説明

真空脱ガス装置の浸漬管

【課題】キャスタブル層の外方に配置されている空気がキャスタブル層をこれの径内方向に透過して溶湯通路側に移行することを抑制し、溶鋼等の溶湯に含まれる窒素成分を抑え、溶鋼等の溶湯の高品質化に貢献できる真空脱ガス装置の浸漬管を提供する。
【解決手段】耐火物層3は、上耐火物層4と下耐火物層5とを備えている。上耐火物層4および下耐火物層5の境界域6において、上耐火物層4および下耐火物層5のうちの一方に設けられた凸部7と、上耐火物層4および下耐火物層5の境界域6において上耐火物層4および下耐火物層5のうちの他方に設けられ凸部7に嵌合する凹部8とが設けられている。凸部7および凹部8の嵌合により上耐火物層4および下耐火物層5の境界域6における溶湯の進入を抑制させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空脱ガス装置の浸漬管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空脱ガス装置に用いられる浸漬管が提供されている(特許文献1)。この浸漬管は、縦方向に沿った中心軸線の回りに巡らされた芯金と、中心軸線を通過する縦向きの溶湯通路を形成するように芯金の内周側および外周に筒形状に設けられた耐火物層とを備えている。この浸漬管の分野では、耐火物層は、上耐火物層と、上耐火物層の下側に配置された下耐火物層とを備えているものが知られている。使用につれて、上耐火物層と下耐火物層との境界域に溶湯が進入するおそれがある。このため当該境界域における劣化が進行し、耐火物層の寿命を低下させるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−226092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、上耐火物層と下耐火物層との境界域に溶湯が進入するおそれを低減させ、当該境界における劣化を抑制させるのに有利な真空脱ガス装置の浸漬管を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)様相1に係る真空脱ガス装置の浸漬管は、真空脱ガス装置に用いられる浸漬管であって、
縦方向に沿った中心軸線の回りに巡らされた芯金と、中心軸線を通過する縦向きの溶湯通路を形成するように芯金の内周側および外周に筒形状に設けられた耐火物層とを備えており、
耐火物層は上耐火物層と上耐火物層の下側に配置された下耐火物層とを備えており、
更に、上耐火物層および下耐火物層の境界域において上耐火物層および下耐火物層のうちの一方に設けられた凸部と、上耐火物層および下耐火物層の境界域において上耐火物層および下耐火物層のうちの他方に設けられ凸部に嵌合する凹部とを備えており、凸部および凹部の嵌合により上耐火物層および下耐火物層の境界域における溶湯の進入を抑制させることを特徴とする。
【0006】
本発明に係る真空脱ガス装置の浸漬管によれば、上耐火物層および下耐火物層の境界域における凸部および凹部の嵌合により、上耐火物層および下耐火物層の境界域における溶湯の進入を抑制させることができる。
【0007】
(2)様相2に係る真空脱ガス装置の浸漬管によれば、凸部および凹部は、上耐火物層および下耐火物層の境界域において中心軸線の回りを少なくとも1周するように設けられており、中心軸線に沿った断面において、凸部は、凸外周側面と凸内周側面とを有しており、且つ、凹部は、凸部の凸外周側面に対面する凹外周側面と、凸部の凸内周側面に対面する凹内周側面とを有することを特徴とする。凸部および凹部の嵌合により、上耐火物層および下耐火物層の境界域における溶湯の進入を抑制させることができる。
【0008】
(3)様相3に係る真空脱ガス装置の浸漬管によれば、中心軸線に沿った断面において、凸部の凸外周側面と凸内周側面とは凸部が断面台形を形成するように中心軸線と平行な仮想線に対して互いに反対方向に傾斜しており、凹部の凹外周側面は凸部の凸外周側面と同じ向きとなるように傾斜しており、凹部の凹内周側面は凸部の凸内周側面と同じ向きとなるように傾斜していることを特徴とする。凸部および凹部の嵌合により、上耐火物層および下耐火物層の境界域における溶湯の進入を抑制させることができる。
【0009】
