説明

相関抑圧フィルタ、ウェイト算出方法、ウェイト算出装置、アダプティブアレーアンテナ及びレーダ装置

【課題】ウェイトを算出するための受信信号に目標信号が存在すると、適応信号処理適用後に不要信号だけでなく目標信号も抑圧してしまうため、受信信号を複数の範囲に分割し、ウェイトを適用する範囲を除いたデータからウェイトを算出していたが、多くの演算時間を要していた。
【解決手段】アレーアンテナ21で得られたレーダパルスの目標反射信号を励振受信部22で受信検波し、信号処理部27の相関抑圧フィルタ回路272において、相関抑圧フィルタを受信信号に適用することで目標信号と相関の高い成分を抑圧し、ウェイト算出回路275にて相関抑圧フィルタ適用後のデータから適応ウェイトを求め、ビーム合成回路276において、適応ウェイトによりアンテナ受信信号にウェイト制御を施して出力データとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、受信信号において目標信号との相関を抑圧する相関抑圧フィルタ、相関抑圧フィルタ適用後の受信信号に対するウェイト制御を行うに際して、不要波を抑圧して目標からの反射信号を検出するのに好適なウェイトを算出するウェイト算出方法、そのウェイト算出方法を用いたウェイト算出装置、そのウェイト算出装置を採用したアダプティブアレーアンテナ、及びそのアダプティブアレーアンテナを組み込んだレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パルスレーダ装置では、より目標検出精度を向上させるために、アダプティブアレーアンテナを組み込んで、いわゆるアダプティブヌルステアリングを行うようになってきている。このアダプティブヌルステアリングは、アダプティブアレーアンテナにおいて受信信号の位相及び振幅にウェイト制御を施すことで、妨害波等の不要波が到来する方向の指向性が零(ヌル)になるように受信合成ビームを形成する処理である。このような用途に用いられるアダプティブアレーアンテナには、多数の遅延信号が到来する環境下やクラッタ及び妨害波等の不要波が存在する環境下においても、上記の受信合成ビームの形成が適正に行われるようにウェイト制御を行うことが求められている。
【0003】
そこで、アダプティブアレーアンテナにおいて、サイドローブキャンセラー(SLC:Side Lobe Canceller)方式や時空間適応信号処理(STAP:Space Time Adaptive Processing)方式を採用した、ウェイト制御方法が注目されている。これは、サイドローブキャンセラー(SLC)方式や時空間適応信号処理(STAP)方式では、SINR(Signal to Interference plus Noise Ratio)をより改善し、不要波の到来方向での指向性が零(ヌル)に近い良好なビーム形成を行い得るという特徴を有するからである。
【0004】
例えば、時空間適応信号処理(STAP)方式では、以下のような処理が行われる。まず、複数(N)本、アレー状に配列されたアンテナ(素子アンテナ、すなわちチャンネル)により目標反射信号を受信し、その受信信号を、受信パルス幅に対応した幅のレンジ(距離)セル(range cell)が時間軸上に所定の長さで連なるように形成された、全処理レンジセルの対応セル位置に記憶する。そして、その記憶されたデータから、目標信号を含むと想定されるレンジセル(処理適用レンジセルという)を除いたレンジセル、すなわち不要波のみから形成されると想定されるセルのデータから共分散行列を演算する。最終的に、ビーム合成回路において、ウェイトの適用範囲毎に算出した適応ウェイトを用いて、アンテナ受信信号にウェイト制御を施すようにしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. R. Guerci, Space-Time Adaptive Processing for Radar, Artech House, Norwood, MA, 2003.