真空計
【課題】駆動信号の振動検出信号への混信を低減するとともに振動体と検出電極との静電引力による接触を防止した上で、従来より広い範囲の気体の圧力を十分な精度で測定することができるようにした真空計を提供する。
【解決手段】振動体4と、振動体4と対向して静電力により振動体4を駆動する加振電極5と、振動体4と対向する検出電極6と、振動体4と検出電極6との間の静電容量を検知することにより振動体4の振動を検出する振動検出部と、振動体4を加振する駆動信号を生成する駆動信号生成部とを有し、前記駆動信号を加振電極5に印加し振動体4を共振状態に保持して、振動体4の振動特性から雰囲気の圧力を測定する圧力測定部を備えた真空計において、駆動信号生成部は、前記駆動信号として、交流信号に直流の駆動信号バイアス電圧が加算された信号を生成する構成としている。
【解決手段】振動体4と、振動体4と対向して静電力により振動体4を駆動する加振電極5と、振動体4と対向する検出電極6と、振動体4と検出電極6との間の静電容量を検知することにより振動体4の振動を検出する振動検出部と、振動体4を加振する駆動信号を生成する駆動信号生成部とを有し、前記駆動信号を加振電極5に印加し振動体4を共振状態に保持して、振動体4の振動特性から雰囲気の圧力を測定する圧力測定部を備えた真空計において、駆動信号生成部は、前記駆動信号として、交流信号に直流の駆動信号バイアス電圧が加算された信号を生成する構成としている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動体を利用した真空計に関し、特に、広い範囲の気体の圧力を測定することができるようにした真空計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、音叉型振動体を利用して雰囲気の圧力を測定する真空センサが知られている(特許文献1参照)。音叉型振動体を利用して雰囲気の圧力を測定する原理は、振動体を振動させ、その振動特性から雰囲気の圧力(すなわち真空度)を特定するものである。振動体の加振には振動体と加振電極との間の静電力を利用し、振動体と検出電極との電極間距離の変化に対応する静電容量の変化を検出することで振動体の振動を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−137533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
振動体と対向する加振電極に、振動体の固有角周波数ωR(=2πfR、ここでfRは固有周波数)に対応した電圧信号を印加すると、振動体は共振状態となる。このときの振動体の振幅Aは、以下の式(1)のように表すことができる。
【0005】
【数1】
【0006】
ここで、F0は振動体に印加した静電駆動力、Qは振動体のQ値(振動体の振動特性の一つ)であって、共振のピークの鋭さを表す無次元数であり、mは振動体の質量である。
振動体のQ値は気体の圧力Pに反比例することが知られており、例えば、静電駆動力F0を一定に保持した条件で振動体の振幅Aを検出することにより振動体のQ値を求め、こQ値を気体の圧力P値に換算することによって間接的に気体の圧力Pを測定することが可能である。
【0007】
次に、静電駆動力F0は、下記の式(2)で示されるように、加振電極に駆動信号として印加した交流信号の電圧VAと、振動体の電位と加振電極の電位との間の直流の電位差ΔVOとの積の絶対値に比例する。
【0008】
【数2】
【0009】
静電駆動力F0がより大きいほど、同じ圧力(すなわち、同じQ値)において振幅Aがより大きくなるため、振動体の振幅の測定感度をより高くすること、すなわち、より高い圧力(より低いQ値)まで圧力を測定することが可能となる。静電駆動力F0を大きくするためには、(2)式より交流信号の電圧VAを高くするか、もしくは、振動体の電位と加振電極の電位との直流の電位差ΔVOを大きくすることである。
【0010】
しかし、駆動信号である交流信号の電圧VAを高くすると、交流信号が浮遊容量などを通じて振動検出回路の出力信号(振動検出信号)に混信するという問題がある。
また、振動体の電位と加振電極の電位との直流の電位差ΔVOを大きくするには、振動体に印加する直流のバイアス電圧VBを高くすればよいが、振動体に印加する直流のバイアス電圧VBを高くすると、振動体と、振動体の振動を検出する検出電極とが静電引力によって接触するという問題がある。
【0011】
本発明は、上記した課題を解決して、駆動信号の振動検出信号への混信を低減するとともに振動体と検出電極との静電引力による接触を防止した上で、従来より広い範囲の気体の圧力を十分な精度で測定することができるようにした真空計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の真空計は、振動体と、該振動体と対向して静電力により振動体を駆動する加振電極と、該振動体と対向する検出電極と、振動体と検出電極との間の静電容量を検知することにより振動体の振動を検出する振動検出部と、振動体を加振する駆動信号を生成する駆動信号生成部とを有し、前記駆動信号を加振電極に印加し振動体を共振状態に保持して、振動体の振動特性から雰囲気の圧力を測定する圧力測定部を備えた真空計において、振動体が加振電極と対向する位置を,振動体が検出電極と対向する位置よりも振動体の固定部に近い位置としてなり、駆動信号生成部は、前記駆動信号として、交流信号に直流の駆動信号バイアス電圧が加算された信号を生成するとともに、振動体の電位と加振電極の電位との直流電位差を,振動体の電位と検出電極の電位との直流電位差よりも大きくしてなる構成とする(請求項1の発明)。
【0013】
上記請求項1の発明によれば、交流信号(以下「駆動信号交流成分」とも称する)(VA)に直流の駆動信号バイアス電圧(VOB)が加算されてなる駆動信号(VO=VA+VOB)を加振電極に印加するので、駆動信号バイアス電圧(VOB)を高い電圧レベルとすることにより、振動体の電位と加振電極の電位との直流電位差(ΔVo=VB−VOB)を大きくして静電駆動力(Fo=|VA*ΔVo|)を大きくすることができる。
【0014】
このため、本発明では、必要な静電駆動力(Fo)の大きさが同じである場合、振動体の電位と加振電極の電位との直流電位差(ΔVo)を大きくした分だけ駆動信号交流成分(VA)の電圧の方はより低い電圧レベルに抑制することができることにより、浮遊容量などを通じた駆動信号の振動検出部の検出信号(以下「振動検出信号」とも称する)(VCA)への混信量をより低レベルに抑えることができる。
【0015】
また、本発明では、駆動信号バイアス電圧(VOB)を高い電圧レベルとすることにより振動体の電位と加振電極の電位との直流電位差(ΔVo=VB−VOB)を大きくすることができるので、振動体バイアス電圧(VB)の方は低い電圧レベルに抑制することができ、これにより、振動体と検出電極とが静電引力によって接触することを防ぐことができる。
【0016】
これにより、駆動信号の振動検出信号(VCA)への混信を低減するとともに振動体と検出電極との静電引力による接触を防止した上で、より高い圧力まで気体の圧力(P)を十分な精度で測定することができるようになる。
【0017】
また、振動体が加振電極と対向する位置を,振動体が検出電極と対向する位置よりも振動体の固定部に近い位置とした構成では、振動体の電位と検出電極の電位との直流電位差(ΔVr)は、振動体と検出電極とが静電引力によって接触しないような振動体・検出電極電位差条件値(|ΔVr|max)よりも小さくすることが必要であるが、振動体と加振電極とが静電引力によって接触しないような振動体・加振電極電位差条件値(|ΔVo|max)は上記振動体・検出電極電位差条件値(|ΔVr|max)よりも大きい。
【0018】
このため、上記のような電位差条件値同士の関係に対応して、振動体の電位と加振電極の電位との直流電位差(ΔVo)を、振動体・加振電極電位差条件値(|ΔVo|max)を満たす範囲で、振動体の電位と振動検出電極の電位との直流電位差(ΔVr)よりも大きな値とすることにより、静電駆動力(FO)をより大きくすることができるとともに、必要な静電駆動力(FO)の大きさが同じである場合には駆動信号交流成分(VA)の電圧をより低く抑えて浮遊容量などを通じた駆動信号の振動検出信号(VCA)への混信量をより低減することができる。
【0019】
また、請求項1に記載の真空計において、振動体と加振電極との対向面積を,振動体と検出電極との対向面積より小さくしてなる構成とすることができる(請求項2の発明)。
また、請求項1または2に記載の真空計において、直流の駆動信号バイアス電圧を生成する駆動信号バイアス電圧生成部と、直流の振動体バイアス電圧を生成する振動体バイアス電圧生成部とを有し、前記振動体バイアス電圧は振動体に印加されるとともに、前記駆動信号バイアス電圧は振動体バイアス電圧と逆極性の直流電圧である構成とすることができる(請求項3の発明)。
【0020】
上記請求項3の発明によれば、駆動信号バイアス電圧(VOB)を振動体バイアス電圧(VB)と逆極性の直流電圧としていることにより、駆動信号バイアス電圧(VOB)を振動体バイアス電圧(VB)と同極性の直流電圧としている場合に比べて、駆動信号バイアス電圧(VOB)の絶対値の大きさが同じであっても、振動体の電位と加振電極の電位との直流電位差(ΔVo=VB−VOB)をより大きくすることができるので、静電駆動力(Fo=|VA*ΔVo|)をより大きくすることができる。したがって、必要な静電駆動力(Fo)の大きさが同じである場合、駆動信号交流成分(VA)の方の電圧はより低く抑えることができるので、浮遊容量などを通じた駆動信号の振動検出信号(VCA)への混信量をより低レベルに低減することができる。
【0021】
また、上記請求項3の発明では、駆動信号バイアス電圧(VOB)を振動体バイアス電圧(VB)と逆極性の直流電圧としていることにより、駆動信号バイアス電圧(VOB)を振動体バイアス電圧VBと同極性の直流電圧としている場合に比べて、駆動信号バイアス電圧(VOB)の絶対値がより小さくても、振動体の電位と加振電極の電位との直流電位差(ΔVo=VB−VOB)を同じ大きさとし、静電駆動力Foも同じ大きさとすることができるので、駆動信号バイアス生成部の出力電圧仕様をより低電圧レベルとすることができる。
【0022】
また、請求項1または2に記載の真空計において、直流の駆動信号バイアス電圧を生成する駆動信号バイアス電圧生成部と、駆動信号バイアス電圧を分圧する分圧回路とを有し、前記分圧回路の出力電圧は直流の振動体バイアス電圧として振動体に印加されてなる構成とすることもできる(請求項4の発明)。
【0023】
上記請求項4の発明によれば、駆動信号バイアス電圧生成部からの駆動信号バイアス電圧(VOB)を分圧回路で分圧した電圧を,振動体バイアス電圧(VB=(1/a)*VOB)として用いることにより、振動体バイアス電圧(VB)を生成するための別の電圧生成部(電圧源)が不要となるので、真空計の構成をより簡素化することができる。
【0024】
また、請求項1または2に記載の真空計において、直流の振動体バイアス電圧を生成する振動体バイアス電圧生成部と、振動体バイアス電圧を昇圧する昇圧回路とを有し、前記振動体バイアス電圧は振動体に印加されるとともに、前記昇圧回路の出力電圧は直流の駆動信号バイアス電圧とされてなる構成とすることもできる(請求項5の発明)。
【0025】
上記請求項5の発明によれば、振動体バイアス電圧生成部からの振動体バイアス電圧(VB)を昇圧回路で分圧した電圧を,駆動信号バイアス電圧(VOB=b*VB)として用いることにより、駆動信号バイアス電圧(VOB)を生成するための別の電圧生成部(電圧源)が不要となるので、真空計の構成をより簡素化することができる。
【0026】
また、請求項1または2に記載の真空計において、直流の検出バイアス電圧を生成する検出バイアス電圧生成部と、直流の駆動信号バイアス電圧を生成する駆動信号バイアス電圧生成部とを有し、前記検出バイアス電圧は振動検出部における検出電極に接続される容量電圧変換回路に印加されて、検出電極の電位が前記検出バイアス電圧の電圧レベルになるとともに、振動体の電位は接地レベルとされ、駆動信号バイアス電圧の絶対値を、検出バイアス電圧の絶対値よりも大きくしてなる構成とすることもできる(請求項6の発明)。
【0027】
また、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の真空計において、駆動信号生成部における交流信号は、振動検出部の検出信号に基づき、この検出信号の位相を変えて増幅することにより生成される構成とすることができる(請求項7の発明)。
【0028】
また、請求項7に記載の真空計において、駆動信号生成部は、駆動信号における交流信号の電圧が一定となるように、振動検出部の検出信号の位相を変えた信号に対する増幅のゲインを調整し、圧力測定部は、振動検出部の検出信号の大きさに基づいて圧力を測定する構成とすることができる(請求項8の発明)。
【0029】
また、請求項7に記載の真空計において、駆動信号生成部は、振動検出部の検出信号の大きさが一定となるように、振動検出部の検出信号の位相を変えた信号に対する増幅のゲインを調整し、圧力測定部は、駆動信号における交流信号の電圧に基づいて圧力を測定する構成とすることもできる(請求項9の発明)。
【0030】
また、請求項7ないし9のいずれか1項に記載の真空計において、駆動信号生成部は、振動体の固有周波数に対応した周波数の初期励振信号を出力する初期励振用信号源を備え、 振動体の初期駆動時には、前記駆動信号として、振動検出部の検出信号に基づく駆動信号の代わりに、初期励振信号に駆動信号バイアス電圧が加算された初期駆動信号を加振電極に印加する構成とすることができる(請求項10の発明)。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、駆動信号交流成分に直流の駆動信号バイアス電圧が加算されてなる駆動信号を加振電極に印加するので、駆動信号バイアス電圧を高い電圧レベルとすることにより、振動体の電位と加振電極の電位との直流電位差を大きくして静電駆動力を大きくすることができる。
【0032】
このため、必要な静電駆動力の大きさが同じである場合、振動体の電位と加振電極の電位との直流電位差を大きくした分だけ駆動信号交流成分の電圧の方はより低い電圧レベルに抑制することができることにより、浮遊容量などを通じた駆動信号の振動検出信号への混信量をより低レベルに抑えることができる。
【0033】
また、駆動信号バイアス電圧を高い電圧レベルとすることにより振動体の電位と加振電極の電位との直流電位差を大きくすることができるので、振動体バイアス電圧の方は低い電圧レベルに抑制することができ、これにより、振動体と検出電極とが静電引力によって接触することを防ぐことができる。
【0034】
これにより、駆動信号の振動検出信号への混信を低減するとともに振動体と検出電極との静電引力による接触を防止した上で、より高い圧力まで気体の圧力を十分な精度で測定することができるようになる。
【0035】
