説明

省力化軌道の補修方法

【課題】補修用グラウトとして低流動性グラウトを使用することにより、空隙内の泥水に起因する再てん充層の強度低下、および、補修用グラウトの流動性に起因するてん充層下面のエア溜りの発生を確実に防止することができる、省力化軌道の補修方法を提供する。
【解決手段】てん充層4下の路盤1に発生した空隙10内に補修用グラウトをてん充して、空隙10内に再てん充層11を形成し、かくして、沈下した軌道を補修する、省力化軌道の補修方法において、前記補修用グラウトとして低流動性補修用グラウト8を使用し、低流動性補修用グラウト8を空隙10内にてん充して、空隙10内の泥水12を空隙10外に排除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、省力化軌道の補修方法、特に、てん充層下の路盤に発生した空隙内に補修用グラウトをてん充して、空隙内に再てん充層を形成し、かくして、沈下した軌道を補修する、省力化軌道の補修方法において、補修用グラウトとして低流動性グラウトを使用することにより、空隙内の泥水に起因する再てん充層の強度低下、および、補修用グラウトの流動性に起因するてん充層下面のエア溜りの発生を確実に防止することができる、省力化軌道の補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、図3に示すように、路盤21上に透水性のある不織布(図示せず)とバラスト22を敷き詰め、この上にコンクリート製のまくらぎ23を設置し、レール24を敷設後、凝固性のセメント系やアスファルト系のてん充材をバラスト22間にてん充して、てん充層25を形成し、これによりバラスト22とまくらぎ23とを一体化させる省力化軌道が開発され、実施されている。
【0003】
上記省力化軌道によれば、列車通過回数等に応じて定期的に行われるバラスト交換や道床つき固め等の保線のメンテナンス作業を軽減することができる。しかしながら、以下のような問題があった。
【0004】
路盤21が粘性土系の土路盤である場合には、図4に示すように、路盤21内に滞水領域26が生じることがある。この滞水領域26は、路盤21内にバラスト22の一部が入り込み、バラスト22が入り込んだ路盤21内に雨水等が浸入すること等が原因で生じる。路盤21内に滞水領域26が生じると、列車の繰返し荷重によるポンピング作用によって、同図に示すように、流動化した路盤土27が路盤1外に流出し、てん充層25の下部に空隙28が発生する。流動化した路盤土27は、路盤21に形成された水みち29を通って側溝30に流れ込む。てん充層25の下部に発生した空隙28は、徐々に成長して行き、空隙28がある程度、成長すると、軌道(既設のてん充層25およびまくらぎ23と一体化したレール24)が沈下し、最終的には、図5に示すように、てん充層25にクラック31が発生する。
【0005】
そこで、上記問題を解決するための、省力化軌道の補修方法が特許文献1(特開2007−247356号公報)に開示されている。
【0006】
以下、この省力化軌道の補修方法を従来補修方法といい、図面を参照しながら説明する。
【0007】
図6は、従来補修方法を示す断面図である。
【0008】
図6に示すように、従来補修方法は、空隙28内にジャッキ32を設置し、沈下した軌道をジャッキ32により沈下前の状態まで持ち上げる。そして、この状態で、てん充層25と路盤21との隙間に、セメントやアスファルト等の高流動性補修用グラウト33をてん充して空隙28を埋め、これにより空隙28内に、高流動性補修用グラウト33が硬化したものからなる再てん充層34を形成する方法である。高流動性補修用グラウト33をてん充する際には、てん充層25の両側に型枠35を設置して、高流動性補修用グラウト33の流出を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−247356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来補修方法によれば、てん充層25の下部に発生した空隙28は、高流動性グラウト33が硬化したものからなる再てん充層34により埋められるので、沈下した軌道を沈下前の状態に補修することができる。しかしながら、以下のような問題があった。
【0011】
(a)空隙28内にてん充された高流動性補修用グラウト33が空隙28内に滞留している泥水36により希釈される結果、再てん充層34の強度が低下する。
