説明

省電力エレベーターシステム

【課題】マンションなど非オフィスビルに設置されたエレベーターは1,2人の極軽負荷で運転されることが多いエレベーターの省エネ運転を実現する。
【解決手段】多くの利用状況におけるエレベーター乗客重量と、釣り合いおもり20とのバランス関係を利用状況から見直し、大多数の利用条件でのバランスポイント、たとえば25%の乗客重量に釣合う軽量化釣り合いおもり20とし、省エネ運転を実現し、駆動装置に過大な責務がかかる重負荷運転を制約し、利用者やビルのオーナーへ、省エネ運転や運転制約状況を情報開示する。
【効果】マンションなどのエレベーターにとって、システム装置に重い責務を負わせることなく、合理的に省エネ、電気料金の削減を実現できる効果がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターに係り、特に、エレベーター乗りかごとつり合いおもりのバランスポイントを省電力視点で決定する省電力エレベーターシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のロープ式エレベーターでは、乗りかごに定員の約1/2の人数の利用者が乗った時に、その乗客重量と乗りかご重量の和にバランスするように釣り合いおもり重量が設定されるのが一般的である。すなわち、乗りかごに定格乗客重量の45〜50%の乗客をのせたときに、乗りかごと釣り合いおもりの重量がバランスするように設定されている。以下、分かり易く、バランスポイント50%に設定されているものとして説明を進める。これは、利用者がエレベーターを利用する際、乗車人員の発生が定格人数に対して、無負荷、平衡負荷、全負荷と各負荷条件に対して一様に分布することを想定している。つまり、力行・回生エネルギー処理を考慮すると、無負荷条件と全負荷条件で扱う電気エネルギー量がどちらか一方に偏ることなく、ほぼ等しくなるよう釣り合いおもりの重量を設定する。これが電動機の発生トルクや、給電のための電力変換器の過負荷耐量の観点から合理的であると考えられるためである。たとえば、オフィスビルなどでは、朝の出勤時に満員で基準階から上昇運転する際、また、上層階まで行き乗客を降ろし、基準階に無負荷で下降してくる際などに、電力変換器や電動機が力行側に全出力状態となる。一方、退勤時などは、その逆で、満員で基準階に下降してくる際、あるいは無負荷で上昇する際などには、電力変換器や電動機が回生側の全出力状態となる。色々な負荷条件が発生し、乗客発生分布に広がりがあるビルのエレベーターにとっては、バランスポイントが50%であれば、両極端のどちらの負荷条件に対してもエネルギー消費、回生に無駄な偏りがなく合理的な運転が出来ることになる。
【0003】
バランスポイントの機械的変更手段として、特許文献1には、乗りかごと釣り合いおもりに重量調整用の巻き取り機を搭載し、両者間でおもり代わりにロープや鎖を移動させて、バランスポイント変更を小型な装置で実現するシステムが提案されている。また、特許文献2には、釣り合いおもりを分割構成として、レールに支持可能な構造として釣り合いおもり重量を可変とする構造が提案されている。さらに、特許文献3には、重量の異なる2組の釣り合いおもりと駆動電動機を設けて、かご内の乗客数に応じて何れか一方の駆動装置を動作させる方式が提案されている。
【0004】
また、特許文献4には、低バランスポイントエレベーターの重負荷時の責務軽減法として、乗りかご加減速度を変化させる提案がなされている。
【0005】
さらに、一般的な昇降機の電源設備容量低減の提案として、特許文献5〜10には、ピークパワーが必要な際には、遮断器の後段に接続された蓄電装置からエネルギーをアシストし、電源入力電流を所定値以内に押さえ込むシステムの提案がなされている。
【0006】
また、エネルギーアシスト用の蓄電装置の必要容量を把握するため、個々のエレベーターの運転特性測定について、特許文献11、12に運転特性を測る提案がなされている。
【0007】
【特許文献1】特開2005−187156号公報
【特許文献2】国際公開WO03/106321
【特許文献3】特開2005−263353号公報
【特許文献4】特開2004−137003号公報
【特許文献5】特開2003−299250号公報
【特許文献6】特開2003−333891号公報
【特許文献7】特開2004−282932号公報
【特許文献8】特開2005−6476号公報
【特許文献9】特開2005−57846号公報
【特許文献10】特開2005−86927号公報
【特許文献11】特開2004−10236号公報
【特許文献12】特開2005−82387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