また、振動体が加振電極と対向する位置を,振動体が検出電極と対向する位置よりも振動体の固定部に近い位置とした構成では、振動体の電位と検出電極の電位との直流電位差は、振動体と検出電極とが静電引力によって接触しないような振動体・検出電極電位差条件値よりも小さくすることが必要であるが、振動体と加振電極とが静電引力によって接触しないような振動体・加振電極電位差条件値は上記振動体・検出電極電位差条件値よりも大きい。このため、上記のような電位差条件値同士の関係に対応して、振動体の電位と加振電極の電位との直流電位差を、振動体・加振電極電位差条件値を満たす範囲で、振動体の電位と振動検出電極の電位との直流電位差よりも大きな値とすることにより、静電駆動力をより大きくすることができるとともに、必要な静電駆動力の大きさが同じである場合には駆動信号交流成分の電圧をより低く抑えて浮遊容量などを通じた駆動信号の振動検出信号への混信量をより低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態に係る真空計の機構部分を成す構造体の平面図である。
【図2】図1に示す構造体の側面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る振動体の設計値の一例を示す図である。
【図4】図3に示した振動体の設計値におけるQ値と気体の圧力Pとの関係を示す図である。
【図5】本発明の実施形態および従来技術における振動体の振幅Aと気体の圧力Pとの関係および各部電圧条件を例示する図である。
【図6】本発明の実施例1に係る真空計の回路構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の実施例2に係る真空計の回路構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の実施例2に適用される分圧回路の例を示す図である。
【図9】本発明の実施例3に係る真空計の回路構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の実施例3に適用される昇圧回路の例を示す図である。
【図11】本発明の実施例4に係る真空計の回路構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態を図1〜図11に示す実施例に基づいて説明する。同一の構成要素については、同一の符号を付け、重複する説明は省略する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施することができるものである。
[本発明の実施形態]
(イ)真空計の機構部分を成す構造体の構成:
まず、後述の各実施例に共通する技術事項として、本発明の実施形態に係る真空計の機構部分を成す構造体について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る真空計の機構部分を成す構造体を模式的に示す平面図であり、図2は、図1に示す構造体の側面図である。図1および図2において、真空計の機構部分を成す構造体は、錘1、梁2および振動体固定部3よりなる振動体4と、振動体4を加振するための加振電極5と、振動体の振動を検出するための振動検出電極6とから構成されている。そして、加振電極5は振動体4と対向して配置され、加振電極5に駆動信号を印加することによって静電力により振動体4が駆動される。また、振動検出電極6も振動体4と対向して配置され、振動体4と検出電極6との間の静電容量を検知することによって振動体4の振動が検出される。なお、図1〜2に示す構造体は、振動体4が加振電極5と対向する位置を,振動体4が振動検出電極6と対向する位置よりも振動体固定部3に近い位置としてなる構成とされており、さらには、振動体4と加振電極5との間の対向面積Soを,振動体4と振動検出電極6との間の対向面積Srより小さくしてなる構成とされている。
(ハ)振動体の形状、振動体のQ値、振動体の振幅および気体の圧力との関係:
次に、後述の各実施例に共通する技術事項として、振動体4の形状、振動体4のQ値、振動体4の振幅および気体の圧力Pとの関係について説明する。振動体4は気体分子の衝突により、抵抗力を受ける。分子流領域においては、気体分子による抵抗力は気体の圧力Pに正比例する。気体の圧力Pが低くなるに従い、振動体4が気体分子から受ける抵抗力が低下するため、振動体のQ値(共振の鋭さ)は高くなる。ただし、振動体4は固有のQ値QEを持っており、固有のQ値QE以上になることはない。すなわち、振動体4が測定することが可能な気体の圧力Pの下限は、固有のQ値QEによって制限されることを意味する。
【0038】
振動体4のQ値は、気体の圧力Pとの関係において、fRを振動体4の固有周波数、mを錘1の質量、Sを気体の抵抗力を受ける面積、Rを気体定数、Tを温度、Mを気体分子1molあたりの質量とすると、以下の式(3)のように表すことができる。
【0039】
【数3】
【0040】
図3は、本発明の実施形態に係る振動体の設計値の一例を示す図であり、図4は、図3に示した振動体の設計値におけるQ値と気体の圧力Pとの関係を示す図である。
なお、図3では、図1〜2に示す構造体の構造が斜視図として示されるとともに、振動体4の振動方向(図2の矢印で示す振動方向と同じ方向)が矢印で示されている。
【0041】
図4(a)は、図3に示される振動体4を、矢印で示す振動方向(すなわち錘1の1000μm×1000μmの幅広面に垂直な振動方向)に振動させた場合のQ値−圧力特性を示している。ここで、図1〜2に示されている加振電極5および振動検出電極6は上記振動方向での圧力測定に対応したものである。
【0042】
図4(a)にQ値−圧力特性として示されているように、振動体4を上記振動方向に振動させた場合に測定することができる気体の圧力は約0.1Paから約100Paである。また、図3に示した振動体4の振動方向における固有周波数は、例えば、振動体の材質をシリコンとした場合、約560Hzである。
【0043】
そして、例えば図4(a)に示されるようなQ値と気体の圧力Pとの関係(Q値−圧力特性)は、図3に示されるような振動体の形状に関する厚さ,梁の長さ,面積などの設計値、振動体の材質によって変わるものであり、これらの仕様によって測定することができる気体の圧力範囲を任意に設計することができる。
【0044】
図4(b)は、図4(a)における上記振動方向(図2の矢印で示す振動方向)でのQ値−圧力特性のうち、0.1Paから100Paまでの圧力範囲の部分のみを模式的に線形な特性として示している。
【0045】
図5は、本発明の実施形態および従来技術における振動体の振幅Aと気体の圧力Pとの関係(振幅−圧力特性)および各部電圧条件を例示するであって、図5(a)は、図4(b)に示される上記振動方向(図2の矢印で示す振動方向)でのQ値−圧力特性に対応する振幅−圧力特性を、図5(b)に記載した各電圧条件について示している。図5(b)に記載した各電圧条件の詳細は後述する。なお、図5(a)の縦軸「振幅(m)」における「1E−10」〜「1E−07」との各目盛数値の記載は、それぞれ「1×10−10」〜「1×10−7」を示すものである。
(ニ)振動体と加振電極または振動検出電極とが接触する電位差条件:
次に、後述の各実施例に共通する技術事項として、振動体4と加振電極5または振動検出電極6とが接触する電位差条件について説明する。上述の図3に示した振動体4の材質を例えばシリコンとした場合、この振動体4の振動方向(図2に示される錘1の幅広面に垂直な振動方向)でのばね定数kは約0.3 N/mとなる。そして、一般的に、振動体4と加振電極5または振動検出電極6とが接触する電圧EPは下記の式(4)で表すことができる。
【0046】
【数4】
【0047】
ここで、d0は振動体4と加振電極5または振動検出電極6との距離、εは誘電率、Sは電極の面積である。
図3に例示される設計値の振動体4では、振動体4と振動検出電極6とが接触する電位差EPは約3.1Vである。一方、加振電極5は、振動検出電極6と比較して面積Sが小さく、また、振動体固定部3の近くに設置されているため、EPの20倍程度の直流電圧を印加することが可能である。
(ホ)実施例1〜4:
以下で説明する実施例1〜4は、駆動信号の振動検出信号への混信を低減するとともに振動体と振動検出電極との静電引力による接触を防止した上で、従来より広い範囲の気体の圧力を十分な精度で測定できるようにする上で好適な真空計の構成例を示すものであり、いずれも特に真空計の回路構成および各部電圧条件に特徴を有するものである。
【実施例1】
【0048】
(a)本発明の実施例1は、直流の駆動信号バイアス電圧VOBを生成する駆動信号バイアス電圧源11と、直流の振動体バイアス電圧VBを生成する振動体バイアス電圧源13とを有し、振動体バイアス電圧VBは振動体4に印加されるとともに、駆動信号バイアス電圧VOBは振動体バイアス電圧VBと逆極性の直流電圧であるようにしたものである。
【0049】
(b)真空計の機構部分を成す構造体の構成:
まず、実施例1に係る真空計の機構部分を成す構造体としては、上記(ロ)項において図1〜2を用いて説明した構成を適用することができる。
【0050】
(c)真空計の回路構成:
次に、実施例1に係る真空計の回路構成について説明する。図6は本発明の実施例1に係る真空計の回路構成を示すブロック図であり、図1〜2と同一の符号は図1〜2と同一名称の部分を示す。図6に示されるように、実施例1に係る真空計の回路は、振動体4と振動検出電極6との間の静電容量の変化を電圧の変化に変換する容量電圧変換回路21、容量電圧変換回路21からの振動検出信号VCAを気体の圧力Pに対応した電圧信号である圧力測定信号VPに変換する圧力変換回路31、上記振動検出信号VCAの位相をシフトする位相シフト回路9、増幅のゲインの調整により位相シフト回路9の出力信号VCAPの電圧を制御する電圧制御回路10、振動体4を初期加振するための初期励振信号VAIを生成する初期加振用信号源15、加振電極5に印加する交流信号VAを選択するスイッチ回路16、直流の振動体バイアス電圧VBを生成する振動体バイアス電圧源13、直流の駆動信号バイアス電圧VOBを生成する駆動信号バイアス電圧源11、スイッチ回路16により選択された交流信号VAに駆動信号バイアス電圧VOBを加算する信号合成回路12から構成される。
【0051】
そして、実施例1において、駆動信号バイアス電圧源11は、振動体バイアス電圧VBとは逆符号の直流電圧を駆動信号バイアス電圧VOBとして生成する構成となっている。
また、容量電圧変換回路21は、真空計の振動検出部における振動検出回路として振動検出電極6に接続され、振動体4が振動することによる振動体4と振動検出電極6との間の静電容量の変化を電圧の変化に変換し、振動検出信号VCAとして出力するものであり、図6にはチャージアンプとしての回路構成例が示されている。図6において、容量電圧変換回路21は、差動増幅器22、抵抗23、キャパシタ24から構成されている。そして、容量電圧変換回路21において、抵抗23とキャパシタ24との並列回路が差動増幅器22の反転入力端子と出力端子との間に接続されるとともに、差動増幅器22の非反転入力端子は接地電位とされ、容量電圧変換回路21における検出バイアス電圧VRは0Vとなっており、これにより、振動検出電極6の電圧VDも検出バイアス電圧VRと同じ0Vとなっている。なお、本発明における容量電圧変換回路は、図6の構成に限定されるものではない。
【0052】
(d)振動体の加振動作:
次に、実施例1における駆動信号生成部からの駆動信号による振動体4の加振動作について説明する。図6において、振動体4が初期加振される場合、スイッチ回路16はAとBとが接続され、加振電極5に印加する交流信号VAとして初期加振信号VAIが選択された状態となっている。この初期加振状態では、初期加振用電圧源15より振動体4の固有周波数fRに対応した周波数の正弦波電圧信号、もしくは、上記固有周波数fRに対応した繰り返し周波数のパルス電圧信号からなる初期加振信号VAIが出力され、信号合成回路12により初期加振信号VAIに駆動信号バイアス電圧VOBが加算されてなる駆動信号VO(=VAI+VOB)が加振電極5に印加されることにより振動体4が加振される。初期加振用信号源15は初期加振にのみ使用され、振動体4が振動し始めた後は、スイッチ回路16が切り替えられ、AとCとが接続される。
【0053】
そして、スイッチ回路16でAとCとが接続され、加振電極5に印加する交流信号VAとして電圧制御回路10からの交流信号VAPが選択された状態において、振動検出部における容量電圧変換回路21からの振動検出信号VCAに基づき、この振動検出信号VCAの位相を位相シフト回路9でシフトし、位相シフト回路9の出力信号VCAPの電圧を電圧制御回路10における増幅のゲインの調整により制御することによって交流信号VAPを生成し、信号合成回路12により交流信号VAPに直流の駆動信号バイアス電圧VOBが加算されてなる駆動信号VO(=VAP+VOB)を加振電極5に印加することで振動体4の共振状態を保持する。
【0054】
なお、スイッチ回路16は、上述のように、振動体4の振幅に応じて接続を切り替えるように動作するものであり、例えば、振動体4の振幅A、すなわち、振動体4の変位に応じて出力される容量電圧変換回路21からの振動検出信号VCAの大きさが予め設定した値に到達したことを図示されないスイッチ回路用制御部で検出し、その検出タイミングで前記スイッチ回路用制御部からスイッチ回路16にB側からC側への切替信号を与えることにより、振動体4の振幅に応じた接続切り替え動作を行うことができる。
【0055】
(e)圧力測定動作:
次に、実施例1における圧力測定動作は、例えば加振電極5に印加される駆動信号V0(=VAP+VOB)における交流信号(駆動信号交流成分)VAPの大きさが一定となるように,容量電圧変換回路21からの振動検出信号VCAの位相を位相シフト回路9でシフトした信号VCAPに対する電圧制御回路10における増幅のゲインを調整する制御を行なっている状態で、振動体4のQ値に対応して変化する振動体4の振幅A、すなわち容量電圧変換回路21からの振動検出信号VCAの大きさを、圧力変換回路31で圧力P値に対応する圧力測定信号VPに変換することにより圧力Pを測定する方式(以下「駆動電圧一定方式」とも称する)とすることができる。
【0056】
なお、上述の駆動電圧一定方式における振動体の振幅A(振動検出信号VCAの大きさ)から圧力P値(圧力測定信号VP)への変換方法としては、振動体の振幅A(振動検出信号VCAの大きさ)をQ値に変換し,さらに,このQ値を圧力P値(圧力測定信号VP)に変換するようにしてもよく、また、振動体の振幅A(振動検出信号VCAの大きさ)を,Q値を介さないで,直接的に圧力P値(圧力測定信号VP)に変換するようにしてもよい。
【0057】
ここで、上記(ハ)項で述べたように、例えば振動体4が図3に示される設計値であって材質がシリコンの振動体である場合、図2に示される振動方向(錘1の幅広面に垂直な振動方向)においては、Q値と圧力P値との関係(Q値−圧力特性)は、図4(a)に示されるような、(約0.1Pa程度以上の)高圧領域では振幅が圧力にほぼ反比例するとともに低圧側では振幅がその最大限界値に向かって飽和していく特性となる。そして、このようなQ値−圧力特性に対応して、上述の駆動電圧一定方式における振動体の振幅A(振動検出信号VCAの大きさ)と圧力P値との関係(振幅A−圧力特性)も、(約0.1Pa程度以上の)高圧領域では振幅Aが圧力にほぼ反比例するとともに低圧側では圧力レベルが低下するのに応じて振幅Aがその最大限界値に向かって飽和していくような飽和領域になる特性となる。
【0058】
