説明

真空断熱材用積層体および真空断熱材

【課題】ガスバリア性の経時劣化が少なく、内部への水分の浸入を効果的に防止でき、かつ、コスト性にも優れた真空断熱材用積層体を提供する。また、高真空を保持することができ、断熱性能を長期にわたり維持することが可能であって、コスト性にも優れた真空断熱材を提供する。
【解決手段】断熱芯材を積層体からなる外包材で封入し、外包材で封入された内部を脱気して真空状態としてなる真空断熱材に用いられる真空断熱材用積層体100である。少なくともガスバリア性フィルム2と、最内層に積層された熱接着性樹脂フィルム3とを含み、かつ、熱接着性樹脂フィルム3が、真空断熱材用積層体を真空断熱材に適用した際に外気に面する側から順次、エチレン共重合比率が25〜45mol%のエチレン−ビニルアルコール共重合体層4と、バインダ樹脂と化学的水分吸着性物質とからなる吸湿層5と、熱融着層6と、が共押出で積層されてなる多層積層体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空断熱材用積層体および真空断熱材に関し、詳しくは、冷蔵庫、炊飯ジャー、ポット、クーラーボックス、輸送用コンテナ、水素等の燃料タンク、システムバス、エコキュート温水タンク、保温庫、住宅壁、および、車や飛行機、船舶、列車、OA機器などの発熱部周り等に使用される断熱壁に用いられる真空断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、真空断熱材は、冷蔵庫あるいは保温庫等の断熱層として用いられている。このような真空断熱材は、通常、外包材に断熱芯材を封入し、外包材の内部を脱気して真空状態として、外包材の端部を熱接着して形成されている。
【0003】
真空断熱材の断熱性能を長時間維持するためには、外包材の内部を長期にわたって高真空に保持する必要がある。そのため、外包材に用いられる真空断熱材用積層体には、外部からガスが透過することを防止するための優れたガスバリア性や、断熱芯材を覆って密着封止するための熱接着性等の種々の機能が要求される。したがって、真空断熱材用積層体は、通常、これらの各機能特性を有するフィルムを複数にて積層した積層体として構成されている。
【0004】
例えば、特許文献1においては、ガスバリア性の経時劣化が少なく、ヒートシール強度があり、かつ、アウトガス発生の少ない真空断熱材用積層体外包材として、少なくともガスバリア層と最内層に熱接着性樹脂層が積層されて構成され、熱接着性樹脂層として、高密度ポリエチレン、ポリオレフィン、高密度ポリエチレンが順次積層されてなるものを用いた真空断熱材用積層体が、本出願人らより提案されている。
【0005】
ここで、真空断熱材用積層体を真空断熱材の外包材として用いるためには、ガスバリア性として、酸素透過度および水蒸気透過度がそれぞれ、0.5(cc/m・day)以下および0.2(g/m・day)以下であることが好ましい。例えば、上記特許文献1の実施例には、ON15μm/ガスバリアフィルム(β)(第2層酸化アルミニウム蒸着層/第1層炭素含有酸化珪素蒸着層/PET12μm)/アルミ蒸着EVOH12μm/熱接着性樹脂フィルム(α)(M−HDPE(10μm)/M−LLDPE(30μm)/M−HDPE(10μm))の層構成からなり、酸素透過度0.1(cc/m/day(23℃,90%RH))、水蒸気透過度0.09(g/m/day(40℃,90%RH))である多層積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−326339号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特に上記特許文献1の実施例で用いられているような真空断熱材用積層体については、真空断熱材の外包材としての種々の検討を重ねる中で、以下の課題があることが判明した。すなわち、かかる真空断熱材用積層体においてガスバリア層のコート層として用いられるアルミ蒸着エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)を構成するEVOHは吸湿性があるため、高温高湿度で長期間放置した場合に、ガスバリア性能が低下する場合がある。その結果、ガスバリア層および最内層の熱接着性樹脂層を通過して外包材内部に水分が浸入してしまい、真空度が低下して、長期の断熱性能の維持が十分でなくなるおそれがあった。また、かかる真空断熱材用積層体をドイラミネーション法で積層する場合、工程数が多くなるため、コスト高につながるという難点もあった。
【0008】
そこで本発明の目的は、ガスバリア性の経時劣化が少なく、内部への水分の浸入を効果的に防止でき、かつ、コスト性にも優れた真空断熱材用積層体を提供することにあり、また、これを用いることで、高真空を保持することができ、断熱性能を長期にわたり維持することが可能であって、コスト性にも優れた真空断熱材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意検討した結果、真空断熱材用積層体が、吸湿性能を有する吸湿層を含む構成とするとともに、従来よりも簡略化した層構成とすることで、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の真空断熱材用積層体は、断熱芯材を積層体からなる外包材で封入し、該外包材で封入された内部を脱気して真空状態としてなる真空断熱材に用いられる真空断熱材用積層体において、
少なくともガスバリア性フィルムと、最内層に積層された熱接着性樹脂フィルムとを含み、かつ、該熱接着性樹脂フィルムが、真空断熱材用積層体を前記真空断熱材に適用した際に外気に面する側から順次、エチレン共重合比率が25〜45mol%のエチレン−ビニルアルコール共重合体層と、バインダ樹脂と化学的水分吸着性物質とからなる吸湿層と、熱融着層と、が共押出で積層されてなる多層積層体であることを特徴とするものである。
【0011】
本発明においては、前記吸湿層のバインダ樹脂が、不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂、または、ポリアミド樹脂であることが好ましい。また、前記吸湿層の化学的水分吸着性物質としては、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、硫酸塩、金属ハロゲン化物、過塩素酸、有機物からなる群から選択される少なくとも1種からなる水分吸着性物質が好適である。さらに、前記吸湿層におけるバインダ樹脂と化学的水分吸着性物質との重量比率は、バインダ樹脂20〜60質量部に対し、化学的水分吸着性物質80〜40質量部であることが好ましい。
