説明

真空部品用材料、真空部品、真空装置、真空部品用材料の製造方法、真空部品の処理方法及び真空装置の処理方法

【課題】 10-12Pa(H2)・m/sより低い真空部品からのガス放出率を達成することが可能な真空部品用材料の製造方法を提供すること。
【解決手段】 Cuと添加元素の合金の周囲を減圧する工程と、合金を昇温し、合金中から水素を排出するとともに、添加元素を合金の表面近傍に集めて析出する工程と、合金の温度を、水素を排出するため昇温した合金の温度以下で、室温以上の範囲に保ち、酸素単体、窒素単体、酸素+窒素の混合ガス、オゾン(O3)、酸素含有化合物、窒素含有化合物、或いは酸素窒素含有化合物に、又はこれらを組み合わせたものに、又はそれらのプラズマに合金を曝し、析出した添加元素と反応させて添加元素の酸化膜、窒化膜又は酸化窒化膜のうち何れか一を合金の表層に形成する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高真空を生成して処理を行なう真空装置に用いられる真空部品用材料、真空部品、真空装置、真空部品用材料の製造方法、真空部品の処理方法及び真空装置の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造装置、材料等の分析装置、或いは大型粒子加速器など、減圧雰囲気中で作業を行なう真空装置の必要性が益々増えている。真空装置においては、真空度が作業の質に直接関係するため、真空度の向上を図るべく真空材料の改良が鋭意行なわれている。
【0003】
下記特許文献1に、この出願の発明者と同じ発明者が創作した、真空部品に用いられる純銅、又は各種銅合金の表面処理が記載されている。表面処理として、電解研磨による表面クリーニングと、酸化膜層の還元のための排気後減圧状態でのベーキングとを順次行なって容器内面を純金属状態にして完成されることが記載されている。これにより、スパッタ装置或いは真空熱処理装置などの真空装置においては、水素換算圧(窒素換算圧では約一桁小さい値となる)で10-11Pa・m/s(以下、Pa(H2)・m/s)で示す。)程度のガス放出率が得られるようになった。
【特許文献1】特開平07−002277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、真空装置においては、さらなる超高真空の生成のため、10-12Pa(H2)・m/sより低い真空部品からのガス放出率が要求されるようになってきており、真空材料のさらなる改良が望まれている。
【0005】
本発明は、上記の従来例の問題点に鑑みて創作されたものであり、10-12Pa(H2)・m/sより低い真空部品からのガス放出率を達成することが可能な真空部品用材料、真空部品、真空装置、真空部品用材料の製造方法、真空部品の処理方法及び真空装置の処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するため、第1の発明は、真空部品用材料に係り、Cuと、添加元素であるBe、B、Mg、Al、Si、Ti及びVのうち少なくとも何れか一との合金からなる基材の表面に前記添加元素の酸化膜、窒化膜又は酸化窒化膜のうち何れか一を被覆したことを特徴とし、
第2の発明は、第1の発明の真空部品用材料に係り、前記基材の表面に被覆した前記添加元素の酸化膜、窒化膜又は酸化窒化膜のうち何れか一の上に、さらに炭素の膜が形成されていることを特徴とし、
第3の発明は、真空部品用材料の製造方法に係り、Cuと添加元素の合金の周囲を減圧する工程と、前記合金を昇温し、該合金中から水素を排出するとともに、前記添加元素を該合金の表面近傍に集めて析出する工程と、前記合金の温度を、前記水素を排出するため昇温した合金の温度以下で、室温以上の範囲に保ち、酸素単体、窒素単体、酸素+窒素の混合ガス、オゾン(O3)、酸素含有化合物、窒素含有化合物、或いは酸素窒素含有化合物に、又はこれらを組み合わせたものに、又はそれらのプラズマに前記合金を曝し、前記析出した添加元素と反応させて前記添加元素の酸化膜、窒化膜又は酸化窒化膜のうち何れか一を前記合金の表層に形成する工程とを有することを特徴とし、
第4の発明は、第3の発明の真空部品用材料の製造方法に係り、前記添加元素はBe、B、Mg、Al、Si、Ti及びVのうち少なくとも何れか一であることを特徴とし、
第5の発明は、真空部品に係り、第1或いは第2の発明に記載の真空部品用材料、又は第3或いは第4の発明のいずれか一に記載の真空部品用材料の製造方法により作製された真空部品用材料を加工して作製されたことを特徴とし、
第6の発明は、真空部品の処理方法に係り、減圧雰囲気に曝される真空部品の材料がCuと添加元素の合金である真空部品の処理方法であって、前記真空部品の周囲を減圧する工程と、前記真空部品を昇温して、該真空部品中から水素を排出するとともに、該真空部品中の添加元素を該真空部品の表面近傍に集めて析出する工程と、前記真空部品の温度を、前記水素を排出するため昇温した合金の温度以下で、室温以上の範囲に保ち、酸素単体、窒素単体、酸素+窒素の混合ガス、オゾン(O3)、酸素含有化合物、窒素含有化合物、或いは酸素窒素含有化合物に、又はこれらを組み合わせたものに、又はそれらのプラズマに前記真空部品を曝し、前記析出した添加元素と反応させて前記添加元素の酸化膜、窒化膜又は酸化窒化膜のうち何れか一を前記真空部品の表層に形成する工程とを有することを特徴とし、
第7の発明は、第6の発明の真空部品の処理方法に係り、前記添加元素はBe、B、Mg、Al、Si、Ti及びVのうち少なくとも何れか一であることを特徴とし、
第8の発明は、真空装置に係り、第5の発明の真空部品、又は第6或いは第7の発明の何れか一の真空部品の処理方法により作成された真空部品を備えたことを特徴とし、
第9の発明は、真空装置の処理方法に係り、減圧雰囲気に曝される真空部品を有し、該真空部品の材料がCuと添加元素の合金である真空装置の処理方法であって、前記排気系を通して前記真空装置内を排気し、減圧する工程と、前記減圧雰囲気に曝される真空部品を昇温して、該真空部品中から水素を排出するとともに、該真空部品中の添加元素を該真空部品の表面近傍に集めて析出する工程と、前記真空部品の温度を、前記水素を排出するため昇温した合金の温度以下で、室温以上の範囲に保ち、前記減圧雰囲気に曝される材料を酸素単体、窒素単体、酸素+窒素の混合ガス、オゾン(O3)、酸素含有化合物、窒素含有化合物、或いは酸素窒素含有化合物に、又はこれらを組み合わせたものに、又はそれらのプラズマに曝し、前記析出した添加元素と反応させて前記添加元素の酸化膜、窒化膜又は酸化窒化膜のうち何れか一を前記真空部品の表層に形成する工程とを有することを特徴とし、
第10の発明は、第9の発明の真空装置の処理方法に係り、前記添加元素はBe、B、Mg、Al、Si、Ti及びVのうち少なくとも何れか一であることを特徴としている。
【0007】
以下に、上記構成により奏される作用について説明する。
【0008】
この発明の真空部品用材料は、Cuと、添加元素であるBe、B、Mg、Al、Si、Ti及びVのうち少なくとも何れか一との合金からなる基材の表面に添加元素の酸化膜、窒化膜又は酸化窒化膜を被覆している。
【0009】
この真空部品用材料は、次のようにして作製し得る。即ち、Cuと添加元素の合金を昇温して、その合金中から水素を排出するとともに、合金中の添加元素を合金の表面近傍に集めて析出させる。その後、合金の温度を、水素を排出するため昇温した合金の温度以下で、室温以上の範囲に保ち、酸素単体、窒素単体、酸素+窒素の混合ガス、オゾン(O3)、酸素含有化合物、窒素含有化合物、或いは酸素窒素含有化合物などの処理剤に、又はこれらを組み合わせた処理剤に、又はそれらのプラズマに合金を曝して添加元素の酸化膜、窒化膜又は酸化窒化膜を形成する。
【0010】
真空部品用材料として金属材料を用いる場合、10-12Pa(H2)・m/s(水素換算圧)以下のガス放出率を得る上で、以下のようにすることが必須条件である。即ち、金属材料は多かれ少なかれ水素を含むため、金属材料中の水素を排出するとともに、金属材料表面に金属材料への水素の出入りを防止し得るようなバリア膜を形成する。
【0011】