このため、上述の駆動電圧一定方式の場合、特に圧力測定範囲に上記のような低圧側の飽和領域が含まれる場合、圧力変換回路31は、例えば、振動体の振幅A(振動検出信号VCAの大きさ)と圧力P値との関係(振幅A−圧力特性)の特性データを取得しておき、この特性データのデータテーブルを格納した記憶部を備えた変換手段により、実測定時における振動体の振幅A(振動検出信号VCAの大きさ)から圧力P値への変換を行う構成とするとよく、また、上記特性データの曲線から近似的に求められた関係式を格納した記憶部を備えた変換手段により、実測定時における振動体の振幅A(振動検出信号VCAの大きさ)から圧力P値への変換を行う構成としてもよい。
【0059】
(f)各部電圧条件と振動体の振幅との関係:
次に、実施例1における振動体バイアス電圧VB、駆動信号バイアス電圧VOBおよび交流信号VAの各部電圧条件(電圧条件3)と振動体4の振幅Aとの関係について図5により従来技術(電圧条件1〜2)と対比して説明する。
【0060】
図5(b)において、電圧条件3(実施例1)および電圧条件1(従来技術)は、駆動信号バイアス電圧VOBをそれぞれ+18V(実施例1)および0V(従来技術)に設定するとともに交流信号VAの電圧はいずれも0.1Vに設定した場合である。交流信号VAの電圧が電圧条件3(実施例1)と電圧条件1(従来技術)とで等しいことにより、電圧条件3(実施例1)と電圧条件1(従来技術)とで交流信号VAの振動検出信号VCAへの混信量は同じとなる。一方、振動体4の電位と駆動電極5の電位との直流電位差ΔVoが、電圧条件3ではΔVo=20V、電圧条件1ではΔVo=2Vであることにより、電圧条件3(実施例1)では電圧条件1(従来技術)と比較して10倍の振幅Aを得ることができる。これにより、電圧条件3(実施例1)では振動検出信号VCAの大きさが電圧条件1(従来技術)の10倍となる。したがって、交流信号VAの振動検出信号VCAへの混信が真空計におけるノイズの主要因であるとすると、電圧条件3(実施例1)では、電圧条件1(従来技術)と比較してS/N比が10倍となり、大幅にノイズを低減することができる。
【0061】
電圧条件2(従来技術)は、駆動信号バイアス電圧VOBを電圧条件1(従来技術)と同様に0Vとし、交流信号VAの電圧を電圧条件1(従来技術)の10倍の1Vとした場合である。振動体4の電位と駆動電極5の電位との直流電位差ΔVoと交流信号VAの電圧との積が電圧条件3(実施例1)と電圧条件2(従来技術)とで等しいことにより、電圧条件3(実施例1)と電圧条件2(従来技術)とで振動体4の振幅Aは等しくなる。一方、電圧条件2(従来技術)では電圧条件3(実施例1)と比較して交流信号VAの電圧が10倍であることにより、交流信号VAの振動検出信号VCAへの混信量も10倍となる。したがって、交流信号VAの振動検出信号VCAへの混信が真空計におけるノイズの主要因であるとすると、電圧条件3(実施例1)では、電圧条件2(従来技術)と比較してS/N比が10倍となり、大幅にノイズを低減することができる。
【0062】
また、振動体バイアス電圧VBが電圧条件3(実施例1)と電圧条件1〜2(従来技術)とでいずれもVB=−2Vであることから、振動体4の電位と振動検出電極6の電位との直流電位差ΔVrは電圧条件3(実施例1)と電圧条件1〜2(従来技術)とでいずれもΔVr=2Vとなる。なお、上記の点において、本発明は、駆動信号バイアス電圧VOBを高い電圧レベルとすることにより振動体4の電位と加振電極5の電位との直流電位差ΔVo(=VB−VOB)を大きくすることができるので、振動体バイアス電圧VBの方は従来と同様の低い電圧レベルに抑制することができ、これにより、振動体4の電位と振動検出電極6の電位との直流電位差ΔVrも従来と同様の大きさに抑えることができるものとなっている。
【0063】
(g)以上のように、実施例1では、交流信号VAに駆動信号バイアス電圧VOBを加算してなる駆動信号VOを加振電極5に印加するので、例えば図5の電圧条件1(従来技術)と同様に交流信号VAを低い電圧レベル(例えば0.1V)に抑制するとともに振動体バイアス電圧VBも低い電圧レベル(例えば−2V)に抑制した上で、駆動信号バイアス電圧VOBを高い電圧レベル(例えば+18V)とすることにより、振動体4の電位と加振電極5の電位との直流電位差ΔVoを大きくして静電駆動力Foを大きくすることができる。したがって、実施例1では、駆動信号交流成分VAを低い電圧レベルに抑制できることにより浮遊容量などを通じた駆動信号の振動検出信号への混信量を低レベルに抑制できるとともに、振動体バイアス電圧VBも低い電圧レベルに抑制できることにより振動体4と振動検出電極6とが静電引力によって接触することを防ぐこともできる。
【0064】
また、実施例1では、特に駆動信号バイアス電圧VOBを振動体バイアス電圧VBと逆極性としていることにより、例えば図5の電圧条件4〜5(後述の実施例2〜3)のような駆動信号バイアス電圧VOBを振動体バイアス電圧VBと同極性としている場合に比べて、駆動信号バイアス電圧VOBの絶対値がより小さくても、振動体4の電位と加振電極5の電位との直流電位差ΔVoを同じ大きさとし、静電駆動力Foも同じ大きさとすることができる。したがって、実施例1では、駆動信号バイアス電圧源11の出力電圧仕様をより低電圧レベルとすることができる。
【0065】
また、実施例1では、特に駆動信号バイアス電圧VOBを振動体バイアス電圧VBと逆極性としていることにより、駆動信号バイアス電圧VOBの絶対値の大きさを図5の電圧条件4〜5(後述の実施例2〜3)と同じとした場合には、振動体4の電位と加振電極5の電位との直流電位差ΔVoをより大きくすることができる。したがって、実施例1では、静電駆動力Foの大きさが同じであっても、駆動信号交流成分VAの電圧はより低く抑えることができるので、浮遊容量などを通じた駆動信号の振動検出信号への混信量をより低減することができる。
【0066】
(h)なお、実施例1における真空計の回路構成として、上述の図6では、容量電圧変換回路21における検出バイアス電圧VRが0Vとなっている構成を示したが、本発明はこのような構成に限定されるものではなく、後述の図11におけるような検出バイアス電圧源25を備え、検出バイアス電圧源25からの検出バイアス電圧VRが差動増幅器22の非反転入力端子に印加され、振動検出電極6の電圧VDも検出バイアス電圧VRと同じ電圧レベルとなる構成であってもよく、振動体4の電位と振動検出電極6の電位との直流電位差ΔVr(=VB−VR)が、振動体4と振動検出電極6とが静電引力によって接触しないような振動体・検出電極電位差条件値|ΔVr|max(=EP)より小さくなるように設定されていればよい。この点は後述の実施例2〜3も同様である。
【実施例2】
【0067】
(a)本発明の実施例2は、上述の実施例1とは異なり、直流の駆動信号バイアス電圧VOBを生成する駆動信号バイアス電圧源11と、駆動信号バイアス電圧VOBを分圧する分圧回路17とを有し、分圧回路17の出力電圧は直流の振動体バイアス電圧VB(=(1/a)*VOB)として振動体4に印加されてなるようにしたものである。
【0068】
(b)真空計の機構部分を成す構造体の構成:
まず、実施例2に係る真空計の機構部分を成す構造体としては、実施例1と同様に、上記(ロ)項において図1〜2を用いて説明した構成を適用することができる。
【0069】
(c)真空計の回路構成:
次に、本発明の実施例2に係る真空計の回路構成について説明する。図7は、本発明の実施例2に係る真空計の回路構成を示すブロック図であり、図6と同一の符号は図6と同一名称の部分を示す。17は分圧回路であり、駆動信号バイアス電圧源11からの駆動信号バイアス電圧VOBを分圧した後、その出力電圧を振動体バイアス電圧VB(=(1/a)*VOB)として振動体4に印加する。
【0070】
なお、実施例2における分圧回路17としては、例えば抵抗の直列接続回路よりなる分圧回路などを適用できるが、このような構成に限定されるものではなく、駆動信号バイアス電圧源11からの駆動信号バイアス電圧VOBの電圧レベルを分圧できる構成であればよい。なお、2個の抵抗R1およびR2の直列接続回路よりなる分圧回路の例を図8に示す。図8の回路において、入力電圧Vinに対して分圧された出力電圧Vout=(R2/(R1+R2))×Vinが得られる。
【0071】
(d)振動体の加振動作:
実施例2における振動体の加振動作は、実施例1と同様にして行う。
(e)圧力測定動作:
実施例2における圧力測定動作は、実施例1と同様にして行う。
【0072】
(f)各部電圧条件と振動体の振幅との関係:
次に、実施例2における振動体バイアス電圧VB、駆動信号バイアス電圧VOBおよび交流信号VAの各部電圧条件(電圧条件4)と振動体4の振幅Aとの関係について図5により説明する。
【0073】
実施例2の電圧条件4は、交流信号VAの電圧は電圧条件1(従来技術)と同様に0.1Vに設定するとともに、駆動信号バイアス電圧VOBは−22Vに設定し、さらに、分圧回路17の分圧比を1/11とすることにより分圧回路17から出力される振動体バイアス電圧VBは−2Vに設定した場合である。交流信号VAの電圧が電圧条件4(実施例2)と電圧条件1(従来技術)とで等しいことにより、電圧条件4(実施例2)と電圧条件1(従来技術)とで交流信号VAの振動検出信号VCAへの混信量は同じとなる。一方、振動体4の電位と駆動電極5の電位との直流電位差ΔVoが、電圧条件4ではΔVo=20V、電圧条件1ではΔVo=2Vであることにより、電圧条件4(実施例2)では電圧条件3(実施例1)と同様に電圧条件1(従来技術)と比較して10倍の振幅Aを得ることができる。これにより、電圧条件4(実施例2)では振動検出信号VCAの大きさが電圧条件1(従来技術)の10倍となる。したがって、交流信号VAの振動検出信号VCAへの混信が真空計におけるノイズの主要因であるとすると、電圧条件4(実施例2)では、電圧条件1(従来技術)と比較してS/N比が10倍となり、大幅にノイズを低減することができる。
【0074】
(g)実施例1では、振動体バイアス電圧源13と駆動信号バイアス電圧源11との2つの電圧源が必要であるが、実施例2では、駆動信号バイアス電圧VOB生成用の駆動信号バイアス電圧源11の出力電圧を分圧回路17で分圧することにより振動体バイアス電圧VBも生成するため、1つの電圧源で回路を構成することができる。
【実施例3】
【0075】
(a)本発明の実施例3は、上述の実施例1とは異なり、直流の振動体バイアス電圧VBを生成する振動体バイアス電圧生成部13と、振動体バイアス電圧VBを昇圧する昇圧回路18とを有し、振動体バイアス電圧VBは振動体4に印加されるとともに、昇圧回路18の出力電圧は直流の駆動信号バイアス電圧VOB(=b*VB)とされてなるようにしたものである。
【0076】
(b)真空計の機構部分を成す構造体の構成:
まず、本発明の実施例3に係る真空計の機構部分を成す構造体としては、実施例1と同様に、上記(ロ)項において図1〜2を用いて説明した構成を適用することができる。
【0077】
(c)真空計の回路構成:
次に、本発明の実施例3に係る真空計の回路構成について説明する。図9は、本発明の実施例3における回路ブロック図であり、図6と同一の符号は図6と同一名称の部分を示す。18は昇圧回路であり、振動体バイアス電圧源13からの振動体バイアス電圧VBを昇圧した後、その出力電圧を振動体バイアス電圧VOB(=b*VB)として信号合成部12に供給する。
【0078】
なお、実施例3における昇圧回路18としては、例えば、オペアンプを使用した非反転増幅回路等の増幅回路、昇圧チョッパ回路などを適用できるが、このような構成に限定されるものではなく、振動体バイアス電圧源13からの振動体バイアス電圧VBの電圧レベルを昇圧できる構成であればよい。なお、トランジスタTr、ダイオードD、コイルL、コンデンサCおよび抵抗Rよりなる昇圧チョッパ回路の例を図10に示す。図10の回路において、トランジスタTrのオン時間およびオフ時間をそれぞれTONおよびTOFFとすると、入力電圧Vinが昇圧された出力電圧Vout=((TON+TOFF)/TOFF)×Vinが得られる。
【0079】
(d)振動体の加振動作:
実施例3における振動体の加振動作は、実施例1と同様にして行う。
(e)圧力測定動作:
実施例3における圧力測定動作は、実施例1と同様にして行う。
【0080】
(f)各部電圧条件と振動体の振幅との関係:
次に、実施例3における振動体バイアス電圧VB、駆動信号バイアス電圧VOBおよび交流信号VAの電圧条件(電圧条件5)と振動体4の振幅Aとの関係について図5により説明する。
【0081】
実施例3の電圧条件5は、交流信号VAの電圧は電圧条件1(従来技術)と同様に0.1Vに設定するとともに、振動体バイアス電圧VBを−2Vに設定し、さらに、昇圧回路18の昇圧比を11倍とすることにより昇圧回路18から出力される駆動信号バイアス電圧VOBは−22Vに設定した場合である。交流信号VAの電圧が電圧条件5(実施例3)と電圧条件1(従来技術)とで等しいことにより、電圧条件5(実施例3)と電圧条件1(従来技術)とで交流信号VAの振動検出信号VCAへの混信量は同じとなる。一方、振動体4の電位と駆動電極5の電位との直流電位差ΔVoが、電圧条件5ではΔVo=20V、電圧条件1ではΔVo=2Vであることにより、電圧条件5(実施例3)では電圧条件3(実施例1)と同様に電圧条件1(従来技術)と比較して10倍の振幅Aを得ることができる。これにより、電圧条件5(実施例3)では振動検出信号VCAの大きさが電圧条件1(従来技術)の10倍となる。したがって、交流信号VAの振動検出信号VCAへの混信が真空計におけるノイズの主要因であるとすると、電圧条件5(実施例3)では、電圧条件1(従来技術)と比較してS/N比が10倍となり、大幅にノイズを低減することができる。
【0082】
(g)実施例1では、振動体バイアス電圧源13と駆動信号バイアス電圧源11との2つの電圧源が必要であるが、実施例3では振動体バイアス電圧VB生成用の振動体バイアス電圧源13の出力を昇圧回路で昇圧することで駆動信号バイアス電圧VOBも生成するため、1つの電圧源で回路を構成することが可能となる。
【実施例4】
【0083】
(a)本発明の実施例4は、上述の実施例1とは異なり、直流の検出バイアス電圧VRを生成する検出バイアス電圧源25と、直流の駆動信号バイアス電圧VOBを生成する駆動信号バイアス電圧源11とを有し、検出バイアス電圧VRは振動検出部における振動検出電極6に接続される容量電圧変換回路21Aに印加されて、振動検出電極6の電位VDが検出バイアス電圧VRの電圧レベルになるとともに、振動体4の電位VBは接地レベルとされ、駆動信号バイアス電圧VOBの絶対値を、検出バイアス電圧VRの絶対値よりも大きくしてなるようにしたものである。
【0084】
(b)真空計の機構部分を成す構造体の構成:
まず、本発明の実施例4に係る真空計の機構部分を成す構造体としては、実施例1と同様に、上記(ロ)項において図1〜2を用いて説明した構成を適用することができる。
【0085】
(c)真空計の回路構成:
次に、本発明の実施例3に係る真空計の回路構成について説明する。図11は、本発明の実施例4における回路ブロック図であり、図6と同一の符号は図6と同一名称の部分を示す。
【0086】
実施例4に係る真空計の回路構成は、振動体バイアス電圧源13の代わりに検出バイアス電圧源25を備えるとともに、容量圧力変換回路21の代わりに容量圧力変換回路21Aを備えている点で、実施例1とは異なっている。