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のレーダ装置に用いられるアダプティブアレーアンテナのウェイト制御による不要信号抑圧方式では、不要波方向を零にするためのウェイト算出時の受信信号に目標信号が存在すると、不要信号だけでなく目標信号も抑圧してしまう。これを回避するため、受信信号を複数の範囲に分割し、ウェイトを適用する範囲を除いたデータからウェイトを算出していたため、ウェイトの適用範囲毎にウェイトを算出する必要があり、多くの演算時間を要していた。
【0007】
本実施形態は上記の課題に鑑みてなされたもので、ウェイト制御による適応信号処理方式において、不要波方向を零にするためのウェイト算出時に、目標信号との相関を抑圧する相関抑圧フィルタ、相関抑圧フィルタ適用後のデータから適応ウェイトを求め、少ない計算量で良好な改善度を実現するウェイト算出方法、ウェイト算出装置、アダプティブアレーアンテナ、及びレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するために、本実施形態に係る相関抑圧フィルタは、アレー状に配列された複数のアンテナ素子によってレーダパルスの目標反射信号を受信し、各アンテナ素子それぞれの受信信号を時間軸上で所定距離相当の長さからなる複数の処理レンジセルに対して受信タイミングに沿った対応セル位置に記憶し、前記アンテナ素子毎に複数の処理レンジセルに記憶された値を用いて前記目標反射信号の到来方向に対して不要波の到来方向が零になるように受信合成ビームを形成するアダプティプアレーアンテナを備えるレーダ装置に用いられ、前記受信合成ビームを形成するための前記受信信号の位相及び振幅に対するウェイトを算出する前処理として、前記レーダパルスの送信波形の標本値であるリファレンス信号を用いて目標信号との相関を抑圧するフィルタ係数を予め算出する係数算出手段と、前記係数算出手段で算出されたフィルタ係数を前記受信信号に適用することで、受信信号から目標信号成分を除去する係数適用手段とを具備する態様とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態に係る相関抑圧フィルタ適用後の受信信号の特性を示す特性図。
【図2】本実施形態で適用される受信信号と従来のウェイト適用の概念図。
【図3】本実施形態に係る相関抑圧フィルタを用いたレーダ装置の構成を示すブロック図。
【図4】本実施形態に係わるデータ処理の概念を示す図。
【図5】本実施形態に係る相関抑圧フィルタ適用/非適用の場合の受信信号に対する不要信号抑圧処理を適用した場合の出力データの処理結果を示す図。
【図6】本実施形態に係るウェイト算出装置の一実施形態の構成を示すブロック図。
【図7】本実施形態に係わる適応信号処理におけるウェイト算出装置、及びアダプティブアレーアンテナが組み込まれたレーダ装置の概略構成を示すブロック図。
【図8】本実施形態に係わる処理の流れを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本実施形態について説明する。
まず、実施形態として、
(1)リファレンス信号を用いて相関抑圧フィルタの係数を予め算出して受信信号に適用した場合、
(2)複数のリファレンス信号を用いて複数の相関抑圧フィルタの係数を予め算出して受信信号に適用した場合、
(3)受信信号からリファレンス信号を推定して相関抑圧フィルタの係数を動的に算出して受信信号に適用した場合、
(4)これらの相関抑圧フィルタを多段に具備して受信信号に適用した場合、
の各受信信号から目標信号成分を除去した信号に対してウェイトを算出し、演算時間を高速化する方法について説明する。なお、上記(1)〜(4)の全てにおいて、相関抑圧フィルタの導出方法は同一である。
【0011】
さて、受信信号に対して、パルス圧縮フィルタへの入力信号系列ベクトルA-- はベクトルを表すものとする)を次の(1)式で与える。
【数1】

