説明

真空分析装置

【課題】大気開放路106末端から反応室3に大気ガスを混入させない真空分析装置を提供する。
【解決手段】真空反応室3と、ガス源4と、反応室3に出口端が接続された流量制御用抵抗管11と、流量制御用抵抗管11の上流に配置された圧力検出手段14と、圧力検出手段14の検出値が所定値になるよう流量制御用抵抗管11から出るガス量を調節する流量調節手段7と、流量調節手段7と圧力検出手段14の間でガスを分岐し、スプリット用抵抗管103を備えるスプリット流路101と、流量調節手段7と圧力検出手段14の間で上流から流れるガスを分岐して大気中に放出する大気開放路106と、大気開放路106に設けられたバルブ104とを有する真空分析装置で、バルブ104の直下にスプリット流路101を接続する。ガスがバルブ104下流に流入するため大気開放バルブ104開放時に大気ガスが拡散によって混入するのを防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空分析装置に関し、より詳しくはMS/MS分析法で用いられる衝突誘起解離室に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に衝突誘起解離法(Collision−Induced Dissociation:CID)を用いた一般的なMS/MS分析法の概略を示す。第1質量分析器(MS1)2はイオン源1から到来したイオンから前駆イオン(Precursor ion)を選択する。選択された前駆イオンは衝突誘起解離室(CID室)3に運ばれ、CID室3内でCIDガス源4から導入されたCIDガスと衝突して解離し、フラグメントイオンとなる。発生したフラグメントイオンは第2質量分析器(MS2)5に運ばれ、検出器6で検出される。これにより、構造情報をもったスペクトルを得ることができる(特許文献1)。
【0003】
図2はCID室3内に導入するガスの流量を制御するために用いられる流路構成図である。CID室3は図示しない真空ポンプにより中真空または高真空に維持される。CIDガス源4の直下には制御バルブ7が設置され、その下流で流路は、CID室3に向かうメイン流路8、大気開放流路9、スプリット流路10の3つに分かれる。メイン流路8には流量制御用抵抗管11が、スプリット流路10にはスプリット用抵抗管12がそれぞれ配置され、大気開放流路9には大気開放バルブ13が備えられている。また、メイン流路8の流量制御用抵抗管11の上流には圧力計14が設置されている。制御部15は、圧力計14で測定されるガス圧が所定の値になるように制御バルブ13の開度を調整する。CID室3内に流れ込む単位時間当たりのガスの標準状態(20℃、大気圧)における体積流量は、メイン流路8の流量制御用抵抗管11上流のガス圧の二乗と比例関係にあるため、制御バルブ13の開度を調整することによって、CID室3へ流入するガス流量を制御することができる。
【0004】
CID室3内にはCIDガス源4からメイン流路8を通ってCIDガスが導入されるが、その流量は非常に微量(たとえば標準状態で0.1cc/min程度)である。そこで、図2に記載の流路構成図では、スプリット流路10から常時CIDガスを放出させ、これにより、メイン流路8内に流れ込むガス量を少なくしている。このような構成により、メイン流路8における単位時間当たりの流量変化率が抑えられ、微量範囲での流量コントロールが行いやすくなる。
【0005】
メイン流路8及びスプリット流路10にはそれぞれ抵抗管11、12が配置されているため、抵抗管11、12の下流側のガス圧は上流側のガス圧より低くなる。それぞれの抵抗管11、12の内径、長さを適宜設定することで、CID室3内に所望の流量のガスを導入することができる。CIDガス源4から排出されるガス圧を大気圧以上(例えば約300kpa〜500kpa)とした上で、CID室3内へのガス流量を上記のような極微量に制御するためには、抵抗管11、12の抵抗を非常に大きく設定する必要がある。
【0006】
このような流路構成では、CID室3内に流入するガス流量を減少させるために制御バルブ7の開度を絞っても、抵抗管11、12の上流のガス圧はなかなか低下しない。そこで制御部15は、制御バルブ7の開度を絞ると同時に大気開放バルブ13を開くことにより、抵抗管11、12上流の高圧ガスを大気開放流路9を介して大気中に開放する。これによって、抵抗管11、12上流のガス圧を瞬時に下げることができ、結果的に、CID室3内に流入するガス流量を短時間で所望の値まで減少させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-174994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