【0087】
検出バイアス電圧源25は、直流の検出バイアス電圧VRを生成するものである。
また、容量電圧変換回路21Aは、真空計の振動検出部における振動検出回路として、振動体4と振動検出電極6との間の静電容量の変化を電圧の変化に変換し、振動検出信号VCAとして出力するものであって、その回路構成は実施例1の容量電圧変換回路21と同様であるが、差動増幅器22の非反転入力端子に検出バイアス電圧VRが印加される点が異なっており、これにより、振動検出電極6の電圧VDも検出バイアス電圧VRと同じ電圧レベルとなっている。
【0088】
また、実施例4では、実施例1とは異なり、振動体4の電位VBは接地レベルとされている。このため、実施例4では、振動体4の電位と振動検出電極6の電位との直流電位差ΔVrはΔVr=−VRとなっている。そして、この直流電位差ΔVrの絶対値(|VR|)が、振動体4と振動検出電極6とが静電引力によって接触しないような振動体・検出電極電位差条件値|ΔVr|max(=EP)より小さくなるように設定されていればよい。
【0089】
また、実施例4では、後述の(ヘ)項に記載している振動体・加振電極電位差条件値と振動体・検出電極電位差条件値との関係に対応して、駆動信号バイアス電圧VOBの絶対値を検出バイアス電圧VRの絶対値よりも大きく設定し、これにより、振動体4の電位と加振電極5の電位との直流電位差ΔVoが振動体4の電位と振動検出電極6の電位との直流電位差ΔVrよりも大きくなるようにしている。
【0090】
実施例4に係る真空計の回路構成は、上述の点以外は実施例1と同様である。
(d)振動体の加振動作:
実施例4における振動体の加振動作は、実施例1と同様にして行う。
【0091】
(e)圧力測定動作:
実施例4における圧力測定動作は、実施例1と同様にして行う。
(f)各部電圧条件と振動体の振幅との関係:
次に、実施例4における駆動信号バイアス電圧VOB、検出バイアス電圧VRおよび交流信号VAの各部電圧条件(電圧条件6)と振動体4の振幅Aとの関係について説明する。
【0092】
実施例4の電圧条件6は、交流信号VAの電圧は電圧条件1(従来技術)と同様に0.1Vに設定するとともに、駆動信号バイアス電圧VOBは−20Vに設定し、振動体バイアス電圧VBは0Vに設定し、さらに検出バイアス電圧VRは2Vに設定した場合である。交流信号VAの電圧が電圧条件6(実施例4)と電圧条件1(従来技術)とで等しいことにより、電圧条件6(実施例4)と電圧条件1(従来技術)とで交流信号VAの振動検出信号VCAへの混信量は同じとなる。一方、振動体4の電位と駆動電極5の電位との直流電位差ΔVoが、電圧条件6ではΔVo=20V、電圧条件1ではΔVo=2Vであることにより、電圧条件6(実施例4)では電圧条件3(実施例1)と同様に電圧条件1(従来技術)と比較して10倍の振幅Aを得ることができる。これにより、電圧条件6(実施例4)では振動検出信号VCAの大きさが電圧条件1(従来技術)の10倍となる。したがって、交流信号VAの振動検出信号VCAへの混信が真空計におけるノイズの主要因であるとすると、電圧条件6(実施例4)では、電圧条件1(従来技術)と比較してS/N比が10倍となり、大幅にノイズを低減することができる。
(ヘ)振動体・加振電極間の直流電位差と振動体・検出電極間の直流電位差との関係:
本発明における真空計の機構部分を成す構造体は、図1〜2に示されるような、振動体4が加振電極5と対向する位置を,振動体4が振動検出電極6と対向する位置よりも振動体固定部3に近い位置とした構成とされており、さらには、振動体4と加振電極5との対向面積Soを,振動体4と振動検出電極6との対向面積Srより小さくした構成とされている。本発明は、このような構造体に適合した構成として、振動体4の電位(直流電位VB)と加振電極5の電位(直流電位VOB)との直流電位差ΔVo(=VB−VOB)を,振動体4の電位(直流電位VB)と振動検出電極6の電位(直流電位VR)との直流電位差ΔVr(=VB−VR)よりも大きくした構成としている。
【0093】
すなわち、図1〜2に示される上記のような構造体では、上記(ニ)項で述べたように、振動体4の電位と振動検出電極6の電位との直流電位差ΔVrは、振動体4と振動検出電極6とが静電引力によって接触しないような振動体・検出電極電位差条件値|ΔVr|max(=EP)(図3に例示される設計値の振動体4では約3.1V)より小さくすることが必要である。一方、振動体4と加振電極5とが静電引力によって接触しないような振動体・加振電極電位差条件値|ΔVo|maxは上記の振動体・検出電極電位差条件値|ΔVr|maxよりも大きい(図3に例示される設計値の振動体4では上記EPの20倍程度)。
【0094】
このため、上記のような電位差条件値同士の関係に対応して、振動体4の電位と加振電極5の電位との直流電位差ΔVoを、振動体・加振電極電位差条件値|ΔVo|maxを満たす範囲で、振動体4の電位と振動検出電極6の電位との直流電位差ΔVrよりも大きな値とすることにより、静電駆動力FOをより大きくすることができるとともに、必要な静電駆動力FOの大きさが同じである場合には駆動信号交流成分VAの電圧をより低く抑えることができ、これにより浮遊容量など通じた駆動信号の振動検出信号VCAへの混信量をより低減することができる。
(ト)本発明の実施形態における他の構成例:
上述の実施例1ないし実施例4では、圧力測定動作として、加振電極5に印加される駆動信号V0(=VAP+VOB)における交流信号(駆動信号交流成分)VAPの大きさが一定となるように,容量電圧変換回路21,21Aからの振動検出信号VCAの位相を位相シフト回路9でシフトした信号VCAPに対する電圧制御回路10における増幅のゲインを調整する制御を行なっている状態で、振動体4のQ値に対応して変化する振動体4の振幅A(振動検出信号VCAの大きさ)を圧力変換回路31で圧力P値に対応する圧力測定信号VPに変換する方式(駆動電圧一定方式)を例示している。
【0095】
しかしながら、本発明における圧力測定動作は上述の駆動電圧一定方式に限定されるものではなく、振動体4の振幅A、すなわち、容量電圧変換回路21,21Aからの振動検出信号VCAの大きさが一定となるように,振動検出信号VCAの位相を位相シフト回路9でシフトした信号VCAPに対する電圧制御回路10における増幅のゲインを調整する制御を行なっている状態で、加振電極5に印加される駆動信号V0(=VAP+VOB)における交流信号(駆動信号交流成分)VAPの大きさに基づいて圧力Pを測定する方式(以下「振幅一定方式」とも称する)を適用することも可能である。
【0096】
なお、上述の振幅一定方式における駆動信号交流成分VAPの大きさから圧力P値(圧力測定信号VP)への変換方法としては、駆動信号交流成分VAPの大きさをQ値に変換し,さらに,このQ値を圧力P値(圧力測定信号VP)に変換するようにしてもよく、また、駆動信号交流成分VAPの大きさを,Q値を介さないで,直接的に圧力P値(圧力測定信号VP)に変換するようにしてもよい。
【0097】
ここで、上記(ハ)項で述べたように、例えば振動体4が図3に示される設計値であって材質がシリコンの振動体である場合、図2に示される振動方向(錘1の幅広面に垂直な振動方向)においては、Q値と圧力P値との関係(Q値−圧力特性)は、図4(a)に示されるような、(約0.1Pa程度以上の)高圧領域では振幅が圧力にほぼ反比例するとともに低圧側では振幅がその最大限界値に向かって飽和していく特性となる。そして、このようなQ値−圧力特性に対応して、上述の振幅一定方式における駆動信号交流成分VAPの大きさと圧力P値との関係(駆動電圧−圧力特性)は、(約0.1Pa程度以上の)高圧領域では駆動信号交流成分VAPの大きさが圧力にほぼ比例するとともに低圧側では圧力レベルが低下するのに応じて駆動信号交流成分VAPの大きさがその最小限界値に向かって飽和していくような飽和領域になる特性となる。
【0098】
このため、上述の振幅一定方式において、特に圧力測定範囲に上記のような低圧側の飽和領域が含まれる場合、圧力変換回路は、例えば駆動信号交流成分VAPの大きさと圧力P値との関係(駆動電圧−圧力特性)の特性データを取得しておき、この特性データのデータテーブルを格納した記憶部を備えた変換手段により、実測定時における駆動信号交流成分VAPの大きさから圧力P値への変換を行う構成とするとよく、また、上記特性データの曲線から近似的に求められた関係式を格納した記憶部を備えた変換手段により、実測定時における駆動信号交流成分VAPの大きさから圧力P値への変換を行う構成としてもよい。
【0099】
また、上述の振幅一定方式では、真空計は、圧力測定範囲の全体にわたって振動子4の振幅A、すなわち、振動検出信号VCAの大きさが一定に制御されるとともに、圧力の上昇に応じて加振電極4に印加される駆動電圧が大きくなるように動作する。このため、圧力測定範囲のうち高圧側では、駆動電圧の大きさが振動検出信号VCAの大きさ(振幅A)に比べて相対的により大きくなるので、浮遊容量などを通じた駆動信号の振動検出信号への混信の影響がより大きくなり、真空計におけるS/N比がより低下し、ノイズがより増大する傾向にある。
【0100】
ここで、本発明は、上述のように交流信号VAに駆動信号バイアス電圧VOBを加算してなる駆動信号VO(=VA+VOB)を加振電極5に印加するようにしているので、上述の振幅一定方式の場合、真空計は、振動検出信号VCAの大きさが一定に制御されるとともに、圧力の上昇に応じて加振電極4に印加される駆動信号VOにおける交流信号(駆動信号交流成分)VAの電圧が大きくなるように動作する。
【0101】
そして、本発明では、駆動信号バイアス電圧VOBを高い電圧レベルとすることにより、振動体4の電位と加振電極5の電位との直流電位差ΔVo(=VB−VOB)を大きくして静電駆動力Fo(=|VA*ΔVo|)を大きくすることができる。このため、本発明では、必要な静電駆動力Foが同じである場合には、振動体4の電位と加振電極5の電位との直流電位差ΔVoを大きくした分だけ駆動信号交流成分VAの電圧の方はより低い電圧レベルに抑制することができるので、圧力測定範囲の高圧側での駆動信号交流信号VAの電圧もより低い電圧レベルに抑制することができる。したがって、本発明では、振幅一定方式において、圧力測定範囲の高圧側でも、駆動電圧の大きさ、すなわち、駆動信号交流成分VAの電圧の大きさの、振動検出信号VCAの大きさ(振幅A)に対する相対的な大きさを従来より小さくすることができるので、浮遊容量などを通じた駆動信号の振動検出信号への混信の影響をより小さくして、真空計におけるS/N比をより高くし、ノイズをより低減することができる。
【0102】
また、本発明では、駆動信号バイアス電圧VOBを高い電圧レベルとすることにより振動体4の電位と加振電極5の電位との直流電位差ΔVo(=VB−VOB)を大きくすることができるので、振動体バイアス電圧VBの方は低い電圧レベルに抑制でき、これにより、振動体4と振動検出電極6とが静電引力によって接触することを防ぐことができる。
【0103】
これにより、本発明による真空計は、上述の振幅一定方式においても、駆動信号の振動検出信号への混信を低減するとともに振動体4と検出電極6との静電引力による接触を防止した上で、高い圧力まで雰囲気の圧力Pを十分な精度で測定することができるものとなっている。
【符号の説明】
【0104】
1・・・錘
2・・・梁
3・・・振動体固定部
4・・・振動体
5・・・加振電極
6・・・振動検出電極
7,7A・・・容量圧力変換回路
9・・・位相シフト回路
10・・・電圧制御回路
11・・・駆動信号バイアス電圧源
12・・・信号合成部
13・・・振動体バイアス電圧源
15・・・初期加振用信号源
16・・・スイッチ回路
17・・・分圧回路
18・・・昇圧回路
21,21A・・・容量電圧変換回路
22・・・差動増幅器
23・・・抵抗
24・・・キャパシタ
25・・・検出バイアス電圧源
31・・・圧力変換回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動体を利用した真空計に関し、特に、広い範囲の気体の圧力を測定することができるようにした真空計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、音叉型振動体を利用して雰囲気の圧力を測定する真空センサが知られている(特許文献1参照)。音叉型振動体を利用して雰囲気の圧力を測定する原理は、振動体を振動させ、その振動特性から雰囲気の圧力(すなわち真空度)を特定するものである。振動体の加振には振動体と加振電極との間の静電力を利用し、振動体と検出電極との電極間距離の変化に対応する静電容量の変化を検出することで振動体の振動を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−137533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
振動体と対向する加振電極に、振動体の固有角周波数ωR(=2πfR、ここでfRは固有周波数)に対応した電圧信号を印加すると、振動体は共振状態となる。このときの振動体の振幅Aは、以下の式(1)のように表すことができる。
【0005】
【数1】
【0006】
ここで、F0は振動体に印加した静電駆動力、Qは振動体のQ値(振動体の振動特性の一つ)であって、共振のピークの鋭さを表す無次元数であり、mは振動体の質量である。
振動体のQ値は気体の圧力Pに反比例することが知られており、例えば、静電駆動力F0を一定に保持した条件で振動体の振幅Aを検出することにより振動体のQ値を求め、こQ値を気体の圧力P値に換算することによって間接的に気体の圧力Pを測定することが可能である。
【0007】
次に、静電駆動力F0は、下記の式(2)で示されるように、加振電極に駆動信号として印加した交流信号の電圧VAと、振動体の電位と加振電極の電位との間の直流の電位差ΔVOとの積の絶対値に比例する。
【0008】
【数2】
【0009】
静電駆動力F0がより大きいほど、同じ圧力(すなわち、同じQ値)において振幅Aがより大きくなるため、振動体の振幅の測定感度をより高くすること、すなわち、より高い圧力(より低いQ値)まで圧力を測定することが可能となる。静電駆動力F0を大きくするためには、(2)式より交流信号の電圧VAを高くするか、もしくは、振動体の電位と加振電極の電位との直流の電位差ΔVOを大きくすることである。
【0010】
しかし、駆動信号である交流信号の電圧VAを高くすると、交流信号が浮遊容量などを通じて振動検出回路の出力信号(振動検出信号)に混信するという問題がある。
また、振動体の電位と加振電極の電位との直流の電位差ΔVOを大きくするには、振動体に印加する直流のバイアス電圧VBを高くすればよいが、振動体に印加する直流のバイアス電圧VBを高くすると、振動体と、振動体の振動を検出する検出電極とが静電引力によって接触するという問題がある。
【0011】