【0012】
これは、レーダの送信源から割り当てた符号に対応した入力信号系列ベクトルである。すなわち、このベクトル要素は、送信パルス内でのレンジ方向の時間順のI/Qサンプリングデータとし、レーダ送信波形の標本値(リファレンス信号)に相当する。
【0013】
次いで、パルス圧縮フィルタ回路への入力信号状態マトリックスXを、次の(2)式で与える。
【数2】

【0014】
さらに、パルス圧縮フィルタにおけるフィルタ係数ベクトルは、NタップのFIRフィルタ係数ベクトルH- として、次の(3)式で表現できる。
【数3】

【0015】
ここで、F- は最適フィルタ(マッチドフィルタ)のN次係数ベクトル、Wは窓関数に相当しN次元の対角行列とする。
これらを用い、パルス圧縮フィルタの出力時系列yは、次の(4)式で表現できる。
【数4】

【0016】
ここで、T は転置行列を示す。
【0017】
(4)式をFFT周波数スペクトルと対応させると、次の(5)式のように表現できる。
【数5】

【0018】
ここで、演算マトリックスとして、FFT演算マトリックスQ及びIFFT演算マトリックスQ^をそれぞれ(6)及び(7)式で定義する。
【数6】

【0019】
【数7】

【0020】
また、FFTポイント数Nf は、パルス圧縮フィルタの出力時系列ポイント数(2N−1)よりも大きいものとする。
【0021】
さらに、FFTポイント数Nf に合わせて、(8)、(9)、(10)、(11)及び(12)式のように、0を付加する。
【数8】

【0022】
【数9】

【0023】
【数10】

【0024】
【数11】

【0025】
【数12】

【0026】
さらに、主ローブ近傍±Nx ポイントを除いた(0とした)出力ベクトル、すなわち目標信号(期待値)ym を次の(13)式で与えるものとする。
【数13】

【0027】
ここで、(4)式で示したように、目標信号のパルス圧縮フィルタの出力時系列ymzは、次の(14)式で表現できる。
【数14】

【0028】
さて、(13)及び(14)式から明らかなように、Hdzは目標信号を抑圧する係数ベクトルであり、次の(15)〜(21)式を用いて算出できる。
【数15】

【0029】
【数16】

【0030】
【数17】

【0031】
【数18】

【0032】
【数19】

【0033】
【数20】

【0034】
【数21】

【0035】
なお、(1)式の入力信号系列ベクトルA- を、他の入力信号系列に変更することで、容易に複数のリファレンス信号に対する相関抑圧フィルタが実現可能である。また、受信信号からリファレンス信号、すなわち、目標信号を推定し、入力信号系列ベクトルとして用いることも可能である。加えて、相関抑圧フィルタ適用後の信号に対して、目標信号を抑圧するフィルタを、受信信号に対して複数回、上記と同様の処理を実施することも可能である。さらには、複数回に渡って相関抑圧フィルタを適用する際、リファレンス信号を変更することも可能である。さらに、±Nx の設定値をサイドローブ領域まで広げることで、主ローブ近傍だけでなく、サイドローブ領域も抑圧することが可能である。
【0036】
ここで、本実施形態の一例として、FFTポイント数512、Nx =6、目標が存在するレンジビン128において、導出した相関抑圧フィルタ適用の受信信号を図1に示す。図1から、パルス圧縮フィルタによる処理結果では図中実線で示すように存在する目標信号が、相関抑圧フィルタを適用することで、図中点線で示すように抑圧されていることが分かる。
【0037】
さて、本実施形態の一例として、相関抑圧フィルタ適用後の受信信号を用いて不要信号抑圧ウェイトを導出する一例として、時空間適応信号処理(STAP)方式を考える。
【0038】
受信信号Xの到来方向の方向行列をA、また複素振幅ベクトルをS、平均0,分散σ2 で与えられる熱雑音をnとしたとき、受信信号Xは次の(22)式で表される。
【数22】

【0039】
また、間隔dxをなしてアレー状に配列されたN個のアンテナ#n(n:1〜N)により目標信号を受信したとき、受信周波数信号の波長をλ(Λ)、D個の到来目標信号d(d:1〜D)の到来方向を決めるステアリングベクトルa(θd)は、次の(23)式で表される。
【数23】

【0040】
ここで、角度方向、すなわち、空間系列に対する方向行列Aθは下記(24)式となる。
【数24】

【0041】
さらに、目標信号dのドップラー周波数をfd、M個の受信パルスの間隔をTとすると、時間方向のステアリングベクトルa(fd)は次の(25)式で示される。
【数25】

【0042】
このことから、全ての受信パルスに対する、時系列の方向行列Afは下記(26)式で表される。
【数26】

【0043】
よって、方向行列A(θ,f)は、次の(27)式
【数27】

【0044】
で表される時空間ステアリングベクトルa(θd, fd)を用いて、下記(28)式で与えられる。
【数28】

【0045】
ここで、時刻kにおける(NM×1)次元の入力ベクトルをxk とすると、K個分のデータから算出される共分散行列Rは(29)式で与えられる。
【数29】