【0012】
さらにまた、前記熱融着層が、メタロセン触媒を用いた重合反応により得られるポリオレフィン樹脂からなることが好ましく、または、メタロセン触媒を用いた重合反応により得られるポリオレフィン樹脂からなる融着層と、不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂からなる接着層との積層からなることも好ましい。さらにまた、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体層の厚みは、好適には25〜60μmであり、前記吸湿層の厚みは、好適には25〜100μmであり、前記熱融着層の厚みは、好適には5〜30μmである。
【0013】
さらにまた、前記熱接着性樹脂フィルムは、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体層、前記吸湿層、前記接着層および前記融着層を、共押出により積層して形成されていることが好ましい。さらにまた、前記ガスバリア性フィルムは、プラスチックフィルム上に、プラズマ化学気相成長法で形成された炭素含有酸化珪素からなる蒸着層を1層以上積層して形成されていることが好ましい。
【0014】
また、本発明の真空断熱材は、上記本発明の真空断熱材用積層体を用いた外包材内に、断熱芯材が封入され、該外包材内部が脱気されて真空状態とされてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ガスバリア性の経時劣化が少なく、外部から浸入する水分を持続的に吸収することで外包材内部への水分の浸入を効果的に防止でき、かつ、コスト性にも優れた真空断熱材用積層体を得ることができる。したがって、これを用いることで、高真空を保持することができ、断熱性能を長期にわたり維持することが可能であって、コスト性にも優れた真空断熱材を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の真空断熱材用積層体の一構成例を示す模式的断面図である。
【図2】本発明の真空断熱材用積層体に含まれるガスバリア性フィルムの一例を示す模式的断面図である。
【図3】本発明の真空断熱材の一構成例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。本発明において、下記の記載は、その実施の形態の一例を示すものであり、これによって本発明が限定されるものではないことは言うまでもない。
本発明の真空断熱材用積層体は、断熱芯材を積層体からなる外包材で封入し、外包材で封入された内部を脱気して真空状態としてなる真空断熱材に用いられるものである。図1に、本発明の真空断熱材用積層体の一構成例を示す模式的断面図を示す。
【0018】
図示する本発明の一例の真空断熱材用積層体100は、真空断熱材に適用する際に外気に面する外側から順次、外層1と、ガスバリア性フィルム2と、熱接着性樹脂フィルム3とが積層されてなる積層構造を有する。このうち熱接着性樹脂フィルム3は、外側から順次、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)層4と、吸湿層5と、熱融着層6とからなる。本発明においては、このように、真空断熱材用積層体100中に吸湿層5を設けたことで、真空断熱材用積層体100としての諸性能を損なうことなく、真空断熱材用積層体100に吸湿性能を付与することができる。これにより、外部から真空断熱材用積層体100中に浸入する水分を持続的に吸収して、真空断熱材内部の断熱芯材周辺への水分の浸入を効果的に防止することができるので、長期にわたり真空度を維持して、断熱性能を良好に維持することが可能となる。
【0019】
本発明において、熱接着性樹脂フィルム3は、真空断熱材用積層体100の最内層、すなわち、真空断熱材に適用する際に断熱芯材に面する側に配置され、少なくともEVOH層4と、吸湿層5と、熱融着層6とを含み、これらが共押出で積層されてなるものであればよい。
【0020】
このうちEVOH層4に使用するエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂としては、ガスバリア性および成形性のバランスを考慮すると、エチレン共重合比率が25〜45mol%のものを用いることが必要であり、好ましくは、高湿度下でのガスバリア性が比較的高いエチレン含有量25〜35mol%のエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂を用いる。なお、製膜性を考慮すると、吸湿層5および熱融着層6とのMFR値の差異が小さい材料が好適である。
【0021】
また、吸湿層5は、バインダ樹脂と化学的水分吸着性物質とからなる。吸湿層5に用いるバインダ樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、エチレン‐酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、および、これら樹脂の変性品等を挙げることができる。特には、EVOH層4と共押出による接着が可能で、かつ、耐ピンホール性や突刺強度、コシ(柔軟性)等の熱接着性樹脂フィルム3全体での物理特性を維持することを考慮して、変性ポリオレフィン樹脂またはポリアミド樹脂を用いることが好ましい。かかる変性ポリオレフィン樹脂としては、特に限定されるものではないが、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、フマール酸等の不飽和カルボン酸で変性させたポリオレフィン樹脂であって、EVOH層4および熱融着層6の両者との接着力に優れたグレードのものが好ましい。また、ポリアミド樹脂としては、特に限定されるものではないが、インフレーション成形可能な6−ナイロンまたは6−66共重合ナイロンが好適である。さらに、耐衝撃性を重視する場合には6−ナイロン、成形性を重視する場合には6−66共重合ナイロンがより好適である。
【0022】