本発明は、上記した課題を解決して、駆動信号の振動検出信号への混信を低減するとともに振動体と検出電極との静電引力による接触を防止した上で、従来より広い範囲の気体の圧力を十分な精度で測定することができるようにした真空計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の真空計は、振動体と、該振動体と対向して静電力により振動体を駆動する加振電極と、該振動体と対向する検出電極と、振動体と検出電極との間の静電容量を検知することにより振動体の振動を検出する振動検出部と、振動体を加振する駆動信号を生成する駆動信号生成部とを有し、前記駆動信号を加振電極に印加し振動体を共振状態に保持して、振動体の振動特性から雰囲気の圧力を測定する圧力測定部を備えた真空計において、振動体が加振電極と対向する位置を,振動体が検出電極と対向する位置よりも振動体の固定部に近い位置としてなり、駆動信号生成部は、前記駆動信号として、交流信号に直流の駆動信号バイアス電圧が加算された信号を生成するとともに、振動体の電位と加振電極の電位との直流電位差を,振動体の電位と検出電極の電位との直流電位差よりも大きくしてなる構成とする(請求項1の発明)。
【0013】
上記請求項1の発明によれば、交流信号(以下「駆動信号交流成分」とも称する)(VA)に直流の駆動信号バイアス電圧(VOB)が加算されてなる駆動信号(VO=VA+VOB)を加振電極に印加するので、駆動信号バイアス電圧(VOB)を高い電圧レベルとすることにより、振動体の電位と加振電極の電位との直流電位差(ΔVo=VB−VOB)を大きくして静電駆動力(Fo=|VA*ΔVo|)を大きくすることができる。
【0014】
このため、本発明では、必要な静電駆動力(Fo)の大きさが同じである場合、振動体の電位と加振電極の電位との直流電位差(ΔVo)を大きくした分だけ駆動信号交流成分(VA)の電圧の方はより低い電圧レベルに抑制することができることにより、浮遊容量などを通じた駆動信号の振動検出部の検出信号(以下「振動検出信号」とも称する)(VCA)への混信量をより低レベルに抑えることができる。
【0015】
また、本発明では、駆動信号バイアス電圧(VOB)を高い電圧レベルとすることにより振動体の電位と加振電極の電位との直流電位差(ΔVo=VB−VOB)を大きくすることができるので、振動体バイアス電圧(VB)の方は低い電圧レベルに抑制することができ、これにより、振動体と検出電極とが静電引力によって接触することを防ぐことができる。
【0016】
これにより、駆動信号の振動検出信号(VCA)への混信を低減するとともに振動体と検出電極との静電引力による接触を防止した上で、より高い圧力まで気体の圧力(P)を十分な精度で測定することができるようになる。
【0017】
また、振動体が加振電極と対向する位置を,振動体が検出電極と対向する位置よりも振動体の固定部に近い位置とした構成では、振動体の電位と検出電極の電位との直流電位差(ΔVr)は、振動体と検出電極とが静電引力によって接触しないような振動体・検出電極電位差条件値(|ΔVr|max)よりも小さくすることが必要であるが、振動体と加振電極とが静電引力によって接触しないような振動体・加振電極電位差条件値(|ΔVo|max)は上記振動体・検出電極電位差条件値(|ΔVr|max)よりも大きい。
【0018】
このため、上記のような電位差条件値同士の関係に対応して、振動体の電位と加振電極の電位との直流電位差(ΔVo)を、振動体・加振電極電位差条件値(|ΔVo|max)を満たす範囲で、振動体の電位と振動検出電極の電位との直流電位差(ΔVr)よりも大きな値とすることにより、静電駆動力(FO)をより大きくすることができるとともに、必要な静電駆動力(FO)の大きさが同じである場合には駆動信号交流成分(VA)の電圧をより低く抑えて浮遊容量などを通じた駆動信号の振動検出信号(VCA)への混信量をより低減することができる。
【0019】
また、請求項1に記載の真空計において、振動体と加振電極との対向面積を,振動体と検出電極との対向面積より小さくしてなる構成とすることができる(請求項2の発明)。
また、請求項1または2に記載の真空計において、直流の駆動信号バイアス電圧を生成する駆動信号バイアス電圧生成部と、直流の振動体バイアス電圧を生成する振動体バイアス電圧生成部とを有し、前記振動体バイアス電圧は振動体に印加されるとともに、前記駆動信号バイアス電圧は振動体バイアス電圧と逆極性の直流電圧である構成とすることができる(請求項3の発明)。
【0020】
上記請求項3の発明によれば、駆動信号バイアス電圧(VOB)を振動体バイアス電圧(VB)と逆極性の直流電圧としていることにより、駆動信号バイアス電圧(VOB)を振動体バイアス電圧(VB)と同極性の直流電圧としている場合に比べて、駆動信号バイアス電圧(VOB)の絶対値の大きさが同じであっても、振動体の電位と加振電極の電位との直流電位差(ΔVo=VB−VOB)をより大きくすることができるので、静電駆動力(Fo=|VA*ΔVo|)をより大きくすることができる。したがって、必要な静電駆動力(Fo)の大きさが同じである場合、駆動信号交流成分(VA)の方の電圧はより低く抑えることができるので、浮遊容量などを通じた駆動信号の振動検出信号(VCA)への混信量をより低レベルに低減することができる。
【0021】
また、上記請求項3の発明では、駆動信号バイアス電圧(VOB)を振動体バイアス電圧(VB)と逆極性の直流電圧としていることにより、駆動信号バイアス電圧(VOB)を振動体バイアス電圧VBと同極性の直流電圧としている場合に比べて、駆動信号バイアス電圧(VOB)の絶対値がより小さくても、振動体の電位と加振電極の電位との直流電位差(ΔVo=VB−VOB)を同じ大きさとし、静電駆動力Foも同じ大きさとすることができるので、駆動信号バイアス生成部の出力電圧仕様をより低電圧レベルとすることができる。
【0022】
また、請求項1または2に記載の真空計において、直流の駆動信号バイアス電圧を生成する駆動信号バイアス電圧生成部と、駆動信号バイアス電圧を分圧する分圧回路とを有し、前記分圧回路の出力電圧は直流の振動体バイアス電圧として振動体に印加されてなる構成とすることもできる(請求項4の発明)。
【0023】
上記請求項4の発明によれば、駆動信号バイアス電圧生成部からの駆動信号バイアス電圧(VOB)を分圧回路で分圧した電圧を,振動体バイアス電圧(VB=(1/a)*VOB)として用いることにより、振動体バイアス電圧(VB)を生成するための別の電圧生成部(電圧源)が不要となるので、真空計の構成をより簡素化することができる。
【0024】
また、請求項1または2に記載の真空計において、直流の振動体バイアス電圧を生成する振動体バイアス電圧生成部と、振動体バイアス電圧を昇圧する昇圧回路とを有し、前記振動体バイアス電圧は振動体に印加されるとともに、前記昇圧回路の出力電圧は直流の駆動信号バイアス電圧とされてなる構成とすることもできる(請求項5の発明)。
【0025】
上記請求項5の発明によれば、振動体バイアス電圧生成部からの振動体バイアス電圧(VB)を昇圧回路で分圧した電圧を,駆動信号バイアス電圧(VOB=b*VB)として用いることにより、駆動信号バイアス電圧(VOB)を生成するための別の電圧生成部(電圧源)が不要となるので、真空計の構成をより簡素化することができる。
【0026】
また、請求項1または2に記載の真空計において、直流の検出バイアス電圧を生成する検出バイアス電圧生成部と、直流の駆動信号バイアス電圧を生成する駆動信号バイアス電圧生成部とを有し、前記検出バイアス電圧は振動検出部における検出電極に接続される容量電圧変換回路に印加されて、検出電極の電位が前記検出バイアス電圧の電圧レベルになるとともに、振動体の電位は接地レベルとされ、駆動信号バイアス電圧の絶対値を、検出バイアス電圧の絶対値よりも大きくしてなる構成とすることもできる(請求項6の発明)。
【0027】
また、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の真空計において、駆動信号生成部における交流信号は、振動検出部の検出信号に基づき、この検出信号の位相を変えて増幅することにより生成される構成とすることができる(請求項7の発明)。
【0028】
また、請求項7に記載の真空計において、駆動信号生成部は、駆動信号における交流信号の電圧が一定となるように、振動検出部の検出信号の位相を変えた信号に対する増幅のゲインを調整し、圧力測定部は、振動検出部の検出信号の大きさに基づいて圧力を測定する構成とすることができる(請求項8の発明)。
【0029】
また、請求項7に記載の真空計において、駆動信号生成部は、振動検出部の検出信号の大きさが一定となるように、振動検出部の検出信号の位相を変えた信号に対する増幅のゲインを調整し、圧力測定部は、駆動信号における交流信号の電圧に基づいて圧力を測定する構成とすることもできる(請求項9の発明)。
【0030】
また、請求項7ないし9のいずれか1項に記載の真空計において、駆動信号生成部は、振動体の固有周波数に対応した周波数の初期励振信号を出力する初期励振用信号源を備え、 振動体の初期駆動時には、前記駆動信号として、振動検出部の検出信号に基づく駆動信号の代わりに、初期励振信号に駆動信号バイアス電圧が加算された初期駆動信号を加振電極に印加する構成とすることができる(請求項10の発明)。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、駆動信号交流成分に直流の駆動信号バイアス電圧が加算されてなる駆動信号を加振電極に印加するので、駆動信号バイアス電圧を高い電圧レベルとすることにより、振動体の電位と加振電極の電位との直流電位差を大きくして静電駆動力を大きくすることができる。
【0032】
このため、必要な静電駆動力の大きさが同じである場合、振動体の電位と加振電極の電位との直流電位差を大きくした分だけ駆動信号交流成分の電圧の方はより低い電圧レベルに抑制することができることにより、浮遊容量などを通じた駆動信号の振動検出信号への混信量をより低レベルに抑えることができる。
【0033】
また、駆動信号バイアス電圧を高い電圧レベルとすることにより振動体の電位と加振電極の電位との直流電位差を大きくすることができるので、振動体バイアス電圧の方は低い電圧レベルに抑制することができ、これにより、振動体と検出電極とが静電引力によって接触することを防ぐことができる。
【0034】
これにより、駆動信号の振動検出信号への混信を低減するとともに振動体と検出電極との静電引力による接触を防止した上で、より高い圧力まで気体の圧力を十分な精度で測定することができるようになる。
【0035】
また、振動体が加振電極と対向する位置を,振動体が検出電極と対向する位置よりも振動体の固定部に近い位置とした構成では、振動体の電位と検出電極の電位との直流電位差は、振動体と検出電極とが静電引力によって接触しないような振動体・検出電極電位差条件値よりも小さくすることが必要であるが、振動体と加振電極とが静電引力によって接触しないような振動体・加振電極電位差条件値は上記振動体・検出電極電位差条件値よりも大きい。このため、上記のような電位差条件値同士の関係に対応して、振動体の電位と加振電極の電位との直流電位差を、振動体・加振電極電位差条件値を満たす範囲で、振動体の電位と振動検出電極の電位との直流電位差よりも大きな値とすることにより、静電駆動力をより大きくすることができるとともに、必要な静電駆動力の大きさが同じである場合には駆動信号交流成分の電圧をより低く抑えて浮遊容量などを通じた駆動信号の振動検出信号への混信量をより低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態に係る真空計の機構部分を成す構造体の平面図である。
【図2】図1に示す構造体の側面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る振動体の設計値の一例を示す図である。
【図4】図3に示した振動体の設計値におけるQ値と気体の圧力Pとの関係を示す図である。
【図5】本発明の実施形態および従来技術における振動体の振幅Aと気体の圧力Pとの関係および各部電圧条件を例示する図である。
【図6】本発明の実施例1に係る真空計の回路構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の実施例2に係る真空計の回路構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の実施例2に適用される分圧回路の例を示す図である。
【図9】本発明の実施例3に係る真空計の回路構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の実施例3に適用される昇圧回路の例を示す図である。
【図11】本発明の実施例4に係る真空計の回路構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態を図1〜図11に示す実施例に基づいて説明する。同一の構成要素については、同一の符号を付け、重複する説明は省略する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施することができるものである。
[本発明の実施形態]
(イ)真空計の機構部分を成す構造体の構成:
まず、後述の各実施例に共通する技術事項として、本発明の実施形態に係る真空計の機構部分を成す構造体について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る真空計の機構部分を成す構造体を模式的に示す平面図であり、図2は、図1に示す構造体の側面図である。図1および図2において、真空計の機構部分を成す構造体は、錘1、梁2および振動体固定部3よりなる振動体4と、振動体4を加振するための加振電極5と、振動体の振動を検出するための振動検出電極6とから構成されている。そして、加振電極5は振動体4と対向して配置され、加振電極5に駆動信号を印加することによって静電力により振動体4が駆動される。また、振動検出電極6も振動体4と対向して配置され、振動体4と検出電極6との間の静電容量を検知することによって振動体4の振動が検出される。なお、図1〜2に示す構造体は、振動体4が加振電極5と対向する位置を,振動体4が振動検出電極6と対向する位置よりも振動体固定部3に近い位置としてなる構成とされており、さらには、振動体4と加振電極5との間の対向面積Soを,振動体4と振動検出電極6との間の対向面積Srより小さくしてなる構成とされている。
(ハ)振動体の形状、振動体のQ値、振動体の振幅および気体の圧力との関係:
次に、後述の各実施例に共通する技術事項として、振動体4の形状、振動体4のQ値、振動体4の振幅および気体の圧力Pとの関係について説明する。振動体4は気体分子の衝突により、抵抗力を受ける。分子流領域においては、気体分子による抵抗力は気体の圧力Pに正比例する。気体の圧力Pが低くなるに従い、振動体4が気体分子から受ける抵抗力が低下するため、振動体のQ値(共振の鋭さ)は高くなる。ただし、振動体4は固有のQ値QEを持っており、固有のQ値QE以上になることはない。すなわち、振動体4が測定することが可能な気体の圧力Pの下限は、固有のQ値QEによって制限されることを意味する。
【0038】
振動体4のQ値は、気体の圧力Pとの関係において、fRを振動体4の固有周波数、mを錘1の質量、Sを気体の抵抗力を受ける面積、Rを気体定数、Tを温度、Mを気体分子1molあたりの質量とすると、以下の式(3)のように表すことができる。
【0039】
【数3】
【0040】
図3は、本発明の実施形態に係る振動体の設計値の一例を示す図であり、図4は、図3に示した振動体の設計値におけるQ値と気体の圧力Pとの関係を示す図である。
なお、図3では、図1〜2に示す構造体の構造が斜視図として示されるとともに、振動体4の振動方向(図2の矢印で示す振動方向と同じ方向)が矢印で示されている。