おもり重量変更用ロープなどを使ってバランスポイントを動的に変更できるシステムでは、乗りかごの負荷変化に対して時間を待てば、ほぼ理想的なエネルギー損失で運転が可能である。しかし、バランスポイントの変更に時間がかかり、実時間性に難点があることと、おもりの変更に2台の電動機を駆動する必要があり、変更自体にエネルギー損失を伴ってしまい、省エネ効果は減少してしまう問題がある。
【0009】
また、おもりを分割構成にして適宜分割と連結を行い、おもり重量を可変とするシステムは、分割したおもりの設置場所に対する制約の関係から運行効率に難点がある。
【0010】
さらに、複数の異重量のおもりと駆動電動機を使い分ける方式は駆動装置が2組必要で初期投資と、設置空間の関係から昇降路が広くなる難点がある。
【0011】
また、加減速度を乗客数に応じて変化させることにより責務軽減をはかる方式は、利用者に対して運転時間延長などのデメリット開示、省エネメリット開示など合意形成、ならびにバランスポイント設定の具体策が難しい。
【0012】
また、エレベーターのパワーアシストのために蓄電装置を設け、電源電流に抑制をかける方式は、マンションなどのように、低積載荷重条件で運転される機会の多い場合には、蓄電装置が出し入れしなければならないエネルギーが常に大きくなってしまう。このため、動作点深さや、エネルギー出し入れ量など寿命観点で決まる蓄電装置は大容量のものを用意しなければならない問題がある。また、低バランスポイント化との損得関係も難しい。
【0013】
本発明の目的は、乗車人数の発生頻度と駆動系の責務を考慮し、軽負荷時の省電力化を実現することである。
【0014】
本発明の他の目的は、低バランスポイント化したエレベーターの運転において、乗車人数が多い場合、システムへの重責務を軽減することである。
【0015】
本発明の他の目的は、省エネルギーの達成と、これに伴う運行上の制約に関して、利用者との合意形成を得ることである。
【0016】
本発明の他の目的は、低バランスポイント化設定による重負荷時の受電電力増大を抑制し、電気料金を抑制することである。
【0017】
本発明の他の目的は、蓄電装置の長寿命化をはかることである。
【0018】
さらに、本発明の他の目的は、運転制限への理解、省エネ効果への理解を深めさせることにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、その一面において、乗りかごの定格乗客重量の40%未満の乗客量に見合う重さのつり合いおもりと、上記乗りかごとつり合いおもりの重量が所定のアンバランス状態になったことに応じて、上記エレベーター乗りかごの運行に制約を課す運行制約手段と、この運行制約に関する情報を利用者に開示する運行制約情報開示手段を備える。
【0020】
望ましくは、つり合いおもりの重量は、高発生頻度の乗客量に見合う定格乗客重量の20〜35%であり、運行制約手段は、エレベーターの速度を低減する手段、上記駆動電動機を駆動する電力変換器のスイッチング周波数を低減する手段、上記エレベーター乗りかごの満員警告レベルを低減する手段、上記エレベーター乗りかごの満員運転阻止レベルを低減する手段、又はドア閉開始時間を延長する手段であり、その省エネ効果と共に、利用者に開示する。
【0021】
本発明の他の望ましい実施態様においては、乗りかごの定格乗客重量の40%未満の乗客量に見合う重さのつり合いおもりと、上記つり合いおもりの重量に基く省エネ情報を、上記エレベーターの保守契約者、ビル所有者、ビル居住者、又はエレベーター利用者に開示する省エネ情報開示手段を備えたことを特徴とする。
【0022】
また、本発明の他の望ましい実施態様においては、電力変換器と、蓄電装置と、電動機を含む駆動装置によって上記乗りかごを昇降駆動するエレベーターシステムにおいて、上記乗りかごの定格乗客重量の40%未満の乗客量に見合う重さのつり合いおもりと、商用電源からの受電電流を所定値に制限する電流制限手段を備えたことを特徴とする。
【0023】
本発明の望ましい実施態様においては、重負荷条件時にその運転自体を回避するよう利用者に協力を求める情報開示、エレベーターの省エネ運行状況などを周辺に周知させるために乗りかご内、ホール内などに情報を表示・案内するための開示手段を設け間接的な責務軽減モードを起動する構成とした。
【0024】
さらに、本発明の望ましい実施態様では、おもり重量変更に関する諸情報を顧客に開示し、顧客におもり重量変更の可否の問いかけを行う構成とした。
【発明の効果】
【0025】
本発明の望ましい実施態様によれば、エレベーターの稼働状態に見合った妥当なエネルギー消費を、装置にダメージを与えない形で実現できる。
【0026】
さらに、本発明の望ましい実施態様によれば、諸情報の開示によってエレベーター利用者など顧客の納得のいく形で省エネルギー化を推進できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して説明する。