(b)てん充層25の下面には、不陸(凹凸)25Aが多く形成されている。高流動性補修用グラウト33のてん充に伴って高流動性補修用グラウト33の液面は徐々に上昇するが、てん充層25の下面に不陸25Aによるエア溜り(S)が形成されるために、補修用グラウト33の液面は、不陸25Aまでには至らない。その結果、高流動性補修用グラウト33のてん充不良が生じ、再てん充層34の強度低下等の問題が生じる。
【0012】
そこで、本願発明者等は、上述した従来補修方法の有する問題点を解決すべく、鋭意検討を重ねた。この結果、以下のような知見を得た。
【0013】
従来補修方法において、高流動性補修用グラウトに代えて低流動性補修用グラウトを用いれば、低流動性グラウトは自走性がないので、空隙内に滞留している泥水を排除することができる。この結果、泥水により補修用グラウトが希釈されて、再てん充層の強度が低下することを確実に防止することができる。しかも、てん充層の下面に不陸が生じていても、補修用グラウトが低流動性であるために、不陸内にも補修用グラウトが十分にてん充される。この結果、不陸によりてん充層の下面にエア溜りが発生することを確実に防止することができる。
【0014】
この発明は、上記知見に基づきなされたものであり、てん充層下の路盤に発生した空隙内に補修用グラウトをてん充して、空隙内に再てん充層を形成し、かくして、沈下した軌道を補修する、省力化軌道の補修方法において、補修用グラウトとして低流動性グラウトを使用することにより、空隙内の泥水に起因する再てん充層の強度低下、および、補修用グラウトの流動性に起因するてん充層下面のエア溜りの発生を確実に防止することができる、省力化軌道の補修方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明は、上記知見に基づきなされたものであり、下記を特徴とする。
【0016】
請求項1に記載の発明は、てん充層下の路盤に発生した空隙内に補修用グラウトをてん充して、前記空隙内に再てん充層を形成し、かくして、沈下した軌道を補修する、省力化軌道の補修方法において、前記補修用グラウトとして低流動性補修用グラウトを使用し、前記低流動性補修用グラウトを前記空隙内にてん充して、前記空隙内の泥水を前記空隙外に排除することに特徴を有するものである。
【0017】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の、省力化軌道の補修方法において、前記低流動性補修用グラウトには、短繊維が混入されていることに特徴を有するものである。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の、省力化軌道の補修方法において、前記短繊維は、ビニロンからなっていることに特徴を有するものである。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3の何れか1つに記載の、省力化軌道の補修方法において、前記低流動性補修用グラウトのフロー値は、200mm以下であることに特徴を有するものである。
【0020】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4の何れか1つに記載の、省力化軌道の補修方法において、前記低流動性補修用グラウトを前記空隙内にてん充する際に、複数箇所からてん充することに特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、てん充層下の路盤に発生した空隙を埋めるグラウトとして、低流動性補修用グラウトを使用することにより、低流動性補修用グラウトのてん充に際して、低流動性補修用グラウトは、空隙に滞留している泥水を排除しながら、てん充口に近い既設のてん充層下面の不陸を埋めて、徐々に広がって行く。この結果、泥水により低流動性補修用グラウトが希釈されて、空隙内に形成される再てん充層の強度が低下する恐れはなく、しかも、てん充層下面にエア溜りが発生することを防止できる。さらに、低流動性補修用グラウトに短繊維を混入させることによって、再てん充層の強度を一層高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の、省力化軌道の補修方法を示す、レールと直交する面で切った概略断面図である。
【図2】この発明の、他の省力化軌道の補修方法を示す、レールと直交する面で切った概略断面図である。
【図3】省力化軌道を示す、レールと直交する面で切った概略断面図である。