もっとも、大気開放バルブ13を開放する前は、大気開放バルブ13の上流側流路にはCIDガスが、下流側流路には大気ガスが充満している。即ち、大気開放バルブ13の上流側と下流側とで、CIDガス及び大気ガスの濃度差が生じている。このような状態で大気開放バルブ13を開放すると、大気開放流路9末端外部に存在する大気が拡散作用により末端から混入する。これを放置すると、最終的にはCID室3内に大気ガスが混入し、衝突誘起解離の効率が低下する恐れがある。
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、上記のような構成をとる真空分析装置において、大気開放流路の末端から反応室内に大気ガスを拡散作用により混入させない真空分析装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明の第一の態様に係る真空分析装置は、
a)真空反応室と、
b)前記真空反応室内にガスを供給するガス源と、
c)前記真空反応室に出口端が接続された流量制御用抵抗管と、
d)前記流量制御用抵抗管の上流に配置された圧力検出手段と、
e)前記圧力検出手段と前記ガス源との間に配置され、前記圧力検出手段による検出値が所定値になるように、前記流量制御用抵抗管から流れ出るガス量を調節する流量調節手段と、
f)前記流量調節手段と前記圧力検出手段との間で、その上流から流れてくるガスを分岐し、スプリット用抵抗管を備えるスプリット流路と、
g)前記流量調節手段と前記圧力検出手段との間で、その上流から流れてくるガスを分岐して大気中に放出する大気開放路と、
h)前記大気開放路に設けられたバルブと、
を有する真空分析装置において、
前記大気開放路の前記バルブの直下に前記スプリット流路を接続したことを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明の第二の態様に係る真空分析装置は、
a)真空反応室と、
b)前記真空反応室内にガスを供給するガス源と、
c)前記真空反応室に出口端が接続された流量制御用抵抗管と、
d)前記流量制御用抵抗管の上流に配置された圧力検出手段と、
e)前記圧力検出手段と前記ガス源との間に配置され、前記圧力検出手段による検出値が所定値になるように、前記流量制御用抵抗管から流れ出るガス量を調節する流量調節手段と、
f)前記流量調節手段と前記圧力検出手段との間で、その上流から流れてくるガスを分岐し、スプリット用抵抗管を備えるスプリット流路と、
g)前記流量調節手段と前記圧力検出手段との間で、その上流から流れてくるガスを分岐して大気中に放出する大気開放路と、
h)前記大気開放路に設けられたバルブと、
i)前記流量調節手段の上流で、前記ガス源からのガスを分岐するバイパス流路と、
を有する真空分析装置において、
前記大気開放路の前記バルブの直下に前記バイパス流路を接続したことを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決するために成された本発明の第三の態様に係る真空分析装置は、第一、又は第二の態様に係る真空分析装置において、
前記真空反応室は、衝突誘起解離用の衝突室であり、
前記ガスは、衝突誘起解離のために用いられるガスであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る真空分析装置では、大気開放路に設けられたバルブ(以下、大気開放バルブ)直下にスプリット流路、又はバイパス流路が接続されているため、スプリット流路又はバイパス流路を介してガス源からのガスを大気開放バルブ直下に常に流入させることができる。大気開放バルブ直下に流入したガスは、大気開放路の末端側に向かって流れ続ける。これにより、大気開放路の末端側と大気開放バルブ直下部ではガスの濃度が等しくなる。また、大気開放バルブを開放するとガス源からのガスは大気開放バルブを介して大気開放路に流入する。これにより、大気開放バルブの上流部と下流部においてもガスの濃度が等しくなる。大気開放路の末端側、大気開放バルブ直下部、及び大気開放バルブ上流側でガスの濃度に差がある場合には、拡散により大気開放路外部に存在する大気が末端から混入する。しかし、本発明に係る真空分析装置では、大気開放路内でガスの濃度に差が生じないため、大気ガスが拡散によって大気開放バルブ上流に混入することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】衝突誘起解離法を用いた一般的なMS/MS法の概略図。
【図2】CID室へCIDガスを導入するための従来の流路構成図。