(4)様相4に係る真空脱ガス装置の浸漬管によれば、下耐火物層は、芯金の外周側に位置する外周耐火物層と、芯金の内周側に位置する内周耐火物層とを備えていることを特徴とする。熱膨張時において、外周耐火物層および内周耐火物層は独立変位性がある。このため、外周耐火物層に亀裂が発生するときであっても、その亀裂が内周耐火物層に展開することは抑制され易い。内周耐火物層に亀裂が発生するときであっても、その亀裂が外周耐火物層に展開することは抑制され易い。
【0010】
(5)様相5に係る真空脱ガス装置の浸漬管によれば、耐火物層はキャスタブル材で形成されており、下耐火物層はれんがで形成されていることを特徴とする。キャスタブル材料は、流動性をもつスラリー状耐火材料を流動させて形成される。れんがは焼成れんがでも良いし、不焼成れんがでも良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上耐火物層および下耐火物層の境界域には、互いに嵌合する凸部および凹部が形成されている。凸部および凹部の嵌合により、上耐火物層および下耐火物層の境界域における溶湯の進入を抑制させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態1に係り、浸漬管の断面図である。
【図2】実施形態1に係り、浸漬管の要部を拡大して示す断面図である。
【図3】実施形態1に係り、下耐火物層のれんが付近を示す平面図である。
【図4】実施形態2に係り、浸漬管の半分を示す断面図である。
【図5】実施形態3に係り、浸漬管の半分を示す断面図である。
【図6】実施形態4に係り、浸漬管の半分を示す断面図である。
【図7】適用形態に係り、浸漬管の使用状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態1)
図1〜図3は実施形態1の概念を示す。本実施形態は、真空脱ガス装置に用いられる浸漬管1に適用されている。浸漬管1はリング形状をなしており、縦方向に沿った中心軸線1pの回りに連続的に巡らされた筒形状をなす金属(例えば炭素鋼、合金鋼等の鉄合金)で形成された芯金2と、中心軸線1pを通過する縦向きの溶湯通路30を形成する耐火物層3とを備えている。芯金2は、中心軸線1pの回りを1周する筒形状の芯金本体20と、中心軸線1pの回りを1周するように芯金本体20の上端部に径外方向に連設されたリング状をなすフランジ部21と、中心軸線1pの回りを1周するように芯金本体20の下部に連設された筒形状または棒形状のスタッド22とで形成されている。芯金本体20は内周壁面20iおよび外周壁面20pをもつ。芯金本体20の内周側および外周側には、溶接またはボルト留め等で、複数の断面L字形状の固定部24,25がそれぞれ固定されている。外側の固定部25は締結リング26rで芯金本体20に締結されている。
【0014】
図1に示すように、耐火物層3は中心軸線1pの回りに巡らされた筒状をなしており、中心軸線1pを通過する縦向きの筒形状の溶湯通路30を形成するように芯金2の内周側、芯金2の外周側、および、芯金2の下側に配置されている。耐火物層3は、中心軸線1pの回りを1周するようにキャスタブル材料で形成されたリング形状をなす上耐火物層4と、中心軸線1pの回りを1周するように上耐火物層4の下側に配置された不焼成のれんが(バインダ含有)で形成されたリング形状をなす下耐火物層5とを備えている。上耐火物層4は内周壁面4iと外周壁面4pとをもつ。下耐火物層5は内周壁面5iと外周壁面5pとをもつ。上耐火物層4はキャスタブル材料で形成されており、殊にアルミナおよびマグネシアの混合系(例えばアルミナ:50〜99質量%、マグネシア:0.1〜30質量%)のキャスタブル材料、または、ハイアルミナ(アルミナ例えば80質量%以上)系のキャスタブル材料で形成されている。
【0015】
下耐火物層5は、複数の不焼成のれんが53を中心軸線1pまわりで1周するように周方向(図3に示す矢印DW方向)に沿って並設することにより形成されている。図3は単数のれんが53の平面視を示す。図3に示すように、れんが53は、これの平面視において、中心軸線1pに対して放射方向に延びる延設面53a,53cと、下耐火物層5の外周側となる外壁面53pと、下耐火物層5の内周側となる内壁面53iとを有する。下耐火物層5を構成するれんが53は、マグネシアおよびカーボンの混合系のれんがを例示できる。但し、材料はこれらに限定されるものではなく、マグネシア系のれんが、マグネシアおよび酸化クロム(Cr)の混合系のれんがでも良い。
【0016】