【図4】省力化軌道の路盤に空隙が発生する状態を示す、レールと直交する面で切った概略断面図である。
【図5】省力化軌道の軌道が沈下して、てん充層にクラックが発生した状態を示す、レールと平行な面で切った概略断面図である。
【図6】従来補修方法を示す、レールと直交する面で切った概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明の、省力化軌道の補修方法の一実施態様を、図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1は、この発明の、省力化軌道の補修方法を示す、レールと直交する面で切った概略断面図である。
【0025】
図1において、1は、路盤、2は、レール3が敷設されたまくらぎ、4は、ジャッキ5により持ち上げられたてん充層であり、てん充層4によりバラスト(図示せず)とまくらぎ2とが一体化されている。てん充層4は、図3に示す省力化軌道の場合と同様にして形成されている。6は、まくらぎ2間からてん充層4を貫通して路盤1の空隙10に連通するグラウトてん充管、7は、低流動性補修用グラウト8が入れられたホッパー、9は、グラウトポンプであり、ホッパー7内の低流動性補修用グラウト8をグラウトてん充管6の先端のてん充口6Aから路盤1の空隙10内に高圧でてん充する。空隙10内にてん充された低流動性補修用グラウト8は、硬化して再てん充層11となり、空隙10を塞ぐ。12は、てん充された低流動性補修用グラウト8により空隙10から排除される泥水である。
【0026】
低流動性補修用グラウト8の粘性は、フロー値で200mm以下、好ましくは80mmから200mmが好ましい。フロー値が200mmを超えると、流動性が高くなり、低流動性補修用グラウト8に自走性が生じるので、空隙10の細部まで行きわたらない。低流動性補修用グラウト8は、セメント系やアスファルト系グラウトに公知の増粘材を適宜量混ぜることにより製造することができる。
【0027】
なお、実施例における試験は、以下のように行った。
【0028】
フロー値の試験方法としては、一般的には、「日本道路公団規格(JHS)」のA313−1992に規定されている「エアモルタル及びエアミルクの試験方法」の「1.2 シリンダー法」が準用されている。このシリンダー法は、内径80mm、高さ80mmの黄銅等からなる両端開放の円筒を用いる。
【0029】
以下、上記規格に記載された「エアモルタル及びエアミルク」を「低流動性補修用グラウト」と読み替えて説明する。
【0030】
まず、このシリンダーを水平な鋼板等の板の上に静置する。その後、低流動性補修用グラウトを、シリンダーからあふれさせないように、シリンダーの上端まで静かに入れる。その後、低流動性補修用グラウトの表面が水平で、かつシリンダーの上端に一致するように、シリンダーの側面を指で軽くたたく。その後、シリンダーを静かに鉛直上方に引き上げる。これにより、低流動性補修用グラウトが板上に広がる。広がって1分後に、最大と認められる方向の径(以下、「最大径」という。単位:mm)、及びこの最大径に直角な方向の径(以下、「直交径」という。単位:mm)を計測する。フロー値としては、上記の最大径と直交径の和を2で除して得られる加重平均値(mm)を用いる。
【0031】
低流動性補修用グラウト8にビニロン等からなる短繊維(図示せず)を混入させれば、低流動性補修用グラウト8が硬化したものからなる再てん充層11の強度を高くすることができる。短繊維の長さは、20mm前後が好ましく、短繊維の混入率は、体積比で0.5%から2%が好ましい。
【0032】
通常、グラウトに短繊維を混入させると、グラウトの流動性が低下するので、高流動性補修用グラウトに十分に短繊維を混入させることはできないが、この発明で使用するグラウトは、低流動性であるので、短繊維を十分に混入させることができる。
【0033】
短繊維を十分に混入させた低流動性補修用グラウト8が硬化したものからなる再てん充層11は、短繊維を混入させないものと比べて、靭性、曲げ強度および引張強度が飛躍的に向上する。特に、この発明の適用箇所のように、既設のてん充層4の下部に形成される再てん充層11には、列車荷重によって過大な曲げ応力や引張応力が作用するので、短繊維を混入させることによって、再てん充層11の耐久性を大幅に向上させることができる。
【0034】
この発明の、省力化軌道の補修方法により、沈下した軌道を補修するには、以下のようにする。