【0046】
例えば、一つの目標に対するウィナ・フィルタ(Wiener Filter)のウェイトwは、(28)式におけるステアリングベクトルa(θd, fd)を選択しこれをsとすると、(30)式で算出される。
【数30】

【0047】
このとき、アンテナ数N、受信パルス数M、距離(レンジ数)Lの場合での受信信号とウェイト適用の概念図を図2に示す。図2では、k〜k+K/2-1及びk+K〜k+3K/2までのK個分のデータにウェイトを適用する様子を示している。図2及び(30)式から、ウェイトの算出には、NM次元の逆行列演算が必要であることが分かる。また、図2では、k+K/2〜k+K-1までのK/2個分の受信信号にウェイトを適用する場合を示しているが、受信信号全てに対してウェイトを計算する必要があり、ウェイトを適用するデータ分割数に従って、ウェイトの計算時間(ウェイト計算数)が増加することが分かる。
【0048】
さて、導出した相関抑圧フィルタ適用後に不要信号抑圧処理としてSTAPを適用する場合の概念について、図3及び図4を参照して説明する。図3は本実施形態に係る相関抑圧フィルタを用いたレーダ装置の構成、図4はアンテナ数N、受信パルス数M、距離(レンジ数)Lの場合での受信信号と本実施形態のウェイト適用の場合の概念図を示している。
【0049】
図3において、アレーアンテナ1のアンテナ素子#1〜#Nで受けた信号はそれぞれA/D変換部2によりデジタル信号に変換された後、パルス圧縮回路3に送られる。このパルス圧縮回路3は、予め所定距離相当の長さの処理レンジセルに対応する記憶領域を備え、入力データを受信タイミングに沿った対応セル位置の記憶領域に順次記憶しつつ、順次ビーム合成回路4に送られる。
【0050】
一方、上記デジタル化された受信データは相関抑圧フィルタ回路5を介してウェイト算出回路6に送られる。上記相関抑圧フィルタ回路5及びウェイト算出回路6には、リファレンス信号生成回路7で生成されるリファレンス信号が与えられる。
【0051】
すなわち、上記構成によるレーダ装置では、リファレンス信号を用いて相関抑圧フィルタ回路5おける受信信号全てに対して相関抑圧フィルタ処理を適用し、相関抑圧フィルタ適用後のデータを用いてウェイト算出回路6にてリファレンス信号に基づく不要信号抑圧ウェイトを計算し、次いで、相関抑圧フィルタを適用していない受信信号に対して、不要信号抑圧ウェイトを適用してビーム合成回路4にてビーム形成を行う。この結果、図4に示すように、k〜k+K+1までのk個分の受信信号からウェイトを算出し、k〜k+K+1までのK個分のデータにウェイトを適用することになり、ウェイト算出を行うデータとウェイトを適用するデータの範囲が一致することになる。
【0052】
ここで、本実施形態の一例として、目標が存在するレンジビン64において、全ての受信信号に相関抑圧フィルタを非適用で不要信号抑圧処理を実施した場合、並びに、相関抑圧フィルタを適用した後に不要信号抑圧処理を実施した場合の出力データを図5に示す。図5において、実線が相関抑圧フィルタ非適用の場合、一点鎖線が相関抑圧フィルタ適用の場合を示している。図に示すように、相関抑圧フィルタを適用しない場合は、受信信号に目標信号成分が存在するため、不要信号抑圧処理により目標が抑圧されてしまうが、相関抑圧フィルタを適用することで目標信号が抑圧されていないことが分かる。
【0053】
したがって、本実施形態に係わる(1)リファレンス信号を用いて相関抑圧フィルタの係数を予め算出して受信信号に適用、または、(2)複数のリファレンス信号を用いて複数の相関抑圧フィルタの係数を予め算出して受信信号に適用、または、(3)受信信号からリファレンス信号を推定して相関抑圧フィルタの係数を動的に算出して受信信号に適用、または、(4)これらの相関抑圧フィルタを多段に具備して受信信号に適用することで、受信信号から目標信号成分を確実に除去することができる。このため、目標信号の抑圧を回避することを目的として受信信号を複数の範囲に分割し、ウェイトを適用する範囲を除いたデータからウェイトの適用範囲毎にウェイトを算出する必要がなくなることから、受信信号に対して最低一回の計算で得ることが可能となり、演算時間の高速化と目標のドップラー周波数に対して良好なSINR特性を得ることができる。