Cu自体は水素が溶け込み難い材料であり、真空部品用材料として好ましい性質を有している。一方で、真空装置用のチャンバその他の真空部品として用いるにはCuは軟らかすぎる。この場合、Cuと、添加元素、具体的にはBe、B、Mg、Al、Si、Ti及びVなどの合金とすることにより、材料の強度と硬度をあげることができる。従って、真空部品用材料としてCuと上記添加元素の合金は好ましい。
【0012】
また、通常、Cu合金では、空気などに触れると表面に銅酸化膜が生じ易い。この銅酸化膜は完全ではないが水素を透過させにくい性質を有する。従って、Cu合金中から水素を排出することなく銅酸化膜で被覆された銅合金を真空部品として用いた場合、銅酸化膜を通してCu合金中から水素が少しずつ放出されるため、なかなか真空度が上がらない。
【0013】
本発明では、減圧雰囲気中でCu合金を加熱し、昇温することで、合金中の水素が合金の表面に集まり、合金の表面から放出される。この水素により、表面に銅酸化膜が生じている場合でも、表面に生じている銅酸化膜が還元され、分解される。これにより、合金中から水素が何の障害もなく外部に排出されるようになる。なお、真空部品用材料として、ステンレスを用いた場合、空気との接触により表面に水素を透過させにくいクロム酸化膜(酸化鉄との混晶もある)が生成される。この膜は熱処理を行なっても水素により還元されにくい。このため、水素排出処理を行なう前にクロム酸化膜が生成されてしまうと熱処理を行なっても本発明と異なりステンレス内部の水素を排出することが難しくなる。また、ステンレスで真空部品を作製した場合クロム酸化膜を通して内部の水素が少しずつ外部に出てくるため真空度も上がらないことになる。
【0014】
一方、減圧雰囲気中でCu合金を昇温することで、Cu合金中の添加元素、特に銅の原子番号より小さいBe、B、Mg、Al、Si、Ti及びVなどは原子半径が小さく軽いため、拡散により合金の表面に集まり易く、合金の表面に析出する。従って、引き続き、合金の温度を、水素を排出するため昇温した合金の温度以下で、室温以上の範囲に保ち、酸素或いは窒素のうち少なくとも何れか一を含む処理剤又はそれらのガスのプラズマに曝すことで、合金の表面に析出した添加元素を酸化又は窒化し、添加元素の酸化膜、窒化膜又は酸化窒化膜を形成する。このようにして形成された、添加元素、特にBe、B、Mg、Al、Si、Ti及びVなどの酸化膜等は水素に対する優れたバリア機能を有する。なお、添加元素としてCrを含むCu合金では、Crは合金の表面に集まり難いため、本発明と同じ処理を行なっても合金の表面に緻密なクロム酸化膜等を形成しにくい。従って、本発明と同じ処理により作製した、添加元素としてCrを含むCu合金表面のクロム酸化膜等は水素に対するバリア層としては十分とはいえない。
【0015】
このようにして作製された本発明の真空部品用材料では、材料内部の水素の含有量自体が少なく、かつ材料内部からの水素の放出を防止し得る。また、添加元素の酸化膜などにより、水の解離吸着によって発生する水素や、空気などからの水素が新たに材料中へ侵入するのを防止することもできる。従って、この合金を使った真空装置では、減圧と大気圧への復帰を交互に行なった場合でも、真空処理前にバリア層の表面に物理的吸着により付着した水分等を除くためにその場加熱処理するだけで、真空部品からの水素の放出を抑制して、そのガス放出率を10-12Pa(H2)・m/s以下に低減させ、容易に、超高真空を得ることができる。
【0016】
また、上記真空部品用材料を加工して真空部品を作製し、また、その真空部品を用いて真空装置を作製してもよい。これにより、そのような真空部品を備えた真空装置では、減圧雰囲気中への水素の放出を防止して、真空部品からのガス放出率を大幅に低減し、容易に超高真空を得ることができる。
【0017】
或いは、Cuと添加元素の合金素材に対して本発明の水素排出及びバリア層形成の処理を行なう前に、その合金素材を加工して真空部品を作製し、或いはさらにその真空部品を組立てて真空装置を作製し、その後、真空部品や真空装置の真空部品に対して本発明の水素排出及びバリア層形成の処理を行なってもよい。これにより、真空部品中の水素を低減し、かつ真空部品の表面に水素に対するバリア層を形成することができる。また、真空部品に対してこの発明の処理が施された真空装置では、減圧雰囲気中への真空部品からの水素の放出を防止して、そのガス放出率を大幅に低減し、容易に超高真空を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、この発明の真空部品用材料は、Cuと、添加元素であるBe、B、Mg、Al、Si、Ti及びVのうち少なくとも何れか一の合金からなる基材の表面に添加元素の酸化膜、窒化膜又は酸化窒化膜を被覆している。
【0019】
この真空部品用材料は、Cuと添加元素の合金を昇温して、その合金中から水素を排出するとともに、合金中の添加元素を合金の表層に析出し、その後、合金の温度を、水素を排出するため昇温した合金の温度以下で、室温以上の範囲に保ち、合金を酸素や窒素を含む処理剤或いはそのプラズマに曝して添加元素の酸化膜や窒化膜等を形成することにより作製し得る。
【0020】
本発明では、減圧雰囲気中でCuと添加元素の合金を加熱し、昇温することで、合金内部を水素を外方に拡散させて、表面から放出する。このとき、表面に銅酸化膜が生じている場合でも、この水素により、表面に生じている銅酸化膜が還元され、分解される。これにより、合金中から水素を障害なく排出し得る。一方で、合金内部で添加元素を外方に拡散させ、合金の表面に集めて析出させる。引き続き、合金の温度を、水素を排出するため昇温した合金の温度以下で、室温以上の範囲に保ち酸素や窒素等に曝すことで、合金の表面に析出させた添加元素を酸化や窒化等して、添加元素の酸化膜や窒化膜等を形成する。このようにして形成された、添加元素、特にBe、B、Mg、Al、Si、Ti及びVのうち少なくとも何れか一の酸化膜等は水素に対する優れたバリア機能を有する。
【0021】
このように、本発明の真空部品用材料では、材料内部の水素の含有量自体を減らし、かつ材料内部からの水素の放出及び空気などからの水素の材料中への侵入を防止することができる。従って、必要な場合、真空処理前にバリア層の表面に付着した水分等を除くために数百℃のその場ベーキングをするだけで、容易に10-12Pa(H2)・m/s以下の真空部品からのガス放出率を達成することができる。
【0022】
また、上記真空部品用材料を加工して真空部品を作製し、また、その真空部品を用いて真空装置を作製してもよい。或いは、Cuと添加元素の合金に対して本発明の水素排出及びバリア層形成の処理を行なう前に、その合金を加工して真空部品を作製し、或いはさらにその真空部品を組立てて真空装置を作製し、その後、真空部品や真空装置の真空部品に対して本発明の水素排出及びバリア層形成の処理を行なうことで、真空部品内部の水素含有量を低減し、かつ真空部品の表面に水素に対するバリア層を形成することができる。
【0023】
これにより、真空部品に対してこの発明の処理が施された真空装置では、減圧雰囲気中への水素の放出を防止して、真空部品からのガス放出率を大幅に低減し、容易に超高真空を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0025】
(第1の実施の形態)
(i)調査及びその結果
以下に、この発明を創作するに至った調査及びその結果について説明する。
(真空熱処理による銅合金の表面変化)
(a)試料の作製
調査用試料の合金素材として、0.2%ベリリウム含有銅合金(0.2%BeCu合金)(2%のNiを含む)及び2%ベリリウム含有銅合金(2%BeCu合金)(2%のNiを含む)を用いた。また、比較調査試料として、0.6%クロム含有銅合金(0.6%CrCu合金)、1.6%クロム含有銅合金(1.6%CrCu合金)を用いた。この合金素材を直径5mm、高さ5mmの円柱状に加工したものを4個用意し、それらを調査用試料とした。
【0026】
それら4個の調査用試料を真空度10-6Paの減圧雰囲気中で、それぞれ以下の4条件で熱処理を行なった。
【0027】
(α)300℃、24時間
(β)400℃、24時間
(γ)400℃、72時間
(δ)500℃、24時間
熱処理後、室温まで温度を下げてから、調査用試料を酸素に曝した後、大気中に取り出した。そして、さらに、そのまま大気中に約1カ月放置した。