更に、図1に示すように、上耐火物層4および下耐火物層5の境界域6において、下耐火物層5の上面5uには凸部7が設けられ、上耐火物層4の下面4dには凹部8が設けられている。凸部7および凹部8の双方は、上耐火物層4および下耐火物層5の境界域6において中心軸線1pの回りを1周するように、つまり、溶湯通路30をこれの周方向に1周するように設けられている。中心軸線1pに沿った断面(図1,図2)において、凸部7は、リング状をなす凸外周側面70と、ほぼ同軸的なリング状をなす凸内周側面72とを有する。凹部8は、凸部7の凸外周側面70に対面するリング状をなす凹外周側面80と、凸部7の凸内周側面72にほぼ同軸的に対面するリング状をなす凹内周側面82とを有する。
【0017】
中心軸線1pに沿った断面(図2)において、凸部7の凸外周側面70と凸内周側面72とは、凸部7が上向きの断面台形を形成するように中心軸線1pと平行な第1仮想線H1および第2仮想線H2に対して角度θ1,θ2で傾斜している。凹部8の凹外周側面80は、凸部7の凸外周側面70と同じ向きとなるように第1仮想線H1に対して角度θ1で傾斜している。凹部8の凹内周側面82は、凸部7の凸内周側面72と同じ向きとなるように第2仮想線H2に対して角度θ2で傾斜している。本実施形態によれば、下耐火物層5の上面5uに形成されている凸部7と、上耐火物層4の下面4dに形成されている凹部8とが嵌合して接触している。この嵌合により、上耐火物層4および下耐火物層5の境界域6における溶湯の進入を抑制させる。
【0018】
図1に示すように、上記した芯金本体20の内周側および外周側には、金属製(例えば炭素鋼または合金鋼)の第1係合部91が溶接等で固定されている。第1係合部91は、V形状またはU形状等の異形状の係止部91xをもち、キャスタブル材料で形成された上耐火物層4に埋設されている。固定部24,25には第2係合部92が溶接等で結合されている。第2係合部92は、V形状またはU形状等の異形状の係止部92xをもち、下耐火物層5に埋設されており、固定部24,25において内周側に向けて斜め下向きに指向している。
【0019】
図1に示すように、固定部24,25を介して副容器26が芯金本体20の下側に結合されている。固定部24は芯金本体20の内周壁面20i側に設けられている。図2に示すように、固定部24は、芯金本体20の内周壁面20i側に設けられている。固定部24は、副容器26のフランジ部26fに溶接または取付具で固定された横辺部24xと、芯金本体20の内周壁面20iに溶接または取付具で固定された縦辺部24yとをもつ。固定部25は芯金本体20の外周壁面20p側に設けられている。図2に示すように、固定部25は、副容器26のフランジ部26fに溶接または取付具で固定された横辺部25xと、芯金本体20の外周壁面20pに溶接または取付具で固定された縦辺部25yとをもつ。副容器26は、容器室27aを形成するように互いに対向する二つの壁部271,272および底部27cを有する金属製の有底形状をなす容器本体27と、容器本体27の容器室27aに装填されスタッド22を機械的に係合させるキャスタブル材料28と、副容器26の外周部、内周部および底部に固定されたスタッドで形成された第3係合部93とをもつ。第3係合部93は、V形状またはU形状等の異形状の係止部93xをもつ。上記したように第2係合部92および第3係合部93は、不焼成のれんが(バインダ含有)で形成された下耐火物層5に埋設されており、下耐火物層5の脱落を抑制させている。副容器26はれんが53のそれぞれに埋設されている。ここで、れんが53は中心軸線1pの回りでリング状に配置されて下耐火物層を形成しているため、各れんが53に埋設されている容器本体27も、中心軸線1pの回りを1周するように形成されている。なお、容器本体27、第1係合部91、第2係合部92、第3係合部93は、金属(例えば炭素鋼、合金鋼)で形成されていることが好ましい。
【0020】
以上説明した本実施形態によれば、図1に示すように、下耐火物層5の上面5uに形成されているリング状をなす凸部7と、上耐火物層4の下面4dに形成されているリング状をなす凹部8とが互いに嵌合している。この嵌合により、上耐火物層4の下面4dと下耐火物層5の上面5uとの境界域6における溶湯の進入を抑制させることができる。従って、進入した高温の溶湯で当該境界域6、ひいては金属製の芯金本体20が溶損することが抑制される。よって、浸漬管1の耐久性が高められている。
【0021】