【0054】
図6は本実施形態に係るウェイト算出装置の一実施形態を示すブロック図である。図6において、11はCPU(演算処理装置)であり、このCPU11はバス12を通じてプログラム記憶用ROM13、データ入出力インターフェース(I/O)14、データ一時記憶用RAM15に接続されている。ROM13には、本実施形態に係わるウェイト算出プログラムが格納されており、処理開始が指示されると、CPU11はROM13からプログラムをロードし、データ入出力インターフェース14を介してデータを取り込んでRAM15に一時格納し、当該RAM15から適宜データを読み出して、ウェイト演算処理を実行し、得られたウェイト演算結果をインターフェース14から出力する。
【0055】
上記構成による本実施形態のウェイト算出装置は、目標のドップラー周波数に対してSINR劣化を抑制する上記本実施形態に係るウェイト算出方法を使用するので、良好なSINR特性を得ることが可能である。そこで、このウェイト算出装置をアダプティブアレイアンテナに採用し、個々のアンテナ素子の入出力に対するウェイト算出を行わせる。これによれば、良好なSINR特性を有する合成ビームを形成することが可能となる。
【0056】
ところで、アダプティブアレイアンテナは、目標を捕捉するための合成開口レーダ装置等のレーダ装置に採用されている。そこで、上記のようにアダプティブアレイアンテナに本実施形態のウェイト算出装置を採用することで、良好なSINR特性を有する合成ビームを形成することが可能となる。このため、このアンテナを用いるレーダ装置にあっては、目標をより良好に捕捉することができるようになる。
【0057】
上記レーダ装置の一例として、図7に本実施形態を適用した適応信号処理におけるウェイト算出装置が組み込まれたレーダ装置の概略ブロック構成図を示す。図7において、21はN個のアンテナ素子でレーダパルスの目標反射信号を受信するアダプティブアレーアンテナである。このアンテナ21の各素子出力は、それぞれ励振受信部22で受信検波されて信号処理部27に送られる。信号処理部27では、パルス圧縮回路271において、予め所定距離相当の長さの処理レンジセルに対応する記憶領域が用意されており、入力データは受信タイミングに沿った対応セル位置の記憶領域に順次記憶され、順次ビーム合成回路276に送られる。
【0058】
ここで、一部のアンテナ素子出力はリファレンス信号推定回路273に送られ、受信信号の振幅・位相の基準として用いられる。励振受信部22は、リファレンス信号推定回路273及びリファレンス信号生成回路274を定期的に励振させて、所定距離相当のレンジセルそれぞれのウェイト算出のためのリファレンス信号を推定し生成する。
【0059】
また、信号処理部27は、ウェイト算出回路275において、(1)リファレンス信号を用いて相関抑圧フィルタ回路272の係数を予め算出して受信信号に適用、または、(2)複数のリファレンス信号を用いて複数の相関抑圧フィルタ回路272の係数を予め算出して受信信号に適用、または、(3)受信信号からリファレンス信号を推定して相関抑圧フィルタ回路272の係数を動的に算出して受信信号に適用、または、(4)これらの相関抑圧フィルタを多段に具備して受信信号に適用することで、受信信号から目標信号成分が除去したデータから適応ウェイトを算出する。最終的に、ビーム合成回路276において、導出された適応ウェイトによりアンテナ受信信号にウェイト制御を施して出力データとする。このように、アダプティブアレーアンテナでウェイト制御が施された出力データ、すなわち目標反射信号は信号処理装置28に送られ、目標が検出される。
【0060】
上記構成の適応信号処理方式におけるウェイト制御では、適応ウェイトを算出するために、ウェイト算出回路275において、レンジセル毎のウェイト演算が行われる。このウェイト算出回路275に先に述べたウェイト算出方法、すなわち、(1)リファレンス信号を用いて相関抑圧フィルタ回路272の係数を予め算出して受信信号に適用、または、(2)複数のリファレンス信号を用いて複数の相関抑圧フィルタ回路272の係数を予め算出して受信信号に適用、または、(3)受信信号からリファレンス信号を推定して相関抑圧フィルタ回路272の係数を動的に算出して受信信号に適用、または、(4)これらの相関抑圧フィルタを多段に具備して受信信号に適用することで受信信号から目標信号成分が除去される。