【0028】
(b)調査方法及びその結果
全試料について、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)表面分析計により、熱処理前及び上記熱処理後における表面原子層の元素の分布を調査した。
【0029】
その結果を図1(a)、(b)に示す。図1(a)、(b)において、縦軸は線形目盛で表した、測定された種々の原子の濃度(at%)を示し、横軸は(A)乃至(E)の熱処理条件を示す。熱処理条件(A)乃至(E)はグラフ中、下部に記載している通りである。なお、クロム含有銅合金についても同様な調査を行い、その結果を図2(a)、(b)に示す。縦軸及び横軸の表示は図1(a)、(b)と同じである。
【0030】
また、温度400℃、72時間の熱処理をしたベリリウム含有銅合金について、原子の面内分布比率を深さ方向に順次測定した結果を図3(a)、(b)に示す。深さ方向の測定面はアルゴンエッチングにより順次表出させた。図3(a)、(b)において、縦軸は線形目盛で表した、測定された種々の原子の濃度(at%)を示し、横軸は線形目盛で表したアルゴンエッチングの時間(分)を示す。なお、クロム含有銅合金についても同様な調査を行い、その結果を図4(a)、(b)に示す。縦軸及び横軸の表示は図3(a)、(b)と同じである。
【0031】
ベリリウム銅合金に関する図1(a)、(b)及び図3(a)、(b)の結果より、以下の(α)乃至(δ)が分かった。
【0032】
(α)プリベーク条件が300℃から400℃と高温になるに従って、また、ベーク時間が24時間から72時間と長くなるに従って、バルクから表面へのBe金属原子の拡散量が増す。
【0033】
(β)合金材料の表面のBeの割合が増すに従って、合金材料の表面のカーボン汚染の割合が減少する。400℃、72時間の熱処理では、BeOの割合が最大となって、表面汚染のカーボン量も減る。
【0034】
(γ)1.9〜2%ベリリウム含有銅合金では、その効果は更に顕著で、300℃、24時間の最も低温の熱処理条件でも拡散するBe量は飽和に達している。さらに、高温、かつ長時間の熱処理でも、表面でのBe原子の占める割合は増えない。このことから、Beの約38%がBeO100%の表面状態と推測される。
【0035】
(δ)深さ方向に対しても、10〜15nm(4.5nm/分)の深さまで酸化ベリリウム層が形成されていることが分かる。また、2%ベリリウム含有銅合金(図3(b))では15〜20nmの深さまでの酸化ベリリウム層が形成されていることがわかる。ちなみに、この熱処理を行わなかった場合(機械加工のみ)の添加金属の酸化膜の厚さは数nm〜5nm程度しかない。一方、ベリリウム含有量が少ない0.2%ベリリウム含有銅合金であっても、400℃、72時間の熱処理を施せば、2%ベリリウム含有銅合金と同じ効果が得られる。Beの割合は34%にまで達していることから、表面の約90%はBeO膜になっていると推測できる。
【0036】
これに対して、クロム銅合金に関する図2(a)、(b)及び図4(a)、(b)の結果より、以下の(α)乃至(γ)が分かった。
【0037】
(α)表面層の約50%は炭素(又はCO)で汚染されており、熱処理前後においても表面原子の比率はほとんど変化しない。
【0038】
(β)2番目に酸素原子、3番目にCu原子がCuO又はCu2Oからなる酸化層として存在しており、Cr2O3膜の占める割合は小さい。緻密なCr2O3膜が形成されているとは言い難い。
【0039】
(γ)1.6%クロム含有銅合金では、400℃ベーク後にCr2O3膜の占める割合はCuOのそれに比べて大きくなるが、Cの汚染の割合は0.6%合金より大きい。
【0040】
結論として、超高真空用の構造材料として調査した4種類の銅合金のうち、以下の試料が真空部品用材料として最適である。その試料は、0.2%ベリリウム含有銅合金に対して減圧雰囲気中で400℃、72時間の熱処理を施し、その後温度を下げて酸素ガスに曝した試料である。さらに、その合金は、電気伝導度も大きく、比較的安価であり、有毒なベリリウム量も少なく、かつ表面汚染も小さいという面からも好ましい。
(昇温脱離ガススペクトル分析(TDSスペクトル分析))
(a)調査用試料の作製
図5のような、直径46mmの円筒と一体状の直径70mmのフランジ1と、フランジ1の片側の開口端を外気から遮断する蓋材4とを組み合わせたチャンバ試料と、イオン源フランジ2と下部フランジ3とで構成した四重極残留ガス分析計(RGA:residual gas analyzer)とを準備した。これらの真空部品1乃至4は市販の0.2%ベリリウム含有銅合金の無垢材を削り出して作製した。
【0041】
合金素材の機械切削加工後、これらの真空部品は50%の燐酸希釈液中で陽極電解研磨を施し、蒸留水でリンスした。その後、銀コートした銅ガスケット11a、11b、11cを挟んで、チャンバ試料に四重極残留ガス分析計を取り付けた。さらに、チャンバ試料及び四重極残留ガス分析計の外壁にシースヒータ5を巻き付けた。チャンバ試料の温度は熱電対13により測定される。
【0042】
次に、イオン源フランジ2及び下部フランジ3の詳細を説明する。
【0043】
イオン源フランジ2は、スリット6aを有する質量分析計のイオン源アノード電極6と、アパーチャ7aを有する電極7と、アノード6に吸着している雰囲気以外のガスを追い出すためのアノードヒータ8と、イオン化のための電子放射源であるフィラメント(カソード)9と、絶縁のための石英10とを備えている。アノードヒータ8はガス分析中はオフにされる。
【0044】
また、下部フランジ3は4本のQポール12を備えている。図面では2つしか記載されていないが、実際には2本ずつ互いに対向するように計4本設けられている。互いに対向するQポール12を結線しておき、2本の対の間に直流と交流を重畳した高周波電圧を印加すると、その電圧比に共振した質量のイオンだけがQポール12の間を通過する。即ちマスフィルタと称される質量分析計である。真空の雰囲気ガス分析を行なう場合は、残留ガス分析計(RGA)と称されることが多い。
【0045】
カソード9を加熱して電子を放出させ、アノード6のスリット6aを通してアノード6内側に向かって電子を打ち込むと、アノード6内側にある雰囲気ガスのイオンが生成される。ガスイオンは電極7のアパーチャ7aを通してQポール12に送られて質量分析が行なわれる。
【0046】
(b)調査方法及びその結果
昇温脱離ガススペクトル分析調査は、シースヒータ5により約0.5℃/秒の速度で昇温し、温度上昇に伴うガス放出特性を調べることにより行なった。この場合、比較のため、チャンバ試料に以下に説明する2種の処理を加え、その処理前後の昇温脱離ガススペクトル分析調査を行なった。
【0047】
それらの調査結果を図6(a)、(b)に示す。図6(a)は処理前のチャンバ試料(試料A)に対する昇温脱離ガススペクトル分析の調査結果を示す。図6(b)は、減圧雰囲気中400℃、72時間の熱処理後のチャンバ試料(試料B)に対する昇温脱離ガススペクトル分析の調査結果を示す。各図において、縦軸は対数目盛で表したガス放出強度(A)を示し、横軸は線形目盛で表した測定温度(℃)を示す。ガス放出強度(A)はRGAの出力電流である。測定温度は25℃〜450℃以上までの範囲とした。
(α)試料A
0.2%Be、2%Ni、残りCuの0.2%ベリリウム含有銅合金の比率から、電解研磨後の表面原子の97%以上は銅酸化混晶(CuCO3・Cu(OH)2)nH2Oになっていると考えられる。従って、図6(a)に示すように、水分(H2O)のスペクトルにおいて測定温度約94℃で現れる第1のピークは、この混晶の熱分解(脱離)により発生する水分を示していると推定される。同じく290℃に現れる第2のピークは、銅内部から拡散してくる水素原子による還元反応により銅酸化膜が分解し、それに伴い発生する水分を示していると推定される。第2のピークを過ぎたあたりで水素の急激な増大が起こるのは、この反応とさらには内部から拡散してくる水素の増大を表していると考えられる。
【0048】
結論として、減圧雰囲気中で、300℃以上、好ましくは400℃付近での熱処理を施せば、銅内部の水素を拡散させて表面から排出させることができる。
(β)試料B