【0035】
先ず、上記従来補修方法におけると同様に、路盤1に形成された空隙10内にジャッキ5を設置し、沈下した軌道をジャッキ5により沈下前の状態まで持ち上げる。そして、この状態で、グラウトポンプ9を作動させて、ホッパー7内の低流動性補修用グラウト8を、グラウトてん充管6を通して空隙10内に高圧でてん充する。なお、補修用グラウト8は、低流動性であるために、自走性がなく、このため勾配区間等で想定外の箇所に補修用グラウト8が流出してしまう恐れはない。
【0036】
空隙10内にてん充されたグラウト8は、低流動性であるために空隙10に滞留している泥水12を排除しながら、てん充口6Aに近い既設のてん充層4の下面の不陸4Aを埋めて、空隙10に徐々に広がって行く。この結果、泥水12により低流動性補修用グラウト8が希釈されて、空隙10内に形成される再てん充層11の強度が低下する恐れはない。しかも、てん充層4の下面にエア溜り(S)が発生することを防止できるので、低流動性補修用グラウト8のてん充不良は生じない。
【0037】
図2に示すように、低流動性補修用グラウト8を空隙10内にてん充する別の方法として、グラウトてん充管6を複数本設置し、複数箇所から低流動性補修用グラウト8をてん充しても良い。このように複数箇所から低流動性補修用グラウト8を空隙10内にてん充することによって、低流動性補修用グラウト8のてん充時間を短縮することができると共に、低流動性補修用グラウト8を空隙10の細部まで十分にてん充することができる。この場合、複数箇所から同時にてん充しても、あるいは、時間差を持たせててん充しても良い。
【0038】
以上説明したように、この発明によれば、てん充層下の路盤に発生した空隙を埋めるグラウトとして、低流動性補修用グラウトを使用することにより、低流動性補修用グラウトのてん充に際して、低流動性補修用グラウトは、空隙に滞留している泥水を排除しながら、てん充口に近い既設のてん充層下面の不陸を埋めて、徐々に広がって行く。この結果、泥水により低流動性補修用グラウトが希釈されて、空隙内に形成される再てん充層の強度が低下する恐れはなく、しかも、てん充層下面にエア溜りが発生することを防止できる。さらに、低流動性補修用グラウトに短繊維を混入させることによって、再てん充層の強度を一層高めることができる。
【符号の説明】
【0039】
1:路盤
2:まくらぎ
3:レール
4:てん充層
4A:不陸
5:ジャッキ
6:グラウトてん充管
6A:てん充口
7:ホッパー
8:低流動性補修用グラウト
9:グラウトポンプ
10:空隙
11:再てん充層
12:泥水
21:路盤
22:バラスト
23:まくらぎ
24:レール
25:てん充層
25A:不陸
26:滞水
27:流動化した路盤土
28:空隙
29:水みち
30:側溝
31:クラック
32:ジャッキ
33:高流動性補修用グラウト
34:再てん充層
35:型枠
36:泥水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
てん充層下の路盤に発生した空隙内に補修用グラウトをてん充して、前記空隙内に再てん充層を形成し、かくして、沈下した軌道を補修する、省力化軌道の補修方法において、
前記補修用グラウトとして低流動性補修用グラウトを使用し、前記低流動性補修用グラウトを前記空隙内にてん充して、前記空隙内の泥水を前記空隙外に排除することを特徴とする、省力化軌道の補修方法。
【請求項2】
前記低流動性補修用グラウトには、短繊維が混入されていることを特徴とする、請求項1に記載の、省力化軌道の補修方法。
【請求項3】
前記短繊維は、ビニロンからなっていることを特徴とする、請求項2に記載の、省力化軌道の補修方法。
【請求項4】
前記低流動性補修用グラウトのフロー値は、200mm以下であることを特徴とする、請求項1から3の何れか1つに記載の、省力化軌道の補修方法。
【請求項5】
前記低流動性補修用グラウトを前記空隙内にてん充する際に、複数箇所からてん充することを特徴とする、請求項1から4の何れか1つに記載の、省力化軌道の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−229696(P2010−229696A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77921(P2009−77921)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】