本実施形態によれば、図1に示すように、凹部8の凹外周側面80と凸部7の凸外周側面70とが互いに対面し、浸漬管1の外周側において、溶湯(溶鋼)に対してシール作用を示す。凹外周側面80と凸部7の凸外周側面70とは角度θ1で傾斜しているため、シール距離および溶湯進入抵抗を増加できる。また図2に示すように、凹部8の凹内周側面82と凸部7の凸内周側面72と互いに対面し、浸漬管1の内周側において、溶湯(溶鋼)に対してシール作用を示す。凹部8の凹内周側面82と凸部7の凸内周側面72とは角度θ2で傾斜しているため、シール距離および溶湯進入抵抗を確保できる。
【0022】
図1から理解できるように、芯金本体20の上部は上耐火物層4に埋設されており、芯金本体20の下部20dは下耐火物層5に埋設されている。このため、下耐火物層5および上耐火物層4の連結結合性を高めるのに有利である。
【0023】
使用時には、一般的には、溶湯の湯面やスラグラインの位置(図2に示す位置XA)は、上耐火物層4の外周壁面4pに対面するが、下耐火物層5の外周壁面5pに対面しても良い。図2に示すように、下耐火物層5の上面5uから突出する凸部7の突出高さはt1として示される。凸部7の幅はD1として示される。D1>t1の関係とされている。図1に示すように、第2係合部92は、境界域6に存在するように芯金本体20に固定された固定部24,25に結合されている副容器26のフランジ部26fに固定されている。このため、下耐火物層5および上耐火物層4のうち境界域6付近に存在する耐火物部分を補強できる。これにより下耐火物層5の上面5u付近を補強でき、ひいては下耐火物層5の上面5uに形成されている凸部7付近を補強できる。このため当該境界域6付近を補強させるのに有利である。
【0024】
浸漬管1の使用時(真空脱ガス処理時)には溶湯通路30側は真空される。このため、周方向に連続する筒形状をなすように金属で形成された芯金本体20は、外気遮断性を有しており、更に、浸漬管1の外周側に存在する外気を溶湯通路30側に吸い込むことを抑制する機能を有することができる。当該境界域6は微小隙間を形成させるおそれがある。浸漬管1の外方に存在する外気が当該境界域6を介して矢印W方向(図1参照)へ溶湯通路30側に吸い込まれようとするときであっても、金属で形成されている芯金本体20は外気遮断性を有するため、溶湯通路30側への矢印W方向への外気の吸込を抑制させることができる。
【0025】
(実施形態2)
図4は実施形態2の概念を示す。本実施形態は前記した実施形態1と基本的には同様の構成および同様の作用効果を有する。以下、相違する部分を中心として説明する。図4に示すように、芯金本体20には、水平方向に沿って延設された金属製(例えば炭素鋼または合金鋼)の横係合部90が結合されており、上耐火物層4に埋設されている。横係合部90には、縦方向に延設された第4係合部94が溶接やボルト留め等で結合されている。第4係合部94は金属製(例えば炭素鋼または合金鋼)であり、上耐火物層4から境界域6を下方に通過し、下耐火物層5の下端5dx近くまで延設されている。副容器26の容器本体27には第3係合部93が結合されている。複数の第3係合部93のうちの一部には、縦方向に延びる金属製(例えば炭素鋼または合金鋼)の第5係合部95が結合されている。第5係合部95は係止部95xをもち、下耐火物層5に縦方向に沿って埋設されており、下耐火物層5の下端5dx付近まで延設されており、下耐火物層5の脱落を抑制させる。
【0026】
(実施形態3)
図5は実施形態3の概念を示す。本実施形態は前記した実施形態1と基本的には同様の構成および同様の作用効果を有する。以下、相違する部分を中心として説明する。図5に示すように、下耐火物層5は、中心軸線1pの回りに巡らされた内周側れんが層50と、中心軸線1pの回りに巡らされた外周側れんが層52とで形成されている。内周側れんが層50と外周側れんが層52との間には、周方向境界域60が形成されている。使用時には、筒形状をなす金属(例えば炭素鋼または合金鋼)製の芯金本体20が高温に加熱されるため、外径方向(図5に示す矢印Dp方向)に拡径する。このとき、万一、外周側れんが層52に亀裂が生成されるときには、その亀裂が内周側につまり溶湯通路30側に進展するおそれがあり、好ましくない。そこで本実施形態によれば、図5に示すように、下耐火物層5は、中心軸線1pの回りに巡らされた内周側れんが層50と、中心軸線1pの回りにほぼ同軸的に巡らされた外周側れんが層52とで形成されている。内周側れんが層50および外周側れんが層52は、互いに周方向境界域60を介して対面している。内周側れんが層50および外周側れんが層52は、第2係合部92および第3係合部93を埋設させているため、不焼成のれんがで形成されている。本実施形態によれば、凸部7の凸外周側面70は外周側れんが層52の上面52uに形成されている。凸部7の凸内周側面72は内周側れんが層50の上面50uに形成されている。このように凸部7の凸外周側面70および凸内周側面72は、互いに独立可能な別部材に形成されているため、熱膨張時に独立して変位することが許容される。このため凸部7および凹部8における亀裂抑制に貢献できる。