また、化学的水分吸着性樹脂を混練すると溶融粘度が高くなることを考慮して、かかるバインダ樹脂の、温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定したMFRが2.5〜10g/10minであることが好ましく、より好ましくは3.0〜6.0g/10minである。上記MFRの値が上記範囲より小さいと、化学的水分吸着性物質を混練した際の溶融粘度の上昇により、樹脂の押出が困難になる。また、上記MFRの値が上記範囲を超えると、インフレーション法で製膜する場合に、吸湿層の溶融粘度が低くなり、製膜性が低下する。
【0023】
また、吸湿層5に用いる化学的水分吸着性物質としては、高真空を保持して断熱性能を長期間維持するために、再放湿性がなく、かつ、吸湿しても固体の形状を維持する化学的吸湿性物質を好適に用いることができる。具体的には例えば、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、硫酸塩、金属ハロゲン化物、過塩素酸、有機物等が挙げられる。
【0024】
上記のうちアルカリ金属酸化物としては、酸化ナトリウム(NaO)や酸化カリウム(KO)等を挙げることができ、アルカリ土類金属酸化物としては、酸化カルシウム(CaO)や酸化マグネシウム(MgO)、酸化バリウム(BaO)等を挙げることができる。また、硫酸塩としては、硫酸カルシウム(CaSO)、硫酸マグネシウム(MgSO)、硫酸リチウム(LiSO)、硫酸ナトリウム(NaSO)、硫酸コバルト(CoSO)、硫酸ガリウム(Ga(SO)、硫酸チタン(Ti(SO)、硫酸ニッケル(NiSO)等を挙げることができ、特には無水塩が好適である。
【0025】
さらに、金属ハロゲン化物としては、塩化カルシウム(CaCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化ストロンチウム(SrCl)、塩化イットリウム(YCl)、塩化銅(CuCl)、臭化カルシウム(CaBr)、臭化セリウム(CeBr)、臭化セレン(SeBr)、臭化バナジウム(VBr)、臭化マグネシウム(MgBr)、フッ化セシウム(CsF)、フッ化タンタル(TaF)、フッ化ニオブ(NbF)、ヨウ化バリウム(BaI)、ヨウ化マグネシウム(MgI)等を挙げることができ、特には無水塩が好適である。さらにまた、過塩素酸塩としては、過塩素酸マグネシウム(Mg(ClO)、過塩素酸バリウム(Ba(ClO)等を挙げることができ、特には無水塩が好適である。なお、化学的吸湿性物質として有機物を用いる場合においても、化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持するものであることが必要である。
【0026】
吸湿層5における上記バインダ樹脂と化学的水分吸着性物質との重量比率としては、高真空を保持して断熱性能を長期間維持できるだけの吸湿性能を確保するために、バインダ樹脂20〜60質量部に対し、化学的水分吸着性物質を80〜40質量部にて混合することが好ましい。より好ましくは、バインダ樹脂30〜50質量部に対し、化学的水分吸着性物質70〜30質量部の重量比率とする。上記範囲よりバインダ樹脂の重量比率が高く、化学的水分吸着性樹脂の重量比率が低い場合、十分な吸湿性能が得られないおそれがある。一方、上記範囲よりバインダ樹脂の重量比率が低く、化学的水分吸着性樹脂の重量比率が高い場合、化学的水分吸着性樹脂の割合が高くなることから、溶融粘度が過剰に高くなり、成形性が低下してしまう。
【0027】
本発明においては、吸湿層5を設けることにより、ガスバリア性フィルム2および熱接着性樹脂フィルム3を通過して外包材内部に浸入してくる水分を吸収するだけでなく、共押出するEVOH層4の経時に伴う吸湿によるガスバリア性能の低下を抑制することができるので、その結果、真空度の低下が緩和されることから、真空断熱材の断熱性能を長期間維持することができるものである。
【0028】
熱融着層6の材料は、樹脂自体の低アウトガス性、耐ピンホール性や突刺強度、コシ(柔軟性)等の熱接着性樹脂フィルム3全体での物理特性の維持、および、コスト面等を考慮して選択することが必要である。熱融着層6は、図示する例では接着層7と融着層8との積層からなるが、例えば、吸湿層5のバインダ樹脂に変性ポリオレフィンを選択した場合には、接着層7を設けず、真空断熱材用積層体100の最内層となる融着層8に、このバインダ樹脂との接着性が良好な、メタロセン触媒を用いた重合反応により得られるポリオレフィン樹脂を用いることができる。この場合、熱融着層6は、融着層8のみからなることになる。また、吸湿層4のバインダ樹脂にポリアミド樹脂を選択した場合には、吸湿層5と上記融着層8との間に、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、フマール酸等の不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂からなる接着層7を設けた積層構成とすることもできる。なお、製膜性を考慮すると、EVOH層4および吸湿層5とのMFR値の差異が小さい材料が好適である。
【0029】
熱接着性樹脂フィルム3のうち、EVOH層4の厚みは、25〜60μmであることが好ましく、より好ましくは30〜50μmである。EVOH層4の厚みが上記範囲未満であると、ガスバリア性が十分でなく、断熱性能が長期間維持できないおそれがある。一方、EVOH層4の厚みが上記範囲を超えると、コスト上昇に加え、環境を考慮した減容化の観点において好ましくない。また、吸湿層5の厚みは、25〜100μmが好ましく、より好ましくは30〜70μmである。吸湿層5の厚みが上記範囲未満であると、吸湿層5の厚みが薄く、吸湿能力が十分でないおそれがある。一方、吸湿層5の厚みが上記範囲を超えると、コスト上昇に加え、環境を考慮した減容化の観点において好ましくない。さらに、熱融着層6の厚みは、ヒートシール性を維持するために、5〜30μmであることが好ましい。熱融着層6として接着層7および融着層8を積層する場合には、接着層7についても、接着性を維持するため、5〜30μmとすることが好ましい。したがって熱融着層6として接着層7および融着層8を積層する場合には、好適な総厚みは10〜60μmである。熱融着層6の厚みが上記範囲未満では、ヒートシール性および接着性が維持できず、上記範囲を超えると、コスト上昇に加え、環境を考慮した減容化の観点において好ましくない。
【0030】
本発明において、熱接着性樹脂フィルム3を構成するEVOH層4、吸湿層5および熱融着層6(特には、接着層7および融着層8)等は、インフレーション製膜法やTダイ製膜法により製膜することができ、特には、層構成の異なる種々の積層フィルムを迅速に製造することができる共押出による積層手法を使用して製造することが好ましい。