【0028】
図1は、本発明の一実施例によるエレベーターシステムの全体構成図である。まず、商用電源1から遮断器2を介してシステムに電力供給を行う。ここで、遮断器2の遮断容量は、駆動電動機3の定格kW値に対応する値ではなく、電気料金のうち基本料金を決定する所望の電源電流値に合わせた値としている。電源電流の大きさを遮断器2の制限電流値以下に制御するために、電源電流を検出する電流検出器4の出力を制御器5に取り込み、制限処理部51にて、電源電流の制限を行う。電源電流は、整流器6に流れ込んで整流されて、平滑コンデンサ7を直流電圧源となるよう充電する。このコンデンサの両端電圧は電圧検出器8により検出され制御器5に入力される。また、蓄電装置9の電圧と電流は、それぞれ電圧検出器10、電流検出器11により検出され、やはり、制御器5に取り込まれ、DC・DCコンバータ12を、制御信号線13で制御動作させ、平滑コンデンサ電圧と電源電流の制限制御を実行する。そして、平滑コンデンサ7の電圧源を電源として、インバータ14を動作させ駆動電動機3を駆動する。その際、インバータの出力電流は電流検出器15で検出し、さらに、電動機の回転速度はパルス発生器16で検出して、制御器5内の電流・速度制御処理部52で演算を実施して、制御信号線17経由でインバータ14内のスイッチ素子群をオンオフ制御する。駆動電動機3に接続された綱車18には、ロープ19を介して、軽量化された釣り合いおもり20と乗りかご枠21がつり下げられている。さらに、乗りかご枠21内には、荷重検出器22が設置され、その乗客数信号が制御器5内の基礎データ収集&おもり変更問いかけ処理部55に取り込まれ、後述する最適バランスポイント算出とおもり変更問いかけ処理に利用される。
【0029】
この軽量化釣り合いおもり20は、マンションなどで高頻度に発生する乗客数が少ない運転条件下で有効な省エネ運転を実現するもので、その定格乗客重量の20〜35%程度に釣合う重さとすることが望ましい。この軽量化初期値は、所定期間の乗客数検知データをもとに算出される値、あるいは、経験値として、25%程度の値とする場合もある。
【0030】
釣り合いおもり20の重量変更処理は、おもり変更問いかけ処理部55の問いかけに対し、顧客の承認を受けた後、エレベーターの保守会社が実行するものとする。すなわち、制御器5にて収集した基礎データを基に演算した最適おもり重量データ、推定省エネ効果データなどをインターネット網26を介して制御器5から直接、あるいはエレベーターの保守会社端末27を経由して顧客端末25に伝送する。これに対する顧客の承認の返送があると、これを制御器5、またはエレベーターの保守会社端末27が受け取り、保守員によって、より適切な重量へのおもり重量変更を実行する。
【0031】
たとえば、初期値を25%のバランスポイントに設定していたものの、利用者が想定より多く、顧客要望を受け、省エネと重負荷時の責務との整合が取れた値、たとえば、35%のバランスポイントに設定変更する等である。
【0032】
ただし、軽量化釣り合いおもり20を有するシステムでは重負荷時に、そのアンバランス率が大きいため、インバータに過酷な責務が課されることになる。ここでは、運転制限処理部53が、重責務軽減のため、スイッチ素子の劣化原因となる発熱を抑制するための処理を実行する。具体的には、定常電流の削減ではなく、スイッチングに伴う発熱抑制の観点から、インバータのスイッチング周波数を軽負荷時よりも低めに制御する。あるいは、3相変調から2相変調にインバータの動作を変更制御するなどの処理である。また、その際に、省エネ実行中の開示処理部54が、発生する騒音やトルク脈動の増大などの弊害に関して、エレベーター利用者やホール待ち客に周知・理解を求める処理を実行する。すなわち、かご室23内やホールに設置した表示器やアナウンス用のスピーカ24を用いて、省エネ運転を実施中であり、多少騒音やトルク脈動が増大しているが、見返りに省エネが実行されていることを分かり易く説明する。たとえば、金額換算値や原油換算値で示し、利用者の理解を得易くする。なお、制御器5内の各部動作については、図3以降で、処理フロー(手順書)により順次詳細に説明する。
【0033】
図2は、本発明の一実施例におけるバランスポイント説明図であり、同図(A)は50%のバランスポイントの釣合いおもりの場合で、同図(B)は25%、同図(C)は350%の場合である。
【0034】
図2(A)に示すように、50%のバランスポイントの釣合いおもりの場合、上昇運転UPにおいては、乗客量が0〜50%までは電流値が負、すなわち回生運転であり、乗客量が50〜100%までは電流値が正、すなわち力行(モータリング)運転である。一方、下降運転DNにおいては、乗客量が0〜50%までは電流値が正、すなわち力行運転であり、乗客量が50〜100%までは電流値が負、すなわち回生運転である。
