カバーをその上下左右の内周四面で包囲し、さらに前記上面カバーの上側面と対向する内周下面に永久磁石を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、固定子側の可動子ストローク両端近傍で支持する上面カバーを磁性体とし、直動案内軸受装置の軸方向と垂直な断面において、上面カバーをその上下左右の内周四面で包囲する可動子のうち、上面カバーの上側面と対向する可動子の内周下面に永久磁石を備え、その磁力により上面カバーを反重力方向に吸引することで、長ストロークの直動案内軸受装置に適用した場合でも、上面カバーと接触する虞の無い可動子をコンパクトかつ低コストで設けることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の上面カバーおよび可動子を適用した直動軸受案内装置の一実施形態を示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図2】本発明の一実施形態である図1のY−Y断面図である。
【図3】従来技術の直動案内軸受装置の上面カバーを示す図であり、(a)はその斜視図、(b)は、(a)のI−I断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1および図2は、本発明を適用した上面カバーを有する直動案内軸受装置の一実施形態を示している。これら図に示すように、直動案内軸受装置1は、可動子4が固定子3と上を、リミットスケール7およびリミットセンサ8の設定により予め決められた全ストロークをスムーズに移動できるように、可動子4の両側に転動体としてローラーを用いた直動案内軸受2、2が設けられている。また、本発明の上面カバー5は、可動子4に上下左右四面を取り囲まれた状態で、その軸方向両端が端板6、6に固定された、可動子4のストローク全域に亘り材質が磁性体の平板カバーとなっている。
【0011】
一方、この上面カバー5を取り囲んでいる可動子4の、上面カバーの上側に対向する可動子内周下面4aには、永久磁石10が、それを可動子内周下面4aに安定保持させるための磁石ホルダ10aを介して、可動子のストローク方向両側に、それぞれ軸中心の左右均等振分けで、合計4個が固定ボルト10bで取り付けられている。このように可動子内周下面4aに永久磁石10が取り付けられ、また上面カバーに磁性体が用いられた直動案内軸受装置1においては、可動子4が直動案内装置の所定のストロークを移動する際に、可動子が接近すると上面カバー5が永久磁石10の吸引力で反重力方向に引き上げられるため、吸引力が作用しない条件下での上面カバーの自重によるストローク中央部のたわみと比較して、可動子内周上面4bとの間隔を増大させることができ、可動子4、特に可動子内周上面4bが上面カバー5に接触してしまうという不具合を積極的に回避することが可能になる。
【0012】
なお、図2に示す永久磁石10と上面カバー5との「すきま」の設定は、上面カバー5を固定している端板6、6間の張力を調整することにより行うが、この調整を、可動子4のストローク長および作動速度を主に、永久磁石10と磁性体である上面カバー5の材質との関係に依存する磁力(吸引力)等を考慮して最適な設定とすることにより、可動子4がストローク内を移動する際に上面カバー5に接触する虞が無い上で、可動子内周下面4aと可動子内周上面4bとの間隔を必要最小限に抑えることができ、可動子4の上下厚さをコンパクトに抑えた、長ストローク対応も可能な直動案内軸受装置とすることができる。
【0013】
なお、この実施形態では、固定子3に対し可動子4を直線移動させる駆動機構9として、リニアモータを中央に配置し、固定子3には、固定子側駆動機構9aが連結され、可動子4には、可動子側駆動機構9bが連結され、固定子3に対して可動子4を所望する動作で移動させるのにリニアモータを使用して行う一例を示しているが、駆動機構は、リニアモータに限るものではなく、従来技術として図3に示したボールねじや、ベルト等で駆動する直動案内軸受装置とすることができる。またこの実施形態では、直動案内軸受2の転動体にローラを使用したものを例示したが、これに限るものではなく、玉(ボール)を用いても良い。
【0014】
また、この実施形態では、可動子内周下面4aに取り付けた永久磁石10を、可動子4のストローク方向両側に2個ずつ設けたものを例示したが、それに限られるものではなく、例えば3個ずつ、もしくは可動子の内周幅方向内に収まる(ストローク方向に細い)長尺形状の永久磁石をストローク方向両側にそれぞれ1本ずつ設けるようにしても良い。
【0015】
更にまた、この実施形態では、永久磁石10は磁石ホルダ10aを介して可動子内周下面4aに固定ボルト10bで取り付けたものを例示したが、可動子内周下面4a側に磁石ホルダ10aの全高と同程度の深さの雌ねじ部を設け、磁石ホルダ10aの外周を雄ねじとして、それらを羅合させる際に、可動子内周下面4aからの永久磁石10の突出長さを所定の量に調節したうえで、接着材等で固定するようにしても良い。
【符号の説明】
【0016】
1 直動案内軸受装置
2 直動案内軸受
3 固定子
4 可動子
4a 可動子内周下面
4b 可動子内周上面
5 上面カバー
6 端板
7 リミットスケール
8 リミットセンサ
9 駆動機構
9a 駆動機構(固定子側)
9b 駆動機構(可動子側)
10 永久磁石
10a 磁石ホルダ
10b 固定ボルト
11 スライド部(可動子)
17 駆動モータ
21 ガイドレール(固定子)
21c ガイドレール内周面
21d ガイドレール側ボール溝
23 移動体(可動子)
23c 移動体側面
23d 移動体側ボール溝
25 ボール螺子軸
39 上面カバー
41 端板
51 ボール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台となりうる固定子と、負荷物を搭載可能な可動子と、前記固定子に対し前記可動子を直線上に所定のストローク分移動可能なように案内する直動案内軸受と、前記固定子に備え前記可動子が移動するストローク分の前記固定子の隙間をふさぐ上面カバーと、前記固定子に対し前記可動子を直線移動させることが可能な駆動機構からなる直動案内軸受装置において、前記上面カバーの材質は磁性体であり、前記可動子は前記上面カバーをその上下左右の内周四面で包囲したうえで、さらに前記上面カバーの上側面と対向する内周下面に永久磁石を備えたことを特徴とする直動案内軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−41972(P2012−41972A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183236(P2010−183236)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】