試料Aの状態にあるチャンバ試料を一旦残留ガス分析計イオン源フランジから取り外し、チャンバ試料内壁の表面酸化層を電解研磨で除去し、表面をほぼ初期状態(97%以上が銅である表面)に戻した。この状態から、チャンバ試料を別の減圧熱処理チャンバに移し、400℃、72時間の熱処理を行なった。次いで、試料の温度を40℃まで下げてから試料を酸素ガスに曝した。これにより、チャンバ試料表面には再びBeO膜が形成される(図1(a)のDデータを参照)。その後、チャンバ試料に残留ガス分析計イオン源フランジを取り付けた。これを、試料Bとして昇温脱離ガススペクトル分析調査を行なった。
【0049】
図6(b)に示すように、水分のスペクトルにおいてピーク(第3のピーク)は一つになり、その強度も小さくなった。このことは、表面層はBeOの単一化合物構造であり、昇温によって表面層の還元反応による構造変化は起こっていないことを示している。
【0050】
また、試料A,Bに関し、水素(H2)のスペクトルから、最大昇温温度450℃における水素のガス放出強度を比較すると、試料Bは、試料Aに対して約1/10まで小さくなっていることがわかる。これは、試料Bの作製時において減圧雰囲気中で行った水素抜きの加熱処理(400℃、72時間)の効果があらわれていることを明白に示している。
(ガス蓄積法によるガス放出率調査)
(a)調査用試料の作製
図7にこの調査に用いた圧力上昇法によるガス放出率測定実験装置を示す。
【0051】
その作製方法は、以下の通りである。まず、0.2%ベリリウム含有銅合金からなる直径152mmの2枚の変換フランジ22、23であって、中央部にガス流通穴が形成された変換フランジ22、23と、外径152mm(内径100mm)、長さ300mmのニップルチャンバ21と、0.2%ベリリウム含有銅合金からなる直径99mm、厚さ20mmのディスク24であって、中央部に5mmの穴24aの開いた15枚のディスク24とを準備する。
【0052】
すべての真空部品に対して真空熱処理炉で400℃、72時間の減圧中で熱処理を加え、その後温度を室温まで下げた後、各真空部品を純酸素に曝した。その後、大気中に約1週間放置した後、ニップルチャンバ21内に、ディスク24を15枚挿入し、さらに銀コート銅ガスケットを挟んで変換フランジ22、23を取り付けた。このときのV/A=2×10-5mとした。ここで、Vはニップルチャンバ21内の隙間の全体積、Aはディスク24、ニップルチャンバ21及び変換フランジ22、23の減圧雰囲気側全内表面積である。さらに、ともにステンレス製である、スピニングロータゲージ(SRG)31とミニシールバルブ26をフランジ23a、22aを介し、銀コート銅ガスケットを挟んで変換フランジ22、23に取り付けた。SRG31とミニシールバルブ26は予め350℃、24時間のプリベーク熱処理を施した。ミニシールバルブ26はフランジ22aとジョイント27の間に設けられて、ニップルチャンバ21内を排気するときに開け、ニップルチャンバ21内にガスを蓄積するときに閉じる。
【0053】
そして、ニップルチャンバ21内のガスを分析する残留ガス分析計28、真空度を測定するゲージ29、ニップルチャンバ21、ターボモリキュラーポンプ(TMP)が相互に並列的にジョイント27に接続される。TMPにより、ジョイント27を介してニップルチャンバ21等が排気される。
【0054】
図7中、符号30はジョイント27とTMPの間に設けられたメインバルブ(MV:Main Valve)である。
【0055】
なお、比較のため、上記と全く同一形状の装置をステンレス304で作製した。
(b)調査方法及びその結果
ガス放出率Q(t)(Pa・m/s)は、次式を用いて求められる。
Q(t)=V/A・ΔP(t)/Δt
ここで、ΔP(t)/Δtは単位時間当たりのニップルチャンバ21内の圧力変化を示す。圧力P(Pa)は、SRG31により測定した。なお、ステンレス製であるミニシールバルブ26及びSRG31の内表面(面積は全内表面積の0.7%に当たる)からのガス放出も含む。
【0056】
次に、長時間にわたる蓄積時間に対するガス放出率の変化の様子について説明する。
【0057】
図8(a)は0.2%ベリリウム含有銅合金についての蓄積時間に対する圧力上昇変化の様子を示すグラフである。図8(b)は、ステンレス(SUS304)について同じ調査を行なった比較データを示すグラフである。ともに、縦軸は対数目盛で表した圧力P(Pa(H2))を示し、横軸は対数目盛で表した蓄積時間t(h)を示す。測定前に、試料のその場ベーキングを200℃で、24時間行う。冷却後、試料温度に関し、0.2%ベリリウム含有銅合金の場合、20、44、63、84℃とし、ステンレスの場合、20、55、99℃とした。
【0058】
ガス放出率を測定する前に、上記温度で排気系と平衡な圧力になるまで待って、試料温度を一定に保った状態で、排気装置と繋がるガス流通路を閉じてニップルチャンバ21内をシールした。その後、以下のように時間経過に従って逐次圧力Pを測定した。
【0059】
図8(a)に示すように、蓄積時間に対する圧力上昇曲線は完全に非直線で、試料温度84℃に保った場合、直線になるまで4乃至5日を要した。その後、さらに約3週間の蓄積を行い、完全に直線に載ることを確認した。さらにその後、ガス流通路を開いて中に蓄積されたガスを排気し、同時に、残留ガス分析計28を使ってニップルチャンバ21内に蓄積されたガスを分析した。この結果、99.99%以上が水素であることを確認した。
【0060】
次に、ガス流通路を開いたまま、試料温度を63℃まで下げて安定な状態の排気を24時間続けた。その後、再びガス流通路を閉じて63℃の蓄積を行なった。その後、上記と同様にガス放出率を測定した。この方法により、順次、試料温度44℃、20℃でのガス放出率を繰り返し測定した。
【0061】
図8(a)によれば、0.2%ベリリウム含有銅合金のP(t)曲線、即ちΔP/Δtは完全に非直線であった。Redheadの再吸着モデル(P.A. Redhead, J. Vac. Sci. Technol. A14, 2599(1996)を参照)が正しいことを示している。蓄積後1週間程度で、P(t)曲線はP(t)=k1・t1/2に漸近してきて直線になり、ガス放出量は時間の経過に伴って少なくなる。ガス放出率がt-1/2に比例することは、試料の表面が完全に水素原子で終端された状態に達し、銅合金のガス放出はバルク内部からの拡散によって完全に律速されていることを示している。図1乃至4のデータから、BeO膜はかなり緻密であるとはいっても全く水素を通さないとは考えにくい。従って、P(t)がt1/2に比例するということは、水素の濃度勾配はバルク24中で生じていると考えられる。即ち、図9(a)のモデルで示すように、バルク24中に水素の濃度勾配が生じていて、拡散律速に基づいてガス放出が起こっていると考えられる。なお、図9(a)中、符号24は図7で説明したと同じディスク、32はBeO膜である。
【0062】
これに対して、図8(b)に示すステンレス304の場合、P(t)=k2・tで、これまで報告されてきたガス蓄積法によるデータと同じである。これらのガス放出理論では、ステンレスバルク内の水素は非常に多量にあり、Cr2O3膜を透過してきた水素原子が会合し、水素分子となってガス放出が起こる会合律速であるといわれていた。しかし、本調査の結果からは、図9(b)のモデルのように、ステンレスバルク33内の水素は、Cr2O3膜34により放出が妨げられ、超高真空におかれた室温状態では、透過律速でガス放出率が決定されていると推定される。ステンレスバルク33内の水素濃度は銅合金に比較すれば桁違いに多いため、時間が経過してもCr2O3膜34内の水素濃度はほとんど変化しない。このため、ガス放出率は一定になる。従って、ステンレスからのガス放出は従来の会合律速ではなく、透過律速といえる。これを裏付ける根拠としては、前出のRedheadが予言したように、ステンレス鋼でも非直線が1時間以内の蓄積部に現れていることにある。つまり、ステンレスでもある程度の時間が経過し、表面吸着サイトが水素で100%覆われるまでは、非直線が現れる。これまで報告されたすべてのステンレスのガス放出率は、V/Aの値が大きいため、ガス流通路の閉鎖後、P(t)が完全な直線に達してからしか測定できなかった。このため、Redheadの非直線が観察できなかったのだと考えられる。
【0063】