【0035】
ここで、対象となるビルが、多くの場合、25%程度を中心とする乗客量201であったと仮定すると、上昇UP時は比較的大きな回生電流を必要とし、下降DN時は比較的大きな力行電流を必要としていることが分かる。
【0036】
この実施例においては、釣合いおもりの重量を軽くし、その初期値を、乗客重量25%のバランスポイントの釣合いおもりとする。この場合、図2(b)に示すように、25%程度を中心とする乗客量201に対して、上昇UP時及び下降DN時ともに、僅かな力行電流あるいは僅かな回生電流で済むことが分かる。
【0037】
但し、万一、100%に近い乗客があった場合には、大きな力行電流あるいは大きな回生電流が必要となってしまうことも明白である。
【0038】
そこで、まず、第1に、電流に制限値±Imaxを設け、これを超える部分は蓄電装置9に負担させる。電流Ibは、蓄電装置9の放電電流であり、電流−Ibは、同じく充電電流を示している。
【0039】
第2には、利用者や顧客の理解を得て、エレベーターの運行を制約することである。省エネを実行中であり、ご協力を仰ぎ、一度に、多くの利用者が乗り込むことを自粛して貰うのである。このためには、利用者や顧客に対して、平均乗客数、日時、運転方向、乗降階床などの発生分布、運行制約情報、省電力効果、電気料金、又は、従来システムにおける推定消費電力、電気料金と、本システムとの比較データを開示することが望ましい。
【0040】
次に、釣合いおもりの初期値である乗客重量25%のバランスポイントが軽すぎた場合を考える。上記の平均乗客数、運行制約情報、省電力効果、電気料金、又は、従来システムにおける推定消費電力、電気料金と、本システムとの比較データなどから、より適切な釣合いおもりの重量が分かる。これを基に、顧客に対して、つり合いおもり20の重量を設定変更することの可否の問いかけを含む情報を開示する。そして、返信によって、顧客の同意が得られれば、保守会社の保守員によって、つり合いおもり20の重量を、たとえば、35%のバランスポイントに設定変更する。
【0041】
図2(c)は、この設定変更後の電流の状況を示しており、定格乗客重量の35%を中心とする負荷202に対して、僅かの力行または回生電流で運転することができる。この場合にも、図2(b)で述べた電流制限と運行制約を実行することが望ましい。
【0042】
図3は、図1の電源電流の制限処理部51の処理フロー図である。この制御タスクは、短い時間間隔で起動されるタイマー割り込みタスクにぶら下げることによりマイコンなどの制御機器に組み込まれる。このタスクが起動されると、処理511でまず、電源電流、かご内の乗客数、運転方向、インバータ出力電流、平滑コンデンサ電圧、蓄電装置電圧、蓄電装置電流などのデータを取り込む。次に、処理512で乗客数と運転方向から今回の運転における電源電流の最大値を推定あるいは測定し、処理513で最大電流が遮断器2の引き落とし制限電流を越えるかどうかを判断する。YESであれば、処理514で、DC・DCコンバータ12を動作させ、図2(b)の電流Ibのように蓄電装置9から電力を供給して平滑コンデンサ7の電圧を上昇させ、電源からの流入電流を遮断器2の制限値以下に抑制するよう動作させる。この動作モードは軽量化したおもりシステムで乗客が満員に近く乗車するような重負荷条件の時に出現するものであるが、マンションなどではほとんどこのような利用モードになることはなく、蓄電装置9の深い充放電の頻度という観点で、まれなモードである。最大電流が制限値よりも小さい(NO)と判断されれば、蓄電装置9を動作させずに、電源側からの小さな流入電流だけでエレベーターを駆動させることが出来、電流制限の観点から基本電気料金を低減できる。また、軽負荷で運転される機会が多く、軽量化おもりに設定した低バランスポイントシステムでは、ほとんどがこの運転モードである。したがって、蓄電装置9の充放電の深さと回数は、通常の45〜50%バランスポイントシステムに蓄電装置が組み込まれた場合と比較して非常に少なくなるため、蓄電装置の長寿命化にも大きく貢献出来る。さらに、処理515で蓄電装置電圧が十分低下しているかどうかの判断を行う。YESであれば、処理516でDC・DCコンバータ12を動作させて、最小限に絞った深い充電回数で蓄電装置9を充電する。他方、蓄電装置電圧が低下していなければ(NO)、蓄電装置の長寿命化を狙って充電処理を実行せず、もどり処理517を経由して電源電流の制限処理部51の処理を終了する。この電源電流の制限処理は、通常の基本電気料金の削減のほか、低バランスポイントとした特有の効果として、頻出する軽負荷条件での運転により蓄電装置充電回数が激減することによる蓄電装置の長寿命化という新たな効果を生み出す。
【0043】