【0031】
また、本発明の真空断熱材用積層体100に用いる外層1としては、機械的、物理的および化学的等において優れた性質を有し、強度に優れるとともに、耐熱性や防湿性、耐ピンホール性、耐突き刺し性等に優れた樹脂のフィルムないしシートを使用することができる。具体的には例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等の強靱な樹脂のフィルムないしシートを使用することができる。これらフィルムないしシートは、未延伸フィルムまたは一軸方向または二軸方向に延伸した延伸フィルム等のいずれのものも使用することができるが、機械的または耐熱性等の面から、二軸延伸フィルムが好ましい。なお、外層1は、外包材の強度等の物性を高めるために積層するものであり、積層順は真空断熱材用積層体100の最外側に限定されるものではなく、ガスバリア性フィルム2と熱接着性樹脂フィルム3との間に介在させることもでき、また、要求品質によっては、外層1を複数層にて設けることもできる。外層1の厚みは、好適には9〜50μmとすることができ、真空断熱材用積層体100に用いる材質構成や要求品質に従い、決定される。
【0032】
本発明の真空断熱材用積層体100に用いるガスバリア性フィルム2としては、例えば、アルミニウム箔、アルミニウム蒸着プラスチックフィルム、酸化珪素等の無機物や酸化アルミニウム等の金属酸化物を蒸着したプラスチックフィルム、ポリビニルアルコールや塩化ビニリデン等のガスバリア性組成物をコーティングしたプラスチックフィルム、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)フィルム、および、MXDナイロン等のガスバリア性を有するフィルムを用いることができる。特には、ガスバリア性に優れるとともに、その経時劣化が少なく、折り曲げてもクラック発生が少なく、かつ、真空断熱材用積層体を真空断熱材の外包材として用いた際に、外包材を通しての熱の伝導が少なく、十分な断熱性能が得られる材料として、酸化珪素等の無機物を蒸着したプラスチックフィルムが好適である。さらには、プラスチックフィルムからなる基材上に、プラズマ化学気相成長法で形成された炭素含有酸化珪素からなる蒸着層を1層以上積層したものが、より好ましく使用される。
【0033】
図2に、本発明に係るガスバリア性フィルム2の一構成例の模式的断面図を示す。図示するガスバリア性フィルム2は、基材11上に、2層の蒸着層9,10が順次形成されてなる。かかるガスバリア性フィルム2に用いられる基材11は、炭素含有酸化珪素等の蒸着膜を保持する基材であることから、それらの形成、加工等の条件に耐え、かつ、その特性を損なうことなく良好に保持できることに加え、真空断熱材用積層体の外包材としての製袋に際し、加工作業性や耐熱性、滑り性、耐ピンホール性等の諸物性に優れるなどの条件を充足し得る樹脂のフィルムないしシートを使用することができる。具体的には例えば、ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、各種ナイロン樹脂等のポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体等の各種の樹脂のフィルムないしシートを使用することができる。本発明においては、上記の樹脂のフィルムないしシートの中でも、特に、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、または、ポリアミド系樹脂のフィルムないしシートを使用することが好ましい。
【0034】
なお、基材11に用いる各種の樹脂のフィルムないしシートの厚みとしては、好適には6〜200μm、より好適には9〜100μmである。
【0035】
本発明に係るガスバリア性フィルム2の蒸着層9,10は、例えば、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(CVD法)等を用いて炭素含有酸化珪素を製膜することにより製造することができる。これらの中でも、プラズマ化学気相成長法が好ましく、特に、低温プラズマ化学気相成長法を用いて製膜された蒸着膜9,10が特に好ましい。具体的には、低温プラズマ化学気相成長装置を用いて、有機珪素化合物の1種以上からなる製膜用モノマーガスを原料とし、キャリヤーガスとしてアルゴンガスやヘリウムガス等の不活性ガスを使用し、さらに、酸素供給ガスとして酸素ガス等を使用して、低温プラズマ発生装置等を利用する低温プラズマ化学気相成長法により、基材11の一方の面に、珪素酸化物等からなる炭素含有酸化珪素膜を製膜化することで、ガスバリア性フィルム2を製造することができる。上記において、低温プラズマ発生装置としては、例えば、高周波プラズマ、パルス波プラズマ、マイクロ波プラズマ等の発生装置を使用することができ、特には、高活性の安定したプラズマを得る観点から、高周波プラズマ方式による発生装置を使用することが好ましい。なお、炭素含有酸化珪素からなる蒸着層10上に、さらに蒸着層9を製膜する際には、蒸着層10表面に後述するプラズマ処理を施して、図示しないコート層を介して蒸着層9となる炭素含有酸化珪素膜を製膜し、蒸着層9表面にさらにプラズマ処理を施して、再度図示しないコート層を設ける手法を用いることができる。
【0036】
また、上記プラズマ化学気相成長法において、珪素酸化物等からなる炭素含有酸化珪素膜は、基材11上に、プラズマ化した原料ガスを酸素ガスで酸化しながらSiOxの形で薄膜状に製膜されるので、当該製膜される珪素酸化物からなる炭素含有酸化珪素膜は、多層に重層された構造からなる。そのため、かかる炭素含有酸化珪素膜は、各層ともに、緻密で隙間が少なく、延展性や屈曲性、可撓性等に富む薄膜となり、したがって、そのガスバリア性は、従来の真空蒸着法等によって形成される珪素酸化物等からなる酸化珪素層と比較してはるかに高いものとなり、しかも、多層に重層した構造体からなることから、極めて高い、十分なガスバリア性を得ることができるものである。また、ガスバリア性フィルム2の蒸着層9,10を構成する炭素含有酸化珪素膜の総膜厚は、50〜1000Åであることが望ましい。蒸着層9,10の総膜厚が1000Åを超えると、膜にクラック等が発生し易くなるので、好ましくない。また、蒸着層9,10の総膜厚が50Å未満になると、ガスバリア性に劣るものとなって、好ましくない。かかる蒸着層9,10の膜厚は、例えば、(株)理学製の蛍光X線分析装置(機種名 RIX2000型)を用いて、ファンダメンタルパラメーター法で測定することができる。