図10は、ガス放出率の最小値と熱処理温度の関係を示すグラフであり、アレニウスプロットである。図10において、縦軸は対数目盛で表したガス放出率(Pa(H2)・m/s)を示し、横軸は線形目盛で表した1000/T(/°K)を示す。
【0064】
図10において、0.2%ベリリウム含有銅合金の場合、図8(a)のグラフで、3〜4週間経過した後のt1/2に完全に載る部分のガス放出率をプロットした。また、ステンレス304の場合、4日経過した後の直線部分で求めた値をプロットした。
【0065】
図10によれば、ステンレス304の場合は完全に直線に載るが、0.2%ベリリウム含有銅合金の場合、直線ではなく緩やかなカーブを示す。この理由は、後者の場合は測定が重ねられるにつれて、即ち時間経過とともに試料バルク内の水素量がどんどん減っているからであると推測される。即ち、銅材は真空中に放置される時間が長ければ長いほどいくらでもガス放出を小さくできることを示している。特に、0.2%ベリリウム含有銅合金の場合、100℃の昇温状態のガス放出率でもステンレスの室温状態のガス放出率よりもはるかに小さいことである。測定終了時における0.2%ベリリウム含有銅合金のガス放出率は5.6×10-13Pa(H2)・m/sまで低下した。また、同じ温度で比較したとき、0.2%ベリリウム含有銅合金のガス放出率はステンレスの1/375である。さらに、測定に用いたSRG31とシールバルブ26にまだステンレスの部分(0.7%)が残っていることと、ガスケットはプリベークを施していないことを考慮すれば、0.2%ベリリウム含有銅合金のガス放出率は10-14Pa(H2)・m/sオーダの極微ガス放出率に達していると推定される。
【0066】
なお、上記実験では銅合金に対して酸素を用いた処理を行ない、銅合金の表面に添加元素の酸化膜からなるバリア膜を形成しているが、酸素の代わりに、窒素単体、酸素+窒素の混合ガス、オゾン(O3)を用いて、添加元素の酸化膜、窒化膜又は酸化窒化膜からなるバリア膜を銅合金の表面に形成することもできる。また、酸素の代わりに、酸素含有化合物、窒素含有化合物、酸素窒素含有化合物、例えばNOガスなどを用いてもよい。さらに、上記処理剤のプラズマを用いてもよい。
【0067】
このバリア膜の厚さは、図3(a)、(b)の説明のように、機械切削や電解研磨後に大気酸化によって自然形成される膜より厚く、具体的には5nm以上の厚さで、表面の90%以上を占めることが必要である。
【0068】
また、銅合金の添加元素としてベリリウム(Be)を用いているが、Beの代わりに、B、Mg、Al、Si、Ti又はV単体を用いてもよいし、Be、B、Mg、Al、Si、Ti又はVのうち2以上の組み合わせからなる添加元素を用いることができる。
(ii)真空部品用材料及びその製造方法
以上の調査結果に基づき、以下に、この発明の第1の実施の形態に係る真空部品用材料及びその製造方法について説明する。
【0069】
その真空部品用材料は、Cuと、添加元素であるBe、B、Mg、Al、Si、Ti及びVのうち少なくとも何れか一の合金からなる基材の表面に添加元素の酸化膜、窒化膜又は酸化窒化膜のうち何れか一を被覆してなる。
【0070】
次に、図11を参照して上記真空部品用材料の製造方法について説明する。図11はその製造方法を示すフローチャートである。
【0071】
まず、Cuと添加元素の合金(以下、Cu合金と称する。)を準備する(P1)。Cuと添加元素の合金として、Be、B、Mg、Al、Si、Ti又はV単体、或いはこれらのうち2以上の組み合わせからなる添加元素を含むCu合金を用いることができるが、ここでは、0.2%のBeと、2%のNiと、残りCuとからなるCu合金を用いる。
【0072】
このCuと添加元素の合金の周囲を凡そ真空度10-6Pa程度に減圧する(P2)。
【0073】
次いで、減圧雰囲気中でCu合金を加熱し、凡そ400℃に昇温する(P3)。この温度を24時間乃至72時間程度維持する。なお、温度400℃以上では、Cu合金の軟化が起こり、この材料をフランジなどの真空部品に適用した場合は、ナイフエッジ部の硬度が不十分となる。また、Beの含有量が0.2%と少ない場合であっても、図1(a)のDデータ及び図6(a)より、温度400℃であれば、水素を積極的に放出させながら、Beの表面集積が可能となる。
【0074】
このとき、最初に、Cu合金内部を水素が外方に向かって拡散していき、Cu合金の表面近傍に到達する。Cu合金の表面に銅酸化膜が生じている場合、Cu合金中を拡散してきた水素により銅酸化膜が還元され、分解される。これにより、水素はCu合金中から障害なく排出される。一方で、添加元素がCu合金の表面近傍に集まり析出する。
【0075】
次に、Cu合金の温度を40℃位に下げた(P4)後、酸素単体、窒素単体、酸素+窒素の混合ガス、オゾン(O3)、酸素含有化合物、窒素含有化合物、或いは酸素窒素含有化合物などの処理剤に、又はこれらを組み合わせた処理剤に、又はそれらのガスのプラズマにCu合金を曝す(P5)。ガスのプラズマのうち、例えば、窒素プラズマは100Paの純窒素を導入することによってグロー放電を起こさせることにより発生させる。これによって、低温で、不活性な窒素と添加元素との反応を起こさせることができる。なお、この処理を行なうときのCu合金の温度は40℃に限られない。Cu合金中の添加元素の種類や酸素などの処理ガスの種類により上限の処理温度が決まる。この実施例のように、BeCu合金に対して酸素を用いた場合、処理温度が100℃以下であれば、図1(a)、3(a)などに示すように、緻密で薄いBeO酸化膜を形成することができる。それ以上の温度だと、酸素がBeO酸化膜を通りすぎてバルクの銅まで達し、不安定な酸化膜が形成される虞がある。
【0076】
これにより、Cu合金の表面近傍に集まり析出した添加元素は、酸素単体、窒素単体、酸素+窒素の混合ガス、オゾン(O3)、酸素含有化合物、窒素含有化合物、或いは酸素窒素含有化合物などの処理剤と、又はこれらを組み合わせた処理剤と、又はそれらのプラズマと反応して、添加元素の酸化膜、窒化膜又は酸化窒化膜のうち何れか一がCu合金の表層に形成される。添加元素、特にBe、B、Mg、Al、Si、Ti及びVのうち少なくとも何れか一の酸化膜等は緻密で水素に対する十分なバリア機能を有する。
【0077】
以上のように、本発明の第1の実施の形態の真空部品用材料の製造方法では、表面に銅酸化膜が生じている場合でも、減圧雰囲気中でCuと添加元素の合金を加熱し、昇温すると、合金中の水素が表面に集められ、この水素により、表面に生じている銅酸化膜が還元され、分解される。これにより、合金中から水素が何の障害もなく排出される。
【0078】
一方で、上記昇温により、合金中の添加元素は拡散により合金の表面に析出する。次いで、合金の温度を下げて合金を酸素等に曝すと、合金の表面に析出した添加元素が酸化等されて、添加元素、具体的にはBe、B、Mg、Al、Si、Ti及びVなどの酸化膜等が形成される。
【0079】
この添加元素の酸化膜等は優れた水素のバリア層であるので、添加元素と銅の合金中の水素が効果的に排出され、かつその表層に優れた水素のバリア層が形成された真空部品用材料を作成することができる。このような熱処理以降、合金を空気に曝しても合金中への水素の侵入を防止することができる。
【0080】
従って、この合金を加工して作製した真空装置では、真空処理前にバリア層の表面に付着した水分等を除くために加熱処理するだけで、容易に10-13Pa(H2)・m/s以下の真空部品からのガス放出率が達成され、これを用いた真空装置では容易に超高真空を得ることができる。特に、NOなどの水素を含まないガス或いは窒素プラズマに曝して窒化膜(一部は酸化窒化膜となっていると考えられる。)を形成した場合、窒化膜では水分の吸着が酸化膜に比べて少ないと考えられるので、その場ベーキングをしなくても容易に低ガス放出を達成することができる。
【0081】
(第2の実施の形態)
以下に、この発明の第2の実施の形態に係る、真空部品、或いは真空部品を備えた真空装置の処理方法について説明する。
【0082】
この処理方法の対象として、減圧雰囲気中で処理を行なうチャンバ(真空容器)及び該チャンバ内を排気する排気系を備え、チャンバ及び排気系その他に用いられる真空部品のうち少なくとも何れか一の材料で、かつ減圧雰囲気に曝される材料がCuと添加元素、具体的にはBe、B、Mg、Al、Si、Ti及びVのうち少なくとも何れか一の合金である真空装置を用いる。