図4は、図1における電流・速度制御処理部52の処理フロー図である。やはり、この処理も一定時間ごとに起動されるタスクに帰属する。起動すると、処理521で、インバータ出力電流と電動機に取り付けられたパルス発生器16の出力パルスを取り込む。次に、処理522で、この出力パルスから、電動機の実速度、乗りかごの移動距離、電動機が磁石モータの場合には磁極位置などを算出する。そして、処理523で他タスクで算出する速度指令と実速度との偏差を求め、トルク電流指令を算出する。そして、処理524において、この電流指令と検出したインバータ電流との偏差から電圧指令(変調波)を求める。この電圧指令は、インバータ14がスイッチ素子で構成されている場合、処理526で搬送波(キャリア)との比較が行われ、パルス幅変調指令が生成されて、インバータ内の素子にオンオフ指令として制御信号線17を介して出力される。この電流・速度制御処理部52は、電動機制御の基本部であり、この処理自体は一般的なものであるが、ここで用いられる速度指令、搬送波などは、後述する重負荷時の運転制限に深く関与するため記述した。
【0044】
図5は、図1における重負荷時の運転制限処理部53の処理フロー図である。この処理も一定時間ごとに起動されるタスクに帰属する。起動すると、処理531で乗客数と運転方向・位置情報などを取り込む。処理532でこれらの情報から釣り合いおもり側と乗りかご側とのアンバランス量を算出し、処理533でアンバランス量が大きいかを判断をする。アンバランス量が大きくなければ(NO)、処理535で重責務フラグをリセットし、特に運転制限を設けずに運転してもインバータに悪影響を与えないので通常通りの運転をするべく、処理537を経由して処理を終了する。もし、アンバランス量が大きい場合(YES)、処理534で、そのアンバランス量をフラグに示し、処理536の運転制限実行処理で実際に運転に制限を課して、インバータの保護を行い、もどり処理537を経由して処理を終わる。なお、オフィスビルなどと違い、マンションなどでは稼働時の乗客は少ないことが多い。このため、この重負荷対応の処理ルートを通ることはまれであるが、乗客数や電流値など重責務を示す情報を取り込んで、制限運転を行って、インバータなどに損傷を与えない効果をここで発揮する。
【0045】
図6は、図5における具体的な重責務時の運転に対する制限実行処理部536の処理フロー図である。ここでは、運転制限処理部53の内部の処理に埋め込まれた実施例を示すが、高頻度起動タスクに独立の処理として設置してもよい。運転制限実行処理536が起動されると、処理5361で、重責務運転自体を事前に回避する間接的処理として、エレベーター利用者に乗車を遠慮してもらうための処理を実行する。まず、ホールや乗りかご内の表示器・スピーカに非乗車への協力要請を示し、次に、満員警告ブザーを吹鳴させたり、さらに、考慮時間を付与するために、ドア閉タイミングを遅らせるなどの間接的要請処理を実施する。次に、処理5362で、重責務状態が改善されたかを判断する。改善されれば(YES)、制限を課す必要がなくなったとして、もどり処理5368を経由して、通常運転でサービスを実施する。重責務程度が改善されなかった場合には直接制限に移る。処理5363で夜間や朝など静粛運転が必要とされる状況にあるかの判断を行う。特に、必要がなければ(NO)であれば、処理5367で、運転制限の手段としてインバータ内のスイッチ素子のオンオフ回数を削減する処理を行う。スイッチ素子へのダメージの一因は発熱に起因し、発熱は通電電流の定常成分と、オンオフに伴い活性領域を通過する際に発生する過渡成分の和によってもたらされるが、ここでは過渡成分の削減によりインバータの重責務を軽減する。つまり、パルス幅変調にて動作させる際のスイッチング周波数をキャリア周波数の低減により実現し、制限実行の前処理を行う。スイッチング回数が減るので発熱も減るが、スイッチング回数が人の耳の可聴領域まで下がるので、電動機から発生する耳障りな騒音が増大する。ただ、この制限手段は静粛運転が特に要求されない場合には、乗客には、いつもとほぼ同じ運転時間性能を提供できるので、サービス性という観点からは、利用者満足が得られ易い。静粛運転が必要な場合には、次に、処理5364で運転距離が短いかの判断を行う。運転距離が短い場合には、到着時間に大きく問題を与えない程度に最高速度を低下させる。すなわち、最大電流を負荷条件から求め、電流の制限値との関係に見合って最高速度指令を低下させる処理を行って、制限実行の前処理を行う。また、判断5364で運転距離が長い場合には、処理5366でパルス幅変調をかける際に3相変調から2相変調とし、正弦波出力化のためのスイッチング動作に制約を加え、過渡発熱を抑制する制限手段を講じる。多少、トルク脈動が増えて乗りかごが振動的となる可能性はあるが、インバータの重責務の軽減に効果がある。ここでは、各種の重責務の軽減手段を処理5365−5367で示し、どれか1つを使用するような処理フローを示したが、責務が非常に厳しい場合には、これらの制限実行処理の方策のうち複数を同時に実施してもよい。