【0037】
本発明において、上記酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜を形成する有機珪素化合物等の蒸着用モノマーガスとしては、例えば、1.1.3.3−テトラメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等を使用することができる。本発明においては、上記有機珪素化合物の中でも、1.1.3.3−テトラメチルジシロキサン、または、ヘキサメチルジシロキサンを原料として使用することが、その取り扱い性、形成された連続膜の特性等から、特に好ましい。また、本発明において、不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガスやヘリウムガス等を使用することができる。
【0038】
本発明において、蒸着層は、少なくとも1層以上積層されていればよく、物理気相成長法により無機酸化物を製膜した蒸着層と組み合わせて用いることもできる。かかる物理気相成長法による無機酸化物の蒸着膜は、基材11の一方の面に不活性ガスによるプラズマ処理面を設けて、この面上に、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンクラスタービーム法等の物理気相成長法(PVD法)を用いて、形成することができる。例えば、蒸着層9としてPVD法による蒸着膜を設ける方法について説明すると、まず、蒸着層10の一方の面にプラズマ処理を施してコート層を設け、このコート層にさらにプラズマ処理を施して形成したプラズマ処理面に、金属または金属の酸化物を原料としこれを加熱して蒸気化して蒸着する真空蒸着法、原料として金属または金属の酸化物を使用し酸素を導入して酸化させて蒸着する酸化反応蒸着法、酸化反応をプラズマで助成するプラズマ助成式の酸化反応蒸着法等を用いて、蒸着膜を形成することができる(コート層およびプラズマ処理面は図示しない)。この場合、蒸着材料の加熱方式としては、例えば、抵抗加熱方式、高周波誘導加熱方式、エレクトロンビーム加熱方式(EB)等を用いることができる。
【0039】
なお、上記プラズマ処理は、基材11の一方の面、蒸着層上に設けたコート層表面、蒸着層9,10の表面に施すものであって、基材11、蒸着層10、蒸着層9またはコート層等の各層間の接着性等を向上させ、層間を強固に密着させて、層間の剥離(デラミネーション)等の発生を防止するために実施する。本発明において、不活性ガスを用いて形成されるプラズマ処理面について説明すると、かかるプラズマ処理面は、気体をアーク放電により電離させることにより生じるプラズマガスを利用して表面改質を行う、プラズマ表面処理法等を用いて、形成することができる。すなわち、本発明においては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスをプラズマガスとして使用するプラズマ表面処理法でプラズマ処理を行うことにより、プラズマ処理面を形成することができる。なお、本発明においてプラズマガスとしては、上記の不活性ガスに、さらに酸素ガスを添加した混合ガスを使用することもできる。また、本発明において、不活性ガスを用いてプラズマ処理面を形成する場合、物理気相成長法による無機酸化物の蒸着膜9を形成する直前にインラインでプラズマ処理を行うことで、蒸着層10の表面にプラズマ処理を施して設けられたコート層の表面の水分や塵等を除去するとともに、その表面の平滑化や活性化等の表面処理を行うことができ、好ましい。また、本発明において、プラズマの発生は、例えば、直流グロー放電、高周波放電、マイクロ波放電等の装置を利用して行うことができる。
【0040】
また、蒸着層9,10上に施されたプラズマ処理面に設けるコート層には、1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂および/またはエチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)とを含有し、さらに、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物による塗膜が好適に用いられる。かかる塗膜を構成する1種以上のアルコキシドとポリビニルアルコール系樹脂および/またはエチレン・ビニルアルコール共重合体とは、相互に化学的に反応して、極めて強固な三次元網状複合ポリマー層を構成する。そのため、この場合、この三次元網状複合ポリマー層と無機酸化物の蒸着膜とが相乗して、極めて高いガスバリア性を安定して維持するとともに、耐衝撃性等を備えたガスバリア性フィルム2を製造し得るものである。上記アルコキシドとしては、一般式RM(OR(但し、式中、R,Rは炭素数1〜8の有機基を表し、Mは金属原子を表し、nは0以上の整数を表し、mは1以上の整数を表し、n+mはMの原子価を表す)で表される少なくとも1種以上が用いられる。
【0041】
本発明において、ガスバリア性フィルム2は、要求品質によっては複数にて設けることもでき、その場合も、各ガスバリア性フィルム2の構成は、上記ガスバリア性フィルム2に使用できる材料のうちから、要求されるガスバリア性を考慮して選択すればよい。この場合の積層順は、例えば、外層1とガスバリア性フィルム2との間、または、ガスバリア性フィルム2と熱接着性樹脂フィルム3との間に介在させることができる。
【0042】
本発明の真空断熱材用積層体100は、上記の外層1、ガスバリア性フィルム2および熱接着性樹脂フィルム3を公知の方法で積層することにより製造することができる。その積層方法としては、ポリエステル−イソシアネート系、ポリエーテル−イソシアネート系、ポリウレタン−イソシアネート系等の接着剤を使用して貼り合せるドライラミネーション法や、熱可塑性樹脂をTダイより熱溶融押出しして貼り合せる押出しラミネーション法が用いられる。また、本発明の真空断熱材用積層体100においては、外層1およびガスバリア性フィルム2の一方または双方に、印刷層を設けてもよい。さらに、本発明の真空断熱材用積層体100を真空断熱材の外包材として用いる上では、ガスバリア性として、酸素透過度および水蒸気透過度がそれぞれ0.5(cc/m・day)以下、および、0.2(g/m・day)以下であることが好ましく、0.1(cc/m・day)以下、および、0.1(g/m・day)以下であることがより好ましい。
【0043】