【図3】CID室へCIDガスを導入するための本発明に係る流路構成図。
【図4】CID室へCIDガスを導入するための本発明の変形例に係る流路構成図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施例について図3を参照して説明する。
【実施例】
【0016】
本発明に係る真空分析装置の一実施例である、MS/MS分析を行う質量分析装置の全体の構成図は図1に示した従来の構成図と同様である。図1の第1及び第2質量分析器2、4としては、四重極型質量分析器やエンドキャップ型、飛行時間型など、さまざまな質量分析器を用いることができる。
【0017】
図3はCID室3へCIDガスを供給するための本実施例に係る流路構成図を示している。本実施例ではCIDガスとして純粋アルゴンガスを使用している。アルゴンガス源4の直下には制御バルブ7が設置され、流路はその下流で、CID室3に向かうメイン流路8、スプリット流路101、大気開放流路102の3つに分かれる。スプリット流路101にはスプリット用抵抗管103が、大気開放流路102には大気開放バルブ104がそれぞれ設置されている。大気開放バルブ104の直下でスプリット流路101と大気開放流路102は再度合流し(合流点105)、ガスパージ流路106を形成する。ガスパージ流路106にも抵抗管(ガスパージ用抵抗管107、内径1.6mm、長さ200mm)が設置されている。ガスパージ用抵抗管107の抵抗は流量制御用抵抗管11(内径40μm、長さ600mm)や大気開放用抵抗管103(内径40μm、長さ25mm)と比べ、かなり小さくなっている。メイン流路8、流量制御用抵抗管11、圧力計14、及び制御部15は図2に記載された従来の流路構成図に記載のものと同一である。
【0018】
以下、図3に記載の流路構成図において、アルゴンガスをCID室3へ0.15cc/min(sccm)で流入させ、次に0.1cc/min(sccm)に流量を変更する場合の動作について説明する。
まず、図示しない真空ポンプによりCID室3内のガスを排出し、CID室3内を高真空に維持する。このとき、制御バルブ7及び大気開放バルブ104は閉じられている。
【0019】
本実施例に係る流路構成でCID室3へのガス流量を0.15cc/minにするためには、メイン流路8における圧力を230kPaに維持する必要があるため、制御部15は、圧力計14が230kPaを示すように制御バルブ7の開度を調整する。アルゴンガス源4の純粋アルゴンガスはメイン流路8及びスプリット流路101に流入する。スプリット流路101におけるアルゴンガス流量は6cc/minになる。メイン流路8及びスプリット流路101には、それぞれ流量制御用抵抗管11、スプリット用抵抗管103が配置されており、それぞれの抵抗管を通過したアルゴンガスは抵抗管の存在により、その下流の圧力が低下する。スプリット用抵抗管103を通過したアルゴンガスは、大気開放バルブ104直下部105を経てガスパージ流路106に流入する。ガスパージ流路106の末端は大気中に開放されているため、ガスパージ流路106に流入したアルゴンガスは常時大気中に排出され続けている。
【0020】
次いでCID室3へのアルゴンガス流量を0.1cc/minに変更する。本実施例に係る流路構成でCID室3へのガス流量を0.1cc/minにするためには、メイン流路8における圧力を180kPaに変更する必要がある。制御部15は、圧力計14が180kPaを示すように制御バルブ7の開度を調整する。このとき、スプリット流路101におけるアルゴンガス流量は4.7cc/minになる。その後、制御部15が大気開放バルブ104を開くと、抵抗管11、103の上流に滞留していた高圧ガスは大気開放バルブ104を介してガスパージ流路106に流れ、末端から排出される。ガスパージ流路106にはガスパージ用抵抗管107が配置されているが、その抵抗は流量制御用抵抗管11やスプリット用抵抗管103と比べてかなり小さいからである。これによって、流量制御用抵抗管11や大気開放用抵抗管103上流のガス圧を短時間で下げることができる。
【0021】
前述のように、本実施例に係る流路構成図では、アルゴンガスがガスパージ流路106から大気中に常時排出され続けている。即ち、大気開放バルブ104直下部105には、絶えずアルゴンガスがスプリット流路101から流れ込み、ガスパージ流路104末端に向けて流れ続けているため、アルゴンガスの濃度はガスパージ流路106内で等しくなる。また、大気開放バルブ104を開放直後は抵抗管11、103上流の高圧ガスが大気開放流路102を通り、大気開放バルブ104を介してガスパージ流路106に流入するが、一定時間経過後は、アルゴンガス源4からのガスは、メイン流路8、スプリット流路101、大気開放流路102に分岐して流れ続ける。従って、大気開放流路102内、及びガスパージ流路106内でアルゴンガスの濃度が等しくなるため、大気開放バルブ104を開放しても大気が拡散作用によりガスパージ流路下流側から大気開放バルブ104の上流側に混入することはない。