【0046】
図7は、具体的な省エネ運転実行中の情報開示処理部54の処理フロー図である。この処理も一定時間ごとに起動されるタスクに帰属する。起動すると、処理541で乗客数、運転方向、速度、走行距離、電源電圧、電源電流、インバータ電圧、電流などの取り込み処理を行う。次に、今回の運転に要している電力量、電気料金、原油換算の石油量、軽量化釣り合いおもりシステムではない通常のエレベーターにおける電力量、電気料金、原油換算の石油量の推定量を算出し記録に残す。そして、所定時間ごとに処理543で、省エネ結果や制限運転に関する情報を表示器やスピーカを通して開示する。ホール、乗りかご内の表示器やスピーカに消費電力量、従来方式と比較して軽減されるであろう電気代、原油換算の石油量の推定量などが遅滞なく開示されるので、省エネエレベーターの効果をエレベーター利用者に身近に感じさせることができる効果がある。さらに、処理544では、蓄積された省エネ関連データを所定期間ごとにビル管理者、エレベーター利用者であるマンション住人などの所有する情報端末にweb経由で送付することにより、やはり、省エネ満足の効果を発揮する。なお、この処理544は、この処理フローでは短い時間間隔で起動される例を示しているが、累積データの開示であるので、もっと長い間隔で起動処理するようループカウンタを設置するあるいは、別タスクに独立させて低頻度起動としても良い。
【0047】
図8は、具体的な基礎データ収集&おもり重量変更問いかけ処理部55の処理フロー図である。この処理も一定時間ごとに起動されるタスクに帰属する。起動すると、処理551で乗客数、運転方向、乗車階、下車階、発生日時、電源電流、インバータ出力電流などのエレベーター利用データを収集、記録する。次に、処理552で釣り合いおもりの重量を設定条件として、乗客数とその発生頻度をパラメータとして、収集・記録データから消費電力量、電気料金などを試算する。この試算データを、処理553で顧客情報端末にweb経由で送付し、軽量化おもりシステムへのおもり変更問いかけ処理を行う。この際、単に省エネ試算にとどまらず、負の効果として、軽量化おもりにより生じる重責務発生運転に伴うスイッチ素子や蓄電装置の劣化・交換に必要となる費用支出も考慮して省エネ効果を算出・開示してもよい。処理554では、顧客からのおもり重量変更同意が得られたかの判断を行う。同意が得られれば、低バランスポイント化実施要請ありとして、エレベーター保守会社にweb経由で作業要請を入れる。返事がなければ回答待ちとして処理を終わる。処理554−555は緊急性が低いので、もっと低起動頻度のタスクに独立させて移してもよい。また、顧客からの返答先は、各エレベーターの制御器5宛ではなく、エレベーター保守会社端末27に直接でも問題はない。いずれにしても、ビルごと、号機ごと、日時ごとに異なる使われ方に関する運用データを収集・分析して、省エネ効果と重責務を吟味し、顧客合意を得た後、バランスポイントを変更する構成は合意形成の上からも効果がある。
【0048】
本実施例によれば、乗車人数の発生頻度と駆動系の責務の整合を取りつつバランスポイントを40%未満に低下させることができるので、マンションなどで高頻度に発生する軽負荷時の省電力化を実現できる効果がある。
【0049】
また、本実施例によれば、低バランスポイント化したエレベーターの運転において、乗車人数が多い場合、システムに重責務にともなう悪影響を与えないよう、運転制約を課すので、システムへの重責務を軽減できる効果がある。
【0050】
さらに、本実施例によれば、低バランスポイント設定による重負荷時の電源電流増大を抑制し、電気料金のうち基本料金部分に該当する電流値を遮断器の設定値以下に抑制することができ、環境上無駄なエネルギー損失を発生させることがない。
【0051】
本実施例によれば、蓄電装置への流入流出電流量を抑制することができるので、蓄電装置の長寿命化をはかれる効果がある。
【0052】
また、本実施例によれば、この運転制約によってエレベーターの周辺(エレベーター利用者、ビル内住人など)に与えるデメリットに関して、これを補って余りある省エネメリットが出せることを利用者に開示できる。したがって、運転制限への理解、省エネ効果への理解を深めさせる効果がある。
【0053】
さらに、本実施例によれば、おもり重量変更に関する諸情報を顧客に開示し、顧客回答の後に、おもり変更作業を行う依頼受付手段を設ける構成としたので、環境配慮への取り組みを、顧客の納得の上で開始することができる。
【0054】
以上述べたように、本発明の実施例によれば、エレベーターの稼働状態に見合った妥当なエネルギー消費を、装置にダメージを与えない形で実現できるので環境配慮型のエレベーターシステムを構築できる効果がある。