【0041】
図4(a)は、図3に示される振動体4を、矢印で示す振動方向(すなわち錘1の1000μm×1000μmの幅広面に垂直な振動方向)に振動させた場合のQ値−圧力特性を示している。ここで、図1〜2に示されている加振電極5および振動検出電極6は上記振動方向での圧力測定に対応したものである。
【0042】
図4(a)にQ値−圧力特性として示されているように、振動体4を上記振動方向に振動させた場合に測定することができる気体の圧力は約0.1Paから約100Paである。また、図3に示した振動体4の振動方向における固有周波数は、例えば、振動体の材質をシリコンとした場合、約560Hzである。
【0043】
そして、例えば図4(a)に示されるようなQ値と気体の圧力Pとの関係(Q値−圧力特性)は、図3に示されるような振動体の形状に関する厚さ,梁の長さ,面積などの設計値、振動体の材質によって変わるものであり、これらの仕様によって測定することができる気体の圧力範囲を任意に設計することができる。
【0044】
図4(b)は、図4(a)における上記振動方向(図2の矢印で示す振動方向)でのQ値−圧力特性のうち、0.1Paから100Paまでの圧力範囲の部分のみを模式的に線形な特性として示している。
【0045】
図5は、本発明の実施形態および従来技術における振動体の振幅Aと気体の圧力Pとの関係(振幅−圧力特性)および各部電圧条件を例示するであって、図5(a)は、図4(b)に示される上記振動方向(図2の矢印で示す振動方向)でのQ値−圧力特性に対応する振幅−圧力特性を、図5(b)に記載した各電圧条件について示している。図5(b)に記載した各電圧条件の詳細は後述する。なお、図5(a)の縦軸「振幅(m)」における「1E−10」〜「1E−07」との各目盛数値の記載は、それぞれ「1×10−10」〜「1×10−7」を示すものである。
(ニ)振動体と加振電極または振動検出電極とが接触する電位差条件:
次に、後述の各実施例に共通する技術事項として、振動体4と加振電極5または振動検出電極6とが接触する電位差条件について説明する。上述の図3に示した振動体4の材質を例えばシリコンとした場合、この振動体4の振動方向(図2に示される錘1の幅広面に垂直な振動方向)でのばね定数kは約0.3 N/mとなる。そして、一般的に、振動体4と加振電極5または振動検出電極6とが接触する電圧EPは下記の式(4)で表すことができる。
【0046】
【数4】
【0047】
ここで、d0は振動体4と加振電極5または振動検出電極6との距離、εは誘電率、Sは電極の面積である。
図3に例示される設計値の振動体4では、振動体4と振動検出電極6とが接触する電位差EPは約3.1Vである。一方、加振電極5は、振動検出電極6と比較して面積Sが小さく、また、振動体固定部3の近くに設置されているため、EPの20倍程度の直流電圧を印加することが可能である。
(ホ)実施例1〜4:
以下で説明する実施例1〜4は、駆動信号の振動検出信号への混信を低減するとともに振動体と振動検出電極との静電引力による接触を防止した上で、従来より広い範囲の気体の圧力を十分な精度で測定できるようにする上で好適な真空計の構成例を示すものであり、いずれも特に真空計の回路構成および各部電圧条件に特徴を有するものである。
【実施例1】
【0048】
(a)本発明の実施例1は、直流の駆動信号バイアス電圧VOBを生成する駆動信号バイアス電圧源11と、直流の振動体バイアス電圧VBを生成する振動体バイアス電圧源13とを有し、振動体バイアス電圧VBは振動体4に印加されるとともに、駆動信号バイアス電圧VOBは振動体バイアス電圧VBと逆極性の直流電圧であるようにしたものである。
【0049】
(b)真空計の機構部分を成す構造体の構成:
まず、実施例1に係る真空計の機構部分を成す構造体としては、上記(ロ)項において図1〜2を用いて説明した構成を適用することができる。
【0050】
(c)真空計の回路構成:
次に、実施例1に係る真空計の回路構成について説明する。図6は本発明の実施例1に係る真空計の回路構成を示すブロック図であり、図1〜2と同一の符号は図1〜2と同一名称の部分を示す。図6に示されるように、実施例1に係る真空計の回路は、振動体4と振動検出電極6との間の静電容量の変化を電圧の変化に変換する容量電圧変換回路21、容量電圧変換回路21からの振動検出信号VCAを気体の圧力Pに対応した電圧信号である圧力測定信号VPに変換する圧力変換回路31、上記振動検出信号VCAの位相をシフトする位相シフト回路9、増幅のゲインの調整により位相シフト回路9の出力信号VCAPの電圧を制御する電圧制御回路10、振動体4を初期加振するための初期励振信号VAIを生成する初期加振用信号源15、加振電極5に印加する交流信号VAを選択するスイッチ回路16、直流の振動体バイアス電圧VBを生成する振動体バイアス電圧源13、直流の駆動信号バイアス電圧VOBを生成する駆動信号バイアス電圧源11、スイッチ回路16により選択された交流信号VAに駆動信号バイアス電圧VOBを加算する信号合成回路12から構成される。
【0051】
そして、実施例1において、駆動信号バイアス電圧源11は、振動体バイアス電圧VBとは逆符号の直流電圧を駆動信号バイアス電圧VOBとして生成する構成となっている。
また、容量電圧変換回路21は、真空計の振動検出部における振動検出回路として振動検出電極6に接続され、振動体4が振動することによる振動体4と振動検出電極6との間の静電容量の変化を電圧の変化に変換し、振動検出信号VCAとして出力するものであり、図6にはチャージアンプとしての回路構成例が示されている。図6において、容量電圧変換回路21は、差動増幅器22、抵抗23、キャパシタ24から構成されている。そして、容量電圧変換回路21において、抵抗23とキャパシタ24との並列回路が差動増幅器22の反転入力端子と出力端子との間に接続されるとともに、差動増幅器22の非反転入力端子は接地電位とされ、容量電圧変換回路21における検出バイアス電圧VRは0Vとなっており、これにより、振動検出電極6の電圧VDも検出バイアス電圧VRと同じ0Vとなっている。なお、本発明における容量電圧変換回路は、図6の構成に限定されるものではない。
【0052】
(d)振動体の加振動作:
次に、実施例1における駆動信号生成部からの駆動信号による振動体4の加振動作について説明する。図6において、振動体4が初期加振される場合、スイッチ回路16はAとBとが接続され、加振電極5に印加する交流信号VAとして初期加振信号VAIが選択された状態となっている。この初期加振状態では、初期加振用電圧源15より振動体4の固有周波数fRに対応した周波数の正弦波電圧信号、もしくは、上記固有周波数fRに対応した繰り返し周波数のパルス電圧信号からなる初期加振信号VAIが出力され、信号合成回路12により初期加振信号VAIに駆動信号バイアス電圧VOBが加算されてなる駆動信号VO(=VAI+VOB)が加振電極5に印加されることにより振動体4が加振される。初期加振用信号源15は初期加振にのみ使用され、振動体4が振動し始めた後は、スイッチ回路16が切り替えられ、AとCとが接続される。
【0053】
そして、スイッチ回路16でAとCとが接続され、加振電極5に印加する交流信号VAとして電圧制御回路10からの交流信号VAPが選択された状態において、振動検出部における容量電圧変換回路21からの振動検出信号VCAに基づき、この振動検出信号VCAの位相を位相シフト回路9でシフトし、位相シフト回路9の出力信号VCAPの電圧を電圧制御回路10における増幅のゲインの調整により制御することによって交流信号VAPを生成し、信号合成回路12により交流信号VAPに直流の駆動信号バイアス電圧VOBが加算されてなる駆動信号VO(=VAP+VOB)を加振電極5に印加することで振動体4の共振状態を保持する。
【0054】
なお、スイッチ回路16は、上述のように、振動体4の振幅に応じて接続を切り替えるように動作するものであり、例えば、振動体4の振幅A、すなわち、振動体4の変位に応じて出力される容量電圧変換回路21からの振動検出信号VCAの大きさが予め設定した値に到達したことを図示されないスイッチ回路用制御部で検出し、その検出タイミングで前記スイッチ回路用制御部からスイッチ回路16にB側からC側への切替信号を与えることにより、振動体4の振幅に応じた接続切り替え動作を行うことができる。
【0055】
(e)圧力測定動作:
次に、実施例1における圧力測定動作は、例えば加振電極5に印加される駆動信号V0(=VAP+VOB)における交流信号(駆動信号交流成分)VAPの大きさが一定となるように,容量電圧変換回路21からの振動検出信号VCAの位相を位相シフト回路9でシフトした信号VCAPに対する電圧制御回路10における増幅のゲインを調整する制御を行なっている状態で、振動体4のQ値に対応して変化する振動体4の振幅A、すなわち容量電圧変換回路21からの振動検出信号VCAの大きさを、圧力変換回路31で圧力P値に対応する圧力測定信号VPに変換することにより圧力Pを測定する方式(以下「駆動電圧一定方式」とも称する)とすることができる。
【0056】
なお、上述の駆動電圧一定方式における振動体の振幅A(振動検出信号VCAの大きさ)から圧力P値(圧力測定信号VP)への変換方法としては、振動体の振幅A(振動検出信号VCAの大きさ)をQ値に変換し,さらに,このQ値を圧力P値(圧力測定信号VP)に変換するようにしてもよく、また、振動体の振幅A(振動検出信号VCAの大きさ)を,Q値を介さないで,直接的に圧力P値(圧力測定信号VP)に変換するようにしてもよい。
【0057】
ここで、上記(ハ)項で述べたように、例えば振動体4が図3に示される設計値であって材質がシリコンの振動体である場合、図2に示される振動方向(錘1の幅広面に垂直な振動方向)においては、Q値と圧力P値との関係(Q値−圧力特性)は、図4(a)に示されるような、(約0.1Pa程度以上の)高圧領域では振幅が圧力にほぼ反比例するとともに低圧側では振幅がその最大限界値に向かって飽和していく特性となる。そして、このようなQ値−圧力特性に対応して、上述の駆動電圧一定方式における振動体の振幅A(振動検出信号VCAの大きさ)と圧力P値との関係(振幅A−圧力特性)も、(約0.1Pa程度以上の)高圧領域では振幅Aが圧力にほぼ反比例するとともに低圧側では圧力レベルが低下するのに応じて振幅Aがその最大限界値に向かって飽和していくような飽和領域になる特性となる。
【0058】
このため、上述の駆動電圧一定方式の場合、特に圧力測定範囲に上記のような低圧側の飽和領域が含まれる場合、圧力変換回路31は、例えば、振動体の振幅A(振動検出信号VCAの大きさ)と圧力P値との関係(振幅A−圧力特性)の特性データを取得しておき、この特性データのデータテーブルを格納した記憶部を備えた変換手段により、実測定時における振動体の振幅A(振動検出信号VCAの大きさ)から圧力P値への変換を行う構成とするとよく、また、上記特性データの曲線から近似的に求められた関係式を格納した記憶部を備えた変換手段により、実測定時における振動体の振幅A(振動検出信号VCAの大きさ)から圧力P値への変換を行う構成としてもよい。
【0059】
(f)各部電圧条件と振動体の振幅との関係:
次に、実施例1における振動体バイアス電圧VB、駆動信号バイアス電圧VOBおよび交流信号VAの各部電圧条件(電圧条件3)と振動体4の振幅Aとの関係について図5により従来技術(電圧条件1〜2)と対比して説明する。
【0060】
図5(b)において、電圧条件3(実施例1)および電圧条件1(従来技術)は、駆動信号バイアス電圧VOBをそれぞれ+18V(実施例1)および0V(従来技術)に設定するとともに交流信号VAの電圧はいずれも0.1Vに設定した場合である。交流信号VAの電圧が電圧条件3(実施例1)と電圧条件1(従来技術)とで等しいことにより、電圧条件3(実施例1)と電圧条件1(従来技術)とで交流信号VAの振動検出信号VCAへの混信量は同じとなる。一方、振動体4の電位と駆動電極5の電位との直流電位差ΔVoが、電圧条件3ではΔVo=20V、電圧条件1ではΔVo=2Vであることにより、電圧条件3(実施例1)では電圧条件1(従来技術)と比較して10倍の振幅Aを得ることができる。これにより、電圧条件3(実施例1)では振動検出信号VCAの大きさが電圧条件1(従来技術)の10倍となる。したがって、交流信号VAの振動検出信号VCAへの混信が真空計におけるノイズの主要因であるとすると、電圧条件3(実施例1)では、電圧条件1(従来技術)と比較してS/N比が10倍となり、大幅にノイズを低減することができる。
【0061】
電圧条件2(従来技術)は、駆動信号バイアス電圧VOBを電圧条件1(従来技術)と同様に0Vとし、交流信号VAの電圧を電圧条件1(従来技術)の10倍の1Vとした場合である。振動体4の電位と駆動電極5の電位との直流電位差ΔVoと交流信号VAの電圧との積が電圧条件3(実施例1)と電圧条件2(従来技術)とで等しいことにより、電圧条件3(実施例1)と電圧条件2(従来技術)とで振動体4の振幅Aは等しくなる。一方、電圧条件2(従来技術)では電圧条件3(実施例1)と比較して交流信号VAの電圧が10倍であることにより、交流信号VAの振動検出信号VCAへの混信量も10倍となる。したがって、交流信号VAの振動検出信号VCAへの混信が真空計におけるノイズの主要因であるとすると、電圧条件3(実施例1)では、電圧条件2(従来技術)と比較してS/N比が10倍となり、大幅にノイズを低減することができる。
【0062】
また、振動体バイアス電圧VBが電圧条件3(実施例1)と電圧条件1〜2(従来技術)とでいずれもVB=−2Vであることから、振動体4の電位と振動検出電極6の電位との直流電位差ΔVrは電圧条件3(実施例1)と電圧条件1〜2(従来技術)とでいずれもΔVr=2Vとなる。なお、上記の点において、本発明は、駆動信号バイアス電圧VOBを高い電圧レベルとすることにより振動体4の電位と加振電極5の電位との直流電位差ΔVo(=VB−VOB)を大きくすることができるので、振動体バイアス電圧VBの方は従来と同様の低い電圧レベルに抑制することができ、これにより、振動体4の電位と振動検出電極6の電位との直流電位差ΔVrも従来と同様の大きさに抑えることができるものとなっている。
【0063】
(g)以上のように、実施例1では、交流信号VAに駆動信号バイアス電圧VOBを加算してなる駆動信号VOを加振電極5に印加するので、例えば図5の電圧条件1(従来技術)と同様に交流信号VAを低い電圧レベル(例えば0.1V)に抑制するとともに振動体バイアス電圧VBも低い電圧レベル(例えば−2V)に抑制した上で、駆動信号バイアス電圧VOBを高い電圧レベル(例えば+18V)とすることにより、振動体4の電位と加振電極5の電位との直流電位差ΔVoを大きくして静電駆動力Foを大きくすることができる。したがって、実施例1では、駆動信号交流成分VAを低い電圧レベルに抑制できることにより浮遊容量などを通じた駆動信号の振動検出信号への混信量を低レベルに抑制できるとともに、振動体バイアス電圧VBも低い電圧レベルに抑制できることにより振動体4と振動検出電極6とが静電引力によって接触することを防ぐこともできる。
【0064】
また、実施例1では、特に駆動信号バイアス電圧VOBを振動体バイアス電圧VBと逆極性としていることにより、例えば図5の電圧条件4〜5(後述の実施例2〜3)のような駆動信号バイアス電圧VOBを振動体バイアス電圧VBと同極性としている場合に比べて、駆動信号バイアス電圧VOBの絶対値がより小さくても、振動体4の電位と加振電極5の電位との直流電位差ΔVoを同じ大きさとし、静電駆動力Foも同じ大きさとすることができる。したがって、実施例1では、駆動信号バイアス電圧源11の出力電圧仕様をより低電圧レベルとすることができる。
