説明

直動装置

【課題】案内レールの断面がU字状に形成され、ボールねじ機構を有さない直動装置の取付誤差に伴う寿命低下を防止する。
【解決手段】スライダ2の各側面の案内レール1の転動面12aと対向する位置に、転動面22aが形成されている。両転動面12a,22aが、ころ5の転動通路を構成する。この転動通路を二対四列有し、各袖部12の二列の転動通路を転動するころ列の荷重作用線L1,L2の交点Cが、幅方向で転動通より内側に存在する。両ころ列の荷重作用線L1,L2の角度は90°より小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、案内レールの断面がU字状に形成された直動装置(断面がU字状に形成された案内レールと、そのU字状の凹部内に配置されたスライダと、複数個の転動体と、を有し、転動体の転動により、案内レールに対してスライダが相対的に直線運動する直動装置)に関する。
【背景技術】
【0002】
案内レールの断面がU字状に形成された直動装置の従来例としては、例えば特許文献1〜3に記載されたものが挙げられる。
特許文献1の直動装置(直動案内ユニット)は、断面がU字状に形成された案内レール(トラックレール)と、そのU字状の凹部内に配置されたスライダと、複数個のボールと、を有し、ボールの転動により、案内レールに対してスライダが相対的に直線運動する。案内レールは、スライダの各側面と対向配置される各袖部の内側面に、ボールの転動通路を構成する転動溝を有する。スライダは、案内レールの転動溝に対向配置されてボールの転動通路を構成する転動溝と、ボールの戻し通路と、ボールの方向転換路を有する。また、この直動装置は一対二列の転動通路を有する。
【0003】
特許文献2の直動装置(テーブル移送装置)は、ねじ軸とナットを有するボールねじと、案内レールとスライダを有するリニアガイドとが一体化され、スライダにボールねじ孔(ナット)が直接形成され、案内レールの長手方向に垂直な断面は凹状(U字状)で、スライダをこの凹部に収納した状態でねじ軸の軸方向に沿って案内するものである。
この装置の案内レールは、スライダの各側面と対向配置される各袖部の内側面に、転動体の転動通路を構成する転動面を有する。スライダは、案内レールの前記転動面に対向配置されて前記転動通路を構成する転動面と、転動体の戻し通路と、前記戻し通路と前記転動通路とを連通させる方向転換路を有する。転動体はボールであり、二対四列の転動通路を有し、各袖部の二列の転動通路を転動するボール列の荷重作用線の交点が、幅方向で前記転動通路より内側に存在している。
【0004】
特許文献3の直動装置(直線案内装置)は、ねじ軸とナットを有するボールねじと、案内レールとスライダを有するリニアガイドとが一体化され、スライダにボールねじ孔(ナット)が直接形成され、案内レールの長手方向に垂直な断面は凹状(U字状)で、スライダをこの凹部に収納した状態でねじ軸の軸方向に沿って案内するものである。
この装置の案内レールは、スライダの各側面と対向配置される各袖部の内側面に、転動体の転動通路を構成する転動面を有する。スライダは、案内レールの前記転動面に対向配置されて前記転動通路を構成する転動面と、転動体の戻し通路と、前記戻し通路と前記転動通路とを連通させる方向転換路を有する。転動体はころであり、一対二列の転動通路を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−309373号公報
【特許文献2】特開平2−298446号公報
【特許文献3】特開2000−297853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の直動装置は、特許文献2および3の直動装置のようなボールねじ機構を有さないため、スライダおよび案内レールの取付誤差が大きいと寿命が低下するという問題点を有する。
本発明の課題は、案内レールの断面がU字状に形成され、ボールねじ機構を有さない直動装置の取付誤差に伴う寿命低下を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、断面がU字状に形成された案内レールと、前記案内レールのU字状の凹部内に配置されたスライダと、複数個の転動体と、を有し、前記案内レールは、前記スライダの各側面と対向配置される各袖部の内側面に、前記転動体の転動通路を構成する転動面を有し、前記スライダは、案内レールの前記転動面に対向配置されて前記転動通路を構成する転動面と、転動体の戻し通路と、前記戻し通路と前記転動通路とを連通させる方向転換路を有し、前記転動体はころであり、二対四列の転動通路を有し、各袖部の二列の転動通路を転動するころ列の荷重作用線の交点が、幅方向で前記転動通路より内側に存在し、前記両ころ列の荷重作用線の角度は90°より小さく、前記ころの転動により、前記案内レールに対してスライダが相対的に直線運動する直動装置を提供する。
【0008】
本発明の直動装置によれば、各袖部の二列の転動通路を転動するころ列の荷重作用線の交点が、幅方向で前記転動通路より内側に存在している(DF接触構造である)ため、前記交点が幅方向で前記転動通路より外側に存在している(DB接触構造である)場合や一対二列の転動通路を有する場合と比較して、調心性に優れる。したがって、スライダおよび案内レールの取付誤差が大きい場合でも、取付誤差に伴う寿命低下が防止される。
【0009】
また、転動体としてころを用いることにより、ボールを使用した場合よりも負荷容量が大きくなる。