【0055】
さらに、本発明の実施例によれば、諸情報の開示によってエレベーター利用者など顧客の納得のいく形で省エネルギー推進ができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施例によるエレベーターシステムの全体構成図。
【図2】本発明の一実施例におけるバランスポイント説明図。
【図3】図1における電源電流の制限処理部51の処理フロー図。
【図4】図1における電流・速度制御処理部52の処理フロー図。
【図5】図1における重負荷時の運転制限処理部53の処理フロー図。
【図6】図5における重責務時の運転制限実行処理部536の処理フロー図。
【図7】図1における省エネ運転実行中の情報開示処理部54の処理フロー図。
【図8】図1における基礎データ収集&おもり重量変更問いかけ処理部55の処理フロー図。
【符号の説明】
【0057】
1…商用電源、2…遮断器、3…駆動電動機、4…電流検出器、5…エレベーター制御器、6…整流器、7…平滑コンデンサ、8…電圧検出器、9…蓄電装置、10…電圧検出器、11…電流検出器、12…DC・DCコンバータ、13…制御信号線、14…インバータ、15…電流検出器、16…パルス発生器、17…制御信号線、18…綱車、19…ロープ、20…釣り合いおもり、21…乗りかご枠、22…荷重検出器、23…かご室、24…表示器・スピーカ、25…顧客端末、26…ネットワーク網、27…エレベーター保守会社端末、51…電源電流の制限処理、52…電流・速度制御処理、53…重負荷時の運転制限処理、54…省エネ運転実行中の開示処理、55基礎データ収集&おもり重量変更問いかけ処理、536…運転制限実行処理。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベーター乗りかごと、つり合いおもりが主ロープを介してつりさげられ、電力変換器と電動機を含む駆動装置によって上記乗りかごを昇降駆動するエレベーターシステムにおいて、上記乗りかごの定格乗客重量の40%未満の乗客量に見合う重さのつり合いおもりと、上記乗りかごとつり合いおもりの重量が所定のアンバランス状態になったことに応じて、上記エレベーター乗りかごの運行に制約を課す運行制約手段と、この運行制約に関する情報を利用者に開示する運行制約情報開示手段を備えたことを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項2】
請求項1において、前記つり合いおもりは、当該エレベーターにおける高発生頻度の乗客重量に釣合う重さであることを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項3】
請求項2において、上記高発生頻度の乗客量に見合う重さを、20〜35%としたことを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項4】
請求項1において、上記運行制約手段は、上記エレベーターの速度を低減する手段、上記電動機を駆動する電力変換器のスイッチング周波数を低減する手段、上記エレベーター乗りかごの満員警告レベルを低減する手段、上記エレベーター乗りかごの満員運転阻止レベルを低減する手段、又はドア閉開始時間を延長する手段であることを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項5】
請求項1において、上記つり合いおもりの重量を上記乗りかごの定格乗客重量の40%未満の乗客量に見合う重さに設定したことに関する省エネ情報を、上記エレベーターの保守契約者、ビル所有者、ビル居住者、又はエレベーター利用者に開示する省エネ情報開示手段を備えたことを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項6】
請求項5において、上記省エネ情報開示手段は、平均乗客数、日時、運転方向、乗降階床などの発生分布、運行制約情報、省電力効果、電気料金、又は、従来システムにおける推定消費電力、電気料金と、本システムとの比較データを開示することを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項7】
請求項5において、上記省エネ情報開示手段は、上記つり合いおもりの重量を設定変更することの可否の問いかけを含む情報を開示することを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項8】
エレベーター乗りかごと、つり合いおもりが主ロープを介してつりさげられ、電力変換器と電動機を含む駆動装置によって上記乗りかごを昇降駆動するエレベーターシステムにおいて、上記乗りかごの定格乗客重量の40%未満の乗客量に見合う重さのつり合いおもりと、上記つり合いおもりの重量に基く省エネ情報を、上記エレベーターの保守契約者、ビル所有者、ビル居住者、又はエレベーター利用者に開示する省エネ情報開示手段を備えたことを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項9】