【0083】
真空部品として、真空壁材、真空継手、真空配管、真空ポンプ、真空バルブ、覗き窓、ボルト、ナット、真空モータ、真空計、質量分析計、表面分析計、電子顕微鏡、電気端子類、電極、真空内配線のリード線、基板保持具、金属真空管、真空表示装置又は真空処理炉の熱反射板(リフレクター)などが挙げられる。真空装置として、プラズマCVD、プラズマエッチング、スパッタ成膜、スパッタエッチング、イオンインプランテーション、プラズマ表面処理などを行なうプラズマ処理装置、或いは、熱CVD、分子線エピタキシ、原子層エピタキシ(ALE)、不純物拡散、表面処理、真空蒸着その他種々の処理を行なう減圧処理装置などに適用可能である。また、粒子加速器、ストレージリング、スペースチャンバなど大型真空装置にも適用可能である。
【0084】
まず、排気系を通してチャンバ内を排気し、減圧する。
【0085】
次いで、減圧雰囲気中でチャンバを昇温して、チャンバを含む真空部品中から水素を排出させる。この場合、真空部品表面に銅酸化膜が生じている場合でも、表面近傍に集められた水素により、表面に生じている銅酸化膜が還元され、分解される。これにより、真空部品中から水素を障害なく排出し得る。さらに、昇温によりこのとき同時に、真空部品の合金材料を構成する添加元素を真空部品の表面近傍に集めて析出させる。
【0086】
次に、真空部品の温度を下げた後、酸素単体、窒素単体、酸素+窒素の混合ガス、オゾン(O3)、酸素含有化合物、窒素含有化合物、或いは酸素窒素含有化合物などの処理剤に、又はこれらを組み合わせた処理剤に、又はそれらのプラズマに真空部品を曝し、真空部品の表面近傍に集めて析出させた添加元素と反応させて添加元素の酸化膜、窒化膜又は酸化窒化膜のうち何れか一を真空部品の表層に形成する。
【0087】
以上のように、第2の実施の形態に係る真空部品又は真空装置においては、真空部品や真空装置の真空部品に対して第1の実施の形態の水素排出及びバリア層形成の処理を行なうことで、真空部品中の水素を低減し、かつ真空部品の表面に水素に対するバリア層を形成することができる。これにより、真空部品に対してこの発明の処理が施された真空装置では、減圧雰囲気中への水素の放出を防止して、真空部品からのガス放出率を10-13Pa(H2)・m/s以下に低下させ、容易に超高真空を得ることができる。
【0088】
(第3の実施の形態)
次に、アルミニウム青銅合金に関し、本発明を適用し得ることを確認した実験について説明する。
【0089】
アルミニウム青銅合金にはアルミニウムと銅の2元合金のほかに、微量の鉄、マンガン、ニッケルを添加して強度を高めた特殊アルミニウム青銅合金がある。そして、特殊アルミニウム青銅合金のうち、代表的なものとして、第1種(JIS合金番号C6161)と、第2種(JIS合金番号C6191)と、第3種(JIS合金番号C6241)とがあり、アルミニウムの含有量によって分類される。
【0090】
第1種は、アルミニウムの濃度が7.0-10%の合金である。2元合金状態図から類推してこの合金は800℃の高温下に置かれても、またその温度から徐冷したとしても常にα相という安定な結晶構造をとる。ロックウエル硬度はB84程度で安定し、常温加工性も優れた特性を有する。3種類の特殊アルミニウム青銅合金の中では、熱伝導率、電気伝導率が高い。
【0091】
第2種は、アルミニウムの濃度が8.5-11.0%の合金である。この合金は硬度がB90(SUS304にほぼ同じ)と非常に高くなり、強度も増す。また、高温加工性が良くなり、結晶構造はα相+β相の混晶をとる。しかし、この合金は565℃乃至370℃の温度範囲にあるときはβ相が不安定でγ2相(Cu9Al4)が発生し、硬度は上がるが金属を脆くさせる相が成長する。高強度合金としてはγ2相は大きな弱点になる。これを防ぐため、この金属を加工後熱処理する場合は、600℃以上に保ち、水冷などにより565℃乃至370℃の温度範囲を早く通過させて降温させることが多い。
【0092】
第3種は、アルミニウムの濃度が9.0-12.0%の合金である。第2種をさらに高強度にした合金である。γ2相がより発生しやすく、衝撃で容易に割れるほどである。これを防ぐため、水冷などにより急冷することが重要である。
【0093】
これまでは、特殊アルミニウム青銅合金は真空部品材料として用いられたことはないが、上記の特性を考慮すると、本発明により脱ガスを少なくすることができれば、特殊アルミニウム青銅合金はすべての真空部品材料に適用可能性がある。中でも、第1種は電気端子類やベローズやチャンバに、第2種はナイフエッジフランジなど硬度を必要とする部分にそれぞれ適している。
【0094】
次に、上記特殊アルミニウム青銅合金について、本発明の適用による効果を確認するため、真空熱処理による銅合金の表面変化、昇温脱離ガススペクトル分析(TDSスペクトル分析)に関して行った調査を説明する。
(真空熱処理による銅合金の表面変化)
(a)調査用試料の作製
調査用試料の合金素材として、特殊アルミニウム青銅合金第2種(Cu:81-88%,Al:8.5-11%,Fe:3-5%,Ni:0.5-2%,Mn:0.5-2%)を用いた。この合金素材を直径5mm、高さ5mmの円柱状に加工したものを2個用意し、それらを調査用試料C、Dとした。
【0095】
調査用試料C、Dは、次のようにして作製された。試料Cは、電解研磨しただけで空気中に保管した。試料Dは、電解研磨し、その後、真空度10-6Paの減圧雰囲気中で、500℃、24時間熱処理後、室温まで温度を下げてから、酸素に曝した後、大気中に取り出した。
【0096】
(b)調査方法及びその結果
各試料C、Dについて、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)表面分析計により、表面原子層での元素の分布を調査した。すなわち、熱処理前及び熱処理後の表面原子層での元素の分布状態が得られた。
【0097】
その結果を図12(a)、(b)に示す。図12(a)、(b)はそれぞれ、試料C、Dに関し、原子の面内分布比率を深さ方向に順次測定した結果を示す。深さ方向の測定面はアルゴンエッチングにより順次表出させた。図12(a)、(b)において、縦軸は線形目盛で表した、測定された種々の原子の濃度(at%)を示し、横軸は線形目盛で表した、アルゴンエッチングの時間(分)を示す。アルゴンエッチングレートは4.5nm/分である。
【0098】
試料Cでは、熱処理前の試料表面の酸化層は薄く、数nmですぐに銅が現れることがわかる。さらにエッチングを続けると、アルミニウム青銅の合金比率とほぼ同じ比率になった。
【0099】
これに対して、試料Dでは、ほぼ100%が酸化アルミニウムの層になっており、4nm乃至5nm程度になって漸く銅が現れてくる。即ち、アルミニウム青銅合金への添加金属であるアルミニウムは500℃、24時間の熱処理によって、表面に拡散し、添加金属の酸化膜を約9nm形成できることが明らかになった。
(昇温脱離ガススペクトル分析(TDSスペクトル分析))
(a)調査用試料及び測定装置の作製
調査用試料として、アルミニウム青銅合金を内径38mm×内長100mmのコップ状に加工してチャンバを作製し、また、円筒状の変換フランジを作製した。このチャンバと変換フランジを用いて、電解研磨だけで熱処理を行わない調査用試料Eと、720℃×10Hの真空脱ガス熱処理を行った後720℃の高温でN2ガスを導入して冷却した調査用試料Fとをそれぞれ準備した。そして、図5のような四重極残留ガス分析計(RGA)の先端に、熱伝導が悪いステンレスの熱シールド変換フランジを介して、変換フランジとチャンバとを取り付けて図5に類似の測定装置を作製した。
【0100】
(b)調査方法及びその結果
昇温脱離ガススペクトル分析調査は、シースヒータにより約0.3℃/秒の速度で昇温し、温度上昇に伴うガス放出特性を調べることにより行った。
【0101】
それらの調査結果を図13(a)、(b)に示す。図13(a)は熱処理前の調査用試料(試料E)に対する昇温脱離ガススペクトル分析の調査結果を示し、図13(b)は、減圧雰囲気中720℃、10時間の熱処理を行った調査用試料(試料F)に対する昇温脱離ガススペクトル分析の調査結果を示す。各図において、縦軸は対数目盛で表したガス放出強度(A)を示し、横軸は線形目盛で表した測定温度(℃)を示す。ガス放出強度(A)はRGAの出力電流である。