さらに、案内レールの断面がU字状であり、両袖部の内側面に転動面を有しているため、案内レールの袖部が開きやすい形状となっており、この袖部が逃げることでも取付誤差を吸収することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の直動装置によれば、案内レールの断面がU字状に形成され、ボールねじ機構を有さない直動装置の取付誤差に伴う寿命低下が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に相当する直動装置を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に相当する直動装置を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に相当する直動装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の一実施形態に相当する直動装置を示す断面図である。
この直動装置は、案内レール1と、スライダ2と、ころ5とを備えている。
案内レール1の長手方向に垂直な断面は、開口側を上にしたコの字状(U字状)で、この凹部11にスライダ2が収納されている。案内レール1には、スライダ2の各側面と対向配置される各袖部12の内側面に、ころ5の転動通路を構成する転動面12aが形成されている。
【0013】
スライダ2の各側面には、案内レール1の転動面12aと対向する位置に、転動面22aが形成されている。これらの対向する転動面12a,22aが、ころ5の転動通路を構成する。この転動通路を二対四列有し、各袖部12の二列の転動通路を転動するころ列の荷重作用線L1,L2の交点Cが、幅方向で転動通路の内側に存在している。交点Cを通る水平線LCと荷重作用線L1,L2との角度(接触角)は45°である。スライダ2には、また、戻し通路51と方向転換路が形成されている。
【0014】
案内レール1には、また、両袖部12で挟まれた底部13に、取付ボルトを挿入するための貫通穴15が形成されている。貫通穴15は、幅方向で底部13の各袖部12との境界位置に形成されている。案内レール1の底部13の底面には、両貫通穴15間に肉盗み部16が形成されている。スライダ2の上面には、取付ボルトの先端を螺合する雌ねじ穴25が形成されている。
この直動装置の案内レール1を、貫通穴15を利用したボルト止めでテーブル6に固定し、スライダ2の上に、雌ねじ穴25を利用したボルト止めでワークを固定する。そして、モータなどの駆動源を作動してスライダ2を駆動させることにより、スライダ2を案内レール1に対して軸方向に沿って移動させる。
【0015】
この実施形態の直動装置によれば、各袖部12の二列の転動通路を転動するころ列の荷重作用線の交点Cが、幅方向で転動通路の内側に存在している(DF接触構造)ため、調心性に優れる。したがって、スライダ2および案内レール1の取付誤差が大きい場合でも、取付誤差に伴う寿命低下が防止される。
また、案内レール1の断面がU字状であり、両袖部12の内側面に転動面12aを有しているため、袖部12が開きやすい形状となっており、この袖部12が逃げることでも取付誤差を吸収することができる。
【0016】
図1の直動装置では接触角を45°として、両ころ列の荷重作用線L1,L2の角度を90°にしているが、両ころ列の荷重作用線L1,L2の角度を90°より小さくすると、荷重作用線L1,L2の交点Cが幅方向でより内側に存在するため、より高い調心性が得られる。図2は、接触角を35°として、両ころ列の荷重作用線L1,L2の角度を70°にした例である。図1と図2で上下のころ5の中心位置を同じにしてある。左右の交点C間の距離Kを比較すると、図1より図2の方が短くなっており、交点Cが幅方向でより内側に存在することが分かる。
【0017】
また、図3に示すように、スライダ2の幅方向中央部(左右の戻し通路51の間)に、転動面22aより高い位置まで凹部26を設けると、スライダ2の剛性が低下して、このような凹部26がない場合よりも取付誤差の影響を受けないようにできる。また、この凹部26内に駆動源を配置することで直動装置のコンパクト化が図れる。
【符号の説明】
【0018】
1 案内レール
11 凹部
12 袖部
12a 案内レールの転動面
13 底部
15 貫通穴
16 肉盗み部
2 スライダ
22a スライダの転動面
25 雌ねじ穴
26 凹部
5 ころ
6 テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面がU字状に形成された案内レールと、
前記案内レールのU字状の凹部内に配置されたスライダと、
複数個の転動体と、
を有し、
前記案内レールは、前記スライダの各側面と対向配置される各袖部の内側面に、前記転動体の転動通路を構成する転動面を有し、
前記スライダは、案内レールの前記転動面に対向配置されて前記転動通路を構成する転動面と、転動体の戻し通路と、前記戻し通路と前記転動通路とを連通させる方向転換路を有し、
前記転動体はころであり、二対四列の転動通路を有し、各袖部の二列の転動通路を転動するころ列の荷重作用線の交点が、幅方向で前記転動通路より内側に存在し、
前記両ころ列の荷重作用線の角度は90°より小さく、
前記ころの転動により、前記案内レールに対してスライダが相対的に直線運動する直動装置。
【請求項2】
前記交点を通る水平線と前記各ころ列の荷重作用線との角度が35°である請求項1記載の直動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−83358(P2013−83358A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−23596(P2013−23596)
【出願日】平成25年2月8日(2013.2.8)
【分割の表示】特願2008−283097(P2008−283097)の分割
【原出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】