【0022】
本実施例の変形例に係る流路構成図を図4に示す。この変形例では、制御バルブ7の上流からバイパス流路201が分岐し、大気開放バルブ104の直下部105で大気開放流路102に合流し、ガスパージ流路106を形成する。バイパス流路201にはバイパス用抵抗管202が配置されている。バイパス用抵抗管202の抵抗は抵抗管107の抵抗より十分に大きければよく、例えば、内径40μm、長さ300mmのものを用いるとよい。スプリット流路101は大気開放流路102に合流せず、スプリット用抵抗管103を備え、末端は大気中に開放されている。
【0023】
この変形例に係る流路構成図では、アルゴンガス源4からバイパス経路201に分岐したアルゴンガス流が大気開放バルブ104の直下部105に接続しており、アルゴンガスが常時ガスパージ流路106から大気中に放出されている。アルゴンガスの流量を下げるために制御バルブ7の開度を絞り、大気開放バルブを開いた場合も、アルゴンガスは大気開放流路102、ガスパージ流路106内を流れ続ける。従って、前記実施例と同様、大気開放バルブ104の上流部と下流部でアルゴンガスの濃度差はなく、大気がガスパージ流路106の末端から大気開放バルブ104の上流側に混入することはない。なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨の範囲内で変更が許容される。
【符号の説明】
【0024】
1…イオン源
2…第1質量分析器
3…衝突誘起解離(CID)室
4…CIDガス源
5…第2質量分析器
6…検出器
7…制御バルブ
8…メイン流路
9、102…大気開放流路
10、101…スプリット流路
11…流量制御用抵抗管
12、103…スプリット用抵抗管
13、104…大気開放バルブ
14…圧力計
15…制御部
105…合流点
106…ガスパージ流路
107…ガスパージ用抵抗管
201…バイパス流路
202…バイパス流路用抵抗管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)真空反応室と、
b)前記真空反応室内にガスを供給するガス源と、
c)前記真空反応室に出口端が接続された流量制御用抵抗管と、
d)前記流量制御用抵抗管の上流に配置された圧力検出手段と、
e)前記圧力検出手段と前記ガス源との間に配置され、前記圧力検出手段による検出値が所定値になるように、前記流量制御用抵抗管から流れ出るガス量を調節する流量調節手段と、
f)前記流量調節手段と前記圧力検出手段との間で、その上流から流れてくるガスを分岐し、スプリット用抵抗管を備えるスプリット流路と、
g)前記流量調節手段と前記圧力検出手段との間で、その上流から流れてくるガスを分岐して大気中に放出する大気開放路と、
h)前記大気開放路に設けられたバルブと、
を有する真空分析装置において、
前記大気開放路の前記バルブの直下に前記スプリット流路を接続したことを特徴とする真空分析装置。
【請求項2】
a)真空反応室と、
b)前記真空反応室内にガスを供給するガス源と、
c)前記真空反応室に出口端が接続された流量制御用抵抗管と、
d)前記流量制御用抵抗管の上流に配置された圧力検出手段と、
e)前記圧力検出手段と前記ガス源との間に配置され、前記圧力検出手段による検出値が所定値になるように、前記流量制御用抵抗管から流れ出るガス量を調節する流量調節手段と、
f)前記流量調節手段と前記圧力検出手段との間で、その上流から流れてくるガスを分岐し、スプリット用抵抗管を備えるスプリット流路と、
g)前記流量調節手段と前記圧力検出手段との間で、その上流から流れてくるガスを分岐して大気中に放出する大気開放路と、
h)前記大気開放路に設けられたバルブと、
i)前記流量調節手段の上流で、前記ガス源からのガスを分岐するバイパス流路と、
を有する真空分析装置において、
前記大気開放路の前記バルブの直下に前記バイパス流路を接続したことを特徴とする真空分析装置。
【請求項3】
請求項1、又は2に記載の真空分析装置において、
前記真空反応室は、衝突誘起解離用の衝突室であり、
前記ガスは、衝突誘起解離のために用いられるガスであることを特徴とする真空分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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