図3に、本発明の真空断熱材200の一構成例の模式的断面図を示す。本発明の真空断熱材200は、上記本発明の真空断熱材用積層体100を用いた外包材内に、断熱芯材21が封入され、外包材100の内部が脱気されて真空状態とされてなるものである。本発明の真空断熱材200は、例えば、以下のようにして製造することができる。すなわち、まず、一対の上記真空断熱材用積層体100を、熱接着性樹脂フィルム3側を対向させて積層し、開口部となる一端を除く三方の周縁をヒートシールすることにより熱接着部22を設けて、袋状に製袋した外包材とする。その後、この外包材の開口部より断熱芯材を収容して、外包材の内部を脱気し真空状態とすることにより外包材を断熱芯材に密着させた後、開口部をヒートシールすることにより、真空断熱材200を得ることができる。ここで、外包材の袋形状は、四方、三方、ガセット、ピロー等の適宜形状とすることができ、特に限定されるものではない。
【0044】
真空断熱材200の断熱芯材21としては、シリカ、パーライト、珪酸カルシウム等の無機材料や、ポリウレタンフォーム等の有機材料が用いられる。また、断熱芯材の形態としては、微粉末、多孔質、繊維質等が挙げられる。
【0045】
本発明の真空断熱材200の外包材内部は、通常、5Pa以下に脱気して真空状態とされ、対流による熱伝導が極力小さくなるよう形成される。真空度が5Paより大きいと、外包材内部に残存する空気が対流して、断熱性能が低下するので好ましくない。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明について、実施例を挙げてさらに詳しく説明する。
<実施例1>
<熱接着性樹脂フィルム3の作製>
EVOH層4の材料としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体(クラレ(株)製,エバールF101,MFR=1.6(190℃,2.16kg),エチレン共重合比32mol%)100質量部を用いた。また、バインダ樹脂としての6−66共重合ポリアミド樹脂(宇部興産(株)製,UBEナイロン 5033B(融点196℃))40質量部と、水分吸着性物質としての酸化カルシウム(CaO)60質量部とを混合して、単軸押出機を用いて溶融混練し、造粒装置を用いて吸湿層5形成用の樹脂ペレットを作製した。さらに、熱融着層6を構成する、接着層7の材料として、酸変性ポリオレフィン樹脂(変性ポリオレフィン2)(三菱化学(株)製,モディック−AP M512VF(LLDPEベース,MFR=1(190℃,2.16kg))100質量部を用い、融着層8の材料として、メタロセン触媒を用いた重合反応により得られた直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(M−LLDPE2)(宇部丸善ポリエチレン(株)製,ユメリット1520F,MFR=2.0(190℃,2.16kg))100質量部を用いた。
【0047】
上記EVOH層4、吸湿層5、接着層7および融着層8の材料を、4層のインフレーション押出機を用いて共押出することにより、総厚75μmの熱接着性樹脂フィルム3を得た。この熱接着性樹脂フィルム3の層構成は、EVOH層(30μm)/吸湿層(30μm)/接着層(5μm)/融着層(10μm)であった。
【0048】
<ガスバリア性フィルム2の作製>
基材11として、厚さ12μmの両面コロナ処理された二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを使用して、これをプラズマ化学気相成長装置内に装着し、装置のチャンバー内を減圧した。一方、蒸着層の原料としての、有機珪素化合物であるヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を原料揮発供給装置において揮発させ、ガス供給装置から供給された酸素ガスおよび不活性ガスであるヘリウム、アルゴンと混合して原料ガスとした。製膜室で使用する原料ガスの混合比としては、HMDSO:O:He:Ar=1.2:0.5:0.5:0.5(単位;slm、1分間あたりの量をリッターで示したもの)とした。上記原料ガスを製膜室に導入して、上記厚さ12μmのPETフィルムをライン速度200m/分で搬送しながら、製膜出力15kWの電力を印加し、蒸着チャンバー内の真空度5Paにて、厚さ12μmのPETフィルムの一方のコロナ処理面上に、膜厚300Åの炭素含有酸化珪素からなる第1層の蒸着層10を形成した。次いで、マグネトロンスパッタリング装置を使用し、アルゴンガス600sccmを導入して、出力20kWでプラズマ処理を行って、上記第1層の蒸着層10上に、不活性ガスによるプラズマ処理面を形成して、巻取った。
【0049】
一方で、下記表1中に示す組成に従って、EVOH(エチレン共重合比率29%)をイソプロピルアルコールおよびイオン交換水の混合溶媒にて溶解したEVOH溶液(組成a)に、あらかじめ調製したエチルシリケート40、イソプロピルアルコール、アセチルアセトンアルミニウムおよびイオン交換水からなる加水分解液(組成b)を加えて攪拌し、さらに、あらかじめ調製したポリビニルアルコール水溶液、シランカップリング剤(エポキシシリカSH6040)、酢酸、イソプロピルアルコールおよびイオン交換水からなる混合液(組成c)を加えて攪拌して、無色透明のコート液を調製した。
【0050】
【表1】

【0051】
次に、上記基材11としてのPETフィルム上に形成された第1層の蒸着層10上のプラズマ処理面に、上記で調製したコート液をグラビアロールコート法によりコーティングし、100℃で30秒間加熱処理して、塗布量0.4g/m(乾燥状態)のコート層を形成し、巻取った。
【0052】
次に、上記でコート層を形成して巻取ったPETフィルムを、巻取式真空蒸着装置に巻取として装着し、ライン速度600mm/分でこのPETフィルムを搬送して、マグネトロンスパッタリング装置を使用してアルゴンガス500sccm(1分間当たりの量をミリリットルで示したもの)を導入し、出力20kWでプラズマ処理を行って、上記コート層形成面に、不活性ガスによるプラズマ処理面を形成した。さらに、このプラズマ処理面に、下記の蒸着条件に従い、アルミニウムを蒸着源に用いて、酸素ガスを供給しながら、エレクトロンビーム(EB)加熱方式による真空蒸着法により、膜厚300Åにて第2層の酸化アルミニウムの蒸着層9を形成した。次に、マグネトロンスパッタリング装置を使用し、アルゴンガス500sccmを導入して、出力20kWでプラズマ処理を行って、上記第2層の酸化アルミニウムの蒸着層9表面に、不活性ガスによるプラズマ処理面を形成して巻取った。