【0065】
また、実施例1では、特に駆動信号バイアス電圧VOBを振動体バイアス電圧VBと逆極性としていることにより、駆動信号バイアス電圧VOBの絶対値の大きさを図5の電圧条件4〜5(後述の実施例2〜3)と同じとした場合には、振動体4の電位と加振電極5の電位との直流電位差ΔVoをより大きくすることができる。したがって、実施例1では、静電駆動力Foの大きさが同じであっても、駆動信号交流成分VAの電圧はより低く抑えることができるので、浮遊容量などを通じた駆動信号の振動検出信号への混信量をより低減することができる。
【0066】
(h)なお、実施例1における真空計の回路構成として、上述の図6では、容量電圧変換回路21における検出バイアス電圧VRが0Vとなっている構成を示したが、本発明はこのような構成に限定されるものではなく、後述の図11におけるような検出バイアス電圧源25を備え、検出バイアス電圧源25からの検出バイアス電圧VRが差動増幅器22の非反転入力端子に印加され、振動検出電極6の電圧VDも検出バイアス電圧VRと同じ電圧レベルとなる構成であってもよく、振動体4の電位と振動検出電極6の電位との直流電位差ΔVr(=VB−VR)が、振動体4と振動検出電極6とが静電引力によって接触しないような振動体・検出電極電位差条件値|ΔVr|max(=EP)より小さくなるように設定されていればよい。この点は後述の実施例2〜3も同様である。
【実施例2】
【0067】
(a)本発明の実施例2は、上述の実施例1とは異なり、直流の駆動信号バイアス電圧VOBを生成する駆動信号バイアス電圧源11と、駆動信号バイアス電圧VOBを分圧する分圧回路17とを有し、分圧回路17の出力電圧は直流の振動体バイアス電圧VB(=(1/a)*VOB)として振動体4に印加されてなるようにしたものである。
【0068】
(b)真空計の機構部分を成す構造体の構成:
まず、実施例2に係る真空計の機構部分を成す構造体としては、実施例1と同様に、上記(ロ)項において図1〜2を用いて説明した構成を適用することができる。
【0069】
(c)真空計の回路構成:
次に、本発明の実施例2に係る真空計の回路構成について説明する。図7は、本発明の実施例2に係る真空計の回路構成を示すブロック図であり、図6と同一の符号は図6と同一名称の部分を示す。17は分圧回路であり、駆動信号バイアス電圧源11からの駆動信号バイアス電圧VOBを分圧した後、その出力電圧を振動体バイアス電圧VB(=(1/a)*VOB)として振動体4に印加する。
【0070】
なお、実施例2における分圧回路17としては、例えば抵抗の直列接続回路よりなる分圧回路などを適用できるが、このような構成に限定されるものではなく、駆動信号バイアス電圧源11からの駆動信号バイアス電圧VOBの電圧レベルを分圧できる構成であればよい。なお、2個の抵抗R1およびR2の直列接続回路よりなる分圧回路の例を図8に示す。図8の回路において、入力電圧Vinに対して分圧された出力電圧Vout=(R2/(R1+R2))×Vinが得られる。
【0071】
(d)振動体の加振動作:
実施例2における振動体の加振動作は、実施例1と同様にして行う。
(e)圧力測定動作:
実施例2における圧力測定動作は、実施例1と同様にして行う。
【0072】
(f)各部電圧条件と振動体の振幅との関係:
次に、実施例2における振動体バイアス電圧VB、駆動信号バイアス電圧VOBおよび交流信号VAの各部電圧条件(電圧条件4)と振動体4の振幅Aとの関係について図5により説明する。
【0073】
実施例2の電圧条件4は、交流信号VAの電圧は電圧条件1(従来技術)と同様に0.1Vに設定するとともに、駆動信号バイアス電圧VOBは−22Vに設定し、さらに、分圧回路17の分圧比を1/11とすることにより分圧回路17から出力される振動体バイアス電圧VBは−2Vに設定した場合である。交流信号VAの電圧が電圧条件4(実施例2)と電圧条件1(従来技術)とで等しいことにより、電圧条件4(実施例2)と電圧条件1(従来技術)とで交流信号VAの振動検出信号VCAへの混信量は同じとなる。一方、振動体4の電位と駆動電極5の電位との直流電位差ΔVoが、電圧条件4ではΔVo=20V、電圧条件1ではΔVo=2Vであることにより、電圧条件4(実施例2)では電圧条件3(実施例1)と同様に電圧条件1(従来技術)と比較して10倍の振幅Aを得ることができる。これにより、電圧条件4(実施例2)では振動検出信号VCAの大きさが電圧条件1(従来技術)の10倍となる。したがって、交流信号VAの振動検出信号VCAへの混信が真空計におけるノイズの主要因であるとすると、電圧条件4(実施例2)では、電圧条件1(従来技術)と比較してS/N比が10倍となり、大幅にノイズを低減することができる。
【0074】
(g)実施例1では、振動体バイアス電圧源13と駆動信号バイアス電圧源11との2つの電圧源が必要であるが、実施例2では、駆動信号バイアス電圧VOB生成用の駆動信号バイアス電圧源11の出力電圧を分圧回路17で分圧することにより振動体バイアス電圧VBも生成するため、1つの電圧源で回路を構成することができる。
【実施例3】
【0075】
(a)本発明の実施例3は、上述の実施例1とは異なり、直流の振動体バイアス電圧VBを生成する振動体バイアス電圧生成部13と、振動体バイアス電圧VBを昇圧する昇圧回路18とを有し、振動体バイアス電圧VBは振動体4に印加されるとともに、昇圧回路18の出力電圧は直流の駆動信号バイアス電圧VOB(=b*VB)とされてなるようにしたものである。
【0076】
(b)真空計の機構部分を成す構造体の構成:
まず、本発明の実施例3に係る真空計の機構部分を成す構造体としては、実施例1と同様に、上記(ロ)項において図1〜2を用いて説明した構成を適用することができる。
【0077】
(c)真空計の回路構成:
次に、本発明の実施例3に係る真空計の回路構成について説明する。図9は、本発明の実施例3における回路ブロック図であり、図6と同一の符号は図6と同一名称の部分を示す。18は昇圧回路であり、振動体バイアス電圧源13からの振動体バイアス電圧VBを昇圧した後、その出力電圧を振動体バイアス電圧VOB(=b*VB)として信号合成部12に供給する。
【0078】
なお、実施例3における昇圧回路18としては、例えば、オペアンプを使用した非反転増幅回路等の増幅回路、昇圧チョッパ回路などを適用できるが、このような構成に限定されるものではなく、振動体バイアス電圧源13からの振動体バイアス電圧VBの電圧レベルを昇圧できる構成であればよい。なお、トランジスタTr、ダイオードD、コイルL、コンデンサCおよび抵抗Rよりなる昇圧チョッパ回路の例を図10に示す。図10の回路において、トランジスタTrのオン時間およびオフ時間をそれぞれTONおよびTOFFとすると、入力電圧Vinが昇圧された出力電圧Vout=((TON+TOFF)/TOFF)×Vinが得られる。
【0079】
(d)振動体の加振動作:
実施例3における振動体の加振動作は、実施例1と同様にして行う。
(e)圧力測定動作:
実施例3における圧力測定動作は、実施例1と同様にして行う。
【0080】
(f)各部電圧条件と振動体の振幅との関係:
次に、実施例3における振動体バイアス電圧VB、駆動信号バイアス電圧VOBおよび交流信号VAの電圧条件(電圧条件5)と振動体4の振幅Aとの関係について図5により説明する。
【0081】
実施例3の電圧条件5は、交流信号VAの電圧は電圧条件1(従来技術)と同様に0.1Vに設定するとともに、振動体バイアス電圧VBを−2Vに設定し、さらに、昇圧回路18の昇圧比を11倍とすることにより昇圧回路18から出力される駆動信号バイアス電圧VOBは−22Vに設定した場合である。交流信号VAの電圧が電圧条件5(実施例3)と電圧条件1(従来技術)とで等しいことにより、電圧条件5(実施例3)と電圧条件1(従来技術)とで交流信号VAの振動検出信号VCAへの混信量は同じとなる。一方、振動体4の電位と駆動電極5の電位との直流電位差ΔVoが、電圧条件5ではΔVo=20V、電圧条件1ではΔVo=2Vであることにより、電圧条件5(実施例3)では電圧条件3(実施例1)と同様に電圧条件1(従来技術)と比較して10倍の振幅Aを得ることができる。これにより、電圧条件5(実施例3)では振動検出信号VCAの大きさが電圧条件1(従来技術)の10倍となる。したがって、交流信号VAの振動検出信号VCAへの混信が真空計におけるノイズの主要因であるとすると、電圧条件5(実施例3)では、電圧条件1(従来技術)と比較してS/N比が10倍となり、大幅にノイズを低減することができる。
【0082】
(g)実施例1では、振動体バイアス電圧源13と駆動信号バイアス電圧源11との2つの電圧源が必要であるが、実施例3では振動体バイアス電圧VB生成用の振動体バイアス電圧源13の出力を昇圧回路で昇圧することで駆動信号バイアス電圧VOBも生成するため、1つの電圧源で回路を構成することが可能となる。
【実施例4】
【0083】
(a)本発明の実施例4は、上述の実施例1とは異なり、直流の検出バイアス電圧VRを生成する検出バイアス電圧源25と、直流の駆動信号バイアス電圧VOBを生成する駆動信号バイアス電圧源11とを有し、検出バイアス電圧VRは振動検出部における振動検出電極6に接続される容量電圧変換回路21Aに印加されて、振動検出電極6の電位VDが検出バイアス電圧VRの電圧レベルになるとともに、振動体4の電位VBは接地レベルとされ、駆動信号バイアス電圧VOBの絶対値を、検出バイアス電圧VRの絶対値よりも大きくしてなるようにしたものである。
【0084】
(b)真空計の機構部分を成す構造体の構成:
まず、本発明の実施例4に係る真空計の機構部分を成す構造体としては、実施例1と同様に、上記(ロ)項において図1〜2を用いて説明した構成を適用することができる。
【0085】
(c)真空計の回路構成:
次に、本発明の実施例3に係る真空計の回路構成について説明する。図11は、本発明の実施例4における回路ブロック図であり、図6と同一の符号は図6と同一名称の部分を示す。
【0086】
実施例4に係る真空計の回路構成は、振動体バイアス電圧源13の代わりに検出バイアス電圧源25を備えるとともに、容量圧力変換回路21の代わりに容量圧力変換回路21Aを備えている点で、実施例1とは異なっている。
【0087】
検出バイアス電圧源25は、直流の検出バイアス電圧VRを生成するものである。
また、容量電圧変換回路21Aは、真空計の振動検出部における振動検出回路として、振動体4と振動検出電極6との間の静電容量の変化を電圧の変化に変換し、振動検出信号VCAとして出力するものであって、その回路構成は実施例1の容量電圧変換回路21と同様であるが、差動増幅器22の非反転入力端子に検出バイアス電圧VRが印加される点が異なっており、これにより、振動検出電極6の電圧VDも検出バイアス電圧VRと同じ電圧レベルとなっている。
【0088】
また、実施例4では、実施例1とは異なり、振動体4の電位VBは接地レベルとされている。このため、実施例4では、振動体4の電位と振動検出電極6の電位との直流電位差ΔVrはΔVr=−VRとなっている。そして、この直流電位差ΔVrの絶対値(|VR|)が、振動体4と振動検出電極6とが静電引力によって接触しないような振動体・検出電極電位差条件値|ΔVr|max(=EP)より小さくなるように設定されていればよい。
【0089】
また、実施例4では、後述の(ヘ)項に記載している振動体・加振電極電位差条件値と振動体・検出電極電位差条件値との関係に対応して、駆動信号バイアス電圧VOBの絶対値を検出バイアス電圧VRの絶対値よりも大きく設定し、これにより、振動体4の電位と加振電極5の電位との直流電位差ΔVoが振動体4の電位と振動検出電極6の電位との直流電位差ΔVrよりも大きくなるようにしている。
【0090】
実施例4に係る真空計の回路構成は、上述の点以外は実施例1と同様である。
(d)振動体の加振動作:
実施例4における振動体の加振動作は、実施例1と同様にして行う。
【0091】
(e)圧力測定動作:
実施例4における圧力測定動作は、実施例1と同様にして行う。
(f)各部電圧条件と振動体の振幅との関係:
次に、実施例4における駆動信号バイアス電圧VOB、検出バイアス電圧VRおよび交流信号VAの各部電圧条件(電圧条件6)と振動体4の振幅Aとの関係について説明する。
【0092】
実施例4の電圧条件6は、交流信号VAの電圧は電圧条件1(従来技術)と同様に0.1Vに設定するとともに、駆動信号バイアス電圧VOBは−20Vに設定し、振動体バイアス電圧VBは0Vに設定し、さらに検出バイアス電圧VRは2Vに設定した場合である。交流信号VAの電圧が電圧条件6(実施例4)と電圧条件1(従来技術)とで等しいことにより、電圧条件6(実施例4)と電圧条件1(従来技術)とで交流信号VAの振動検出信号VCAへの混信量は同じとなる。一方、振動体4の電位と駆動電極5の電位との直流電位差ΔVoが、電圧条件6ではΔVo=20V、電圧条件1ではΔVo=2Vであることにより、電圧条件6(実施例4)では電圧条件3(実施例1)と同様に電圧条件1(従来技術)と比較して10倍の振幅Aを得ることができる。これにより、電圧条件6(実施例4)では振動検出信号VCAの大きさが電圧条件1(従来技術)の10倍となる。したがって、交流信号VAの振動検出信号VCAへの混信が真空計におけるノイズの主要因であるとすると、電圧条件6(実施例4)では、電圧条件1(従来技術)と比較してS/N比が10倍となり、大幅にノイズを低減することができる。
(ヘ)振動体・加振電極間の直流電位差と振動体・検出電極間の直流電位差との関係:
本発明における真空計の機構部分を成す構造体は、図1〜2に示されるような、振動体4が加振電極5と対向する位置を,振動体4が振動検出電極6と対向する位置よりも振動体固定部3に近い位置とした構成とされており、さらには、振動体4と加振電極5との対向面積Soを,振動体4と振動検出電極6との対向面積Srより小さくした構成とされている。本発明は、このような構造体に適合した構成として、振動体4の電位(直流電位VB)と加振電極5の電位(直流電位VOB)との直流電位差ΔVo(=VB−VOB)を,振動体4の電位(直流電位VB)と振動検出電極6の電位(直流電位VR)との直流電位差ΔVr(=VB−VR)よりも大きくした構成としている。
【0093】
すなわち、図1〜2に示される上記のような構造体では、上記(ニ)項で述べたように、振動体4の電位と振動検出電極6の電位との直流電位差ΔVrは、振動体4と振動検出電極6とが静電引力によって接触しないような振動体・検出電極電位差条件値|ΔVr|max(=EP)(図3に例示される設計値の振動体4では約3.1V)より小さくすることが必要である。一方、振動体4と加振電極5とが静電引力によって接触しないような振動体・加振電極電位差条件値|ΔVo|maxは上記の振動体・検出電極電位差条件値|ΔVr|maxよりも大きい(図3に例示される設計値の振動体4では上記EPの20倍程度)。
【0094】