【0061】
上記のような処理を行うことにより、目標信号の抑圧を回避することを目的として受信信号を複数の範囲に分割し、ウェイトを適用する範囲を除いたデータからウェイトの適用範囲毎にウェイトを算出する必要がなくなり、受信信号に対して最低一回の計算で得ることが可能なため、演算時間の高速化と目標のドップラー周波数に対して良好なSINR特性を得ることができる。
【0062】
ここで、図8に本実施形態を適用した相関抑圧フィルタ回路275の処理フローを示す。この相関抑圧フィルタ回路272は、リファレンス信号生成回路274においてリファレンス信号が事前に決定された場合に係数を事前に決定しておく処理S1と、リファレンス信号推定回路273において受信信号から目標反射信号に対応するリファレンス信号が推定された場合に係数を動的に算出する処理S2を備え、いずれかの処理S1,S2を選択処理S3により任意に選択可能とする。続いて、選択処理S4により、初期処理においては、ステップS1,S2で得られた係数を適用し(ステップS5)、定常動作時では係数を距離に応じて切り替えて適用する(ステップS6)。
【0063】
上記のように相関抑圧フィルタ回路272で適用された係数はウェイト算出回路275に送られる。このウェイト算出回路275では、距離に応じて決定された係数または演算時間と信号処理利得に応じて決定されたパルス数と、事前に決定されたリファレンス信号または推定されたリファレンス信号に基づいてウェイト算出アルゴリズムを選択し、適応ウェイトを算出する。
【0064】
尚、ウェイト算出回路275は、全ての受信信号に対して算出した適応ウェイトを積分する処理と、全ての受信信号に対して算出した適応ウェイトに複素ウェイトを乗算して積分する処理とを備え、選択処理によっていずれかの処理を選択可能とする。算出された積分結果はビーム合成回路276に送られてビーム合成されて出力データとなる。
【0065】
続いて、上記ビーム合成された出力データは、出力データから目標検出結果が得られるかどうか判断し、出力データに対する目標検出結果が得られない場合は演算時間の上限までウェイト算出に用いるパルス数を増加するように指示する。これにより、目標検出結果からウェイト算出に用いる受信パルスを自動的に選択することが可能となる。
【0066】
以上のように、本実施形態に係るウェイト算出方法では、目標反射信号の到来方向に対して不要波の到来方向を零になるようにするためのウェイト算出方式において、ウェイト算出に用いる受信信号を、リファレンス信号を用いて相関抑圧フィルタの係数を予め算出して受信信号に適用、または、複数のリファレンス信号を用いて複数の相関抑圧フィルタの係数を予め算出して受信信号に適用、または、受信信号からリファレンス信号を推定して相関抑圧フィルタの係数を動的に算出して受信信号に適用、または、これらの相関抑圧フィルタを多段に具備して受信信号に適用することで受信信号から目標信号成分が除去されるため、目標信号の抑圧を回避することを目的として受信信号を複数の範囲に分割し、ウェイトを適用する範囲を除いたデータからウェイトを算出することで、ウェイトの適用範囲毎にウェイトを算出する必要がなく、受信信号に対して最低一回の計算得るため演算時間の高速化が可能であり、演算時間の高速化と目標のドップラー周波数に対して良好なSINR特性を得ることができる。
【0067】
また、本実施形態のウェイト算出装置は、上記のように、ウェイト算出に用いる受信信号を、リファレンス信号を用いて相関抑圧フィルタの係数を予め算出して受信信号に適用、または、複数のリファレンス信号を用いて複数の相関抑圧フィルタの係数を予め算出して受信信号に適用、または、受信信号からリファレンス信号を推定して相関抑圧フィルタの係数を動的に算出して受信信号に適用、または、これらの相関抑圧フィルタを多段に具備して受信信号に適用することで受信信号から目標信号成分が除去されるため、目標信号の抑圧を回避することを目的として受信信号を複数の範囲に分割し、ウェイトを適用する範囲を除いたデータからウェイトの適用範囲毎にウェイトを算出する必要がなく、受信信号に対して最低一回の計算得るため演算時間の高速化が可能であり、演算時間の高速化と目標のドップラー周波数に対して良好なSINR特性を得ることができる。