【0053】
(蒸着条件)
蒸着チャンバー内の真空度;2×10−4 mbar,
巻き取りチャンバー内の真空度;2×10−2 mbar,
電子ビーム電力;25kw,
フィルムの搬送速度;600m/分
【0054】
次に、上記で形成した第2層のプラズマ処理面に、前述と同様に、上記表1中に示す組成のコート液をコーティングしてコート層を形成し、基材11としてのPETフィルム上に、膜厚300Åの第1層の炭素含有酸化珪素の蒸着層10と、膜厚300Åの第2層の酸化アルミニウムの蒸着層9とからなる総膜厚600Åの2層重層の蒸着層を形成した、図2に示す構成のガスバリア性フィルム2を作製した。
【0055】
<真空断熱材用積層体の作製>
外層1としての厚さ15μmの二軸延伸ナイロンフィルム(ON)と、上記で作製した厚さ12μmのガスバリア性フィルム2と、上記で作製した厚さ50μmの熱接着性樹脂フィルム3と、をこの順に積層して、ポリエステル−イソシアネート系接着剤を用いて、ドライラミネーション法により各層をラミネートし、実施例1の真空断熱材用積層体を作製した。この真空断熱材用積層体の層構成は、ON15μm/ガスバリアフィルム(第2層酸化アルミニウム蒸着層/第1層炭素含有酸化珪素蒸着層/PET12μm)/熱接着性樹脂フィルム(EVOH層(30μm)/吸湿層(30μm)/接着層(5μm)/融着層(10μm))であった。
【0056】
<真空断熱材の作製>
上記で得られた真空断熱材用積層体を矩形状に切取り、一対として熱接着性樹脂フィルム3の面を対向させて、周縁をヒートシールし、一端に開口部を有する外包材を製袋した。断熱芯材としてシリカ粉末の成形体を、外包材の開口部より内部に入れて、外包材内部を脱気することにより真空度3Paの真空状態にし、開口部をヒートシールして、図3に示すような、300mm×400mm×10mmの直方体の真空断熱材を作製した。
【0057】
<実施例2>
EVOH層4の材料として、エチレン−ビニルアルコール共重合体(クラレ(株)製,エバールF101,MFR=1.6(190℃,2.16kg),エチレン共重合比32mol%)100質量部を用いた。また、バインダ樹脂としての変性ポリオレフィン樹脂(変性ポリオレフィン1)(三菱化学(株)製,モディック−AP M545(LLDPEベース,MFR=6(190℃,2.16kg))40質量部と、水分吸着性物質としての酸化カルシウム(CaO)60質量部とを混合して、単軸押出機を用いて溶融混練し、造粒装置を用いて吸湿層5形成用の樹脂ペレットを作製した。さらに、熱融着層6を構成する融着層8の材料として、メタロセン触媒を用いた重合反応により得られた直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(M−LLDPE2)(宇部丸善ポリエチレン(株)製,ユメリット1520F,MFR=2.0(190℃,2.16kg))100質量部を用いた。
【0058】
上記EVOH層4、吸湿層5および融着層8の材料を用いた以外は実施例1と同様にして、EVOH層(30μm)/吸湿層(30μm)/融着層(15μm)の層構成を有する、総厚75μmの熱接着性樹脂フィルム3を作製した。この熱接着性樹脂フィルム3を用いた以外は実施例1と同様にして、ドライラミネーション法により各層をラミネートし、実施例2の真空断熱材用積層体を作製した。この真空断熱材用積層体の層構成は、ON15μm/ガスバリアフィルム(第2層酸化アルミニウム蒸着層/第1層炭素含有酸化珪素蒸着層/PET12μm)/熱接着性樹脂フィルム(EVOH層 (30μm)/吸湿層(30μm)/融着層(15μm)〕であった。また、この真空断熱材用積層体を用いた以外は実施例1と同様にして、真空断熱材を作製した。
【0059】
<比較例1>
EVOH層4の材料として、エチレン−ビニルアルコール共重合体(クラレ(株)製,エバールG156,MFR=6.4(190℃,2.16kg),エチレン共重合比47mol%)100質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例1の真空断熱材用積層体を作製した。この真空断熱材用積層体の層構成は、ON15μm/ガスバリアフィルム(第2層酸化アルミニウム蒸着層/第1層炭素含有酸化珪素蒸着層/PET12μm)/熱接着性樹脂フィルム(EVOH層 (30μm)/吸湿層(30μm)/接着層(5μm) /融着層(10μm))であった。また、この真空断熱材用積層体を用いた以外は実施例1と同様にして、真空断熱材を作製した。
【0060】
<比較例2>
EVOH層4の材料として、エチレン−ビニルアルコール共重合体(クラレ(株)製,エバールG156,MFR=6.4(190℃,2.16kg),エチレン共重合比47mol%)100質量部を用いた以外は実施例2と同様にして、比較例2の真空断熱材用積層体を作製した。この真空断熱材用積層体の層構成は、ON15μm/ガスバリアフィルム(第2層酸化アルミニウム蒸着層/第1層炭素含有酸化珪素蒸着層/PET12μm)/熱接着性樹脂フィルム(EVOH層(30μm)/吸湿層(30μm)/融着層(15μm))であった。また、この真空断熱材用積層体を用いた以外は実施例1と同様にして、真空断熱材を作製した。
【0061】
<比較例3>
吸湿層5の水分吸着性物質として、シリカゲル60質量部を用いた以外は実施例2と同様にして、比較例3の真空断熱材用積層体を作製した。この真空断熱材用積層体の層構成は、ON15μm/ガスバリアフィルム(第2層酸化アルミニウム蒸着層/第1層炭素含有酸化珪素蒸着層/PET12μm)/熱接着性樹脂フィルム(EVOH層(30μm)/吸湿層(30μm)/融着層(15μm))であった。また、この真空断熱材用積層体を用いた以外は実施例1と同様にして、真空断熱材を作製した。
【0062】
<比較例4>
吸湿層のバインダ樹脂を100質量部、水分吸着性物質を0質量部とした以外は実施例2と同様にして、比較例4の真空断熱材用積層体を作製した。また、この真空断熱材用積層体を用いた以外は実施例1と同様にして、真空断熱材を作製した。
【0063】
<比較例5>
吸湿層のバインダ樹脂を0質量部、水分吸着性物質を100質量部としたこと以外は実施例2と同様にして、熱接着性樹脂フィルム3を形成しようとしたところ、吸湿層5が製膜できず、結果として比較例5の真空断熱材用積層体は作製できなかった。
【0064】
下記表2中に、上記各実施例および比較例における真空断熱材用積層体の条件を示す。
【0065】
【表2】

【0066】