請求項8において、上記省エネ情報開示手段は、エレベーター乗りかごの運転時に乗客重量、電源電流、又は駆動電動機の電流を計測し記憶する手段と、この記憶値から上記駆動装置の省電力指標と過負荷耐量指標に基づいて、上記つり合いおもりの重量の設定と省エネに関する情報を顧客に開示する手段を備えたことを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項10】
請求項7において、上記省エネ情報開示手段は、等価乗客数、日時、運転方向、乗降階床などの発生分布、運行制約情報、省電力効果、電気料金、又は、従来システムにおける推定消費電力、電気料金と、本システムとの比較データを開示することを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項11】
請求項8において、前記つり合いおもりは、当該エレベーターにおける高発生頻度の乗客重量に釣合う重さであることを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項12】
請求項8において、上記つり合いおもりの重さを、20〜35%としたことを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項13】
請求項8において、上記乗りかごとつり合いおもりの重量が所定のアンバランス状態になったことに応じて、上記エレベーター乗りかごの運行に制約を課す運行制約手段を備えたことを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項14】
請求項13において、上記運行制約手段は、上記エレベーターの速度を低減する手段、上記駆動電動機を駆動する電力変換器のスイッチング周波数を低減する手段、上記エレベーター乗りかごの満員警告レベルを低減する手段、上記エレベーター乗りかごの満員運転阻止レベルを低減する手段、又はドア閉開始時間を延長する手段であることを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項15】
エレベーター乗りかごと、つり合いおもりが主ロープを介してつりさげられ、電力変換器と、蓄電装置と、電動機を含む駆動装置によって上記乗りかごを昇降駆動するエレベーターシステムにおいて、上記乗りかごの定格乗客重量の40%未満の乗客量に見合う重さのつり合いおもりと、商用電源からの受電電流を所定値に制限する電流制限手段を備えたことを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項16】
請求項15において、上記電流制限手段は、上記電動機に電力を供給する電力変換器に接続された電力アシスト用蓄電装置、又は、検出した受電電流を電流指令に近づける電流帰還制御系を備えたことを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項17】
請求項15において、上記電流制限手段は、上記電動機に電力を供給する電力変換器に接続された電力アシスト用蓄電装置と、この蓄電装置からの充放電電流を、受電電流を所定値以下に抑える受電電流制御系を備えたことを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項18】
請求項15において、上記乗りかごとつり合いおもりの重量が所定のアンバランス状態になったことに応じて、上記エレベーターの速度を低減する手段、上記電動機を駆動する電力変換器のスイッチング周波数を低減する手段、上記エレベーター乗りかごの満員警告レベルを低減する手段、上記エレベーター乗りかごの満員運転阻止レベルを低減する手段、又はドア閉開始時間を延長する手段による運行制約手段を備えたことを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項19】
請求項15において、前記つり合いおもりは、定格乗客重量の20〜35%としたことを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項20】
請求項15において、上記つり合いおもりの重量に基く省エネ情報、又は上記電流制限に伴う運行上の制約を利用者に開示する情報開示手段を備えたことを特徴とするエレベーターシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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