【0027】
すなわち、本実施形態によれば、外周側れんが層52(外周耐火物層)および内周側れんが層50(内周耐火物層)は独立変位性がある。このため浸漬管1の使用時において熱膨張し、外周側れんが層52に亀裂が発生するときであっても、その亀裂が内周側れんが層50に展開することは抑制され易い。また、内周側れんが層50に亀裂が発生するときであっても、その亀裂が外周側れんが層52に展開することは抑制され易い。
【0028】
(実施形態4)
図6は実施形態4の概念を示す。本実施形態は前記した実施形態1と基本的には同様の構成および同様の作用効果を有する。以下、相違する部分を中心として説明する。図6に示すように、耐火物層は、中心軸線1pの回りを1周するようにキャスタブル材料で形成されたリング形状をなす上耐火物層4と、中心軸線1pの回りを1周するように上耐火物層4の下側に配置された不焼成のれんがで形成されたリング形状をなす下耐火物層5とを備えている。筒形状をなす芯金本体20の下端20dxは下方に延びており、下耐火物層5の上面5uに対面している。つまり、芯金2の下部は下耐火物層5に埋設されていない。更に、図6に示すように、上耐火物層4および下耐火物層5の境界域6において、下耐火物層5の上面5uには凹部8が設けられており、上耐火物層4の下面4dには凸部7が設けられている。
【0029】
凸部7および凹部8の双方は、上耐火物層4および下耐火物層5の境界域6において中心軸線1pの回りを1周するようにリング状に設けられている。中心軸線1pに沿った断面(図6)において、凸部7は、中心軸線1pの回りを1周するリング状をなす凸外周側面70と、中心軸線1pの回りを1周するリング状をなす凸内周側面72とを有する。凹部8は、凸部7の凸外周側面70に対面するように中心軸線1pの回りを1周するリング状をなす凹外周側面80と、凸部7の凹内周側面72に対面するように中心軸線1pの回りを1周するリング状をなす凹内周側面82とを有する。
【0030】
中心軸線1pに沿った断面(図6)において、凸部7の凸外周側面70と凸内周側面72とは、凸部7が下向きの断面台形を形成するように中心軸線1pと平行な仮想線に対して傾斜している。凹部8の凹外周側面80は、凸部7の凸外周側面70と同じ向きとなるように傾斜している。凹部8の凹内周側面82は、凸部7の凸内周側面72と同じ向きとなるように当該仮想線に対して傾斜している。このような本実施形態によれば、下耐火物層5の凸部7と上耐火物層4の凹部8とが嵌合している。かかる嵌合により、上耐火物層4および下耐火物層5の境界域6における溶湯の進入を抑制させ、境界域6における耐久性を高めることができる。
【0031】
(実施形態5)
本実施形態は前記した実施形態1と基本的には同様の構成および同様の作用効果を有するため、図1〜図3を準用する。以下、相違する部分を中心として説明する。上耐火物層4を形成する材料の熱膨張係数をλuとし、下耐火物層5を形成する材料の熱膨張係数をλdとするとき、λd>λuの関係にできる。これにより境界域6の外周側のシール性を高め得る。また場合によっては、λu>λdの関係にできる。これにより境界域6の内周側のシール性を高め得る。勿論、λu=λd、λu≒λdの関係にすることもできる。
【0032】
(実施形態6)
本実施形態は前記した実施形態1と基本的には同様の構成および同様の作用効果を有するため、図5を準用する。以下、相違する部分を中心として説明する。外周側れんが層52を形成する材料の熱膨張係数をλpとし、内周側れんが層50を形成する材料の熱膨張係数をλiとするとき、λp>λiの関係にできる。この場合、径方向において、内周側れんが層50の熱膨張は、外周側れんが層52の熱膨張よりも低減される。従って、内周側れんが層50の熱膨張に起因して外周側れんが層52が破損することが抑制される。
【0033】
(実施形態7)
本実施形態は前記した実施形態1と基本的には同様の構成および同様の作用効果を有するため、図5を準用する。以下、相違する部分を中心として説明する。外周側れんが層52を形成する材料の熱膨張係数をλpとし、内周側れんが層50を形成する材料の熱膨張係数をλiとするとき、λi>λpの関係にできる。この場合、径方向において、内周側れんが層50の熱膨張により、内周側れんが層50が外周側れんが層52に対する密着性を高め得るため、周方向境界域60への溶湯進入を抑制させることができる。