【0068】
また、本実施形態のアダプティブアレイアンテナは、上記のように、ウェイト算出の時間短縮が可能なウェイト算出回路を採用するので、良好な合成ビームを短時間に形成することができる。
【0069】
また、本実施形態のレーダ装置は、上記のように、合成ビームを短時間に形成することが可能なアダプティブアレイアンテナを組み込むので、目標を迅速に捕捉することができる。
【0070】
尚、上記実施形態はそのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせでもよい。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1…アレーアンテナ、2…A/D変換部、3…パルス圧縮回路、4…ビーム合成回路、5…相関抑圧フィルタ回路、6…ウェイト算出回路、7…リファレンス信号生成回路、11…CPU、12…バス、13…プログラム記憶用ROM、14…データ入出力インターフェース、15…データ一時格納用RAM、21…アダプティブアレーアンテナ、22…励振受信部、27…信号処理部、271…パルス圧縮回路、272…相関抑圧フィルタ回路、273…リファレンス信号推定回路、274…リファレンス信号生成回路、275…ウェイト算出回路、276…ビーム合成回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレー状に配列された複数のアンテナ素子によってレーダパルスの目標反射信号を受信し、各アンテナ素子それぞれの受信信号を時間軸上で所定距離相当の長さからなる複数の処理レンジセルに対して受信タイミングに沿った対応セル位置に記憶し、前記アンテナ素子毎に複数の処理レンジセルに記憶された値を用いて前記目標反射信号の到来方向に対して不要波の到来方向が零になるように受信合成ビームを形成するアダプティプアレーアンテナを備えるレーダ装置に用いられ、
前記受信合成ビームを形成するための前記受信信号の位相及び振幅に対するウェイトを算出する前処理として、
前記レーダパルスの送信波形の標本値であるリファレンス信号を用いて目標信号との相関を抑圧するフィルタ係数を予め算出する係数算出手段と、
前記係数算出手段で算出されたフィルタ係数を前記受信信号に適用することで、受信信号から目標信号成分を除去する係数適用手段と
を具備することを特徴とする相関抑圧フィルタ。
【請求項2】
アレー状に配列された複数のアンテナ素子によってレーダパルスの目標反射信号を受信し、各アンテナ素子それぞれの受信信号を時間軸上で所定距離相当の長さからなる複数の処理レンジセルに対して受信タイミングに沿った対応セル位置に記憶し、前記アンテナ素子毎に複数の処理レンジセルに記憶された値を用いて前記目標反射信号の到来方向に対して不要波の到来方向が零になるように受信合成ビームを形成するアダプティプアレーアンテナを備えるレーダ装置に用いられ、
前記受信合成ビームを形成するための前記受信信号の位相及び振幅に対するウェイトを算出する前処理として、
前記レーダパルスの送信波形の標本値である複数のリファレンス信号を用いて目標信号との相関を抑圧する複数のフィルタ係数を予め算出する係数算出手段と、
前記係数算出手段で算出された複数のフィルタ係数を前記受信信号の距離に応じて動的に変更して前記受信信号に適用することで、前記受信信号から目標信号成分を除去する係数適用手段と
を具備することを特徴とする相関抑圧フィルタ。
【請求項3】
アレー状に配列された複数のアンテナ素子によってレーダパルスの目標反射信号を受信し、各アンテナ素子それぞれの受信信号を時間軸上で所定距離相当の長さからなる複数の処理レンジセルに対して受信タイミングに沿った対応セル位置に記憶し、前記アンテナ素子毎に複数の処理レンジセルに記憶された値を用いて前記目標反射信号の到来方向に対して不要波の到来方向が零になるように受信合成ビームを形成するアダプティプアレーアンテナを備えるレーダ装置に用いられ、
前記受信合成ビームを形成するための前記受信信号の位相及び振幅に対するウェイトを算出する前処理として、