【0102】
なお、アルミニウム青銅合金ではベリリウム銅合金の場合とは異なり、800℃程度まで高温にしてから、徐冷(焼鈍)したとしても、金属は元の硬さに戻る性質を持っている。しかし、測定温度は大気側の昇温であるため25℃〜600℃程度までの範囲とした。
【0103】
(α)試料E
熱処理を行わなかった場合の水スペクトルには、図13(a)に示すように、測定温度約94℃と290℃の2箇所に第1及び第2のピークが現れる。この点、アルミニウム青銅合金の場合でも、ベリリウム銅合金の場合の図6(a)と同様であった。第2のピークは、銅内部から拡散してくる水素分子による還元反応により銅酸化膜が分解し、それに伴い発生する水分を示していると推定される。第2のピークを過ぎたあたりで水素の急激な増大が起こるのは、ベリリウム銅合金の場合と同じように、この反応とさらには内部から拡散してくる水素の増大を表していると考えられる。
【0104】
図13(a)から明らかなように、550℃程度で水素のガス放出は最大に達し、それ以上では下がり始めることがわかる。すなわち、アルミニウム青銅合金では、減圧雰囲気中で、600℃以上、好ましくは700乃至800℃付近での熱処理を施せば、合金内部の水素を拡散させて短時間に表面から排出させることができる。すなわち、アルミニウム青銅合金では、ベリリウム銅合金に比較して脱ガス処理に要する時間を大幅に短縮することが可能であると推定される。
【0105】
(β)試料F
この結果に基づき、測定装置を作成する前に、試料Fを別の減圧真空炉に入れ、720℃×10Hの水素脱ガス処理を行った後、720℃の高温でN2ガスを導入してから温度を100℃まで下げ、大気中に取り出した(試料F)。これにより、アルミニウム青銅合金の表面の光沢は熱輻射率の小さい黄金色のきれいな色になり、表面には酸化アルミニウム(アルミナ)と窒化アルミニウムの混晶の表面層が成長したと推測される。その後、試料Fに残留ガス分析計イオン源フランジを取り付けて、昇温脱離ガススペクトル分析調査を行った。
【0106】
その結果、図13(b)に示すように、水分のピーク(第3のピーク)は、130℃あたりの一つになり、その強度も小さくなった。すなわち、検出される水分は、表面から発生するものだけであると推定される。このことは、表面層の混晶は、昇温によって、表面層の還元反応による構造変化は起こっていないことを示している。また、この結果から、アルミニウム青銅合金の真空構造材を用いたチャンバシステムでは、水を排除するベーキングは最大でもベーキング温度200℃までで十分であることがわかる。
【0107】
また、熱処理後のTDSスペクトルの450℃における水素の放出強度は、熱処理前の試料Eに比較して、極端に少なくなっている。具体的には、1/500まで小さくなっている。これに対して、ベリリウム銅合金の場合(図6(a)と図6(b)の比較)には、1/10程度しか小さくなっていない。このように、アルミニウム青銅合金に関して、ガス放出量がベリリウム銅合金に比べて桁違いに少なかったのは、700℃を超えた高温で、効果的に、水素脱ガス処理及び添加金属のアルミニウムの拡散を行うことができたからであると考えられる。
【0108】
さらに、アルミニウム青銅合金では720℃まで昇温しているため、通常は不活性な窒素ガスを、融点(660℃)を越えた活性なアルミニウムと反応させることが可能になり、窒化アルミニウムと酸化アルミニウムとの混晶を生成することができる。
【0109】
さらに、表面を酸化・窒化したアルミニウム青銅合金により作製した2種のナイフエッジフランジに関し、フランジで純銅のガスケットを挟み、フランジの温度を300℃に保ったまま、4時間ほどベークを行ってみたが、ベーク終了後室温を下げてボルトを緩めたところ、何ら問題なく両フランジとも純銅ガスケットからはずすことができた。すなわち、アルミニウム青銅合金のフランジで純銅のガスケットをそのまま挟んでも冷間接合が起こらなかった。これは、アルミニウム青銅合金の表面に緻密な混晶膜が形成されていたためであると推定される。これに対して、メッキを施さないベリリウム銅合金のフランジでは純銅のガスケットに対して150℃で癒着を起こし、ベリリウム銅合金にNiPメッキを施したフランジでも300℃以上では癒着が起こり、メッキの一部が剥れた。
【0110】
以上のように、アルミニウム青銅合金に関し、真空中で600℃以上の高温処理により、金属内部に溶解している水素を積極的に排出することができるとともに、添加金属であるアルミニウムが表面に拡散してアルミナ膜、窒化膜又は酸化窒化膜が形成され、表面が保護される。さらに、この混晶膜の厚さは9nm以上の厚さになっていると推測され、表面のほぼ100%を占めていると推測できる。機械切削や電解研磨によって自然に形成される膜厚に比べれば5倍乃至20倍も厚く、水素原子の透過に対してのバリア膜となっていることがわかる。すなわち、アルミニウム青銅合金においても表面に形成される、添加金属の化合物膜である酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化酸化混晶アルミニウム化合物の膜厚は約5nm以上であることが重要であると結論できる。
【0111】
これにより、真空材料からの水素の除去や真空材料への水素の侵入防止がほぼ完全に達成され、かつ、安価で、加工が容易な真空材料を提供することができる。
【0112】
次に、ベリリウム銅合金及びアルミニウム青銅合金を真空材料として用いる場合の特徴について、上記結果に基づき、比較する。
(i)ベリリウム銅合金
(a)電気伝導度の低下を抑制しつつ、ガス放出を少なくできる。
【0113】
(b)硬度を低下させないようにするために、熱処理温度400℃以下で処理することが望ましい。
【0114】
(c)大気側に接する部分は、ベーク時の酸化を防止するためニッケルリンなどでメッキ処理することが望ましい。また、ベリリウム銅合金をフランジとして用いる場合、銅ガスケットに銀メッキしたものを用いることが望ましい。
(ii)アルミニウム青銅合金
(a)熱処理温度を600℃以上に高くできる。強度と硬度を低下させる恐れがなく返って硬度が増す。
【0115】
(b)メッキ処理の必要がない。また、アルミニウム青銅合金をフランジとして用いる場合、アルミニウム青銅合金にメッキしなくても銅ガスケットをそのまま用いることができる。
【0116】
(c)材料が安価である。
【0117】
(d)表面は黄金色で見た目もきれいである。
【0118】
(e)表面酸化膜に毒性がまったくない。
【0119】
(f)熱伝導度や電気伝導度は純銅やベリリウム銅合金より小さいが、ステンレスよりも大きい。
【0120】
以上のように、ベリリウム銅合金、アルミニウム青銅合金のどちらであっても、本発明により作製した真空部品では、水素ガスの放出をきわめて少なくでき、かつ外部からの水素の侵入を防止できる。しかし、上記の真空部品で構成する真空装置では、表面に吸着している水分を除去するためさらにベーキングが必要である。
【0121】
そこで、さらに、真空部品の表面に、水の吸着を抑制する働きのある炭素単体の薄膜、具体的にはアモルファス炭素皮膜、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、ダイヤモンド薄膜などをコーティングすることにより、ベーキングなしでも超高真空を得ることができるようになる。
【0122】
なお、放電を起こさせるに適した圧力、例えば、0.1Pa乃至10Pa程度に調整した、例えばメタンやエタンなどの炭素含有ガスをプラズマ化し、アモルファス炭素やDLCなどの炭素の膜を形成することができる。或いは一酸化炭素を用いてもよい。
【0123】
以上、実施の形態によりこの発明を詳細に説明したが、この発明の範囲は上記実施の形態に具体的に示した例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の上記実施の形態の変更はこの発明の範囲に含まれる。
【0124】
例えば、上記実施の形態では、添加元素と銅の合金のうち添加元素としてベリリウム(Be)及びアルミニウム(Al)を用いているが、代わりに、ボロン(B)、マグネシウム(Mg)、シリコン(Si)、チタン(Ti)及びバナジウム(V)のうち少なくとも何れか一を用いることが可能である。