【0034】
(適用形態)
図7は適用形態を示す。図7に示すように、真空脱ガス装置は環流式であり、高い真空状態に真空される上部槽100と、下部槽110と、互いに並設された2個一対の浸漬管1R,1Lとを有する。操業時には、浸漬管1R,1Lが取鍋200にセットされる。この状態で、容器としての取鍋200の溶湯230(溶鋼)は、一方の浸漬管1L(上昇管)の溶湯通路30を上昇し、他方の浸漬管1R(下降管)の溶湯通路30を下降して取鍋200に戻るように溶湯230が環流される。このように浸漬管1R,1Lを介して取鍋200内の溶湯を環流させることにより、取鍋200内の溶湯の脱ガスが進行する。溶鋼等の溶湯から排出されガスは矢印W方向に排出される。
【0035】
(その他)
本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。上耐火物層4および下耐火物層5の材質は上記したものに限定されるものではない。下耐火物層5は、不焼成のれんが53で形成されているが、焼成されたれんがで形成されていても良い。
【符号の説明】
【0036】
1は浸漬管、1pは中心軸線、2は芯金、20は芯金本体、21はフランジ部、3は耐火物層、30は溶湯通路、4は上耐火物層、5は下耐火物層、50は内周側れんが層(内周耐火物層)、52は外周側れんが層(外周耐火物層)、6は境界域、7は凸部、70は凸外周側面、72は凸内周側面、8は凹部、80は凹外周側面、82は凹内周側面を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空脱ガス装置に用いられる浸漬管であって、
縦方向に沿った中心軸線の回りに巡らされた芯金と、前記中心軸線を通過する縦向きの溶湯通路を形成するように前記芯金の内周側および外周に筒形状に設けられた耐火物層とを備えており、
前記耐火物層は上耐火物層と前記上耐火物層の下側に配置された下耐火物層とを備えており、
更に、前記上耐火物層および前記下耐火物層の境界域において前記上耐火物層および前記下耐火物層のうちの一方に設けられた凸部と、前記上耐火物層および前記下耐火物層の境界域において前記上耐火物層および前記下耐火物層のうちの他方に設けられ前記凸部に嵌合する凹部とを備えており、前記凸部および前記凹部の嵌合により前記上耐火物層および前記下耐火物層の当該境界域における溶湯の進入を抑制させることを特徴とする真空脱ガス装置の浸漬管。
【請求項2】
請求項1において、前記凸部および前記凹部は、前記上耐火物層および前記下耐火物層の境界域において前記中心軸線の回りを少なくとも1周するようにそれぞれ設けられており、
前記中心軸線に沿った断面において、前記凸部は、凸外周側面と凸内周側面とを有しており、且つ、前記凹部は、前記凸部の前記凸外周側面に対面する凹外周側面と、前記凸部の凸内周側面に対面する凹内周側面とを有することを特徴とする真空脱ガス装置の浸漬管。
【請求項3】
請求項2において、前記中心軸線に沿った断面において、前記凸部の凸外周側面と凸内周側面とは凸部が断面台形を形成するように中心軸線と平行な仮想線に対して互いに反対方向に傾斜しており、凹部の凹外周側面は凸部の凸外周側面と同じ向きとなるように傾斜しており、凹部の凹内周側面は凸部の凸内周側面と同じ向きとなるように傾斜していることを特徴とする真空脱ガス装置の浸漬管。
【請求項4】
請求項1〜3のうちの一項において、前記下耐火物層は、前記芯金の外周側に位置する外周耐火物層と、前記外周耐火物層とほぼ同軸的に設けられ前記芯金の内周側に位置する内周耐火物層とを備えていることを特徴とする真空脱ガス装置の浸漬管。
【請求項5】
請求項1〜4のうちの一項において、前記上耐火物層はキャスタブル材で形成されており、下耐火物層はれんがで形成されていることを特徴とする真空脱ガス装置の浸漬管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−11001(P2013−11001A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145432(P2011−145432)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】