前記受信信号から前記レーダパルスの送信波形の標本値であるリファレンス信号を推定して目標信号との相関を抑圧するためのフィルタ係数を動的に算出する係数算出手段と、
前記係数算出手段で算出されたフィルタ係数を受信信号に適用することで、受信信号から目標信号成分を除去する係数適用手段と
を具備することを特徴とする相関抑圧フィルタ。
【請求項4】
前記請求項1、2及び3のいずれかに記載の係数算出手段及び係数適用手段を複数組備え、多段接続してなることを特徴とする相関抑圧フィルタ。
【請求項5】
アレー状に配列された複数のアンテナ素子によってレーダパルスの目標反射信号を受信し、各アンテナ素子それぞれの受信信号を時間軸上で所定距離相当の長さからなる複数の処理レンジセルに対して受信タイミングに沿った対応セル位置に記憶し、前記アンテナ素子毎に複数の処理レンジセルに記憶された受信信号に適応ウェイトを適用して、前記目標反射信号の到来方向に対して不要波の到来方向が零になるように受信合成ビームを形成するアダプティプアレーアンテナを備えるレーダ装置に用いられ、
前記請求項1乃至4のいずれか記載の相関抑圧フィルタで得られる受信信号から前記適応ウェイトを算出することを特徴とするウェイト算出方法。
【請求項6】
アレー状に配列された複数のアンテナ素子によってレーダパルスの目標反射信号を受信し、各アンテナ素子それぞれの受信信号を時間軸上で所定距離相当の長さからなる複数の処理レンジセルに対して受信タイミングに沿った対応セル位置に記憶し、前記アンテナ素子毎に複数の処理レンジセルに記憶された受信信号に適応ウェイトを適用して、前記目標反射信号の到来方向に対して不要波の到来方向が零になるように受信合成ビームを形成するアダプティプアレーアンテナを備えるレーダ装置に用いられ、
前記請求項1乃至4のいずれか記載の相関抑圧フィルタで得られる受信信号から前記適応ウェイトを算出するウェイト算出手段を備えることを特徴とするウェイト算出装置。
【請求項7】
アレー状に配列された複数のアンテナ素子によってレーダパルスの目標反射信号を受信し、各アンテナ素子それぞれの受信信号を時間軸上で所定距離相当の長さからなる複数の処理レンジセルに対して受信タイミングに沿った対応セル位置に記憶し、前記アンテナ素子毎に複数の処理レンジセルに記憶された受信信号に適応ウェイトを適用して、前記目標反射信号の到来方向に対して不要波の到来方向が零になるように受信合成ビームを形成するアダプティプアレーアンテナであって、
前記請求項1乃至4のいずれか記載の相関抑圧フィルタと、
前記相関抑圧フィルタで得られる受信信号から前記適応ウェイトを算出するウェイト算出手段と、
前記適応ウェイトにより前記アンテナ素子毎の受信信号にウェイト制御を施して前記受信合成ビームを形成するビーム形成手段と
を具備することを特徴とするアダプティプアレーアンテナ。
【請求項8】
アレー状に配列された複数のアンテナ素子によってレーダパルスの目標反射信号を受信し、各アンテナ素子それぞれの受信信号を時間軸上で所定距離相当の長さからなる複数の処理レンジセルに対して受信タイミングに沿った対応セル位置に記憶し、前記アンテナ素子毎に複数の処理レンジセルに記憶された受信信号に適応ウェイトを適用して、前記目標反射信号の到来方向に対して不要波の到来方向が零になるように受信合成ビームを形成するアダプティプアレーアンテナであって、前記請求項1乃至4のいずれか記載の相関抑圧フィルタと、前記相関抑圧フィルタで得られる受信信号から前記適応ウェイトを算出するウェイト算出手段と、前記適応ウェイトにより前記アンテナ素子毎の受信信号にウェイト制御を施して前記受信合成ビームを形成するビーム形成手段とを備えるアダプティプアレーアンテナと、
前記アダプティブアレーアンテナでウェイト制御が施された目標反射信号から目標を検出する信号処理装置と
を具備することを特徴とするレーダ装置。
【請求項9】
前記信号処理装置は、前記目標の形状を検出することを特徴とする前記請求項8に記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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