【0125】
また、銅合金の表面に添加元素の酸化膜等を形成する方法は、最初目的のガスを1Pa乃至数Paまで入れておいてから別のガス(乾燥窒素など)を入れて大気中に取り出すことでもよい。この圧力で十分に目的の膜が形成できる。
【0126】
さらに、目的のガスをプラズマ化し、そのプラズマに銅合金の表面の添加元素を曝すことでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】(a)、(b)は、本発明の第1の実施の形態である真空部品用合金材料の熱処理条件の違いによるその合金材料表面の原子の分布状態について示すグラフである。
【図2】(a)、(b)は、比較例である真空部品用合金材料の熱処理条件の違いによる合金材料表面の原子の分布状態について示すグラフである。
【図3】(a)、(b)は、本発明の第1の実施の形態である真空部品用合金材料の原子の面内分布比率を深さ方向に順次測定した結果について示すグラフである。
【図4】(a)、(b)は、比較例である真空部品用合金材料の原子の面内分布比率を深さ方向に順次測定した結果について示すグラフである。
【図5】本発明の第1の実施の形態である真空部品用合金材料を用いて作製したチャンバ試料について昇温脱離ガスを測定する装置を示す側面図である。
【図6】(a)は、熱処理前の図5のチャンバ試料(試料A)の昇温脱離ガス調査結果を示すグラフであり、(b)は、減圧雰囲気中400℃、72時間の熱処理後のチャンバ試料(試料B)の昇温脱離ガススペクトル分析調査結果を示すグラフである。
【図7】本発明の第1の実施の形態である真空部品用材料を用いて作製した、圧力上昇法によるガス放出率測定実験装置を示す側面図である。
【図8】(a)は、本発明の第1の実施の形態である真空部品用合金材料についての蓄積時間に対する圧力上昇変化の様子を示すグラフであり、(b)は、比較例である真空部品用合金材料について同じ調査を行なった比較データを示すグラフである。
【図9】(a)は、本発明の第1の実施の形態である真空部品用合金材料からの水素の放出について示す模式図であり、(b)は、比較例である真空部品用合金材料からの水素の放出について示す模式図である。
【図10】本発明の第1の実施の形態及び比較例の真空部品用合金材料についてガス放出率の最小値と熱処理温度の関係を示すグラフである。
【図11】本発明の第1の実施の形態の真空部品用材料の製造方法を示すフローチャートである。
【図12】(a)、(b)は、本発明の第3の実施の形態である真空部品用合金材料の原子の面内分布比率を深さ方向に順次測定した結果について示すグラフである。
【図13】(a)は、本発明の第3の実施の形態に係る、熱処理前の調査用試料(試料E)の昇温脱離ガス調査結果を示すグラフであり、(b)は、同じく熱処理後の調査用試料(試料F)の昇温脱離ガススペクトル分析調査結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0128】
1 フランジ
2 残留ガス分析計イオン源フランジ
3 下部フランジ
4 蓋材
5 シースヒータ
6 アノード電極
7 電極
7a アパーチャ
8 アノードヒータ
9 フィラメント
10 石英
11a〜11c 銅ガスケット
12 Qポール
21 ニップルチャンバ
22、23 変換フランジ
22a、23a フランジ
24 ディスク
26 ミニシールバルブ
27 ジョイント
28 残留ガス分析計(RGA)
29 ゲージ
30 メインバルブ(MV)
31 スピニングロータゲージ(SRG)
32 BeO膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cuと、添加元素であるBe、B、Mg、Al、Si、Ti及びVのうち少なくとも何れか一との合金からなる基材の表面に前記添加元素の酸化膜、窒化膜又は酸化窒化膜のうち何れか一を被覆したことを特徴とする真空部品用材料。
【請求項2】
前記基材の表面に被覆した前記添加元素の酸化膜、窒化膜又は酸化窒化膜のうち何れか一の上に、さらに炭素の膜が形成されていることを特徴とする請求項1記載の真空部品用材料。
【請求項3】
Cuと添加元素の合金の周囲を減圧する工程と、
前記合金を昇温し、該合金中から水素を排出するとともに、前記添加元素を該合金の表面近傍に集めて析出する工程と、
前記合金の温度を、前記水素を排出するため昇温した合金の温度以下で、室温以上の範囲に保ち、酸素単体、窒素単体、酸素+窒素の混合ガス、オゾン(O3)、酸素含有化合物、窒素含有化合物、或いは酸素窒素含有化合物に、又はこれらを組み合わせたものに、又はそれらのプラズマに前記合金を曝し、前記析出した添加元素と反応させて前記添加元素の酸化膜、窒化膜又は酸化窒化膜のうち何れか一を前記合金の表層に形成する工程とを有することを特徴とする真空部品用材料の製造方法。
【請求項4】
前記添加元素はBe、B、Mg、Al、Si、Ti及びVのうち少なくとも何れか一であることを特徴とする請求項3記載の真空部品用材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1或いは2のいずれか一に記載の真空部品用材料、又は請求項3或いは4のいずれか一に記載の真空部品用材料の製造方法により作製された真空部品用材料を加工して作製されたことを特徴とする真空部品。
【請求項6】
減圧雰囲気に曝される真空部品の材料がCuと添加元素の合金である真空部品の処理方法であって、
前記真空部品の周囲を減圧する工程と、
前記真空部品を昇温して、該真空部品中から水素を排出するとともに、該真空部品中の添加元素を該真空部品の表面近傍に集めて析出する工程と、
前記真空部品の温度を、前記水素を排出するため昇温した合金の温度以下で、室温以上の範囲に保ち、酸素単体、窒素単体、酸素+窒素の混合ガス、オゾン(O3)、酸素含有化合物、窒素含有化合物、或いは酸素窒素含有化合物に、又はこれらを組み合わせたものに、又はそれらのプラズマに前記真空部品を曝し、前記析出した添加元素と反応させて前記添加元素の酸化膜、窒化膜又は酸化窒化膜のうち何れか一を前記真空部品の表層に形成する工程とを有することを特徴とする真空部品の処理方法。
【請求項7】
前記添加元素はBe、B、Mg、Al、Si、Ti及びVのうち少なくとも何れか一であることを特徴とする請求項6記載の真空部品の処理方法。
【請求項8】
請求項5記載の真空部品、又は請求項6或いは7の何れか一に記載の真空部品の処理方法により作成された真空部品を備えたことを特徴とする真空装置。
【請求項9】
減圧雰囲気に曝される真空部品を有し、該真空部品の材料がCuと添加元素の合金である真空装置の処理方法であって、
前記排気系を通して前記真空装置内を排気し、減圧する工程と、
前記減圧雰囲気に曝される真空部品を昇温して、該真空部品中から水素を排出するとともに、該真空部品中の添加元素を該真空部品の表面近傍に集めて析出する工程と、
前記真空部品の温度を、前記水素を排出するため昇温した合金の温度以下で、室温以上の範囲に保ち、酸素単体、窒素単体、酸素+窒素の混合ガス、オゾン(O3)、酸素含有化合物、窒素含有化合物、或いは酸素窒素含有化合物に、又はこれらを組み合わせたものに、又はそれらのプラズマに前記減圧雰囲気に曝される真空部品を曝し、前記析出した添加元素と反応させて前記添加元素の酸化膜、窒化膜又は酸化窒化膜のうち何れか一を前記真空部品の表層に形成する工程とを有することを特徴とする真空装置の処理方法。
【請求項10】
前記添加元素はBe、B、Mg、Al、Si、Ti及びVのうち少なくとも何れか一であることを特徴とする請求項9記載の真空装置の処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−9038(P2006−9038A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−165775(P2004−165775)
【出願日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【出願人】(503008974)有限会社真空実験室 (7)
【Fターム(参考)】