<評価試験>
上記実施例1,2および比較例1〜5において作製した真空断熱材用積層体について、下記に従い、酸素透過度および水蒸気透過度を測定した。また、上記実施例1,2および比較例1〜5において作製した真空断熱材について、下記に従い、熱伝導率を測定した。その測定結果を、下記表3中に併せて示す。
【0067】
(1)酸素透過度(ガスバリア性)の測定
上記実施例1,2および比較例1〜5において作製した真空断熱材用積層体について、JIS−K7126Bに基づき、温度23℃、湿度90%RHの条件で、酸素透過度を測定した。測定装置としては、米国モコン(MOCON)社製の測定機(機種名オクストラン(OXTRAN))を用いた。
(2)水蒸気透過度の測定
上記実施例1,2および比較例1〜5において作製した真空断熱材用積層体について、温度40℃、湿度90%RHの条件で、米国モコン(MOCON)社製の測定機(機種名パ−マトラン(PERMATRAN))を用いて、水蒸気透過度を測定した。
(3)熱伝導率の測定
上記実施例1,2および比較例1〜5において作製した真空断熱材について、作製直後、および、温度40℃、湿度90%RHにて30日間放置後の熱伝導率を、測定環境温度20℃の条件で測定した。測定機としては、英弘精機製の熱伝導率測定機を用いた。
【0068】
【表3】

【0069】
上記表中に示すように、実施例1,2で作製した真空断熱材用積層体および真空断熱材においては、酸素透過度、水蒸気透過度および熱伝導率の結果が全て良好であった。これに対し、比較例1,2では、エチレン共重合比の高いEVOH樹脂を使用したため、実施例に比べガスバリア性が低く、30日後の熱伝導率が上昇していた。また、比較例3は、初期の熱伝導性は良好であったが、物理吸着性の水分吸着性物質の再放湿から30日後の熱伝導率は上昇してしまった。さらにまた、比較例4では、水分吸着性物質を含有しないために、実施例と比較して30日後の熱伝導率が上昇してしまった。さらにまた、比較例5では、吸湿層の製膜が困難となった。
【0070】
以上より、実施例1,2では全ての評価項目において良好な結果が得られており、各真空断熱材用積層体において優れたガスバリア性および水蒸気透過性を有していたことに加え、外包材の内部が高真空に保持されて、断熱性能が長時間保持できる優れた真空断熱材が得られた。
【符号の説明】
【0071】
1 外層
2 ガスバリア性フィルム
3 熱接着性樹脂フィルム
4 エチレン−ビニルアルコール共重合体層
5 吸湿層
6 熱融着層
7 接着層
8 融着層
9,10 蒸着層
11 基材
21 断熱芯材
22 熱接着部
100 真空断熱材用積層体
200 真空断熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱芯材を積層体からなる外包材で封入し、該外包材で封入された内部を脱気して真空状態としてなる真空断熱材に用いられる真空断熱材用積層体において、
少なくともガスバリア性フィルムと、最内層に積層された熱接着性樹脂フィルムとを含み、かつ、該熱接着性樹脂フィルムが、真空断熱材用積層体を前記真空断熱材に適用した際に外気に面する側から順次、エチレン共重合比率が25〜45mol%のエチレン−ビニルアルコール共重合体層と、バインダ樹脂と化学的水分吸着性物質とからなる吸湿層と、熱融着層と、が共押出で積層されてなる多層積層体であることを特徴とする真空断熱材用積層体。
【請求項2】
前記吸湿層のバインダ樹脂が、不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂、または、ポリアミド樹脂である請求項1記載の真空断熱材用積層体。
【請求項3】
前記吸湿層の化学的水分吸着性物質が、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、硫酸塩、金属ハロゲン化物、過塩素酸、有機物からなる群から選択される少なくとも1種からなる水分吸着性物質である請求項1または2記載の真空断熱材用積層体。
【請求項4】
前記吸湿層におけるバインダ樹脂と化学的水分吸着性物質との重量比率が、バインダ樹脂20〜60質量部に対し、化学的水分吸着性物質80〜40質量部である請求項1〜3のうちいずれか一項記載の真空断熱材用積層体。
【請求項5】
前記熱融着層が、メタロセン触媒を用いた重合反応により得られるポリオレフィン樹脂からなる請求項1〜4のうちいずれか一項記載の真空断熱材用積層体。
【請求項6】
前記熱融着層が、メタロセン触媒を用いた重合反応により得られるポリオレフィン樹脂からなる融着層と、不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂からなる接着層との積層からなる請求項1〜5のうちいずれか一項記載の真空断熱材用積層体。
【請求項7】
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体層の厚みが、25〜60μmである請求項1〜6のうちいずれか一項記載の真空断熱材用積層体。
【請求項8】
前記吸湿層の厚みが、25〜100μmである請求項1〜7のうちいずれか一項記載の真空断熱材用積層体。
【請求項9】
前記熱融着層の厚みが、5〜30μmである請求項1〜8のうちいずれか一項記載の真空断熱材用積層体。
【請求項10】
前記熱接着性樹脂フィルムが、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体層、前記吸湿層、前記接着層および前記融着層を、共押出により積層して形成されている請求項6〜9のうちいずれか一項記載の真空断熱材用積層体。
【請求項11】
前記ガスバリア性フィルムが、プラスチックフィルム上に、プラズマ化学気相成長法で形成された炭素含有酸化珪素からなる蒸着層を1層以上積層して形成されている請求項1〜10のうちいずれか一項記載の真空断熱材用積層体。
【請求項12】
請求項1〜11のうちいずれか一項記載の真空断熱材用積層体を用いた外包材内に、断熱芯材が封入され、該外包材内部が脱気されて真空状態とされてなることを特徴とする真空断熱材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−143692(P2011−143692A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8550(P2010−8550)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】