このため、上記のような電位差条件値同士の関係に対応して、振動体4の電位と加振電極5の電位との直流電位差ΔVoを、振動体・加振電極電位差条件値|ΔVo|maxを満たす範囲で、振動体4の電位と振動検出電極6の電位との直流電位差ΔVrよりも大きな値とすることにより、静電駆動力FOをより大きくすることができるとともに、必要な静電駆動力FOの大きさが同じである場合には駆動信号交流成分VAの電圧をより低く抑えることができ、これにより浮遊容量など通じた駆動信号の振動検出信号VCAへの混信量をより低減することができる。
(ト)本発明の実施形態における他の構成例:
上述の実施例1ないし実施例4では、圧力測定動作として、加振電極5に印加される駆動信号V0(=VAP+VOB)における交流信号(駆動信号交流成分)VAPの大きさが一定となるように,容量電圧変換回路21,21Aからの振動検出信号VCAの位相を位相シフト回路9でシフトした信号VCAPに対する電圧制御回路10における増幅のゲインを調整する制御を行なっている状態で、振動体4のQ値に対応して変化する振動体4の振幅A(振動検出信号VCAの大きさ)を圧力変換回路31で圧力P値に対応する圧力測定信号VPに変換する方式(駆動電圧一定方式)を例示している。
【0095】
しかしながら、本発明における圧力測定動作は上述の駆動電圧一定方式に限定されるものではなく、振動体4の振幅A、すなわち、容量電圧変換回路21,21Aからの振動検出信号VCAの大きさが一定となるように,振動検出信号VCAの位相を位相シフト回路9でシフトした信号VCAPに対する電圧制御回路10における増幅のゲインを調整する制御を行なっている状態で、加振電極5に印加される駆動信号V0(=VAP+VOB)における交流信号(駆動信号交流成分)VAPの大きさに基づいて圧力Pを測定する方式(以下「振幅一定方式」とも称する)を適用することも可能である。
【0096】
なお、上述の振幅一定方式における駆動信号交流成分VAPの大きさから圧力P値(圧力測定信号VP)への変換方法としては、駆動信号交流成分VAPの大きさをQ値に変換し,さらに,このQ値を圧力P値(圧力測定信号VP)に変換するようにしてもよく、また、駆動信号交流成分VAPの大きさを,Q値を介さないで,直接的に圧力P値(圧力測定信号VP)に変換するようにしてもよい。
【0097】
ここで、上記(ハ)項で述べたように、例えば振動体4が図3に示される設計値であって材質がシリコンの振動体である場合、図2に示される振動方向(錘1の幅広面に垂直な振動方向)においては、Q値と圧力P値との関係(Q値−圧力特性)は、図4(a)に示されるような、(約0.1Pa程度以上の)高圧領域では振幅が圧力にほぼ反比例するとともに低圧側では振幅がその最大限界値に向かって飽和していく特性となる。そして、このようなQ値−圧力特性に対応して、上述の振幅一定方式における駆動信号交流成分VAPの大きさと圧力P値との関係(駆動電圧−圧力特性)は、(約0.1Pa程度以上の)高圧領域では駆動信号交流成分VAPの大きさが圧力にほぼ比例するとともに低圧側では圧力レベルが低下するのに応じて駆動信号交流成分VAPの大きさがその最小限界値に向かって飽和していくような飽和領域になる特性となる。
【0098】
このため、上述の振幅一定方式において、特に圧力測定範囲に上記のような低圧側の飽和領域が含まれる場合、圧力変換回路は、例えば駆動信号交流成分VAPの大きさと圧力P値との関係(駆動電圧−圧力特性)の特性データを取得しておき、この特性データのデータテーブルを格納した記憶部を備えた変換手段により、実測定時における駆動信号交流成分VAPの大きさから圧力P値への変換を行う構成とするとよく、また、上記特性データの曲線から近似的に求められた関係式を格納した記憶部を備えた変換手段により、実測定時における駆動信号交流成分VAPの大きさから圧力P値への変換を行う構成としてもよい。
【0099】
また、上述の振幅一定方式では、真空計は、圧力測定範囲の全体にわたって振動子4の振幅A、すなわち、振動検出信号VCAの大きさが一定に制御されるとともに、圧力の上昇に応じて加振電極4に印加される駆動電圧が大きくなるように動作する。このため、圧力測定範囲のうち高圧側では、駆動電圧の大きさが振動検出信号VCAの大きさ(振幅A)に比べて相対的により大きくなるので、浮遊容量などを通じた駆動信号の振動検出信号への混信の影響がより大きくなり、真空計におけるS/N比がより低下し、ノイズがより増大する傾向にある。
【0100】
ここで、本発明は、上述のように交流信号VAに駆動信号バイアス電圧VOBを加算してなる駆動信号VO(=VA+VOB)を加振電極5に印加するようにしているので、上述の振幅一定方式の場合、真空計は、振動検出信号VCAの大きさが一定に制御されるとともに、圧力の上昇に応じて加振電極4に印加される駆動信号VOにおける交流信号(駆動信号交流成分)VAの電圧が大きくなるように動作する。
【0101】
そして、本発明では、駆動信号バイアス電圧VOBを高い電圧レベルとすることにより、振動体4の電位と加振電極5の電位との直流電位差ΔVo(=VB−VOB)を大きくして静電駆動力Fo(=|VA*ΔVo|)を大きくすることができる。このため、本発明では、必要な静電駆動力Foが同じである場合には、振動体4の電位と加振電極5の電位との直流電位差ΔVoを大きくした分だけ駆動信号交流成分VAの電圧の方はより低い電圧レベルに抑制することができるので、圧力測定範囲の高圧側での駆動信号交流信号VAの電圧もより低い電圧レベルに抑制することができる。したがって、本発明では、振幅一定方式において、圧力測定範囲の高圧側でも、駆動電圧の大きさ、すなわち、駆動信号交流成分VAの電圧の大きさの、振動検出信号VCAの大きさ(振幅A)に対する相対的な大きさを従来より小さくすることができるので、浮遊容量などを通じた駆動信号の振動検出信号への混信の影響をより小さくして、真空計におけるS/N比をより高くし、ノイズをより低減することができる。
【0102】
また、本発明では、駆動信号バイアス電圧VOBを高い電圧レベルとすることにより振動体4の電位と加振電極5の電位との直流電位差ΔVo(=VB−VOB)を大きくすることができるので、振動体バイアス電圧VBの方は低い電圧レベルに抑制でき、これにより、振動体4と振動検出電極6とが静電引力によって接触することを防ぐことができる。
【0103】
これにより、本発明による真空計は、上述の振幅一定方式においても、駆動信号の振動検出信号への混信を低減するとともに振動体4と検出電極6との静電引力による接触を防止した上で、高い圧力まで雰囲気の圧力Pを十分な精度で測定することができるものとなっている。
【符号の説明】
【0104】
1・・・錘
2・・・梁
3・・・振動体固定部
4・・・振動体
5・・・加振電極
6・・・振動検出電極
7,7A・・・容量圧力変換回路
9・・・位相シフト回路
10・・・電圧制御回路
11・・・駆動信号バイアス電圧源
12・・・信号合成部
13・・・振動体バイアス電圧源
15・・・初期加振用信号源
16・・・スイッチ回路
17・・・分圧回路
18・・・昇圧回路
21,21A・・・容量電圧変換回路
22・・・差動増幅器
23・・・抵抗
24・・・キャパシタ
25・・・検出バイアス電圧源
31・・・圧力変換回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動体と、該振動体と対向して静電力により振動体を駆動する加振電極と、該振動体と対向する検出電極と、振動体と検出電極との間の静電容量を検知することにより振動体の振動を検出する振動検出部と、振動体を加振する駆動信号を生成する駆動信号生成部とを有し、前記駆動信号を加振電極に印加し振動体を共振状態に保持して、振動体の振動特性から雰囲気の圧力を測定する圧力測定部を備えた真空計において、
振動体が加振電極と対向する位置を,振動体が検出電極と対向する位置よりも振動体の固定部に近い位置としてなり、
駆動信号生成部は、前記駆動信号として、交流信号に直流の駆動信号バイアス電圧が加算された信号を生成するとともに、
振動体の電位と加振電極の電位との直流電位差を,振動体の電位と検出電極の電位との直流電位差よりも大きくしてなる
ことを特徴とする真空計。
【請求項2】
請求項1に記載の真空計において、
振動体と加振電極との対向面積を,振動体と検出電極との対向面積より小さくしてなる ことを特徴とする真空計。
【請求項3】
請求項1または2に記載の真空計において、
直流の駆動信号バイアス電圧を生成する駆動信号バイアス電圧生成部と、直流の振動体バイアス電圧を生成する振動体バイアス電圧生成部とを有し、
前記振動体バイアス電圧は振動体に印加されるとともに、前記駆動信号バイアス電圧は振動体バイアス電圧と逆極性の直流電圧であることを特徴とする真空計。
【請求項4】
請求項1または2に記載の真空計において、
直流の駆動信号バイアス電圧を生成する駆動信号バイアス電圧生成部と、駆動信号バイアス電圧を分圧する分圧回路とを有し、
前記分圧回路の出力電圧は直流の振動体バイアス電圧として振動体に印加されてなる ことを特徴とする真空計。
【請求項5】
請求項1または2に記載の真空計において、
直流の振動体バイアス電圧を生成する振動体バイアス電圧生成部と、振動体バイアス電圧を昇圧する昇圧回路とを有し、
前記振動体バイアス電圧は振動体に印加されるとともに、前記昇圧回路の出力電圧は直流の駆動信号バイアス電圧とされてなることを特徴とする真空計。
【請求項6】
請求項1または2に記載の真空計において、
直流の検出バイアス電圧を生成する検出バイアス電圧生成部と、直流の駆動信号バイアス電圧を生成する駆動信号バイアス電圧生成部とを有し、
前記検出バイアス電圧は振動検出部における検出電極に接続される容量電圧変換回路に印加されて、検出電極の電位が前記検出バイアス電圧の電圧レベルになるとともに、振動体の電位は接地レベルとされ、駆動信号バイアス電圧の絶対値を、検出バイアス電圧の絶対値よりも大きくしてなることを特徴とする真空計。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の真空計において、
駆動信号生成部における交流信号は、振動検出部の検出信号に基づき、この検出信号の位相を変えて増幅することにより生成されることを特徴とする真空計。
【請求項8】
請求項7に記載の真空計において、
駆動信号生成部は、駆動信号における交流信号の電圧が一定となるように、振動検出部の検出信号の位相を変えた信号に対する増幅のゲインを調整し、
圧力測定部は、振動検出部の検出信号の大きさに基づいて圧力を測定することを特徴とする真空計。
【請求項9】
請求項7に記載の真空計において、
駆動信号生成部は、振動検出部の検出信号の大きさが一定となるように、振動検出部の検出信号の位相を変えた信号に対する増幅のゲインを調整し、
圧力測定部は、駆動信号における交流信号の電圧に基づいて圧力を測定することを特徴とする真空計。
【請求項10】
請求項7ないし9のいずれか1項に記載の真空計において、
駆動信号生成部は、振動体の固有周波数に対応した周波数の初期励振信号を出力する初期励振用信号源を備え、
振動体の初期駆動時には、前記駆動信号として、振動検出部の検出信号に基づく駆動信号の代わりに、初期励振信号に駆動信号バイアス電圧が加算された初期駆動信号を加振電極に印加することを特徴とする真空計。
【請求項1】
振動体と、該振動体と対向して静電力により振動体を駆動する加振電極と、該振動体と対向する検出電極と、振動体と検出電極との間の静電容量を検知することにより振動体の振動を検出する振動検出部と、振動体を加振する駆動信号を生成する駆動信号生成部とを有し、前記駆動信号を加振電極に印加し振動体を共振状態に保持して、振動体の振動特性から雰囲気の圧力を測定する圧力測定部を備えた真空計において、
振動体が加振電極と対向する位置を,振動体が検出電極と対向する位置よりも振動体の固定部に近い位置としてなり、
駆動信号生成部は、前記駆動信号として、交流信号に直流の駆動信号バイアス電圧が加算された信号を生成するとともに、
振動体の電位と加振電極の電位との直流電位差を,振動体の電位と検出電極の電位との直流電位差よりも大きくしてなる
ことを特徴とする真空計。
【請求項2】
請求項1に記載の真空計において、
振動体と加振電極との対向面積を,振動体と検出電極との対向面積より小さくしてなる ことを特徴とする真空計。
【請求項3】
請求項1または2に記載の真空計において、
直流の駆動信号バイアス電圧を生成する駆動信号バイアス電圧生成部と、直流の振動体バイアス電圧を生成する振動体バイアス電圧生成部とを有し、
前記振動体バイアス電圧は振動体に印加されるとともに、前記駆動信号バイアス電圧は振動体バイアス電圧と逆極性の直流電圧であることを特徴とする真空計。
【請求項4】
請求項1または2に記載の真空計において、
直流の駆動信号バイアス電圧を生成する駆動信号バイアス電圧生成部と、駆動信号バイアス電圧を分圧する分圧回路とを有し、
前記分圧回路の出力電圧は直流の振動体バイアス電圧として振動体に印加されてなる ことを特徴とする真空計。
【請求項5】
請求項1または2に記載の真空計において、
直流の振動体バイアス電圧を生成する振動体バイアス電圧生成部と、振動体バイアス電圧を昇圧する昇圧回路とを有し、
前記振動体バイアス電圧は振動体に印加されるとともに、前記昇圧回路の出力電圧は直流の駆動信号バイアス電圧とされてなることを特徴とする真空計。
【請求項6】
請求項1または2に記載の真空計において、
直流の検出バイアス電圧を生成する検出バイアス電圧生成部と、直流の駆動信号バイアス電圧を生成する駆動信号バイアス電圧生成部とを有し、
前記検出バイアス電圧は振動検出部における検出電極に接続される容量電圧変換回路に印加されて、検出電極の電位が前記検出バイアス電圧の電圧レベルになるとともに、振動体の電位は接地レベルとされ、駆動信号バイアス電圧の絶対値を、検出バイアス電圧の絶対値よりも大きくしてなることを特徴とする真空計。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の真空計において、
駆動信号生成部における交流信号は、振動検出部の検出信号に基づき、この検出信号の位相を変えて増幅することにより生成されることを特徴とする真空計。
【請求項8】
請求項7に記載の真空計において、
駆動信号生成部は、駆動信号における交流信号の電圧が一定となるように、振動検出部の検出信号の位相を変えた信号に対する増幅のゲインを調整し、
圧力測定部は、振動検出部の検出信号の大きさに基づいて圧力を測定することを特徴とする真空計。
【請求項9】
請求項7に記載の真空計において、
駆動信号生成部は、振動検出部の検出信号の大きさが一定となるように、振動検出部の検出信号の位相を変えた信号に対する増幅のゲインを調整し、
圧力測定部は、駆動信号における交流信号の電圧に基づいて圧力を測定することを特徴とする真空計。
【請求項10】
請求項7ないし9のいずれか1項に記載の真空計において、
駆動信号生成部は、振動体の固有周波数に対応した周波数の初期励振信号を出力する初期励振用信号源を備え、
振動体の初期駆動時には、前記駆動信号として、振動検出部の検出信号に基づく駆動信号の代わりに、初期励振信号に駆動信号バイアス電圧が加算された初期駆動信号を加振電極に印加することを特徴とする真空計。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−196833(P2011−196833A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64123(P2010−64123)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]